#3167 Vampire Blood : chapter-1 (3) Oct. 31, 2015 [46. 原著で読むダーレン・シャンの大冒険]
生徒が直訳っぽい訳文を普通の日本語へ直す作業をしながら、清書していた。そこで、疑問が一つ出された。ある段落の前半部分は問題がないのだが、後半の意味のつながりが「チンプンカンプン」というのである。
『ダーレンシャンの大冒険』はネイティブの児童書レベル(日本の本なら『ソード・アート・オンライン』や山田悠介洋介の著作)であるが、それですらスラッシュ・リーディングでは意味がつかめない文が出てくる。どういうメソッドも、それで全部が処理しきれるというものはない、ある制限の中で使えば「切れるナイフ」として使えるだけで、その範囲を超えたとたんに使えるものではなくなる。便利な道具とはそうしたものだ。ありていに言うと、薪割り(まきわり)をナイフでする者はいない、薪を割るにはナイフを棄て鉞(まさかり)を握らなければならない。
スラッシュ・リーディングの限界点を突いたよい質問だから段落ごと紹介する。メンコイ生徒のメンコイ質問にしばらくお付き合いいただきたい。
新鮮な野菜を頬張るときにパリッと音がする、そういう爽(さわ)やかさをこの質問に感じた。
< スラッシュ・リーディングによる和訳 >
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Steve's reputation had softened over the years --- his mum took him to see a lot of good counsellors who taught him how to control himself --- but he was still a minor legend in the schoolyard and not someone you messed with, even if you were bigger and older than him. (page 14)
スティーブの評判は数年をかけてとげとげしいものではなくなっていた/ お母さんは彼を連れて、感情のコントロールの仕方を教える名医を訪ね歩いた/ スティーブはマイナーではあったが依然として伝説的なワルだった/ 彼はあなたが喧嘩するような人物ではなかった/ たとえあなたがスティーブよりも身体が大きく年上だとしても
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大方こういう意味になるが、「even if ~」とその前の文節のつながりがおかしいという疑問が出された。たくさん本を読んでいる生徒だから、こういう文脈の判断には感度がよい。
こういうことだ。キレなくなったが、メジャーな伝説的ワルからマイナーな伝説的ワルに格下げとなったスティーブが、「彼よりも身体が大きいとか年齢が上でさえも」、なぜ危険なかかわり合いのない人物なのだろうかということ。書き手の言っていることがわからない。わたしも一読しただけでは著者が何を言いたいのかピンとこなかった。こういうときには虚心に生徒と一緒に考える。
彼のワル振りが同じページの数段落前に具体的に記載されている。バギーに乗せられていた幼いときから大人の女性の「あそこ」を尖った棒で突っつくようなワルさ、「彼が行くところではどこでも恐れられ嫌がられていた」こと、「癇癪(かんしゃく)を起こしたら、手がつけられない」こと、「ひっきりなしの喧嘩」、「店で盗みをはたらく」こと、これらのことから、同年齢の者に対するワルさよりも、大人の顰蹙(ひんしゅく)を買うようなワルさが多かったということになる。スティーブはワルさに関してはちっとも子どもらしくなかったのである。
同年齢の者はもとより、身体が大きくて年齢が上の者に対してすらもおとなしくなったという事情を説明しているのだろうか。
messをCambridge Advanced Learner's Dictionaryで確認してみよう。
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mess with sombody: to treat someone in bad ,rude or annoying way, or to start an argument with them: I've warned you already, don't mess with me!
(人を邪険に扱ったり、無礼に、イライラさせるやり方で扱う、あるいは言い争いをし始める。:「わたしはもう警告したぞ、無礼な態度をとるな!」)
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< 逐語訳 >
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スティーブの評判は数年をかけてとげとげしいものではなくなっていた。―母親が彼を連れて、感情のコントロールの仕方を教える名医を訪ね歩いた― しかし、彼は(メジャーではなくなったが)依然として学校の校庭でときおり噂話にのぼる伝説的ワルではあった。たとえあなたが彼よりも身体が大きく年上であっても、(昔のように)言い争いをするような人物ではなくなっていたのである。
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なんだかよくわからない文だ。英文を構成している単語に忠実に逐語訳すると、ちょっと複雑な構造の文章や背景の事情の読み取りが必要な文章は、まるで意味のわからない日本語になってしまう。高校生に限らず、大学生でも英和辞書に出ていた訳語をそのまま当てはめ、頓珍漢な訳文のままにしている人はすくなくない。
何が見えてくるのか、センテンスの構造がわかりやすいように組み替えてみよう。
①but he was still a minor legend in the schoolyard
②even if you were bigger and older than him, (he was) not someone you messed with.
こうして文節単位で切断し、組み替えると、文の構造が理解しやすいものになる。
①カウンセリングの効果があってスティーブはメジャーなワルではなくなった。しかし、依然として学校で噂される伝説的なワルであること。
②あなたの方がスティーブよりも身体が大きく年齢が上であっても、スティーブはあなたが言い争いをするような人物ではなくなっていた。
学生にとってのスクール・ヤードは主婦にとっての井戸端のようなもの。日本と違って、教科担当の先生はそれぞれ自分の教室をもっているから、生徒はそこで授業を受け、終わるとそこから退出しなければならない。だから、噂話は校庭ですることになるのだろう。
「スティーブよりも身体が大きくて年上」の意味するところは「身体の大きい上級生」である、「ガタイの大きな上級生でさえも・・・」という表現の裏には、「同学年の生徒はもちろん」というニュアンスを含んでいる。そこのニュアンスを省略して著者はコンパクトな表現をしたのだろう、ここは行間を読めということ。
これらの文章から判断すると、スティーブはキレるとガタイの大きな上級生とも見境なく衝突していたのだろう。精神科医のところへ通って感情をセルフコントロールできるようになり、キレなくなったので同級生はもとより、ガタイの大きな上級生にとってすらも危険人物ではなくなった。
<意訳>
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スティーブの評判は数年をかけてとげとげしいものではなくなっていた。―母親がスティーブを連れて、感情のコントロールの仕方を指導してくれる名医を訪ね歩いて診察を受けた― 彼は(メジャーではなくなったが)依然として学校の校庭でときおり噂話にのぼる伝説的ワルではあったが、自制心を失ってガタイの大きい上級生に楯突くような り、ガタイの大きい上級生でもちょっかいをだすような人物ではなくなっていたのであるなかったのである。
(11/5朝、修正、素直な訳にたどり着いた。ひねる(意訳する)必要がまったくなかったということ。投稿欄の「後志のおじさん」のコメントを参照。次の青字部分も追記した。)
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mess with は尊大な態度で接する、邪険に扱う、言い争いをするという意味が英英辞典に載っているから、上級生面してスティーブに構うとやけどするような事情を説明した文だろう。相変わらずスティーブは構内ではガタイの大きい上級生からも触らぬ神にたたりなし=疫病神と思われていたのである。英文の意味をつかみ、原文と同程度の短い日本語で、こういう事情を表現するのはなかなかむずかしい作業に思える。
最後にモノを言うのは文脈の読解力と日本語のセンス。スラッシュリーディングで違和感を嗅(か)ぎ分けた生徒のセンスはなかなかのもの。
小中学生の時期に日本語のセンスを育む濫読期を通過できたら幸せものだ。高校生の時期に濫読期を通過するものはごく少数であるがいる。大学受験に失敗したってよい、日本語のセンスが抜群によくなり、読解力も飛躍的に伸びるから、あとで必ずモノになる。この時期に濫読期を通過する者たちは、古典文学や哲学や経済学の専門書など、難解な専門書にチャレンジすることになるから、クォンタム・リープ(量子的飛躍)を体験することになるだろう。そうであれば大学受験よりも思春期に濫読期を通過することの方がずっと大切であるとわたしは思う。
#3166 (人称)代名詞 考 Oct. 30, 2015 [46. 原著で読むダーレン・シャンの大冒険]
1.< it で受けるもの >
clothes を it で受ける事例を#3164で紹介しました。「複数ある布切れ」という意味ではなく、「着物」だから、itで受けるのは当然のことでした(「複数ある布切れ」という意味の文なら、themで受けることになります)。
複数の物や出来事を代名詞のtheyで受けずに、単数のitで受けるという例は限定されています。
Michel Swan "Practical English Usage" page 404 では次のように説明されます。
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It can also refer to a whole fact, event or situation.
Our passports were stolen. It completely ruined our holiday.
(パスポートが盗まれ、そのせいで休暇がおじゃんになった)
I did all I could, but it wasn't enough.
(できる限りのことはしたが、十分ではなかった)
It's terrible - everybody's got colds, and the central heating isn't working.
((みんな)ひどい目にあった。みんな風邪を引いていたのに、セントラルヒーティングが故障していた)
Wasn't it lovely there!
(そこはあまり素敵じゃなかった)
*訳はebisuがつけました。
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丸ごとひっくるめて捉えられている事実・出来事・状況に言及するときには it を使います。
最初の文も、2番目も、3番目の文も、itは文全体をさしています。
ハンドルネーム「後志のおじさん」が#3164へわかりやすいコメントを寄せてくれました。
「複数名詞を代名詞でうけるときに、単数にするかthey にするかは、話者の意識のあり方に関わる部分に関わっていて、「個々のものに意識がある」なら複数、「全部まとめて」なら単数ですね。」
次にまな板に上げるのは nothing、anything、everything 、この場合は they で受けるのか、it で受けるのか、どちら?
Nothing happened , did it? (何も起こらなかった、そうだよね)
Everything's all right, isn't it? (諸事万端うまくいっているよね)
(Michel Swan "Practical English Usage" page 403)
付加疑問文の例ですが、事象をまるごとひっくるめて一塊として捉えているので it で受けるのが通例のようです。
受験英語でもeverythingは単数扱いという説明がなされますから、中学生でも知っている知識です。
Everything he said is true. (彼の言ったことはすべて本当です) ジーニアス4版より
2.< they で受けるもの >
a person, anybody/one, somebody/one, nobody/one, whoever, each, every, either, neither, and no.
これらはtheyで受けます。ようするに、人に関するものはtheyで受ける。受けるべき名詞は三人称単数扱いなのに、それを受けた人称代名詞はtheyだからもちろん複数扱い、なんだかへんてこりんな感じがしませんか?形から判断するとへんてこりん、だから、中身を見ろということなのでしょう。一緒に文例を見ましょう。
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If a person doesn't want to go on living, they are often very difficult to help.
If anybody calls, take their name and ask them to call again later.
Somebody left their umbrella in the office. Would they please collect it?
Nobody was late, were they? Whoever comes, tell them I'm not in.
Tell each person to help themselves to what they want.
Every indivisual thinks they'er different from everybody else.
page 521
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不定名詞と不定代名詞をそれを受ける代名詞とセットで並べて眺めてみると、ピンと来るものが少なくなるので、覚えるなら用例丸ごとの方がよさそうです。
a person ⇒ they are
anybody ⇒ their name 、them
somebody ⇒ their umbrella、 they
nobody ⇒ were they、 whoever ⇒ them
each person ⇒ themselves
Every indivisual ⇒ they'er
左側は全部単数ですが、それを受けた人称代名詞はすべて複数のthey、コントラストが強すぎます。(笑)
人間が特定されていないという点からは、「人に関わる不定名詞句」、あるいは「人に関わる不定代名詞」が並んでいます。
たとえば、最初の文例は、「生きていたくない人を助けるのはなかなかむずかしい」と書いたときには、人間集団を「生きていたくないと思っている人」と「生き続けたいと思っている人」に分割して考えていますから、書き手の頭の中のイメージとしては、「生きていたくないと思っている人」は複数いることになります。だから、theyで受けると。
2番目は、「誰かが電話してきたら、名前を聞いて、後でもう一度電話してくれるようにお願いしろ」という意味ですから、電話して来る人は限定されていないので、複数という感覚はよくわかります。そうはいっても多少屁理屈にも聞こえてきます。
案の定、3番目がよくわかりません。
「誰かがオフィスに傘を忘れた。忘れた人がとりに来てくれますか?」
忘れた人は一人だ、そしてumbrellaは単数だから、忘れられた傘は一本。somebodyは一人、忘れた人がいるのだが、誰だかわからないというだけです。「忘れた人が取りに来てくれるだろうか?」、なぜ忘れた人をtheyで受けるのだろう、「傘を忘れた人」は一人ではないか。それとも、「傘を忘れた人」を、あの人だろうか、この人だろうかと頭の中で考えているということでしょうか。ここまで来ると考えすぎで屁理屈の類でしょう。
4番目は、「誰も遅れなかったよね」ですから、来る予定の人が複数いることになります、それをtheyで受けるのは理屈としてはわかります。「来ている人には、わたしはいないよと伝えてくれ」、これもなんとなく理解できます。
5番目は、「各自が己の欲するところを自分自身でやれと伝えろ」、これも素直にtheyでいいでしょう。
6番目は、「個々人がみな、他の人とは違ったことを考えている」、これも頭の中では複数を想定しているので、theyというのは納得がいきます。
総括すると、怪しげなのは3番目のようです。後半の意味を取り違えている可能性もあります。
itで受けたものに、 everything がありますが、they で受けたもののリストに every indivisual が入っています、どこが違うのと言いたくなりませんか?
違うのです、物か人かの違いがあります、物はitで受けられますが、人はitでは受けられません。
一番わかりやすいのは、それぞれ男女が考えられるので、theyが便利ということ。とってもわかりやすい説明です。
they は informal だが、数百年間使われているので、これも"OK"(informal、正用法は"That's all right")、むしろ口語ではこちらが圧倒的に主流ということです。
数百年前の formal English では、こういう場合には代名詞は何を使ったのでしょう?
実は、he、him、hisを使いました。gender free や unisex の観点から、男尊女卑を感じさせる伝統的な用法で書くことに抵抗が強くなったのでしょうね。
Swan は521ページで、they で受ける用法は数百年間の歴史があるので、informalではあるが、「完璧に正しい perfectly correct 」と書いています。most common in an informal style で、書き言葉としてはすでに formal の地位を獲得しています。
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2 correctness
This use of they/them/their has existed fo centuries, and it perfectly correct. It is most common in an informal style, but can also be found in formal written English. Here is an example from a British passport application form:
Dual nationality: if the child posseses the nationality or citizenship of another country they may lose this when they get a British Passport.
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a British passport application formは「英国旅券申請用紙」ですが、そこにこの二重国籍をもつ子どもについての旅券申請上の注意書きの文章が記載されているようです。
the child を they で受けるのは、unisex(男女両用)だからそこに配慮した代名詞の用法とも考えられます。
the child を複数人称代名詞の they で受けるのは、中学生にはきっと新鮮な驚きでしょう。
知らないことは多いもの、一つ知れば三つ知らないことが増える気がします。だから楽しい。(笑)
今回もあらためて、本を2冊読み比べて勉強になりました。紹介はしていませんが、"Collins CPBUILD English Usage" も参照しました。そのうち、こちらの説明と文例も紹介します。
理屈として考えるとわからないところや整理し切れていないところ、すっきりしない訳がありました、さて、あなたのご意見は?
*#3164 clothes 考:受ける代名詞はthem or it ? Oct. 27, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-10-27
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Practical English Usage Diagnostic Tests: Grammar Tests to Accompany Practical English Usage
- 作者: Michael Swan
- 出版社/メーカー: Oxford University Press
- 発売日: 2010/08/12
- メディア: ペーパーバック
#3164 clothes 考:受ける代名詞はthem or it ? Oct. 27, 2015 [46. 原著で読むダーレン・シャンの大冒険]
#3164で used to の用例を挙げたが、代名詞の使い方に疑問を感じた人がたぶんいただろう。再掲するので、お読みいただきたい。
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David used to spend a lots of money on clothes. These days he can't afford it.
(デービッドは 着るものにいっぱいお金をかけていた。このごろそんな余裕がない。)
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clothes (複数)なのに、代名詞 it (単数)で受けるのはなぜか?
こういう細かいところが気になるのは、テレビ番組「相棒」の杉下右京だけではない、高校生にもこういう性質(たち)の人がごくわずかだがきっといるにちがいない。ふだんは陽の当たらぬそういうマイノリティのために補足説明しておく。(笑)
clothes(着物)はいくつかの cloth(布切れ)から作られて、ひとつの服となるから、服のことは clothes というしかない。ではそれは複数かというと、そうではない。たとえば、ジャケットは表地、裏地、芯地、それぞれの種類の生地が何枚ずつかが縫い合わされて、ひとつの服になっているから、"clothes"は単数扱いなのだろう。だから、代名詞 it で受ける。
代名詞が出てきたら、それが何を指しているのか突き止めながら読もう。普段の読みが大事で、何を意識して読んでいるかで、成果が違ってくる。
「それ」とか「あれ」とか「これ」、「彼」、「彼女」、「かれら」なんてやっているうちは意味がつかめているかどうか危うい。
では、次の文は?
There are colourful clothes on the table.
テーブルの上に、あざやかな色の布切れが何枚か載っている場面が浮かぶだろう。複数扱いになっているので、「布地」の意味である。
あざやかな着物がひとつテーブルの上に載せられていたら、こう書けばよい。
There is a colourful clothes on the table.
ハンドルネーム「後志のおじさん」がコメントを寄せてくれていますので、本欄にアップします。話者の意識に焦点を当てた解説です。
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複数名詞を代名詞でうけるときに、単数にするかthey にするかは、話者の意識のあり方に関わる部分に関わっていて、「個々のものに意識がある」なら複数、「全部まとめて」なら単数ですね。
本文中のclothes →it も、1着ずつの服ではなく、衣類全体の感じですか。
逆に、someone やeveryone はthey でうけるのが会話の基本です。
高校生には手頃な英文に思えます。
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*#3163 Vampire Blood : chapter-1 (2) Oct. 25, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-10-25
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#3163 Vampire Blood : chapter-1 (2) Oct. 25, 2015 [46. 原著で読むダーレン・シャンの大冒険]
風が強く家が揺れる。朝の5時ころから風の音がうるさくて目がさめてしまった。18~20m/秒の風が吹いていた。根室東海上に970hpaの低気圧がある。
高校生の要望でダーレン・シャンの小説を読み始めたが、今度こそ続きそうなので、2日前にamazonで本を注文し、セブンイレブンで代金を支払った。授業で質問のあった箇所をとりあげて紹介するために、専用カテゴリー「原著で読むダーレン・シャンの大冒険」を設けた。辞書を引きながら、3ヶ月くらいで90%の文が自力で読めるようになってもらえたらうれしいが、ハードルが高すぎるかも、嫌いな英語が、嫌いでなくなるだけでもいいかな。
2回目は、ダーレンの友人のスティーブが登場し、その性格描写がなされる箇所をとりあげてみたい。授業の途中で、お腹の具合が悪くて、先生にトイレへ行く許可をもらったダーレンが用がすみ、ズボンを上げてから座りなおして暇をつぶしている。そこへ授業が終わって、トイレへスティーブが様子を見に来て、「ダーレン、どこにいる?」とたずねるシーンで、この新しい登場人物がどのような性格の人物かを作者が紹介する。
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Steve used to be what my mum calls, "a wild child".
One day - he was still in a pushichair - he found a sharp stick and prodded passing woman with it ( no prizes for gussing where he stuck it! ) [page 14]
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代名詞のhe、he、it、he、it、itがそれぞれ何を指すのか意識して読んだだろうか?英語だから代名詞で置き換えなければならないが、日本語は元の名詞を当てて訳したほうがよい。代名詞がそれぞれ何を指しているかがわからなければ、文の意味が理解できない。
動詞を青色に変えてみよう。
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Steve used to be what my mum calls, "a wild child".
One day - he was still in a pushichair - he found a sharp stick and prodded passing woman with it ( no prizes for gussing where he stuck it! )
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ここで使われている 「used to+動詞」 は過去の習慣をあらわし、「現在はそうではない」、あるいは「現在の状態とは距離がある」という含意の用法だ、受験英文法でもおなじみの表現。類似表現のwouldで代用できる場合とそうでない場合があるから、ついでに参考書を確認しておこう。
過去形を使うことから、単純に現在の状態とは異なるというニュアンスが生まれると考えてよい。用例をひとつ挙げておく。
David used to spend a lots of money on clothes. These days he can't afford it.
(デービッドは 着るものにいっぱいお金をかけていた。このごろそんな余裕がない。)
昔はお金があって着るものにたいそうお金をかけていたが…いまは違う状態にある。
スティーブは昔はお母さんが呼んでいたようにただの悪ガキだったが、いまは善人なのか一丁前の悪党になってしまったのか、とにかくいまは悪ガキではないということ、そうしたニュアンスは仮定法の得意とするところである。現在の状態とことなることを仮想して、「お金ありましかば、着物買えまし」という、古典文法の"反実仮想"と機能が似ている。現実にはお金がないのだが、「お金ありましかば…」と現実と反対のことを仮定して述べるのである。ハンドルネーム「後志のおじさん」が以前弊ブログコメント欄で鋭い分析を披露してくれた。
(「仮定法」をキーにして弊ブログ内を検索してくれれば、さまざまな関連トークが出てきます。4人の英語好きのブロガーが延々と英語談義をして、ebisuの蒙を拓いてくれました。ぜひお読みいただきたく、末尾にURLを掲げておきます。)
さて、次はwhatだ、英文法的には複合関係代名詞だが、ここではさらに慣用句になっているから、他の用例を示しておく。
They are what we call a motorcycle gang.
(いわゆる暴走族です)
江川泰一郎著『英文法解説(改訂三版)』p.62
名詞句の a wild child をどのような日本語にするかは一考を要する。わたしは最初に「やんちゃ坊主」と訳してみたのだが、次に続く文と合わない(お茶目なところがひとつもなく、悪意の塊にみえる)ので「悪ガキ」と訂正した。続く文はスティーブの根っからの悪質さを感じさせるエピソード。
(スティーブはわたしの母が呼んだところのものだ、それは何かというと"悪ガキ")
後に続く句は、直前の句の言い換えである。だから、後ろに続く部分が同格なら、つねに前の句の補足説明として捉えたらいい。
pushchairを「乳母車」と訳したら、後の文と意味が文脈が合わなくなる。pushchair=strollerで、The Oxford Picture Dictionary で調べたら、乳母車carriageではなくて、折りたたみ式(usually folding)のバギー(buggy)だ。バギーの中に乗っているときに棒を見つけて拾ったのか、それとも歩いていたときに棒を見つけて拾ったのかははっきりしない。babyとは書いていない、childと書いているからスティーブが2-3歳でまだバギーに乗っていた時分の話だ。
慣用句がまた出てきたが、知らなくても意味の見当がつく。
(there are) no prizes for gussing ... (...なんて誰にでもわかる)
(there are) no prizes for gussing where he stuck it!
(スティーブがそのとがった棒をどこに突き立てたかは、だれにだったわかる場所だから当てたって賞なんてない!)
まだバギーに乗っているくらいのちっちゃなころから、通りすがりの大人の女性にスティーブはそんな悪さをしたのである。成長したスティーブがどのような大人になるかは、この性格描写で読者にも想像がつく。わかりやすいキャラクターである。
省略されている(there are)を補って読めば、おなじみの表現(There is no xxx ...)に行き着きます。こういう圧縮はよくなされるので、文法工程指数が高くなればなるほど、句構造の文を完全な文章に復元して意味を考えればよいのです。生成変形英文法の知識がすこしあれば、「情緒的な理解」を排除して、意味に忠実な解釈が可能になります。
慣用句部分を茶色にしてみる。
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Steve used to be what my mum calls, "a wild child".
One day - he was still in a pushichair - he found a sharp stick and prodded passing woman with it ( no prizes for gussing where he stuck it! )
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<参考訳>
スティーブは昔は"悪ガキ"だった、母がそう呼んでいた。ある日-まだスティーブがベビーバギーに乗っていたころ-とがった棒を見つけ、大人の女性にそれを突き立てた。(どこに突き立てたかって、言わなくてもわかるだろう、あそこだよ!とんでもない悪ガキだった)
*#3161 Vampire Blood : Chapter-1 (1) Oct. 22, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-10-22-1
<余談>
自分で楽しみで読むのと、生徒に教えるために読むのではずいぶんと手間が違うものだ。質問のある箇所を、その都度ブレイク・ダウンして解説する必要がある。
質問攻めにあうので、生徒になぜこの小説を原著で読む気になったのかこちらの方からも質問してみた。小学生から中学生にかけて、ダーレン・シャンの小説を読んで楽しかったからと話してくれた。話の筋が頭に入っていたらかなり読みやすい。
その生徒の古い記憶だと、スティーブは魂が汚れている(悪すぎ)ので、バンバイヤーから拒絶され、心がきれいだからという理由で「半バンパイヤー」になれたダーレンと闘争を繰り広げることになるという。
どうやら『ソードアートオンライン』のような児童書レベルの本である。語彙数が少ないから、日本人の高校生や大学生がチャレンジするには適している。大学3年生になったら、自分の専門分野の本を原書で読むぐらいのことをすべきだ、いつまでも児童書レベルではさみしい。
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*#2423 'IAEA members give grief over leaks' Sep. 28, 2013
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-09-29
#2435 "#2423の一文解説" Oct.4, 2013
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-10-04-1
#2443 仮定法ってなんだろう?(1):コメント投稿欄での議論 Oct. 10, 2013
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-10-09-1
#2444 仮定法ってなんだろう?(2):コメント投稿欄での議論 Oct. 10, 2013
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-10-10-1
#2445 仮定法ってなんだろう?(3):コメント投稿欄での議論 Oct. 10, 2013
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-10-10-2
#2446 仮定法とは何か(1) : Boys be ambitious. Oct. 11, 2013
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-10-11
#2447 仮定法とは何か(2): 概念規定と基本型 Oct.13, 2013
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-10-12
#2449 假定法とは何か(3): Swanの説明 Oct. 14, 2013
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-10-13-1
#2452 仮定法とは何か(4):国文法学者の見解 Oct. 16, 2013
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-10-16
#2453 仮定法とは何か(5) : 国文学者の見解ー2 Oct. 17, 2013
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-10-16-1
#2991 中学英語教育わいわいがやがや(1) Mar.5,2015 [英語談義 (コメント欄から)]
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-03-04-1
#2992 中学英語教育わいわいがやがや(2) Mar.6, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-03-05
#2996「中学英語教育わいわいがやがや(3) :51~74まで」投稿欄より
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-03-10
#3002 中学英語教育わいわいがやがや(4):#75~96 英語力養成基本トレーニングメニュー公開 Mar. 18, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-03-18
#3009 中学英語教育わいわいがやがや(5):#97~130 withとas Mar. 22, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-03-22-3
#3010 中学英語教育わいわいがやがや(6):#131~160 withとfrom Mar. 23, 2015 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-03-22-1
#3013 中学英語教育わいわいがやがや(7):#161~180 Mar. 25, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-03-24-1
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10月25日午後2時ころ、注文していた本が届いた。3冊分がひとまとめにされた分厚い(511ページ)方を、中古で送料込み800円で手に入れたのだが、新品と変わらない。ページ数を記すときはこちらの本を使います。
The Saga of Darren Shan (Vampire Blood Trilogy)
- 作者: Darren Shan
- 出版社/メーカー: HarperCollins Children's Books
- 発売日: 2003/09/01
- メディア: ペーパーバック