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#5221 毎日繰り返す行動⇒習慣化⇒思考様式の形成:人間の不思議 Apr. 29, 2024  [65.a 成績上位層にかかわる問題]

  朝、家族におはようという。誰かに会うたびに”おはよう”と1年間やり続けたら、それはもうすっかり習慣となっています。3年もやっていたら、「ちゃんと挨拶のできる子だね」ということになります。挨拶しないと気持ちが悪くなりますから、ちゃんと挨拶するという行為が性格の一部になっています。挨拶がちゃんとできるだけでも、その子の未来は明るい。

 悪いことを繰り返せば、それが習慣となります。人が見てないからズルしてもいい、見ているときだけちゃんとやろう、そんなことが習慣になってしまえばなかなか変えられません。それが十年続けばもう性格になってしまいます。「あいつは人が見てないとズルするやつだ、そういう性格なんだ」、見る人は見ているのです。自分が一番よくわかっているでしょう。こういう悪習慣も習慣ですから、本人が自覚できてもなかなか変えることができない、性格になってしまえば単なる習慣ではないのですから、ますます変えがたいものになります、人生に碌な影響がありませんから怖いことです。

 ところで勉強スタイルがその人の思考習慣を形づくり、いつしか思考の鋳型になることに同意できる人は少なくないと思います。
 どういうことか少し具体的に説明してみたいと思います。
 難関大学を目指そうとすると、小4くらいから受験勉強をスタートするケースがほとんどでしょう。もちろん効率を重視します。数学なら先取学習でたくさんの解法を覚えてしまうのが効率的です。
 数学の学習スタイルは大きく二つに分けることができそうです。効率重視でどんどん解法を覚えてしまうという学習スタイルをタイプA。予習方式で答えを見ないで、時にはウンウンうなりながら1時間でも1日でも考え続け、2日目になってもわからなければ解答を見る、というような自力学習スタイルをタイプBとしましょう

 わからないときにはその章のコンパクトな解説に戻って考える続けることができる、そして概念が呑み込めないと前に進めないという傾向のあるのがタイプBです。
 わからなければ解答を参照して効率的に解法を覚えてしまって前に進んで、あとから概念の整理をしようかなというのがタイプAの特徴です。
  それぞれメリットとデメリットがあります。実は学習塾を初めて2年後くらいに同じ学年に典型的なタイプAとタイプBの生徒がいました。中学校で男子の中でトップと2番目の成績の生徒でした。それぞれ異なった学習スタイルだったので、興味津々でしっかり観察しました。スタイルは高校卒業するまで変わらなかったようです。

 小4から高校3年までこうした学習法を9年間続けたら、その学習法を支える思考習慣がその人の「思考の鋳型」となります
 タイプAは正解を見るとか教えてもらえばいいだけですから、「正解を見て覚える」「教えてもらう」という依存型の思考習慣を9年間育むことになります。
 タイプBは「わからなければ基本に戻って自力で考える」という思考習慣を9年かけて磨き抜きます。自力で解決ができなかったわずかな問題だけを質問します。中学、高校と学年が進むほど質問が少なくなる傾向があります。経験の積み重ねで、自力で問題を解決できる範囲が広くなるからでしょう。よほどできる生徒でないとタイプBの生徒が難関大学へ進学することは不可能かもしれません。
 効率重視のタイプAの方が、大学受験だけを考えたら圧倒的に有利なのです

 では、社会人になったときはどうでしょう?
 タイプAは前例踏襲型の仕事が向いていますね、公務員がぴったりです。東大法学部卒業生にキャリア官僚を目指すものが多いのは理由のあることなのでしょう。それまで育んだ「思考の鋳型」にぴったりです。
 民間企業の仕事には前例のないものが多いのです。だからタイプAは職位ががるにつれて挫折するケースが多くなります。「難問にぶつかると基本へ戻って自力で考え続ける」タイプBはうってつけです。大学受験までの9年間、そして大学へ進学してからも、同じ思考スタイルで考え・学習するからです。社会人になっても「思考の鋳型」を変更する必要はありません。鋳型を変えるにはいままでのものを叩き壊して、一から造りなおすしかありません
 誤解のないように念を押しておきますが、中高一貫の進学校にもそして難関大卒にも3%ぐらいはタイプBがいます

 「思考の鋳型」が受験勉強の9年間で、すっかりできあがってしまうと、それは習慣の集積ですから、無意識です。だから、ほとんどの人が変えられません。人間の思考は機械のスイッチと違ってオン・オフできないのです。タイプAからタイプBへは簡単には変えれれません。変えようとしたら、受験勉強に費やした時間以上かかるでしょう

 わたしは、数人規模の紳士服の小さな製造卸の会社に3年間、200人規模の産業用エレクトロニクス輸入専門商社に6年間、4000人規模の臨床検査会社に16年間、300ベッド弱の療養型病院に1.5年間、外食産業の企業の上場準備の仕事を1.5年間しました。
 いわゆる難関大卒(東大理Ⅲ、京大、一ツ橋大、慶応大医学部など、20~30人ほど)の人たちとも一緒に仕事しましたが、頭脳が柔軟でタイプBの人は一人か二人でした。おそらく東大出身者でも3%くらいでしょう。この比率は難関大学ではないほうが多そうです。たいした受験勉強してない人が少なくないからです、効率重視の勉強スタイルを築き上げる必要がなかった人たちです。
 大学へ入学してから毎日8~12時間、同じスタイル(タイプB)で猛烈に勉強してます。公認会計士2次試験に3年次で合格する人や、そのまま大学院へ進学して大学に残る人たちにそういうタイプがいました。母校の教授になって週に2度東大へ講師でマーケティングの授業を持っていたTさんもそういうタイプでした。彼は院生の時代に毎日十数時間、研究に没頭してました。
  普通のスタミナの人があまり研究に没頭しすぎると精神を病みますので注意しましょう。自律神経系が興奮したまま、暴走するからです。不眠状態が訪れたら数日休んで身体を動かし頭をクールダウンしましょう。

 母親の介護のこともあって、2002年11月に古里へ戻って、20年間小さな学習塾を営みました。あるとき国立大学医学部志望の生徒が小5の1月に入塾してきましたが、弱点になっている国語は教えず、読解力の段階に応じて17冊選んで日本語音読トレーニングをしました。読解力を大学のトップレベルのゼミの学生と同等レベルに引き上げるためです。「読み・書き・そろばん」といいますが、これは優先順位も表しています。「読み」のスキルが一番大切なのです。すべての教科が日本語で書かれていますから、読んで正確に意味がつかめなければいけません。読んでわかってしまえば、小学校や中学校で学ぶ必要がなくなります。暇をつくって別のことを学んだらいい。とくに人とのコミュニケーション・スキルを磨くことが重要です。学校行事に参加してクラスをまとめ上げる仕事をしてみるなんてこと、あるいはブカツや生徒会活動で何かを変える仕事をしてみる。思春期に経験しなければつかめないことがたくさんあります。切磋琢磨する中で自然にリーダーが産まれます。周りが認める人間が出てきます。
 国立大医学部志望のこの生徒は偏差値45の根室高校から道東・道北推薦枠で現役トップで合格しています。二次試験の小論文テストで300点満点で295点をたたき出しました。17冊の日本語音読トレーニングは、ときどき書いてある内容について質問や対話があります。著者の意見、対立する考え方、そして自分の意見を比較検討することをよくやっていました。中3あたりからは大学のゼミレベルでした。よくできる生徒でしたね。「友人に教えてくれと頼まれたら決して断ってはならない、親身に教えること、それは人のためではなく自分のために必ずなります」「(クラス対抗)の学校行事には率先して参加すること」を求めました。よくやっていました。数学は札幌の進学校へ行った生徒にもPCとスマホを利用して教えてました。(笑)

(昨年、血液の癌で逝った根室高校最後の総番長のヒロシもそうして350人の同期が認めたリーダーの一人でした。リーダーというのはなろうとして成れるものではなさそうです。あいつの周りには人が好く集まりまました。周りの人間がリーダーと認めるのです。自然の成り行きで決まります。人間にかわいげがありましたね、好い同級生・友人でした。東京の大学への進学を誘ったのは仲のよかったあいつでした。あいつがいなければわたしは東京へは出てきませんでした。担任から勧められた学校推薦で、日銀釧路支店へ就職したかもしれません。独学で公認会計士二次試験を受験するつもりで高2のときから勉強してましたので、高校3年の12月まで大学進学の意志はありませんでした。小学生の時から家業のビリヤード店で遊んでいましたし、店番を毎日数時間手伝っていました。高校卒業までずっとそうしてました。中学生の時から、公認会計士二次試験に合格してから故郷を出ていこうと、漠然と思っていました。)

 さて、まとめです。単純な事実ですよ。毎日繰り返すことは習慣となります。無意識にやっている習慣はいつか人格や性格に一部になってしまいます。
 毎日やっている学習スタイルが思考習慣を形成します。9年間かけて築いた思考習慣は「思考の鋳型」となって、人格の一部を形成してしまいますから、大学生になったからとか社会人になったからといって都合よく切り換えられるものではありません。
 効率の良い学習スタイルはそれなりの思考の鋳型(タイプA)を育んでしまいます。効率の悪い学習スタイルはタイプBの思考の鋳型に結実します

 どのような学習スタイルを選択するかは個人の好みや目標とするものによるでしょうが、日本の民間企業に不足している人材はタイプBです。

<余談-1:マルクス経済学者などのタイプ分け>
 『人新世の資本論』の著者の斉藤幸平氏は典型的なタイプAに見えます。マルクスの膨大な遺稿をドイツ留学して読んだ研究者です。マルクスの遺稿をよく勉強してます。でも答えが遺稿の中にないとしたらどうでしょう?『資本論第一巻初版』を読んで、なぜ第二巻が出せなかったのか、そうした重要な事実からその理由を考えなければならないのです。遺稿をいくら読んでも正解は書いてありません。都合が悪いところは書き残さなかった、マルクスは論理の破綻に気づいてしまったのです。それが資本論第二巻を出せなかった理由です。斉藤氏の著作は受験勉強スタイルの延長線上にあるように見えます。
#5015 斎藤幸平氏の大きな勘違いはなぜ生じたのか? Jul. 14, 2023


 古い人では宇野弘蔵氏がタイプBではないかと思います。三段階論という彼の方法論のはマルクスにはありません。わたしの知る限り、そのシューレ(宇野学派)でタイプBだったのは「過剰富裕化論」を提唱された馬場宏二先生です。他の大勢の宇野シューレの経済学者のみなさんはタイプAに見えます。宇野先生の学説をベースにとってもよく学習されていました。効率の良い受験勉強スタイルの延長線上の経済学者たちのようです。

 経済学者ではありませんが、友人の遠藤利國はタイプBに分類します。彼の著作はどれも面白い。哲学勉強するのに、ギリシア語から勉強し直していました。とても大きな迂回でした、あの当時もいまもそんな院生はとっても珍しかったのです。効率をかなぐり捨ててました。彼にとってはそれが一番効率的だったのでしょうね。それが彼の著作を面白いものにしています。哲学者が書いた正岡子規論や福沢諭吉論、大学生や社会人は一度読んでみたらいい。

 大数学者の岡潔先生も典型的なタイプBの人でした。旧制中学受験で躓いたことがあったかな。旧制中学時代に自力で難解な数学書を読んでいますね。思いつくと棒で地面に数式を書き出し、何時間もそのまま没頭しているなんてことの多かった人です。数学研究に没頭する準備として、禅の修行や俳句の研究に没頭します。彼にとってはそれが必要なことだったからです。ある時夢を見て、二人の修行僧に抱えられて道元の前に連れていかれ、灌頂を受けたと語っています。それからは道元の『正法眼蔵』に書かれていることが手に取るように理解できると。わたしはあの本の内容がさっぱり理解できません。でも、初期仏教経典群を読むことで、釈迦の言っていることは理解できます。
 中国経由の経典群は表意文字である漢字に翻訳されたことで、漢字のもつ意味が混じって、衆生には理解しがたいものに化けてしまいました。化ける前の、釈迦が衆生に説かれたものにもっとも近い南伝の初期仏教経典群は繰り返しと比喩の多い実に理解しやすいものになっています。道元は南伝の初期仏教経典群『阿含経経典』を知りませんでした。



漫言翁福沢諭吉: 時事新報コラムに見る明治

漫言翁福沢諭吉: 時事新報コラムに見る明治

  • 作者: 遠藤 利国
  • 出版社/メーカー: 未知谷
  • 発売日: 2012/07/01
  • メディア: 単行本





漫言翁福沢諭吉 続: 時事新報コラムに見る明治政治・外交篇

漫言翁福沢諭吉 続: 時事新報コラムに見る明治政治・外交篇

  • 作者: 遠藤 利国
  • 出版社/メーカー: 未知谷
  • 発売日: 2014/09/01
  • メディア: 単行本





明治廿五年九月のほととぎす: 子規見参

明治廿五年九月のほととぎす: 子規見参

  • 作者: 遠藤 利国
  • 出版社/メーカー: 未知谷
  • 発売日: 2010/03/01
  • メディア: 単行本





百%の真善美: ソクラテス裁判をめぐって

百%の真善美: ソクラテス裁判をめぐって

  • 作者: 遠藤 利国
  • 出版社/メーカー: 未知谷
  • 発売日: 2013/02/01
  • メディア: 単行本





帝国主義: 現代語訳

帝国主義: 現代語訳

  • 出版社/メーカー: 未知谷
  • 発売日: 2010/05/01
  • メディア: 単行本



これら5冊は読みました。
他に古代ギリシア関係の翻訳書が多いようです。

春宵十話 (角川ソフィア文庫)

春宵十話 (角川ソフィア文庫)

  • 作者: 岡 潔
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA
  • 発売日: 2014/06/12
  • メディア: Kindle版
情緒と日本人 (PHP文庫)

情緒と日本人 (PHP文庫)

  • 作者: 岡 潔
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2015/04/03
  • メディア: 文庫
日本の国という水槽の水の入れ替え方: 憂国の随想集

日本の国という水槽の水の入れ替え方: 憂国の随想集

  • 作者: 岡 潔
  • 出版社/メーカー: 成甲書房
  • 発売日: 2004/04/01
  • メディア: 単行本

増谷文雄訳の阿含経典群は全部で6冊あります。繰り返し読みました。釈迦の透明な知性に触れることができます。
阿含経典1 (ちくま学芸文庫)

阿含経典1 (ちくま学芸文庫)

  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2016/07/08
  • メディア: Kindle版
阿含経典 2 (ちくま学芸文庫 マ 3-3)

阿含経典 2 (ちくま学芸文庫 マ 3-3)

  • 作者: 増谷 文雄
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2012/09/01
  • メディア: 文庫
阿含経典 (3) (ちくま学芸文庫 マ 3-4)

阿含経典 (3) (ちくま学芸文庫 マ 3-4)

  • 作者: 増谷 文雄
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 2012/10/10
  • メディア: 文庫



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