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#5302 多和田葉子『かかとを失くして』『三人関係』Oct. 12, 2024 [44. 本を読む]

 一昨年11月下旬に東京へ戻ってきて、一度市立図書館へ行こうと思っていましたが、ようやく今日行ってきました。
 マウンテンバイクで坂を下がると市立図書館の最寄りの「支店」に行き当たります。標高差が50mほどあるので、帰りは登りですからちょっと辛い。(笑)
 図書館の中で本を読んでいるのは9割がわたし同様、高齢の男性です。お一人高齢の女性を見かけました。空いています。中高生が利用できるような勉強机がありませんでした。市立図書館本館にはそういうスペースがたぶんありますね。一度見学してみます。

 「利用者カード」を作成してもらって、多和田葉子さんの小説を2冊借りてきました。多和田さんは日本語とドイツ語で本を書いています。都立立川高校で第2外国語としてドイツ語を履修しています。この地区ではナンバーワンの進学校です。なかなかいい環境で育ちましたね。

 標記短編2編を読みましたが、別の時間と空間が妙なところで交差して、平衡感覚がおかしくなって眩暈(めまい)を起こすような小説です。
 『かかとを失くして』は1991年に書かれたもので、最初の受賞作品(群像・新人文学賞)です。初期の頃のようで、少し硬い。たとえば、読点が次々に連続して、句点が出てくるまで8行にわたる文章がありました。読点が延々と続き概して文章が長い。1ページに句点のないドイツの哲学者の著作を読んでいるような気分にさせられる箇所があります。外国あるいは田舎から始めての都会の駅に、学校教育が受けられることを条件に書面結婚をした年のころ十代前半の女が降り立ったところから話がスタートします。言葉がよく聞き取れない上に、訛りがあるので地元ではないことがバレバレ。22歳で単身ドイツへ渡った彼女の経験と二重写しになっているのでしょう。なぜか、結婚相手の初老の男は姿を見せないのです。女は男の姿をいろいろ想像をします。最後のシーンで、男の部屋の鍵を、鍵屋を呼んで壊して空けてもらいます。そこで発見したのは、...。そして女は未亡人となります。奇想天外な結末ですが、隠喩があります。
 『三人関係』はご想像通り、「三角関係」ではない「三人関係」、倒錯した伝奇小説になっています。性が見かけとは違った「三人関係」が二重に現れます。時間と空間が交錯し、性が捻じれた「三角関係」は、果たして現実なのか主人公の妄想なのか、定かではありません。そうした現実にあるハッキリとした境界が曖昧になっているのがこの小説の独特の世界です。エロくはあるけれど、グロくもとまでは行かぬ、微妙なあたりで何とか品よく漂うような作品に思えました。他の作家さんではこういう印象のものを読んだ記憶がありません。
 主人公は会社勤め、コピーをしていると周りの人の身体が透明に見え始めます、おかしな感覚の持ち主です。歩いているときに見えない壁のようなものと頻繁に衝突します。主人公が勤務している会社へ大学生の綾子がインターンシップでアルバイトとしてやってきます。ランチに誘っても言葉が少ない川村綾子が女性作家山野秋奈の書いた本が好きだと言います。じつは主人公もその作家のファンでした。綾子がその女性作家に好奇心があり、作家の夫で画家である山野稜一郎に展覧会で近づきます。そして自宅に招かれます、主人公はランチのときに綾子にその話を聞いたがります。東京北西部に作家が住んでいますが、中央線から乗り換えるらしいのですが、交差しているさまざまな線には「貝割礼駅」という名が見つかりません。空間がなにかの拍子で捻じれたときに中央線から乗り換えることができるようなのです。駅名が伏線になっていますね。貝は女性、割礼は男子の包茎を切除する儀式です女性のクリトリスを切除するのも割礼です。つまり、両性具有がこの物語に関係があると著者は示唆しています。綾子が画家の稜一郎と一緒に住むことになったと突然アルバイトをやめました。今度は主人公が画家に自宅へ招かれます。画家には杉本という親友がいます。その杉本を通じて主人公は画家と山野秋奈に近づいたのです。秋奈の指示で1度目に画家稜一郎とのデートでずぶぬれになった主人公は、作家の自宅へ一緒に行きます。秋奈が浴衣を出してくれて、ずぶぬれの服を脱ぎます。その背中に秋奈が大きなふくらみを主人公の背中に押し付けます。2度目の訪問の時に思いもかけぬことが起こります。秋奈は両性具有でした。バイセクシャルだったのです。画家と親友の杉本の関係もホモセクシャルを匂わせます。そこへ正真正銘の女である主人公が舞い込み「三人角関係」が「四人関係」に進展してしまいます。眩暈(めまい)が起きるはずです。途中で杉本と主人公がいつのまにか結婚しているような描写が挟み込まれます。ここでは時間軸がねじれを起こしています。杉本はバイセクシャルだということなのでしょう。
 元はと言えば、主人公の強い好奇心が引き起こした異世界への侵入、あるいは「吸引現象」を引き起こす原因になっています。アルバイトで働いていた大学生生の綾子も作家の秋奈へ強い好奇心のあることが描かれていました。強い好奇心が異世界への入り口になっています。

 『白鶴亮翅(ハッカクリョウシ)』は2023年の作品ですが、ずっとこなれて読みやすい文体に変貌しています。30年間の苦闘(?)の跡がうかがわれます。ユニークな作家ですね。この本は初版本でした。

 彼女の書いたこの2作品を読んだ後で、エッシャーのシュールな大判の絵画の本を見ましたが、なんだか普通に見えます。それほど多和田葉子の描いている世界はシュール、新感覚幻想小説です。凄い書き手です。
 1960年生まれですからもう還暦を過ぎています、でも私よりも一回りほど若い。(笑)

 多和田さんと一緒にノーベル文学賞の候補となっていた日本人は、「常連」の村上春樹さんですが、彼は1949年1月12日生まれで、わたしと同じ。ずいぶん前に出版された『1Q84』を読みましたが、エンターテインメントとしてはとっても魅力のある作品でしたが、作家として感性の鋭い「旬の時期」は過ぎてしまったという感じを受けました。これからも新しい作品を書いてファンを楽しませてください。

 こうして同時にお二人の日本人が、ノーベル文学賞にノミネートされていたというのは、日本文学のすそ野の広さを体現しているようで、誠に喜ばしいことです。
 その一方で、若い人たちが読書から遠ざかり、この20年間で全国の本屋さんが半減したという事実も忘れてはならぬことです。公立図書館が、新刊書をいち早く導入して、本を買わずに読む読者が増えたことも書店の減少の一因となっているようです。このままでは、出版社がつぶれていき、紙の本の文化が急激に衰退しそうです。質の高い学術書を出版していた岩波書店ですら社員の給与は普通の会社並みになってしまいました。あれでは校正などの質が維持できるわけがありません。学術研究書は出典をひとつひとつ原典を読んでチェックし、丁寧に校正することでその質が維持されますが、それが人材不足で維持できなくなってしまいました。普通のサラリーマンの給与しかもらえないのでは、高度な職人仕事である学術研究書の較正は、あこがれの職業ではなくなりました。報われません。そして電子書籍での出版が増えています。
 紙の文化の終わりを告げる鐘が鳴っているのが聞こえます。あなたもわたしも、紙の文化が終りを告げる大きな時代の転換点に立ち会っているのです。

 ヘミングウェイ『誰がために鐘は鳴る』の冒頭に、ジョン・ダンの詩が掲げられています。
------------------------------------------------
なんぴとも一島嶼(いっとうしょ 孤島の意味)にてはあらず、
なんぴともみずからにして全きはなし、
人はみな 大陸 (くが) の 一塊 (ひとくれ) 、
本土のひとひら
そのひとひらの 土塊( つちくれ) を、波のきたりて洗いゆけば、
洗われしだけ欧州の土の失せるは、さながらに岬の失せるなり、
汝が友どちや 汝 なれ みずからの 荘園 (その) の失せるなり、
なんぴとのみまかりゆくもこれに似て、
みずからを 殺 (そ) ぐにひとし、
そはわれもまた人類の一部なれば、
ゆえに問うなかれ、
誰がために鐘は鳴るやと、
そは汝がために鳴るなれば
------------------------------------------------

 十代の後半に世界文学全集で読んだ『誰がために鐘は鳴る』に載っていた訳詞は、これでした。
 河出書房新社から出版されたあの分厚い世界文学全集は、興味のあるものだけ、40冊ほど持っていましたが、故郷の極東の町から東京へ戻ってくるときに、終活を兼ねて処分した2000~3000冊の本の中に入っていました。あの本に載っていた格調の高い訳詞は映画の字幕で使われていたものだったようです。
 高校生は『車輪の下』をぜひ読んでください。十代の若々しい感性でないとピンとこないでしょうから。岩波文庫でも新潮文庫でも出ています。ページ数の少ない名作です。

 訳詞はこちらのブログで見つけて転載させていただきました。
*誰がために鐘は鳴る  ジョン・ダンの詩: ムーミンパパのシルエット (cocolog-nifty.com)

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#5301 弊ブログ記一覧 #5201~5300 Oct. 11, 2024 [0.1 ブログ記事履歴]


 2024年3月27日から10月11日までの弊ブログ記事タイトルのリストをアップします。
 ご覧頂く場合には、右サイドバー下段の「検索ボックス」にターゲットの記事のタイトルを丸ごとコピーして貼り付けてください。

 記事全体のリストは、左サイドバーにあるカテゴリー欄のトップに「0. ブログ記事No.索引」をクリックすると、新しい順に100個ずつリストが表示されるので、青字の部分をクリックしてください。アップした5300回すべての記事のタイトルリストにリンクが張ってあります。

#5201 四月から術場の看護師になる元塾生 Mar. 27, 2024
#5202 弊ブログ記事一覧#5101~5200 Mar. 27, 2024 
#5203 成績上位10%の生徒たちの理解力と指導の仕方  Mar.28, 2024
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#5205 台湾地震 Apr. 3, 2024
#5206 ようやく八分咲き Apr. 7, 2024 
#5207 歴史的順序と論理的順序:『資本論』の論理的破綻と新しい経済モデルについて Apr. 8, 2024
#5208 音読回数7420回クリア:和訳から英文再生 Apr. 11, 2024
#5209 心臓超音波検査:39年前の桜吹雪&世界最先端の臨床検査ラボ Apr. 12, 2024
#5210 英語シャドーイング:7630回 Apr. 14, 2024 
#5211 同調音読のススメ Apr. 15, 2024
#5212 映画ミセスダウトで英語音読効果のチェック Apr. 16, 2024
#5213 英語音読トレーニングの副次効果:耳がよくなる! Apr. 17, 2024
#5214 小中高生と本の語彙の六段階難易度別クラス分け April 19, 2024
#5215 心房細動の原因と思われること Apr. 22, 2024
#5216 オムロン上腕血圧計HCR-7201 Apr. 22, 2024 
#5217 英作文問題作成の進捗と音読トレーニング Apr. 24, 2024
#5218 高速音読トレーニングの目標値:210 words/分 Apr. 25, 2024
#5219 日銀は実質債務超過している:為替介入は無益 Apr. 26, 2024
#5220 声音の使い分けと感情移入 Apr. 28, 2024
#5221 毎日繰り返す行動⇒習慣化⇒思考様式の形成:人間の不思議 Apr. 29, 2024
#5222 築地市場跡地再開発は必要か?首都圏震災を前にして May 1, 2024
#5223 眼科受診:視野&眼底検査 May 2, 2024
#5224 円安はいいことなのか? May 3, 2024
#5225 日銀保有国債と政府国債債務の相殺は可能か? May 3, 2024
#5226 外付けkeyboard :キーのサイズ違いに注意!  May 3, 2024
#5227 大國魂神社の暗闇祭り May 4, 2024
#5228 楽しい飲み会:CROへの事業シフト Mar. 5, 2024
#5229 不満や疑心暗鬼の社員のある社員の扱い:マネジメント May 7, 2024
#5230 日本の農業政策:フランスと比較 May 8, 2024 
#5231 発音しないofの例 May 12, 2024
#5232 中国の過剰生産問題とグローバリズムの終焉 May 13, 2024
#5233 歯科:月次チェック May 18, 2024
#5234 循環器診察:心房細動 May 18, 2024
#5235 英語音読10,000回のススメ May 19, 2024
#5236 MTBで3.6度の坂を登る:心房細動起こさぬように... May 22, 2024
#5237 シャドーイングしやすいテクスト May 23, 20242024
#5238 新しい経済理論と経済社会のデザイン May 24, 2024
#5239ぽんぽこタヌキとキャンキャンキツネの前代未聞の選挙戦 May 27, 2024
#5240 日銀保有国債の実質評価損は9.4兆円:日銀発表 May 30, 2024
#5241 英語音読トレーニング:11,300回 June 2, 2024 
#5242 スマホの警戒音の驚き目が覚めた June 3, 2024
#5243 ビジネス倫理とトヨタ型式認証不正について June 4, 2024
#5244 ホッケのつみれ汁 June 7, 2024
#5245 電動歯ブラシ・ドルツEW DA37 June 7, 2024 
#5246 弱勢が英語音読のキモかもしれない June 8, 2024 
#5247 日本企業はどこから来て、どこへ向かおうとしているのか?①内部留保 June 9,2024
#5248 映画 "The sixth sense" の台詞にホロリ June 12, 2024
#5249 ラジオ英会話講座のユニークな英文法解説 June 18, 2024
#5250 歯の定期検診:monthly June 20. 2024
#5251 耳がよくなったかも? June 20, 2024
#5252 映画「モンタナの風に吹かれて」 June 23, 2024 
#5253 首都圏大震災が起きたら復興資金はどうしたらいい? June 27, 2024
#5254 音の変化:曖昧母音の/ə/へ  June 28, 2024
#5255 make have let の使い分け:NHKラジオ英会話より July 3, 2024
#5256 ようやく力みが取れました:英語音読14,000回越え July 7, 2024
#5257 英語音読:速度アップがスローモーションのような感覚へ July 14, 2024
#5258 数値で見た英語音読トレーニング:ワード数とトレーニング時間 July 17, 2024
#5259 老いてなお美しく歩こう July 18, 2024
#5260 消化器内科四か月検診 July 19, 2024
#5261 月とヒグラシ July 22, 2024
#5262 三角形の外角の定理:隠れたカリキュラム July 23. 2024
#5263 訪問介護事業所の経営破綻と高齢化社会の現実 July 26, 2024
#5264 小さな休止に注意して英語音読してみよう July 28, 2024
#5265 梅毒新規感染者激増:男10倍、女23倍 July 30, 2024
#5266 日経平均下落:2日で3192.12円 Aug. 2, 2024 
#5267 日本企業の変化を読む:日経平均2216円下落 Aug. 4, 2024
#5268 散歩と虫たち Aug. 4, 2024
#5269 集団指導と個別指導のスキルの違い:英語音読トレーニングの愉しみ Aug. 5, 2024
#5270 中国経済はなぜ混迷を深めるのか?Aug. 8, 2024
#5271 循環器専門医Dr. Iさんに相談 Aug. 10, 2024
#5272 八月十五日:哲学者による特攻兵の記録 Aug. 16, 2024
#5273 ヒロト・イングリッシュ・ワールドと演繹体系(1) Aug. 17, 2024
#5274 標津でシイラやマンボウが、別海町でサツマイモが... Aug. 19, 2024
#5275 玉川徹さん、対話するときに「論点ずらし」はご法度ですよ Aug. 22, 2024
#5276 四か月検診・検査結果 Aug. 23, 2024
#5277 池に石を投げてみた:石破氏の出馬表明 Aug. 25, 2024
#5278 "t"音の脱落、強調のcannotなど Aug. 25, 2024 
#5279 台風10号水害と自動車メーカーの役割 Aug. 30, 2024
#5280 notの読み方 Sep.1, 2024
#5281 歯科治療 Sep. 6, 2024
#5282 自民党総裁選挙で見た三世議員二人の感覚と論理と資質 Sep. 7, 2024
#5283 「解雇規制の撤廃」⇒「大企業に限定」⇒昭和型の終身雇用の破壊が目的… Sep.13, 2024
#5284 英語音読2万回クリア Sep. 15, 2024
#5285 「51-51」熱血野球漫画家でも描かない物語 Sep.21, 2024 
#5286 能登半島で水害 Sep. 21, 2024
#5287 今年の初秋刀魚 Sep.22, 2024
#5288 湊かなえ「C線上のアリア」から Sep.23, 2024
#5289 すっかり秋 Sep.24, 2024
#5290 歯科治療 Sep. 25, 2024
#5291 "The movie is a bit hard to follow." Sep. 25, 2024
#5292 自民党新総裁選挙で石破茂氏が逆転勝利:彼の思考回路 Sep. 27, 2024
#5293 大学入試共通テスト:来年1月新課程入試実施 Sep. 28, 2024
#5294 心の動きをコピーをしてみた Sep. 29, 2024
#5295 数学的思考を育む:問題集『シリウス数学』から Oct. 2, 2024
#5296 経済ブレーンの不在①:健全な保守主義とは? Oct. 04, 2024
#5297 裏金議員一部非公認へ:健全な保守主義 Oct. 7, 2024
#5298 ノーベル文学賞有力候補の一人多和田葉子さん Oct. 7, 2024 
#5299 分速147 wordsのナレーション :NHKラジオ英会話 Oct. 8, 2024
#5300 三本連結クラウンは保険診療で可能か? Oct. 11, 2024 

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#5300 三本連結クラウンは保険診療で可能か? Oct. 11, 2024 [39. インプラント治療]

 左下3~5番を治療中ですが、強度の関係から、三本を連結して義歯を入れられるかドクターが義歯を製作している企業へ問い合わせてくれました。
 保険診療対象の義歯は、プラスチックの既製品のブロックから、CAD/CAMを使って削り出します。その元になるブロックの幅が2本用までしかありません。問い合わせていただいた結果、3本連結は既製品のブロックの幅が2本までなので、次に治療を予定している2番と、2本2本に分割することになりました。
 ニーズが増えれば、そのうちに3本連結クラウンも保険診療で可能になる時代が来るのでしょう。

 ところで、70歳を過ぎてから、ドクターは高額なセラミックスの義歯を勧めなくなりました。「セラミックスでなくても10年もちますから、もう必要ありません」と保険診療の方を勧めてくれます。
 80歳近くになってインプラントをやってくれという患者さんもいますが、あごの骨がスカスカになっていたり、薄くなっているので、高齢になってからのインプラントはトラブルになりかねないので、要求があっても理由を言って、断るようにしていると、いつだったか話してくれました。ああ、わたしもそういう年齢域に入ったのだなと、感慨深かった。ビジネスは信用が第一です、無理な治療は勧めないし、しないがいいのでしょう。

 型を取ったので、できあがってくる日に、通院を予定しています。仮歯が入っているので、不自由はありません。唯々感謝、ありがたい。スキルス胃癌と巨大胃癌の併発で胃と胆嚢の全摘と、浸潤していた横行結腸の一部切除をしているので、歯がダメになったら、この世とさようならなのです。
 3月下旬に心房細動を起こしているので、たぶんそれだけではなく、身体はあちこちガタが来ています。いつお迎えが来ても心残りはありません。それまでいくらか元気に生きられたらとっても幸せです。幸せは、こんな風にいつでも足元に転がっているものなのかもしれません。
 いくつかやりかけのことの一つぐらいは決着がつけられる、つかないかもしれません。天にお任せし、心は軽い。

<余談:英作文問題と解説開頭のメール配信>
 10人ほどまだメールで英作文の問題と解説解答を週2回のペースで続けています。便利ですね。一昨日、配信したメールが一人だけ、配信不能のメッセージが入っていたので、「メルアド変わっていたり、そうではなくて不要だったら、配信グループから削除するので、連絡ください」とメールしたら、すぐに返事があって、「必要です、送ってください」とのこと。さっそく、彼に再送しておきました。高校3年生なので、受験の時期が近づいています。頑張りぬいてほしいと思います。
 現在配信中の人たちは大半が高校3年生ですので、英作文問題とその解説解答は12月末で終了の予定です。水曜日に送ったのが#1112です。最近作成したのは#1954です。これから12月末まで104回増え、#2058で年越しすることになります。もう2万問題を超えました。946回分「在庫」があるので、週2回だと年間104回ですから、9年配信を続けられるだけありますね。もうほとんど自分の学習用です。英語音読も(80words換算で)21,590回になりました。塵も積もれば山となる、その通りです。そして毎日が楽しいのです。(笑)
 メールを受け取って、勉強してくれている生徒がいたから、ここまで続けられました。とりあえず、皆さんありがとう。わたしと一緒に、もう少し頑張ってみてください。

<10/11アクセスの多かった弊ブログ記事>
#3461 情報収集・整理の仕方と文書作成の基本 Nov.21, 2016


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#5299 分速147 wordsのナレーション :NHKラジオ英会話 Oct. 8, 2024 [49.1 英語音読トレーニング]

 今日(10/8)放送分、(大西泰斗先生担当の)ラジオ英会話のダイアログが快適なテンポで流れていたので、読上げ速度を計測してみました。
 81 wordsを33秒で読んでいました。分速に換算すると147 wordsです。ふだんは120 words/分前後ですから、20%強アップしてました。ふだんよりも会話のテンポが速いと感じるわけです。
 ナレーションの速度には幅があって、どうやら110~150 words/分ということのようです。
 ナレータは臨場感を出すために、物語やシーンに応じて、自在に速度コントロールしているのでしょう。ダイアログには心の動きが表現されていなければなりませんし、その心の動きはシーンに応じて静と動との色合いがそれぞれ違います。緊迫した状況や過剰が激しく動くときは会話速度が速くなるのは自然なことです。リラックスしているときはゆったりとした雰囲気でも会話になります。そういうことがナレーションの速度に影響しています。

 今日放送のテキストを引用します、時間を測って読んでみたらどれくらいの速度か実感できるでしょう。
 
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Stacy Derek, do you ever watch the Kelly King Show?
Derek Year, sometimes. Its that talk show, right?  Why?
Stacy Well, I just got a phone call from them. Theyve invited you to be on the program.
Derek Just me? And not Bill?
Stacy Kelly already had Bill on the show before.
Derek Ah, yeah, I saw that one. Sure, I can do it.
Stacy Not so fast, Derek. The question is whether you should accept the invitation or not.
Derek Well, why shouldnt I?
Stacy Bill might not approve.
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 青でマーキングした部分"that one"は「ザラン」と読まれていました。180 words/分の高速音読トレーニングをしばらく試したので、150 words/分は問題ありません。心の動きもしっかりトレースしながら音読できるようになっています。ちょっとうれしい。(笑)

 ところで、このごろテレビで放送される外国の映画は、英語のまま(字幕あり)で見ることが多くなりました。

<余談:「ワッチゴナドゥ」>
 今日放送の東京テレビの映画『ウェズリー・スナイプス ザ・シューター』を見ていたら、「ワッチゴナドゥ?」というセリフが聞こえてきました。
  "Whachi gonna do?"
 分解すると、
  "What are you going to do?"「どうするの?」
 こういうのも日本語字幕を見ながらなら、聴きとれるようになってきました。日本語字幕を参考にして、英作文すれば、何を短縮したのか見当がつきます。こういう芸当ができるようになったのも、音読トレーニングの効果のひとつでしょう。

 この手のフレーズは会話文に慣れないと聴き取れませんね。映画見ることが、そのままリスニングや英作文の学習になってしまいます。知っている語彙の確認や、シーンに応じた表現の多様性にも巡り合えます。たのしい!


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#5298 ノーベル文学賞有力候補の一人多和田葉子さん Oct. 7, 2024 [22. 人物シリーズ]

 村上春樹氏は常連ですが、多和田葉子さん(1960年生まれ)という人が、ノーベル文学賞有力候補の一人であると報道されています。神保町の洋書店の娘さんです。都立立川高校で第2外語にドイツ語を履修したのは、そうした生活環境も寄与したのでしょう。あの地域でナンバーワンの進学校ですが、第2外語を履修できるんですね。高校生がその才能をのばすために、とってもいい制度です、すばらしい!
 早稲田大文学部ロシア語学科を卒業して、すぐにドイツへ渡り、書籍取次店で研修生として働き始めました。その時のことが今回のテーマになっています。彼女は後にハンブルク大で博士号を取得(2001年)しています。

 ドイツの書籍取次店で働き始めたときに、ある日同僚が言った罵りフレーズに驚きます。日本人の発想では出てこない表現だったのです。そのあたりのことをTalisman(お守り)という作品に収められたVon der Muttersprache zur Sprachemutter(母語から語母へ、英語で書くとFrom mother language to language mother)に書き記しています。面白いので原文を紹介します。


Eines Tages hörte ich,  wie eine Mitarbeiterin über ihren Bleistift schimpfte: "Der blöde Bleistift! Der will heute nicht schriben! "  Jedes Mal, wenn sie ihn anspitzte und versuchte, mit ihm zu schreiben, brach die Bleistiftmine ab. In der japanischen Sprache kann man einen Bleistift nicht auf diese Weise presonifizieren. Ein Bleistift kann weder bölde sein noch spinnen.
<日本語訳>
「ある日、同僚が自分の鉛筆を罵っているのを耳にした。『このバカな鉛筆!どうかしてる!今日はちっとも書こうとしないんだから!』 彼女が鉛筆を削って書こうとするたびに、芯が折れるのだった。日本では、誰かが自分の鉛筆をこのように擬人化することはあり得ない。日本では、誰かが自分の鉛筆を、まるでそれが人間であるかのように罵るのを聞いたことはなかった。」

 ドイツ人は鉛筆(物)に魂が宿っているかのように扱い、言語化するようです。戸惑いますね。ドイツ語に限らず英語にも「モノ主語=無生物主語」が多いことと、このようなアミニズム的な物的外界の把握は関係があるのかな、とふと思いました。そうしたものを言語表現を産み出す源ということで「語母Sprachemutter」と命名したのでしょう

 たとえば、The sign says "keep out around here".「標識に、「この付近は立ち入り禁止」と書いてあります」。「標識が言っている」なんて感覚や表現は日本語にはありません。そういう「モノ主語」の文章を産み出しているのが、意識の底にあるアニミズム的な外界の把握です。ふだんは意識していませんから、潜在的な意識に属しているようです。それぞれの言語に特有な、そうした無意識層の外界の把握の様式が、固有のあるいはいくつかの言語に共通な文章表現を産み出していることは、日本語を母語として育ち、ロシア文学を第2外国語として学び、ドイツ語を第3外国語として言語を重層的に学んだからこそ、気がつけたように思います。言語に対する彼女自身のユニークな視点がさまざまな作品の中に見つかるかもしれません。

 「鉛筆」ではなく「Bleistiftブライシュティフト」と声に出すと、たしかに鉛筆が魂をもっているかのように感じると多和田さんが書いています。使いものにならぬと罵られて、屑籠に棄てられたBleistiftが、「突然生きているように思われた」のです。日本語の「鉛筆」という語が頭に浮かんだら、多和田さんにそんな感覚は生じないということなのです。
 同じ対象を指している言葉なのに、ドイツ語だからそうした感覚が生まれることに気がつきました。ドイツ語という言語に固有の現象だと感じたのでしょう。
 三つの言語を日本で学んだだけではこのような感覚は生まれそうもありませんね。大学を卒業してドイツに住んで仕事をしたからこそ、このような感覚が生まれたのでしょう。
 使う言語によって異なる反応が自分の脳内に起きることを多和田さんはよく観察しています。
 自分の脳内の反応を観察するって楽しいのです。哲学用語では「内省」といい、仏教用語では「内観」といいます。仏教用語の方がピッタリきます。わたしもよくやるので、内観はほとんど習慣になっています。

 多和田さんは言葉の感覚の鋭い人のようですから、作品の中からそうした表現を発見するのは楽しいことになるでしょう。amazonから何冊かリスト・アップしてみます。終活で本の半分以上2500~3000冊ほどを処分したので、なるべく本は買わないようにしています。近くの図書館で手に入るものを次々に読んでみるというのがよさそうです。一人の作者の本を片っ端から読んでみるというのは、他人様の脳内を覗かせていただくようなものです。

 夏目漱石、司馬遼太郎、津村陽、三島由紀夫、池波正太郎、筒井康隆、夢枕獏、山本周五郎、浅田次郎、...。18歳のゴールデンウィークが終わったときから、この種の本を読むのを十年間ほど封じました。だから、ぱらぱらと挙げた本は20代後半から、暇なときに読んだ本です。十代と二十代の前半は哲学や経済学で読みたい本があったからです。一日24時間は誰にも平等に与えられていますから、人生のある時期、何に優先的に使うかはとっても重要なのです。毎日十時間程度を費やして、1年かけなければ理解できないことがいくつかありました。いや、30年かかったものもあります。愚鈍ですから、時間がかかります。大きな遠回りに見えて、実際はそうではありませんでした。思いがあれば道は自然に拓かれるものです。
 
 ところで、ドイツ語原文は、NHKドイツ語10月号から引用しました。
 彼女は日本語で書いた本もあります。数々の賞を受賞しています。こういう日本人がいることを今まで知りませんでした。高校で第2外語を履修できるというのは、すばらしいことですね。多和田さんのように、第2外国語にのめり込む高校生が他にも出てきてほしいですね。主な受賞記録を書いておきます。

 1993年『犬嫁入り』で芥川賞
 2003年『容疑者の夜行列車』で伊藤整文学賞と谷崎潤一郎賞
 2005年ゲーテ・メダル
 2016年クライスト賞(ドイツ)
 2018年全米翻訳図書賞

 ドイツ語で本を書いている女性がもう一人います。松原久子さん(1935年~)という人です。『驕れる白人と闘うための日本近代史』という本を書いています。世界史を履修している高校生のみなさんにおススメします。
1987年にドイツから米国へ移住しています。
 高校生のみなさん、チャンスを作って、若いうちに、海外へ飛び出してみたらいい。

<余談:便利なグーグル翻訳>
 下線を引いたwieという単語は、辞書を引くと「1.how、2.what、3.as、4.like」しかありませんが、どれもピッタリきません。3と4は接続詞ですが、thatがないのです。大独和辞典でも引いてみました。
 wie以下は動詞hörteの目的語になっているので、英訳すると次のように書き換えられます。
 One day I heard (that) a collegue swore at her pencil.

 独英翻訳ソフトがあれば確かめられると思って、ネット検索したら、グーグル翻訳がありました。ドイツ語をそのまま入れたら、次の英文が表示されました。
 One day I heard a co-worker complaining about her pencil.

 どうやら、目的語のthat節を導くために、ドイツ語ではwieを使うようです。グーグル翻訳便利です。わからないときはドイツ語を英訳してみて、グーグル翻訳と比べてみることにします。



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