ロシア200カイリ内で操業する日本漁船のサケ・マス流し網漁について、今期の操業条件を決める日ロ間の政府間交渉が大筋で合意する見通しになったことが11日、分かった。早ければ同日中にもモスクワで調印する。6月1日を目指していた操業開始は同下旬にずれ込み、漁獲割当量は昨年の3割程度まで激減する見通しになった。

 水産関係者が取材に明らかにした。妥結してもロシア国内での手続きなど準備が必要なため、操業開始は6月25~27日ごろで調整している。漁期は7月下旬までの約1カ月間となる見通し。漁業割当量は昨年の6630トンから約7割減の1962トンで、操業隻数は小型船(30トン未満)19隻のみとなる

 まとまった漁獲を期待できないため、昨年まで出漁していた中型船(30トン以上、18隻)は操業を断念する方向だという。ロシア側に支払う入漁料は約6億円。

 交渉は5月14日からモスクワで開始。日本側は昨年通り6月1日の操業開始を目指したが、ロシア側との交渉が難航し6月を過ぎても操業できず、漁業者の不安が高まっていた。
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<対象となる船の数と漁獲高、そして中型船出漁取りやめ>
 例年だとすでに漁期に入っている。手続き問題があるから1ヶ月しか期間がない。
 根室管内の船は38隻中32隻である、全体の水揚げ高は250億円といわれているから、1隻当たり平均6.5億円の水揚げがあったことになる。
 これが3割となると75億円に激減するから、1隻当たり平均約2億円に激減するから漁業会社あるいは漁師にとっては痛い。中型船は早々と出漁をとりやめを決定した。

<雇われ漁師は根室にいられなくなる>
 19トンの船で乗組員が9人、漁期は半分、サンマ漁の船に乗るにしても通年雇用がむずかしくなった。来年、全面禁猟になったら、まるまる2ヶ月間失業状態になる。サンマ漁は8月にならないと始まらない。
  元々、12月から5月までの6ヶ月間は漁がないから出稼ぎするものが多い。それが12月から7月までの8ヶ月間になれば、出稼ぎのほうがメインになる。来年は全面禁漁が噂されている。このまま時間がたてば、通年の職を見つけた者から家族を連れて根室から出て行くことになるだろう。
 職がなくて出て行かざるをえない者が増えるのに、人口増対策と称して「根室への移住促進」というばかげたことを何年間も市政の柱に据えている。頭のアンテナがどうかしてやしないか?
 社員に夢を語り、都会並みの雇用条件を提示する優良な民間会社が稀だから高校を卒業して進学したら若者たちは戻ってこない。足元をよく見たほうがよい。
 「勉強なんかしなくていい、船に乗れば稼げるんだから」、根室ではずっとこういうことが言われてきたし、実際に船に乗れば家族を養うに十分な稼ぎがあったが、ロシア200カイリ内サケ・マス流し網漁禁止法案下院通過はそういう時代の終焉を告げた。

<データに基づく試算>
 報道のあったデータに基づき、いくつかの假定の元に簡単な試算をしてみたい。
(1)雇われ漁師の失業数
 全部を19トンの船として、計算すると、
  38隻×9人=342人

 84%が根室の船だから、342人×84.2%=288人の漁師が影響を受ける。
 新聞報道にあるように中型船全部が出漁を取りやめると、
 それだけで18隻×16人=288人
 同じ人数の2ヶ月間の食い扶持がなくなる。実際には19t以下の小型船の漁獲量も減少するから、これだけではすまない。
 
(2)2ヶ月職を失う漁師の家族へも影響する
 4人家族とすると約1000人が影響を受ける。根室市の所帯数は約1.3万、高齢者が4000世帯くらいあるだろうから、水産加工場で働く人たちを含めると現役世代の所帯の1割ほどが影響を受けそうだ。一番苦しいのは雇われ漁師とその家族だろう。

(3)船を新造した漁業会社への影響
 中型船を新造した漁業会社はサケ・マス流し網漁の北洋水揚げがゼロになるから「新造船の減価償却負担」が重たくのしかかる。

<サケ・マス定置網漁は影響を受けぬ>
 サケ・マスは北洋海域だけではない。前浜での定置網漁があるから、漁獲割り当てが1/3になれば魚価が上がって収入が増えるところもあるだろう。オホーツク沿岸は昨年から不漁が続いているようだ。

<補助金行政の弊害:巨額の震災復興補助金交付のでたらめさ>
 最近聞いた話では、東北大震災の復興資金を利用して最近4年間で大半のサケ・マス漁船が新造されたという。通常なら19tの新造船は4億円で済むところを、7割の補助金でタダ同然だから8億円もかけたところがあるという。8億円かけても実質負担が3.2億円だから安いという理屈。震災バブルは根室にもあった。補助金が出るからと2倍もかけて造った時はよいが、こうなってみると補助金に踊ったのはばかなことだった。
(市立根室病院の建て替えや院内システム開発にも同じ構図が見えている。コストカット意識ゼロ、補助金が7割だから、いくら高くついてもいいと言わんばかり。こんなことを全国の市町村がやったら、補助金支出で国の財政はもたない。)

<首長はだれの利益代表か>
 根室市長は漁業補償の補助金陳情に東京へ行ったようだが、ロシア200カイリ内でのサケ・マス流し網漁をやっている漁業会社は19トンの漁船の新造で補助金を1隻当たり約5億円ほど手にしている。中型船の建造費はずっと高いから、1隻当たりの補助金の額がいくらになったのかわたしにはわからない。500トン未満の漁船の法定耐用年数は9年であるから、ほとんどの漁業会社が震災復興補助金を利用して新造したのではないか。

 そういうわけでまるまる被害を受けるのは、雇われ漁師たちと、水産加工業者とそこで働く人たちだ。多くは日給月給のおばちゃんたち。仕事が減ってサンマの最盛期以外は残業がなくなる。水産加工場の通年稼動が原料の入手難でむずかしくなる。経済的な理由で進路を変えざるを得ない子どもたちも増える。根室市長はそういうところにとんと関心がないらしい。

<根室を健全な町にする処方箋>
 雇われ漁師や水産加工場で働く人たちを交えて、どの範囲にどの程度の影響が及ぶのか、そして具体的な対策はどのようなものがありうるのか、市の総合文化会館で毎週日曜日に徹底的に議論したらいい。
 「オール根室」という1割に満たない者たちが自分たちの利害を優先して議論するようでは、根室の町はますます衰退する。市民が自由に参加できるテーブルを用意すべきだ。市政と癒着しているいくつかの経済団体にはこの問題についての希望の光ナシ、だが根室の町の未来に関わる大問題である。こういうときこそ市議が動くべきではないのか?
 市政が市民をないがしろにするなら、市議会が市民の利益代表となれ!


*#3056 ロシア200カイリ内サケ・マス流し網漁禁止:閉鎖的な漁協と市政 Jun. 6, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-06-06

 #3058 サケ・マス流し網漁禁止法案ロシア下院通過 Jun. 11, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-06-11

 #3060 ロシア200カイリ内サケ・マス流し網漁 1962トンで妥結 Jun. 12, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-06-12

 #3067 ロシア200カイリ内サケ・マス流し網漁:先手必勝 Jun. 25, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-06-25



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