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#4925 「複素数平面」の重要性:高校数学 Feb. 12, 2023 [53. 数学四方山話]

オイラーの公式という有名な等式があります。
  e^iθ=cosθ+isinθ
 eはネイピア数。自然対数の底として数Ⅱでちょっとだけでてきます。
 この公式にθ=π(パイ)を当てはめると、
  e^iπ=-1

 指数関数と三角関数と超越数のπが、複素数の世界ではこういうシンプルな関係式が成り立ってしまうのは何とも不思議です。指数関数が三角関数で表現できてしまうなんともすごいことになっているのです。神が数学の世界をデザインしたとしか思えません。

 高校数学では数Ⅲの複素数平面の章で複素数と三角関数の関係が扱われていますが、複素関数は大学で扱われます。定義域の複素数平面から値域の複素数平面ωへの対応ですから、グラフに落として理解するなんてことができないので、具体的なイメージがなかなかつかめません。高校数学で、グラフイメージを手掛かりに、学んできた学生はここで試練に遭うことになります。

 とはいえ、高校で扱われる複素数平面は初歩的なものですから、複素数平面座標を利用して理解できます。オーソドックスな高校数学の関数の方法論が通用する世界です。

 複素数同士の掛け算は、絶対値の掛け算と極座標での「角度の足し算=回転」になります。割り算も成り立ちます。もちろ絶対値の割り算と同時に角度の引き算になります。指数計算によく似ています。累乗は指数部の掛け算に、掛け算は指数部の足し算に、足し算は指数部の引き算に...という具合に。

 高校数学は複素数平面から面白くなるのですが、数Ⅲの範囲なので理系大学志望の生徒しか履修していません。もったいないですね。高校数学で複素関数まで扱ってほしいとは思いませんか?
 数学の得意な生徒は普通科だけではありませんよ。簿記は特殊数学の分野でシステムが美しい、だから商業科の優秀な生徒は、理系コース選択の生徒と同じくらいに数学能力も高いのです。
 わたしの母校の根室高校では毎年数Ⅲ選択は毎年十数人(普通科120人中、商業科40人、事務情報科40人の定員、合計200人)だから、複素平面の面白さを知らずに卒業する生徒がほとんど。

 日本の産業、特に情報産業を支えるには、優秀な理系人材が不可欠ですが、1割以下しか数Ⅲを履修できないというのは長期的な教育戦略を考えるときに由々しき問題です。
 文系志望の生徒も、能力の高い生徒は数Ⅲは履修しておいた方がいいのです。経済学や統計学では数学の素養がないと研究の幅が極端に狭くなります。高校で行列式をやっていないと線形代数を理解するのは困難ですが、昔は数Cの分野で高校で教えていましたが、現在は消滅しています。原価計算だって適正在庫の計算問題で微分方程式が出てきます。だから、商業科の生徒にも数Ⅲ程度の数学は不可欠なのです。日商簿記一級合格レベルの高校生は原価計算の分厚い専門書も読むでしょうから。

 日本企業が地盤沈下しているのは理由のあることのように思えます。微分積分も重要ですが、複素数平面は三角関数と指数関数と複素数を結びつける重要な章であり、数学への強い好奇心を育む分野であるから、もっと重要性が高いと思います
 文科省の官僚はそのほとんどが文系出身者ですから、こういうところへ目がいかないのはとても残念なことです。日本人がとくに優秀な分野は文学と数学です。日本の古典文学は宝庫です。江戸時代に日本人の識字率が高かったことが影響しているのでしょう。読み手がわんさかいなければ質の高い文学は育ちません、江戸期の識字率は圧倒的に世界最高でした。日本へ来た外国人たちが目撃して多数書き残しています。町の貸本屋の店の前で本を読んでいる女の子がいるなんて、ヨーロッパ人には信じられないことでした。たとえば、書き言葉のドイツ語が成立したのは、マルチン・ルターの聖書のドイツ語訳ができたとき(16世紀)ですから、それまでは書き言葉としてはラテン語ですので、僧侶や貴族しか読めません。庶民が、それも子どもが貸本屋の店先で、本をむさぼり読んでいるなんて信じられない光景で、だから書き残しています。ペリーも驚ろいて書き記しました。
 数学は和算が発達しています。江戸期に私塾が30000もありました。難解な問題を出し合って競って解いて遊んでいました。むずかしい問題を解いたときには、絵馬にして神社に奉納しているので、残っています。知的な遊びの大好きな国民性は、江戸期に培われたものと思います。

 日本人や日本の企業が国際競争力を高めるには、数学教育にもっと力を入れる必要がありそうです。文系出身の文部科学省の官僚は残念ながら英語に目が行ってしまい、数学教育に関心が薄いのはモノの道理でしょうね。視野の広い官僚の一人がそのうちに気がついてくれるでしょう。密かに期待しています。

*複素平面


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新装版オイラーの贈物: 人類の至宝e^iπ=-1を学ぶ

新装版オイラーの贈物: 人類の至宝e^iπ=-1を学ぶ

  • 作者: 吉田 武
  • 出版社/メーカー: 東海教育研究所
  • 発売日: 2021/01/29
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πとeの話―数の不思議

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  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2008/09/25
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教科書だけでは足りない大学入試攻略複素数平面 (河合塾シリーズ)

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  • 作者: 西山 清二
  • 出版社/メーカー: 河合出版
  • 発売日: 2018/03/28
  • メディア: 単行本
 簿記もそうだが、数学も鉛筆もって問題解くのが一番いい。眺めただけでは芯のところが見えてきません。

<HP社のプログラムのできる計算機>
 複素数の計算ができる計算機があります。HP35sです。20年ほど前に購入したときには10000円ほどでしたが、いま29,580円です。青字をクリックするとamazonの該当ページへ飛びます。
 便利ですから使ってみてください。わたしはこれでHPのプログラマブル・キャリュキュレータは5台目だったかな。1978年から45年間使い続けています。数値プログラミングが簡単にできます。逆ポーランド方式(RPN)です。
 amazonで取り扱っています。

 ●HP-67&HP-97(プリンタ付き)⇒1978年
 ●HP-41cx ⇒1984年
 ●HP-49g ⇒1999年
 ●HP-35s ⇒2009年5月

 HP-97は1978年当時22万円でした。HP-67はその半額の11万円。オーナー社長の関周さん(産業用エレクトロニクスの輸入商社「関商事」のちに「セキテクノトロン」に変更し上場、2010年頃業績不振で他者へ吸収合併され上場廃止)が、仕事で必要なので入社1か月目くらいにプレゼントしてくれました。経営改革のために経営分析で推計計算や相関分析に線形回帰分析を多用していたからです。電卓で一日がかりの計算が、プログラミングすることで30分で終わるようになりました。うれしかったと同時に、コンピュータを使うことで生産性が飛躍的にアップできることを体験できました。入社1週間後に5つのプロジェクトを任されました。メンバーのほとんどが社長や取締役なので、プロジェクトの仕事するのはわたしだけ、3年間他のメンバーは報告を聞くだけでした。(笑)
 経営分析委員会、資金投資委員会、為替対策委員会、電算化推進委員会、長期計画委員会の5つでしたが、利益重点営業委員会の方も円定価システムをつくる相談を担当者であった東京営業所長から受けたので、そちらも半分わたしの仕事になりました。お陰で、3年間でスキルが飛躍的にアップしました。ありがたかった。分析して、問題点を挙げ、同時に改善案をつくり、説明して実施。ほとんどがシステム開発案件になりました。オービックとNECのトップレベルのSEと6年間じっくりお付き合いさせてもらいました。一緒に仕事するとトップレベルのSEのスキルをコピーできます。ありがたかった。
 HP-41cとHP-35sはいまも使っています。HP-49gはグラフィックディスプレイで、よかったのですが、3年ほどで壊れました。

 2009年5月30日に弊ブログで採りあげていました。
「HP-35s便利な道具」


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#4011 高専の新入生は数学ができない? Jun. 2, 2019 [53. 数学四方山話]

 昨日のことだが、「釧路の教育を考える会」の総会へ出かけたら、10分ほどはやくついた。還暦高専生として北海道新聞をにぎわしたT木さんと釧路高専の卒業生であるM木さんがある問題について議論していた。話題は分数式、新入生であるT木さんの同級生たちに分数式が解けない者が多いと言っていた。数学の授業では教える方のアシストに回っているらしい。例えば次のような問題が解けないというのである。


      2   
    x-1     
  1+   1 
       x-1
  
 これは二人がまな板に載せていたものよりも複雑な繁分数式で、『WIDE数学Ⅱ+B』の「問題34」から転載した。中学生がやるのは整式のみで、分数式は高校2年で教えることになっている。先週、この個所をやっていた。
 分数の中でも2階建てになっているものを繁分数というが、この問題を説明なしにできたのは、学年トップの生徒のみ。おそらく根室高校2年生全部でみても3人くらいしかいないだろう。2月の進研模試で学年3位、4位、5位の生徒からはこの問題の解説要求があった。理由を考えてみたい。

 なぜ学年トップの生徒が難無く解けたのかというと、繁分数を小学生の時に教えているからという単純な理由に行きつく。東京渋谷の進学塾で四十数年前に3年間だけ教えたことがあるが、有名私立中学受験の生徒全員に教えていた。根室では中学受験がないので、教えないようだ。こういうところも都会と田舎の指導の差がある。教えちゃえば差は雲散霧消する。小学校の算数の指導の際にどこまで意識して教えるかということだけ。
 繁分数は「内々分母の外々分子」と教え、一つおきに約分ができることも、なぜそうなるかについても解説している。小学校や中学校の学習指導要領の範囲を超えているが、できのよい小学生ならちゃんと理解できる。
 学年トップの生徒は、数字を文字式に置き換えて、「拡張」することに中1の問題集をやったときに慣れているから、いままで知っている知識を動員して同じ計算規則を適用して解いてしまうのでこの分数式が全部が異なる文字で構成されていても何の問題もない。小学校のときに習った繁分数と同じものにみえるだろう。小学校のときに習った「繁分数」が高2になって独力で「繁分数式」へ拡張できる。計算規則や概念の拡張に慣れることを指導の重要な目標に据えているかどうかで高校生になってからの学力の伸びに差がでてくる。

 かりに、高専新入生の半数がこのような繁分数式が解けないとしたら、その理由は繁分数を小学生の時に単に習っていないから。入学してから放課後1時間時間をとって教えてやればいいだけ。こういうふうに中学校と国立高専の間でエアポケットになっている項目が他にもないか、生徒の様子を観察していれば見逃すことはないだろう。授業は観察でもある。教師は生徒を観察することでいくらでも教え方を学ぶことができる。


 心配なのは計算規則の拡張が高専へ入学した時点ではまだ独力でできていないということだろう。高校数学では平面座標で習ったことがベクトル平面やベクトル空間へと拡張され、cosを使って内積が定義される。関数も一次関数、二次関数、三次関数、指数関数、対数関数、三角関数、微分や積分へと拡張がなされる。実数から複素数への数の拡張もあるし、複素平面への拡張すらほんの一部ではあるがでてくる。新しい概念が次々に導入されさまざまなところで、それまでの計算規則や概念の拡張がなされ、それぞれの分野で定義しなおされていく。だから、計算規則の拡張ぐらいは高校入学前に独力でできるようにしておきたい、その後の学習効率を飛躍的に高めることになる。
 そのあたりを意識したら、小学生への算数の教え方も、中学1年生への数学の教え方も違ってくるのはあたりまえ。

 中学数学でならわない分数式は高専へ入学した時点で、高専側で分数式の放課後補習をすればいいだけ。こんなところで躓いていたら、釧路高専は赤点が60点だそうだから、留年者が続出することになる。近年、留年や退学が増加していると数年前から関係者の間から懸念の声が聞こえていた。
 ほかにも中学までに習っていない項目がないかチェックして対処すれば、夢を希望を抱いて釧路高専に入学してきた生徒たちが、得意だったはずの数学で脱落することなく卒業できるのではないだろうか。
 T木さんと同じクラスではないようだが、ニムオロ塾からも四月に釧路高専へ入学した生徒がいる。一生懸命勉強してめでたく卒業を迎えてもらいたい。
 釧路高専卒の一級建築士のS元さんはM木さんよりも2つぐらい下だと思うが、この二人に年上の後輩ができたと大笑い。
 道東にたった一つの国立釧路高専をみんなで応援したい。

(T木さんは釧路市教委の元釧路学校教育部長である。自身が開発した「なちゅろうどく」という音読システムを、システムやハードの勉強を基礎からすることで世の中に広く受け入れられる商品にして学力向上の起爆剤にしたいという大きな目標がある、そのために釧路高専へ還暦で入学した。いま高専柔道部と空手部に所属。柔道は初段だが、実力は五段ほどありそう。空手は極真空手でこれも大人の部では猛者。とんでもない異色の新入生が入学したものだ、先生たちはさぞかしご迷惑にちがいない。)


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#3758 複素関数(2):e^iπ=-1を電卓で計算してみた  June 18, 2018 [53. 数学四方山話]


 HP社のプログラム機能付き科学技術用計算機を40年間使っている、5台目である。プログラミングができる優れもので使い勝手がいい。
 現在使っているのは1984年に購入したHP41cと12年ほど前に購入したHP35sの2台である。
 
HP35sには複素数の計算機能がついているが、いままで使ったことがなかった。

 本屋に頼んでいた本が届いた。FB上での「お友達」であるS口さんおススメの一冊。

『オイラーの贈り物 人類の至宝 e^iπ=-1 を学ぶ』吉田武 東海大出版部 

 タイトルを見て複素数機能を使ってみた。
 iとπ(pi)を入力して「×」キーを押すとxレジスターに結果が表示される、次いで「e^x」のファンクションキーを押したら、慥かに「-1」が計算された。
 こんなに小さなことで、当たり前のことでも、素直にうれしい。

 この本は500頁あるが、理解を深めるための演習問題が満載である。8桁の関数電卓を使って問題を解くように指示があるが、HP35sは12桁の精度で計算してくれる。この本はオイラーのさまざまな業績をテーマに、分野横断的に数学全体の見通しを与えてくれそうで、じつにありがたい本である、こういう本を探していた。

 数学や物理が好きな高校生諸君は、HP35sを片手に、問題を解いてみたらいい。こんなにハイパワーなのにたった1万円ほどで買える。


<HP社製科学技術用計算機との40年の付き合い>
 1978年に初めて手にしたのがHP67だったが11万円だった。それの統計パックや数学パックを購入したらそれぞれ2万円くらいしたから、15万円もしたのだ。自分で買ったのではない、中途採用1か月目に社長からのプレゼントだった。役員全員と部長職、3人の課長職をメンバーに経営改革のための6つのプロジェクトが発足し、そのうち5つの実務は入社早々のわたしに任された。経営分析のために何時間も電卓をたたいて統計計算しているわたしを社長の関さんが見かねたのだろう。2か月後にデータチェックが簡便にできるように感熱式プリンタ付きのHP97をいただいた。その会社は産業用エレクトロニクス輸入商社で、2代目の関周さんが社長。米国出張のついでに買ってきてくれたのである。慶応大学大学院経済学研究科で学んだ異色にの二代目でした。

 HP97はプリンター付きの卓上型で当時22万円もしました。大卒の初任給が10万円ほどの時代です。最初の1台は中途採用された1か月後、2台目は3か月後の12月でした。自社の経営分析と経営改革案の作成に、データの統計解析が必要だったので、数十ステップから250ステップほどのプログラミングをいくつも作りました。プログラミング機能を使うことで計算時間が1/10以下になりました。プログラミング機能のない関数電卓とは大違いです。この計算機でのプログラミングになれたおかげで、社内に導入されていたオフコンのプログラミングもすぐに習得できました。ダイレクトアドレッシング、12ケタの数字で構成されたおもしろいプログラム言語でした。オペコード3桁、オペランド3個×3桁。その1年後にはオフコンの次の機種でコンパイラー言語でした。IBM機でいうとRPGⅡと類似の言語です。事務系のオフコンは計算機能が極端に弱いことがわかりました。大きなデータを使って統計計算をするには、汎用小型機からデータ転送して当時は4000万円もするミニコンを使うしか方法がありませんでした。オフコンは四則演算のみ、関数機能がほとんどないのです。
 種類の異なる言語に触れたことはありがたかった。担当SEもオービックのトップレベルのSEだったので、彼の技術も一緒に仕事をしていたら自然に盗めました。SEとは職人仕事なんだと実感しました。統合システムを開発するので三菱電機のオフコンを「卒業」し、NECの汎用小型機導入を決めたのは1983年でした。トップレベルのSEを担当させるという条件を社長がつけてくれました。T島さんが来て半年ほど一緒に仕事しました。彼の実務設計の要求がきつかったので要求に応えているうちにこの人の技術も盗めました。仕事のできる人と一緒に仕事する機会が与えられるのは幸せです。2度の経験で、プログラミングも、プログラミング仕様書も外部設計書も、実務設計も独力でできるようになりました。その後1984年に臨床検査最大手SRLの上場準備要員として採用されましたが、輸入商社でのシステム開発経験がさらに大きな規模で生きることになります。

 数学は自分で問題を解いてみないとなかなか理解できません、だからこれらの本を読み、問題を解く上で科学技術計算用計算機が役に立ちます。40年前から、この科学技術用計算機分野ではHP社が世界最高峰。

 ちなみに、この産業用エレクトロニクス輸入商社は戦後にHP社の日本総代理店として出発しています。初代は三井合同の幹部社員で、財閥解体で部下の首切りをやらなければならない立場でした。首を切った後に自ら職を辞し、初代は起業したのです。昔は社員の首を切らざるを得ない立場の人は、その仕事が終わると自ら職を辞したものです。そういう覚悟がなければ社員の首を切る仕事は引き受けられません、それが人としての矜持です。
 HP社の日本総代理店をやることができたのは、初代がヒューレットやパッカードとスタンフォード大学で一緒に学んだ縁からです。いい会社にいたと思います。
 関商事は店頭公開してセキテクノトロンと社名を変更、東大出の3代目に変わってから業績不振で2010年ころに上場廃止と同時に他社へ吸収合併されました。わたしには5年間一緒に働いた
社員たちがどういう運命をたどったか気がかりです。

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オイラーの贈物―人類の至宝eiπ=-1を学ぶ

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#3756 複素関数(1):e^iΘ=cosΘ+isinΘ June 17, 2018 [53. 数学四方山話]

 e^iΘ=cosΘ + isinΘ
 言わずと知れたオイラーの公式である。指数関数が三角関数で表現できる、橋渡しをしているのは無限級数である。こういうことは高校数学では習わないが、高校数学を一段高い地平から眺めて、統一的な視点を確保するのは無駄ではない。なにより、このオイラーの公式は美しい。オイラーという人は無限級数オタクだったのではないだろうか。
 複素平面を使ったオイラーの公式の解説図を見つけたので、以下のURLをクリックしてご覧ください。
*https://upload.wikimedia.org/wikipedia/commons/7/71/Euler%27s_formula.svg

 この公式の両辺を2乗すると、三角関数の2倍角の公式が簡単に計算できる。高校2年生はオイラーの公式を知っていれば2倍角の公式を暗記する必要はないのだ。
 以下、『なっとくする複素関数』17ページより引用。
---------------------------------------------
 左辺に再びオイラーの公式を適用すると
 左辺=cos2Θ + isin2Θ
 右辺=cos^2Θ - sin^2Θ + 2isinΘcosΘ
 これら二つの式は等しいのだから、実部同士、虚部同士がそれぞれ等しくなければない。その結果として、倍角公式
 cos2Θ=cos^2Θ - sin^2Θ
 sin2Θ=2sinΘcosΘが得られる。
-----------------------------------------------

  暇なときに思い出して、紙に書きだしてみたらいい、3回もやれば手順が自然に頭の中に入ってしまう。この方式の面白いところは、拡張性が保証されていることで、3倍角も4倍角も計算の労をいとわなければ同じやり方で計算できることにある。

 数Ⅲで「複素数平面」がでてくるが、数学の中でその位置づけがよくわからなくてストレスだった。
 実数の世界から複素数の世界へ数が拡張されたらどんな世界が見えるのだろう?
 
これがわたしの素朴な疑問だった。
 学部は商学部会計学科、大学院での専攻は経済学、いわゆる「文系」である。マルクス資本論の体系構成に問題関心があったので数理経済学の素養はない、仕事は文系と理系両方の分野を行き来し、クロスオーバーする複合分野の仕事が多かったように思う。10代の後半にもっと幅広く勉強しておくべきだった。

 それでいまさらながらという感がぬぐえないのだが、複素関数論の本を読み始めた。
『なっとくする複素関数』小野寺嘉孝 講談社
『道具としての複素関数』涌井貞美 日本実業出版社

 ②の本によれば、量子力学は複素数の世界だという。著者はシュレディンガー方程式を例に挙げている。そこにはプランク定数も使われている。読みながら物理学者のN先生が数日前のFBに物理定数が揺らぐ可能性があると書いていたことを思い出した。

 物理学者の視点が面白い。
物理学では波動を扱うので、位相が互いに違う波を表記出来るのはとても便利


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なっとくする複素関数 (なっとくシリーズ)

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道具としての複素関数

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  • 作者: 涌井 貞美
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#3538 ∀n [ n≧3⇒∀x∀y∀z ¬(x^n+y^n+z^n] May 7, 2017 [53. 数学四方山話]

  標題は論理式であるが、何を意味しているかわかる人は数学科か哲学科を卒業した人だろう。
  三月から数理論理学や数学の本を読んでいるのは、論理式に不案内だと気が付いたから。高校数学Ⅰには「集合と論理」あるいは「命題と論証」という章があるから、教える方は数理論理学の大学教科書程度の本は読んで演習問題を解き視野を広げたほうがよい。大きな山は裾野も広い。

  今日はサイモン・シン著 青木薫訳『フェルマーの最終定理』(新潮社 2000年刊)を読んでいた。この本を読むのは3度目である。昨年10月に2度目に読んだ時には気が付かなかったが、翻訳者の青木さんは京大理学部卒業、同大学院修了の翻訳家、そして女性である。翻訳文の感じがやわらかいと思っていたが、女性だったのだ、数学の本だから翻訳者は男だと思い込んでいた。彼女は「訳者あとがき」に次のように書いている。

「もう一つ、本書の書き方でわたしが好感をもったのは、日本人研究者と女性研究者の取り扱いである。…また、女性研究者の取り上げ方も並々ならぬ好意的な(というより、正当な、と言うべきか)もので、同性としてうれしく思った。」・・・『フェルマーの最終定理』p.393

  谷山・志村予想の志村五郎先生と、翻訳作業中の1999年に京都大学の特別講義で出逢ったことがp.395に書いてある。


      ∀n [ n≧3⇒∀x∀y∀z ¬(x^n+y^n+z^n]

  『フェルマーの最終定理』にはそれを表す論理式が載っていない。フェルマーはこの難題を論理式で語ったわけではないからだろう。さて、どういう風に記述すればよいのだろうと手元にある本を調べてみたらあった。この論理式は松坂和夫著『数学読本6』p.1369からの引用である、「nが3以上の自然数ならば、方程式 x^n+y^n=z^n を成り立たせる自然数x,y,z は存在しない」ということを表している。n=2は三平方の定理だから、それが成り立つのは中学生にもわかる。ではn=3や4の場合にはこの方程式が成り立つのかという問題である。

  面白いもので、2か月ほど数理論理学関係のベーシックな本を3冊ほど読んでいたから、なるほどこう書くのかと合点がいった。論理式に慣れたようで、すんなり読めた。

  3月下旬に東京へ行き、本屋で小島寛之著『証明と論理に強くなる :論理式の読み方から、ゲーデルの門前まで』(技術評論社2017年2月刊)の本を見つけ、読んだ。前からゲーデルの不完全性定理が気になっていた。中学生の日本語音読テクストとして10年以上使用してきた藤原正彦著『国家の品格』(新潮文庫)にゲーデルの不完全性定理が載っていたからである。

「1931年にオーストリアの数学者クルト・ゲーデルが「不完全性定理」というものを証明しました。不完全性定理というのは、大雑把に言うと、どんなに立派な公理系があっても、その中に、正しいか正しくないかを論理的に判定できない命題が存在する」(『国家の品格』p.45)

  しかし、ゲーデルの証明を読んでもわかるはずがないと思い込んでいた。そんなことは数学者にしか理解できないと。
  3月下旬に東京へ行っていつものように本屋で暇をつぶしていたら、面白そうなタイトルの本を見つけた。小島寛之の『証明と論理に強くなる』である。この本は数理論理学の入門書であり、ゲーデルの不完全性定理の証明の入り口まで案内してくれると書いてあった。これ幸いと購入してすぐに読んだ。この本はゲーデル不完全性定理の入り口まで案内してくれるだけだから、そこから先は数理論理学の教科書を1冊やりとおしてから、ゲーデルの証明にトライしてみろということ。手順を踏めば、ゲーデルの不完全性定理の証明を理解することができるらしい。

 ゲーデル著 林晋・八杉萬利子訳『ゲーデル 不完全性定理』(岩波文庫 2006年刊)を読んでみたが、解説はわかるが、ゲーデルの証明そのものは論理式のオンパレードだから、数理論理学の教科書をしっかりマスターしないと理解できない。なかなか手強い。そういうわけで、いま2冊専門書を読んでいる。
  どちらも名著の復刊である、前原昭二著『記号論理入門』(日本評論社 2014年新装版)と松坂和夫著『集合・位相入門』(岩波書店 2016年第58刷)。『証明と論理に強くなる』では意味不明だった「⇒導入」と「⇒除去」の意味が『記号論理入門』ではよくわかった。
「仮定⇒証明⇒結論」と論証過程を分類すると、証明には仮定を含む必要がないので、「⇒導入」した仮定を「除去」するのである。論理図の演習問題も豊富にあるから、これを丁寧にやることで、論理図の書き方にも慣れてくる。時間はかかるが、演習問題を一つ一つ丁寧にやって、技術を身に着けていくのがいい。

  数学の論証とはユークリッド『原論』以来、現代数学の体系化を試みたブルバキ『数学原論』まで一貫して演繹システムである。ヒルベルトの『幾何学基礎論』も外すことができない。高校生や文科系大学の学生で好奇心の強い生徒諸君は、数学の世界に遊んでみたらいかが?
  数学のセンスが幾何(いくばく)かは必要です。受験数学という狭い範囲から出たら、景色が一変します。


<余談-1>
  ワイルズがフェルマーの最終定理を論証したのだが、著者のサイモン・シンは谷山・志村予想の証明のほうがより大きな快挙だとみる専門家が多いとを書いている。

「志村教授が自分の予想が証明されたことをはじめて知ったのは、『ニューヨーク・タイムズ』の第一面を見たときだった。ーー「数学界長年の謎に、ついに『解けた!』の声」。友人の谷山豊の自殺から三十五年目のことだった。谷山=志村予想が証明されたことは、フェルマーの最終定理が証明されたことよりもずっと大きな快挙だとみる専門家は多い。というのも、谷山=志村予想が証明されることは、他の多くの定理にとってとてつもなく大きな意義があるからだ。ところがジャーナリストたちはフェルマーばかりに焦点を合わせ、谷山=志村予想には軽く触れるだけーーあるいはまったく触れないーーことになりがちだった。」『フェルマーの最終定理』p.307

  翻訳者の青木が、サイモン・シンに好意をもったのは、国際舞台の場ではしばしば日本人研究者が、その業績の大きさに比して不当な扱いを受けることが多いのに、英国人の著者、サイモン・シンがちゃんと評価していたからだろう。

<余談-2>
  風が強いが、天気が良かったので、散歩(3180m)しました。昨日から首と肩の痛みがほとんどなくなっています。痺れを感じることがありますが、こころで抗わぬように、痺れや痛みをそのまま受け入れるように変えました。痛みや痺れはそれを嫌悪する感情をこころに起こします。これも老化と、ニコニコしながら微妙な身体のサインを受け入れています。ベットに横になった時に痺れと痛みが消えたので楽です。
  2月頃から毎日ヨーグルトを600gほど食べていたので、それを1/3に減らしました。別海牛乳を温め、専用容器に入れて市販ヨーグルトを種に混ぜ、毛布でくるんで5時間保温したら出来上がりです。果物を混ぜて食べています。そして、体の筋肉をリラックスさせるために、最近あまりやらなくなっていたヨーガを15分くらいやっています。歩く時には、足以外は力を抜いて重心移動を感じながら頭や腕や胴体をそれに同調させるようにしてみたら、気持ちがいい。無駄な力の入らない歩き方がいまのわたしにはいいようです。






フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで

フェルマーの最終定理―ピュタゴラスに始まり、ワイルズが証明するまで

  • 作者: サイモン シン
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2000/01
  • メディア: 単行本



数学読本〈6〉線形写像・1次変換/数論へのプレリュード/集合論へのプレリュード など

数学読本〈6〉線形写像・1次変換/数論へのプレリュード/集合論へのプレリュード など

  • 作者: 松坂 和夫
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 1990/08/27
  • メディア: 単行本



証明と論理に強くなる  ~論理式の読み方から、ゲーデルの門前まで~ (知の扉)

証明と論理に強くなる ~論理式の読み方から、ゲーデルの門前まで~ (知の扉)

  • 作者: 小島 寛之
  • 出版社/メーカー: 技術評論社
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国家の品格 (新潮新書)

国家の品格 (新潮新書)

  • 作者: 藤原 正彦
  • 出版社/メーカー: 新潮社
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ゲーデル 不完全性定理 (岩波文庫)

ゲーデル 不完全性定理 (岩波文庫)

  • 作者: ゲーデル
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2006/09/15
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記号論理入門 (日評数学選書)

記号論理入門 (日評数学選書)

  • 作者: 前原 昭二
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集合・位相入門

集合・位相入門


  • 作者: 松坂 和夫
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
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ユークリッド原論 追補版

ユークリッド原論 追補版

  • 作者:
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幾何学基礎論 (1969年)

幾何学基礎論 (1969年)

  • 作者: ヒルベルト
  • 出版社/メーカー: 清水弘文堂書房
  • 発売日: 1969
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幾何学基礎論 (ちくま学芸文庫)

幾何学基礎論 (ちくま学芸文庫)

  • 作者: D. ヒルベルト
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2005/12
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ブルバキ数学原論〈〔第1〕〉集合論 (1968年)

ブルバキ数学原論〈〔第1〕〉集合論 (1968年)

  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 東京図書
  • 発売日: 1968
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#3535 演繹システムをとりあげた理由:正四角錐の頂点の数はいくつ? Apr. 30,2017 [53. 数学四方山話]

  #3433と#3434で、二度にわたって数学の概念の扱いに言及したのは理由がある。ある教育ブログで「正四角錐の頂点は一つ」という記述を見つけたからである。「指導書に書いてある」というのが論拠だった。FBメッセンジャーで議論を何度かしたが、指導書の名前や出版社名やページ数が示されることはなかった。そして議論はまったくかみ合わず、論拠が明示されないので議論そのものをあきらめた。
  議論の過程で、40年前に読んだユークリッド『原論』や森毅著『現代数学とブルバキ』、ヒルベルト『幾何学基礎論』を読み直した。3月に東京へ行ったときに見つけた小島寛之著『論理式の読み方から、ゲーデルの門前まで 証明と論理に強くなる』もついでに読んだ。
  ちゃんとした議論がしたかったので、うろ覚えになっている自分の記憶を整理する必要があった。議論はあきらめたが、せっかくだから弊ブログ上で整理をしてみたというのが、これを含めた三つの小論の意図である。

  わたしの意見では、正四角錐の頂点が1つであるか5つであるかは、数学の定理にかかわる問題である。その定理とはオイラーの多面体定理で、次の等式で示される。

  面の数+頂点の数-辺の数=2

  この等式はすべての多面体でなりたつ。正四角錐では、面の数5、頂点の数5、辺の数8で、この等式を満足するから、正四角錐の頂点の数が1つという主張は、オイラーの多面体定理の否定でもある。
  オイラーの多面体定理は、演繹システムで数学的論証ができる。
  訊いてみたら「正四角錐を錐体としてみたら頂点は一つ」という主張があったが、正四角錐と錐体は概念が異なることは#3534で解説した、後段で再説するが常識的な議論である。類概念とその部分集合は概念としては別物。こういうのを(正四角錐を錐体と置き換えること)を論理のすり替えという。

  「彼の人」の主張に沿って、正四角錐の頂点の数が1つだという命題が正しいケースを考えると、それは別の演繹システムの場合だけ、数理論理学的にはそういうことになる。
  正四角錐の頂点の数が一つが正しい場合は、頂点の定義が異なるかあるいは公理が別というケースが考えられる。

  ユークリッド『原論』の演繹システムの場合は、多角形で頂点の定義がないから、オイラーの多面体定理は、その演繹システム(ユークリッド『原論』)では論証が不可能である。そういう演繹システムがあるのは事実である。
  前二回の弊ブログで整理して取り上げたこういう話がまったく通じなかった。数学の定理や概念を云々するには、数理論理学の知識は不可欠だし、最初の厳密な演繹システムであるユークリッド『原論』やブルバキ『数学原論』はもとより、その間をつなぐ(現代数学の祖)デカルト『方法序説』やペアノの自然数公理、ヒルベルト『数学基礎論』も関係している。議論の前提として、数学史や数理論理学の基礎的な知識は不可欠。

  わたしは2社で統合経営情報系システム開発をユーザー側で担当したことがあり、業界トップクラスのSEと何度か仕事のチャンスがあった。システム専門家と話すときはシステム開発に関する専門用語はもとより、プログラミング、PERT、などさまざまなシステム開発技法に精通しているだけではなく、簿記や原価計算、輸入業務、検査業務などの適用業務の理論と実務についても専門家である必要があった。そうでないとSEともシステムを導入する部門とも話が通じない。
  日本標準臨床検査項目コードの開発の時も同じだった。システム開発の専門知識と臨床検査に関する知識がモノを言った。臨床検査会社が標準コードを公表しても、それは業界内にとどまるだけで、全国の病院には採用してもらえない。日本標準臨床検査項目コードにするには臨床病理学会の協力が必要だった。BML社が新ラボを造るに際して、業界標準コードを制定しそれを導入しようとして大手六社に声をかけて集まったが、最初の会合で「業界内で標準コードを決めても病院へは導入してもらえないから、臨床病理学会と産学協同プロジェクトを立ち上げ、学会のほうから臨床検査項目に関する日本標準コードとして公表してもらうのがベスト」と説明し、「次回のミーティングには臨床病理学会項目コード検討委員会・委員長の櫻林郁之助(自治医大・当時助教授)に出席してもらい、産学協同プロジェクトしたいと」伝えると、全メンバーが賛成した。そのときに名刺交換したが、わたしだけ所属は経理部だった。(笑) 業界ナンバーワンのSRLのシステム開発課長と臨床検査部長が納得した顔をしているので、だれも疑問に思わないのがおかしかった。
 大手六社からの参加者はシステム部門と学術あるいは検査部門の専門家だけ。メンバーたちは5分間ほどかけてビジョンを説明したわたしを事実上のプロジェクトマネジャーとして認めた。櫻林先生からは半年ほど前に臨床病理学会の項目コード検討委員会の仕事を手伝ってほしいと依頼されたいたので、先生がこのプロジェクトに参加することに否やはなかった。わたしが直接手伝うよりも、こうした舞台設定をした方がいいに決まっている。入社2年目に「臨床診断エキスパートシステム事業化案」を作成して、稟議承認してもらっていた。10個に分けたプロジェクトの中の一つに、日本標準臨床検査項目コードの制定プロジェクトがあった。だから、システム開発部のK原課長が、BMLからの通知を受け取って、わたしのところへ相談に来たのである。櫻林先生は臨床検査部の顧問ドクターでもあったので、臨床検査部長のK尻さんに「三人で参加しましょう」と声をかけた。そのほうが櫻林先生が後でやりやすい。毎月一度の作業部会ミーティング、五年の検討を経て1993年ころに事実上の日本標準コードができあがった。それ以来、全国の病院やクリニックで使われている。保険点数の改定が2年ごとに行われても、SRL事務局が公表している臨床検査項目コードを各病院のパッケージシステムが取り込めばいいだけである。保険点数改定に伴う、点数の手入力作業が消滅した。病院や監査センターで共通の臨床検査項目コードがあるのは日本だけ。わたしは、世界標準を創りたかった。世界標準コードというのはとっても大きな仕事なのである。日本生まれの世界標準は台風の風速の藤田スケールぐらいなもの。
*https://ja.wikipedia.org/wiki/藤田スケール

  慶応大学医学部産婦人科の医師たちとの出生前診断検査の日本標準に関する共同研究プロジェクトでも、米国から取り寄せた資料を読み、必要な人材をラボからピックアップして、プログラミング仕様書を書くという作業が前段にあった。英文で書かれた学術論文のデータから、曲線回帰分析をしなければプログラミング仕様に必要な方程式が算出できないから、統計の専門知識やプログラミング仕様書を書く技能がなければできない仕事だった。沖縄米軍からの依頼でトリプルマーカMoM値検査の導入というプロジェクトが前段にあったのである。
  どの仕事も、相手の専門用語での議論が不可欠だった。専門用語での会話は誤解がほとんど生じないから、メリットが大きいのである。
  数学の概念を議論するには、数理論理学の基礎知識が欠かせないことはこれらの事例から類推していただけるだろう。
(わたしはたまたま仕事の運がよかった。仕事に理解のある担当役員や社長がいて任せてくれたから、獲得した様々な専門知識とスキルを仕事で磨けた。感謝している。)

  公理系が違えば同じ名前の概念でも定義も異なることがある。三角形の内角の和が180度というのは平面幾何学でいえることで、球面幾何学という別の公理系では三角形の内角の和が180度より大きくなる。自然数の定義も中学校や高校ではゼロを含まないが、現代数学の自然数の定義はゼロを含むということを議論の中で演繹システムが異なれば定義も異なる具体例として挙げた。
  数理論理学では、数学的帰納法との関係で、自然数は厳密に扱わなければならない。ペアノの自然数公理やラッセルの自然数PM(プリンキピア・マティマティカ)では、ゼロを自然数の出発点としている。自然数は現代数学で演繹システムとして厳密に定義されたということ。
  数学的帰納法が指導項目に入ってこない小学校や中学校では、そういう厳密な自然数の定義は教える必要がないから、カットされているだけのこと。だから、小中学校では自然数は「正の整数」でゼロを含まないということになっている。高校数学では数学的帰納法の説明が出てくるが、自然数の厳密な定義はなされないから、高校でも自然数は1から始まる、つまり正の整数=自然数という定義である。整合性を保つために、数学的帰納法では出発点 のnがゼロのケースは扱われない。学校教育では、こうした素朴な自然数定義で十分。
 繰り返すが、学校教育で扱う数学では、小学校でも中学校でも、自然数はゼロを含まない。中1の教科書にも載っている。
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たとえば、整数には、正の整数、0、負の整数がある。正の整数を自然数という。
   『新しい教科書1』東京書籍 10ページ
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  「彼の人」の4月27日付ブログでは、中学数学ではゼロを自然数にカウントしているととれる記述があるが、わたしにはその説明自体もまったく理解できない。自然数はゼロから始まるから、3の倍数にゼロが入るという説明も肯けない。教科書には(上述に見たように)自然数は整数の部分集合だという内容の説明が書かれており、自然数と整数が「完全に一線を画す」なんてことはないのである。
 
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 学校では「自然数に0が入らない」というふうに「整数」と完全に一線を画すように教えている以上、nに0が入ると非常に都合が悪い。そこで、「n=自然数」について勘違いが起きないように「個数」と「順位」の2つ用意している、ということなんです。」

*教育時事問題ブログ
http://www002.upp.so-net.ne.jp/singakukouza/jijimonndai.html#Anchor-10773
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<参考>大辞林より
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類概念:二つの概念が従属関係にある場合、上位の概念をいう。たとえば、「日本人の男」に対する「日本人」「日本人」に対する「人間」。類
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  整数が負の整数、ゼロ、正の整数(自然数)から構成され、自然数が整数の真部分集合だということも、整数がこれら三つの部分集合を束ねる類概念だということも理解できていないようにわたしには見える。そのことは正四角錐と錐体の概念の関係にも共通している。「彼の人」は正四角錐と錐体のところでも概念構造(類概念とその下位概念)を理解できなかった。#3534で大辞林から引用して具体例で説明したが、普通の人に理解できることが自説にこだわると理解できなくなる、そういう癖があるようだ。


  自然数をnで表すことはあるが、整数をnで表す例を「彼の人」が解説している。そこで整数と自然数の混乱が生じているが、整数をnで表す例をわたしは寡聞にして知らない。引用した文の前後をご覧いただけば用語の混乱ぶりがわかる。
  整数は高校数学ではZで表すが、それは ganze Zahl というドイツ語から来ている。自然数は natural number という英語の翻訳であるが整数はZを使うのが日本の数学の習慣で、ドイツ語由来なのだ。そんなことを知らないはずがないからうっかりしたのだろう。そういうわけで、主張に無理がある。
(証明問題で「m,nを任意の整数とする」というような記述があるが、mもnも異なる任意の整数を代表する単なる記号で、このnをnatural number の n のことだと誤解するような人はいないだろう。m,nが整数だと宣言しているのだから。参考書や問題集に整数をnで表していても、同様の理由でnatural numberのnではない。)

  正四角錐の頂点が一つであるという記事を再検索してみたが、見つからなかった。自分の論が正論だと信じて疑ってないので削除はしていないだろうから、興味がある人は、「彼の人」の過去ログを丹念に読まれたらいい。きっと見つかります。
(ありました。「彼の人」のブログの「算数・数学のセンス」のディレクトリの「知識と指導力」2017/03/04です。http://www002.upp.so-net.ne.jp/singakukouza/mathsence.html…5/4追記)

  意見の違いはあっていいのです、どこまでも平行線でもいい。その都度、必要な論拠の提示があれば役に立つことがありますが、論拠の提示や合理的推論のない議論は無意味ということ。
  現代数学ももちろん論拠の提示や合理的推論、演繹的論証に基づき議論がなされています。ゲーデル著・林晋訳『不完全性定理』(岩波文庫)の「解説」p.87-275をお読みください。無限集合をめぐる議論と自然数の定義の関係やヒルベルト計画とその破綻、多くの数学者が興味のある議論をしています。
  中高生の皆さんは受験数学の範囲を超えて学問自体に好奇心を広げてください。時間をかければすこしずつわかってきます。


*「塾の功罪と地域の意識」ブログ情熱空間
  コメントが15本あります。人の意見の多様なことよ、だから意見の異なる人と論拠を明確にして真摯に議論する必要があるのではないでしょうか。
http://blog.livedoor.jp/jounetsu_kuukan/archives/8817809.html

*#3536 すごい成果をあげた生徒:入塾五か月で英数二科目学年トップ May 3, 2017

http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-05-03


*#3533 自然数の定義を巡って:言語・公理・推論規則 Apr. 26, 2017 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-04-26

 #3534 円錐と角錐の頂点の数を巡って:定義・公理・定理 Apr. 26, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-04-26-1

 #3535 演繹システムをとりあげた理由:正四角錐の頂点の数はいくつ? Apr. 30,2017 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-04-30

 #3538 ∀n [ n≧3⇒∀x∀y∀z ¬(x^n+y^n+z^n] May 7, 2017 
 #3446 信頼の喪失と回復(自然数の英語名は?)  Nov. 1, 2016

#3534 円錐と角錐の頂点の数を巡って:定義・公理・定理 Apr. 26, 2017 [53. 数学四方山話]

  前回#3533「  自然数の定義を巡って:言語・公理・推論規則 」で自然数概念と演繹システムの関係を分析した。今回は、円錐や角錐の頂点の数がユークリッド『原論』(以下『原論』と略記することがある)の演繹システムではどうなっているのか検討してみたい。

  『原論』は「定義」「5つの公準、5つの公理」そして証明すべき「命題=定理」からなっている。ブルバキは現代数学の体系化の基本原理として集合論を措定し、数学各分野について30冊の本を出版して体系化を試みている。ユークリッド『原論』とブルバキ『数学原論』は同じ演繹システム構成をもつ。
  40年前に購入したこの本に再度目を通してみた。演繹システムとしてマルクス『資本論』経済学体系を見ていたので、いつか読むだろうと本棚の肥やしにしていた。(笑)
  『数学原論 集合論1』から引用する。
--------------------------------------------
「6.各章の論理的な骨組みは、《定義》、《公理》、《定理》から成る」…ブルバキ『数学原論 集合論1』p.2(以下、『数学原論』と略記することがある)
「2.叙述の仕方は公理的、抽象的であり、原則として一般から特殊へ進む。この方式を選んだのは、現代数学全体に確固たる基礎を与えようというこの原論の主目的による。この目的のためには、多くの概念や一般原理を一挙に獲得することがどうしても必要である。さらに、証明をつける必要上、内容は原則として厳密に定められた論理的順序に従って配列される。したがって、この原論の中には、すでに広い知識を持ち合わせている読者にしかその効用がわからないような事柄も含まれている。そうでない読者は、納得できる機会が来るまで判断を差し控えて辛抱強く待たなければならない。 」...同書p.1
--------------------------------------------

  ユークリッド『原論』とブルバキ『数学原論』30冊、は演繹システムとしてみるとまったく同じ。

  ユークリッド『原論』第1巻は次の23項目の定義から始まっている。
--------------------------------------------
点、線、点の端、直線、面、面の端、平面、平面角、直角と垂線、鈍角、鋭角、境界、図形、円、円の中心、直径、半円、直線図形と三辺形と四辺形と多辺形、等辺三角形・二等辺三角形・不当辺三角形、直角三角形・鈍角三角形・鋭角三角形、正方形・矩形・菱形・長斜方形・これら以外の四辺形、平行線
--------------------------------------------

  これら23項目の一つ一つに定義がつけられているのだが、このリストに(直線図形=多角形)頂点の定義が含まれていないことに注意。『原論』第1巻は定義と公準・公理のリストに続けて、正三角形の作図から始めている。三角形が多角形の基本(一番単純な多角形)ということだろう。平面幾何には他の巻にも定義があるが、頂点の定義はどこにもない。
  『原論』は平面幾何⇒数論⇒空間図形という3部構成をもつ。空間図形は第11巻(p.343)から始まる。第11巻の冒頭もやはり「定義」である。28個の定義がリストされているが、関係のある個所だけをピックアップしてみる。
--------------------------------------------
「12.角錐とは、数個の平面によって囲まれ、一つの平面を底面とし、一つの点を頂点としてつくられる立体である」
「18.円錐とは、直角三角形の直角を挟む辺の一つが固定され、三角形が回転して、その動きはじめた同じところにふたたびもどるとき、囲まれてできる図形である。…」
「25. 立方体とは六つの等しい正方形によって囲まれた立体である」
「26. 正八面体とは八つの等しい等辺三角形によって囲まれた立体である」
「27. 正二十面体とは二重の等し等辺三角形によって囲まれた立体である」
「28. 正十二面体とは十二の等しい等辺等角な五角形によって囲まれた立体である」
--------------------------------------------

 角錐のとんがり部分を頂点としているのみ。底面の辺の接合部を頂点とは書いていない。円錐は直角三角形の回転体として定義しており、やはり頂点の定義がない
 オイラーは多面体定理(面の数+辺の数-頂点の数=2)を発見した。『原論』11巻には39の定理が論証されているが、もちろんその中にオイラーの多面体定理は存在しない。多角形で頂点を定義しておかなければ多面体定理は演繹できないのである。それゆえ、ユークリッド『原論』の演繹システムでは、オイラーの定理を演繹できない

  『原論』第1巻の平面図形の定義で多角形の頂点を定義しておけば、『原論』でもオイラーの多面体定理が演繹できる。多角形の頂点に注目すれば、ユークリッドもオイラーの多面体定理に気づいたかもしれぬ。
 オイラーは18世紀の数学者、『原論』は紀元前300年ころに書かれた。

  中学校数学では、多角形は頂点が定義されているから、四角錐の頂点は5つが正解である。したがって、n角錐の頂点の数は(n+1)。理由は再説する必要がないだろう。

  さて、定義と公理と定理の関係が理解できたかな?

 もうひとつ概念にかかわる問題を片付けたい。錐には円錐、楕円錐、角錐、直円錐、斜円錐、直角錐、斜角錐、その他の錐がある。その他の錐とは、底面の形状がぐにゃぐにゃした曲線を含むものである。これらをまとめた類概念があるが、それが「錐体」である。錐体は類概念で底面の形が多角形または円のような閉曲線と定義されるから、頂点はとんがり部分しか定義しようがない。円錐と角錐に共通な底面の頂点は存在しないのである。
 ぐにゃぐにゃした閉曲線を含むか否かは議論の余地があるかもしれない。概念構造としては錐体という類概念の下に円錐、楕円錐、角錐、その他の錐があるということになるだろう。



<参考>大辞林より
-----------------------------------------
類概念:二つの概念が従属関係にある場合、上位の概念をいう。たとえば、「日本人の男」に対する「日本人」「日本人」に対する「人間」。類
-----------------------------------------
錐体:①平面上の多角形または円のような閉曲線のすべての点と、平面外の一点を結んでできた立体。
-----------------------------------------
頂点:①一番上。最も高いところ。てっぺん。③数学:(ア) 角をつくる二直線の交点。(イ)多角形の辺の交点。 (ウ)多面体の三つ以上の面の交わる交点。 (エ)錐面の各母線の交点。 (オ)放物線とその軸との交点。
-----------------------------------------


*#3533 自然数の定義を巡って:言語・公理・推論規則 Apr. 26, 2017 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-04-26

 #3534 円錐と角錐の頂点の数を巡って:定義・公理・定理 Apr. 26, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-04-26-1

 #3535 演繹システムをとりあげた理由:正四角錐の頂点の数はいくつ? Apr. 30,2017 

 #3538 ∀n [ n≧3⇒∀x∀y∀z ¬(x^n+y^n+z^n] May 7, 2017 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-05-07


ユークリッド原論 追補版

ユークリッド原論 追補版

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  • 出版社/メーカー: 共立出版
  • 発売日: 2011/05/25
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ブルバキ数学原論〈〔第1〕〉集合論 (1968年)

ブルバキ数学原論〈〔第1〕〉集合論 (1968年)

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  • 出版社/メーカー: 東京図書
  • 発売日: 1968
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#3533 自然数の定義を巡って:言語・公理・推論規則 Apr. 26, 2017 [53. 数学四方山話]

  数学の概念を少し厳密に扱うとしたら、数理論理学の基礎知識が必要になるのだが、高校数学で「第4節 集合と命題」(数研出版『数1』)の知識では間に合わない。
  自然数を例にとって演繹システムと概念規定のありようを検討してみよう。取り上げるテクストは小島寛之著『証明と論理に強くなる 決定版数理論理学の完全解説』(技術評論社)である。

  この本では3つの自然数が取り上げられている。「メカ自然数」「メカ自然数Q」「メカ自然数P」の三つである。これら三つのタイプの自然数は、言語(記号)、公理、推論規則で構成された演繹システム(公理系)として記述されている。これらの演繹システムのモデルは素朴自然数である。
  演繹システムとして一番古いものは中学数学の平面幾何の証明でおなじみのユークリッド『原論』がある。

  受験数学で習う自然数は{1,2,3,・・・n・・・}だが、
数理論理学では、0を含めて自然数ということが多く、本書でもそれに従います」(同書p.215)
 ( これはわたしの推測ですが、数学的帰納法に完全に対応するためにはゼロを含めておかなければならないという事情がありそうです。ゼロはドラキュラみたいなものです。かけるとみんなを自分の仲間にしてしまう強力なカードです。それほど影響力が絶大に大きいのに、足しても引いても元の数には変化が起きない特別な数です。)
   
「メカ自然数」で使われる言語リストは10項目が挙げられている。論理記号ではないものが5個、論理記号が5個からなっている。前者は{0,S,+,×,:=:}、後者は{¬(でない), ⇒(ならば), V(または), ⋀(かつ), ⊥(矛盾)}である。
  メカ自然数の公理は6個(公理M1~M6)設定されている(同書p.224)。推論規則は「対称律」「推移律」「代入律」「合成律」の4タイプが挙げられている(同書p.227)。これらの公理系から定理1が演繹される。

 定理1:S0+S0:=:SS0   (1+1=2のこと)

  定理4まで解説されている。「素朴自然数で解釈して真であるような論理式は、必ずメカ自然数の体系で演繹できる。また、偽であるような論理式は、その否定型の式がメカ自然数の体系で演繹できる。」(同書p.237)
  メカ自然数は健全性と完全性が確保されていますが、述語論理が制限されているため、「偶数・奇数とか素数などの概念をメカ自然数で表現することができません」(p.244)

  そこで量化記号∀と∃を導入したものがメカ自然数Qである。メカ自然数の公理系はQ3を除いて、メカ自然数の公理を量化記号を用いて書き直したものとなっている。(同書p.247参照)
  数理論理学の教科書では「ロビンソンのQ」とか「ロビンソン算術」と呼ばれている。量化記号を使うために「変数」記号xが導入されている。量化記号を導入したことで、メカ自然数Qでは不等号を使わずとも大小関係が演繹できる。
  ところが、メカ自然数Qでは、加法の交換法則が演繹できない。このようなメカ自然数Qの難点を解消するために数学的帰納法の原理が公理に導入される。メカ自然数Pは「ペアノの算術」(ペアノは19世紀の数学者)と呼ばれている。その公理はメカ自然数Qに「公理Ind」(数学的帰納法の原理)を加えたものである。(p.275)
 
  どの(述語論理の)公理系でも推論規則は同一だから、公理系たちに見られる定理の違いは公理の違いから来る。(p.289)
  もちろん、言語(記号やその定義)が違っても定理に違いが出ることは言うまでもない。演繹システムに違いができるからだ。

  メカ自然数⇒メカ自然数Q⇒メカ自然数P

 この流れを見ると、右に行くほど使われる言語や公理が豊かになっている。簡単なものからより複雑なものへ、抽象的なものからより具体的なものへという流れがある。これらは演繹体系の展開に共通している。
 ユークリッド『原論』ではn多角形を三角形から初めて順次nの数を増やしていく。空間図形は平面を複数前提とするから、平面図形のあとで展開される。より単純なものからより複雑なものへという流れは演繹体系に共通といってよい。

  論旨をまとめておく。
  演繹系は言語と公理と推論規則からなっており、それらをひっくるめてモデルと称する。推論規則はどのモデルでも同一だが、言語と公理が違えばモデルに違いが出るのは自明だろう。自然数を例にとれば、メカ自然数とメカ自然数Q、メカ自然数Pは演繹システムが違う。そして数学的帰納法にはメカ自然数Pが使われている。現代数学の自然数概念は数学的帰納法と分かちがたく結びついている。


<余談ー1>
  じつは、メカ自然数Pの完全性(negation complete)はゲーデルによって成立しないことが証明されている。

ゲーデルの定理
 メカ自然数Pには、その言語で表現できる閉じた論理式φで、φも¬φもできないものが存在する(p.291)

 ここから先は、数理論理学の教科書を1冊マスターしてから、ゲーデル『不完全性定理』を読めというのが著者のガイドだ。それで岩波文庫版でいま読んでいる。訳注を含めて証明自体は57ページのコンパクトなものだが、さっぱりわからない。「ヒルベルト計画」を中心に置いた長大な解説を含めて310ページの本の、ようやく250ページあたりまで来た。解説部分は不完全性定理の証明の部分に比べると難しくない。読み終わったら、もう一度ゲーデルの証明部分を読んでみる。並行して記号論理学の教科書を1冊、そして集合・位相について書いた本を1冊、読んでいるが、時間がかかりそうだ。早く読んでもわからないから、試行錯誤しながらゆっくりでいい。

  次回は、ユークリッド『原論』を取り上げて、あの演繹体系で四角錐や円錐の頂点がいくつになっているのか御覧に入れたい。言語・公理・推論規則で構成される演繹体系と平面図形の頂点や立体の頂点の数は密接な関連がある。

  ユークリッド『原論』では、三角形に頂点はない、円錐にも頂点はない、角錐の頂点は一つ。なぜそうなっているのか、言語・公理と関係がある。ユークリッド原論では言語は「定義」、公理は「公準と公理」となっている。ユークリッド『原論』では平面図形の定義に「頂点」が含まれていない。じつに面白いのである。  

 <余談ー2>
 演繹体系として数学に興味があるのは、経済学とりわけマルクス『資本論』との類似点が多いからだ。労働は苦役であるというのが西洋経済学の公理である。これを日本的職人仕事観に置き換えたら、まったくことなる経済学が展望できる。世界中の経済学者でこんなことを主張している者は一人もいない。
 わたしは、そういう視点から数学の演繹体系に興味がある。カテゴリー「資本論と21世紀の経済学」にまとめてあるのでお読みいただけたらうれしい。

*#3533 自然数の定義を巡って:言語・公理・推論規則 Apr. 26, 2017 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-04-26

 #3534 円錐と角錐の頂点の数を巡って:定義・公理・定理 Apr. 26, 2017

http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-04-26-1

 #3535 演繹システムをとりあげた理由:正四角錐の頂点の数はいくつ? Apr. 30,2017 

http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-04-30

 #3538 ∀n [ n≧3⇒∀x∀y∀z ¬(x^n+y^n+z^n] May 7, 2017 

http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-05-07



証明と論理に強くなる  ~論理式の読み方から、ゲーデルの門前まで~ (知の扉)

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