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#3985 根室の中高生の修学旅行を変えよう May 4, 2019 [70.秋田県大館市教育長講演会]

<更新情報>
5/5朝10時45分追記

 理化学研究所のSさんとFB上でさまざまなことを頻繁に議論している。かれは理系の優れた職人である。もうすぐ還暦を迎えようというのに、読書量も衰えを見せない。わたしは本は選んで読む主義なのだが、かれはジャンルを問わずダボハゼ的に片っ端から読む。丈夫な胃をもっているから、消化力が大きいのだろう。真似はできない。(笑)
 理化学研究所で開発したスーパーコンピュータ「京」は膨大な熱量を発するから、それを冷却する空調システムも半端でない。その空調システムはSさんの設計である。Sさんの勤務地は大坂である。Sさんを通じて、教育に関心のある物理の専門家のお二人とFB友になった。大阪博物館のOさんと千葉大学名誉教授のNさんである。Sさんは休日を利用して、小学生から高校生まで対象の理科の実験授業を頻繁にやっている。関西では引っ張りだこの人気者である。このボランティアは人気があり最近は東京でも引き合いがではじめている。えらい人だと思う。

 根室にいてもこうして、大阪と極東の町根室に住む人間がFB上でリアルタイムで議論できるというのはありがたいことだ。

 さて、Sさんが根室の中学校と高校の修学旅行に関して今日面白い提案をしてくれたので紹介したい。議論をそのまま転載する。
 これから紹介するSさんの投稿は弊ブログ「#3983 簡単そうで説明がむずかしい英文例」の「Ⅰ」の部分をFBにコピペしてアップした際のものである。

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<Sさん>
根室の子に限らず、今の児童生徒は「超合理主義」です。必要ないことに努力するのは損だと考えます。たとえば英語。身近な大人たち、誰も使ってないじゃないですか。使わないものを無理して勉強するのは損です。特にならないなら、努力なんてするほうがバカです。
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<ebisu>
 大学もない、中央官庁もない、上場企業の本社もないから、根室の子どもたちは英語を使って仕事をする人を見たことがないのです。
 東京で多摩センターの丸善(日本一の売り場面積)行ったときのことを書きます。中学3年生くらいの女のお子さんを連れたご両親が、一緒に高校生用にリライトされた短編小説のコーナーから次々に取り出して眺めて、数冊買ってました。手に取って英語で書かれた本を選べる、そして様々なレベルのいろんなジャンルの本が数十万冊も在庫として陳列されている、そういう環境があることも大切なことの一つです。こういう格差はそばにいる大人たちが多少は埋めることができます。東京へ行ったときに数冊買ってきて紹介するとか、ネット通販で購入して自分で読んでみてから適当なものを選んで紹介してもいい。
 東京の子どもたちのかなりの割合が、勉強していい大学へ入り、中央官庁のキャリアになったり上場企業へ就職すれば平均よりもずっといい暮らしができることを知っています。両親ともに大卒というのは珍しくありません。周りにそういう人たちがいるか
ら見て知ってます。だから、「合理的な判断」で勉強するのでしょう。
 根室でも親が勤務医であろうと開業医であろうと問わず、医師の子どもたちは医者になるために、合理的な行動をするのが普通のことのように思えます。遊びはほどほどにして熱心に勉強してます。これも合理的な行動の一つです。親の職業が何であれ、医師を志望する子どもたちも同じ数くらいいます。やはり、熱心に勉強しますが、スタートが遅い。知らないからです。東京の標準コースは4年生から受験勉強スタートです。有名私立の中高一貫校へ入学して、レベルの高い授業を受けて、さらに進学塾通いをして受験勉強するというのが共通した考えです。難関大学を目指す根室の子どもたちは、大学受験でそういう子たちと競争することになります。中学生になってからでは全国標準コースからみると3年スタートが遅れているのですが、気がつきません、都会の子たちがどのような仕組みで受験勉強しているか知らないのですから。根室の中高の先生で、そういう仕組みで都会の子たちが勉強していることを知っている人は少ないでしょう。高校1年生になって、7月の進研模試を受けて自分の偏差値を見て、全国レベルでの自分の学力を生まれて初めて確認するのです。遅すぎます。全国偏差値50は全国レベルで真ん中ということですが、根室高校では上位10%未満です。2月の進研模試で数学の偏差値50を超えていたのは1年生の4番までだったかな。市と名前がつく規模の地方自治体で地元から医学部へ進学する者がゼロになったら、地域医療は支えきれぬ、それも急激な人口減少下で学力低下が進む北海道の地域医療の深刻な現実
 根室の子どもたちは、中央官庁のキャリアも、上場企業の本社エリートの年収や暮らしも、まったく知らずに育ち、あまり勉強せずに根室高校を卒業すると7割が都会へ進学し、戻ってきません
 地元企業に大きな魅力がないから、あるいは都会の企業の魅力が大きいから、親も子どもが戻ってくることを望みません。
 昔も今もたしかな学力は世の中を渡っていくための強力な武器です。どうように根室市の未来を切り拓く武器もそこに住む住民の学力でしょう。それを有効に使っている人をほとんど見たことがないというのが根室の子どもたちです。身近にいないから知らないのです。知らないということに子どもたちばかりでなく、親も自覚がありません。学校の先生もほとんどそういうことを伝えません。
 学年2位になったことのある中学生が、野球が好きなので別海高校へ進学すると言いました。たしかにいい指導者はいるし、寮もありのびのび部活を楽しめます。でも釧路高専にはいれる学力レベルなのでそちらを勧めました。高専で上位1/3にはいれば、国立大学へ3年次編入可能です。さらに、そこで上位1/3なら、国立大大学院進学が可能です。
 若いうちは思い切ってチャレンジしたらいいのです。公務員でも、研究機関でも、上場企業でも就職の選択範囲がまるで違ってきます、このように具体的に説明し、選択肢を広げてやったら生徒の選択は違ってきます。現状の進路指導は生徒に目隠ししたままやってるようなものです。

 還暦高校生の高木さん(元釧路市教委教育部長・現釧路高専生:最近新聞で取り上げられてました)と机を並べているかもしれません。(笑)

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<Sさん>
実際に見ないとだめですよね。根室の中学の修学旅行は札幌でしょうか。道庁の上級職の人にあって話を聞く。北大の研究者に会ってくる。札医大の病院を見学してくる。よく知りませんが(笑)札幌に本社を置く上場企業を見学させていただく
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<ebisu>
いいアイデアですね、ブログで採り上げてみます。
残念ですが札幌本社の東証一部上場企業はないでしょうね。そういう企業が数社北海道に現れてもらいたい。わたしが生きているうちなら、ネットを通じてボランティアでお手伝いできます。
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<Sさん>
意外とあるみたいだよ。https://xn--vckya7nx51ik9ay55a3l3a.com/areas/hokkaido

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<ebisu>
ありがとうございます。一つ一つチェックしました、一部上場企業だけで19社リストされてます。北海道電力や雪印メグ、ニトリ、サツドラ、ツルハ、イオン北海道、北洋銀行、北海道瓦斯、進学会ホールディングス…
中学校の修学旅行で行けますね。旅行会社を通じて交渉してもらったらいい。いやそれよりも根室市教委が直談判すべきですね。業者にやらせたのでは熱意がないと思われそうです。
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<Sさん>
その通りです。業者にやらせたら、相手も業者対応しかしてくれません。市教委よりも校長、校長よりも担当の先生、先生よりも生徒に交渉させたほうが、熱意が伝わり、より実現性が高まります。まあ、生徒や先生に熱意があればの話ですけどね。最初から全市で実施するのではなく、面白そう、やってみたい、という学校が一つあればいい。やってみてよければ、それを周りに伝えていく。でも決して「定例化」しない。見学させてもらう方に熱がないと、相手にとっては迷惑でしかない行事になってしまいますから
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<5/5朝9:45追記>
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<ebisu>
そうだよね、企業側にとっては迷惑以外の何物でもありません。
貴重な提案ありがとうございます。わたしの投稿の一部をカットしてアップしました。
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<Sさん>
とはいえ、最初から生徒にやらせるのはよろしくない。「やり方」がわからないから、物怖じしてしまう。交渉も「技術」ですから、技術を習得する過程も大事です。技術がないと、人は自信を持てずおどおどしてしまいますから。まずは校長、担当の先生からでしょう。校長、先生が交渉の仕方を生徒に示し、模擬練習をさせ、それからアポどりする。もちろん、校長、先生に情熱があっての話ですが。
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<Sさん>
工藤先生*は、本を読んでいて「あ、この人を生徒たちに会わせたいな」と思ったら、すぐ電話しちゃうそうです。
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<Sさん>
企業も官庁も、少子高齢化で人材難。優秀で情熱を持った若者の応援は必ずしてくれます
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*工藤先生とは東京麹町中学校の校長先生で、学校改革を積極的に推し進めている方です。
https://www.amazon.co.jp/学校の「当たり前」をやめた。-―-生徒も教師も変わる-公立名門中学校長の改革/dp/4788715945

 
 一部上場企業がどのように動いているのか、会社の制度はどうなっているのか、給与はどれくらいなのか、社員の学歴は職種ごとにどういう構成になっているのか、なんてことは見て質問しなけりゃわからない。ぜひ根室の中学生に一部上場企業の本社オフィスを見せてあげてもらいたい。最新設備の工場見学も周りの福祉環境込みで説明を聞いたらいい。根室の地元企業の後継ぎも生徒の中に入るから、どういう企業を目指したらいいのか、体験的に理解できる。
 根室高校生は東京の一部上場企業を2社くらい見せてもらったらいい。
 ついでに根室はどういう町なのかいいところを宣伝してきたらどうだろう。秋田県大館市の中学校と高校が実際にやっている。ビデオで見たが、大館市の高校生が東京麻布で大館市のいいところを通りすがりの人に説明してた。資料を作ることで自分の町のいいところに気がつくようになるそうだ。郷土愛を育てるには優れた仕掛けである。大館市へいって教育長に訊いてみたらいかが。コピーできたらたいしたものだ。
 よそ様の真似をするには同じくらいの熱意と行動力がいる、種子島への鉄砲伝来も、刀鍛冶の鉄に関する優れた技術と工夫がなければ、1年後にコピーできなかった。

 思い出したことがある、団塊世代の中学校の修学旅行のことだ。新日鉄室蘭の製鉄工場と苫小牧の製紙工場が見学コースに組み込まれていた。よく受け入れてくれていたな。



 
#3867 教育講演会④:修学旅行の巻 Nov. 30, 2018 
https://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2018-11-30




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#3869 教育講演会⑥:補遺 学び合い Dec. 1, 2018 [70.秋田県大館市教育長講演会]

 講演会のレポートを書き綴って、ある問題に気がついたので、思うところを書いておく。

 大館市の小中学校でやっているのは生徒同士の学び合いを主体とする授業、講義は5分程度にとどめ、生徒同士の学び合いに時間を割く。文科省が進めているアクティブラーニングの一つと言ってよいだろう。子どもたちを信頼し、「一人も置き去りにしない」という宮沢賢治の教育論と結びついているところが違いといえば言えるのかもしれない。
 アクティブラーニングは学力の高い生徒たちが対象でないと無理だと言われてきたし、実際にもそういう傾向があることは否めない。そうした観点からは、大館市は小中学生の学力レベルが高いから「学び合い」形式の授業がなりたつのだろうか?いや、そうではなく、低学力のクラスでも成り立つ授業なのだろうか?

 学校の先生たちの中には、授業技術を磨いている人たちが多数いると思う。TOSSのように授業技術を磨く教員の団体も存在している。それはそれで立派なことだ。
 日本にはあらゆる職種で職人が存在し、仕事の技倆を磨くことに熱心である。一人前の職人になれたら、さらにその上の一流の職人になりたいと切に願うのは自然なことである。教師は知の職人である。
 このように授業や教師のスキルに関してまったく思想の異なる二つの方法論がある。
 それでは学力を向上させるという点からこれら二つの方法論をみたらどうなのか、経験をベースに論点を広げて述べてみたい。

 もう10年ほども前になるが、B中学校の理科の学力テストの平均点が他校に比べて10-20点ほど継続的に高かったことがある。担当している先生の授業にはある特徴があった。教えた後にその単元の小テストを頻繁に繰り返すのだ。じっさいの授業を見学する機会はなかったが、学力テストの学年平均点が他校に比べて毎回はっきり高いので注目し、生徒を通じて情報収集した。
 もう一人現実の先生に登場願おう。C中学校の授業参観で社会科の先生の授業を3回見た、DVDや実物投影機を上手に使った名講義であった。たとえば、「オンダンシツジュン」という地理用語が出てくると黒板に「温暖湿潤」ときれいな字で書き、漢字の字義の説明をする。生徒たちの半数は「オンダンシツジュン」と聞いてもなんのことか意味が分からない。語彙力不足で漢字に置き換えられないのだ。ある時(ニムオロ塾で)、2年生に英語授業で「形容詞は名詞をしゅうしょくする」と説明したときに、ちゃんと伝わったのか不意に気になって漢字で書いてみるように指示したら、一人は「就職」と書き、もう一人は書けなかった。どのような漢字なのか、話の文脈から判断できなかったのである。成績は中位の生徒であったが、知らなかった。「形容詞は名詞を就職する」では発話の意味が理解できないし、もちろん「形容詞は名詞をシュウショクする」と聴いた生徒もちんぷんかんぷんだろう。発話の意味を理解するには、言葉を聞いて脳内で正しい漢字に置き換えることができなければならない。それができない生徒にはその語彙を含む前後の話が理解できないということだ。
 したがって、この先生の授業は生徒の語彙力の実態から判断してツボを押さえたものなのである。DVDや実物投影機を巧みに利用し、そこまで生徒たちの貧弱な語彙力に配慮した授業をしているのに学力テストの平均点には他校と有為な差がなかった。継続してモニターしたのだが、やはり有為な差がない、どうしたことだろうと、これには驚いた。このベテラン教師の授業技倆に五段階評価をつけるとすると、まぎれのない’5’であるから、数少ない優秀な教員の一人である。
 このことから、名講義が必ずしも生徒たちの学力向上にはつながらないことを知った。学力中位あるいは下位の生徒たちの学力をアップするのに授業技術がよくても、さしたる効果が認められない、指導技術の巧拙が生徒の学力向上に差を生むと頭から信じていたからショックだった
 そんなことよりも、小テストを繰り返し、泥臭く教えた内容の記憶定着を進めたほうが学力向上に大きな効果がある記憶の定着を考えたら、まったく当たり前のことなのに、自分の技倆をあげることに目がいってしまって、単純な事実に気がつかなかった
 小テストで記憶の定着を図るというのはとっても単純なことだが、そういうありきたりのことよりも、なにか別の、奇をてらった指導法あるいは「上手な授業」が先生たちの研修でもてはやされているのではないか。教員たちの研修が効果を上げられないのはなぜか。学力向上という視点からデータの裏付けのまったくない研修が多いのではないか?

 私自身はどうしているかというと、個別指導で一つのクラスで数人から7人を相手にしているので、学校とはまるで事情が違う。小学6年生から高校3年生、大学受験問題まで同じクラスで同時に教えている。同じ学年でも使う問題集は学力に応じて使い分ける、あるいは各自の好みの問題集をやってよいことにしている。生徒は自分で問題を選び、解く。なるべく予習方式で学習させるようにしているが、学力の低い生徒は最初の内は副朱方式である。わからなければ生徒は挙手して質問をする。わたしは生徒に問題を音読させている間に解法を組み立てて、生徒が読み終わると同時に黒板で問題を整理し、解説を始める。生徒の学力に応じて同じ問題でも解説のしかたを変えている。学力の高い生徒は計算の一部を端折っても理解できる、ヒントを与える場合は最小限で気がつくからだ。だから学力の高い生徒には中学生にも高校の範囲まで教えてしまうし、学力の低い生徒が入塾してきたら、中学生でも分数や小数の四則演算に戻った解説を入れる。基礎知識のどこに穴が開いているのかチェックするためである。図形の問題もあるいは英語でもやりかたは同じだ。チョムスキーの構造言語学の断片も中高生にわかる範囲で解説する、そのほうが関係詞や比較級や分詞句そして不定詞句は生徒の理解が速いからである。つかえる「道具」は何でも利用する。
 どきどき生徒同士で教えあっていることがある。たとえば数学は誰が得意か周りは承知しているから、教科書準拠問題集の問題をやっているときに、隣の生徒に訊くことがある。こうして「学び合い」が自然に生まれる。夢中になって声が大きくなるとうるさいことがあるから、そのときは「小さい声で説明しろ」と注意するだけ。周りに大きな迷惑がかからなければOKである。周囲に気を配る配慮は必要だ、それがミニマム・ルール

 成績がよい生徒は学校でも、周囲の友達から頼りにされる。教えてくれと言われたら、惜しみなく教えてやれとふだんから言っている。塾に通えない生徒もいる、助けが必要な同級生がいたら、助けたらいいのである。札幌の高校(進学校)へ行った生徒からもラインで質問が来て、解説することがあると言っていた。ときに1時間かかることもあるらしい。助けを必要としている友達に教えることで、理解が曖昧なところは説明につまってしまうから、どこが弱いか自分で確認できるし、復習になっている。高校1年生の生徒だが数Ⅱをやっているから、今学校で習っている数Ⅰや数Aの中程度の難易度の問題を教えることは復習にもなるし、知識の再整理にもなるから無駄にならない。自分の問題に集中したいときは、「ebisu先生の説明を聴いた方がいいよ」と振ってくる。(笑) 臨機応変でいい。こういう対応は社会人となったときに生きてくる。
 できる生徒も、できない生徒もこうしてコミュニケーションする中で「学び合い」をしている。だから、「学び合い」は塾の教室の中だけにとどまっていない。便利なもので、スマホを斜めにセットしてノートを動画で写しながら、解説するなんて技を発明した。スマホは上手に使えば、根室と札幌という空間をいとも簡単につなげてくれる。社会人となったときに、だれがどのスキルに長けているのか判断するのはとっても重要だ。困ったときにはそういう有能な人に相談できるような人間関係をふだんから築いておけたらいい。

 学力の低い生徒たちは塾では別に時間をとり補習対応している。とっても手間がかかるが、それをしないと成績をアップできない生徒がいる。学校で学力の低い生徒たち(学力テストの五科目合計平均点が300点満点で100点前後、数学に限っては60点満点で平均点が14-18点だから半数以上の生徒たち)にそんなことをしていたら、先生たちは部活指導をやめて毎日放課後補習をしないといけないだろう。じっさいに、結構な割合で放課後補習が中学校で組まれている。それでも、生徒たちの学力はなかなか上がらない。釧路市と根室管内の市街化地域の中学校の学力テスト五科目平均点をモニターしているが、B中学校もC中学校も釧路根室管内で最低レベルのままである
 学力の高い生徒が低い生徒の質問に答えて「学び合う」というスタイルは、低学力層の底上げにに強力に作用すると思う。「一人も置き去りにしない」授業は集団の名講義型の授業では不可能である。上位の生徒たちも下位の生徒たちも切り捨てざるを得ない。先生一人で25人の生徒を相手にして「一人も置き去りにしない授業」をやれる先生はほとんどいないだろう。

 だから、大館市の教育長が語った「学び合い」の授業は「一人も置き去りにしない」というテーゼを前提にする限り、講義型授業にはるかに優っていると結論せざるをえない。
 だが、実際の授業を自分の目で見ないと理解できない。なれない先生が真似をしたら、生徒たちは勝手なことをやりだして、授業崩壊を起こすだろう。就学前教育まで視野に入れて、小学校入学後の1か月で学習に集中するという躾ができなければ、やれない授業形態なのだ。そのかわりそこを上手に通過できたら、あとは楽だ。「学び合い」型授業は生徒の学力向上に大きな力をもつに違いないと感じた次第。

 現実のニムオロ塾の授業は中間を歩いている。講義型と学び合いが混在している。
 小学校の先生は別だが、極端な話だが、中高の先生は授業スキルは上手でも下手でもいいと思っている。基本はそうだが、ある程度は上手なほうがいい、わかりやすい解説というのはたしかにある。
 一月ほど前に生徒から「化学のモルにかかわる計算がさっぱりわからないので、先生は専門外でしょうが教えてくれますか」とお願いされて、受験参考書を読み、問題を数十題解いてみてから教えた。生徒のノートをみてなるほど、この教え方ではわかりにくいと思った。単位を組み込んだ計算式でやると簡単なのである。モルを含む計算は教え方で生徒の理解がまるで違うことがわかった。
 落語のように「ツカミ」や「オチ」を考えた授業も楽しいものだ。落語、講談、浪曲という話芸は間のとり方、展開のしかたなど参考になるところは多い。授業も一種の話芸ととらえることができる。
 このようにさまざまな視点から授業スキルを磨くことはあたりまえの努力だと思うが、そこにとどまらず生徒の学力向上という視点も同時も併せもちたい。
 一方で、大学の先生で授業スキルを磨こうと思う人はごく少数だろう。学ぶ気がない奴にはどんな講義も馬の耳に念仏、学ぶ気のある者には内容がしっかりしていさえすれば伝わる。小学校と大学のあいだにあるのが中学校と高校だから、段階を踏みながらに大人扱いしていくべきで、自律的に学習できる人間に育てることが最終目標だろう。

 秋田県大館市教育長である高橋善之氏の講演はいろいろな気づきのあるものだった。惜しみなく具体的な事例を開示してくれたことに心から感謝申し上げたい。m(_ _)m



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#3868 教育講演会⑤:教育長は外出中 Dec. 1, 2018 [70.秋田県大館市教育長講演会]

 秋田県大館市教育長高橋善之さんの講演会レポート5回目、最終回を書こうと思う。

 高橋さんは、ほとんど席にいない、外出しているのである。どこへ行っているかというと、人口73,000人の町の小中学校を回って、先生たちの授業をチェックしている。
(大館市の小中学生の数は4600人、根室市(人口25,000人)は1学年200人とすると小中学生総数は1800人である。)

 市内の各校を常時回って先生たちの授業をモニターしているのは驚きだ。高橋さんは授業をモニターするだけでなく、評点もつけている。最低ランクをつけた先生には人事面も含めて「それなりの対応」をしていると言ったが、具体的な内容は明らかにしなかった。「一人も置き去りにしない教育」は授業の質を高いレベルで維持しなければなしえない。学力は授業の品質と生徒の集中力次第で高くなる。そのために労を惜しまず、言いづらいことも言う。

 翻(ひるがえ)って、根室の歴代の教育長で、学力レベルを上げるために市内の全校の授業を実際にモニターした人が一人でもいただろうか?大館に生まれ、大館の小中高を卒業した高橋さんは、郷土愛が強い人である。大館の教育改革はそうした強い郷土愛に支えられている。
 児童・生徒の数からいうと根室は大館の4割に過ぎないのだから、作業はずっと軽いはず。要は、自前で必要な人材を育てるために、この地域の子どもたちの学力をアップしようという熱意があるかという問題だろう。
 
 文科省が全国1000校で保護者の学歴・年収などのデータをとっているが、大館市はどちらも全国平均以下、ところが五年続けて高い学力を維持した10校の内、大館市の学校が2校選ばれている。偏差値で言うと73くらいだ。
 大館市全体では、教員の欠員が7人欠員、そして70人の講師が投入されているが、それでも教育の品質は維持されている。

 「大館にできたことは他の町でもできる」と高橋さんが強調していた。とくに釧路市はキッズロケット(小中学生のミュージカル集団)や劇団東風が長年活動して、地域に根付いている。これらが学校教育とむすびついて動き出したら、大館よりももっと大きな教育改革の歯車が動き出す可能性があると指摘していた。
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余談: 羅臼の町にも昔はアマチュア劇団があって、全国準優勝したことがある。そのメンバーの一人、同級生のD目は数年前に故郷へ戻ったが、地域でそうした活動はやっていない。しかり羅臼の町にも芽はあるということだ。町教委と連携して学校を巡回して朗読指導をやってもらいたいな。学校教育では、児童書から大人の本への橋渡しがまったくできていない。この分野は地域の手助けがいる。劇団活動経験のある者たちは朗読が抜群にうまい。東風の片桐さんの技はすばらしい。
 この講演会の司会はずいぶんこなれた女性だった、臨機応変なやり取り、「〇〇校長、質問あるはずですが」と30歳くらいの人なのに大胆だなと思っていた。正面向かって左手脇に並べられた椅子に座っていたわたしの席からは司会者が見えなかった。「今日の司会は誰?若い女性なのに上手な司会だった」と隣の席の仲間に訊いたら大笑いされました。「潤子さんだよ」「え、金安さん、ずいぶん若い声だった」。キッズロケット主宰者の金安潤子さんだった。ミュージカル指導をしているから、ボイストレーニングを欠かさないのだろう。
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 学び合いの授業も修学旅行での大館のいいところの説明も、すべて各校に任されている。高橋さんはそれらを「百花繚乱」と名付けていた。

 成果を上げている大館の教育システムに、全国から見学依頼が舞い込んでいるという。歓迎するのでいつでもおいで下さいと言って講演会を締めくくった。大館市教委はオープンである。

  今回の講演会の仕掛け人は月田さん、かれの行動力には脱帽です。釧路市議会議長をやっていた時に大館に出向いて高橋教育長に会ってきています。同じ大学の同じ学部同じ学科の後輩ですがえらい奴がいたもんだ。(笑)
 月田さんのブログ「くしろよろしく」に、講演会のアンケートに書かれた感想文が6つ紹介されています。教員、市職員、学生の方の感想です、ぜひご覧ください。
*4408回 アンケートの声
http://blog.livedoor.jp/gekko946/archives/51867660.html

転載しちゃいます。10年ほど前からOKという取り決めになっているので。
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昨日の教育講演会。
 多くの感想が寄せられました。

 ほんの一部だけですが紹介したいと思います。
 (一切修正は加えていません^^)


〔学校関係者 男性〕
 「大館市全体の教育プログラムが形成されていることに驚いた。実践に基づいたお話しで、とても参考になりました。実際の教育の場面を見たいと思います。」

〔学校関係者 男性〕
 「置き去りにしない教育を言葉として頂いた。現場では、そうしているつもりであっても、結果的に置き去りにしていることも散見される。今一度、見直しをしていかなければならないと感じた。」

〔学校関係者 男性〕
 「教育の持つ力の大きさを改めて感じた講演会でした。教育に何ができるかを真剣に考える大人の姿勢が子ども達に伝わることで、子ども自身が能動的になるということを大館市の実践から学びました。縦の一貫と横の連携が大切であることは、これまでも考えてきましたが、考えるだけでは何も前には進まないということだと思います。まずは、自校において何ができるかを改めて校内で話し合っていきたいと思います。」

〔学生 女性〕
 「学校も教師自身も閉鎖的にならず、周りとつながる、組織的に動くことの大切さを改めて実感しました。一人たりとも置き去りにせず、一人一人を幸せにすることのできる教師を目指したいです。」

〔学生 男性〕
 「ふるさとキャリア教育は社会に開かれた教育の中にあり、学校教育だけでは完結できないというのが印象的でした。子どもたちが成長していくために、どんな授業をすればいいのかを知る機会になったので、とても良かったです。」

〔学生 女性〕
 「私は、将来教員になりたいと考えているので、教員になった際、人間力を育てる、学び合いの授業を展開したいと思いました。また、秋田県大館市の教育現場を生で見たいと思いました。」

〔市職員 男性〕
 「特別支援学校でのエピソードは、涙がこぼれる程その場面が目に浮かびました。少し前には教育行政に係わっていたこともあり、今回お話を伺った事は仕事の中でも、二人の子どもの父としても大変大切にしていきたいと思える内容が沢山ありました。未来に何が残してあげられるか考え、市民の一人としてできることを改めて考えてみたい。」
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#3867 教育講演会④:修学旅行の巻 Nov. 30, 2018 [70.秋田県大館市教育長講演会]

 秋田県大館市教育長高橋善之氏による講演会4回目は小学校と中学校の修学旅行をとりあげる。これが郷土愛を育む強力な装置になっている。ふるさとが大好きだという高校生はいまでは3人の内2人もいる。

 根室にお住まいの方は、以下の市民意識アンケートをご覧になって比較しながらお読みいただきたい。
*#1395 根室市23年度予算案:「根室再興」???  Feb. 25, 2011 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-02-25
#2332 19~29歳対象 根室市アンケート 異常に低い回収率13.2% Jun. 16, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-06-16


 大館市の小学校の修学旅行は北海道の玄関口、函館である。函館の隣の木古内町(人口4191人)で地引網体験もプログラムに組まれている。生徒たちは受け入れた人たちへ、お礼の意味も込めて大館のいいところを説明するのだそうだ。修学旅行は行く前に大館のどんなところがすばらしいのか考えることから始まっている。そして、大館のいいところを伝えるためにさまざまな資料作りの工夫もする。こうやったらこんな反響があるかな、ああやったら笑ってもらえるかな、想像した通りに行くのか行かないのか、実際にやってみなくっちゃわからない。思った通りには行かないところが、味噌だろう。そこから学ぶことが大きい。
 中学校の修学旅行は花の都・東京である。小学生の時に一度体験しているから、大館のどこがいいかはよく知っている。大館は忠犬ハチ公のふるさと、きりたんぽの町である。どちらも全国的に有名だ。渋谷駅の中堅ハチ公銅像前や麻布で通行人に話しかけて大館のいいところを説明するのだそうだ。ところが、聞いてくれるのは20人に一人ぐらい、ほとんどの人に「拒否られる」。何かの勧誘だと勘違いされるのだろう。誤解が解けたらそこから話が始まる。一生懸命に大館のいいところを説明するのだろう。ほほえましい。

 こうした修学旅行をするようになって十年、ずいぶんと小学生、中学生、高校生の意識が変わった。いまでは高校生の3人に2人が大館が大好きだという。
(大人がちゃんとしてなきゃいけないよ。郷土愛よりも私利私欲を優先する姿を何度も何度も見せつけられたら、子どもたちの郷土に対する意識が変わってしまう。)

 中学生の話題のついでに、職場体験の話をしたい。職場体験はどこの地域でもやっている。根室も各中学校が職場体験受け入れ先を探して個別に取り組んでいる。
 大館市では市教委がこれらの仕事を受けもっている。職場体験先の開拓は市教委がやり、ホームページ上で受け入れ先ごとに日程を公表し、生徒の参加を募る。生徒は行きたい職種と企業を選んで直接市教委へ申し込む。スマホでやってもいいし、市教委へ出かけて申し込んでもいい。学校は一切関与しないから、これらの準備作業から解放されている。先生たちの仕事の負荷軽減で市教委にできる部分は肩代わりしているのである。

 修学旅行を通して郷土愛を育む。小学6年生で経験し、中学3年生でもう一度大館のよいところを見つめなおす、そういうことが仕組みとして定着している、素晴らしいと思う

 次回はこの講演会シリーズの最終回です。「大館市教育長は自分の部屋に滅多にいない!」、どこでなにしてるのでしょう?案外シビアなんだ、乞うご期待。

#3351 根室市の人口減少の現状と対策: 前年同月比543人減 July 5, 2016
https://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-07-05


*#3570 中標津町立病院は年間15.2億円の赤字: 根室は? July 22, 2017
https://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-07-22-1



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#3866 教育講演会③:授業の骨格は共感的協働にあり Nov. 29, 2018[ [70.秋田県大館市教育長講演会]

 秋田県大館市教育長高橋善之氏(以下、高橋さんと書く)の講演会要旨とebisuの感想、3回目である。
 いよいよ、大館市が10年間やってきた教育の根っこのところと実際の部分を書くことになる。

<共感的協働とは?>
 教員の側からの一方的な説明は最小限(5分以内)に抑えること、そういう教育長通達を出したそうだ。宮沢賢治の教育思想に忠実なのである。
 一方的な講義は生徒に「共感」を生み出さないし、「協働」も起きない。共感と協働はセットになって現れる
 講演前に授業風景のビデオが流れていた。先生が手短に説明した後、生徒同士で学び合いが始まる。生徒の学力は大館市だってピンからキリまである。違いは、「一人も置き去りにしない」という姿勢、もっとかたい言葉で表現するなら指導方針あるいは学習哲学にある。やっている単元が理解できない生徒には、理解できた生徒が説明していた。もちろん先生もそれぞれのグループに入り込んで教えていたから、生徒の中に入り込んでしまってどこにいるのかよくわからない。いくつもの学び合いのグループができている。理解の速い生徒は理解の遅い生徒に共感をもって働きかけており、協働して困難を乗り越えているように見えた。こういうことを日常的に繰り返したら、生徒の心の中に共感的協働が習慣となり、小学校6年間でそういう共感的協働的性格が思考や行動の鋳型として形成されるのではないか。心の成長を促す授業だ。どんな名講義も共感的協働授業にはかなわないと高橋さんは言い切っていたのは10年間の積み重ねがあるからだ
 筋ジストロフィーの生徒の事例を出して説明された。学校祭で準備作業をみんなでしていた時のこと、女の子が筋ジストロフィーの生徒に近づいて行った。セロファンテープをはがす作業を一緒にするために、手足がほとんど動かせなくても作業ができるように何かセロテープに仕掛けをして一緒に作業を始めたという。筋ジスの生徒にも学校祭で役割が与えられる。一人も置き去りにしてはいけない。一つ上手に剥がれたら、耳元で「うまくいったね、やればできるね」、作業が巧く行く毎にそう耳元でささやくのだそうだ。誰に言われたわけでもなく自発的にやっている、そこに共感的協働の輝きをみたんだそうだ。その場面を思い出したのか、高橋さん、言葉に詰まっていた。

 なぜ共感的協働を授業でやるのか、その大切さをみなさんにも考えてもらいたい。教育長ははっきり言い切りました。「一人も置き去りにしない街づくりがしたい」からだと。義務教育の9年間、障害のある生徒や学力の劣る生徒、非行に走る生徒、家庭崩壊という状況で暮らす生徒を一人も置き去りにせずに、共感的協働を実践してきた子どもたちが大人になって町を支えるときに、足手まといになるからと誰かを置き去りにすることはないだろう。そのための教育なのである
 宮沢賢治の教育理念は、子どもたちを自立した人間と認めて、共感的協働ができる存在ととらえるところにある。大館市教育長の高橋さんは、そういう理想を現実の教育の中で追い求めているのだ。そのために彼は自分の部屋にいることがほとんどない。74000人の町の小中学校の授業を見て回っているからだ。そのあたりの事情は第五回目に書くことになるだろう。

 どんなに頭がよくっても、その頭を私利私欲を満たすために使う人と、能力は小さくても他人のために使う人がいる、大館の教育が目指すのは後者である
 私欲の権化のごときカルロス・ゴーン、ああいう経営者は大館市の教育システムからは出てこないだろう。「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」という伝統的な商道徳とも親和性の高い教育理念である。

 次回は郷土愛を育む修学旅行を紹介したい。小学生は函館へ、中学生は東京へ行く。ただ見学するだけではない、根室に住む私たちが考えもしないすごいことを実際にしている。自分の町が好きだ、住み続けたいという高校生は3人に2人だそうだ。パトリオット覚醒事業と名付けたい。



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#3865 教育講演会②:大館市の公教育の目的と目標 Nov. 28, 2018 [70.秋田県大館市教育長講演会]

 釧路市立図書館7階で11月25日に秋田県大館市教育長高橋善之氏の講演会があった。講演会記録の2回目をいま書こうとしている。

 高橋さんはTシャッツに犬の帽子をかぶって現れた。大館市はハチ公のふるさと、きりたんぽで有名な町だと説明を始めた。全国各地で講演するときに冒頭で大館市を宣伝することになっている、市長からも釧路に行ったら宣伝よろしくときつく言い渡されたと、おどけて見せた。一通り説明が終わると、犬の帽子をとりTシャッツを脱ぐと、ワイシャッツにしっかりネクタイを締めていた。
 釧路で講演をすることになった前釧路市議会議長月田さん(釧路の教育を考える会副会長)とのいきさつは前回書いたので端折るが、自身の口から簡潔に述べられた。
 高橋さんは宮沢賢治の教育を目指しているという。
*賢治とシュタイナー
https://www.tokyokenji-steiner.jp/about/kenji-to-steiner/
 宮沢賢治の授業
https://plaza.rakuten.co.jp/jifuku/9002/

<大館市の教育の本質>
 数字的な学力、たとえば全国学力テストの正答率は重視はしているが、学力向上が大館の教育の目標ではない。公教育は人間を育てることが目標、大館で生き抜く力をつけるということ。もっと具体的に言うと、人口減少による地域崩壊は医療崩壊から始まる(根室市がまさしくそういう段階にある)ので、それを食い止めるあるいは緩和することのできるのは教育、余所からきて何とかしてもらおうといったって、おいそれとはいかない。だから大館市では自前の医師を育てる、市の未来に必要な人材は自前で育てなけらばならない。学力が高くないと医師にはなれぬ、だから学力も大事だが、それが教育の目的ではない。

 fact1:昭和43年に終わった第1期の全国学力テストでは秋田県は全国43~45位であった。
 fact 2:第2期の全国学力テストでは初回から全国1位だったので、その時には過去問などないから、テスト対策がやりうるはずもない。過去問を繰り返しやらせているから全国1位というのは都市伝説である。

 では、なぜ秋田の学力が高いのか?
 fact3:大館市の子どもたちの家庭学習時間は全国平均以下
 fact4:学習塾への通っている率は全国1低い
   小学生18.3%、中学3年生17.4%⇒全国平均61.5%

 どこが違うのか?「授業のクォリティーの高さと子どもたちの集中力」が違う。
 東京の成城、白百合、学習院、学芸大附属から大館市のサマースクールへ毎年各校十数名の生徒と先生が来る。そこで地元の子どもたちと一緒に授業を受ける。お母さんたちにも見てもらったら、授業のクォリティーと先生たちの情熱がぜんぜん違う、というのが彼女たちの率直な感想である。首都圏の中高一貫の有名私立校の保護者がおどろくクォリテーを実現している。

 高橋さんの説明によれば、ピッカピカの新入生(小学校)が5月には様変わりするのだそうだ。わずか一月で授業を聴く姿勢ができてしまう。なぜそういうことが起きるのかというと、就学前教育を重視しているからという。何をやっているかというと、小学校の先生たちが保育所や幼稚園の授業を参観に行く、保育所や幼稚園の先生たちが小学校1年生の授業を見に行くのだそうだ。そうして相互に意見交換をする。こういうことを当たり前にやっていると保育所や幼稚園と小学校1年生のギャップがなくなる。何をどうやるかは現場任せ。そういう現場任せを総称して「百花繚乱」と表現していた。だが、現場に丸投げして全国学力テストでトップを走り続けることはできないだろう。だから、授業の質を高めるための組織的なそしてシステマティックな工夫があるはず。例えが悪いが、防犯のための鍵なら一つではなく、複数のロックがあるはず。玄関ドアだけでなく、窓にも防犯装置がついているというような。
(4回目で書く予定だが、修学旅行も生徒の自立性を信じ、共感的協働作業の場に転化する。どの場面も決まったやり方を押し付けるのではなく、生徒たちの共感的協働の場となる。それぞれ工夫しながらやっているようだ。注意して聴いていたら、もうひとつのロックが話のついでに出てきた。話を聞いてわかったつもりでやったら、猿真似になるだろう。教育技術レベルが上の先生・地域なら見えないところも工夫しながらちゃんと真似られるだろうが、そうでなければ猿真似になる。技術とはそういうもの、大館市の教育は奥が深そうだ。)
 根室でも花咲小学校と啓雲中学校がそういう教員の交流をやっていた。荒れていた啓雲中学校を正常にもどした佐藤校長のころの話である。
 学校の「荒れ」はふだんの授業態度に鮮烈にでるものだ。授業を聴かずに平気で私語をするから、先生の話が時々聞こえなくなる。そうするとその前後の話の脈絡がつかない、つまり先生の説明十の内、三つ四つが理解できないということになる。こうして「中の上」のランクの生徒たちの学力が一斉に低下してしまう。下方に偏った分布ができあがるから、平均点もはっきりと下がる。
(学校の「荒れ」は学力低下と正の強い相関関係があることが十年前の柏陵中学校の生徒たちの急激な平均点低下から分かっている。)
 大館市は、就学前教育を上手に対処することで、勉強する姿勢を小学生1年生になった1か月間で躾けているのである。そしてそれは義務教育の9年間、しっかり維持される、大館ではそういう仕組みができあがっている。

 まとめると、大館市の教育の目的は、大館市で生き抜く力をつけること、そして大館を支える人材を育てることにあるそれを保障しているのは授業のクォリティーの高さである
 次回は郷土意識の醸成と、授業のクォリティーをどうやって高く維持しているのかを書こうと思う。授業のやり方がまるで違うのだ。

<余談:根室高校からだって毎年2人くらいは医者になれる>
 11月3日実施の進研模試の結果が昨日出ている。根室高校のトップの数学の得点は95点全国偏差値は86である。もう、進研模試の難易度ならいつでも数学は百点が狙えるくらい学力がアップした。受験者が正規分布していれば偏差値86は計算上「10万人中15番」の成績ということになる。国語が崩れたのが響いて、前回に比べて、3科目合計点での偏差値が2下がった。3科目合計点の標準偏差は41点だから、3科目合計であと20点アップすれば進研模試は卒業。
 読書量が足りないのははっきりしていたから、難易度が高い本をその都度選んで5年間音読指導してきたが、高得点のときと崩れたときのギャップが大きすぎる。弱点のわかった国語についての今後の勉強の仕方を確認した。この生徒は根室高校の国語の先生に相談していまやっている長文記述式問題集をやめて、別のものに切り換えることにした。数学と英語はいまのままでいい。
 進研模試は偏差値が高い領域はあてにならない。問題の難易度が低いから95-100点のあたりにトップクラスの生徒たちがひしめき、学力差があらわれない。ケアレスミスの有無を競うだけ。
 河合塾や数台模試なら問題の難易度が高くなるので偏差値60あたりだろう。根室では受験できないから札幌で受けるしかない。それで医学部受験生の中でどれくらいの位置にいるのかわかる。

 根室の地域医療崩壊を食い止めるためには、自前で医師を育てるのがベスト
 医学部進学はお金がかかるので学力が高くても医学部進学を選択肢から外してしまう生徒がいる。でも、お金のことはなんとかできるものだ。たとえば、千葉県は4000万円まで医学部進学者に奨学金を出すそうだ。県立病院へ5年勤務すれば奨学金の返済義務がなくなる。さらに5年首都圏でいい病院を選んで腕を磨いてから、ふるさと根室へ戻ってくれたら最高である。
 そのためにも受け入れる根室の側、市と市立病院そして地元企業経営者がかわらなければならない。オープン経営へ切り替えないと、若者が戻ってこずに、際限のない人口縮小が続くことになる。時間はある、湿原を流れる川のごとくに蛇行しながらゆっくりいこう。いずれは広い海へ出る。

*標準正規確率分布表
 標準偏差3.6のところが偏差値86に該当します。
https://staff.aist.go.jp/t.ihara/normsdist.html

<授業参観でみた最高の授業と学力テストの平均点>
 あるときC中学校の授業参観に行った。数学と英語と国語の授業を見たくて行ったのだが、社会科授業も見た。とっても授業の上手な先生がおられた。DVDも使うし実物投影機の使い方もとってもうまい、それら二つの装置を使わないときの授業もじつに分かりやすかった。たとえば、「温暖湿潤」という用語が出てくると、漢字一つ一つの意味解説まで丁寧にやる。8割の生徒たちの語彙はとっても貧弱だから、「オンダンシツジュン」では意味がつかめないのである。脳内で漢字に置き換えられないだけでなく、板書しても意味のつかめない生徒が半数程度いる。
 これだけ上手な授業=名講義なのだから学力テストの社会科平均点が20点ほど高いのではないだろうかとデータを調べてみたら、有為な差が認められなかった。わたしはこの先生の授業を授業参観に行く都度観させてもらった。うまいのである。
 別の学校の理科の先生が、小テストを繰り返して記憶の定着を図ることで、他校に比べて学力テスト平均点20点アップを実現していたのをモニターしていたので、この結果は意外だった。小テストを繰り返す以上の成果を期待したが、そうはならなかった。生徒たちは、名講義に聞きほれて聞き流してしまっていたのだろうか。繰り返し同じ先生の授業を観させてもらって、名講義というものが生徒の学力を上げることができない場合もあることを知った。
 教師の授業スキル向上は大事なことは言うまでもない。だが、それだけでは学力をあげられない場合があることも事実だ。五段階評価をつけたら、その先生の授業はまぎれのない’5’だった。


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#3863 教育講演会①:11月25日釧路市立図書館7F Nov. 26, 2018 [70.秋田県大館市教育長講演会]

 11月25日午後2時から釧路市立図書館7階で秋田県大館市の高橋善之教育長を講師に迎えて教育講演会が開かれた。(左クリックして、マウスを右にドラッグすると全画面が表示できます)

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 会場に並べられた机と椅子はみるまに埋まっていき、あわてて両脇にすきまなく椅子をならべた。ライトがずらりと並び、ボーズ製のスピーカも十数台釣り下がられた贅をつくした会場だった。
 釧路市教委・釧路市PTA連合会・北海道新聞釧路支社・釧路新聞社・エフエムくしろ・釧路青年会議所・釧路商工会議所青年部・株式会社リライアブル様の後援を得て、釧路の教育を考える会が主催した。

 これから、5回ほど、この講演会の内容をレポートしたいと思う。初回はこの講演会が開かれる切っ掛けを書いておきたい。
 もうずいぶん前のことになるが、釧路市議会議長(当時)の月田さん(釧路の教育を考える会副会長)が全国学力テストナンバーワンの秋田県に調査に行ったことがあった。その折に、大館市で宮沢賢治の教育を理想に掲げて奮闘している面白い教育長がいると小耳にはさんだのである。月田さんはそのご大館市教委へ電話で問い合わせたが、あいにく教育長は不在、電話に出た人が「宮沢賢治の教育を理想に掲げているのは間違いなくうちの教育長です」と返事をしたという。その後電話をしたのか、会ったのかわからないが、高橋教育長によれば5分で意気投合し30分で親友のような気がしていたという。月田さん、フットワークが軽いから、おそらく大館まで出向いたのだろう。それから、講演会実現まで数年の月日が流れている。

 高橋教育長は大館市立城南小学校、一中、鳳鳴高校と地元の学校を卒業して明治大学法学部へ進学した生粋の大館っ子、パトリオット*である。釧路の教育を考える会の会長である角田憲治さんが開会の挨拶をしたが、角田さんは釧路市の元教育長、江南高校から北大へ進学した生粋の釧路っ子、現役時代は名物教育長として有名な人。挨拶で釧路の人口減少と教育の役割について言及した。それを受けて大館市教育長高橋さんも「人口減少は最初に地域医療崩壊として現れる、すなわち「医者が来ない」だから地域に必要な人材はその地域が育てるという自立した人材育成政策が必要なんだと力説。お二人はどこか似たところがある、そして阿吽の呼吸、面白い組み合わせだと思った。実は講演会前日に、釧路の教育を考える会のメンバーが高橋さんを囲んで飲み会をやっている。きっかけを作って月田さんともどもメンバーは友あり遠方より来る、また楽しからずや」である。

 大館市がどういうことをやり続けているのか、お聴きした範囲でレポートする。キーはいくつかあります。
 ■「大館市で生き抜く力をつける、共感的協働性を備えた大館市民をつくること
 ■「大館市の未来に必要な人材育成と人材供給は自前でやる
 これら二つが大館市の教育の目的、
 〇「共感的・協働的学び合い
   〇「一人も置き去りにしない授業
 〇「いかに優れた「講義型」授業も、「学び合い型」授業には及ばない
 〇「百花繚乱
 これらがどういうことなのか具体例を挙げて説明するつもりだ。きっと学校の先生たちの導きの糸になる。

 大館市の人口:72,735人10月末
http://www.city.odate.akita.jp/dcity/sitemanager.nsf/doc/toke.html

 教育関係者の皆様にも、保護者の皆様にも、そして子どもたちの教育のためにも、いいレポートになると思いますので、乞うご期待。
 
 貼り付けたのは26日付の北海道新聞釧路・根室版です。
 
SSCN2333.JPG

<同じ講演会をとりあげたブログの紹介>
http://office-aosaka.com/2018/11/26/【日々の動き】講演会に参加しました。/


 秋田県大館市教育委員会ホームページ

http://www.city.odate.akita.jp/kyouiku/top.html

 大館市教育委員会議事録がアップされているのでそちらもご覧いただきたい。なにがまな板に上がり、どなたが出席し、どのような発言があったのか詳細に記録されています。

 比較のために根室市教委のホームページも貼り付けておきます。毎月開催されているはずの委員会ですが、議事録はホームページを見ても見つけられませんでした。どこにあるのでしょう?
 こどもたちの学力向上に大きな実績を挙げている大館市教委はオープンなスタンスです、閉鎖的な根室市教委との性格の違いが、ホームページつくりにあらわれていませんか?
 大館市教委のようにホームページに毎月の教育委員会議事録を貼り付けてほしいと思います。いいものはドンドン真似ればいいのです。
https://www.city.nemuro.hokkaido.jp/lifeinfo/kakuka/kyoikuiinkai/kyoikusomu1/index.html


*パトリオットについて
 パトリオティズムとは「生まれ育ったホームタウンへの素朴な郷愁や誇りにすぎない」、そういう感情を魂に宿した者をパトリオットという。
#1030 nationalism とpatriotism :遠藤利國訳・幸徳秋水『帝国主義』May 17, 2010
https://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-05-17


*#1029 『現代語訳 帝国主義』幸徳秋水著・遠藤利國訳 May 16, 2010
  http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-05-16


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