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日商簿記1級の教材選定 [57. 塾長の教育論]

  2,008年3月19日   ebisu-blog#144 
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 テキストや問題集選びは受験のために大事なポイントである。ネットで検索してみたが、日商簿記1級のテキストと問題集が適当なものが見つからない。簿記学校としては老舗である大原簿記学校のものがよさそうなのだが、商業簿記と会計でテキストと問題集あわせて6冊になる。工業簿記と原価計算も同じだろう。これぐらいやらないと合格者が出ないからだろうが、合計12冊では大部すぎる。週1時間を前提にすると使いにくい問題集だ。週3時間授業できるなら、この問題集を使うだろう。普通のレベルならこれくらいの分量をやる必要があるだろう。
 癖がありそうだが、中央経済社の新検定簿記講義とワークブックを4科目(商業簿記・会計学・工業簿記・原価計算)を取り寄せてみることにした。テキストと問題集で合計8冊である。薄いから説明をかなり突っ込んでする必要がある教材だろう。N君用には使える可能性がある。とりあえず使ってみよう。このテキストの欠点や利点が具体的に見えてくるだろう。

 私が高校生のときにも適当な問題集がなかった。たまたま町の本屋にあった日商簿記1級用の問題集を買って勉強した。選択の余地などなかった。折りよく中央経済社から出版され始めた「公認会計士2次試験講座」を予約購読して併用した。この教材を使うことで経済学や経営学に目が移ってしまった。大学1年のときに受験勉強がバカバカしくなり、経済学をやるようになった原因のひとつがこの講座で勉強したことにあることは確かだろう。もうひとつは『資本論』(当時は高校図書室に置いてあった)を100ページばかり読んで、内容がつかめた気がしなかったことが経済学へ向かった動機である。時間がかかったがヘーゲルの著作は少しはわかったつもりになれたのに、マルクス『資本論』はさっぱりわからなかった。経済学は「2次試験講座」でも勉強していたのに、まるで歯が立たなかった。高校生当時の学力では理解できなかった。
 
 日商簿記1級受験者のための授業は予習主体の演習形式で行う。講義形式で週1回の頻度で4科目やったら、3年たっても試験範囲が終わらないだろう。1~2年間で合格レベルに到達するには、予習主体の演習形式をとるしかない。問題を予習してきて分からないところを質問してもらう。答案を見て、理解の仕方が違っているようなら、軌道修正をさせるのも教える側の仕事である。
 事務情報科に合格したKi君は入試のあった3月5日の夜から、日商簿記3級の受験勉強を始めた。200ページほどのテキストと問題集だが、テキストは昨日(19日)170ページまで消化した。問題集は半分くらいだろう。今月中にテキストは完了する予定だ。問題集は4月半ばまでに終わればよい。そのあとは過去問に取り組むことになる。6月の検定試験合格が目標だ。昨年4月から勉強を開始したN君が不合格になった試験だ。2ヶ月では無理だったから、今年は一月早くスタートした。結果がどうなるか楽しみだ。
 彼には各章ごとに板書して内容の説明をしてから問題に取り組ませている。呑み込みのよい生徒なので、要点しか説明していない。問題を解いているのをときどき観察すれば理解が充分かどうかは判断できるので、ほとんど演習形式の授業となっている。授業頻度は隔日である。
 1級受験者は日商簿記2級合格が前提だから、基礎がしっかりできているので、演習授業に耐えられるだろう。会社法の改正や経済のグローバル化のあおりを受けて、1級の範囲が20年前に比べるとずいぶんと広がったから、会社法や証券取引法、法人税法の理解や、経済についても貿易や金融関係を中心に会計取引に関わってくるので基本的な仕組みの理解が必要である。こうした点が2級とはまるで違っている。単なる簿記技術の習得だけではマスターできない領域が日商簿記1級である。

 高校生対象の英文法と数学の授業はほぼ演習方式である。中学生では速度の大きい生徒にしか予習・演習中心の授業はしない。高速授業で成績に問題の出る生徒がいる。解答を参照して、自己流で解き方を覚えるような勉強になると危ない。基本のところがわかっていないことがある。半年ほど見ていればわかるので、そうした傾向が現れてきた場合にはブレーキをかける。
 現象面を追いかけて、物事の根っこのところ(本質)を理解しない学習は危うい。我流に凝り固まっていると判断したら、高速授業はストップし、速度を落として、ゆっくり「本質」に触れるように指導を切り替える。この手の生徒は事前にある兆候が現れる。質問がほとんど出ないまま、問題集が消化されていく傾向がある。好奇心が小さいのかもしれない。あるいは物事を関連付けて考えることに慣れていないのかもしれない。こうした学習習慣の在り様は小学校以来6年以上かけてついてしまった「癖」だから、落とすのは簡単ではない。しばらくの間は目が離ぜない。よく観察すると、ミスが頻発して当然なやりかたが習慣になっている。それを矯正するために、問題を解くときのノートの書き方までこと細かく指導する必要がある。きちんとした「型」が身につくまでトレーニングを繰り返さなければならない。
 何年教えてもこれで良いというわけにはいかない。一人ひとり学習の仕方や癖が違うので、問題が生じるたびに生徒に教えられる。それでも対応し切れない生徒が年に数名いる。あと12日で4月である。生徒の成長に比べれば、ロートルである教える側の成長は限りなく小さい。しかしだ、今年こそは・・・
  小さな努力を積み重ねるしかないではないか。

 予習・演習方式で1年間やり抜けば、後は自分でやれるようになる。税理士や公認会計士試験受験勉強は、1日8時間以上の集中的な勉強を1年間独力でやり抜くしかない。そのために、日商簿記1級受験勉強でしっかりした土台を作っておくことが大事だ。
 私塾の役割のひとつは、生徒が塾から巣立っていったときに、独力で自分がやりたい分野の学習ができるような健全な学習習慣を育てることにあるだろう。