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#5225 日銀保有国債と政府国債債務の相殺は可能か? May 3, 2024 [95.増え続ける国債残高]

 国債は外人が持っているのではないから、問題がないという意見があります。

 そうですね、ゼロ金利でも国債は日銀が発行残高の半数を超えて(585兆円)購入しているので、問題がないようには見えております。
 フィッチ・レイティングスは日本国債の格付けを「安定的」から「ネガティブ(弱含み)」に変更しています。コロナの流行で経済が縮小したことを理由に挙げています。米国債の金利は昨日4.585%ですし、円安傾向は止まらないでしょうから、外国の金融機関が日本国債を購入しないのはあたりまえのことなのです。つまり、海外の金融機関や年金基金には売れないのです。それどころか、国内の金融機関もシンジケート団をつくって購入することを嫌がっています。金利が低いからです。昨日の10年物金利はついに0.900%に上昇しています。それでも日米の10年物国債の金利には3.685%の開きがあります。

 国内の金融機関も拒否、海外金融機関では金利が低すぎるのと円安リスクがあるので売れないから、日銀保有が増えているというのが実態です。国内の個人や法人が保有しているから問題ないというのは、見方が偏っていますね。海外の金融機関には売れないほど低金利だというだけの話だったとしたら、問題なしどころか大問題です。金利を低く抑えすぎて、国際債券市場から日本国債は相手にされていないということなのです。日銀が保有国債の実質評価損ですでに債務超過状態(#5219で説明した通り17.8兆円)であることは織り込み済みですから、円への信認がこの12年間で大きく崩れました。為替相場が79円/$から160円/$へ2倍もの円安水準になっているのは、円に対する信認が低下したからです。国際金融機関が円の保有をやめて他の通貨へ移し出したら、円安がさらに急激に進む可能性があります。まだ、そういうことにはなっていません。日本の上場企業がリスクヘッジのために、預金の半分をドルへシフトしても急激な円安が進みます。わたしが財務担当役員なら預金の半分を外貨へシフトさせます。金ならもっと安全です。

 さて、585兆円の保有国債(債権=資産)を日銀が政府債務(債務=負債)と相殺処理すると、次のような仕訳がなされます。
 (借方)国債除却損 585兆円 (貸方)国債 585兆円

 これ、日本銀行が585兆円の損失を出すということですから、日銀の役員会である「政策委員会」の決議事項でなければなりません。日本銀行の役員は総裁・副総裁2名、審議委員6名、監事3名、理事6名で構成されています。
 役員は株主のために業務執行をしていますが、日銀に巨額の損失がでるような業務執行は許されませんから、これは実務上不可能です。
 もし、このような決定を政策委員会でしたとすると、生じた損害の賠償義務が政策委員に生じます。監事や理事にも善管注意義務違反で同様の損害賠償義務が生じるでしょう。

 仮に政策委員会が決定したとしても、決算には監査に限定意見がつきます。
 585兆円もの損失は株主総会の決議事項です。決算書には未処理欠損金585兆円が計上されます。損失処分案は株主総会決議事項ですの決定権限は不明です。これらは日商簿記2級の範囲の、極めて初歩的な複式簿記の知識で理解できます。
 損失処分案には、利益剰余金と資本助預金の取り崩し、そして減資、増資、減資手続きが書き込まれます。純資産は4.9億円ですから、債務超過で清算しない限り、580兆円の増資と、580兆円の減資が損失処理案に含まれるでしょうね。これらが滞りなく行われたら、政府は585兆円の国債の償還義務がなくなります。
 さてそんなことが可能でしょうか?

 日本銀行は株式会社財務省の認可法人です。政府が55%を保有していますが、45%は個人です。成立の経緯から天皇家とロスチャイルド家がその中にあります。45%の株主名はどういうわけか非公開になっています。
(日銀法の一部改正案の中に株主の異動に関する記述があり、ロスチャイルド家の住所変更(官報本紙第603号3ページ)がなされたことがあるようです。持ち株数出資額は不明です。)
 株主総会で、普通決議か特別決議かよくわかりませんが、政府は「利益相反取引」になるので議決には参加できません。残りの45%の出資者株主の2/3が賛成しなくてはいけませんが、自らの責任ではない日本政府のこの十数年の放漫財政による585兆円の損失を認めるはずがありません。
 だから、「日銀保有国債と政府債務の相殺」は実務上不可能です。

 リチャード・カッツや森永卓郎氏や高橋洋一氏、三橋貴明氏などの「債権債務相殺論」は複式簿記の基礎的な理解を欠いているだけでなく、会社法上の株式会社の諸規定に関する知識も、諸手続きに関する実務知識もないことを露呈しているように見えます。粗雑な議論と言っては言い過ぎでしょうか?

*#5224 円安はいいことなのか? May 3, 2024


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コメント 7

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日本銀行は株式会社ではありません。
https://www.boj.or.jp/about/education/oshiete/outline/a11.htm
by お名前(必須) (2024-05-05 13:35) 

ebisu

ご指摘のサイトを見ました。
日銀はたしかに財務省の認可法人ではありますが、株式会社です。
ジャスダック上場企業です。

銘柄コードは8301です。

https://elite-lane.com/japanese-note/

by ebisu (2024-05-05 22:29) 

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ジャスダック市場で可能なのは出資証券の売買。株式会社ではないので株式は発行していない。ゆえに株式会社ではない。
https://www.dir.co.jp/report/column/20220510_010852.html
by お名前(必須) (2024-05-05 22:37) 

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紹介サイトでは出資証券と株式を同列に扱っている時点で誤り。株式は保有株式割合によって議決権は変わるが、出資証券はいくら量を保有していても議決権は一票。全く違う。
by お名前(必須) (2024-05-05 22:41) 

ebisu

なるほど、現在は「プライム市場、スタンダード市場、グロース市場」のどこにも日銀という銘柄はないのですね。
わたしの提示したサイトの説明は間違っているのですか。

経営に参加できないというのは、そもそも議決権がないからだということかと思いましたが、そうではないのですね。
「出資証券はいくら量を保有していても議決権は一票」と書かれました。
政府出資も1票ということでしょうか?
何だかよくわからない仕組みですね。

株式会社でなければ、会社法の株式会社の適用もなしですね。

特異な存在です。

日銀政策委員会の決裁権限をみると、政府債務と日銀保有国債の相殺の権限はありません。
したがって、政策委員会の決定事項に従って業務をする役員にもそうした権限はありません。

日銀法を変えない限り、政府債務と日銀保有国債を「相殺処理」はできないというところは変更なし。

他は、これから修正を入れます。
お名前有りませんが、教えてくれてありがとうございます。

日銀法
------------------------
第十三条 日本銀行でない者は、日本銀行という名称を用いてはならない。
第二章 政策委員会
(設置)
第十四条 日本銀行に、政策委員会(以下この章及び次章において「委員会」という。)を置く。
(権限)
第十五条 次に掲げる通貨及び金融の調節に関する事項は、委員会の議決による。


by ebisu (2024-05-06 00:06) 

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