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#3187 うっすらつもった雪の朝: 「教育シンポジウム北海道」紹介  Nov. 24, 2015 [66. 教育シンポジウム北海道]

 2度ほどぱらぱら雪が舞った日があったが、積もったのは今日が今冬はじめてです。空から穏やかな風に乗って1~2cm大の雪が舞い降りてきます。青森の雪のように大粒。
 気象庁のデータを見ると、朝7時の気温は0.6度、東北東の風6.8mとなっている。松の枝がちょっと震えています。

 「教育シンポジウム北海道」シリーズを昨日書き終え、第11回をリリースしました。
 2回目で紹介した小学1年生から中学生のメンバーによるミュージカル「キッズロケット公演」は、はきはきした子どもたちのリードでリズムに合わせて会場の皆さんが手を叩き、一気に一体感がかもし出されました。お手柄です。最後は万雷の拍手に包まれました。普段の活動を通じて躾がきちんとなされているのが演技を見てよくわかりました。集団活動で躾が軽んじられているようですが、キッズロケット公演をみて、集団活動を通じてなされる躾のすばらしさを見ました。
 3回目から10回目までを占めている前道教育次長武藤さんの基調講演は聴き応えのある内容でした。北海道の学校の先生たちと問題意識を共有したくて詳細にレポートしました。
 パネルディスカッションでは浜中農協の石橋さんが「これからは地方の農業にこそ優秀な人材が必要な時代だ」と明言。農業だけではありません、根室の水産業も同じことですから、石橋さんの言は、地方の農水産業に共通する普遍的な要請です。石橋さんは34年前に酪農技術センターを設立して、科学的にデータ・トレーサブルな牛乳の品質改良に努めた経験を語ってくれました。
 未来塾の吉田敦子さんは自分の子育てにとどまらず地域の子こどもたちの教育を考え実行してきた人です。なかなかできることではありません、吉田さんは子育てにおいても「私」にとどまらず「公」を意識においています。子育てと躾について重要なことを仰っいました、「子育てはやり直しがきかない」「家庭においては父を、学校においては先生を敬いなさい」。パネルディスカッションを聴いていた釧路に人の話によれば400人の従業員を抱える地元企業の副社長だそうです。

 わたしは今年3月ころから準備の打ち合わせに何度か参加しましたが、こんなに実りの多いものになることは想像していませんでした。日本教育文化研究所の役員のみなさんの手馴れた準備がよかったからでしょう。
 基調講演とパネルディスカッションの人選は北海道教育文化研究所で担当させてもらいました。官の武藤さん、40年も前から酪農経営改革を進めてきた地元JA浜中組合長の石橋さん、民間企業人の吉田さんという組み合わせがよかった。
 最初は酒を飲みながら思いつくままリストアップ、ロシアのプーチン大統領を呼び北方領土の議論をしようとか、日本文化の理解者でもある台湾の李登輝元総統を呼びたいという、本気なのか冗談なのか区別のつかない意見もありましたが、議論百出の上、ごらんの通りの4人の登壇者に意見が一致したのです。
 北海道教育文化研究所は昨年2月に設立されましたが、教育村の住人ではないメンバーが半分いますから、よく言えば発想が柔軟です。理事長も所長もさぞかしたいへんなことでしょう。(笑)

 とにもかくにも、北海道に住む皆さんと教育の現況に関する問題意識を共有したくて、1週間かけて11回のシリーズ記事にまとめて(?)みました。ブログに記録して、責任の一端を果たせた気がようやくしています。
 シンポジウムを成功に導いてくれた関係者のみなさん、そして「教育シンポジウム北海道」に集(つど)ってくれた全国の先生たちにあらためて感謝申し上げます。


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  阿吽の呼吸でブログ「情熱空間」と「ニムオロ塾」の二重奏になっているので、ぜひ両方お読みいただきたい。

*《ブログ「情熱空間」から》
●教育シンポジウム北海道⑦(2015.11.15)
http://blog.livedoor.jp/jounetsu_kuukan/archives/8246669.html

●教育シンポジウム北海道⑥(2015.11.15
http://blog.livedoor.jp/jounetsu_kuukan/archives/8245810.html

●教育シンポジウム北海道⑤(2015.11.15)
http://blog.livedoor.jp/jounetsu_kuukan/archives/8244826.html

●教育シンポジウム北海道④(2015.11.15)
http://blog.livedoor.jp/jounetsu_kuukan/archives/8244708.html

●教育シンポジウム北海道③(2015.11.15)
http://blog.livedoor.jp/jounetsu_kuukan/archives/8243768.html



**《弊ブログから》
○#3186教育シンポジウム(11): パネルディスカッション Nov. 22, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-22

○教育シンポジウム(10): 武藤久慶氏による基調講演⑧
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-21-1

○教育シンポジウム(9): 武藤久慶氏による基調講演⑦
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-21

○教育シンポジウム(8): 武藤久慶氏による基調講演⑥
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-20

○教育シンポジウム(7): 武藤久慶氏による基調講演⑤
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-19-2

○教育シンポジウム(6): 武藤久慶氏による基調講演④
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-19-1

○教育シンポジウム(5): 武藤久慶氏による基調講演③
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-19

○教育シンポジウム(4): 武藤久慶氏による基調講演②
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-18

○教育シンポジウム(3): 武藤久慶氏による基調講演①
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-17-1

○#3177 教育シンポジウム(2):キッズロケット Nov. 18, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-17



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#3186 教育シンポジウム(11): パネルディスカッション Nov. 22, 2015 [66. 教育シンポジウム北海道]

 パネルディスカッションは武藤さんの基調講演(1時間)のあとに行われました。

【パネルディスカッション登壇者】
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司会:千葉敬愛短期大学長 明石要一
パネリスト
 ●JA浜中組合長 石橋榮紀
 ●文部省初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室 室長補佐 武藤久慶
 ●くしろ子ども未来塾代表 吉田敦子

*JA浜中農業協同組合ホームページ
http://www.ja-hamanaka.or.jp/modules/top0/

 くしろ子ども未来塾
https://www.facebook.com/Kushirokodomomiraijuku/

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【それぞれの方のご意見】
  司会の明石さんは一番左側のパネラー、石橋さんに最初に話をふりました。
 石橋さんはJA浜中農協の組合長としてさまざまな改革に取り組んできた人です。1981年に酪農技術センターを設立して、一つ一つの牧場の土壌分析をして必要な肥料をデザインし、牛乳の品質改善を徹底してきました。農協としては規模の小さいJA浜中農協が先進的な酪農技術センターを34年も前に設立して技術指導の拠点にしてきたことは驚異です、その先見性に驚かざるをえません。
 石橋さんはこれからの農業は勘に頼るものではダメで、しっかりした科学的データに基づいた農業を展開しないと未来はないと確信し、農協がそんなものを作ってどうすると周囲が反対する中、40歳代のときに酪農技術センターを立ち上げたのです。全国初事例のようなことをやろうとしたら、全国農協も農林省も反対にまわります、資金的にも大変な冒険だったことは想像に難くありません。
 酪農センターでは土壌分析だけではなく、牧草の分析もします。「草の分析を通して、その草の栄養素から、この牛は1日30キログラム絞れるとしたら、この草だけでは何と何の栄養分が足りないから、そのためには購入した配合飼料を何キロやればいい、と、そういう計算まで行えるセンター」なのです。
 酪農技術センター設立に至った経緯を話してくれました。あるとき、職員がヨーロッパの酪農技術センターの話をしたのだそうです。5時を過ぎたら、無礼講、肩書きを外して職員と話す、職員の提案はとにかく聴くことにしている、聴いた上で、やるかどうかは自分の判断でやる、そう普段から職員に話しています。
 職員が話した酪農技術センターの本をもってこさせ、読み漁ります。とにかく人の話は聴く、そしてできるかぎり調べてやるかやらぬかの決断は自分が下す、と職員に公言しています。決断したことに対しては自分が責任を取るということです。権限と責任は一体、子分に責任転化はしない、立派な親分です
 民主党が政権をとって失敗した原因のひとつに、思いつきの人ばかりで、仕事としてそれを軌道に乗せることのできる人材がいなかったことを挙げておきたいと思います。

 人の話を聴き、資料を自分で読み漁って確認し、そしてやるべきと思ったら果敢に決断して、必要な資金を用意し、プロジェクトを進める。同じことを根室の3漁業協同組合ができたら、根室の水産業は大きく変わる可能性を秘めています。

 ハーゲンダッツが日本に工場をつくるに当たって、原料牛乳確保のために全国各地の牛乳の品質検査をしました。各地の牛乳が品質に問題ありとされる中で、浜中の牛乳には一発でOKが出たのは、酪農技術センターの科学的分析に基づく肥料設計や、牧草分析によって配合飼料の調整をしてきたからです。牛の固体も科学的な調査分析の対象です。とことん科学的な調査分析を重ねています。このようにして浜中の牛乳は品質に科学的データのトレーサービリティが担保されていました。全国でもっとも先進的な酪農を支える仕組みが浜中町に育っていたのです。
 必要なものは必要になってから準備するのでは遅いのです。何もないときにこそ先を読み、具体的な手を打っておかなければ、それが必要になるタイミングに間に合いません、仕事とはそういうものですビジョンそれを実現する戦略、そして実行力の三つが揃わなければ仕事は成らないのです。

 1990年には就農者研修牧場を設立しています。他地域の酪農家が後継者がいないために耕作放棄地が増えているのに、浜中は新規就農による牧場がしっかり経営されているのは、この就農者研修牧場による支援があるからです。183戸の組合員のうち37戸が新規就農者です。この実績もすごい。実績を保障する仕組みをちゃんと用意しています。

 石橋さんは工業大学の出身者で、大学4年生のときにお父さんが倒れ、家を継ぎました。そのときに酪農について猛勉強したそうです。小学生の時には腕白坊主でしたが、図書室の本を全部読むほど読書が好きだった。
 酪農技術畑の本を読むための専門知識がありました。酪農に必要な専門知識を本気で習得し、酪農経営改善に強い熱意を抱く石橋さんのいたことが浜中町の酪農家にとって幸いでした。
 面白いことを言ってました。

私はいつも言うんです。ムダに不安がるより、根拠のない自信をもってみろ
背伸びする必要はないやれることを一つ一つやっていけば活路は見出せる

*「企業物語」をご覧ください。「JA浜中町 石橋榮紀組合長 ムダな不安より、根拠のない自信を持て!ハーゲンダッツの原料となる最高品質の牛乳を提供
http://biglife21.com/pantheon/823/

 一つすごいことを言いました。釧路管内と根室管内で中小企業家同友会の統合の話を進めているというのです。狙いは農業と水産業の広域ブランドを確立することです。実際にその方向で動いて、来年5月をめどにしていると語りました。釧路・根室管内をまとめる大きな構想をもち、それを実行する人材がの浜中町に現れました。
 これからの農業こそ、科学的データに基づく改革を進めなければならないから、大企業よりも優秀な人材が必要ですという意見を聞いて、隣にいたパネラーの武藤さん、「すごい人がいるな」とびっくりした顔をしていました。

 武藤さんへは司会の明石さんがどういう少年だったか尋ねましたが、プライバシーに関わるお答えだったので、書きません。教育に関する主張は基調講演ですでに語られたものですから、再録の必要はないでしょう、そちらをお読みください。

 三番目は紅一点のパネラー吉田さんです。他の人から聞きましたが、吉田さんは従業員400名の企業の清掃会社の副社長です。事業はいいときばかりではありませんから、子育てと仕事の両立は困難な時期があったことでしょう。
 あるときに知り合いからこう言われたそうです。

 「子育てはやり直しがきかないのよ

 そうして自分の子育てに励むと同時に、自分の子どもたちだけでなく、地域の教育を何とかしなければと思ったそうです。
 未来塾は有料です、日曜日の午前中2時間、300円で何講座でも受けることができます。それぞれの講座はその道のプロがボランティアで指導しています。食事担当8名総勢60名のボランティアで支えられています。
 彼女は自分の子どもには「大きな夢を見なさい」と言い続けたそうです。一人は総理大臣になりたいと言ったとか、かわいいじゃありませんか。勉強しなさいとは言ったことはないが、夢を実現するためにはいま学力はどれくらい必要かと問いかけたそうです。躾で意を砕いたのは、縦社会のルールをしっかり教えることでした。

 家庭においては父を、学校においては先生を敬(うやま)

 吉田さんはそう教えました。子育てには方針のぶれないことが大切ですね。これは語られなかったことですが、息子さんの一人は医者だそうです。そういう夢を抱いて、どれくらいの学力が必要か自ら考えて勉強したということでしょう。

 明石さんは、次のようにまとめました。
  ①グローバルに考えて、ローカルに行動する
  ②大人は夢を語れ
  ③田舎に残り、ふるさとを盛りたてるためには高度な知識が要る

 田舎こそ、教育を重視しろというわけです。
 明石さんは大学、石橋さんは農協、武藤さんは官、吉田さんは民間企業、それぞれ立場の異なる人が、人材教育について話をしました。こういう人選はなかなかないし、なされた議論の中身もじつに濃いものになりました。登壇者の皆さんにあらためて拍手を送ります。ありがとうございます。

 さて、これで11回にわたって、金安潤子さん主宰の「キッズロケット」公演、武藤さんによる基調講演、そして最終回がパネルディスカッションと、一連の「教育シンポジウム北海道」の報告を終わります。
 最後までお読みいただきありがとうございます。
 
(なお、本欄左側に並んでいるカテゴリー欄の「教育シンポジウム北海道」をクリックして戴くと、11回分が並んで出てきます)


*#2214 北海道庁教育局義務教育課長「講演会」でどよめきあり Feb.16, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-02-17

 #2218 論旨の違う新聞報道:市PTA連合会主催講演会 Feb. 19, 2013
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-02-19

 #3178 教育シンポジウム(3): 武藤久慶氏による基調講演① Nov. 18, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-17-1

 #3179 教育シンポジウム(4): 武藤久慶氏による基調講演② Nov. 18, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-18

 #3180 教育シンポジウム(5): 武藤久慶氏による基調講演③ Nov. 19, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-19

 #3181 教育シンポジウム(6): 武藤久慶氏による基調講演④ Nov. 19, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-19-1

 #3182 教育シンポジウム(7): 武藤久慶氏による基調講演⑤ Nov. 20, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-19-2

 #3183 教育シンポジウム(8): 武藤久慶氏による基調講演⑥ Nov. 20, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-20

 #3184 教育シンポジウム(9): 武藤久慶氏による基調講演⑦ Nov. 21, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-21

 #3185 教育シンポジウム(10): 武藤久慶氏による基調講演⑧ Nov. 21, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-21-1

 #3186 教育シンポジウム(11): パネルディスカッション Nov. 22, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-22

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#3185 教育シンポジウム(10): 武藤久慶氏による基調講演⑧ Nov. 21, 2015 [66. 教育シンポジウム北海道]

 文科省初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室・室長補佐武藤さんの基調講演【基礎学力保障論】8回目、「(2)基礎学力問題の中長期的インパクト」の最終回です。
 小学生のときに躓(つまづ)き、基礎学力が身につかなかった生徒が、中学生になるとさらに学力格差が拡大する様を詳細に見てきました。高校入試を境に、基礎学力に欠陥を抱えた生徒たちはフィルターにかけられ、底辺校へ進学します。そこでは1年間「学び直し」がなされ、標準的な高校課程に比べると、実質2年以下の教科内容しか習得できません。道内では「学び直し」授業をしている高校は道立高校の6割を占めます。
 標準的な高校課程を消化せずにこうして「形式卒業」した生徒は、いずれ社会人となります。
 #3184で「新規高卒者の離職」「高校中退者の割合」「キャリア類型の分類」「雇用形態による賃金カーブの違い」、そして「フルタイムとパートタイムの賃金格差(OECD19カ国中米国についで2番目に格差が大きい)」「貧困の再生産(釧路の例)」「学歴別貧困率」を見てきました。

 武藤さんは「生活保護者数の伸び率」データを挙げています。平成12年(2000年)を100%として平成22年がどれくらいになるかが示されています。

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A:60歳以上の受給者数 ⇒175%
B:20~39歳の受給者数 ⇒161%
C:総受給者数 ⇒152%
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 平成12年は受給者数が約75万人、平成22年は140万人、平成27年は216万人です。だから、平成12年を100%とすると、平成27年度は288%です。20-39歳の階級はH16~H20年まで130%台を推移してきましたが、H21年から急増して、毎年10ポイント増えています。非正規雇用割合の増大で、20-39歳の貧困化が急速に進んでいることがわかります。若年層の非正規化の進行はすでに大きな社会問題です。

*生活保護受給者数の推移(時事ドットコム)
http://www.jiji.com/jc/graphics?p=ve_soc_general-seikatsuhogo

 30ページには苅谷剛彦『学力と階層』(朝日新聞出版 2008年P21)から、抜粋引用がなされています。
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● 若年雇用市場の非正規化が進んでいるが、学校時代に身に付けるべきことを身に付けないまま、職業に就いてからも十分な職業訓練の機会を与えられないまま若者が増えていく。
● それだけに、訓練可能性(トレイナビリティ)につながる学習能力の格差拡大は深刻な問題となりうる・・・社会的セーフティネットとして義務教育をとらえ直すことが必要・・・。
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 この50年間の提携業務と非定型業務の傾向を眺めると、米国では「非定型対人」業務と「非定型分析」業務へのニーズが増え、「定型単純」業務と「非定型単純」業務、「定型認識」業務のニーズが減少しています。コンピュータとネットワークそして機械が融合することで、多くの専門業務が定型単純業務に変わると同時に大量の定型単純業務がプログラムに取って代わって失われました。この長期的な傾向は今後も変わらないと思われます
 グローバル化が進む中で、学力底辺層の子どもたちは、縮小する単純労働市場で流入する低開発国からの労働者と競い合い、いまよりも安い給料で働くことを余儀なくさせられるのです。

 武藤さんは、お二人の学者の意見を31ページに載せています。

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  子どもたちの未来

今後10~20年程度で約47%の仕事が自動化される可能性が高い
  マイケル・A・オズボーン氏(オックスフォード大学准教授)

子どもたちの65%は、大学卒業後、今は存在していない職業に就く
  キャシー・デビットソン氏(NY私立大学大学院センター教授)

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 過去30年間のコンピュータの性能アップをベースにすれば、100年後には現在の2億倍の性能になります。手のひらに載るサイズの人工知能が生まれます。そのときにはあらゆる生産活動、仕事が人工知能と機械にとってかわります。人工知能から見たら人間は性能の悪い旧型の機械にしか見えませんから、人類は仕事を失うことになります。共産主義は人間が労働から解放されることを究極の目標にしていますが、それは人類の滅亡に他なりません。マルクスは労働からの解放が人類の幸福と信じていましたが、それは人類の滅亡だったのです。
 わたしは「資本論と21世紀の経済学」でコンピュータの性能向上と人間の知能をはるかに超える人工知能の出現に言及していますが、著名な物理学者であるスティーブン・ホーキング博士も、人工知能の開発をやめないと人類滅亡の危機を招来すると警告しています
 人工知能はいずれ自己を再設計し、無限にその性能を高めるようになります。そうなったとき人類にはとめる手立てがありません。
 アダム・スミス『諸国民の富』、デイビッド・リカード『経済学及び課税の原理』、カール・マルクス『資本論』をユークリッド『原論』の体系構成法を用いて根底からひっくり返しました。「労働=苦役」であるというのがヨーロッパの経済学ですが、日本人は仕事が神聖なものであるという感覚で働いてきました。「日本人の伝統的な仕事観」に基づく新しい経済学をぜひお読みいただきたい。
 本欄左側にある「カテゴリー」欄の「資本論と21世紀の経済学」をクリックすると、四百字詰め原稿用紙換算450枚ほどの論文が読めます。人類の未来を救う経済学です。

 ところで、武藤さんは31ページで「企業生存率」という面白いデータを紹介しています。新規企業がどれくらいの確率で生き残るかというデータです。
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10年後の企業生存率 70%
20年後の企業生存率 52%
28年後の企業生存率 45%
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 20年続いたら、30年後も生き残っている確率が高いと読むのか、新規企業の半分が20年後にはなくなっていると読むべきなのか、わたしにはわかりません。
 武藤さんの説明では、20年後には半数の企業がなくなっているから、20年後に新しい職を探さなければならない人が半数いるということでした。そのときに、マニュアルを読んだり、仕事に関係する資格を取得する基礎学力がなければ、再就職が困難になるので、たしかな基礎学力を身に付けておくべきです。
 
 就職するなら、創立してから20年以上の企業を選べば、20年後も同じ企業で働いていることができそうです。日本には200年以上の歴史を誇る企業が3000社あるそうです。世界中で200年以上の歴史を誇る会社は約4000社しかありません。共産主義の国になって多くの民間企業がなくなったこともありますが、だまされるほうが悪いという価値観をベースにした社会である中国には200年を超える歴史を持つ企業が7社しかないそうです。信用第一というのが本来の日本企業のあり方です。

  「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」

 しっかりした商道徳を確立できない企業は早晩消えてなくなるというのが日本という国です。ほうっておいたらよろしい、ブラック企業は自己改革して従業員を大切にする企業に変われなければそのうちに消えてなくなります。人が集まらなくなれば企業はやっていけない、当たり前のことです。
 企業の生存率データは何を語っているのでしょう。しっかりした商道徳をもった経営者がいる歴史の古い企業に就職しなさいというようにわたしには聞こえました

 締めくくりに武藤さんの「まとめ」をそのまま転載します。
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 まとめ

 基礎学力問題のイメージを共有する

● 子どもにとって超切実、自立に直結
● インパクトは中長期的に増大する
● 義務教育制度の根幹問題(格差是正に寄与、格差生成さんの一部か)
● 関係者の努力で相当程度改善できる

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 8回にわたるシリーズ記事をお読みいただきありがとうございます。
 次回は明石要一氏の司会による「教育シンポジウム」をとりあげる予定です。

[追記]11/22朝
 北海道教育文化研究所理事長がブログで、この「基礎学力保障論」は「手前味噌ながら、「釧路の教育を考える会」の主張そのものです」と書いています。その通りだとわたしも思いました。彼は「釧路の教育を考える会」で会長の角田さんを支える三副会長の一人でもあります。

*「教育シンポジウム北海道⑦(2015.11.15)」 ブログ「情熱空間」
http://blog.livedoor.jp/jounetsu_kuukan/archives/8246669.html

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#3184 教育シンポジウム(9): 武藤久慶氏による基調講演⑦ Nov. 21, 2015 [66. 教育シンポジウム北海道]

 文科省初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室・室長補佐武藤さんの基調講演【基礎学力保障論】7回目、小学生の学びで躓(つまづ)き、中学校で救いの手がどこからも差し伸べられず、高校を「形式卒業」した子どもたちが、社会へ出た後どのような苦労をしているか、武藤さんはいくつかの好評統計データを利用して説明しています。
 教育は誰のためにあるのか、何のためにやるのか、基礎学力を育てることのできなかった子どもたちの典型的な未来を直視すれば、プロとしてなすべきことが見えてくるはずです。
 小学校と中学校の先生たちに、そして保護者の皆さんに読んでほしいと思います。

 レジュメ24ページを転載します。
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  基礎学力がないと...
● 消費税の計算ができない
● 預金利息を算出できない
● ガソリンでリッター何km走れるか?
● 役所から来るリーフレットが読めない
● (業務あるいは取り扱い)マニュアルが理解できない
● 1を聞いて...
● 知識の更新ができない
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 武藤さんはマックでアルバイトの店員(非正規雇用)に要求される能力を具体的に上げて説明しました。日本マグドナルドのメニューにはレギュラーメニュー、季節限定メニュー、朝食メニューがあります。レギュラー(19)と朝食メニュー(14)だけで、33商品です。これに季節限定メニューが出たり入ったりします。店員は客のオーダーを復唱します。

 「はい、ありがとうございます、ダブルクォーターパウンダー・チーズ2個とバーベキューポークバーガー3つでございますね」

 40弱の商品を暗記していなければ、オーダーされた商品を復唱できませんから、外食産業ではアルバイトもできません。
 根室高校普通科では毎週「夢単」を使った英単語の暗記の宿題が出されていますが、そういうトレーニングが社会人となって働くときに威力を発揮します。
 子どもたちに暗記の苦手な生徒が増えています。スマホで検索、パソコンで検索、本を読まない、おそらくこういうことが複合して暗記能力を減退させているのでしょう。便利になればなるほど、失うものがあります。それがどうでもいいものなら問題ありませんが、外食産業でのアルバイトもできないほど基礎的な能力に欠陥が生じるようでは看過できません。

*日本マクドナルド・メニュー
http://www.mcdonalds.co.jp/menu/burger/index.html

 暗記が苦手だなんて高校生になっても駄々をこねている生徒は外食産業でアルバイトもできません。
 武藤さんによれば、小学校で4年生程度の「読み・書き・計算」の基礎学力をつけ損なった子どもたちは、中学生になると授業で理解できない箇所が広がり、学力格差が拡大してしまいます。高校生になったらさらに学力格差は拡大します。道内の6割の公立高校で小中学校課程の「学び直し」授業を実施しています
 そういう子どもたちは武藤さんの資料では1割程度ですが、「読み・書き・計算」能力が小学校卒業時点で4年生以下の生徒が根室には2割存在しています。この12年間で着実に増え続けています
 スマホの過度な使用、長時間(4時間以上)ゲームのやりすぎ、テレビの見すぎ(4時間以上)、これらの問題を抱えている生徒数が小中どちらも学力が一番高い秋田県の2倍前後だったことを思い出してください。親が子どもに毅然と注意していない姿が浮かび上がります

 生活習慣がくずれてしまった子どもたちは真夜中まで起きています。小学生でも授業中に居眠りをする生徒がいます。中学校では昼食を食べた後の5時間目6時間目に居眠りをしている生徒が散見されます。先生が注意しても寝不足ですから、我慢できずに眠ってしまいます。
 生活習慣の乱れは学力低下に大きく寄与していますから、親も学校の先生も見過ごしてはいけません。親が真夜中までゲームに夢中になっているようでは、子どもに注意するわけがありません。

 新卒者の離職についてのデータがあげられています。出典は北海道労働局雇用統計資料からです。かいつまんで紹介します。

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 データの並びは(全国、北海道)の順です。
   1年以内に離職    2年以内に離職   3年以内に離職 
  (19.6%、25.7%) (30.8%、42.3%) (39.2%、51.0%)
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 データは年度によってばらつきがありますが、北海道の雇用データによれば過去3年間(H22~24)で1年以内の離職率は25.7~30.1%です。男よりも女の方の離職率が6~9ポイントほど高い。

 レジュメ25ペ-ジに「Q. 高校中退率は?」という表が出ています。H23年度の退学者数は1735人です。学業不振は85人で少ない、そりゃそうでしょう、底辺校では小中学校の学び直しに1年間、その後もレベルを下げた教科書を採用した授業ですから、ほとんどの生徒が標準的な高卒の学力に遠く及ばないまま「形式卒業」します。中退理由の38.6%(670人)は「進路変更」となっています。高校を辞めて、どういう進路へ変更するのかよくわかりませんが、資料にはそうなっています。
 道教委のデータによれば、H23年度の道内の全日制高校生総数は94520人ですから、中退率を計算してみましょう。

 1735人×3年間÷94520人=0.055=5.5%

 小学校で基礎学力をつけ損なった約1割の生徒が中退者の中に混じっているとしても、それはごくわずかで、ほとんど全員が「形式卒業」しています。
 計算してみましょう。

 85人(学業不振による退学)×3年間÷94520人=0.003=0.3%

 「学び直し授業を実施している」高校を底辺校と定義すると、道立高校の6割が底辺校に該当します。学力がいくら低くても、中学レベルの問題の難易度の定期試験や同じ追試問題を繰り返すことで、ほぼ全員が高校を卒業しているという実態が浮かび上がります。
 生徒たちは学校は勉強しなくてもいいところだとなめきっています。これも学力の低い北海道に特有の「隠れたカリキュラム」ではないでしょうか。

 社会に出たらそうは行きません。武藤さんは26ページにある「キャリア類型の分布」表で、学歴別の正社員定着率の数値を挙げています。その中に「中卒・高校中退」が載っていますが、じつに厳しい。

------------------------------------------------ 
  【正社員定着率(男性)】
 「中卒・高校中退」: 5.4%
 「高卒」: 26.5%
 「専門・短大・高専卒」: 35.6%
 「大学・大学院卒」: 60.6%

【正社員定着率(女性)】
 「中卒・高校中退」: 2.9%
 「高卒」: 14.2%
 「専門・短大・高専卒」: 34.5%
 「大学・大学院卒」: 58.8%

* 労働政策研究・研修機構「若者のワークスタイル調査」2011年        
------------------------------------------------

 学歴によって正社員定着率に大きな格差のあることがわかりました。
 それでは、正社員と「非典型一環」(=非正規雇用)でどれくらいの月収格差があるのでしょう、武藤さんは「雇用形態による賃金カーブの違い」表を27ページに載せています。折れ線グラフ上にある数値の半数だけ抜粋します。
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 データの並びは「正社員・正職員」と「非正社員・非正職員」の順、単位は「万円/月」です。
 18-19歳 (16.8、15.2)
 20-24歳 (19.9、17.3)
 30-34歳 (27.7、19.9)
 40-44歳 (37.0、18.9)
 50-54歳 (39.3、18.4)
 60-64歳 (30.6、21.9)

*内閣府「今週の指標」 No.892 データは「平成19年賃金構造基本統計調査」
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 月収格差が年々拡大して行くことがわかります。定年を迎える60歳からは正規雇用でも賃金の見直しがなされるので、格差が縮小しています。
 「同一労働同一賃金」という言葉がありますが、日本の労働実態はそれとは程遠いものです。
(わたしのいた会社でもしばしば非正規雇用の方が仕事の能力が高いケースがありました。1部上場して以降採用された新卒の正規雇用社員の学力レベルが格段に上がったので、事情が変わりました。)

 武藤さんの資料にある2010年の国際統計では、日本はフルタイムと比べてパートタイム賃金が56%と低い。OECDのデータによれば、19カ国中でビリから2番目です。

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【パートタイム賃金の国際比較(2010年)】
 フルタイム賃金に対する比率(時給ベース)
 スイス  96%
 フィンランド  92%
 ニュージーランド  91%
 フランス  88%
 オランダ  85%
 スウェーデン  83%
 ドイツ  82%
 ベルギー  82%
・・・
 カナダ  66%
 ハンガリー  63%
 
日本  56%
 米国  31%
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 基礎学力不足による貧困は当人だけではすまないのです、そこが大問題です。貧困の再生産はすでに構造的なものになっています。武藤さんが次に挙げているのは釧路の事例です

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【貧困の再生産(釧路の例)】
★ 生活保護世帯の母親: 1/3は中卒
★ その父親の42.3%は中卒
★ その母親の51.9%は中卒
★ 保護母子世帯の母親の14.6%は保護世帯で育っている

*本田良一『ルポ 生活保護 貧困をなくす新たな取り組み』p.53 (中公新書)より

 親が生活保護を受けていて、娘が結婚して、子どもをつくって離婚。母子家庭になって家に戻り、生活保護を受けているというケースは多い。第二、第三世代が増えている。(釧路職安のベテラン職員)
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 平成12年度の20-39歳のバンドの生活保護者数を100とすると、平成22年は161に急増している。


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【学歴別貧困率】
大卒  7.7%
高卒 14.7%
中卒 28.2%
*社会保障審議会生活困窮者の支援の在り方に冠する特別部会(第9回資料)(2012)より作成
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 学歴が高いほど貧困率が低いという負の相関が認められます。個別的にはさまざまですが、確率論的には基礎学力が低ければ貧困率が高くなるということだけは言えそうです。

 次回は、若年雇用市場で非正規雇用がこのまま拡大し続けたら、あるいは貧困の再生産がこのまま続いたら、日本の未来はどうなるのかということを取り上げます。冬の時代が来るのですから、準備して臨めば、苦難を幾分かは和らげることができます。


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#3183 教育シンポジウム(8): 武藤久慶氏による基調講演⑥ Nov. 20, 2015 [66. 教育シンポジウム北海道]

 文科省初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室・室長補佐武藤さんの基調講演【基礎学力保障論】5回目、レジュメには「(2)基礎学力問題の中長期的インパクト」というサブタイトルがつけられています。
 前回は全国学力テスト小6算数の問題「(7) 4/5 ÷ 8 =」をとりあげ、時間軸を遡行してどこで躓(つまづ)きが生じたのかを推定し、さらに転じて中学生になったらそれがどのような学習阻害要因となるのかを武藤さんが検証してみせてくれました。
 今回は時間軸を高校課程に延ばそうというわけです。

 レジュメ19ページを転載します。
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■ 高校の一部では、
■ 主に国語、数学、英語において、
■ 中学校(場合によっては小学校)の学習内容など基礎・基本を重視した
■ 「国語基礎」、「高校数学入門」、「英語ベーシック」などの科目を設置。
■ 教材は、生徒の実態に応じて各学校において独自に作成
--------------------------------------------------

 わたしは「高校数学入門」「英語ベーシック」という科目について何かで目した記憶があります。根室の高校統廃合で、新たにできる高校では普通科がなくなり、総合学科になるという説明資料の中で見ました。
 この問題を検討した関係者はこの科目がどういうものなのかわかっていたのでしょうか?「高校数学入門」は、その目的が「学び直し」ですから、小学校で習う「整数の加減乗除」「分数や少数の四則演算」からやることになるのでしょう。生徒は「高校数学入門」か「数Ⅰ・A」を選択することになりますが、総合学科ではどちらを選択しても同じ単位を与えることになるのでしょうから、同じ総合学科でも科目の選択如何で現在の根室西高校普通科と根室高校普通科の学力差がそのまま維持されます。地元企業の側からすると、採用の際には選択科目を確認して採否の参考にするということになるでしょう。
 生徒の側からすると、学習意欲のほとんどない生徒が1割以上入学してくるので、統合後の学校は確実に学力低下をきたします。
 同じ科目で学力レベルの差に応じた科目を設定できる、国語、数学、英語はよいでしょうが、そのほかの科目は別設定できませんから、学力に関係なく同じものを選択することになります。学力レベルに大きな差がある生徒たちが同じ教室で勉強することになります。たとえば、世界史、生物基礎など。
 小学校でも中学校でも、クラスに2~3人先生の制止を聞くことのできない生徒がいただけで学級崩壊を起こし、そのクラスの平均的な学力が著しく低下します。ところどころ聞き取れないだけで、話の文脈がつかめなくなるので、授業が理解できなくなります。学級崩壊を起こした学年は、中学校のふだんの学力テスト五科目300点満点で、平均点に30~50点もの差がついてしまうのが現実ですその学級崩壊が高校でも再生産されます

 どこの地域でも底辺校では英語はアルファベットから、数学は分数や少数の計算から学び直しをしているのでしょう。1年間学び直しに費やせば、その後順調に消化できたとしても卒業時点で標準的な高校課程の2年までの学力しかありません。 

 地域経済を支えているのは主として地元の高校を卒業した者たちですから、その者たちの学力低下が加速すれば、地元経済に長期的に深刻なダメージを与えることになります
 根室高校と根室西高校の統廃合に教育関係者の一人としてわたしは大きな危惧を抱いています

 わたしはこう考えています。道立高校入学試験に「足切り」を導入すべきです。300点満点で100点を超えられない生徒は不合格とします。33%未満の得点ですから、5教科合計点で「赤点」レベルですから、標準レベルの高校授業を理解するのは無理、高校卒業者に高校卒業程度の学力を保障するためには、「足切り」は不可欠です。
 「足切り」を100点と明示することで、中学校での過度な部活は完全に「文武両道」に切り替わります。勉強をほったらかして部活のみに血道をあげている生徒も親も、部活と勉強のバランスを考えざるをえなくなります、それでいいのだと思います。
 実社会で、野球がうまい、サッカーが上手だ、ゴルフが得意だといって、趣味に明け暮れ時間がないと、仕事に必要なマニュアルも専門書も読まないあるいは読めない、そういうことは通りません。

 何がどうなっているかの具体的な資料が7個ついています、武藤さんが挙げた「学び直し」資料はおそらくすべて実例です。全部転載しますのでどうぞ見てください。

------------------------------------------
3.次の分の(1)~(8)の―部のカタカナを漢字で書きなさい。
(1)ヒッシに練習する。
(2)シンケンな表情を見せる。
(3)音楽活動にセンネンする。
(4)ゆっくりと息をハク。
(5)発表会に向けてフンキする。
(6)関心のドアいが高まる。
(7)プールに水をハる。
(8)ネバる相手を振り切った。

「3.」で間違った漢字を左のマス目で練習しなさい。(10×9のマス目あり)
------------------------------------------
1.次の計算をしなさい。
(1) 0.2+0.5
(2) 2.3+3.6
(3) 3.25+1.63
(4) 1.36+5.23
(5) 6.12+2.54

(1)1.7+2.8
(2) 3.9+5.3
(3) 3.46+5.29
(4) 2.68+4.15
(5) 7.13+2.59
------------------------------------------
1.次の計算をしなさい。
(1) 5+2
(2) 17-7
(3) 68+53
(4) 81-59
(5) 25×36
(6) 52÷4
(7) 8-4.7

(16) 3/2+2/7
(17) 2/9+4/7×21/8
(18) 8-(-4)
(19) 4×(-3)^2÷(-12)
(20) -4a+2a
(21) 5a-3-4a+2
(22) (2x;3y)/4 - (x-y)/3
------------------------------------------
朝学習 数学 No.1   10月15日
1.次の方程式を解きなさい
(1) 3x+7=13
(2) 2(x-2)=6
(3) 2x+1=5x -7
(4) (5x-1)/2=4
------------------------------------------
ベーシックスタディ・サンプル (数学)
 教科テーマ「100マス計算+分数の加減乗除」
1.次の100個のマスをうめなさい。
・・・マス省略

2.次の計算をせよ。
(1) 8/15+2/15
(2) 7/18+7/18
(3) 5/12+5/12
(4) 7/15-4/15
(5) 6/7-3/7

3.次の計算をせよ。
(1) 1/4+2/3
(2) 1+8/3
(3) 1+7/2
(4) 1-1/7
(5) 8/3-3/2
------------------------------------------
 
学校設定科目「英語ベーシック」 (高1)
英語ベーシック β
 次の日本語をローマ字にしなさい。
(1) あか
(2) あお
(3) くも
(4) むらさき
(5) ねこ
(6) いぬ
(7) さかな
(8) はこ
(9) まめ
(10) いす

(1) しろ
(2) つくえ
(3) ふね
(4) つち
(5) とうふ(トーフ)
(6) ふきん
(7) つみき
(8) さいふ
(9) XXX(ある地名)
(10) 自分の名前
------------------------------------------
Time Attack  No.1  Date:  /   Time:
◎今日の課題  《アルファベット》 1

 ABCDEFG
 HIJKLMN
 OPQRSTU
 VWXYZ

  マス目欄省略
------------------------------------------

 これらはすべて高校で実際に使用されていたプリントからピックアップしたものです。小学校や中学校の先生たち、嫌でも見てください。これが「学び直し」の現実なんです。
 根室市内のC中学校の先生たちは根室西高校の授業参観したはずです。自分の目で高校現場の「学び直し」授業を見ること、百聞は一見にしかずです。現実を見たら普通の教員なら、何とかしようと変わります。自分たちが何をしそこなったのか、何をすべきなのかよくわかるはずです。
 事実に目をつぶってはいけません。「学び直し」をしなければならない生徒がおおよそ20%存在します。

 底辺校では、高校卒業時点で標準的な中卒の学力しか身につけられないでしょう。それ以下の生徒が1/3くらいはいそうです。

 武藤さんは黒い画面に白抜きの大きな字で次のように書いています。
------------------------------------------
 
採用してくれと言われても・・・・・
------------------------------------------

 全国47都道府県での北海道の特殊性は何なのか、そして根室市という地域にははどのような個別的な学力問題が存在しているのか。
 北海道根室市の個別的な教育事情を追加しておきます。

 根室には高校は2校だけ、再来年に統廃合されて1校になります。2校のうち根室西高校が「底辺校」に該当します。
 生徒たちの名誉のために書き添えますが、全員がこういうレベルではありません。数学はできるけど、英語ができない、あるいは英語は得意だけど数学はまるでできない、そういう生徒がたくさん混じっています。その中には、中学校最後の期末テストでクラストップの成績をたたき出した生徒もいます。英語が嫌いなので中学校の担任が根室西高校への進学を強く勧めてしまいました。まじめでおとなしい生徒なので、担任の指示に従いました。数学の授業は辛かっただろうと想像します。
 毎年数人ですが、学力レベルは根室高校へ入学できるのに、あえて根室西高校を選択する生徒がいます。根室高校での勉強が不安、友人関係など事情はさまざまです。

 再来年の高校統廃合によって、根室の子どもたちの学力レベルはさらに低下します。かつて一番学力テストの平均点がよかったB中学校は、学力テスト総合A・B・Cの平均点が135~167点の範囲でしたが、今年は100~110点(300点満点)です。
 5年前の北海道新聞の取材で、一番荒れた学校だったC中学校は学力テスト総合A・B・C平均点が100点台でした。今年は135点付近で全国学力テストでも全国平均値に近い点数を2年続けてたたき出しています。
 中学校は中小企業、「中小企業はオヤジしだい」、校長とそれに全面的に協力する教員が一人いたら、生徒たちの学力は短期間で劇的に改善できます。C中学校がやってくれました。部活では文武両道を部活担当の先生たちが生徒に直接言うようになりました。放課後補習体制も学校全体の取り組みになっています。教室内の整理整頓、背筋をピンと伸ばして座る姿勢も、集中力の維持や疲労軽減の点からも大事です。
 やれない言い訳は不要です、いくらでも改善できますから、やれるところから坦々とやりましょう。

 次回は、さらに未来へ時間軸を延ばして、基礎学力がないと社会に出てからどういうことになっているのかをいくつかの統計資料から武藤さんが読み解きます。
 資料の選び方も学んでみたいと思います。



 北海道教育文化研究所理事長のコメント欄への書き込みを紹介します。
==========================
高校の一部では。

今回、時間の都合上か触れていませんでしたが、「一部」とは本道では6割強だそうです。つまり、北海道の公立高校では、6割強が小中学校内容を学び直す。釧路市内で言うなら、湖陵・江南・北陽以外。明輝・東・商業・工業・阿寒、それに郡部校すべて。

一部であって全部ではない。

教育村には便利で都合のよい言葉なんでしょうね。

by ZAPPER (2015-11-20 11:44)

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*教育シンポジウム北海道⑥学力問題の一気通貫」・・・ブログ情熱空間
http://blog.livedoor.jp/jounetsu_kuukan/archives/8245810.html




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#3182 教育シンポジウム(7): 武藤久慶氏による基調講演⑤ Nov. 20, 2015  [66. 教育シンポジウム北海道]

 文科省初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室・室長補佐武藤さんの基調講演【基礎学力保障論】、5回目のレポートは#3179で取り上げた算数の問題を俎板にあげて、その奥に存在する問題を抉(えぐ)り出してくれます。

---------------------------------
 (7) 4/5 ÷ 8 =
---------------------------------

 答えは1/10ですが、この問題のできなかった生徒はどのあたりで躓き、中学1年生・2年生・3年生の各段階でどういう問題ができなくなるのかという、時間軸に沿った分析を見せてくれます。

 時間軸を遡行する旅からはじめています。「5年下」で扱われている分数の除算問題ができないということは、「4年下」の整数の除法(3.6÷3)ができない可能性があります。「3年上」で扱う整数同士の除法(12÷4)、そして「2年下」での分数概念(1の四等分)が理解できない可能性があります。ここまでが武藤さんの分析です。
 わたしの経験では、「分数÷整数」問題ができない生徒のほとんどが逆九九もスムーズに言えない段を抱えています。割り算記号が嫌いで、計算が苦手というプロファイリングがだいたい当たっています。

 次に武藤さんは時間軸を未来へ延ばして見せます。
 「分数÷整数」ができないと、中1の正負の数の同じ計算(2/3÷(-5))ができません。同様にして中2の単項式の除法の問題(8ab÷4b/3)もできないでしょう。3年生で習う単項式と多項式の除法問題((6x^2+8xy)÷2x/3)も無理です。
 中1で正負の数の除法ができないということは、「文字式」「1次方程式」「比例」「反比例」「平面図形の面積計算問題」などで支障が出ます。
 中2では「整式の加減」「単項式の乗除」ばかりでなく、「連立方程式」や「一次関数」へも影響が出ます。
 中3では「平方根を含む計算」「単項式と多項式の乗法と除法」「2次方程式」「2次関数」「円と円周角」等の計算問題に影響が出ます。

 小6で「分数÷整数」の問題に無解答だった北海道の9.6%の生徒が深刻な学力問題を抱えていることがわかります。武藤さんはここでは事実を指摘するだけにとどめていますが、放課後補習等の対応をせずに放置したら、中学を卒業するころには本物の落ちこぼれになります。落ちこぼれというより、「落ちこぼし」と言ったほうが事態を適切に現しています。

 算数が好きな生徒は、小学1年生では(男、女)=(84.6%、80.6%)から、小学6年生(55.8%、66.0%)までリニアに落ちていきます。
 6年生男子の44.2%が算数が好きではありません。

<基礎学力崩壊の裏で起きていること>
 ここで武藤さんは生活習慣データを挙げています。低学力層を生活習慣の乱れは相関関係があります。
-------------------------------------------
 【小学校】
 データの並びは、(北海道、秋田県)です。全国平均値が100となっています。
■ 朝食を毎日食べない (143.6、64.1):2.2倍
■ 1日のテレビの視聴時間(4時間以上) (113.1、81.3):1.4倍
■ 1日のテレビ視聴時間(3時間以上) (107.9、88.9):1.2倍
■ 1日のゲームをする時間(4時間以上) (140.4、65.2):2.2倍
■ 1日のゲームをする時間(3時間以上) (134.1、77.6):1.7倍

 【中学校】
■ 朝食を毎日食べない (110.8、52.3):2.1倍
■ 1日のテレビの視聴時間(4時間以上) (112.7、59.9):1.9倍
■ 1日のテレビ視聴時間(3時間以上) (107.3、73.0):1.5倍
■ 1日のゲームをする時間(4時間以上) (124.5、50.9):2.4倍
■ 1日のゲームをする時間(3時間以上) (118.7、60.1):2.0倍
-------------------------------------------

  これも学力の高い秋田県と比べることで、北海道の特殊性がくっきりと現れています朝食を食べない、テレビを見続けたり、ゲームにはまって抜けられない生徒が約2倍いるということ

  アンケート調査データから三番目に挙げているのは、「自分のよいところがあるとは思わない」という自尊心欠如の割合の高い順に階層を10段階に分けてx軸上にとり、y軸上にその階級ごとの平均正答率データを並べたヒストグラムです。
-------------------------------------------
  自尊心階級値   平均正答率
A 100~90% : 17.9%
B 90~80%  : 22.1%
C 80~70%  : 25.6%
D 70~60%  : 28.5%
E 60~50%  : 32.7%
F 50~40%  : 34.6%
G 40~30%  : 38.6%
H 30~20%  : 40.4%
I 20~10%  : 40.8%
J 10~0%   : 50.0%
K 0%      : 52.1%
-------------------------------------------

 見事に線型にデータが並んでいます。計算していませんが相関係数は0.9を超えるでしょう。
 この表から言えることは、自尊心が低いほど正答率も低くなり、自尊心が高ければ高いほど正答率が高くなるという、自尊心と正答率に強い正の相関関係があるということ。
 小学生は年次を追って算数を好きな生徒の割合が減少していきます。中学生のデータがありませんが、同じことが言えるのではないでしょうか。成績が下がっていけば、自尊心も破壊されます。

 4番目に挙げられたのは、答案に書かれた文字の例です。字が大きく乱雑なもの、枠内に入ってはいるが独特の書体になっているものが挙げられています。
 数字の例も挙げられている。1と7の区別のつかない例が挙がっています、こういう生徒は少なくありません。数字の書き方についての指導がおろそかになっているのではないでしょうか。小学生・中学年で数字の書き方を指導したほうがよさそうです。先生の板書にも同じ事例がないか点検する必要があります。

 じつに鮮やかなデータ処理と論点整理です、トレースしていて気持ちがよい。

 次回は、高校での学び直しをとりあげます。小学校での躓(つまづ)き、それが高校生となったときに、どのような事態を引き起こしているのか、教育に携わる者は嫌でも現実を見なければなりません

(本欄左側にあるカテゴリー「教育シンポジウム北海道」をクリックすると、この関連の記事が並んで出てきます)


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#3181 教育シンポジウム(6): 武藤久慶氏による基調講演④ Nov. 19, 2015 [66. 教育シンポジウム北海道]

 小6社会の教科書を取り上げて論じたwhat-if question、これも外せない、そう思いました。

 文科省初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室・室長補佐武藤さんの基調講演【基礎学力保障論】、4回目のレポートは「この子達は どんな子たちなのか?」です。
 前回は全国データでの25パーセンタイルに北海道と秋田県ではどれくらいの差があるのか、具体的な数字を挙げて解説がありました。

 学力最下位層(全国15パーセンタイル)には、おそらく北海道の子どもたちの20~25%が含まれます。その子どもたちの頭の中では何が起きているのかを武藤さんが上手に料理して見せてくれています。

 ところでレジュメには生活習慣に関するアンケート結果をレーダーチャートにしたものが2個載っています。全国平均値を100としたとき、北海道と秋田県の数値がどうなっているかが比較されています。データの並びは(北海道、秋田県)です。

-----------------------------------------------
<学習習慣 小学校>
■ 家で、学校の宿題をまったくしていない (183.3、33.3):5.5倍
■ 普段、勉強する時間が1時間より少ない (128.2、77.3):1.7倍
■ 普段、全く勉強しない (106.3、25.0):4.3倍
■ 休みの日に勉強する時間が1時間より少ない (110.2、40.5):2.7倍
■ 休みの日にまったく勉強をしない (95.3、11.3):8.4倍
■ 家で、自分で計画を立てるような勉強を全くしていない (104.1、34.7):3.0倍

<学習習慣 中学校>
■ 家で、学校の宿題を全くしていない (76.7、33.3):2.3倍
■ 普段、勉強する時間が1時間より少ない (120.6、71.3):1.7倍
■ 普段、全く勉強しない (135.1、19.3):7.0倍
■ 休みの日に勉強する時間が1時間より少ない (109.8、27.6):4.0倍
■ 休みの日にまったく勉強をしない (115.9、11.5):10.1倍
■ 家で、自分で計画を立てるような勉強を全くしていない (107.5、47.2):2.3倍

-----------------------------------------------

 学力の低い北海道と学力の高い秋田県を比べると、ずいぶんとはっきり違いが出るものです、解説の必要もないくらいです。「びっくりポン」(笑)
 北海道の小学生で家で宿題をしない生徒は秋田県の5.5倍ですが、宿題を出さない先生が多いのも事実です。海沿いの地域にそういう特性が強いようです、中標津から根室の小学校へ転向してくると、お母さん宿題の少なさにびっくりしています。
 ふだんまったく勉強しない生徒も4倍います。少年団活動して健康で元気だったら勉強なんて二の次でいいと言っている親たちの顔が見えるようです。大人に問題があります。
 休みの日にまったく勉強をしない生徒は秋田県の8.4倍。根室の子どもたちは休みになると、親と一緒に釧路や中標津へ出かけることが多い、勉強する時間が少ないことは予想していましたが、秋田県とこんなに差があることは驚きです。

 中学校は英語や数学で宿題が多くなりますから、家で宿題をまったくしない生徒は秋田県の2.3倍まで縮小しています。宿題出せばやるのです。
 その一方で、ふだんまったく勉強しない生徒が4.3倍から7.0倍に拡大しているのは、過度な部活のせいです。中学生になるとなぜか内申点を気にしてほとんどの生徒が部活をします。文武両道を言わない先生たちの存在も大きく影響しています。道教委が2年前に配布した大谷翔平の「文武両道」ポスターをしっかり貼ってほしいと思います。
 休みの日にまったく勉強をしない生徒が秋田県の10倍います。根室の中学校をみても土日もやっている部活が散見されます。ここをなんとかしないといけません。だらだら毎年同じメニューでやるトレーニングは上達を生まないだけでなく、効率を考えないトレーニングを習慣化してしまいます。いわゆる「隠れたカリキュラム」というものです。そういう悪い癖のついた人材は民間企業では使えません。

*隠れたカリキュラム...ブログ「情熱空間」
http://blog.livedoor.jp/jounetsu_kuukan/archives/8244708.html


 次の文章は小6社会の教科書(東京書籍6上)からの抜粋です。最初はそのまま、ついで小4年生以上で出てくる漢字を薄青字に変換して示したものです。

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 元の大軍がせめてくる
 鎌倉幕府が開かれてから80年余りたったとき、元の大軍が2度にわたり九州北部をせめてきました(元寇)。
 中国を従えて大きな国をつくった元は、まわりの国も従えようとして、日本にも使者を何回も送ってきました。
 執権の北条時宗はこの要求を退け、九州の守りを固めました。
 武士たちは、元軍の集団戦術や火薬兵器(てつはう)などに苦しみながら、恩賞を得るために必死に戦い抜きました(一所懸命)。元軍は、武士たちの激しい抵抗や暴風雨などにより、大きな損害を受けて大陸に引き上げました。
 しかし、幕府は、活躍した武士たちに新しい領地をあたえることができませんでした。また、武士たちは、役目を果たすための負担が大きく、生活に苦しむ者もいて、幕府に不満をもつようになりました。
 このことから、ご恩と奉公で結びついていた幕府と武士の関係がくずれていきました。
 
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 の大軍がせめてくる
 鎌倉幕府が開かれてから80年余りたったとき、元の大軍が2度にわたり九州北部をせめてきました(元寇)。
 中国従え大きな国をつくったは、まわりの国も従えようとして、日本にも使者を何回も送ってきました。
 執権北条時宗はこの要求を退け、九州の守りを固めました。
 武士たちは、元軍の集団戦術や火薬兵器(てつはう)などに苦しみながら、恩賞を得るために必死に戦い抜きました(一所懸命)。元軍は、武士たちのしい抵抗や暴風雨などにより、大きな損害を受けて大陸に引き上げました。
 しかし、幕府は、活躍した武士たちに新しい領地をあたえることができませんでした。また、武士たちは、役目を果たすための負担が大きく、生活に苦しむ者もいて、幕府に不満をもつようになりました。
 このことから、ご恩と奉公で結びついていた幕府と武士の関係がくずれていきました。

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 薄青色の文字が読めて漢字の意味が理解できなければ文意のつかめないことは明白です。
 4年生以降に習った漢字が読めないあるいは書けない中学生は、授業で先生の説明する言葉を頭の中で適切な漢字に変換できませんから、意味が理解できません。毎日6時間硬い椅子に座り続けて、理解できない授業を聴いているふりをしなければならないのです。「読み・書き」が4年生程度にとどまっている生徒はかわいそうです、なんとかしてあげたい。
 語彙が少ないと生徒同士の会話もレベルの低いものになります。「うぜー」「キモイ」「しねや」・・・200語くらいで会話をしています。作文を書かせても小学3年生レベルの文になります。幼稚で美しくないから、書くのが嫌いになるのはあたりまえです。手本となるような文をたくさん読み、たくさん書かなければ文章力は上がりません。ところが、この層の生徒は本を読む習慣がほとんどありません。ゲームや部活やスマホの操作は得意です。

 15パーセンタイル以下の生徒は、「読み・書き」の基礎的能力が著しく劣るので、学力全般が低くなります。中学生になっても学力が上がらず、高校生になっても同じ、そのまま社会人となります。そのなかで正規雇用につける者はほとんどいないでしょう。非正規雇用は全体ですでに4割を超えています。新卒に関して言うと半数を超えているでしょう。年収は正規雇用の半分以下、おおよそ4割ですが、年々その差は拡大していきます。それゆえ自立して生活するのは著しく困難です。
 26ページで武藤さんが2011年のある調査資料を挙げています。それによれば、高校中退者の正社員定着率はわずか5.4%です。高卒は26.5%、専門学校及び短大卒が35.6%、大卒及び大学院卒が60.6%です。
 基礎学力と経済的な状況は強い正の相関があります。

 最後の方で、武藤さんは「企業の生存率」データを出しています。日本は中小企業がほとんどですが、中小企業庁のデータによれば、10年生存率が70%、20年生存率は52%です。
 追い討ちをかけるようですが、正規雇用の職についても、二人に一人は20年間で別の企業に再就職しなければなりません。それが現実です。
 40歳前後になり、勤務している企業が倒産すれば、退職金ももらえず、転職しなければなりません。新しい仕事に必要な資格の取得や仕事に関する専門書やマニュアルを読むためには、相当高い基礎的学力が要求されます。
 企業の側からすると素直で若く、有能で安価な新卒の方がずっと魅力的に見えます。同じ条件で転職できる人は、仕事を通じて研鑽を積んできた人です。

 根室の子どもたちの「読み・書き」スキルの現状について取り上げた弊ブログ記事のURLを掲載するので、お読みいただき、子どもたちの学力の現状を知ってください。北海道で学力の低い地域に共通する事柄がたくさん含まれているはずです。北海道に限らず、全国の学力の低い地域にも共通したパターンが見えてきます。
 過去8年間にわたって自分の目で見た地域の教育の現実を綴(つづ)ってきた弊ブログは、武藤さんの北海道という特殊な地域を対象に展開された『基礎学力保障論』を個別的レベルで支えるものとなっています。
 時間と空間を越えた阿吽(あうん)の呼吸のコラボレーションです。

 (本欄の左側にあるカテゴリー欄「教育シンポジウム北海道」をクリックすると、シンポジウム関連記事をまとめて読むことができます。)
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*#1829 中1の語彙力の実例これでは授業も理解できぬ  Feb. 5, 2012 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-02-05

 #1837 中学1年生 日本語語彙の現実  Feb. 10, 2012 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-02-09-1

 #1839 中2成績中位層の日本語語彙 Feb. 12, 2012 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-02-12

 #2621 中3学力下位層の読み書き能力:大谷翔平「文武両道」 Mar. 18, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-03-18

 #2899 問題のすり替え:数学問題文の漢字が読めないのは誰のせい? Dec. 9, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-12-09

 #2983 書き取りスピードアップ・トレーニング Feb. 18、2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-18-1

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その指導、学級崩壊の原因です! 「かくれたカリキュラム」発見・改善ガイド

その指導、学級崩壊の原因です! 「かくれたカリキュラム」発見・改善ガイド

  • 作者: 横藤 雅人
  • 出版社/メーカー: 明治図書出版
  • 発売日: 2014/07/17
  • メディア: 単行本


#3180 教育シンポジウム(5): 武藤久慶氏による基調講演③ Nov. 19, 2015 [66. 教育シンポジウム北海道]

 文科省初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室・室長補佐武藤さんの基調講演【基礎学力保障論】、3回目のレポートです。
 前回は全国学力テスト問題とデータを用いて、全道の小学校6年生の国語と算数の学力がどういう状況にあるのか前回紹介しました。
 今回は、全国25パーセンタイルに北海道と秋田県の生徒たちの何%が入っているのか数値を挙げて比較します。

 中学生は数学で統計を習うようになっているので、25パーセンタイルは第一四分位数といったほうがわかりいいかもしれません。データを小さいほうから並べて、1/4に当たるところです。小6国語A問題を例にとると、15問中9問正解というのが28.2%ですから、25パーセンタイルに一番近い得点層ということになります。

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  データの並びはいままでどおりです。(北海道、全国、秋田県)

H26 小学校国語A (29.7、28.2、19.0)
H26 中学校数学A (26.6、24.2、16.6)

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 小学校6年国語Aでは、正解が9問以下というのは、北海道が29.7%、秋田県は19.0%と10.7%も開いています。全国平均の約25パーセンタイル(成績下位層)が、北海道は秋田県よりも5割ほど多いことになります。散布図で確認すると、北海道の上位40%ほどのところに秋田県のデータのほとんどが入ってしまいます。
 根室市内の市街化地域の中学校3校では、3割の生徒が日本語の読み書き能力に問題が生じています。
 普段の学力テストの国語と数学の結果データから推して、小4年生程度の日本語語彙力の中学生が10~20%存在しています。この12年間でそういう生徒が5割ほど増えてしまいました。それが、全般的な学力低下の根幹をなしています。「読み・書き・計算」という基礎的学力が落ち始めているのです。以下はわたしが最近3年半ほど書き溜めたエビデンスです。

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*#1829 中1の語彙力の実例これでは授業も理解できぬ  Feb. 5, 2012 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-02-05

 #1837 中学1年生 日本語語彙の現実  Feb. 10, 2012 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-02-09-1

 #1839 中2成績中位層の日本語語彙 Feb. 12, 2012 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2012-02-12

 #2621 中3学力下位層の読み書き能力:大谷翔平「文武両道」 Mar. 18, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-03-18

 #2899 問題のすり替え:数学問題文の漢字が読めないのは誰のせい? Dec. 9, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-12-09

 #2983 書き取りスピードアップ・トレーニング Feb. 18、2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-18-1

 #3028 C中学校1年生と2年生の学力テストデータ比較分析 Apr. 18, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-04-17

 #3030 低学力の実情:中学2年生4/10学力テスト問題から Apr. 19, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-04-19

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 武藤さんが示してくれた(全国学力テスト結果データから)北海道という「特殊な地域」を切り出した分析に、ebisuが観察している「根室の個別データ」をぶつけることで、北海道で進行中の子どもたちの学力低下の実態がより鮮明になります。そして解決すべき根本的な課題もしだいに姿を現してきます。2年前に北海道教育文化研究所副所長の任を引き受けた理由がようやく見えてきました。

 中学校3年数学Aでは18問/36問正解が全国平均の24.2パーセンタイルですが、北海道は26.6%、秋田県では16.6%がその範囲に含まれます。これも北海道と秋田県では10%離れています。北海道は秋田県に比べて低学力層が著しく厚いといえます。もちろん、高学力層が少ないということもいえます。

 国語も数学もそれぞれ基本問題Aですから、「読み書き」と「計算」能力が秋田県の子どもたちに比べて、北海道の子どもたちは著しく劣っています
 基礎学力が優れている学校と、劣っている学校には取り組み方に大きな違いがあります。学力テストと同時のなされている「生活習慣アンケート」のデータを付き合わせることで、なにをすればいいのかということを、基調講演の後段で示してくれています。
 小6国語B問題、算数A、算数B問題、中3国語A問題、B問題、数学B問題の25パーセンタイルが示されていませんが、1時間という時間制限の中で割愛せざるをえなかったのでしょう。わたしはやりませんが、探せば公表資料から計算できるはず。

 武藤さんのお話では、これでもこの数年間でずいぶん改善したそうです。平成19年度の全国学力テストデータをモニターしているようですから、8年間のデータを整理して眺めた上での率直な感想で事実です。でも、学校の取り組みが改善されてきただけで、「読み・書き・計算」というスキルが上がってきたとは思えません、あいかわらずじわじわ下がり続けています

 学力テストの結果データの分析はこれで終わりです。
 次回は全国学力テストと同時になされている生活習慣に関するアンケート調査のデータと先に分析した個別の問題ごとの平均正答率をつき合わせて、小学校の低学力層が中学生になったら、どういう状態になっているのかに話が及びます。
 25パーセンタイルに含まれる低学力層は「どんな子たちなのか?」というサブタイトルがつけられています。

*#2214 北海道庁教育局義務教育課長「講演会」でどよめきあり Feb.16, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-02-17

 #2218 論旨の違う新聞報道:市PTA連合会主催講演会 Feb. 19, 2013
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-02-19

 #3178 教育シンポジウム(3): 武藤久慶氏による基調講演① Nov. 18, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-17-1

 #3179 教育シンポジウム(4): 武藤久慶氏による基調講演② Nov. 18, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-18

 #3180 教育シンポジウム(5): 武藤久慶氏による基調講演③ Nov. 19, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-19

 #3181 教育シンポジウム(6): 武藤久慶氏による基調講演④ Nov. 19, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-19-1

 #3182 教育シンポジウム(7): 武藤久慶氏による基調講演⑤ Nov. 20, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-19-2

 #3183 教育シンポジウム(8): 武藤久慶氏による基調講演⑥ Nov. 20, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-20

 #3184 教育シンポジウム(9): 武藤久慶氏による基調講演⑦ Nov. 21, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-21

 #3185 教育シンポジウム(10): 武藤久慶氏による基調講演⑧ Nov. 21, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-21-1

 #3186 教育シンポジウム(11): パネルディスカッション Nov. 22, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-22


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#3179 教育シンポジウム(4): 武藤久慶氏による基調講演② Nov. 18, 2015 [66. 教育シンポジウム北海道]

 文科省初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室・室長補佐武藤さんの基調講演【基礎学力保障論】、2回目のレポートです。
 基礎学力保障は「釧路の教育を考える会」のメインテーマでもあります。釧路市議会は平成24年12月に全国に先駆けて「基礎学力保障条例」を制定しました。

 平成19~26年度の全国学力テストデータから、小6国語と算数の問題例をピックアップしてどこにどのような問題があるのか、わかりやすく解説してくれました、題して「基礎学力不足のイメージを共有する」
 ここが問題の原点です、それが中学校へ進学するとどういうことになるのか、高校へ進学するとどうなるのか、小学校での躓(つまづ)きがどういう結果をもたらしているのかに話が及んでいきます。一番川上の部分を取り上げ、エビデンスに基づく展開です。武藤さんのレジュメから転載して説明します。

------------------------------------------
 ひらがなを漢字で丁寧に書きましょう。
H21 (2) 人の意見に さんせい する。
      (67.6、78.3、85.2) ⇒ (全道、全国、秋田) 数字は正答率を表しています
H20 (3) 駅まで歩いて おうふく する。
      (51.9、64.4、85.1)
H24 (1) 病院で いしゃ にみてもらう。
      (66.9、83.1、89.8)  

------------------------------------------
H20 (9) 3月に貸し出された本の冊数は620冊で、そのうち「物語」の本の冊数の割合は、全体の40%です。「物語」の本の冊数は何冊ですか。求める式と答えを書きましょう。(この問題には物語、科学、歴史、伝記、その他に区分された円グラフが示されている)
      (41.6、54.9、65.0) 5年生の学習内容

H19 (7) 6+0.5×2
      (55.0、68.9、88.9) 4年生の学習内容

H22 (5) 下の台形の面積を求める式と答えを書きましょう。
       (台形の図に上底が3cm、下底が7cm、高さが4cmと書き込まれて示されている)
      (55.2、70.1、80.6) 5年生の学習内容

H24 (7) 次の計算をしましょう。
      4/5÷8= 
     無回答率(9.6、4.2、1.5)

...他2枚、省略

------------------------------------------
 H26年度小学校国語A問題と中学校数学A問題の全国の下位約25%をあらわすヒストグラムが載っている。

H26 小学校国語A
     (29.7、28.2、19.0)
H26 中学校数学A
     (26.6、24.2、16.6)

------------------------------------------

 平成24年度の小学校6年国語の漢字問題では、「いしゃ」という漢字の書けない生徒が33.1%、3人に1人もいます。全国学力テストNo.1の秋田県では「いしゃ」を漢字で書けない生徒は10.2%、10人に1人しかいません。
 小6で「いしゃ」を漢字で書けない生徒が中学生になったらどういうことになるのか、そういう現実に無関心なのが北海道の小学校の先生たちの現実です。先生が授業で使う日本語を頭の中で適切な漢字に置き換えられなければ、話した内容を理解できるわけがありません。弊ブログでもそうした事実を数字を挙げて何度も取り上げています。その多くが、中・高と低学力層から抜け出せません。基本漢字すら書けない生徒は、基礎学力という土台がありませんから、中・高生になっても低学力層から抜け出せるわけがないのです。
 「駅まで「おうふく」」は6年生の48.1%が書けませんでした。「人の意見に「さんせい」」が書けなかった人は32.4%、1/3もいます。4年生程度の漢字が満足に書けなければ、中学校の主要五教科全部に深刻な影響が及びます。算数・数学の文章題へも問題文が理解できませんから、深刻な影響が及んでいます。次の回で、武藤さんが個別に分析して見せたくれていますから、そこで詳しい解説をしたいと思います。

 算数で正答率が低かった問題を見ましょう。
 最初の問題は、「620冊×40/100」とやるか、百分率を少数になおして「620冊×0.4」の立式ができることと、計算ができることが求められています。小6では基本問題ですが、58.4%の生徒が正答できていません。1年後に中学1年生となり、9月には1次方程式の文章題をやることになりますが、この問題に不正解だった生徒は、方程式の文章題をマスターすることはほとんど不可能です。3/4の生徒が方程式の文章題で躓(つまづ)いています。

 2番目の四則計算は計算順序を間違えた生徒が多いことを示しています。乗算を先にすべきところを「6+0.5」を先にした生徒が多かったのでしょう。45%もの生徒が、四則計算の順序「加減乗除に先立たず」を知らないようです。
 「和差積商」という言葉を教える先生が少ないのだろうと思います。そういう意味(教え方に瑕があるということ)では国立教育研究所にも問題があります。

 3番目は台形の面積の問題は、面積の出し方を理解し、正しく計算できた生徒がわずか55.0%で、できなかった生徒が45.0%もいるという現実を示しています。ひっくり返してくっつける操作を理解していれば、公式の意味が理解できるはずですが、なぜ、こんなに正答率が低いのか各学校の教員は教え方を調査・点検すべきです。そうすれば、翌年はこうした基本事項に関することはあらかた改善できます。

 4番目は「分数÷整数」の問題ですが、無解答が9.6%あります。正答率が出ていませんがどれくらいだったのでしょう?
 分数や少数の計算については、教える側もあやしい。教科書にも問題があります。理解力のない先生が、教科書に準拠したつもりで教え方を自己流に工夫して、結果とんでもない間違った計算法で教えていた例を知っています。小学校の教員採用の際には、少数や分数の計算問題をそれぞれ百題課してもらえませんでしょうか?
 多くの先生はそういう間違いをするはずがないと思いますが、現実に分数や小数計算のあやしい教員がいるのは事実ですから、採用試験でそれぞれ百題計算問題を課すことで、フィルターにかけられます。教員採用も学校も生徒の教育のためにあるのですから、そういう視点から採用試験を見直してもいいのではないでしょうか。

 次回は、中学歴史の教科書を取り上げて、小学4年生以上の漢字が読めなければ、どういうことになるのかを、武藤さんが鮮やかな手際で示してくれます(この問題も、弊ブログで再三取り上げています)。 


<余談>
 「和差積商」や「加減乗除」などの漢文調の章句が学校の授業で使われなくなっています。たとえば、三角形の合同条件では次のようになっています。
1 三辺がそれぞれ等しい ⇒ 三辺相等
2 二辺とその間の角がそれぞれ等しい ⇒ 二辺夾角
3 1辺とその両端の角がそれぞれ等しい ⇒ 二角夾辺

 漢文調の右側の方がずっと暗記しやすいと思います。「夾」は「挟」を使う先生もいたような気がします。常用漢字表にないので、こんなにまどるっこしい言い方になったのでしょうか?
 複合しているようで理由がよくわかりませんが、どういうわけか暗記の苦手な生徒が増えているような気がします。
 平行線でも、同位角や錯角のほかに、昔は「同側内角の和は2直角である」というのを暗記していましたが、現在は削られてしまっていますから、証明が長くなります。プログラムと同じでコンパクトなコーディングの仕方のほうがよい。
 

*#2214 北海道庁教育局義務教育課長「講演会」でどよめきあり Feb.16, 2014
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 #2218 論旨の違う新聞報道:市PTA連合会主催講演会 Feb. 19, 2013
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 #3178 教育シンポジウム(3): 武藤久慶氏による基調講演① Nov. 18, 2015
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 #3179 教育シンポジウム(4): 武藤久慶氏による基調講演② Nov. 18, 2015 
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 #3180 教育シンポジウム(5): 武藤久慶氏による基調講演③ Nov. 19, 2015 
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 #3181 教育シンポジウム(6): 武藤久慶氏による基調講演④ Nov. 19, 2015
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 #3182 教育シンポジウム(7): 武藤久慶氏による基調講演⑤ Nov. 20, 2015
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 #3183 教育シンポジウム(8): 武藤久慶氏による基調講演⑥ Nov. 20, 2015
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 #3184 教育シンポジウム(9): 武藤久慶氏による基調講演⑦ Nov. 21, 2015
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 #3185 教育シンポジウム(10): 武藤久慶氏による基調講演⑧ Nov. 21, 2015
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 #3186 教育シンポジウム(11): パネルディスカッション Nov. 22, 2015 
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#3178 教育シンポジウム(3): 武藤久慶氏による基調講演① Nov. 18, 2015 [66. 教育シンポジウム北海道]

 武藤さんは、2012年3月までは、道教育局義務教育課長でしたが、4月に教育局次長となり1年間、辣腕をふるわれました。大谷翔平を起用した「文武両道」のポスターが記憶に新しい。
 そのご、文科省へ戻られ、初等中等教育局初等中等教育企画課教育制度改革室・室長補佐として仕事をしておられます。じつに長い肩書きです。(笑)

 根室では2013年2月に教育講演会(会場は根室高校、教育関係者と保護者が対象)を開いています。かれの講演では、前回も今回も全国学力テストのデータ分析に支えられた具体論が展開されています。
(わたしのブログもその都度データを挙げていますので、同じ精神で貫かれていると申し上げてよいでしょう。カテゴリー「データに基づく教育論議」に8本アップしてあります。他にも学力テストデータに基づいた記事がたくさんアップしてあります。)

 レジュメ『基礎学力保障論』は32ページですが、レジュメには採録されていないデータがいくつか追加されていました。隠れたカリキュラム」の「証拠写真」、実際には学校現場視察の際に撮った写真ですが、数十枚見せてくれました。これも説得力がありました、次回以降で説明します。
 持ち時間はたったの1時間、どうやってこれだけのボリウムをこなすのか興味津々、あきらかに無理がありました。「武藤さん、どうやって不可能を可能にするのかな?」、お手並み拝見、どきどきわくわく。

 やはり速いテンポで始まりました、会場の皆さんがついていけるのかなと心配になるほどアップテンポで始まりました。42.195kmのマラソンを、100m走のような勢いで飛び出したのです。
 会場の椅子の配列は「4列×5席」を一つのブロックとして、4ブロック単位で並んでいました。4ブロックですから、通路は3列あります。その各通路を歩き、ポインタで画面を切り替えながらの解説です。データがちゃんと頭に入っているようで、こちらを向いたままドンドン話を進めていきます。
(じつは、前日の夜に少し風邪気味だったようで、「葛根湯」を6袋も飲んだことを後で知りました。お酒とカゼ薬の併用は危険ですのでいけませんよ。あんなによく飛ばせたなというのが率直な感想です。時間は3分オーバーしただけ。意地でも60分、きっちりに収めたかったのではないでしょうか。スタートの勢いに、意気込みを感じました。)

 ebisuはこういう進行スタイルの講演は初めて見ました。厚生官僚の講演会は何度か見る機会がありましたが、まったくちがいます、座ったままの解説でした。大学の先生のスタイルでもないし、官僚の講演スタイルでもない、学会発表スタイルでもない、独自のスタイルで魅力的です。
 コンサルタント会社で同じスタイルで有料講演会を開催したら、ずいぶん多数の聴衆を集められそうです。「講演の名手」と言ってよいでしょう。

 「道、全教科で平均以下」という学力テスト結果に関する北海道新聞記事の紹介からスタートしました。
 学力テストに反対する典型的な論が、パワーポイントで6つ紹介されます。
---------------------------------
<学力保障へのネガリアクション(1)>
○知識より、思考力や判断力、表現力。
知徳体のバランスが大事。学力向上路線には反対
○豊かな心や健康な身体が大事。のびのび健やかに育ってくれればいい。
○元気に挨拶できれば学力なんて要らない。
○算数なんかできなくても生きていくのに困らない。
過度な点数競争を煽り、教育を歪めている

<学力保障へのネガリアクション(2)>
○不登校がない学校も学力が高い学校と同じくらい大事じゃないか。
○学校がたくさんあれば差があるのは当たり前。なぜそれを格差と呼ぶのか!
○地域と家庭に問題がある。それを学校のせいにされても困る。
○塾に行ける子どもが少ないから学力が低いのだ。私学に行かせるわけじゃないし・・・
地元に残るのに学力はいらないし・・・
---------------------------------

 根室で8年間教育長をされたW氏もここに挙げた主張のいくつかを公言なさっていましたが、現在その職にある方は同じではなさそうです。学力を重視しない教育長なんて、どこの地方だってご免こうむります。教育こそが地方創生の礎です。
 典型的なネガリアクションの紹介ですが、けっして例外的なものではありません、全国学力テストがあるつど、北海道新聞はこういう意見をよく載せています。
 一番最後の条について、武藤さんは「企業の生存率」データを反例として挙げていますが、パネルディスカッションで浜中農協組合長の石橋さんが具体的な事例を挙げて、「地方の農業こそ、これからは学力の高い優秀な人材が必要だ」とおっしゃっています。石橋さんの論は会場の先生たちに少なからぬショックを与えたようです。今回のシンポジウムで提出された大事な論点ですので、武藤さんの反例と石橋さんの反論の両方、後ほどちゃんと解説します。

 武藤さんが次に挙げたのは、全国学力テストで全道の平均正答率が低かった国語と算数の問題、そして全国平均正答率と、全国一学力の高かった秋田県の平均正答率を並べた10枚のデータです。
 大事な箇所を端折りたくないから、長くなりそうです。武藤さんの基調講演要旨は3~5回くらいに分割してアップします。
 


*11/16日付 北海道新聞記事転載... ブログ「情熱空間」
http://blog.livedoor.jp/jounetsu_kuukan/archives/8242699.html

 「教育シンポジウム北海道②(2015.11.15)」... ブログ「情熱空間」
http://blog.livedoor.jp/jounetsu_kuukan/archives/8242864.html

*#2214 北海道庁教育局義務教育課長「講演会」でどよめきあり Feb.16, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-02-17

 #2218 論旨の違う新聞報道:市PTA連合会主催講演会 Feb. 19, 2013
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-02-19

 #3178 教育シンポジウム(3): 武藤久慶氏による基調講演① Nov. 18, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-17-1

 #3179 教育シンポジウム(4): 武藤久慶氏による基調講演② Nov. 18, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-18

 #3180 教育シンポジウム(5): 武藤久慶氏による基調講演③ Nov. 19, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-19

 #3181 教育シンポジウム(6): 武藤久慶氏による基調講演④ Nov. 19, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-19-1

 #3182 教育シンポジウム(7): 武藤久慶氏による基調講演⑤ Nov. 20, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-19-2

 #3183 教育シンポジウム(8): 武藤久慶氏による基調講演⑥ Nov. 20, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-20

 #3184 教育シンポジウム(9): 武藤久慶氏による基調講演⑦ Nov. 21, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-21

 #3185 教育シンポジウム(10): 武藤久慶氏による基調講演⑧ Nov. 21, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-21-1

 #3186 教育シンポジウム(11): パネルディスカッション Nov. 22, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-22


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