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#4647 Sapiens 47th : p.51の第三段落 Nov. 8, 2021 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

 Sapiensの51頁、第三段落です。高校生と大学生が英書に慣れるための材料として書いています。会話文と違って、学術書は構文が少し複雑です。ジャンルを問わず好奇心のままにたくさん読んで読みなれてください。国立大学の2次試験対策用や大学院受験用の英文読解トレーニングとしても役に立つでしょう。この程度の難易度の英文がすらすら読めたら、国内のどの大学院でも英語は合格点が取れます、Sapiensはそういうレベルの読み物です。そのあとに専攻する分野の専門書を数冊読破して、専門用語を3000-5000ほど増やしておいたらいいだけです。
 社会人のみなさんもスキルアップに利用してください。最先端分野の本は日本語の翻訳が出ていないことがしばしばあります。原書で読まざるを得ません。COVID-19情報もデータ元をたどっていくと英語で書かれた論文にしばしば行き当たります。興味のある箇所のつまみ食いでいいのです。次第に英文を読むのにアレルギーや抵抗がなくなっていきます。最先端情報は知的にもとっても面白いのです。
 ニムオロ塾の塾生で中3の生徒が一人だけ読んでいます。中学生でも英検準2級相当の力があれば、解説を読みながら理解することはできます。学年トップを維持したかったらチャレンジしていい。受験参考書なんかやっても団栗(ドンングリ)の背比べですよ。トップグループから頭一つ抜け出るためには、受験レベルを超えた学習が効果が大きい。(笑)

<51.3> Dogs were used for hunting and fighting, and as an alarm system against wild beasts and human intruders. With the passing of generations, the two species co-evolved to communicate well with each other. Dogs that were most attentive to the needs and feelings of their human companions got extra care and food, and were more likely to survive. Simultaneously, dogs learned to manipulate people for their own needs. A 15,000-year bond has yielded a much deeper understanding and affection between humans and dogs than between humans and any other animal. In some cases dead dogs were even buried ceremoniously, much like humans.

  WORDの英文校正機能はfoodの後のカンマ(赤)が不要だと警告しています。意味を精確につかむために基底文に分解してみます。
Dogs that were most attentive to the needs and feelings of their human companions got extra care and food, and were more likely to survive.

 Dogs got extra care and food.(犬は特別な世話と食べ物を得た)
 ② Dogs were most attentive to the needs and feelings of their human companions.
(犬は人間の伴侶としてそのニーズと感情に他のどの動物たちよりも注意深かった)
 ③ [Dogs] were more likely to survive.
((そういうわけで)犬は生き延びる可能性が高かった)


  最初のandは「必要と感情」を並列で並べるためのもので、後の方のandは論理的な帰結としてそうなるという意味で使われています。
A and B」⇒「Aが起きて、その結果ついでBが起きる」
 ①と③の文の重文です。主語が同じなので、後の方の文の主語が省略されます。作文するときに使ってみてください。あとの文で主語を入れるとくどくなります。
  ②は①のDogsの説明、関係代名詞節修飾です。
  ハラリは読みやすさを考慮して「カンマ」を入れたのでしょうが、カンマはない方が自然な英文に見えます。要するにくどいということ。スマートで美しい方がいいのです。この辺りは数学の解法を比較するときと一緒ですよ。

  ハラリのdogsという語彙選択について注記しておきます。
  犬を表すには「the dog」という語も使えますが、ハラリはここで人間に飼われているさまざまな種類の犬を想起しています。狩猟犬だったり、番犬だったり、人間になつきやすい犬=ペットだったり、シンド・マスティフ、パピヨン、セントバーナード、コリー、などさまざまな犬を思い浮かべているのでしょう。定冠詞をつけてしまうとそういうものが飛んでしまって「犬一般」か特定のイヌになってしまいます。具体例を一つ提供します。
 I go to school by bike.
 My mother went to the school yesterday.
 最初の文は定冠詞なしです。学校という概念あるいは機能を表しています。「自転車通学しています」という意味です。2番目の文は、お母さんが子どもが通っている学校に何か用事があっ行ったのでしょう。三者面談かもしれませんし、授業参観かもしれない、PTAの集まりだったかもしれない、とにかく自分の子供の通っている(つまり、文脈上唯一無二の特定の)学校へ用事があって行ったということです。だから定冠詞がついていなければならないのです。
 犬の生物分類について興味がある人は、「イヌ属イヌ科」をいう検索キーを使ってネットで検索してみてください。愛玩動物の家イヌたちが大陸狼の系統に分類されていることがわかります。 

 柴田裕之訳『サピエンス全史(上)』p.66
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イヌは狩猟や戦いに使われ、野獣や人類の侵入者に対する警報装置の役割も果たした。世代を経るうちに、人と犬という二つの種は、互いにうまく意思を疎通させるように共進化した。人類という伴侶の必要や感情に最も注意深い犬たちの方がよく面倒を見てもらい、多く餌を与えられたので、生き延びる可能性が高まった。同時に、イヌたちも人間を操って自分の必要を満たすすべを学んだ。15千年に及ぶきずなのお陰で、人類と犬の間には、人間と他のどんな動物の間によりもはるかに深い理解と愛情が生まれた。死んだイヌは、人間の場合とほとんど同じくらい丁重に埋葬されることがあったほどだ。
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#4634 Sapiens 46th :p.51第2段落  Oct. 22, 2021 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

<51.2>は原著51頁の第2段落を表しています。前回から段落ごとの細切れでアップしていますので、原著を気軽に楽しんでください。

51.2> There was just one exception to this general rule/: the dog. The dog was the first animal domesticated by Home sapiens, and this occurred before the Agricultural Revolution. Experts disagree about the exact date, but we have incontrovertible evidence of domesticated dogs from about 15,000 years ago. They may have joined the human pack thousands of years earlier. 
  incontrovertible:議論の余地のない
  スラッシュを入れてみます。
There was just one exception/ to this general rule: the dog. The dog was the first animal/ domesticated by Home sapiens,/ and/ this occurred before the Agricultural Revolution. Experts disagree about the exact date,/ but/ we have incontrovertible evidence of domesticated dogs/ from about 15,000 years ago. They may have joined the human pack thousands of years earlier.

(たった一つだけ例外があった/この一般原則に対する/:犬)
(犬がその(唯一の例外の)最初の動物だった/ホモサピエンスによって家畜化された/そして/そのことは農耕革命以前に生じた)
(専門家の間にその時期についての合意はない/だが、/犬を家畜化したという議論の余地のない証拠はある/15000年前から)
(犬が人間の群れに加わったのはそれよりも数千年も前だったかもしれない)

 高校教科書レベルの英文だと、スラッシュリーディングは強力な武器になり得ますが、Sapiensレベルだとスラッシュリーディングで文意を追える人は激減しそうな気がします。100人いたら2~3人でしょうね。ほとんどの人は、細切れにしたものから、文意を組み立てるために、もうひと手間かけることになります。それでいいのです。そういうことを続けているうちに、慣れてきます。
 日本語で書かれた本でも、哲学書や仏教書(例えば、道元『正法眼蔵』)などは理解するのに時間がかかります。読む速度はすぐに数分の一に落ちてしまいます。やさしいものは高速で、難易度の高い読み物はローギアで読んでいいのです。それがモノの道理というものですから。

●「may + have + pp」に注意してください。助動詞+現在完了形は、「~だったかもしれない」と、過去の出来事を表しています。

柴田裕之訳 『サピエンス全史(上)』p.66
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「すべて人間だった」というこの一般原則には、一つだけ例外があった。犬だ。犬はホモサピエンスが最初に飼いならした動物で、イヌの家畜化は農業革命以前に起こった。厳密にはいつだったかのかに関して、専門家の意見は分かれるが、およそ15000年前には飼いならされた犬が存在していたという動かしがたい証拠がある。犬が人間の群れに加わったのはそれより何千年も前だったかもしれない。 
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#4633 Sapiensを読む:高校生と大学生と社会人のために Oct. 20, 2021 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]


ハラリ’Sapiens’の読解授業の対象だった高校3年生が卒業して、半年間ほど休止していたが、以前とは少し異なる趣向で再開したい。どこか田舎の高校生が難関大学合格目指してネットで弊ブログを見て勉強しているかもしれないので、半年くらいやってみる。
 もちろん、人類史に関するベストセラーとなったこの本を翻訳ではなくて原著で読んでみたいと思う社会人にも役に立つでしょう。週に
2回程度段落ごとにアップして行くつもりです。
 ところで、英作文問題と解説集の原稿がすでに966回、8520題になっているので、作文という観点からもハラリの文章を批判的に味わってみたい。幸い、WORDには英文の校正機能があるのでそれを利用してやってみます。

The Original Affluent Society(原初の豊かな社会)

<51.1> What generalisations can we make about life in the pre-agricultural world nevertheless? It seems safe to say that the vast majority of people lived in small bands numbering several dozen or at most several hundred individuals, and that all these individuals were humans. It is important to note this last point, because it is far from obvious. Most members of agricultural and industrial societies are domesticated animals. They are not equal to their masters, of course, but they are members all the same. Today, the society called New Zealand is composed of 4.5 million Sapiens and 50 million sheep.

チャンク(意味のカタマリ)ごとにスラッシュで区切ってみよう。あまり細かくスラッシュを入れると、文意がつかみにくくなり、少なすぎたら文意を再構成するために読む速度が落ちる、どの程度がいいかは自分の読解力に合わせて試してみたらいい。やってみて、自分の力に見合ったスラッシュの入れ方がだんだんわかってくる。


What generalisations can we make about life/ in the pre-agricultural world/ nevertheless? It seems safe/ to say /that the vast majority of people lived/ in small bands numbering several dozen or at most several hundred individuals,/ and /that all these individuals were humans. It is important to note this last point,/ because it is far from obvious. Most members of agricultural and industrial societies/ are domesticated animals. They are not equal to their masters/, of course,/ but/ they are members all the same. Today, the society called New Zealand is composed of 4.5 million Sapiens and 50 million sheep.
domesticate:(v)家畜化する
domesticate /dəˈmes.tɪ.keɪt/ verb [ T often passive ]
to bring animals or plants under human control in order to provide food, power or companionship

(食糧、労力あるいは連れとして動物や植物を人間の支配下に置くこと)
Dogs were probably the first animals to be domesticated.
(犬がおそらく最初に家畜化された動物であった) 


①(どんな一般論が生活について言いうるのか/農耕以前の世界で/それでも
②(・安全である/云うことが/大多数の人々が暮らす/数十あるいは最大で数百の個体を内包する小さな集団で/そして/それらの個体すべてが人類である)
形式主語のitのうち漠然としたものを受ける場合を除いては、それを説明する語句が後続します。ここではto sayである。that節はsayの目的語になっています。’it’を「・」で表記したが、これは大西泰斗先生の流儀です。
 スラッシュを入れて訳したら、おおよそこのようなわけのわからぬ訳になることがあります。
 細かく刻みすぎたようです、これでは文意がつかめませんね。スラッシュを減らしてみます。
that以下といった方が安全である/大多数の人が小さな集団内で住んでいる/その小さな集団というのは数十あるいは最大で数百の個体を内包している/そして/それらの個体すべてが人類であるような小さな集団)
③(最後の点を書き留めることは重要である/なぜならそれは明白だとは言い難いからだ)
④(農業と工業社会の大多数の構成員のほとんどは/家畜化された動物たちである)
⑤(家畜化された動物たちはその飼い主とは対等ではない/しかし/家畜化された動物たちはすべて同じ構成員である)
⑥(今日、ニュージーランドと呼ばれている社会は450万人の人類と5000万頭の羊から構成されている) 


<文法解説>
What generalisations can we make about life/ in the pre- agricultural world/ nevertheless?
We can make something about life in the pre-agricultural world.
(わたしたちは農業以前の世界について何かをつくることができる)
makeの目的語であるsomethingの部分が疑問詞句(どのような一般論)となっている。


<ワード英文校正機能4を使ってハラリの書いた文をチェック>
①の文のこの箇所「in the pre- agricultural world nevertheless?」はworldneverthelessの間に「,」を入れるべきだとワードの校正機能が警告しています。そのとおりですね。文末にこれらの副詞を用いる用例ではカンマありでしか見たことありません。英作文問題の方でこの手の副詞が何度か出てきました。
②の文中で使われている「the vast majority of people」は「most people」のほうが適切だと、ワードの英文校正機能が警告してくれています。しかし、ハラリがここで「most people」を使わずに「the vast majority of people」とビッグワードを並べたのは、ここを強調したかったからだという解釈が成り立ちえます。ハラリは「ほとんどの人が」と軽く通り過ぎたくなかった。翻訳者の柴田裕之氏はそこまで意識して「大多数の人々」という日本語を選んだのでしょう。
③の「this last point, because」の「,」は不要だとワードの英文校正機能の警告アリです。なるほどその方がいい。
これら三つの点を訂正した文を挙げておきます。
What generalisations can we make about life in the pre-agricultural world, nevertheless? It seems safe to say that most people lived in small bands numbering several dozen or at most several hundred individuals, and that all these individuals were humans. It is important to note this last point because it is far from obvious. Most members of agricultural and industrial societies are domesticated animals. They are not equal to their masters, of course, but they are members all the same. Today, the society called New Zealand is composed of 4.5 million Sapiens and 50 million sheep.


 <用語解説>
ハラリは「一般化」にgeneralisationを使っている、これは英国の表記だ。米国ではgeneralization、音は[z]であるから、米国ではいつの間にか音の通りの表記に変ってしまったのだろう。ドイツ語も英国表記と同じでdie Generalisationである。ドイツ語の発音は「ゲネラリザチオーン」、sの発音は[z]である。英語というのはケルト語の上にドイツ語が混じり、そのあとでさらにフランス語語彙が混ざった、大まかにそう考えていいのではないか。そして語幹や接頭辞や接尾辞はラテン語やギリシア語に由来するから、それらを広く比較検討してみないと、よくわからないケースが多いのです。


 英英辞典のCALDから引用。
 generalization , UK usually generalisation /ˌdʒen. ə   r. ə l. a  ɪˈzeɪ.ʃ ə n/ /-ɚ-/ noun [ C or U ] mainly disapproving

a written or spoken comment in which you say or write something very basic, based on limited facts, that is partly or sometimes true, but not always, or when someone generalizes by using such statements

The report is full of errors and sweeping (= extreme) generalizations.
Generalization can be dangerous. 

 ゼネラライゼーションは諸刃の剣。


<柴田裕之訳>
そうはいうものの、農耕以前の世界での暮らしについて、どんな一般論が語れるのだろうか?大多数の人は、数十、最大でも数百の個体からなる小さな集団で生活しており、それらの個体はすべて人類だったと言って差し支えなさそうだ。「すべて人類だった」点に言及することは重要だ。なぜならそれはおよそ明確とは言い難いからだ。農耕社会と工業社会の成員の過半数は家畜だ。もちろん彼らは自分の主人とは対等ではないが、それでも社会の成員であることに変りはない。今日、ニュージーランドと呼ばれる社会は、450万人のサピエンスと5000万頭の羊で構成されている。 


<文脈読み>
①で、農耕以前の社会で何が一般論として言いうるのかという問題提起をして、②で数十から最大で200-300人の集団で一つの社会が構成されており、それらの成員のすべてが人類であったと述べている。
③では、農耕以前の社会には言いうるが、その後の社会には言い得ない点に言及する。つまりは農耕社会以前では社会の構成員が人類だけだったと「一般化」しうるのである。しかしそれは、農耕社会の訪れとともに変容する。社会の構成員は人類のみではなくなるのだ。
ついで、④で農耕以後の社会の構成員の大多数が家畜であることを指摘する。
⑤では、家畜とその飼い主は対等の関係ではないが、同じ社会の構成員であり、人類よりも家畜化された動物の方が多いと主張する。
⑥で具体例としてニュージーランドの住民の数と羊の数を挙げている。

ハラリが「起承転結」を意識して論を展開しているはずはないが、あえて強引に適用してみると、起承転結の<起>が①、<承>が②、<転>が③、④と⑤が<結>で、⑥は具体例での挙証である。具体例で自分の論を証明して見せるという論理展開はよくある形式だから、覚えておくといい。論理展開に予測がつくと英文はそれ以前に比べて格段に読みやすくなります。著者の考えていることとこちらの脳が同期している状態が、相手の論の展開を予測できるということなのです。
こうした段落ごとの論理運びに慣れてくると、次に何が出てくるのか内容の展開に予測がついて、的確にそしてスピーディに読めるようになる。だから、読む速度をアップするためにも、字面を追いかけるだけでなく同時に同じ段落内での論理展開も追いかけて読む必要があるのです。読み間違えると、論理展開に齟齬が生じるから、気がつきやすくなるというメリットもあります。
この1年と10か月間は英作文問題と解説集の作成に時間を取られていたが、暇を見つけて週に2回程度のペースで「サピエンス」をアップして行こうと思ってます。


Sapiensは共通テスト対策用のテキストではありません。難関大学の二次試験対策用ですね。大学院入試では重要な箇所の精読が要求されるので、それ用にも使えます。
 目的は人それぞれでしょうね。英語の本を読んでみたい、動機はそれだけで十分です。


Sapiens: A Brief History of Humankind

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  • 作者: Harari, Yuval Noah
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#4505 Cleft Sentences(分裂文)③:英作文スキルアップのために Mar. 12, 2021 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

 分裂文の解説の3回目、最終回である。前回まではwh型の分裂文(疑似分裂文)を扱ったが、今回はit型の分裂文を採り上げる。

131 cleft sentences (2): it was my secretary who …
 We can use preparatory it in cleft sentences. The words to be emphasise are usually joined to the relative clause by that.
(分裂文ではitを文頭に置く。強調される語句は通常that(関係節)によって接続される。)

 元の文: My secretary sent the bill to Mr Harding yesterday.
    (秘書は昨日ハーディング氏へ請求書を送った)
 分裂文:次の4種類の分裂文が書けます。
It was my secretary that sent the bill to Mr Harding yesterday.
      (not somebody else)
It was the bill that my secretary sent to Mr Harding yesterday.
       (not something else)
It was Mr. Harding that my secretary sent the bill to yesterday.
      (not to somebody else)
It was yesterday that my secretary sent the bill to Mr. Harding.
   (not another day)
 強調のために分裂文の形式をとります。イタリック・太字が強調部分です。

 Negative structures are also possible.
(否定文も可能)
   It wasn't my husband that sent the bill.
 Who is possible instead of that when a personal subject is emphasised.
   It was my secretary who sent ...
 When a plural subject is emphasised, the verb is plural.
   It was the students that were angry ... (NOT...that wasa angry)
 The verb cannot be emphasised with this structure: we cannot say
(動詞は強調できないので次のようには書けない)
   It was sent that my secretary the bill ...

2. It is I who ... ;It is me that ...
 When an emphasised subject is pronoun, there are two possiblilities.
(強調される主語が代名詞である場合には、つぎの2つの形のいずれかになる)
 Compare:
--- It is I who am responsible. (formal)
     It's me that's/who's responsible. (informal)
--- It is you who are in the wrong. (formal) 
     It's you that's in the wrong. (informal) 
 To avoid being either too formal or too informal in this case, we could say, for example,
     I'm the person / the one who's responsible.

 分裂文にはwh型とit型の3つのタイプがある。it型の方が使い勝手がいいようだ。何を強調したいのか焦点が定まったら、どんどん使って慣れることだ。


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#4502 Cleft Sentences(分裂文)②:英作文スキルアップのために Mar. 11, 2021 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

  分裂文解説の続きで、M. Swan、Practical English Usageからの引用です。さまざまなタイプの疑似分裂文が並んでいます。強調語句への焦点の当て方を習得しましょう。

3.emphasising verbs:What he did was ...(動詞の強調)
  When we want to emphasise a verb (or an expression beginning with a verb), we have to use a more complicated structures with what ...do. Infenitives with and without to a possible. 
(動詞の強調:What he did was ...: 動詞を強調したいときにはwhat ...doいうちょっと複雑な構文を使う。toなし不定詞かto付かどちらでもよい)
--He screamed.(彼は叫んだ)
 What he did was (to) scream.(彼がしたことといえば、叫ぶことだった)
 日本語訳は「彼は叫んだ」でもいいよ。意味は元の文(somple sentence)にあるからだ。この疑似分裂文は焦点をscreamに当てている、つまり、強調しているというだけ。
--She WRITES SCIENCE FICTION.(彼女はSF小説を書いている)
   What she does is (to) write science fiction.(彼女がやっているのはSF小説を書くことである)

Instead of an infenitive, we often use subject+verb in an informal style.
(インフォーマルな書き方では、不定詞の代わりに「主語+動詞」をセットで使う
   What she does is, she writes science fiction.
   What I'll do is, I'll phone John and ask John and ask his advice.
 この場合は動詞は不定詞(基本形)ではなく、人称に応じて変化することに注意!

4. emphasising a whole sentence(文全体の強調)

A whole sentence can be given extra emphasis by using cleft sentence with what and the verb happen.Compare:
(文全体を強調するために、whatとhappenを使った特別な分裂文の構文がある。)
   The car broke down.(車が壊れた)
   What happened was (that) the car broke down.(えらいことが起きた、車が壊れちゃった)

5. Other structures(その他の構文)

All(that), and expressions with thing, can be used in cleft sentences.
(all that と thingのついた言い回しが分裂文に使われる。)
   All I want is a home somewhere. 
 (ほしいものはどこかで家庭をもつことだ)
 All you need is love.(愛こそすべてだ。ビートルズの歌にあった)
   All (that) I did was (to) touch the window , and it broke.
 (わたしがしたのは窓に触っただけだよ、そうしたら壊れた)
   The only thing I remember is a terrible pain in my head.
 (何とか思い出せるのは、ひどい頭痛がしたことだけ)
   The first thing was to make some coffee.
 (まず最初に、コーヒーを入れた)
   My first journey abroad is something I shall never foget.
 (初めての海外旅行は忘れられないものだ)

Time expressions can be emphasised with It was not until...and It was only when....
(時間表現が強調に使われることがある)
   It was not until I met you that I knew real happiness.
(わたしが本当の愛を知ったのはあなたに会うまでではなかった(あった後だった)⇒あなたに会うまで本当の幸せを知らなかった⇒あなたに出遭って初めて幸福というものを知った)
   It was only when I read her letter that I realized what was happening.
 (彼女からの手紙を読んでようやく何が起きたのかわかった)

At the beginning of a cleft sentence, this and that often replace emphasized here and there. Compare.
-- You pay here.            --We live here.
   This is where you pay.   That's where we live.
   (or Here is where you pay)  (or There's where we live.)




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#4501 Cleft Sentences(分裂文)①:英作文スキルアップのために Mar. 10, 2021 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

<最終更新情報>3/11午前9:53

 弊ブログ#4102で採り上げたハラリSapiensのある文章が分裂文であるという指摘を受けた。まさしくその通りだったので、解説を訂正した。本文と解説をお読みいただいたらいい。
 指摘を受けて調べたがネット情報は役にたたず、手持ちの本ではColins COUBILD English Usageの巻末の文法用語解説載っていた。 
 Michael Swan ’Practial English Usage’に詳述されていたので、そちらを引用して解説してみたい。高校生や大学生が英作文するときにとても役に立つと思う。高校の英語参考書を3冊見たが分裂文の解説が載っているものはなかった。
 もう一つ見つけた。ランドルフ・クァーク&シドニー・グリーバウム、池上嘉彦訳『現代英語文法(大学編)』紀伊国屋書店(1988年刊)に「14.15 疑似分裂文と分裂文」(662頁)という節に解説があるので、適宜そちらも参照する。こちらの本からの引用のときだけ、'RQ&S.G'と注を付けて区別する。この本はネイティブの大学生の文法教科書として書かれたものである。(この部分は3/11追記)
 cleftはcleaveの過去分詞形で「引き裂かれた」という意味である。元々の文を二つに引き裂いた形になっているので、そのように名付けたのだろう。Swanの解説は大きく分けると2つになっているが、長いので2-4回に分けて述べることにしたい。
 用語の定義が大事なので、最初に分裂文と疑似分裂文の定義をしておく。
 「itにbe動詞が伴うという形で始まり、その後に焦点の置かれる要素が来る」P.662(R.Q&S.G)のが分裂文でthatの関係節を導く、「wh-関係詞に導かれる名詞節を主語、または補語として持つSVCの文」(p.665同上)を疑似分裂文という

 130 cleft sentences (1): What I need is a holiday.

  We can emphasise particular words and expressions by putting everything into a kind of relative clause except the words we want to emphasise: this makes them stand out. These strautures are called 'cleft sentenses' by grammarians ( cleft means 'devided'). They are useful in writing (because we cannot use intonation for emphasis in written language), but they are also common in speech.
(強調したいと思う語句を除いた残りの部分を関係節の中に入れ込むという表現形式を使うことで、特定の語句を強調できる。この構文によって強調したい特定の語句を目立たせる。文法学者はこういう構文を分裂文と呼んでいる。分裂cleftは「分割されている」という意味である。この構文は英作文で役に立つ(書き言葉では強調のためにイントネーションを利用できないからだ)。特殊な形をとることで文の焦点がどこにあるのかを明示できる。話し言葉では強調はイントネーションを利用して普通に使われている。)


-- MARY kept a pig in the garden shed.
 (メアリーは庭の小屋で豚を飼っていた)
   Mary was the person who kept a pig in the garden shed. 
 (メアリーだよ、庭の小屋で豚を飼っていたのは)⇒文の焦点はMaryにある
 The person who kept a pig in the garden shed was Mary.
 (庭の小屋で豚を飼っていたのはメアリーだよ)⇒文の焦点はMaryにある
 この疑似分裂文で強調されているのは文末のメアリーである。
-- Mary kept A PIG in the garden shed.
 メアリーではなくて豚の方を強調するケース。
   A pig was what Mary kept in the garden shed.
   What Mary kept in the garden shed was a pig.
 (メアリーが庭にある小屋で飼っていたのは豚だった)
 これら二つの文には意味上の違いも焦点(強調語句)の違いもはない。

-- Phil is THE SECRETARY.
 秘書官を強調するケース
   The secretary is what Phil is.
   What Phil is is the secretary.
 (フィルは秘書官である)
 これら二文に意味の違いはない。

 Instead of the person or what, we can use less general expressions.
(personやwhatの代わりに、普通名詞をもって来る例は少ない)
   You're the woman (that) I'll always love best. 

   Casablanca is a film (that) I watch again and again.
A what-clause is normally considerd tobe singular; if it begins a cleft sentense it is followed by is/was. But a plural verb is sometimes possible before a plural noun in an informal style.
   What we want is/are some of those cakes.

2. the place where ...; the day when...; the reason why...
  We can use these expressions to emphasise a place, time or reason.
--Mary kept a pig IN THE GARDEN SHED.
   The garden shed was the place where Mary kept a pig.
   The garden where Mary kept a pig was the garden.
-- Jake went to London ON TUESDAY to see Colin.
   Tuesday was the day when/that Jake went to London to see Colin.
   The day when Jake went to London to see Colin was Tuesday.
--Juke went to Londonontuesday TO SEE COLIN.
   To see Colin was the reason why Jake went to London on Tuesday.
   The reason why Jake went to London on Tuesday was to see Colin.

The place, the day or the reason can be dropped in an formal style, especially in the middle of a sentence.
   Spain's where we're going this year.
   Why I'm here is to talk about my plans. (More formal: The reason why I'm here is...)

  各々の文例は①元の文、②疑似分裂文(1)、③疑似分裂文(2)の順に、三点セットで並んでいる。
 文中の語句を強調したいときは、この疑似分裂文の構文を思い出してもらいたい。
 なお、今回紹介したのは’130 Cleft sentences(1)’ の1と2である。あと3,4,5と'131 Cleft sentences (2)'が残っている。(1)はwh-節を用いた疑似分裂文の解説であるが、itを前置する分裂文は(2)で解説することになる。



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  手元にあるのは第3版(2005年)だが、第4版(2017年)がでているので、購入するなら、そちらをどうぞ。解説は一緒だと思います。第3版は658頁、第4版は635頁。
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  • 出版社/メーカー: 紀伊国屋書店
  • 発売日: 2021/03/11
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#4301 Sapiens (37th): p.50 & 51 'available'をめぐって Aug. 1, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

<最終更新情報>8/2朝8:30

 availableはなかなか厄介な単語である、どこが厄介かというと、日本語にしづらいのだ。面倒なので、生徒が引っかからずに通過してくれたらいいがと祈っていたが、そうは問屋が卸さない。(笑)
 勘のいい奴、精読スキルがかなりアップしたようだ、案の定、問題の箇所をちゃんと検知してしまった。50ページの最下段の行から段落を丸ごと引用する。本当は前の段落もあったほうが理解しやすいのだが、面倒だから端折る。この段落だけでもちゃんと読める。しかし展開されている論理や使われている文構造が少々込み入っていることは否めない。
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<50.3> In other words, while anthropological observations of modern foragers can help us understand some of the possibilities available to ancient foragers, the ancient horizon of possibilities   was much broader, and most of it is hidden from our view. The heated debates about Homo sapiens' 'natural way of life' miss the main point. Ever since the Cognitive Revolution, there hasn't been a single natural way of life for Sapiens. There are only cultural choices, from among a bewildering palette of possibilities.
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  In other words, while anthropological observations of modern foragers can help us understand some of the possibilities available to ancient foragers, the ancient horizon of possibilities was much broader, and most of it is hidden from our view. …(38 words)

(換言すれば/現代の狩猟採集部族を文化人類学的に観察すれば、わたしたちが可能性のいくつかを理解するのに役には立つ/何の可能性かというと古代の狩猟採集民がこのようであったかもしれないということ/にもかかわらず/古代の可能性の地平ははるかに広い/そしてその大部分はわたしたちの視野から隠されている)

 スラッシュを入れて訳したら、おおよそこのようなわけのわからぬ訳になる。スラッシュ・リーディングは平易な文なら、頭の中でスラッシュ入れながら速読できるが、ハラリのこの文のように長くて複雑な論理展開の文だと、アウトである。スラッシュはなるべく少ない方がいい。根室高校で使っている教科書だったか問題集だったか、スラッシュを細かく入れすぎて、読みにくかった。スラッシュはその人の読解力に応じて入れるべきで、必要最小限でいいのです。

 availableの意味を辞書から引用しておきます。
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available ˈveɪ.lə.bl ̩/ adjective
able to be bought, used, or reached(買える、使える、届く)
Is this dress available in a larger size?
    (このドレスはLサイズがありますか?)
Our autumn catalogue is now available from our usual stockists.
    (秋のカタログは通常在庫からお届けできます。)
There's no money available for an office party this year.
    (今年は会社の宴会に使うお金がない)
It is vital that food is made available to the famine areas.
    (飢饉地域で食料が入手できるようにするのは重要である)
[ + to infinitive ] I'm afraid I'm not available to help with the
show on the 19th.
    (申し訳ありませんが、19日のショーを手伝えないのですが。)
Every available officer will be assigned to the investigation.
    (空いている人は全員捜査に割り振られています。)
Do you have any double rooms available this weekend?
    (今週末に空いているダブルベッドの部屋がありますか?)
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 小西友七著『英語基本形容詞・副詞辞典』の概説には次のようになっている。
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available
1.概説 この語は基本的に「(物・人が)手近にあり、いつでも効果的に使用される状態にある」ことを意味し、「利用できる」「役立てられる」という意味を持つ。「手近にある」というのがこの語の特徴で、ここから<物>の場合、「手元に入ってくる」つまり、「入手可能な」の意味が派生している。また、<人>の場合には、時間的余裕のあることが強調され「手が空いている」「面会の暇がある」の意でも用いられる。叙述用法では用途・目的を示す前置詞forや入手可能な物品・情報などの受け手を表すtoをしばしば伴う

1a : available A  利用できる[役に立てられる]A<物[事など]>
 All the available money has been used.
 (使える金はすべて使ってしまった)

 Use every available remedy to save the child.
 (あらゆる治療法を施してその子を救いなさい)

   The company itself instructured me to retain the best available sounselfor Jefferson.
 (会社がわたしにジェファーソンの事件をもっとも腕利きの弁護士に依頼するように言ってきたのです)


2b:S be available (to O)  S<品物[情報など]>が(O<人に>)入手できる。
 Ticketsare availableat the box office.(切符は切符売り場で買える)
 The books you want are no longer available.
 (君が欲しがっている本はもはや手に入らない)

 How availableare copies of it?(その出版物はどの程度入手できますか?)
 "An effort was made to learn, but the information was not available,simply not available."
 (努力して探ってみましたが、情報は手に入りませんでした。何一つ手掛かりはなかったのです)

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 辞典には5ページにわたってavailableの用例の説明が並んでいる。

 文の構造からみて'available to ancient foragers' は叙述用法であり、直前の句である'some of the possibilities' の補足説明となっている。いや、叙述用法ならⅡ文型の主格補語か第Ⅴ文型の目的格補語の筈だが、どちらでもない。文構造がややこしいので、while従属節を分解してみよう。
 ..., while anthropological observations of modern foragers can help us understand some of the possibilities available to ancient foragers, ...

① anthropological observations of modern foragers can help us understand □(第Ⅴ文型)
② [we understand] some of the possibilities (第Ⅲ文型)
③ [we understand some of the possibilities] [which is] available to ancient foragers(第Ⅱ文型)


①現代の狩猟採集民を文化人類学者が観察することはわたしたちが理解するのに役に立つ
②わたしたちは可能性のうちのいくつかを理解する
③わたしたちが理解するいくつかの可能性とは古代の狩猟採集民にについて入手可能な可能性である

 三つの文に分解してみたが、②は①の第Ⅴ文型の文の目的格補語understandの目的語になっている。③の文はシンプルセンテンスに分解すると第Ⅱ文型の主格補語であるから叙述用法なのだが、関係代名詞節で主格の関係代名詞とbe動詞が省略されて、some of the possibilitiesを後置修飾しているから、関係代名詞の限定用法なのだ。availableがavailable to ancient foragersというように前置詞句を引き連れているので後置された。以上が生成文法からの構文解説である。この手の文になると、ネイティブではないわたしたちが文法知識なしに読むのは甚だしく困難であると感じる。この個所を検知して質問した、この授業を受けている、生徒の勘の良さに脱帽である。

 現代の狩猟採集民を文化人類学的に観察して理解できるのは、たくさんある可能性の内のいくつかのみである。some possibilities はその背後にall of the possibilities を想定している。そのありうるすべての可能性とは古代の狩猟採集民の生活や文化や共通の価値観、神話などに関するものである。ここでハラリの言いたいことは、現代にまで残存している狩猟採集民を観察しても、実に多様であったであったであろう古代狩猟採集民の生活や文化や制度や宗教や共通の価値観、共同体のルールなどのうち、ほんの一部しかわかり得ないということ。
 オックスフォードやケンブリッジに住んでいた狩猟採集民の価値観がどうであったかすら、たくさんなる可能性のうち、きわめて限定されたことしか推測しえないことは前の段落で具体的に述べられていた。やはり必要なようだ、前の段落を引用しておこう。 
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<50.2> For example, there's every reason to believe that forager band that lived 30,000 years ago on the spot where Oxford University now stands would have spoken a different language from one living where Cambridge is now situated. One band might have been belligerent and the  other peaceful  Perhaps the Cambridge band was communal while the one at Oxford was based on nuclear families. The Cambridgians might have spent long hours carving wooden statues of their guardian spirits, whereas the Oxonians may have worshipped through dance. The former perhaps believed in reincarnation, while the latter thought this was nonsense. In one society, homosexual relationship might have been accepted, while in the other they were taboo.
たとえば、現在オックスフォード大学がある場所に三万年前に暮らしていた狩猟採集民の集団が、現在ケンブリッジ大学がある場所で暮らしていた狩猟採集民の集団とは異なる言語を話していたと考えて、まったく問題ないだろう。一方の集団は好戦的、もう一方はは平和的だったかもしれない。ケンブリッジの集団は原始共同体を形成し、オックスフォードの集団は核家族を基本としていた可能性もある。ケンブリッジの人々は、自分の守護霊の木像を何時間もかけて彫り、一方、オックスフォードの人々は、踊りながら崇拝していたのかもしれない。前者は輪廻転生を信じ、後者はそのような考え方は一笑に付したかもしれない。一方の社会では同性愛は許容され、もう一方ではタブーとされていたかもしれない。」『サピエンス全史』64-65頁
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 このようにavailableは文脈を考慮して、滑らかな日本語になるように、語彙を自分の薬籠中から選び出し、日本語として自然な、そして論理展開を外さぬように文章を紡ぐ以外にないのである、だから扱いが厄介なのだ。文構造が複雑なのでスラッシュリーディングではほとんど意味がとれないだろう。
 スキル・アップのために一度は徹底的な精読修行が必要である。英文を読むときには、後ろにある節や句は前置されている単語の補足説明と思って、頭から順に読んでいけばよい。慣れてきたら頭から順に読むだけでいちいち分解せずとも意味がとれるようになる

「換言すると、現代の孤絶した狩猟採集民(の生活や習慣や共通の価値観、社会制度、宗教など)をいくら観察してみたところで、古代狩猟採集民のそれらのほんの一部分を類推できるのみで、それに比べて実在した古代狩猟採集民の可能性の地平は広大であり、彼らの生活や文化や共通の価値観、宗教観のほとんどがわたしたちの視野の外にあり、類推すらできない。」


 以上はわたしの拙訳だが、翻訳者の芝田さんのコンパクトな訳をご覧に入れたい。

つまり、現代の狩猟採集民を人類学的に観察すれば、古代の狩猟採集民にはどのような可能性があったかをいくらか理解する助けになりうるものの、古代の可能性の地平はそれよりもはるかに広く、その大半がわたしたちの視野から隠されてしまっているのだ。ホモ・サピエンスの「自然な生活様式」をめぐる激論は、肝心な点を見落としている。認知革命以降、サピエンスには単一の自然な生活様式などというモノは、ついぞなかったのだ。そこには、途方に暮れるほど多様な可能性が並んだパレットからどれを選ぶかという、文化的選択肢があるだけだ。『サピエンス全史』65頁


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#4291 Sapiens(36th):page 47 July 15, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

<最終更新情報>7/17午前10:25

 ハラリの文章は毎回何かしら考えさせる箇所がある。今回はいわゆる「分詞構文」と、文脈を論理的に読むというのがテーマである。生徒は嗅覚が鋭くていいところで疑問を呈してくれるので、わたしも一緒に考える。

<47.2> Many scholars vehemently reject this theory, insisting that both monogamy and the forming of nuclear families are core human behaviours.  Though ancient hunter-gatherer societies tended to be more communal and eagalitarian than modern societies, these reseachers argue, they were nevertheless comprised of separate cells, each containig a jealus couple and the children they held in common.  This is why today monogamous relationships and nuclear families are the norm in the vast majority of cultures, why men and women tend to be very possessive of their partners and children, and why even in modern states such as North Korea and Syria political authority passes from father to son.


 一つ目は分詞構文である。
Many scholars vehemently reject this theory, insisting that both monogamy and the forming of nuclear families are core human behaviours.

 シンプルセンテンスに書き直すと、
Many scholars vehemently reject this theory
Many scholars vehemently insist that both monogamy and the forming of nuclear families are core human behaviours.

 アンダーライン部が共通なので、後続する文の主語が省略されると同時に、分詞句になっただけ。修辞上のお作法である。論理的にあるいは時系列的に分詞句が先なら、分詞句が文頭に来るが、そういうケースは10個にひとつもあるだろうか、それほど頻度が少ない。受験英文法書は例外的な事例の方ばかりを強調するから、高校生は本筋を見失う。
 this theoryとはひとつ前の段落にある'ancient commune theory'である。古代のコミューン学説については前回説明しておいた。
vehemently /ˈviː.ə.mənt.li/ adverb
in a strong and emotional way(強く感情的なやり方で)
The president has vehemently denied having an extra-marital affair. ((クリントン)大統領は婚外交渉したことを猛然と否定した)

「この古代コミューン学説を否定する学者は多いし、そういう学者は、一夫一婦制と核家族形成が人間の行動の核であると感情的に主張している。」

 ハラリはvehementlyを付け加えることで、古代コミューン学説の反対者たちが、理性的に反対しているのではなく、感情的に許しがたいという思いを抱いていることをほのめかしている。
 むずかしかったのは次の文で、文脈と論理展開を適切に読み取る必要がある。ここだけ見ていたらわたしにも著者の言いたいことのイメージがわかない。「こういう時は先を読んでそれから考えたらいい」と伝えて自分で読んでみたがうまくいかない。'separate cells'は前の方と論理的なつながりがあるので、それを無視したら、意味がとれないことが分かった。
('of separate cells'という前置詞句に使われているから、separateはcellsを修飾する形容詞である、意味は「別個の・独立の」。)

Though ancient hunter-gatherer societies tended to be more communal and eagalitarian than modern societies[, these reseachers argue,] they were nevertheless comprised of separate cells, each containig a jealus couple and the children they held in common. 

communal /ˈkɒm.jʊ.n ə l/ , /kəˈmjuː-/ /ˈː.mjə-/ adjective SHARED
1. belonging to or used by a group of people rather than one single personcommunal facilities/food/property
We each have a separate bedroom but share a communal kitchen.
2. describes a society in which everyone lives and works together and the ownership of property and possessions is shared (成員すべてが共に住み共に仕事をして、財産の所有権や所有が共有されている社会を叙述する形容詞)

 挿入句[, these reseachers argue,]を外すと、文構造が簡単になる。'they were nevertheless comprised of separate cells'は'modern societies'の補足説明である。'each containing~'は、主語が違うので分詞句にeachを補っている。

 ここまで来て第三の問題があることに気が付く。代名詞が何を受けているのかを明確にしなければ意味の取り違えが起きる。論理展開を読み取り、文脈と突き合わせながら読み進もう。
Though ancient hunter-gatherer societies tended to be more communal and eagalitarian than modern societies, they were nevertheless comprised of separate cells, each containig a jealus couple and the children they held in common

 生徒から質問のあったのはアンダーライン部。

 cell=細胞と思い込むとseparateの意味がつかめなくなるし、文意がさっぱりわからない。他にも意味があるから、素直に辞書を引いたらいい。
cell /sel/ noun [ C ] ORGANISM
1. the smallest basic unit of a plant or animal (植物や動物の最小基本単位)


 「細胞」のほかに、「基本組織」という訳語がある。そういわれてみると、細胞も体を構成する基本組織である。「細胞」よりも「基本組織」のほうが抽象度の高い概念である。古代コミューンがそれ自体が一つの集団であり成員それぞれが役割分担しているに対して、現代社会では成員それぞれが個別の核家族という単位で構成されている。
「古代狩猟採集社会は現代社会よりもより一層共同体として密であり平等主義的な傾向があるけれども、古代コミューン学説に反対する研究者たちは、それにもかかわらず古代狩猟採集社会が独立した基本組織単位で構成されており、その各々の基本組織単位は嫉妬心に満ちたカップルと狩猟採集社会が共同して育てている子どもたちを含んでいる」

 古代狩猟採集社会の基本要素={嫉妬深いカップル、共同で育てている子どもたち}
 これが古代コミューン学説の反対派のスキームである。

 子作りも子育ても古代コミューンでは共同してなされたし、その子供は誰の子かわからない、交わったたくさんのオスたちの子であったというのが古代コミューン学説で、そこではここバラバラな一組の男女というような「基本組織単位」は想定されていない。有利に子育てするために女は優秀と思える共同体内の複数の男たちと頻繁に交わるのがあたりまえであった。女が産んだ子どもの父親がだれかなどわかりようもない。それが現在の一夫一婦制の社会に影を落としている可能性はないのだろうか?あるとすれば、一夫一婦制でも女は別の男の子をはらんで産んでいるケースが一定割合いても当然のように思える。
(伝統的に性風俗が緩かった日本では10%はいても不思議ではない。そのあたりをとがめだてしないのが日本の風土だ。白血球のタイピング検査にHLA(主要組織適合抗原)という検査がある。同じ型が現れるのは数万分の一の確率である。日本では白血病患者の治療のための骨髄移植の際に使われているが、米国では年間3000件ほどが裁判で親子鑑定に使われていると海外製薬メーカーのSRL八王子ラボ見学者を案内しているときに、HLA検査室に案内した後で聞いたのは1988年ころのこと。そのころはまだDNA検査がなかったので、親子鑑定にはHLA検査しかなかった。日本では当時は1件も親子鑑定のためにHLA検査がなされていなかったのである。米国の男たちとは違って日本人の男はそんなことはあまり気にしない。妻が浮気して孕んでも、育てれば我が子である、かわいい。)
 これとはまったく逆の発想がありうる。現代社会では一夫一婦制の核家族が個別の基本単位となって子作りと子育てがなされており、それは人間行動の核心部分にかかわる普遍的なものだから、古代もそうした関係があったとというのが「古代コミューン学説」反対派の感情的な主張である。日本ではこういう発想はありえなさそうに思える。
 古代を延長して現代の一夫一婦制社会の実態を推し量るという発想と、現代の制度を普遍的なものと仮定し、古代コミューンにまで延長して、古代狩猟採集社会はかくのごとくあったという発想のシナリオの二つがぶつかり合っている。さて、あなたはどちらに軍配を上げるのだろう?


each containig a jealus couple and the children they held in common. 

 この部分も分詞構文だ。後続しているのは、論理的な順序を示している。代名詞が受けているものを( )書きしてみる。
①they (=ancient hunter-gatherer societies) were nevertheless comprised of separate cells

②each (of ancient society) contained a jealus couple and the children they(=separate cells) held in common.


 heldは子育ての一時期、基本組織が共同して子どもを保育するという意味だろう。①の主語がなぜ'ancient hunter-gatherer societies'なのかというと、'nevertheless'(それにもかかわらず)があるからだ。文意は「古代コミューンが現代社会に比べて、より共同体的であり平等主義的であるけれども、それにもかかわらず個別の基本単位で構成され、その基本単位の一つ一つが嫉妬しあうカップルと基本組織が共同で育てる子どもたちを内包していたと古代コミューン学説を否定する学者たちが主張しているのである。
 「より共同体的で平等主義的」だったら、本来個別の基本組織単位(家族)は成立しえないのであるが(though)、それにもかかわらず(nevertheless)嫉妬深いカップルと共同で育成する子どもたちという個別の基本組織単位を古代共同体が内包していたというのが、古代コミューン学説に反対する者たちの主張なのである


 they held the children in common(古代コミューンは子どもたちを共有していた)

 文法的に見てもtheyは複数だからa jealus coupleではない、'ancient hunter-gatherer societies'(古代コミューン社会)である。「古代コミューン社会は共同で子育てしていた」というのが文意である。
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hold /həʊld/ /hoʊld/ verb held , held SUPPORT
1. [ T ] to take and keep something in your hand or arms
Can you hold the bag while I open the door?
He was holding a gun.
The little girl held her mother's hand .
He held her in his arms.
[ + object + adjective ] Could you hold the door open , please?
Rosie held out an apple for the horse.
All those who agree please hold up their hand (= raise their arm) .
2. [ T ] to support something
Will the rope be strong enough to hold my weight?
Each wheel is held on with four bolts.
The parts are held together with glue. 
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 holdの1番目の意味なら、「子どもたちを共同で腕の中に抱え込む⇒子どもたちを共有する」だろうし、2番目の’to support something’なら「共同で子どもたちをサポートする⇒共同で子育てする」になるだろう。どちらでも同じこと。

 以下はebisu拙訳。

「古代コミューン学説に少なからざる学者が感情的に強く反発し、一夫一婦制と核家族の形成が人間行動の核心であったと主張している。現在社会に比べて、古代コミューンがより密接な色合いの共同体であり平等主義的な傾向があっても、それにもかかわらず古代コミューン社会が(共同体から)独立した基本組織単位で構成され、その各々の基本単位に嫉妬深いカップルや共同で育てる子どもたちを内包しているとそれらの学者たちは主張している。それゆえ、今日一夫一婦制関係と核家族が広範にいきわたっている支配的諸文化の中で普遍的な規範たりうるのであり、男と女が相互に相手と子どもを所有したがり、北朝鮮やシリアのような現代国家の中ですら政治権力が父親から息子へ引き継がれるのである。」


 古代社会では子どもは共同で育てていたから、現代社会は連れ合いと子どもに対して所有欲が強い(very possisive)傾向があるということか。人間は一貫して核家族や一夫一婦制を志向してきたという考えが背景にあるように感じる。現在を基準にして過去を見るような視点である。古代の女たちは男の精子が自分の卵子と結びつくなんて知識はないし、男の方も自分の子どもだという確信があったというのはありえぬ仮定に聞こえる。「古代コミューン学説」のほうが事実に即しているようにわたしには感じられる。
 ここまで書いてきて、ふと気が付いてしまったことがある。ライオンの群れは、一頭のオスがメス数匹を連れて群れをなすが、魚類はメスがオスを選ぶし、イヌやネコもメスは番(つが)うオスを選ぶ。そうしてみると、古代コミューンでもメスがコミューン内部のオスを選んで番っていたという仮説は有力ではないのか?誰かれ構わず番うメスやオスもいれば、特定の相手と頻繁に番い、たまには相手を変えて番う、セックスに関してはいまとあまり変わらぬのかもしれぬ。古代コミューン内部でも、セックスをめぐっては争いが絶えなかったのだろうと想像してみたくもなる。
 古代コミューン学説もそれを拒絶する学説も、どちらも確証はない。性風俗に関する文献資料なんて文字が発明されるよりもはるか以前だからあるわけがないし、化石から性風俗や子育ての仕方や家族形態がわかるわけもない。だから、これら二つの対立する学説は果てしのない論争を続ける運命にある。

 それにしてもハラリの文章はときに難解になる。こんな具合に考えなければならないことが次々に出てくる箇所が、たまに現れると、とっても面白いが、高校生と一緒に読むようなレベルの本ではない気がする、難関大学のゼミで読むようなレベルの本だ。この個所だけは学部のゼミでは届かない。(苦笑)
 スラスラ読める部分もあるから、まあいいか。

 ところで、長文を読んでいるだけでは、共通試験のリーディングや2次試験のリーディングはクリアできない。読む速度のアップと問題の解き方のトレーニングも並行してやらなければならない。彼は1か月ほど前から、ワード数によって15-20分単位くらいで、時間を計測して長文問題に取り組んでいる。500wordsの文なら20分で解くのが目標だろう。自分で具体的な目標設定して取り組む、自立とはそういうこと。塾からも自立、ちゃんと育った。8月からはスラッシュリーディングへ切り替えるから、同じ時間で現在の2~3倍の量が読めるだろう。

 わたしは自分の好みで外諸講読授業にこの本をとりあげたから、いわば趣味の時間を費やすだけ。プロの翻訳家は趣味ではなくて、仕事だから、そんなに時間をかけていられぬ。そうした制限の中で、翻訳者の柴田さんは、この難解な文章をどのように訳しているのだろう。

多くの学者は、一夫一婦制でも暮らしと核家族の形成はともに、人間社会の根幹をなす行動であると断言し、この説を猛然と拒絶する。古代の狩猟採集社会は現代社会よりも共同参加型で平等主義である傾向が強いものの、そうした社会も、それぞれが嫉妬深い夫婦と彼らが共有する子どもたちという個別の基本組織から成っていたと、それらの学者は主張する。だから、現代の一夫一婦制の関係と核家族は大多数の文化で標準的であり、男女はともに自分の伴侶や子どもに対する独占欲が非常に強く、北朝鮮やシリアのような現代国家においてさえ、政治権力は父親から息子へと受け継がれる。」『サピエンス全史』61頁 芝田裕之訳

 うまい訳だね。a coupleを男女と訳したり伴侶と言い換えたり。

 アンダーラインのthey(=separate cells)を代名詞のまま「かれら(嫉妬深い夫婦)が共有する子どもたち」と柴田さんが訳しているが、これでは日本語として意味をなさぬ。古代コミューン内部には夫婦と共同で育成される子どもたちという二つの基本組織単位があるというのが古代コミューン学説に感情的に反発する者たちの主張であり、後段で述べている、現代社会の一夫一婦制や核家族に見られる'very possissive(強い個別的な所有欲)'と呼応していると読むほかないのだろう。カップルについては古代のまま、子育てが共同ではなく、カップルが担う点だけが古代と異なるというのが反対論の研究者の主張である。子どもたちが核家族の一員であるとまでは言い難いので、一夫一婦制関係だけを古代のコミューンに投影して考えている。
 古代コミューンでは子どもは共同で育てるし、子どもたちは共同体の子どもである。現代社会は一夫一婦制関係の核家族で構成されているから、子どもは両親の所有物で、社会の共有物ではない。古代コミューン学説に反対する学者たちは、現代の一夫一婦制関係と核家族を古代コミューンにも貫徹する普遍的なもの=人間行動の核心部分とみなす、ハラリはそういうムリ筋の主張を「感情的な反発vehemently reject」と述べているのである。


<メモ:単語数5708、文字数8165、行数256、半角英数単語数565、全角文字数5143>

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土に還るハマナスの花びら>

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<グズベリー>

手前の淡い緑色がグズベリー、奥の濃い緑は桜、左側はハマナス
グズベリーの日当たりが悪いので先週数日かけて桜を剪定した。
DSCN3654s.jpg



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#4287 Sapiens (35th) : page 47. 世に不倫の種は尽きまじ July 11, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

 日本語訳を書きながら読む精読は50ページで終わりにして、51頁からは頭から読み進むことにしたいと生徒から申し出があった。これからの課題は読む速度のアップである。分速60-100wordsが当面の目標であるが、ハラリのSapiensは長い文が多く、高校生にはなかなかに手ごわい。どのように手ごわいかは、解説を読んでいただきたい。
 前回は54 wordsの文をとりあげたが、今日の授業で問題になった文は57 wordsあった。関係代名詞や挿入句があると文の本筋を見失いやすいが、慣れてくればどうってことがなくなる。

 前頁から続いている段落は、小数第一位が”0”と表記し、新しい段落から順に1,2,3とインクリメント(増加)していく。整数部はページ数を表す。

<47.1> The proponents of this 'ancient commune' theory argue that the frequent infideilities that characterise modern marriages, and the high rates of divorce, not to mention the cornucopia of psychological complexs from which both children and adults suffer, all result from forcing humans to live in nuclear families and monogamous relationship that are incompatible with our biological software.

 Ⅲ文型であるが、目的語がthat節になっており、そこが難所。こういうときは主語と動詞を見つけたらいいだけ。
「古代共同体学説の提唱者はthat以下を主張している」⇒「古代共同体学説によれば、…」
 長い文の主語は副詞句として処理したほうがスムースな日本語にできるケースが多い。that節の中にまたthatが出てくる。


The proponents of this 'ancient commune' theory argue that the frequent infideilities that characterise modern marriages, and the high rates of divorce, not to mention the cornucopia of psychological complexs from which both children and adults suffer, all result from forcing humans to live in nuclear families and monogamous relationship that are incompatible with our biological software.
 青のthatは指示代名詞と同じ役割、「あれ」と言っておいて、それをthat以下で補足説明する導きの役割。
 主語の部分を紫色で、関係代名詞を緑色で塗り分けてみた。動詞句を探すには、カンマの後に動詞句はないか探してみたらいいだけ。resultがすぐに見つかる。余計な修飾部分をそぎ落とすと、この文の骨格が現れる。

 the frequent infideilities and the high rates of divorce all result from forcing humans to live in nuclear families and monogamous relationship

infidelity /ˌɪn.fɪˈdel.ə.ti/ /-fəˈdel.ə.t ̬i/ noun [ C or U ] 不倫
(an act of) having sex with someone who is not your husband, wife or regular sexual partner, or (an example of) not being loyal or faithful 

monogamous /məˈnɒg.ə.məs/ /məˈː.gə-/ adjective 一夫一婦制の


 第1文型である。infidelitiesとは「不倫」のこと。

「頻繁に起きる不倫と高い離婚率はすべて、人類が核家族や一夫一婦制関係で暮らすことを余儀なくさせられていることから生じている」

 あとは修飾節だったり、挿入句だったりするだけだから、文脈に沿って交通整理していこう。
  
①the frequent infideilities that characterise modern marriages
②not to mention the cornucopia of psychological complexs from which both children and adults suffer
③monogamous relationship that are incompatible with our biological software.

not to mention翻訳者の柴田さんは「もとより」と訳している、語彙の選択がいい
used when you want to emphasize something that you are adding to a list
He's one of the kindest and most intelligent, not to mention handsome, men I know. 

   (かれはもっとも親切で知的な人間の一人だ、ハンサムであることは言うまでもないが、わたしの知る限りで。)

cornucopia /ˌː.njʊˈkəʊ.pi.ə/ /ˌːr.njəˈkoʊ-/ noun [ S ] formal
a large amount of something; a great supply
The table held a veritable cornucopia of every kind of food or drink you could want. 

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 「psychological complexs」について説明しておかなければならない。
 心理学上のコンプレックスとは、潜在意識下に抑圧されている感情や情動で、現実の行動に強い影響力をもつ。こうした意識の構造をはじめて取り上げ、精神分析学の基礎を築いたのはフロイトである。この分野ではその異端の弟子のライヒに興味深い著作『セクシュアル・レボリューション』がある。1970年に初版が出ているが、新宿の本屋・紀伊国屋旧本店で手に取ってみて、興味がわいて買った。『ファシズムの大衆心理』も一緒に読んだ。他にも数冊ライヒ関係の本を読んだ気がする。雑誌「現在思想」か「情況」の特集号で採り上げられたことがあった。
 ヨーガには性的エネルギーをコントロールし、呼吸法と組み合わせて解放するスキルを学べるグループがいくつかある。現存する世界最古の経典と言われている「カーマスートラ」は具体的な性技解説書でもある。潜在意識で抑圧された情動ははけ口を求めて噴き出てくるから、適切に処理しないと、精神に強い影響が出てしまう。日本では古くは歌垣、そして盆踊りが重要な役割を果たした。歌垣は古事記にも出てくる。下川耽史著『盆踊り 乱交の民俗学』が風流や念仏踊り、盆踊りの歴史的な分析をしている。日本人はそのあたりの処理に実に長けていた。

*カーマ・スートラ:https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%AB%E3%83%BC%E3%83%9E%E3%83%BB%E3%82%B9%E3%83%BC%E3%83%88%E3%83%A9

(じつは仏教がこうした意識の階層構造を古くから指摘している。眼耳鼻舌身意の六識に加えて第七識として末那識があり、根源意識として阿頼耶識が存在しているという。瞑想によって意識の内部を探ることでとらえられたのだろうと思う。大数学者の岡潔先生はその書作の中で15識まで区別できると言っているから、意識は無限の階層構造をもっているのかもしれぬ。)
 人間は抑圧された潜在意識に支配されて行動するから、理性の作用なんてほとんどの人間にとってはじつにもろいものなのである。
-----------------------------------------------

 ①と③は補足説明の関係節を伴なっている。②は挿入句である。
①「現代の結婚を特徴づける度々繰り返される不信」
②「子どもも大人も共に害を被っている心理学上のコンプレックスについては言うまでもないことだ」
③「生物学的ソフトウェアと相容れない一夫一婦制」

 これらをつなぎ合わせて一つの文にしたらいい。以下はebisu訳である。
「古代共同体説によれば、現代の結婚を特徴づける頻繁な不倫や高い離婚率は、それが子どもから大人までが一様に苦しむ潜在意識下の情動の抑圧すなわち心理学的なコンプレックスにあることは言うまでもないが、人類が己の生物学的なソフトウェアと相容れない核家族や一夫一婦制の関係の中で暮らすことを強いられてきたことから生じているのである。」

 比較できるように翻訳者の柴田さんの訳文を引用しておく。
この古代コミューン説の支持者によれば、大人も子供も苦しむ多様な心理的なコンプレックスはもとより、現代の結婚生活の特徴である頻繁な不倫や、高い離婚率はみな、わたしたちが自分の生物学的ソフトウェアとは相容れない、核家族と一夫一婦の関係の中で活きるように強制された結果だという。」『サピエンス全史』61頁


 この段落は精神分析学の潜在意識(=コンプレックス)を扱っているので、そのあたりの知識がなければ書いてあることを理解するのはむずかしい。

 農業革命以前の数万年のセックス観が人類の潜在意識に刻まれており、それが現代の一夫一婦制関係での暮らしのなかで心理的な葛藤を生んでいるというのがハラリが紹介する「古代コミューン学説」なのだろう。
 古代コミューンでは、女たちは日常的にたくさんの男たちとセックスした。妊娠すればますますそうしたのである。強い男や利口な男を選び何度も何度も番(つが)うことが、強くて賢い子孫を残せるし、関係したオスたちが育児に協力してくれることになるのである。子どもや女の気を惹きたくて美味しい食べ物も優先的に持ってきてくれる。
 現代に即して言うと、身体の強靭な、そして賢く、お金儲けの上手な男を女たちが求めるということになろうか。何万年も受け継がれてきた潜在意識が現実の行動を支配しているから、性行動が旺盛な女たちがたくさんいて何の不思議もないのであり、裏を返すと、それに応じる男たちがたくさんいる、よって従って、世に不倫の種は尽きまじということ。潜在意識の情動を抑圧しすぎると精神に異常をきたす場合がある。どちらを選ぶかってこと、肉体と精神が健康な人間が浮気しないなんてもともと無理かも。(笑) 
 源氏物語、枕草子、和泉式部日記、…丹念に古典を読んでごらんなさい。じつに自由でおおらかになにをいたしてます。高校の教科書は肝心かなめの部分には触れない。男女の仲の面白い所だけピックアップして授業で採り上げたら、きっと興味津々で読めるので、生徒たちの古典の学力は大幅にアップするでしょうね。

 ところでハラリのSapiensはとっても面白いでしょ!

*

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セクシュアル・レボリューション―文化革命における性 (1970年)

セクシュアル・レボリューション―文化革命における性 (1970年)

  • 出版社/メーカー: 現代思潮社
  • 発売日: 2020/07/11
  • メディア: 単行本
ファシズムの大衆心理 (上)

ファシズムの大衆心理 (上)

  • 出版社/メーカー: せりか書房
  • 発売日: 2020/07/11
  • メディア: 単行本
リンボウ先生のこの本を読めば、古典に対する認識ががらりと変わるかもしれませんよ。高校生も専門学校生も大学生もぜひ読んでください。
古典文学の秘密 (光文社文庫)

古典文学の秘密 (光文社文庫)

  • 作者: 林 望
  • 出版社/メーカー: 光文社
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「いみじうねぶたしとおもふに、いとしもおぼえぬ人の、おしおこしてせめてものいふこそいみじうすさまじけれ」
 ひどく眠たいと思っているときに、まあさして親しくも思っていないひとが、むりやり起こして、しきりと話しかけてくる、なんてのは本当に興ざめ至極。31頁
 どういうシーンかは想像したらいい。清少納言はうっかり読み飛ばしそうな所にも、含蓄の深い句を挟んでいる。
リンボウ先生のうふふ枕草子

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  • 作者: 林 望
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2009/03/19
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いい男とはどんな男か、具体的に解説されています。清少納言の筆は鋭い、彼女は愉しい恋をたくさんした人のようです。
すらすら読める枕草子

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  • 作者: 山口 仲美
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2008/06/27
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源氏物語を原典で読むのはかなりの知識を要するから、現代語訳で読むことをおススメしたい。林望先生のものが品があって好い。文庫本で出ています。
謹訳 源氏物語全10巻完結セット

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  • 作者: 林 望
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2013/06/10
  • メディア: 単行本

本棚をさがしたら、昭和56年(1981年)版のものがありました、たぶんそのころ購入したのでしょう。値段がずいぶん高くなっています。
カーマスートラ (インド古代性典集)

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盆踊り 乱交の民俗学

盆踊り 乱交の民俗学

  • 作者: 下川 耿史
  • 出版社/メーカー: 作品社
  • 発売日: 2011/08/19
  • メディア: 単行本
弊ブログ#2812より
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 高橋克彦著『風の陣』は5冊あるが、何巻目かに天皇(女帝)が歌垣を催すシーンが描かれている。歌垣とは当時しばしば行われた乱交パーティであるが、天皇が宮中で女官も含めて自由に楽しめと言ったのは他に例がないのだろう。小説の中ではあるが、道鏡と夫婦になることのできなかった女帝が哀れだった。
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 本棚にはこのシリーズが5冊ある。全部読んだと思っていたが、他に一冊どこかにあるのかも。
風の陣【立志篇】

風の陣【立志篇】

  • 作者: 高橋 克彦
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2012/09/14
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#2395より引用
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 黒岩重吾に『弓削の道鏡』という作品がある。その下巻383ページに歌垣の場面が描かれている。余命幾何もない称徳天皇(女帝)が命じて歌垣を催させる。この歌垣のことは『続日本紀』にも記述がある。
     --------------------------------------
 歌垣は春や秋の穀物の祭りから起こったもので、若い男女が歌を歌って踊り、気に入った相手を見つけ山野で媾合(まぐわ)うのである。
 由義宮での歌垣は女帝の要望で行われた。河内に住む渡来系の氏族、藤井・船・津・文・武・生(ふ)・蔵の六氏から選ばれた男女が、麻の疎目(あらめ)の布を山藍で青く摺染めにした衣服を纏い、長い紅の長紐を垂らし、歌い踊った。六氏から選ばれた男女は二百三十人だった。
 道鏡と女帝は急造の楼観から歌垣を眺めた。歌垣には、これまで女帝が知らなかった人間の生命力が、華やかさの中に溢れていた。まさに人間賛歌である。女帝は歌垣に酔い、五位以上の官人、内舎人、また女の孺(めのわらわ(=幼い子の意))と呼ばれている女帝に仕える女官達にも、歌垣に加わるように命じた。
「皆人間に戻るのじゃ、身分や誇り、また羞恥心は捨てよ、気持ちと身体のおもむくまま歌い、踊るのじゃ、気が合えば媾合って構わぬ」
女帝は顔を紅潮させて叫んだ。
 この歌垣には、また女帝の要望で歌人が作った歌が歌われた。

 乙女らに 男立ちそひ 踏みならす 西の都は 万代(よろず)の宮
 淵も瀬も 清くさやけし 博多川 千歳を待ちて 澄める川かも

『続日本紀』にはニ作しか記していないが、もっと多くの歌が歌われたであろう。・・・
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弓削道鏡〈上〉 (文春文庫)

弓削道鏡〈上〉 (文春文庫)

  • 作者: 黒岩 重吾
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1995/06/10
  • メディア: 文庫
弓削道鏡〈下〉 (文春文庫)

弓削道鏡〈下〉 (文春文庫)

  • 作者: 黒岩 重吾
  • 出版社/メーカー: 文藝春秋
  • 発売日: 1995/06/10
  • メディア: 文庫

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#4278 Sapiens(34th):page 45 ☆ June 28, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

 原書講読授業の生徒は最近学校の補習(物理と化学)に参加しているので、塾へ来るのが6時を過ぎることがあり、Sapiens授業時間が少なくなっている。金曜日(6/26)に質問はなかったが、「第3章 失楽園のアダムとイブ」の第2段落にてこずっていた。章が新しくなると新しい語彙がキーワードとして繰り返し出てきて、その語彙を中心にハラリのユニークな視点や既存の学説が導入され、前章と論理的なつながりをもって展開されるので、冒頭の数段落はしんどくなる。今回のキーワードは進化心理学である。

 今日は材料としてまな板に載せる生徒の質問はない、ただ、Sapiensの面白さが伝えられたらと思ってタイピングしている。
  前に投稿があったが、根室と同程度に僻地である道内のどこかの町で勉強している高校生が弊ブログのSapiensシリーズを読んでくれているようだから、そういう人たちへ向けて書いてみようと思う。

<45.1> The flourishing field of evolutionary psychology argues that many of our present-day social and psychological characteristics were shaped during this long pre-agriculture era. Even today, scholars in this field claim, our brains and minds are adapted to a life of hunting and gathering. Our eating habits, our conflicts and our sexuality are and the result of the way our hunter-gatherer minds interact with our current post-industrial environment, with it mega-cities, aeroplains, telephones and computers. This environment gives us more material resouces and longer lives than those enjoyed by any previous generation, but it often makes us feel alienated, depressed and pressured. To understand why, evolutionary psychologists argue, we need to delve into the hunter-gatherer world that shaped us, the world that we subconsciously still inhabit.


 センテンスは5つ、中身が濃くて面白そうだから一つずつ取り上げてみる。

(1) The flourishing field of evolutionary psychology argues that many of our present-day social and psychological characteristics were shaped during this long pre-agriculture era.

 23 words. 文型は第Ⅲ文型だから簡単だが、日本語にしにくい部分がある。「The flourishing field of evolutionary psychology」が主語だがofが悩ましい。
 flourishing:growing or developing successfully

 少し脱線して「evolutionary psychology(進化心理学)」について触れておきたい。
*wiki 進化心理学より
https://ja.wikipedia.org/wiki/進化心理学
-----------------------------------------

進化心理学(しんかしんりがく、英語:evolutionary psychology)とはヒトの心理メカニズムの多くは進化生物学の意味で生物学的適応であると仮定しヒトの心理を研究するアプローチのこと。適応主義心理学等と呼ばれる事もある。

人間行動進化学会は、進化心理学を「社会学と生物学の視点から、現代的な進化理論を用いて、感情、認知、性的適応の進化などを含めた人間の本性を解明する学際的な学問」と位置づけている[1]。研究対象には感情、認知などの他、宗教道徳芸術、病理なども含まれる[2]

進化の視点はほとんどの認知科学者に受け入れられており、進化心理学者とそれ以外の認知科学者の境界は曖昧である。したがって本項ではふつう進化心理学者とは見なされない人物の見解についても言及する。言語の起源芸術宗教の起源の探求は進化心理学に含められることがあるが、それは(コスミデスらが定義したような)狭義の進化心理学よりも進化人類学に近い。
...

進化心理学者は仮説構築のためのメタ理論として一般的に次のような前提を置く[5]

  1. 体の器官はそれぞれ異なる機能を持っている。心臓はポンプであり、胃は食物を消化する。脳は体の内外から情報を得て、行動を引き起こし、生理を管理する。したがって脳は情報処理装置のように働く。脳も他の器官と同様、自然選択によって形作られた。進化心理学者は心の計算理論を強く支持する。
  2. ヒトの心と行動を理解するためにはそれを生成する情報処理装置を理解しなければならない
  3. 我々の脳のプログラムは主に狩猟採集時代の経験と選択圧によって形成された
  4. そのプログラムが引き起こす行動が現在でも適応的だという保証はない。
  5. 恐らくもっとも重大な点は、脳は様々な問題に対処するために多くの異なるプログラムを持つ。異なる問題は通常、異なる進化的解法を必要とする。このプログラムの一つ一つが臓器と見なすことができる。
  6. 心のプログラムは我々の経験を再構成し、判断を生成し、特定の動機や概念を生み出す。また情熱を与え、他者の振る舞いや意図の理解に繋がる文化普遍的な特徴を与える。そして他の考えを合理的である、興味深い、忘れがたいと感じさせる。プログラムはこうして人間が文化を創る基盤の役割を果たす。

進化心理学は次に、心のプログラムを発見し、理解するために適応主義アプローチと呼ばれる手法を用いる。適応主義者は種普遍的に見られる特徴が生物学的適応、すなわちそれを持つ個体の生存と繁殖成功に寄与したために広く見られるのだと仮定し、仮説を構築する。その仮説は実際の検証を経て受け入れられるか棄却される。 

-----------------------------------------

  本を読むのに周辺知識は不可欠である、ハラリは進化心理学について知識があって、それをベースとして自説を展開している。ハラリがこの章で問題にしているのは箇条書部分、太字にした3と4と5と6である。これらを脳裏に置いて読んでもらいたい。

 本文に戻ろう。主語のThe flourishing field of evolutionary psychology」を「進化心理学の成功した分野」と訳出したのでは日本語として意味をなさぬ。
 スーパーアンカーでofを引くと図を用いて解説している。最近は前置詞のもつ空間的な関係イメージをイラストで説明してくれる辞書が増えている。この辞書もとってもわかりやすい。認知論的なアプローチである。高校生にはジーニアスよりもスーパーアンカーなどのようにイラストで単語のコアイメージの解説のある辞書が便利だろう。

SSCN3611.JPG

 ofの基本イメージは円全体の一部分(赤の部分)なのです。円全体が進化心理学だとすると、その中の巧くいっている部分が赤で示された分野ということ。「進化心理学で広く学者たちに認められている部分、いくつもの論争を経て、ここは確からしいと思われている部分」を指しているのでしょう。こんな長い訳ではいけませんね。(笑)
 「進化心理学で理にかなっていると思われる学説(field)によれば、現在のわたしたちの社会的心理学的な性質はこのような長い農耕前、つまりは狩猟採集時代を通じて形成されたものである。」

 an (or the) A of Bは「AのようなB」という用法、つまりAを形容詞的に訳す場合もある。
 an angel of a woman (天使のような女性)
 an brute of aman(ケダモノのような男) 

(2)  Even today, scholars in this field claim, our brains and minds are adapted to a life of hunting and gathering.


  20 words.標準的な長さの文である。挿入句を[ ]で括り、並び変えてみよう。

(2)' [scholars in this field claim,] our brains and minds are adapted to a life of hunting and gathering even today. 

「この学説を支持する学者によれば、現在ですら、わたしたちの脳や心は数万年続いた狩猟採集時代の生活に順応したままなのである。」 

(3)  Our eating habits, our conflicts and our sexuality interact with our current post-industrial environment, with it mega-cities, aeroplains, telephones and computers.
「わしたちの食習慣や諍い(いさかい)やセックスにかかわる問題は、現在の脱工業化社会、巨大都市、飛行機、通信手段、コンピュータとの軋轢から生じinteractている。」

 32words。心は狩猟採集の暮らしをしていた農耕以前の数万年のままなのに、わたしたちは産業革命による工業化社会を通り過ぎて、すでに脱工業化社会へ突入し、草原や森での生活を離れて、巨大都市に住み、スマホをもち、飛行機で移動し、パソコンを使って暮らしている。心や精神というソフトウェアのOSは数万年前のままなのに、アプリケーションは日進月歩、追いついていないという話である。


(4) This environment gives us more material resouces and longer lives than those enjoyed by any previous generation, but it often makes us feel alienated, depressed and pressured.

  28 words. 無生物主語の文です。
 those=material resouces、it=this environment
「このような環境が/わたしたちにたくさんの資源と長寿を提供している/他のどの世代も享受したことのないほどたくさんの物質資源を/しかし、このような環境はしばしば私たちに疎外や鬱や圧迫を感じさせる」
 こんな訳で十分です。

「このような環境のお陰で、わたしたちは現在のサピエンス以外のどの世代も享受したことのないほど豊かな物質的資源を享受してはいますが、他方で疎外や気力の喪失や圧迫も感じているのです。」


(5) To understand why, evolutionary psychologists argue, we need to delve into the hunter-gatherer world that shaped us, the world that we subconsciously still inhabit.

 delve: to search, especially as if by digging, in order to find a thing or information
She delved into her pocket to find some change.
 inhabit: to live in a place
These remote islands are inhabited only by birds.



(5)' ① we need to delve into the hunter-gatherer world that shaped us [to understand why].
      ② the world that we subconsciously still inhabit.

「わたしたちは調べる必要がある/わたしたちを形作った狩猟採集の世界を/なぜかを理解するために」
「わたしたちの潜在意識がいまだに住んでいる狩猟採集時代の世界を」

 24 wordsの文ですね。滑らかな訳文にしてみます。
「なぜこのようなことが起きているのかを知るためには、あの数万年にわたる農耕以前の狩猟生活、すなわち潜在意識がいまだに住んでいるかの狩猟採集の時代へとさかのぼり実際にどうであったのか調べる必要がある。」

 現代社会の諸制度、中でも一夫一婦制には無理がある。男たちが何人もの女たちと不倫し、女たちが浮気をしたくなるのは無理がないのだ。Sapiensの歴史のほとんどの期間にわたって、つまり狩猟採集の時代は集団の中でセックスはオープンだった。優良な子孫を残すため、そして多くの男たちの保護を得るために、メスは有力な雄を選んで片っ端からセックスしていたのである。セックスをしたオスたちは自分の子どもかもしれないので、自分が番(つが)ったメスが子どもを産むと子育てに協力する。協力してくれるオスが多いほど子孫を残すためには有利。
 脳は数万年前のままで、社会制度のほうは狩猟採集生活をしていた時代にはなかったさまざまな規制を加えている。そこに軋轢が生じてinteractいるというのが、進化心理学の有力な学説。
 面白いでしょう?ハラリのSapiensの続きを読みたくなりませんか?

 今年の大学受験にはハラリの著作から4校で問題が出題されたというが、来年はもっと増えるかもしれません。期待していいでしょう。

<余談:幸福感>
 読んでくれる人が遠隔にもいるのはうれしいものだ。そちら側から見るとわたしはリモートワークをしているわけだ。コロナ騒ぎが始まる半年前からやっていたことになる。ZOOMもいいけどこういう方法もある。「英作文千本ノック」もリモートワークと現実の授業の組み合わせでできている。やって来れば、生徒が書いた英文一つ一つを丁寧に検討して、個別指導授業で英文の書き方のコツを教えられる。解説もメール配信しているから、そちらを読んでくれてもいい。
 目の前の生徒に教えつつ、同時に遠隔地で学ぶ高校生や大学生や社会人ともつながっていく。とっても幸せなことだね。幸せはそれぞれの人の足元にちゃんとある。わたしはやりたかったことの一つをいままさにやりたいようにやっている。(笑)



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