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47. 語彙力と「読み・書き・そろばん」 ブログトップ
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#4951 読み・書き・そろばん:小3終了までにやっておきたいこと Mar. 25, 2023 [47. 語彙力と「読み・書き・そろばん」]

 小学校低学年(1・2・3年)でしっかりに身につけておきたい基本技能があります。それは少し高めの「読み・書き・そろばん」の基本技能です。

 「読み」は読点(「。」)のある所まで、文章を息継ぎなしに一気に読めればいい。たくさん本を読む習慣のついた子供は、2行にわたる文章の先読み技術が少し身についてきます。1文で改行のあるものを音読させたら、先読みできているかどうかはすぐにわかります。先読みできる生徒は音読に切れ目がありません。先読みできなければ、その行の終わり改行業部分にちょっと間ができます。1文を一気に読めないと、文章の意味内容が頭に入って来ません。
 中1になると、速く読める生徒(上位10%)と遅い生徒(下位10%)では、おおよそ5:1くらいの読書速度の差があります。

 「書き」は漢字の正しい筆順をしっかりマスターしましょう。筆順の原則は二つ。①上から下へ流れる、②左から右へ。これだけでほとんどが理解できます。左側に位置する偏の之繞が旁よりも後に書くのは、之繞の終筆が旁の右下へ来るからで、「上から下」という原則通りなのです。だから、「①上から下へ流れる」が第一番目の原則です。
  3年生までの漢字はそんなに多くないので、繰り返し書いて正しい筆順を身につけます。正しい筆順で書くと、漢字のバランスがよくなります。つまり美しい字が書けます。筆順を無視するとバランスの悪い字になります。正しく書けたら、次の目標は「視写(=文章を見て書き写す)」の速度アップトレーニングです。中学生の視写速度を計測するのに、北海道新聞のコラム「卓上四季」を使っていました。朝日新聞なら「天声人語」です。「よーい!はじめ!」で計測をスタート、書き終わったところでストップ、スマホのストップウォッチ機能を使うと好いでしょう。
 中1の5人の生徒で試したら、2:1の速度差がありました。

 「そろばん」は加減乗除の四則計算能力です。珠算を習わせるのが一番速い。計算能力が一番差が大きいのです。小3が終わるまでに逆九九がすらすら出るようにトレーニングします。4と6と7の段で引っかかる生徒が多いので、とくにこの段の逆九九は徹底的にトレーニングしてください。割り算の苦手な生徒は逆九九がすらすら出てきません。たかが九九に30秒もかかってはいけません。除数が2ケタの割り算の筆算の際には、除数を1ケタにして(1ケタ以外は切り捨てる)商を探してください。2ケタで考えると手が止まってしまい、時間が数倍かかりますから、苦手になります。
 中1の生徒5人にやらせてみたら、最速の生徒と一番遅い生徒で「30:1」でした。速い生徒が30題やるのに、遅い生徒は1題だけしかやれませんでした。普通の計算速度の生徒と珠算3段の生徒では計算速度に1:50くらいの差があるでしょうね。珠算が計算技能に及ぼす影響の大きさが理解できます。ソロバン以外でこんなことは不可能です。小学校のある時期に1~2年間、珠算を習わせることをおススメします。

 さて、効果について記してみます。
 読みの速度が平均的な速度の2倍あれば、国語の問題は2回読めますから、国語の点数がいいでしょう。2倍の速度で読める生徒は先読み技術が身についています。小学校高学年での読書量に大きな差がついてきます。小学校高学年や中学校で濫読期を通り抜けた子供は、読書量が圧倒的に多いので、文章理解力が圧倒的に深くなります。数学の問題も一気読みできると、題意がつかめます。大問がありその次に(1)の問題があるとき、読む速度の遅い生徒は、(1)を読んでいるときに大問の文章を忘れていることがあります。数学の問題も読みの速度と、文章理解力が決定的な差を生みます。
 書く速度が平均的な速度の2倍の生徒は、先生が黒板に書いたことを、授業を聴きながらノートに書きとることができます。遅い生徒は、ノートに書き始めたら、先生の話が聞けませんから、授業の理解力に大きな差が生じます。家に帰ってから1時間勉強しても、書く速度の大きい生徒の理解に追いつきません。科目が3科目なら3時間勉強しても追いつかないということになります。つまり学習効率に大きな差が生じてしまうのですから、視写速度の重要性は大きい
 計算能力、とくに速度の大きさの差は、学年が上がるごとにシビアな影響が出てきます。高校数学は数列や微分積分、複素数平面など、どこでも四則計算が出てきますから、計算速度が大きくないと、試験時間内に終了できません。

 知らない漢字が出てきたら、国語辞典や漢和辞典をすぐに引いて調べる習慣を育みましょう。辞書の引けない生徒が多いのです。知っている語彙を増やしておくと、知らない漢字熟語が出てきても、基本漢字の意味が理解できていれば推測できます。日本人は日本語で思考していますので、語彙の大きさは思考の深さと関係があります。語彙の貧弱な生徒は思考も浅くなりがちです。コミュニケーションでは語彙が豊富な生徒は自分の気持ちを豊かな語彙で表現できます。知的な大人の話も深く理解できるようになります。

 小学校低学年での「読み・書き・そろばん」のトレーニングの重要性がご理解いただけましたでしょうか?

*計算速度を測ったときのことを書いた記事です。
「#4550学習習慣のない生徒はどれくらいか?」
 電話で小2の生徒のお母さんから相談があったので、来てもらって家庭での計算の指導法について説明しました。
「#3374小学校2年生の算数:足し算引き算の教え方」


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#3705 セキュリティコードと暗号化キー:突然の接続切れ Mar. 1, 2018 [47. 語彙力と「読み・書き・そろばん」]

 一昨日、寝る前にパソコンでネットサーフィンしていた、自分のブログへアクセスしようと画面を切り替えたら、とつぜんにつながっていないというメッセージが出た。10分ほどトラブルシューティングしてみたがなんともならない、あきらめて寝た。
 翌朝、もう一度見たらルータへの接続ができないことが分かった。画面には利用可能なSSID(アクセスポイント名称)が並んでいる。使っているルータがリストの先頭と2番目に並んでいる、SSIDに使われている数字の部分を覚えていた。(A)と(G)で区別されていた。(A)のほうが高速の5GHz、(G)は2.4GHz、デュアルバンドだ。別のパソコンをチェックしてみると、同じルータへ接続できているからルータの異常ではない。
 さて、どういうことだろうと、状況を思い出してみた。コンセントから外して使っていたので、バッテリー残量が限界点に来ていて、コンセントへ差し込んだ直後に接続切れが生じた。使っているノート型パソコンは昨年12月に買ったマウスコンピュータの製品。

 リセットするために電源を切って再立ち上げしてみたが、やはり「未接続」の表示。接続アイコンをクリックしてみたら、パソコンはルータへの接続に繰り返しトライしているようだが、つながらないまま。ルータの機種名の表示をダブルクリックしてみたら、「セキュリティ・コード」の入力を促す表示が出た。これは何だったろうかと考えて、わからないので、ネットへの接続IDを入れてみたが入力欄からはみ出す。ああ、違うのだなとわかったので、思い出してみる。ああ、ルータの「暗号化キー」のことだとわかった。こういうコードは別途管理しているのだが、そこにはなかった。ルータのインスタレーションに来た人がここにあるからと言っていたのを思い出し、確認した。あった!「暗号化キー」を入力したら最初は反応せず、2度目にトライすると今度は通った。それでOK、つながった。
 デュアルバンドの両方を接続するとエラー表示が出る。片側を切断するとOKのようだ。もちろん高速の(A)のほうで接続した。

 ここで思ったこと。パソコンの画面では「セキュリティ・コード」だが、製品についてきた紙には「暗号化キー」、日本語の表示が異なると違うものだと勘違いするユーザは少なくないだろう。この二つの語彙の包含関係は「セキュリテイコード ⊃ 暗号化キー」、セキュリティコードは暗号化キーの上位概念である。さまざまなセキュリティコードの一つが暗号化キーと言い換えてもいい。
(本を読んでいるときに相互に関係のある概念が出てきたら、その包含関係をイメージしながら読み進むと論理的な理解が速くなる。)
 パソコンのトラブルシューティングには基本的な専門用語を理解する「語彙力」が必要だ。現在の高校生は「情報処理」という科目があるから、一般的なコンピュータ専門用語は知っているから、この程度なら判断がつくのではないか。いや、スマホを使っているから、wifiに接続するときに入れるパスワードのことだとほとんどの生徒がすぐに気がつくだろう。
 ルータには高機能なものがあり、管理者権限とゲストでパスワードを使い分けられるものがある、もちろん値段は高い。
 わたしはいまだにガラ携だが、生徒たちは全員スマホ、こういうことに慣れている。(笑)

 過去のソネット通信をググってみたら、セキュリティの解説をしているものがあったので、ざっと目を通す。ルータの乗っ取り防止のために、ルータとパソコンの通信は暗号化方式をとっている。最近の高速ルータは様々な設定が自動的になされているから、手動で設定しなくていい。ルータのファームウェアも自動更新されていることがわかった。

 ところで、なぜ接続が突然切れたのかはわからずじまい。しばらくの間は理由が気になるだろうな、しかし同じ現象が起きたときの対処法はわかった。
  ELECOM社がホームページ上で無線ルータについての詳細な解説をしているので、気になる人はご覧ください。vol.1からvol.43まであります。

Vol.9 無線LANルーターのSSIDとは?
http://www2.elecom.co.jp/network/wireless-lan/column/wifi_column/vol09/


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#3493 英語の語彙力の問題:中2年生 Jan. 21, 2017 [47. 語彙力と「読み・書き・そろばん」]

 中2の生徒が中3の英語の問題集をやっているのだが、文法がわからないところがあって不安だという。習った範囲の英文法はほとんど理解しており、学力テストで英語はいつも9割を超えているのだが、それでも文法に不安があるという。話が曖昧模糊としていてどこに問題を感じているのかチェックしたくなった。

 内容語と機能語の説明と音読の話をしようか、五文型を説明しようか、語順の話をしようか、冠詞の話をしようかとメニューをいくつか提示してから、最初の項の説明をはじめた。文法専門用語が中学生には不案内であるから、限定詞とは何か、たとえばthisは名詞を修飾する限定詞と「これ」や「上述のこと」を意味する指示代名詞の二通りの機能があるが、機能の違い、文法用語の概説もしなければならない。説明を途中でやめた。テーマごとにレジュメを渡してやるべきだと気づいた。こういうときは方向を変えたほうがよい。

 何か具体的な質問があるかと訊いた。そこから探ればよい。英作文で手も足も出ない問題があるというので、問題文を見た。

 「太陽は東から昇り西に沈む」

 中学校の教科書にはこういう文は出てこない。太陽がsunであることは知っていたが、定冠詞をつけなければならないことは知らない。「地球人」が太陽といったら、それは毎日見ている太陽だから、定冠詞がつく。冠詞の知識が足りないことがわかった。まだ中2だからあたりまえだ。
 東から上って西に沈むのは毎日繰り返されることだから、単純現在形で表現する。もっと高級な言葉で言うと「普遍的な真理」を高校では習う。これも文法事項だろう。
 「水は百度で沸騰する」"Water boils 100 degrees Celsius."

 「昇る」はrise、これは自動詞で、「持ち上げる」はraise、「raise the Taytanic」という映画があった。沈没した豪華客船を「浮上させる」という意味だ。climbも「のぼる」だが、こっちは「登る」ほうでclimb the mountain 、句をセットで覚えるといい。句とは何か、節とは何か、文とは何か、これも文法用語の定義が必要になる。
 「沈む」はsinkではなくてset。sinkもsetも頻出動詞だから不規則変化である。「(東に)昇るは」 from the east ではなくて、in the east だ。「東の空に昇る」くらいの意味だろうが、これは知らないとできない。こういう語彙や用法を知っていないと「太陽は東から昇り西に沈む」という簡単な日本文も英文にできない。

 学校の教科書を読むだけではインプットがあまりにも貧弱だから、英語の力はたいしてつかぬ。たくさんの英文を読めば語彙力は拡張できる。「読み・書き・ソロバン」である。この生徒はいま斉藤隆著『語彙力こそが教養である』を音読テキストにしてトレーニング中なので、日本語・語彙力の重要性はよく承知しているから話は簡単だ。英語も同じことなのだ。
 日本語で書かれた優れた文をたくさん読めば読解力が育つ。そしてたくさんの文をインプットすることで、用例が蓄積され、書けるようになる。見て書く「視写」のようなトレーニングもやる必要がある。3回英文を読んで、それを書くトレーニングが効果が大きい。日本語も英語もスキルアップの仕方は似たようなものだ。
 「太陽は東から昇り西に沈む」という短い文ですら、中2程度の語彙力では手も足も出ない。
 
 The sun rises in the east and sets in the west.

 「高速道路を時速60マイルで車が走っていた」という問題にもてこずっていた。熟考の末に次のように書いた。

 Car drived on the highway.

 おいおい無冠詞のcarでは具体的なイメージがわかないので困る。ここでは a car だが、carを主語にしたら「車が運転している」というヘンな文になってしまう。driveは不規則動詞で過去形はdroveだが、ここは過去進行形を使う。進行相を使うということがわかっていないようだ。どういう場合に単純現在形を使い、どういう場合に過去形を使い、どういう場合に過去進行形を使うのかという判断があいまいだ。だしかにこれらは文法に関連してはいるが、実はインプット不足が一番の原因だ。正解は次の文だ。

 A car was running on the highway 60 miles an hour.

 解答には along the highway となっていた。along の本義は「(長さのあるものの)最初から最後まで、全体の」が基本義*。along the river では「川沿いに」となるが、along the highway だと「高速道路上を」という意味になる。どちらでもよい。

 「走る」が人間が走るrunningのも車が走るのも同じ単語だというのも語彙知識。日本語でも、「人が走る」「犬が走る」「車が走る」「電車が走る」「川が走っている」とみな同じ「走る」である。

 「何が足りないと思う?」とその生徒に訊いてみた。
 「単語を知らない、そして文法がわかっていないのだと思います」
 「どうすればよいかもうわかっただろう。、たくさん読み、書くことだ。大事なのは「読み・書き・そろばん」、インプットが不足しているから語彙力が貧弱で教科書以外の語彙を使う英作文ができない」

 ハンドルネーム後志のおじさんが、NHKラジオ基礎英語の利用を推奨しているので受け売りしてみた。30回同調音読と書き取りトレーニングである。
 中2だから「NHK基礎英語2」がいい。簡単だったら「NHK基礎英語3」をやればいい。1年間音読トレーニングを積めば内容語や機能語を意識して上手に読めるようになる。
 「数学は楽しいのでいくらでもやれるが、英語のトレーニングは続けられる自信がありません」
 「いいんだ、3ヶ月でもやればやっただけ効果は出るから心配要らない。そして少し期間をおいてまたやったらいい。」
 音読が上手になったら、高校教科書3年分を9ヶ月くらいかけて塾の授業で読む。並行して" Grammar in use Intermediate" か 『マーフィのケンブリッジ英文法』のどちらかをやる。その次のステップは英字新聞ジャパンタイムズの記事だ。
 これくらいで日本国内の難関大学英語二次試験はクリアできる。

 毎日15分間のラジオ講座を録音して、繰り返し音読トレーニングを30分間やり続けるのは男の生徒にとっては結構辛い。男子生徒はこういう単純な繰り返し作業に向いていない者が多い。3ヶ月やっても効果はあるから、1年ではなくてとりあえず3ヶ月がんばってみたらいい。音読のコツがつかめたら、読むものを増やせばいい。とにかく、大量にインプットして、語彙力を拡張することが肝要だ。

 録音装置は最近はいいものがでているので、ネットで調べたらいい。ソニーのレコーダ付きラジオとMP3プレイヤーがよさそうだ。わたしは5年ほど前に買ったサンヨー製のラジオレコーダーICR-RS110Mを大事に使っている。
 ジャパンタイムズの購読をやめたので、NHKラジオ「ニュースで英会話」を聴いている。読むのとは違っていて楽しい。語彙の収集が自然にできて便利この上なし。


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#3423 スーパー・アンカー英和辞典 Sep. 27, 2016 [47. 語彙力と「読み・書き・そろばん」]

 先週土曜日にツタヤで英和辞典を買った。
 『スーパー・アンカー英和辞典第5版』ミッキーマウス版

 ミッキーマウス版は内容はまったく同じなのだが、100円高い。生徒が喜んで手にしそうなので、こちらを選んだ。

 GINIUSの版が変わるたびに購入していたのだが、書店で手にとって見てもなぜか第5版は買う気が起きないので、棚にある辞書を数冊引き比べたのである。活字が変更になったようで、見辛くなった。引きやすさよりも、収載語数を優先した結果だろうから、これはこれ、しかたがない。
(『E-Gate』の説明が図を多用していてとってもよかったのだが、絶版になっている。current のコア・イメージを三本の波線であらわした図はシンプルで、なるほどと感心した次第。)

 any と some をどう説明してあるか、語義の見易さ、collocationは載っているか、と確認しながら見たら、これが一番使いやすそうだった。
 any を引いてみたら、紛れの小さい説明が載っていた。GINIUS4版よりはずっとわかりやすい。any の用法や用例、解説については辞書よりも『表現のための実践ロイヤル英文法』のほうが詳しいが、高校生が学習用に使う分にはこの辞書の説明で十分。
 説明が一番惹かれたのは、諺(ことわざ)が載っているところである。具体例を書いたほうがわかりいいから3つぐらい挙げてみる。

 loaf の項
 ● Half loaf is better than none [ no bread] (at all).
    パン半分でもないよりはまし

 live の項
 ● Live and learn.
   長生きして学べ

 bread の項
 ● Man does not live by bread alone. 
    人はパンのみにて生くるにあらず

 短いものばかりだが、それぞれの用例には使うシーンを英語で説明してある。こんな遊びがあって「引くのが楽しい辞書」なのである。


 「頻出表現メニュー」というのも便利である。break を見よう。

 break a bone [hip]  骨折する〔腰の骨を折る〕(→ 3)
 break the silence  静寂を破る(→ 5)
  break a habit  (悪い)癖を断つ(→ 5)
  break a promise  約束を破る(→ 6)
  break a rule  規則を破る(→ 6)
  break a record  記録を破る(→ 7)
  break the news  (悪い)ニュースを知らせる(→ 8)
  break a code  暗号を解読する(→ 10)
  break ~'s heart  ~をひどく悲しませる(→ 14)
  break for lunch  (作業を中断して)昼食にする(→ 自3)

 解説の項目番号まで示してあるので便利がいい。

 「日・英比較」という解説がある。たとえば、brush を引くと、6種類のブラシの絵が載っている。その中に、paint brush があるが、これは日本語では「ブラシ」とは言わない、「筆」という。
 「英語文化のキーワード」には宗教の相違による言葉の定義の違いやイメージに言及している。 conscience の項を引いてみたら具体例が載っている。
----------------------------------
conscience とは「(個人における)善悪感」、「善悪の判断力」という意味であり、キリスト教徒として生活する際の言動の判断基準となるものである。悪を避け善を行わなければならないとする気持ち、すなわち「良心」はこれに付随する感覚である。したがって、 conscience は即「良心」ではない。」
----------------------------------

  巻末に付録として載っている17ページの「英単語と英文の文化を読む」は大変参考になった。
 12ページある「語源で覚える英単語」は量がほどほどで、高校生が知っておいていい知識だ。語源は突っ込んで学習しても高校生や大学生にはあまり役には立たないから、ほどほどでよいのである。
 付録に「和英小辞典」がついているのを書き忘れるところでした。高校生の学習用辞典には必須項目ですね。

 収載語数は7.2万語で、GINIUSは10万を超えていたはずだから、英字新聞を読むには不足している。だが、高校生の学習辞典としてはなかなかの優れものと判断した。辞書も進化しています。

スーパー・アンカー英和辞典 第5版 ミッキーマウス版

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  • 作者:
  • 出版社/メーカー: 学研プラス
  • 発売日: 2015/12/15
  • メディア: 単行本

スーパー・アンカー英和辞典 第5版

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〈 電子辞書について 〉
 カシオとシャープが市場を二分しているが、両方の製品のいいとこ取りをした製品が出たらすぐにも買いたい。どちらも、まだ「帯に短し襷に長し」に思える。技術進歩は速いから、期待してまとう。
 高校生は待てないから買うしかないね。


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#3348 英文和訳にはたしかな日本語ボキャブラリが必要  June 29, 2016 [47. 語彙力と「読み・書き・そろばん」]





 今日が今年一番暑かった、生徒がぐったりしていました。最高気温は12時ころの21.1度です。23時には13.8度まで下がっています。いま床暖房が入っています。(笑)
 胃と胆嚢を全摘、横行結腸を一部切除したわたしは、水分補給に難があるので、涼しい根室の気候が最適です。根室の夏は日本で一番涼しい、もうすぐ最高の季節が到来します。
 暑い夏は身体がしんどい方々は、6~9月の4ヶ月間を根室で過ごしてください。朝晩はストーブが必要なくらい冷え込みます。
 最近三日間の最低気温を書いておきます。
      8.1度⇒ 9.1度⇒ 10.8度
 6月15日は5.3度でしたから、2週間でずいぶん暖かくなりました。


< 最近五年間に日本語語彙力の低下現象が加速した >
 #3347で中学生の日本語ボキャブラリーの問題を採り上げました。根室では中学生の15~25%くらいが、授業で先生が使うボキャブラリーの意味が時々わからなくなり、話している内容の文脈がつかめない状態でいると推定しています。スマホの普及が決定打になりました。
 団塊世代が中学生だった53年前の4倍くらいいるように感じていますボキャ貧は学力低下の主要な原因のひとつです。
 スマホとゲームと過度な部活の(日本語)語彙形成阻害効果はすさまじいものがありますイージーなほうに流される生徒たちの読書時間を根こそぎ奪っていきます。学校も家庭もこれを放置してはいけません。
  スマホが普及してから日本語語彙に関して「負のトライアングル相乗効果」が起きています。三角形の三つの頂点は「過度な部活」「ゲーム」「スマホ」です。この三つに打撃を与えるにはどうしたらよいのでしょう?
 最後の<余談:対策>の項をご覧ください。


< ボキャ貧現象の進行は授業へ影響アリ:学校と塾 >
例-1: 授業参観したときのことですが、C中学校の社会科のN先生は日本の気候の特徴である「温暖湿潤」を説明するのに、漢字を一語ずつ意味解説していました。あそこまでやれば、全員が理解できます。生徒たちはそういうレベルなんです。「温」とは何か、「暖」とは何か、「湿」とは何か、「潤」とは何か、ひとつずつ説明してやらないと意味のわからない生徒が三人に一人くらいの割合でいるのです。こんなに丁寧に漢字の解説をする先生は市街化地域の3中学校で、他の科目を含めてもN先生だけです、他の先生たちは生徒が知っている前提で授業を進めています、それが普通です。
例-2: もう8年くらい前のことですが、成績が中位の中2の生徒二人が、「形容詞は名詞を修飾する」と説明したら、「しゅうしょく」の意味がわからない様子なので、漢字を書かせたら二人とも「就職」と書きました。平均よりも学力がすこし上の子たちですから、漢字はちゃんと書けるのですが、意味の違う漢字を頭に思い浮かべていることがわかりました。「形容詞は名詞を就職する」では意味が通じません。普段、本をほとんど読まない、いや、読む習慣のない子達でした。用語の説明をどこまですればいいのか、まあ、とことんやるしかありません。英文法の解説のはずが、国文法用語解説になったりします。この程度の生徒が多いのです。(笑) 
 気がついた先生が科目に関わりなく解説するしかありません。
例-3: あるときやはり中2の野球部の生徒3人に小6用のボキャブラリ・テストをやってみましたが、35~52点でした。この生徒たちへの解説は、表情を確認しながら漢字や用語の説明を頻繁に入れなければなりません。わかったような顔して聞いていますから、こちらから質問してときどきチェックしないと見逃します。

 本を読む習慣がない生徒たちの日本語語彙は極端に貧弱です。どれくらい貧弱化というと、日本語でなされる授業を15~25%の中学生たちがときどき頭の中で適切な漢字に置き換えられないという程度に貧弱なのです。ときどき置き換えられない漢字が出てくるだけで、「形容詞は名詞をシュウショクする」のように話の文脈が切断されてしまいます。
 なぜかというと、漢和辞典はまったく引いたことがない生徒が多数いますから、ごく簡単な基本漢字の意味しか知りません。そして基本漢字の組み合わせでできた語彙すらも理解できないものがあります。「修飾」という語はどちらも「かざる」という意味の漢字です。小学校で国語辞典を授業中に引かせる教師はいますが、漢和辞典はなかなかいらっしゃらないようです。そして中学校では英和辞典を使わない。学校教育では辞書を引く習慣を育てられないのです。団塊世代のころは中学生は全員英和辞書を引いていました。
 本を読まず、漢和辞典も引いたことがない、英和辞典を利用したことがない生徒たちが高校生になったら、教科書の英文を適切な日本語に訳せないでしょうね
 小中の学校教育がすでにそういうシステムになっています。文科省には頭のよい官僚がいるはずですが、どうしてこういうことになるのでしょう?グローバリズム、国際化の時代に英語教育が必要だと一方では言い募りながら、母語の教育を根っこから腐らせ、英和辞典さえ引かせないように中学校の英語教育を変える一方で、小学校へ英語の授業を導入する、頓珍漢を絵に描いたようなものです。頭のよい文部官僚たちが一生懸命に仕事をした結果が現在の語学(日本語と英語の)教育システムであると仮定したら、日本の教育は根底になにか大きな欠陥が潜んでいるような気がしてきました。


< 問題として挙げた英文例 >
 さて、ここからが本題です。#3347から抜粋引用します。
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 昨日、高校2年生に教科書『Vivid Ⅱ』を教えていたら、ボキャブラリーの問題が出てきたので、次の稿で説明したい。
 Including the Bonin flying fox, 57 endangered species live on the islands.
----------------------------------------

  #3347でこのliveを適切な日本語に訳してみてくださいと書きました。the Bonin Flying foxは「空飛ぶ狐」ではありませんよ、オガサワラオオコウモリです。小笠原諸島の固有種です。教科書には木の枝にぶら下がっている蝙蝠の写真が載っています。定冠詞がついているのでthe islandsは小笠原諸島です。liveは「住んでいる」ですから、

「オガサワラオオコウモリを含めて57の絶滅危惧種が小笠原諸島に住んでいる」

 というのが、普通の和訳でしょう。ですが、「住む」というのは人に対して使う言葉で、絶滅危惧種が主語ですから、「生息している」「棲息している」「栖息している」が日本語としては適切です。わたしは真ん中の「棲息する」を採ります。
 「栖息」の異体字が「棲息」ですが、「棲息」のほうが頻度が高いのでこちらが推奨です。栖も棲も鳥の巣に関係のある言葉です。

 大辞林を引いてみます。
===================
生息:①生きて生活すること。生存すること。「地球上に生息する動物」 ②「棲息」に同じ
棲息・栖息:(動物が)ある場所にすんでいること。生息。「カモシカが棲息する地域」
===================

 liveの原義は「生きる」ですから、「生息」のほうを採る方もいるでしょうね。息という字も生きていることを現しています。「生きている」ことは同時に「息をしている」ことですから。「息」が止まれば死です。
 棲家(すみか)を作って生きているとうように、「棲」という字は「巣を連想させる語」なので、オオコウモリが巣を作って小笠原諸島で生き続けているイメージにしっくりあうのです。
 GENIUS4版のliveの項には、「棲息する」という訳語は載っていません。


< 英和辞書の訳語は参考程度 >
 この英文には単純現在形が使われていることから、「島でずっと昔から生き続けてきている」というイメージが湧いたら、それを適切な日本語に変換しなければなりません。そのときに、日本語ボキャブラリが貧弱だと、適切な日本語が思い浮かばないことになります。だから、英語の能力は日本語ボキャブラリが豊かな人のほうが伸びます。日本語ボキャブラリや作文能力の低い人の訳文は、しばしば辞書の訳語を並べただけで、日本語の文になっていないことがあります。文章の知覚センサーの感度が鈍感になってしまっているのでそういうことが起きるのでしょう。母語の日本語のセンスが悪ければ英語のほうもダメということになるのでしょう。
(夏目漱石の『草枕』は漢文の深い素養と英文への理解の深さがよく現れた作品です。漱石は他の作品ではひけらかしませんが、『草枕』だけはひけらかしているようでわかりやすい。『坊ちゃん』はそういう漱石の漢文と英文への深い教養が隠されてしまっています。『坊ちゃん』と『草枕』をそういう視点で読み比べたら楽しいですよ)
 英文を読んでイメージが湧いたら、和訳してみて、それを音読してみてください。すんなり意味がイメージできたらOKです。

  高校生相手の英語の授業では、こういう文に出くわすと辞書は引かせますが、適切な日本語が載っていませんので、

「「住んでる」ではしっくりこないだろう?、日本語としてすんなり腑に落ちる語彙を探せ」

と指示します。英字新聞を読むときにはこうしたことが頻繁に起きます。
 普段からセンサー(語感)を磨いて思考訓練を重ねた者と、そうでない者では、1年後に大きな差異が生まれることは当然です。国語の先生の中で日本語のセンスのよい人が英語を教えたら、一味違った授業になるでしょう。

 序(ついで)です。棲の字の熟語には「同棲」がありますが、若い二人が「巣作り」しているイメージの「棲」の字がとっても微笑ましいじゃありませんか。

<まとめ>
 小学校のときに漢和辞典を引いて1000語くらいは語義を知っておけば、語威力や語感の点ばかりでなく、各科目で新たに出てくる用語を深く理解できるので、高校生になってから学習や学力の面で絶大な効果を発揮します。小学校時代の(国語辞書や漢和辞典を利用しての)仕込みの重要性がお分かりいただけたのではないでしょうか。語学という点では日本語(国語)と英語あるいは他の外国語の運用能力には密接な関連があります。
 中学生の皆さんや高校生の皆さん、いまからでも遅くありません、今日から国語辞典と漢和辞典を引いてください。引かなければならないような語彙レベルの本を積極的に読みましょう。それは学力だけでなく、あなたの精神の成長に大きく貢献します。中高生ですら効果が大きいのですから、大人の方もいまからでも遅くありません。
 いつでもどこでも学べるというのは若い証拠です。(笑)

< 余談:対策 >
 簡単なことなんです。優先順位を変えるだけでいいのです。中学生は勉強に最大の優先権を与えます。だから部活は週に最大5日、標準は週4日間、放課後は6時まで。その制限の中で効果的なトレーニングメニューを工夫すればいいのです。社会人ではだらだら長時間やらなければ終わらない人はダメ社員とみなされます。スマートな社員は同じ仕事を短時間で効率的にやっています。中学生のときからそういう習慣をはぐくみましょう。
 スマホとゲームは1時間勉強してから触りましょう。勉強のはじめは英語の教科書の音読を3分間やれば脳が活性化するのでとってもよい。語彙レベルの高い日本語の本でもいい。たとえば、『論語』や明治期から昭和初期までの文学作品を5分間音読する。先読みするので脳がフル回転します。
 どういう本を選んでよいかわからない人には、斉藤隆の「音読破シリーズ」(小学館)をお薦めします。ルビがふってあるだけでなく、難解な用語には左側に小さな字で意味が載せられているので読みやすいのです。夏目漱石、芥川龍之介、太宰治、中島敦、幸田露伴、宮沢賢治、6人の作品がそれぞれ1冊になっています。定価800円でとっても安いので6冊(4800円+消費税)一気買いしましょう。
 塾の夏期講習は行かずに、本を買い与えて、読書三昧(ざんまい)の夏休みを体験させましょう。一度くらいそういう夏があってよい。

 たったこれだけのことです、やれるでしょう?中学生ですから、それぐらい自分の意志でやれなくっちゃいけません。よい機会ですから、我儘(わがまま)を抑えて精神的に成長しましょう。


*#3347 セルフコントロール(自己抑制)とテストの成績の関係  June 28, 2016 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-06-28#comments

 #2582-8 子供たちの精神年齢の低下現象と読書に関係はあるか? Feb. 5, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-02-05


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#3341 高校英語の教科書が届いた June 23, 2016 [47. 語彙力と「読み・書き・そろばん」]

 リライアブルブックスに注文していた高校各学年の英語の教科書が届いた。山本七平『わたしの中の日本軍』と『空気の研究』も一緒だった。『空気』については#3331で採り上げている。
 英語の参考書も取り寄せた。安井稔著『改訂版英文法総覧』(1996年)である。旧版(1987年)を持っているのだが、80ページほど増えているので見たくなった。生成変形文法からのアプローチが多少あるので高校受験参考書の範囲を少し超えている。生成変形文法を学ぶには専門書を読むべきだが、そこへの橋渡しとしては十分だろう。江川泰一郎『英文法解説』は受験参考書の定番だが、それとはだいぶ趣が異なる。

 ところで、高校2年のEnglish Communication『Vivid』の本文のページ数をカウントしてみたら42ページあった。見開きで片側が文法解説になっており、随所に問題のページが挿入されている。生徒のAさんは一緒に教科書を読むのは3回目だが、頭から読み下した後、構文解説をして1ページあたり30分の速度である。1.5時間の授業時間だと3ページ消化できる。読みなれていない現在の速度で計算すると15回ほどで読み終わるが、速度はだんだん速くなるので、10~12回で終了できるだろう。今日は58ページまで読み終わった。15/42だから、残りは2/3、ページ数は27ページである。8回で終了だ。本人の弁では、夏休み前に終わる。
 スラッシュを入れずに、スラッシュリーディングで頭から意味を理解し、構文解析をする。そのあと意味を思い浮かべながら音読してもらって授業は終了。後は音読と一文章を読んでテクストを見ないで書き取る家庭学習。英語が嫌いな生徒が、続いている。

 それにしても活字が大きいから、教科書本文の分量が少なすぎる。英文も新聞英語に比べたら語彙も構文も比較にならぬほど簡単すぎて、生の英文(新聞や文学作品、専門書の類)が読めるようにはなるとは思えない。読む必要もないと考えているのかもしれぬ。
 Japan Timesくらいは辞書を引いて読めるくらいの英文読書力を獲得目標にしてもらいたい。

 夏休み中から3年の教科書を同じトレーニング方法でやって効果を見ようと思う。どう変わるのか成長が楽しみだ。
 数学がなんとかガンマクラスにアップした。のんびりしているけど、ちょとずつがんばれるようになってきた。(笑)
 生徒たちは一人ずつ性格も違うし辛抱力も違う、一筋縄ではいきません、だから軌道に乗ってきたらうれしいし、そうすることが楽しい。


*#3331 「空気」に「水を差す」  June 17, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-06-17

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私の中の日本軍 (上) (文春文庫 (306‐1))

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私の中の日本軍 (下) (文春文庫 (306‐2))

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「空気」の研究 (文春文庫 (306‐3))

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#3268 日本語力と数学の能力:実例 Apr. 8, 2016  [47. 語彙力と「読み・書き・そろばん」]

 授業をすると生徒からさまざまなことを学べます、生徒に教えることは生徒から学ぶことでもあります。昨日の中3のある生徒の例を取り上げて、いまの子供たちが抱える共通の問題を掘り下げてみたいと思います。

 4月11日に「お迎えテスト」があります。北海道教育文化協会という業者がつくっている新学期最初の学力テストを生徒たちはそう呼んでいます。北海道の公立中学校では全校が採用しています。全道の平均点すら算出されない劣悪なテストなのですが、毎年独占受注しています。全国でみるとテスト業者は少なくありません。論点がずれるのでこの点はパスします。

 3年生の「お迎えテスト」は1・2年で習ったところから出題されるので、1年生で習った作図問題が必ず出題されています。すっかり忘れていたようなので、確実に点を取れるようにこの生徒には作図に関する基本を解説してトレーニング課題を黒板に書いて家で練習するように指示しました。その内容をリストします。

①角の2等分線
②線分ABの垂直2等分線
③直線ℓ上にない点Pから直線ℓへの垂線
④直線ℓ上の点Pを通る垂線
⑤線分ABの3等分線
⑥三角形ABCの内接円
⑦三角形ABCの外接円
⑧正三角形
⑨正六角形

 生徒は「全部やってきました」と自己申告してくれました。学力テストや入試問題で、このまま出る問題はほとんどありません。複数の基本を組み合わせるとか、どのように読み替えるかを問う問題が多いのです。

T:それでは実際の問題で試してみよう。付箋をつけた入試過去問にトライしてごらん、これがすらすらできれば作図問題はOKです。

--------------------------------------------

 (1)下の図2で、六角形ABCDEFは、直線ℓを対称の軸とする線対称な図形である。図2-Aに示した図を基にして、辺AB、辺BC、辺 CDを、それぞれ定規とコンパスを用いて作図し、六角形ABCDEFを完成せよ。ただし、作図に用いた線は消さないでおくこと。(描いてあった図は省略)

 (2)右の図2に、直線ℓ上にない点Pを通り、、ℓと垂直に交わる直線を、定規とコンパスを用いて作図せよ。ただし、作図に用いた線は消さないでおくこと。
 
               P●


        ℓ                                

 (3)右の図のような三角形ABC(鈍角三角形の図が描かれている)があります。辺AC上に点Pをとり、AP=1/2ABとなるようにします。点Pを定規とコンパスを使って作図しなさい。ただし、点を示す記号Pを書き入れ、作図に用いた線は消さないこと。
--------------------------------------------


 たった3問の作図問題をやるのに小一時間(約1時間)かかりました。これでは実際のテストでは得点できません。
 (1)の問題が10分たってもできないので、問題文を音読するように指示します。ぶつ切りで変なところで区切って読んでいます、これでは意味がすっと頭に入るわけがありません。おまけに「用いる」を「よういる」と読んでいます、この時点で問題文の意味がまるでわかっていないと判断しました。
 この生徒の学力は学年50人で上位3-4割前後だから「中の上」でよいほうですが、日本語能力に問題があります。読み書きの速度がかなり遅いのです。読みは半分程度で書きの方は7割程度の速度です。日本語の読み書き速度を上げるために、日本語テクストの音読指導を2年間したのですが、家で高速音読トレーニングをしてこないから、成果が小さいので、今年度はしばらく中止します。気の長いわたしでも2年間の音読トレーニングがこの状態ではさすがに徒労感が漂い、しばし休養です。生徒の心に変化が見られたらまた再開したいと思います。

 「線対称」というところに注意が行かずに読み落としているようなので、何度読んでも問題の意図するところがわからないのです。「六角形ABCDEFは、直線ℓを対称の軸とする線対称な図形である」と口では読んでいますが、頭の中に残っていません。読みがたどたどしいから、終わりの方を読んでいるときには前の方の句が頭の中から消えてしまっています。このようにたどたどしい句単位や文節単位の読み方は、文章全体を頭の中に一括で保持し理解することを不可能にすることがあります。もちろん、文脈読みも困難になります。速く読むことと読んだものを頭の中に一時記憶する量には比例関係があるようです。
 一気にすらすら読めば、文章の意味するところが理解できますから、どこが重要でどこが瑣末なところか読み分けができます。文章の「濃淡」の差を無意識にかぎわけて読めます。したがって、一定の音読速度は日本語文章理解に不可欠なスキルだと考えられます
(これらのことから、音読が下手な成績下位25%くらいの生徒たちに朝読書をやらせても、読みの正確性や速度改善はほとんど望めないでしょう。)

 この(不等辺)六角形が線対称なら、線対称な図形の基本に戻って考えたらいい。点Aと点Dを結ぶ線分はは対称軸ℓに対して垂直に交わりかつ距離が等しいのだから、作図基本③でD点が求められます。
 基本作図③はふたつやり方があります。どちらでもいいが、こういうときは簡単なほうを選べと指示しています。

 (2)の問題は作図基本③そのままだから、これはできました。
 (3)の問題は線分ABの垂直2等分線を作図するところまではできましたが、その後ができませんでした。「辺AC上に点Pをとり、AP=1/2ABとなるようにします」という設問の意味は、点Aにコンパスの芯を刺し、AMを半径とする円を描いてACとの交点を求めよということです。「AP=1/2AB」を「1/2ABを半径とする円を描け」と読み替えることができなかったのです。

 結局、この生徒は基本作図がそのまま出題されないと得点できないということになります。

T:基本作図9個が完全に描けるようになるだけでは、作図問題での得点が覚束ないことがわかっただろう。だから、過去問を10題くらいは何度も練習する必要がある。この3題を繰り返しやるだけでなく、付箋をつけた作図問題を全部やろう。それから、日本語の音読トレーニングを家でもやらないと、数学の文章題だけでなく、国語はもちろんのこと、社会も理科も成績がこれ以上あがらないぞ。いつまでも逃げていてはダメだ。
S:・・・

 返事がありません、生徒本人は「自信をなくした」となげやりでした。基本作図を9パターン描く練習をしただけで、学力テスト問題が解けると思うのは自信ではなくて過信です。ちょっと努力すればそれだけで得点できると考える前に、自分の日本語の読みの速度と深さを反省すべきです。うまくいかないとすぐにふくれっ面になります。これもいまのうちに直さなくてはいけない。社会人になったときにこのままだと就職に苦労します。この延長線上だとどういう社会人になるのかをいう視点からもふだんの個別指導のチェックをしています。
 何かほかに理由がありそうなので訊いてみました。お迎えテストで五科目合計点が両親に指示されたある点数を超えないと、ゲーム禁止だそうです。ゲームができないことが大きなショックである様子。日本語の読み書き速度が遅いことの方がよほど重大事だと思うのですが、本人はとにかくゲームがしたい、すでに心療内科の領域です。セルフコントロールができなくなっています。
 昨年11月と今年2月に行われた学力テストの五科目合計点から、過去の生徒のデータで分布範囲をみると、10~15点足りません。厳しい現実ですが、それもはっきり告げました。ゲームができないことがショックで、少しハードルが高いだけでやる気が失せてしまいます。この程度のわがままややる気の小さい生徒は3割いますから、いまやスタンダードです。どうしてこんなに辛抱できない性格の生徒が増えたのでしょう?幼少期に過程で甘やかし放題で、躾が充分ではなかったのでしょう。自分の経験から言っても、子どもの躾はなかなかの難事業でした。幼少期から本気でやらないと、辛抱できない厄介な性格を育て上げてしまいます。部活は熱心にやるけど、勉強はしないという生徒の割合が中学生ではすでに3割を超えてしまっているというのが、根室の現実です。勉強と部活、文武両道を実践できている生徒は2~3割です。

 日本語能力が著しく劣った生徒は10年前には1割はいませんでしたが、最近の生徒は2割程度いるようです。日本語能力が低いと学力はあるところで頭打ちになります。どんなにがんばっても瞬間的に上位1/3に食い込めるだけで、維持はできません。抛っておけば学力は下位20%付近となります。
 このレベルの日本語能力の生徒は、高校普通科の標準レベルの授業にはほとんどついていけません。定期テストのたびに複数の赤点を繰り返して、何とか卒業させてもらうことになります。高校だって本音を言えば迷惑でしょう。今年の中3から、根室の高校は統合されて1校体制になります。根室高校普通科に成績下位20%の生徒もどっと押し寄せます。授業は大混乱でしょう。

 読む速度と書く速度が遅いと、板書をノートに写していると先生の話の意味を理解できないし、話を聞いていると書けないのです。
 「読み・書き・そろばん(計算)」の速度が標準レベルに達しない生徒たちの学力は伸び代が小さいといえます。
 スマホやゲームや部活漬けで、本を読む時間が奪われ、子どもたちの日本語能力が10年前に比べて著しく落ちつつあるというのが、学校の先生や塾で教えている先生たちの共通した印象です。日本の高校生の半数が読書をほとんどしていません。
 小学校での英語教育は不要です、良質の日本語のテクストを選び、週に1時間は音読授業をやってもらいたい。
 下位30%は社会に出たときに、上司の仕事上の指示を理解できない、的確に報告ができない、そういうことになります。新卒では40%以上が非正規雇用ですから、正規雇用の職を見つけることはほとんど不可能でしょう。中小企業がこういうレベルの人材を社員として何人も雇えば会社の十年二十年をかけてゆっくりと屋台骨が揺らぎます。小さな地震で崩れます。

 成績下位層の生徒たちが将来行き所がなくて大半が根室に残れば、地元企業は人材確保に窮するでしょう。このままでは地元企業が没落していきます。
 根室市議の皆さんは50歳を過ぎた人がほとんどですから、根室の小中高生の学力低下の現状をご存じない。わたしのブログには具体的なデータを載せてあることが多いのでその情報を元に、高校統廃合や小中学校の統廃合の問題をちゃんと議論してください。子どもたちや根室の未来のためにお願いします。市長や市教委や教育長に任せっぱなしにしてはいけません。

 釧路市教委の非公式サイトを紹介します、根室市教委が見習ってくれたら嬉しい。
*千日の昼と万日の夜~釧路市教育委員会の非公式情報発信~ 04/07NEW



<余談>
 Fランク大学へ借金して進学するのはやめましょう。世の中そんなに甘くはありませんよ。正規雇用の職を見つけるのは著しく困難です。卒業して非正規雇用となり借金返済するために売春する女子大生が増えています。身体を売ってもいまや風俗市場は「供給過剰」でたいしたお金になりません。そういう記事がネットにアップされていました。
 低学力・低所得層を狙い撃ちにしたサブプライム・ローンはリーマンショックを引き起こしました。金融機関の強欲がベースにあります。
 返済能力に問題がある低学力で貧乏な学生にお金を貸すのはサブプライムローンとそっくりです。リーマンショックではなく、結果としてこいう事例を量産することになります。低学力の大学生に奨学資金を貸すのは風俗産業へ誘導しているようなものです。日本の金融機関はこういうビジネスはしなかった。銀行は優良な貸付先を失って、破廉恥な商売をしています。何かが狂っています。巷間取りざたされるブラック企業は銀行から見たらかわいいものです。銀行こそが最大のブラック企業です。こんなことを続けていたら、銀行には有能な若者が集まらなくなるでしょう。金さえ儲けりゃ何でも構わないという価値観の人は増えていますが、日本人が守り育ててきた倫理観や商道徳をなおもち続ける若者もすくなくありません。
 日本の伝統的な商道徳、「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」はどこへいったのでしょう?日本の銀行経営者たちのビジネス倫理を問いたいと思います。

 だまされるほうも悪いのですよ、借りる前に返済ができるかどうかよく考えてください。返済の推計計算もできないような者が無理に無理を重ねて大学生になろうとするから、文科省と銀行とアダルト産業と風俗産業の餌食になるのです。
 大手銀行の頭取に訊いてみたいですね、「貴行の商道徳は地に落ちてやいませんか?」とね。通常の貸付審査と同様に返済能力を厳格に査定すれば「被害者」は激減します。
 批判だけでなく具体的な審査基準も提示すべきですね。進研模試で偏差値45以下の大学・学部へ進学する場合には奨学資金の貸付は慎重に審査すること。偏差値45は下位31%*の大学ですから、奨学資金貸付の対象から原則カットしてよいでしょう。偏差値45以下の大学へ進学する女子学生への奨学資金貸し付けは風俗関係へ追い込むリスクを大きくしますから、商道徳から考えても問題があります。
 わたしが大手都市銀行の行員なら自行の貸付方針に異を唱え、奨学資金の貸付審査基準を変える段取りを考え実行します。マスコミに方針変更を公表すれば、その銀行の社会的評価が上がることは間違いないことです。
 文科省は困るでしょうね。偏差値40以下の大学・学部は受験生が激減してつぶれかねません。官僚が大学教官として天下る先が少なくなります。45はともかく現在偏差値40以下(下位16%)の大学学部はつぶれていいのです。ざっと計算して10万人分の定員が減少します。110万人に対して60万人の大学定員は多すぎて、大学教育の質の劣化を促進しています。


「普通の女子大生が売春!?女性の貧困はここまできた」
4月8日付けMSNニュース
http://www.msn.com/ja-jp/news/opinion/%e6%99%ae%e9%80%9a%e3%81%ae%e5%a5%b3%e5%ad%90%e5%a4%a7%e7%94%9f%e3%81%8c%e5%a3%b2%e6%98%a5%e5%a5%b3%e6%80%a7%e3%81%ae%e8%b2%a7%e5%9b%b0%e3%81%af%e3%81%93%e3%81%93%e3%81%be%e3%81%a7%e3%81%8d%e3%81%9f/ar-BBrvaFd

*#2709 偏差値と「100人(百校)中の順位」対応表 June 22, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-06-22

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#3267 書く能力に飛躍的があった時期 Apr. 6, 2016 [47. 語彙力と「読み・書き・そろばん」]

  書く能力をアップするために、インプット(読書)の重要性を強調してきましたが、大事なことを忘れていたのを今朝思い出しました。

 時間的順序としては、トレーニングの順序はインプット⇒アウトプットで間違いがないのですが、何もなしに書けるようになるわけではありません。自分なりの文章トレーニング期間が高校時代にありました。

<インプット:読み>
 小学校4年生のときから北海道新聞の「卓上四季」というコラムと「社説」を(当時の道新はルビが振ってあったので)国語辞書を引きながら読み始めたことは何度も書きました。興味がわいて1面の政治経済欄もすぐに読むようになりました。小学校6年生のときに「リア王」を読んだ記憶があります。職員室へ呼ばれて、何かのお説教のはずでしたが、どういうわけか叱られず、担任の鶴木先生がハードカバーの本を貸してくれました。面白かった。光洋中学校図書室にあったSF小説は全部読みました。『海底二万里』が印象に残っています。SF以外には『白鯨』やパールバックの『大地』もこの頃に読みました。少年マガジンと少年サンデーが中1のときに発刊されました。それから十数年間切れ目なしに読み続けました。漫画の本も含めて中学の3年間は「濫読」の季節でした。

<アウトプット:書き>
 高校生になって1年が過ぎたときに、春休みの2週間で工業簿記の問題集を1冊やりました。1年分授業の予習でしたが、やってみたら拍子抜け、毎日10時間前後やって終わる分量でした。普通科の生徒が高1の終わりの春休みの2週間で数Ⅱの参考書を読み、独力で問題集を1冊解くようなものです。高校生という季節は生涯で一番集中力が高くなるときなのでしょう。
 そのあとすぐに中央経済社から『公認会計士2次試験講座』が出版されました。科目が現在と違っています。簿記論、会計学、原価計算、監査論、経営学、経済学、商法の7科目でした。順次出版されたので、届くたびに片っ端から読みました。春休みの「2週間の修行」が独力で専門書にトライする自信を与えてくれました、それで「めくら蛇に怖じず」です。
 まもなく会計学の答案練習をし始めました。これはきつくて楽しかった。設問に対してどのような答案を書けばいいのか、最初のうちは皆目見当がつきませんから、まずは模範答案を丸写ししました、いわゆる「視写」です。
 とりあえず、何も見ないで模範答案が書けるようになります。そのままではやった問題しかできませんので、どのように書けばいいのかという視点で模範答案を眺め、要点を箇条書きに、論理を図にしてみました。その箇条書きや論理フロー図を参考にして文章を書くトレーニングをしました。すると答案を書く作業が簡単になりました、これが利きました。1年間そういうトレーニングを重ねるうちに初見の問題でもなんとか答案を書けるようになりました。
 高校国語の記述式問題でいくらトレーニングしても、公認会計士二次試験の答案を書くレベルには到達できないでしょう。書くスキルはあの時期のトレーニングで飛躍できたのだろうと思います。

<±0>
 そのころ夏目漱石の『坊ちゃん』も読んだのですが、源氏鶏太『三等重役』との違いがわからず、漱石からは遠ざかりました。漱石だけでなく日本文学から遠ざかったのです、浅はかでした。その代わり、書くトレーニングを積めましたからプラス・マイナス・ゼロです。有限の時間の中でなにもかもやることはできないもの、高校時代に『資本論』やヘーゲルの著作を読みましたから、あれはあれでよかった。
 後から考えると天が配慮してなにもかも最高のタイミングで並べてくれていたような気がします。

<まとめ>
 自分の過去の経験を思い出してみて、高校時代の公認会計士二次試験問題集の答案練習が書く能力を飛躍的にアップさせてくれた山登りであったことに気がつきました。高校2年生にとっては大きな負荷でした。koderaさんにビリヤードだけではないだろうと言われたことが頭のどこかに引っかかっていました。脳が勝手にサーチして見つけてくれたようです。いままで気がつかずにごめんなさい。
 箇条書きにした文章は頭の中に入れてしまい、数分の暇を見つけては頭の中の引き出しから出して眺めます。これなら数十問は簡単に引き出しにしまえます。箇条書きの部分を思い出せば、トレーニングを積んだので、あとは何とか文章になります。

 中高生のみなさんの参考になるのかどうかわかりませんが、わたしの経験を開示しました。やってみようと思う人が一人でもいたら、幸甚です。(笑)


-------------------------------------------------
<余談-1:母に感謝>
 母は、仕事の合間を見つけては毎月「婦人公論」や「中央公論」をとって読んでいました。「ほしい本があったら言いなさい」と言われていましたが、言うとどんな本でも買ってくれるので、無駄遣いにならないように子供心に思いました。当時の日本、そして根室はそんなに経済的に楽ではなかったのです。小学6年生の頃は「自家用車」が家一軒分の価格でした。一般家庭で「自家用車」をもつなんて考えられません、そういう時代でした。大学進学は高3の秋まで考えたことすらありませんでした。店を手伝っていたし、経済的に無理だと割り切っていました。大手都市銀行に就職して、独力で公認会計士の試験を受けるつもりでした。
 価格が高かったのですが、公認会計士になることは中学のときに決めたので、中央経済社から出版が始まった『公認会計士二次試験講座』に飛びついたのです。もちろん、お袋は二つ返事で購入を承知してくれました。
 家業のビリヤードの手伝いをしていたので、自分のお小遣いでも買えたのですが、本は「別枠」でした。高卒の新入社員がもらう給料の半分くらいを高校時代の3年間は小遣いとして使っていました。小遣いが余るので大人が行くところ(?)にもたまにですが出入りしていました、高校生のみなさんには内緒の話です、教育上よろしくありません。(笑)

<余談-2>
 答案練習で要点の「箇条書き」、そして論理の流れを図にしていましたが、いま考えるとあれはシステム技術の基本でした。文章を箇条書きにして階層構造に整理してみる。そして論理の流れを大まかにつかみフロー図におとしていました。KJ法やビジネスデザイン法、システムフロー図の素朴なものです。そういう過程を高校時代に経ていたので、会社で経営企画や経営分析そして予算管理が仕事だったのに、システム開発の専門書を読むことに抵抗感がなかったわけです。基礎は高校時代にできていました。
 80年代前半にシステム開発専門書を30冊ほど読みました。面白くなるととまらない、好奇心の赴くままに大きな本屋へ行って専門書を手に取り、選べばいいのです。輸入商社の本社は日本橋人形町交差点近くのビルにありましたから、日本橋丸善書店が歩いて10分ほどの距離でした。SRLの本社は入社当時は西新宿のNSビルでしたから、紀伊国屋本店まで歩いて10分ほどでした。

 経営改革のためにいくつかのコンピュータシステム開発(産業用エレクトロニクスの輸入商社で)を単独で担当できた(1980~82年)ので、仕事を通じてスキルアップが可能でした。本を読んだだけではダメなのです、仕事をしなければスキルアップは望めません。そのときに一緒に仕事をしたのが三菱電気系列のシステム会社オービックの芹沢さんです。その後取締役になりました。
 軍事用・産業用エレクトロニクスの輸入商社では、最後の半年間は個別に開発したいくつかのシステムを統合システムにする仕事を担当しました。そのときのSEはNEC情報システムの高島さんで、NECは大口の顧客でしたから、関周社長が三菱電機のオブコンをやめて、NECの汎用小型機導入を決めたときに、統合システムを開発するのでナンバーワンSE派遣を条件にしてくれました。高島さんにはいままでの業務デザインを一新するために、それまでとはまったく異なる実務設計と外部設計書の作成を要求されました。おかげで日本能率協会方式の実務フロー図を描くことに慣れました。輸入実務、納期管理、受注残高管理、為替決済管理、円定価表作成システム(為替レート移動平均値で3ヶ月に一度更新)、売上利益管理、予算管理、財務会計を統合する画期的なシステムでした。当時の日本では最先端の内容の輸入商社向けシステムでした。汎用パッケージ化が可能でしたから、輸入商社を辞めて2ヶ月ほどしてから、オービックの芹沢さんから、(輸入商社の)取引先が20社ほどあるので、「輸入商社向けパッケージ」開発をしないかとお誘いがありました。84年の4月頃でした。魅力的なお誘いでしたが、まだ使ったことのない汎用大型機での統合システム開発をスタートさせたばかりだったので、せっかくの申し入れでしたが辞退しました。きっと面白い仕事になったでしょう。
 統合システムの前段階の複数の独立システムは、全体で売上経常利益率を十数パーセントアップできる革新的な利益管理システムだったのです。実際に粗利益率が20%アップ、売上高経常利益率が十数パーセントになりました。為替予約と連動して為替リスクを回避できる仕組みを考案していましたから、日米間の金利差でつねに為替差益が売上高の1%程度でるようになりました。この仕組みは20年間有効でした。それまでは為替変動で業績のアップダウンを繰り返していました。利益を大幅にアップして完全にコントロール可能になりましたから、店頭公開条件クリアです。
 この会社には遠藤さんという優秀な営業課長がいました。この人が利益アップと営業事務省力化のための「円定価表システム開発」のキーマンでした。システム化によって営業事務が9割がたなくなってしまったのです。精度は飛躍的に上がってしまいました。わたしはこの人以上の営業マンを知りません。京セラの黎明期の頃、稲盛イズムの洗礼をうけた人です。この人を通じて京セラの創業者稲盛和夫がすごい人だと感じていました。気があって二人で朝までよく酒を飲みました。午前中はなんどかトイレへ行って胃の中の物を吐いて、すました顔で仕事をするのが「粋」でした。日本橋芳町の「芳梅」という名前のお店だったかな、狭い小路を入ったところにありますが、お昼定食のお粥が美味しかった。永井荷風が昔あの界隈に住んでいました。
 輸入商社で辞表を提出した12月初旬には、後先のことを考えていませんでした。あることでオーナ社長の関周さんと意見が対立していることがわかり、信頼関係がなくなったと判断して辞職を即座に決めました、武者修行したかったのでしょう。若気の至りです。「後は任せておけ」と天の声が聞こえましたから迷いはありませんでした。そういうときはその時点での利害得失を考えてはいけないのです、天が与えてくれた転職のきっかけを逃してはならないのです。天の命じるままに執着を去れ倍胃だけのことです。引継ぎのため1月末までかかりましたが、無理でした。引継ぎを受けるものに必要なスキルが一つしかないのですから。これで統合システム開発がぐちゃぐちゃになるかと思うと悲しかった。それまで作成した資料を引き継ぎ、説明をしました。引継ぎ業務をしながら正月開けにリクルート社の転職斡旋の試験(SPI偏差値72)と面接を経て1984年2月1日から臨床検査最大手SRLに上場準備要員として働き始めました。この会社を選んだのは過去5年間売上高成長率が毎年20%以上で、売上高経常利益率が毎期12%を超えていたことと、新宿西口の超高層ビルの22階と23階に本社があったからです。一度超高層ビルのオフィスで働いてみたいと、35歳になるのにずいぶんミーハーな動機でした。
 運のよいことにSRLは東証Ⅱ部上場のために、東証の審査要件をクリアするために統合システムの開発を始めたところでした。統合システムは8つのサブシステムから構成されていました。わたしの担当は財務・支払い管理システムと固定資産管理システムそして他のシステム(販売会計システム、購買在庫管理システム、原価計算システム、予算管理システム、業務システム)とのインターフェイス開発でした。産能大方式の事務フローチャートで実務設計をすることと外部設計がUSER部門のわたしの分担、NCD社のSE3人が内部設計を担当。実務フローの設計と入出力帳票の外部設計仕様書(プログラム仕様書レベル)を書くのに2ヶ月、並行ランを2ヶ月、それらを含めてキックオフから8ヶ月で本稼動。ノートラブルで走り出しました。必要なスキルがあれば短期間で完全な本稼動が可能です。当時は全部作りこみですから、アプリケーション・パッケージ開発のような仕事でした。
 各システムとのインターフェイス設計は売上債権管理の実務や原価計算実務そして原価計算理論を知らなければやれない仕事です。一番たいへんだったのが固定資産管理システムとのインターフェイス仕様でした。上場要件をクリアするために、それまでとはまったく違う実務設計をしています。部門別減価償却費の予算設定が投資計画を組み込むことで可能になりました。予算減価償却費の精度が飛躍的に上がり、予算・実績差異が1/10ほどになったのです。実地棚卸しも問題があったので、本社と八王子ラボの固定資産を全部自分で立ち会ってチェックしました。登録固定資産名リストし、分類記号をつけて名称を整理したのです。現物を見たことのない経理課員が固定資産台帳にインプットするので、同じものが「インキューベータ、孵卵機、孵卵器、恒温槽、フランキ、腐乱機」というばらばらな名称になっていました。一週間かけて現物を全部チェックし、分類記号を振って整理したので、たとえばマイナス80度の冷凍庫がラボ内のどの部署に何台あるのかわかるようになりました。電子天秤もそうでした、さまざまなメーカの製品を現場の要望で購入していたので、リストを出力して、当時世界最高の製品であったメトラー社の電子天秤に順次交換していきました。検査要員が部署を移っても同じメーカーの電子天秤なら、マニュアルを読む必要がないからです。メトラーと直接交渉して、「ラボ内には電子天秤が○○台あるから、順次御社に切り換えるので値段を△△円にしてくれませんか」、向こうは納得で、ずいぶん安く買いました。国産品と変わらない値段だった。ラボ内の部署も品質のよいものを買ってもらえるから喜びます。島津製作所の電子天秤の購入申請をした検査部門の課長のところへ行ってはなしをします。「ebisuさん、ほんとうにメトラーの電子天秤を買ってくれるのですか?」、「検査管理部と話ができていますから大丈夫です」。ウィルス部の蛍光顕微鏡も世界最高性能のカールツァイス社製品に変えました。ラボはラボ見学が年間数百件ありショールームでもあるので、安物の検査機器を使っていたのではいけないのです。業界ナンバーワンのラボには世界の最高性能の機器が揃っていて当然です。SRLはそうした一流の製品をそろえられるだけの利益を出していました。
 固定資産の購入を担当する直前まで2年間全社予算編成の統括担当者でしたから、ラボ内の予算管理部門(検査管理部)もわたしの意見には異を唱えません、喜んで協力してくれました。わたしの提案だと言えば、本社の経理部門が文句を言うはずがないのですから。経理部長からも経理担当役員からもラボ内の予算に関してはわたしに判断が任されていました。ギクシャクしていた本社とラボとの融和剤の役割がありました。

 統合システム開発は簿記論、会計学、管理会計学、原価計算論、統計学、そしてコンピュータ・システム開発やプログラミングに関する専門知識、さまざまな分野の臨床検査に関する知識なしにはできない仕事ですが、SRLに転職した時点で臨床検査を除くすべての専門技術をもっていました。ラボの機器を3年間担当できたのは臨床検査業務の実際を理解するために必須の仕事でした。白衣を着てどの部門の現場にも入り込めます。機器購入の相談はなるべく現場でしました。問題があればすぐに現場に行き、話しを聞き、具体的な対応をしました。学術開発本部にいたときには、開発部のメンバーと一緒に検査試薬の開発、そして学術情報部のラボ見学対応のうち海外メーカ向けのラボ見学対応(2時間のラボ見学案内)をしていました。ツアーを終わってお茶を飲んでいるときに、「ebisuさんはどの検査部門の出身ですか?」と訊かれることが何度かありました。「2年前は全社の予算編成の統括をしていました、理論経済学が専門で経済学修士です」と自己紹介すると、「え、・・・検査部門のご出身ではないのですか?検査部門の方だと思って説明を聞いていました」。メーカと共同開発して検査機器も10種類くらいはありましたから、説明が具体的で丁寧なんです。開発過程で生じた問題点や試行錯誤も興味があるドクターには説明していました。

 どの会社だって会社の取り扱い商品を熟知していないと、たとえば銀行から借入をする際にも困りますから、経理部門の人間だって自社の商品知識が必要なんです。たとえば、「どの検査分野が今後伸びるのですか?」、「どのような新商品がでるのですか?それで売上や利益にどれだけ貢献するのですか?」、そういう質問に的確に答えなければなりません。そして結果が出なければ信頼が維持できません。原価計算システムだって、商品知識(=3000の検査項目)がなければ項目別原価が使えるものになりません。原価計算システムは利益管理志向のものに作り変えるつもりでいましたが、その時期に子会社管理部門にいて、会社買収や出資交渉を担当したり、資本参加した会社に出向してたので、担当する機会がありませんでした。既存の原価計算理論を超えた戦略志向のシミュレーション機能を有するユニークなシステム構想をもっていました。
 1000人の社員がいてもそういうマルチの専門知識と実務経験をもった人材は社内にはそうはいません。

 SRLの財務会計・支払いシステムを担当してくれたSEの村山さんもNCD社の取締役になっています。彼ら三人のSEはどの人も業界内でトップレベルのSEだったのです。
 優秀な外部SEと3度仕事をできたのは幸せでした。スキルが上がったのは優秀な彼らと一緒に仕事をして、彼らの仕事を観察したからです。一緒に仕事すれば、およそ半年後には同じレベルの仕事ができるようになります。そういうレベルの仕事人をSEに対置してKEと言った時代があります。Knowledge Engineerの略です。

 「余談-2」で何が言いたかったのがわからなくなるほど冗長になってしまったので、結論を書いておきます。
 「読み・書き・そろばん(計算)」、これら三つの基礎的学力は中学校と高校時代のすごし方・勉強の仕方で決まるということです。本の濫読期を経過することで「読み」のスキルを磨き、高校時代に公認会計士二次試験科目の答案練習で文章作成力を磨けば、社会人となってからは「鬼に金棒」です。公認会計士二次試験の受験勉強する高校生なんてめったにいないでしょうから、日本の古典文学を読み漁って文章力を磨くという方法もあります。中高生の皆さんはぜひ自分の道を見つけてください。


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#3196 四段階ある作文指導工程:「創造性+文書能力=鬼+金棒」  Dec. 6. 2015 [47. 語彙力と「読み・書き・そろばん」]

12/7 朝8時 追記

 作文指導の仕方について、1ヵ月半ほどあれこれ取り上げてきたが、その工程は四つくらいに分けて論ぜられるようなので、あらためて整理してみたい。

第一段階:短文章
第二段階:小論{要約・感想文・作文など}と視写
第三段階:ビジネス文書
    {稟議書・協議書・提案書・業務報告書・通信文など}
第四段階:小説や論文

 文章を書くことを量と質の両方から分類して見ると大体こういうことになるのではないだろうか。一人ひとりの能力には差が大きいので、こういう順序で教えるべきだというのでは必ずしもないのではあるが、物事は分けて論じたほうがわかりやすい。

 短文章トレーニングは#3195でとりあげた、姿勢や鉛筆のもち方なども正しい方法を身につけさせるいい機会であるから学齢期を迎えた児童に家庭学習としてやらせたい。この段階は、家でやる勉強が楽しいものだということを体験を通して理解させられたら大成功である。子どもは自ら進んで学習する習慣が身につくだけでなく、勉強の好きな子になる。自我が育つ前にこうしたことを刷り込んでおくのは、春の半ばに種を撒くのにたとえられる。家庭学習を通じて、鉛筆のもち方や姿勢を躾け、集中力を養い、勉強が楽しいものであることを体験させる旬の時期だということ。季節季節でやることが違うのは、農作物を育てるのも育児も同じである。

 さて、第二段階は本を読ませて章単位で文章の要約をさせたらいい。文章を書くことにおいて読書は土づくりのようなものだ。土に力がないと丈夫な作物は育たない。本を読みながら会話言葉にはない文章語の語彙を増やせば、書く文章も実り豊かなものになることはいうまでもない。文章を書くことと本を読むこと(音読)は作物と土づくりにたとえることができる。

 「要約」は二百字だと大変だから、四百字詰め原稿用紙1枚に要約させるのがよい。適当なテクストを選び三色ボールペンで粗筋に青、大事な箇所に赤、面白いと思った箇所に緑の線を引く(斉藤孝三色ボールペンメソッド)。それをベースに四百字にまとめるのである。青線部分を削る作業が中心になる。客観的な作業である。

 感想文はもちろん読書なしにはなりたたない。「要約」をベースにして自分が感じたことを書けばよい。「要約」があれば全体の中でどの部分に自分が焦点を当てたかが客観的に自覚できると同時に、自分の主観的な関心事が何かわかる。いくつか書けば自分の関心の方向についての傾向もわかってくる。そういう前作業をして感想文を書いた子は、同じ本を読んだ他の人の感想文と比較してみたらとっても楽しいだろう。他の人の作文の鑑賞眼も同時に育つのである。

 作文は試行錯誤してみたらいい。書きたいことを箇条書きにしてみて、それらを3~5項目に絞り、相互の関係を分析してみる。おのずと書いていく順序が決まるだろう。
 いきなり書き始めたってよい、とにかく数をこなすことが大事だ。

 文章を作るときに使える語彙が多いほどさまざまなニュアンスを書き分けられるから、ふだんの語彙収集が大事だ。そういう理由で、第二段階へ進んだら、良書を選び積極的に音読トレーニングをしたらよい。語彙が増えるだけでなく、読んだ文章のリズムが身体に染み込んできて、書いたものにリズムがでてくるのが音読の2番目の効果である。お手本となる良書の音読経験が多くなるほど、自分が書いた文を音読したときに、リズムのおかしな箇所がわかるようになる
 好きな書き手の文体を真似てみるのもよい、これには「視写」が効果がある。たんたんと文章を写すのである。永井荷風の切れのよい文体、和漢混交文の最高峰である『平家物語』、気に入っている学者の文体など、自分の好みと目的に合わせて選べばよい。
 第2段階は夏の季節だ、芽を出した作物は土から養分を吸い上げ、陽の光をいっぱいに浴びてぐんぐん育っていく。

 第三段階は実りの秋の季節である。春と夏をしっかりすごした作物は、秋に大きな実をつける、それがビジネス文書だ。
 ビジネス文書は言いたいことを3~5項目に絞る。絞りきれないときには階層構造にすればよい。結論を先に書くということも大事なマナーだ。ビジネス文書の要諦は、決裁権限者が承認印を押せるような説得力のあるものに仕上がっているか否かである。具体的で、実現可能でなければ役員たちは承認印を押せないから、やりたいことをやるためには、関係者全員がわかるように、平明で具体的に書くことを心がける。ビジネス文書には、名文も、難解な学術論文スタイルも必要がない。
 要点の絞り方にも資料の作成の仕方にも工夫がいるから、ビジネス文書では複数の専門知識だけでは不十分で、創造性(智慧)が要求される。一番上に、A4用紙1枚に内容をまとめて箇条書きにしたものを添付すれば、読んで判を押す役員たちが「ことの全容」を理解するのに役に立つ。
  そういうわけで大会社になればなるほど、自分が社長にならずともやりたいことはいくらでもできる。創造性があり、実現手順を明確に示した企画書が書けたら、200億円の投資を伴う事業案件でも、自分の好きなようにやれるのが大企業というもの。
 ビジネス文書についてはある方程式が成り立っている。社内だけではない、社外についても同じことが言える。社外というのは、数社でなければできないスケールの大きい新規事業、合弁事業、産学共同事業などである。

     創造性+文書能力 = 鬼+金棒


 第四段階は特別な作物を育てるのに似ている。
 小説や論文だから、それを書こうというぐらいの人なら、そのお作法については、しかるべき人を選んで教えを請うか、自分で調べたらいい。特別な作物を育てるには、手間のかかるのはあたりまえと心得よう、他人と同じ努力では特別なものはできない。
 何より大事なのは中身であるから、大きな創造性(智慧の働き)が要求されることは言うまでもない。

 文章を書くことはアウトプットである、アウトプットの品質は良質のインプットによって支えられていることは言うまでもない。さまざまな分野の本を読み、使える語彙の範囲を広げ、タイプの異なる文章リズムをたくさん身体に刻もう。
 できれば、小学生かおそくとも中学生の時期に濫読期を通過しておきたい。滝水に打たれるがごとく、日本語語彙を浴びる季節をもちたい。人間の思考は言葉とイメージと情緒で成り立っている。濫読期が過ぎたら読む本のレベルをぐんぐん上げてしまおう。
 高いレベルの基礎学力をもち、高校卒業までに興味のある分野の専門書や哲学書を読み漁れば、大学生になっても社会人になってからでも、仕事で必要な専門書(英語で書かれたものも含めて)を読みこなすのに困ることがない。
 時代の最先端の仕事をまかされてもたじろがない自分をつくりあげたらいい。そういう仕事をマネジメントするには、英語で書かれた専門書や雑誌論文の類を読んで、自分のアイディアや仕事の進め方のチェックせざるをえなくなる。日本語で書かれた専門書や論文の数十倍の分量が英語で書かれているから、これらの智の泉にアクセスするには日本語読解力基礎的な数学能力英文読解力の三つが必要である。

 平明な文章を書くか、難解な文章を書くかは、想定する読み手がどういう人かによって違ってくるだろう。このあたりになると、各人の文章スタイルがあるので、一概にこういうのがよいとは言えない。身についた技が条件に応じて自然にでてくる、「守破離」の離の段階であるから、あるがままでいい。




*#3154 日本語読み・書きトレーニング(1) Oct. 11, 2015 
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 #3155 日本語読み・書きトレーニング(2):総論 「読み」と「書き」 Oct. 12, 2015 
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三色ボールペンで読む日本語 (角川文庫)

三色ボールペンで読む日本語 (角川文庫)

  • 作者: 斎藤 孝
  • 出版社/メーカー: 角川書店
  • 発売日: 2005/03
  • メディア: 文庫

#3161 Vampire Blood : Chapter 1 (1) Oct. 22, 2015 [47. 語彙力と「読み・書き・そろばん」]

<追記情報>
10/23 朝7時45分 追記:日本語の本をたくさん読んだ経験が、英語の原著を読む際に強力な武器に変わる。
10/24 朝8時 コメント欄から末尾に「後志のおじさん」の解釈を転載・追記

 高校生の要望でダーレン・シャンの小説をテクストに取り上げ、読み始めた。生徒が英文をノートに写し、辞書を引いて試訳をさせてから解説するのが原則。緒方洪庵「適塾」の塾頭であった福沢諭吉の指導方式を真似ている。(『福翁自伝』より)
 英語は嫌いだが、小説は大好きという生徒、「風とともに去りぬ」で挫折して、自分でテクストを選び再度の挑戦、ようやくエンジンがかかったようだ。

 この小説は人名や地名は実際のものとは違うが、過去に起きた事実を書いているという著者による前置きがある。あるとき授業中にお腹の具合が悪くなり、挙手してトイレに行く許可をダルトン先生に求めたら、ダーレンに先生がこう告げた。

 "Throw up whatever's bugging you, Darren", he said, "then get your behind back in here".

 「throw up」には「吐く」という意味がある。「あなたを悩ますものはなんであろうと吐いてしまえ」、そして次のしゃれた表現が続くのである。辞書を引かずに意味を考えたがしっくりいかぬ。
 get behindをジーニアス4版で引いても、載っていなかった。COLLINS COBUILD Dictionary of Phrasal Verbsには載っていた。
 -----------------------------------------
 If you get behind with some work that you are done, you are slow and do not make as much progress as other people who are doing the same sorts of work.

  I'm just surprised Sarah gets behind at school--- her parents just aren't interested .....
 「わたしはサラが他の生徒よりもずいぶん遅れていることに驚いたが、両親は無関心だ」

------------------------------------------
  「あなたがやった仕事を例にとるなら、その手の同じ仕事を他の人がやるほどには手際よくやれないというのが、get behind の意味である。端的に言うと「遅れをとる」ということ。
  (you are) getting behind at the class

 こういう読みもゼロではないが、やりすぎ。  
 文脈と文法から判断してこの句動詞の意味はなさそうである。なぜなら、behindは副詞ではなく名詞だからだ。次の二つの文に分解してみたら、書き手の言いたいことがよくわかる。

 ① get your behind (well)
  ② get back in here

 作者はこの二つの文を、共通項のgetをひとつ落としてつないだのだろう。たった二つのシンプルセンテンスをつないでひとつに圧縮しただけで、とたんに理解が難しくなる。こういう「圧縮された表現」は高校英語の教科書では出てこない。
 behind(名詞)にはbottom(お尻)の婉曲表現の用法がある。マクミランを引いたら次の説明が載っていた。

 behind-2:the part of your body that you sit on

 おなかの具合が悪くておもらししそうになり、我慢しきれずにダーレンは手を上げ、先生にトイレへ行く許可を求めた。だから、①は「ダーレンの意思にかかわらずお尻からもれそうになっているそういう危機的状況をよいほうへと変えろ」という風に読める。トイレに行って下痢がおさまるまで座っていろということ。
 ②の方は、「トイレで吐くだけ吐いてから、この教室へ戻って来い」

 文全体を日本語にすると、
「気分が悪そうだ、トイレで悩みを吐き出して、すっきりしてから教室へ戻ってきなさい」 

 少し前の方で、作者はこの先生がsmartだとほめているのである。その証拠がこのエピソードだろう。洒落た言い方をして、「下痢か?トイレへ行ってよし」とは言わなかったのである。直截的な表現をせずに、品よく婉曲的な言い方を選んだ先生の配慮と知的センスにダーレンは痛く感じ入ったのだろう。感受性の強い時期はだれにでもあるもので、そういう時期に先生にめぐり合えたダーレンは幸せもの。わたしもまたそういう時期に数人の先生とめぐり合っているから、この一文を共感をもって読めた。

 「文脈読み」に慣れていたら、前に書いてあるセンテンスと比較すれば、読んでいる段落の大意の展開は見当がつくから、単語の意味が一つ二つわからなくても大丈夫だ。読んでいる箇所の意味の見当がつかなければ、次の文がいま読んでいる文の補足説明になっていることが多いから、そちらとも「突合せ読み」をすればよい。こういう風に「本読み」にはいくらでも手がかりが残されている。そして百ページも読むうちには、作者の使う語彙に慣れてしまうから、読む速度が3~5倍くらいに上がってしまう。
 日本語で書かれたさまざまなジャンルの本を読み漁った事のある人は、こういう「文脈読み」や「突合せ読み」に慣れているから、英語の本の読解も容易に深いところへ達するだろう。なんてことはない、英語の本を読む段階になると、それまでに磨いてきた日本語の本読みスキルがそのまま生きてしまうのである。前後関係のない一文だけの文法語法問題はそれ用の勉強をしなければならないが、「長文」対策は、良質の小説を選び50ページほど自分で訳して、先生に手を入れてもらえば、後は独力で勉強できるので、1冊読み終わるころには英語長文だけは東大に合格できる力がついてしまう。ジャパンタイムズも読んでみたらいい。

 わたしは経済学、管理会計学、システム工学、医学などの専門書を中心に読書してきたから、英語の小説は数冊しか読んだ経験がない、だから、こういう小説特有の表現に出会うと楽しくてしようがない。この本を選んでくれた生徒に感謝している。

 ダーレン・シャンの小説は、高校生にも読めるレベルの本で、テクストとしてかなり優れている。
 高校英語文法の点から眺めてよい文例がたくさんある。
 語彙の範囲も修辞的な点でもアガサ・クリスティに比べてずっとやさしいので、高校生の英語テクストとして優れている。
 読み手の技倆しだいで見えるものが違ってくるので、大学英文科のテクストとしても十分に使えそうである。
 高校時代に英語の小説を1冊読んでおくのもいいだろう、そして大学4年生になったら実力アップを確認するためにもう一度読み直してみたらいい。ebisuお薦めの一冊である。


<追記>10/24朝
 ハンドルネーム"後志のおじさん"から、コメント欄へ投稿があったので、紹介する。掛詞はgetだけでなく、backもそうだという指摘である。二つ掛詞になっているとは考えなかった。わたしはget your behind well で考えたのだが、なるほどget your behind back とも解釈できる、そしてそのほうが書き手の意図により近いと思った次第、軍配は後志のおじさんの方へ上がっているようだ。
 コメント欄上でこういう会話ができる、楽しいですね、小説を読むのも、それをまな板に載せてブログを書くのも。(笑)

-------------------------------------------
掛詞ですね。

①get your behind back
 (get しろ←尻を←元に戻った)
 「お腹の具合を元に戻せ。」
②get back in here
「ここに戻っておいで。」

因みに、①の読み方は応用が効きまして、
高校生の「文法」(というより、語のリンク)問題でよくみかける
御大層な
get +目的語+to 不定詞
get +目的語+過去分詞
の問題も

Get する(もの、人、状態などを←予測の部分)
目的語を
どんな?
と、聞いたり読んだりすればいいのです


先に訳を決め付けて、to 不定詞ならば「してもらう」過去分詞ならば「される、してもらう」などと、ほとんどの高校生には押し付けるからわけがわからなくなるのです。
修飾語、被修飾語の位置関係のルールが先で、訳語はその場面を表現する日本語側の都合でくっついたものに過ぎないのですが

by 後志のおじさん (2015-10-23 08:02) 

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*#3163 Vampire Blood : Chapter 1-1  Oct. 25, 2015
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Cirque du Freak (The Saga of Darren Shan No.1)

Cirque du Freak (The Saga of Darren Shan No.1)

  • 作者: Darren Shan
  • 出版社/メーカー: HarperCollins Children's Books
  • 発売日: 2000/01/04
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