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#4423 2次関数と等積変形の複合問題:数学のセンス Dec. 9, 2020 [51. 数学のセンス]

<最新更新情報>12/10午前11時 <冷静な目でみると…>と<余談>、パブリックコメントへの市長名での回答書への感想を追記

 金曜日(12/4)から中3の生徒が来ている。中3の用の『シリウス』の2次関数と等積変形の複合問題の解き方がわからないと質問があった。102頁の問題である。

問題:放物線y=x^2と、直線y=xの原点以外の交点をA、直線y=x+6との交点をB,Cとして、図のように台形OABCをつくる。次の問いに答えなさい。
(1)点A、B、Cの座標を求めなさい。
(2)台形OABCの面積を求めなさい。

 (1)は簡単だから説明を省略する。(2)はグラフがなくても自分で書いて解けるだろう。

 直線BCとy軸の好転をDとすると、台形の面積は△ODC+△ODB+△OABに分解できる。△OABは等積変形によって△OADに等しい。よって求める面積は、
 △ODC+△ODB+△OAD=1/2*6×2+1/2*6×3+1/2*6×1=18

 さて、等積変形が見えればいいが、センスのいい人ばかりではないし、センスがよくてもたまたまその時は働かないということもある。60点満点の道立高校の入試で難関高校を目指す者にとってはこういう問題でのミスはダメージが大きい。
 うまいことに数学の問題は解き方が複数あるのが普通で、この場合にも台形の面積の公式通りの計算方法がある。写真で(1)の座標を記入したグラフを示すので、それを使ってセンスがなくても解ける方法を書いておく。


DSCN4250s.jpg

 S=1/2*(OA+BC)*高さ

 高さ:直線OBに対して垂直になるので、垂直条件より傾きは-1、B点の座標を代入すると、y=-x+12が得られる。線分OAの延長線とBを通る直線の交点Hを求めると(6, 6)。

 さて、図を見ればわかるように、上底OA=√2、下底BC=5√2、高さBH=3√2は直角二等辺三角形辺の比から簡単に求められる。
 よって、S=1/2×(√2+5√2)×3√2=18

 数学のセンスは大事だが、それが利かないときはこういう正攻法の解き方を使えばいい。三平方の定理を習ってしまえば、根室では成績上位層の中3なら理解できる。どうやら呑み込みのよい生徒である。このレベルの能力の生徒なら、東京なら今頃は数ⅠAの終わりの方を学習している。ちょっともったいない。大学受験を考えると、1年間学習が遅れてしまうから、首都圏で学ぶ学生に比べて難関大学へ合格できる生徒がなかなか出せないのだ。
 こういう状況だから、毎年、成績上位の生徒たちが何人も釧路や札幌の進学校へ流出していく。市内で学年トップが根室高校に進学するのは珍しいことなのかもしれない。今年の高校3年生にはそういう生徒がいる。高校卒業まで根室にいても難関大学へ毎年数名が現役合格できる実績をつくれば状況は変えられるのだろう。成績トップクラスの生徒たちが、根室高校へ進学して、難関大学へ現役進学できる体制を作るのは、根室に住む大人(教育関係者)たちの責任です。

<冷静な目でみると…>
 この生徒は学力テスト総合ABCの五科目平均点が210-220の間にある。塾で勉強していたら平均点は250点を超えていただろう。高校生になってからの学力の伸びにも依存するが、北大なら医学部以外は全国模試で判定Bはとれるだろう。北大よりも偏差値の高い東京の私立大学、たとえば、慶応、早稲田、明治も受験できるレベルだと思う。同じ学年には41人いるようだが、この生徒のレベルの学力の生徒は3人いるようだ。別の市街化地域の学校には塾に行かずに280点台の得点の生徒がいる。東大にだって現役合格できるレベルの生徒は3年に一人はいるよ。システムがダメなんだ。残念なことにこうしたトップレベルの生徒は根室の教育体制に見切りをつけて高校から流出するケースが多い。
 何十年たっても、根室市の教育長が何人代わっても、市長が代わっても、市議たちが丸ごと入れ替わっても、こうした貧弱な教育体制を変えられない。
 わたしは、変えられるという実例を一つだけ示すことができるかもしれない。わたしがやれるのはそこまでだろう。やり方はこのブログに書き散らしたから、うまくいったら、後に続くものが参考にして、根室の子どもたちを育ててもらいたい。
「売り手よし、買い手よし、世間よし」
教育分野では、売り手は教育関係者、市長、教育長、市教委、各学校校長、先生たちである。買い手は生徒や保護者だ。世間は根室市となる。根室の町が活性化するためには教育分野で「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」を貫けばいいだけ。簡単なことなのだが、何十年たってもできないところを見ると、根室の大人たちに問題があると思わざるを得ない。
 その典型例が根室市庁舎の建て替えにも現れている。パブリックコメントの扱いに対する市長名の回答書を今日(12/9)受け取ったが、その内容は驚くべきものだった。こういうことが合法的にできる余地があるとしたら、仕組み自体を糾弾しなければならない。国土交通省基準の建築単価23.8万円を「地域別指数」を乗じて57万円にできるというのだ。2.4倍である。資材も工賃も根室は東京の2.4倍だというのである。そんなべらぼうな話が根室市役所ではまかり通っている。建て替えに関する委員会も市議会もフリーパスである。こういう実態を根室市民は知っている。だからあきれて自分の子どもを根室の外に出すし、子どもたちも恣意的な市政がまかり通る町に飽きれて戻ってこない。何を言ったってこの町の体質が変わりっこないのを知っている。
 売上高500億円規模の会社の経営管理部門や学術開発部門だけでなく購買部門でも仕事していたことがある。35歳で東証2部上場要員として入社早々、予算編成と管理の責任者で経営管理システム開発の方のプロジェクトを担当した。翌年(1985年)には検査コスト低減のために検査試薬の20&値引き交渉を提案して、プロジェクトを任され大手製薬メーカー相手に値引き交渉をして16億円コストカットした。複写費が1億円を超えていたので、営業所や子会社ばらばらに契約していたのを富士ゼロックスに統一することで3000万円コストカットできると総務部へ伝えやってもらった。富士ゼロックスからは役員が交渉に来た。もちろん、要求は呑んでもらった。富士ゼロックスの方は売上が5割くらい増えたはずだ。向こうが要求に応じられる条件をちゃんと計算して交渉していた。3割の値引きに応じても売上増となるから富士ゼロックス側の営業担当役員の成果となるわけ。だから、一社に絞る場合はつねに業界最大手とか品質の一番よい会社を選んで、そこへ仕入を統一する条件で大幅な値引き交渉を実現していった。SRL八王子ラボは日本で最高首位準の臨床検査ラボだが、担当した2年半は使う検査機器は世界最高水準のものを意識して購入していた。電子天秤ならドイツ・メトラー社に統一、蛍光顕微鏡ならオリンパスやニコンはやめてドイツ・カーツツァイス社製品に統一など。電話一本で快く交渉に応じてくれる一流企業もあった。「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」でいいのである。だから、わたしはトヨタのように下請け会社や取引先の適正な利益をはぎ取るようなバカげた仕入はしたことがない。会社は大きくても、利益は上がっていても、その経営は下請けや取引先から見たらいかがなものか。とても「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」とは言えぬ。日本の伝統的な商道徳から判断すると、愚かな経営スタイルのの見本に見える。
 根室市のやり方は、民間企業ではありえない単価や発注の仕組みである。その仕事ぶりは「怠惰な」とか「恥ずかしい」と言い換えてもよい。コストを下げようという意識があるかすら疑わしい。1999年に首都圏の300ベッド弱の病院の病棟建て替えも常務理事として担当した経験があるからこの分野(建築)もすこしは知っているつもりだ。ゼネコンのフジタと交渉が進んでいたが、常務理事に就任して事情を調べ、理由があってフジタをキャンセルした。新日鉄のゼネコン部隊を使った。RC造外断熱仕様20万円/㎡だった。神奈川県庁や横浜市の医療関係担当部局と交渉して補助金100%で建て替えた。この時の開発申請資料の写しを取り寄せて、市立根室病院建て替えのときに参考資料として、根室市役所総合政策部長と病院側の担当課長にわたして説明した。当時の藤原根室市長からそう頼まれたからである。政策部長と病院側で担当していた課長は翌年出向解除で道庁へ戻った。
 いただいた石垣市長の回答書を読んでみたが、新庁舎の発注は恣意的に何でもできると言っているようなもの。稿を改めて、その理由をシリーズで公開していく。市政と癒着していれば、こんなに濡れ手で粟の仕事が回って来るなら、地元企業の経営改善など進むはずもない。市政と地元企業はもちつもたれつ、根室の町を衰退と泥沼に導く車の両輪をなしている。
 極東の町であっても国土交通省基準の1.5倍の単価35.7万円/㎡なら、大手ゼネコンがいくらでも手を挙げるだろう。計算上は15億円もの節約になる。1億円くれたら、わたしが個人で大手ゼネコンを引っ張ってきてもいい。報酬の1億円は根室の子どもたちを育てるための資金に使いたい。パソコンを配ろうというんじゃないよ、能力の高い教員を数人・数年間雇って、これだけ変えられるということを実証して見せるだけです。金は使いようですから、面白い。(笑)
 そんな金は出せないと吝嗇を言うなら、ただでやってあげるよ。伝手(つて)は探せば何とかなりそうだから、橋渡しはできる。

<余談:グラフ作画の効用>
 2次関数の問題は必ずグラフを描いてみること。答案用紙の余白に人目盛りを1㎝でとって定規を使って作図してみよう。そうしたら簡単になる。


 中3のみなさん、読んでくれてありがとう。あと2か月半、頑張り通してください。


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#4275 「青チャート数Ⅲ制覇」:5か月と7日間 June 24, 2020 [51. 数学のセンス]

 他の人の参考になるだろう。医学部受験の生徒は1月14日から「青チャート数Ⅲ」の問題を解き始めた。例題を読み、片っ端から問題を解いていくスタイルである。数学の偏差値が70でも消化不良を起こすのでお勧めできない勉強法だ。能力に応じた勉強法をとるのがいい、この生徒にはこのスタイルがふさわしかっただけ。6/21に総合問題を残して、全問解き終わった。総合問題は受験直前の「ご馳走」である、いまやる必要はないというのは本人の判断。

 この生徒は小学5年生の1月から弊塾へ通い始めた。(45年前の)首都圏なら小学4年生からが標準的なスタート、1年と9か月遅れてスタートしたことになる。理系に秀でる生徒はしばしば国語力に弱点がある。この生徒も文学作品に感動するところが概してすくないから、放っておいたら文学作品をほとんど読まぬ。仕方がないので国語力の底上げのために良書を選んで5年間にわたって日本語音読トレーニングをやった。語彙力強化のために音読テクストとして選んだ17冊の本のリストを末尾に貼り付けておく。

 最初から1年9か月の遅れを意識して、それをカバーするために、シリウス・シリーズを使って、予習方式で数学の勉強を6年と5か月間やり続けてきた。コンパクトな解説だけでやり方を理解し、すぐに問題を解くことに慣れてしまった。他の生徒にはこんな無茶なやり方をさせない。
(根室では医学部進学希望の生徒を5年生の四月から一人だけ教えたことがあるが、中学1年の終わりには3年生用のシリウスを半分消化していた。英語は中学生になってから教えたが、堰を切ったように1年生用の問題集は3か月で終わった。1年次の終わりまでに3年間分消化してしまった。並行して音読用のCDのついた教材を選んでやらせた。3月に突然親の転勤が決まって転校したので、その後どうなったか知らない。OR君は昨年大学受験だったはず。シリウスのコンパクトな解説を独力で読ませて予習方式で全問やらせたのは過去二人だけ。)

 シリウスに比べると「青チャート数Ⅲ」は断然例題が多く、演習問題数が少ない(1割程度?)から、この程度の問題集なら今まで通り、例題を読んで理解し、次いで演習問題をやり通せると判断した。
 月曜日(6/22)から「大学への数学1対1対応」シリーズ6冊にチャレンジし始めている。これは自分で情報収集して選んだ問題集である。ときどきエレガントな解法が提示されているので、そういう問題をピックアップしてランダムにやるつもりのようだ。問題の難易度も解法も「青チャート数Ⅲ」をやったあとにふさわしいレベルである。

 最後は先生のサポートなしに、単独で勉強できるような学習スタイルを身につけること、それが理想と思っている。問題集の選択も、仕上げに関しては自分で選んだ、それでいい。

 数Ⅲのスタートと同時、英作文も1/14日からメール配信方式で「英作文千本ノック」を始めた。季節が廻(めぐ)り、なんとなく気が向いてしまった。(笑)

 必要な時期が来れば、自然に必要なことが始まってしまうのは、季節廻りのようなもの。生徒がハラリのSapiensを坦々と精読して読みの力を蓄えているうちに、教えている私の方では書きのトレーニングをはじめたいという欲求が蕾となってジッと開花を待っていた。「英作文千本ノック」は偶然に数Ⅲと同時のスタートとなった。「青チャート数Ⅲ」のスタートは生徒が自分で決めた。河合塾の冬季特訓から戻って塾へ来た日から始めたのである。その日にわたしは用意していた英作文問題をメールでかれに送った。数学と英語、生徒と先生、二重の意味で「啐啄同時であった。

 週に4日間、1回に5-10題問題を消化している。NHK英会話教材を利用した問題と解説になっている。認知言語学で用いられているイメージ・スキマーを利用した大西泰斗先生の解説はなかなか楽しいし、言語理論としても最新のものだ。英作文トレーニングを通してこういう最新の理論に触れるということが大切なのである。構造言語学の大御所であるチョムスキーの生成変形文法理論をつかって解説をしている。ハラリ「Sapiens」を11か月間読んでいるから、「読み」と「書き」の両輪が揃って相乗効果が出ている
 昨日、第78回目をやった。問題数は550題くらいになっているだろう。最近は8割くらいの正解率までアップしている。夜の10時ころにメールで問題文を配信すると、翌日それをやって塾へ来る。問題演習を始める前に英作文の答えをチェックし、解説を行う。時間は10-15分間ですむ、これが週に4回だから、普通に授業でやったら2時間を超えるだろう。じつに効率的なのだ。
 NHK英会話テキストがベースだから、慣用句がふんだんに出てくるし、それに加えてイメージ・スキマーと生成変形分法がベースになった解説だから、目から鱗が落ちるようなことがちょくちょく起きる。「千本ノック」をしてから、模試のリスニングの得点が8-9割にアップしたと副次効果に喜んでいる。
 Sapiensの朗読音源でリスニングトレーニングを3か月間ほどやれば、リスニング力は飛躍的に伸びる。共通試験レベルでは不要だが、やれるときにやっておいた方がいい。将来どこで、どんな風に役に立つかわからないが、それが人生の岐路で強力な武器になるときがいつかきっとやってくる。

 東京で勉学し、そしていくつか業種を変えて本社経営管理部門で仕事する企業人として人生の半分近くを過ごしたから、複数分野の高度なスキルをもつメリットがよくわかる。

(この生徒は高校生になってから英検を初めて受験している。いきなり準2級を受験して高得点でクリア、次の英検で2級を受験しこれもハイスコアでクリアした。あれからかなり力がアップしてるので準一級の問題集を2周したら、合格できるレベルだろう。大学共通試験の英語が民間の試験に置き換わるというので必要な英検2級を受験しただけ。本人は「もう英検は必要ない」と言っている。)

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<6. 日本語音読トレーニング:国語力が学力の基礎>
 最後に、日本語音読トレーニングで5年間に読破した本のリストを挙げておく。件(くだん)の生徒は高1で日本語音読トレーニングは終了している。17冊、レベルを上げながら、たっぷりやった。
 生徒と交代で輪読するし、速度を変えて読むので、スキルス胃癌を患い胃と胆嚢を全摘出したわたしには、体力への負荷が大きい。だから、この2年間は本気でやろうという生徒にだけ対応している。休みの水曜日に日本語音読トレーニングを充てていた。昨年は1時間でへとへと。寄る年波には勝てません、年々体力が落ちてます。でも、まだがんばれます。(笑)


〈日本語音読リスト〉…
*#3726 
日本語音読トレーニングのススメ:低下する学力に抗して Apr. 18,2018
https://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2018-04-18-1

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<7. 国語力アップのための音読トレーニング >
 中2のトップクラスのある生徒の国語力を上げるために、いままで音読指導をしてきた。読んだ本のリストを書き出してみると、
○『声に出して読みたい日本語』
○『声に出して読みたい日本語②』
○『声に出して読みたい日本語③』
○『坊ちゃん』夏目漱石

○『羅生門』芥川龍之介
○『走れメロス』太宰治
○『銀河鉄道の夜』宮沢賢治
 『五重塔』幸田露伴
 『山月記』中島敦
●『読書力』斉藤隆
●『国家の品格』藤原正彦
●『すらすら読める風姿花伝・原文対訳』世阿弥著・林望現代語訳
●『日本人は何を考えてきたのか』斉藤隆

『語彙力こそが教養である』斉藤隆
●『日本人の誇り』藤原正彦(数学者)

◎『福翁自伝』福沢諭吉
◎『近代日本150年 科学技術総力戦体制の破綻』山本義隆(物理学者)

(○印は、ふつうの学力の小学生と中学生の一部の音読トレーニング教材として使用していた。●印の本はふつうの学力の中学生の音読トレーニング教材として授業で使用した実績がある。◎は大学生でも語彙力上級者レベルにふさわしいテクストである。平均的な語彙力の大学生には手が届かぬ。
 音読トレーニング授業はボランティアで実施、ずっと強制だったが、2年前から希望者のみに限定している。本気でやる気にならないと効果が小さいので、お互いに時間の無駄。)

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#4171 数Ⅲ開始10日目で青チャート50頁消化:育ち方 Jan. 24, 2020 [51. 数学のセンス]

<最終更新情報>
1/25 1:40 青チャートH26年版とR2年版の比較追記60頁増加。
1/26 8:20 標準問題で脳をあまり使わない、難易度の高い問題へパワーを温存しておくの進研模試数学得点9割越えのポイント


 高校2年生のO君が数Ⅲを始めたのは、1月13日からである。
 塾用教材のシリウスには複素平面を扱ったものがないので、「青チャート数Ⅲ」を使うことに決めていた。複素平面の世界では、掛け算は偏角(角度)の足し算、割り算は偏角の引き算、累乗計算は回転を表すことを計算規則とそれを図に描いて説明してから、オイラーの公式を黒板に書いた。

 e^iΘ=cosΘ+isinΘ

T:「複素関数では超越数eの累乗が三角関数で表されるんだ、まるでアリスの「ワンダーランド」だね。」
O:「不思議ですね
T:Θをπ(Pi)に書き換えてみるよ。

 e^iπ=cosπ+isinπ

T:「右辺は数Ⅱで三角関数が出てきたから、どうなる?」
O:「-1です」

 e^iπ=-1

T:「ネイピア数eと円周率πはどちらも超越数で、無限小数だが、それが純虚数iという指揮者が現れたとたんにシンプルな整数-1に化けてしまう。わたしはとっても美しいと感じるが、O君の目にはどう映っている?」
O:「美しいと思います」
T:「なーんだ、ちゃんと感動できる、なのに短歌や俳句には美しさを感じない(笑)」
O:「… m(_ _)m」

 10分間ほどそういう対話をしてから、青チャート数Ⅲ問題集を開始した。昨日は1月23日だから11日目である。どこまで進んだか尋ねたら青チャート数Ⅲの50頁辺りをやっていた。複素数は82頁あるから、月末には終わりそうだ。どういうわけか、数Ⅲに入ったとたんに加速している。
O:「複素数、面白くてやめられないんです(笑)」

 指数関数三角関数で表現できる(等式の左辺が指数関数、右辺が三角関数)ということは、これら両方の式が、共通のものに還元できるということを示している。それが、無限級数である。数Ⅲでは初歩的なものだけが出てくる。好い専門書があるから、そちらに目を通してみたらいい。『πとeの話』という本だ。
 『オイラーの贈り物』も素晴らしい本である。数学好きな生徒は買っておいたらいい、いつか読むことになる。世の中には数学が大好きなんて人間はあんまりいないから、絶版になる可能性がある。

 小5のとき、正月明けから塾へ来た。数か月で6年生の問題集を終わり、シリウスシリーズで中学数学の勉強を始めた。シリウスはそれぞれの章にコンパクトに数題例題があるだけ、あとはひたすら難易度の高い問題集を解く。演習方式の問題集である。問題量が多いので、全問題をやらせるのは数学が「よくできる」程度では無理、だから様子を見ながらやらせたのだが、大丈夫だった。「よくできる」の上を走った。
 中3の途中から数Ⅰを始めた。そして数Ⅱと数B、この2冊がとんでもなく分厚い。章の終わりには難関校の受験問題が並んでいる。問題数は青チャートの10倍はあるだろう。数Ⅱの問題集と解答集は、B5版の大型で277頁と557頁、数Bは209頁と335頁ある。全問題やり切ることになる。面白かったのか、ベクトルと数列はさっさと終わって得意分野にしてしまった。いま、積分の受験問題過去問が並んだところをやっているから、まもなく数Ⅱも終了する。
 はやく数Ⅲをはじめたくて、週2時間の塾の数学授業のうち、1時間を数Ⅲに充てている。青チャート数Ⅲは451頁(H26年度版)あるが、4か月くらいで消化しそうな勢いである。問題量が少ないので、トレーニング不足が心配だから、例題を全部やるとか、別解も全部やって練習量不足を補わないといけないのだろう。何か問題集を探しておいたほうがよさそうだ。標準問題は脳を使わなくても解けるくらいにしておけば共通一次9割の得点が可能になる。今月受験した進研模試で3度目の9割越えになるだろうから、そのあたりの感触が生徒にはすでにある。テストの際に難易度の高い問題に対処するには、標準問題で脳を使わないほうが余力をもって対処できることが実感できる。その余力が感じられないときには9割超にならないからだ。
 シリウスでコンパクトな説明のみで、問題を片っ端から解いてきたので、青チャートは例題が多いので簡単に見えているのだろう。数分間、例題を眺めて理解すると、例題を見ながら、問題を解いている。
 でも、数Ⅲは奥が深いし、キリがないから、わずか451頁の青チャートでどこまで迫れるか、まあ、やれるところまでやってみたらいい。やればやるほど課題がたくさん見えてくるのが数Ⅲだろう。高校数学を超える範囲はネットで検索したらいい。そのあたりをどこまで調べるかが鍵になる。1日は24時間しかないから、どこかで切り上げないといけない。もどかしいだろうな。時間がいくらあっても、好奇心を充足できないもどかしさ。

 学校の授業はペースが遅いし、簡単なことしかやらないので彼にはストレスである。だから、中学生の時から、数学の授業時間中にシリウスを広げて問題を解いていた。数学の先生に理解してもらうまで、トラブルはあった。高校でも、同じスタイルで授業時間を過ごしているが、もうトラブルにはならない。高校生は自主的・自律的に学習するのが基本だから、学校の指導方針とも齟齬はない。遅い授業を無理強いしたら、能力のある子どもたちが旬の時期に学力を飛躍的に伸ばす芽を摘んでしまう。学校が出す一律の宿題も不要だ。進研模試で数学90点以上の生徒に、数学の宿題を無理強いしないでもらいたい、学習の妨げになる。中学校の学力テストで数学90点超の生徒も同じことだ。どこの学校でも、遅くて難易度を下げた授業をせざるを得ないなら、能力の高い生徒は放っておいてもらいたい。
 100人に一人はこういうレベルの生徒がいるが、学校の授業の速度や扱う問題の難易度が能力に合わない、だから、放っておいてもらうのが一番いいのである。授業中、難易度の高い問題を解くのに熱中しているだけなのだから
 いままで、難易度の高い問題集シリウスシリーズを使って独力でコンパクトな解説を読み、問題を解いてきた、そのスタイルが、数Ⅲになって大きな効果を発揮している。どういう学習スタイルを身に着けさせるかが大事なのだ。数Ⅲになって消化速度が加速している。複素数の計算には、数列のさまざまなタイプの特性方程式が絡む複合問題があるが、数Bで大量の問題を解いているので、スーッと通り抜けてしまう。複素数の問題を解くことが、ベクトルの復習になっている。だから、数Ⅲの勉強を徹底すると数Ⅱや数Bの復習になってしまう。80%は実数の範囲で慣れ親しんだ操作を複素平面上でおさらいするだけだから、簡単なのである。数Ⅲの微分積分も計算トレーニングだから、慣れたらいいだけ。シリウスで5年間半端ではない問題量を消化してきたのが、数Ⅲの学習速度を加速しているように見える。

 数Ⅱと数Bを始めたときから1時間以上考えてもわからない問題だけ質問するように伝えた。それまでは10分ほど考えてわからなければ質問していた。簡単に質問を繰り返すと、塾長への依存心が強くなる、依存心を育ててはいけない、自立心の芽を摘むことになる。そうせざるを得ない生徒もいるから、生徒の能力に応じてで分けて指導している、個別指導の利点である。たま~に、シビアな質問を投げてくる。「1時間考えたけど、この問題わかりませんでした」「一晩考えたけどわからない」、その場で即答できればするし、できなければ調べて確認して翌日解説するようにしている。
 たいがい、とってもいい質問なのだ。数Ⅱだったかな、「解答を見てもここがわからない」というので、即答できず、わたしも納得がいかないので、Grapesというグラフソフトとプログラマブル科学技術用計算機HP-35を使って確認したら、解答集にミスが見つかった。わからないことを考え抜いた末に「わかりません」と言えるところがすごいのだ。解答を見て覚えてしまってもいいのである。でも、数学は深く理解しておかないと伸びしろがなくなる、O君は自分をごまかさない

<H26年版とR2年版の比較>
 青チャートの平成26年版は451頁、2020(R2)年版は511頁ある。60頁増えたのだが、本の厚さはぴったり同じであるから、その分だけ上質の紙を使って調整したということか。解答集の方は451⇒487頁だから、36頁増である。解答・解説がいくぶんかコンパクトになったということ。厚さは5㎜ほど薄くなっているから、だいぶ紙質が改善されたようだ。その分、本体値段が1771円から1960円へアップしている。複素平面がH26年版では54頁までだが、R2年版は82頁まで。複素平面だけで28頁増えている。中を見たら、大学数学へ一歩踏み込んでいる。どおりで増加分の半分が複素平面の章に集中しているわけだ。

<英語の学習法> 
 いま、ハラリの”Sapiens”を読んでいる。夏の終わりころから始めた。O君は河合塾の冬季特訓で採り上げた東大過去問の方が楽だと言ってる。そろそろ速度アップし手もいい時期だと伝えたら、難易度の高い大学入試問題は段落中の難易度の高い文(生成文法でいうと文法工程指数の高い文が多い)を突いて出題するから、現在の精読(英文を書きとり、訳文も普段使っている言葉で書く)をまだしばらく続けたいとのこと。
 知らない単語が1ページに10個あっても、段落ごとのロジックを追って粗筋は外さずにすでに読めるレベルに達しているはず、なかなか慎重だ。彼にとって読書の楽しみは、いまは難易度の高い文をよく読むこと。いい加減な読みでもいいから、速い読み方をになれたら、ずっと楽しくなれる。生徒にとっては、サピエンスは内容が面白いので楽しいのである。(笑)
 はっきりしないところだけ辞書を使って調べ、考えたらいいのだが、3月いっぱいまでこのペースかな。
 ところで、先週からメール方式で英作文トレーニングを始めた。月火木金の四日間、毎日5-8題、英作文問題を作成して送信している。翌日、授業の前に5分間ほどチェックと「対話」で作文トレーニングができる。とりあえず1か月やって、難易度調整しながら、どの程度の問題が適しているか観察している。
 英語が苦手な高2の生徒5人へも送信を始めた。NHKラジオ英会話レベルの英作文問題だから彼らには難易度が高すぎるが、解説を丁寧にやればいいだけ。昨日、二人が、生徒会室で他の塾へ通っている生徒を巻き込んで、一緒に作業してきた。勉強しどころ満載である。「身になる英作文トレーニング」は、やはり、5-10分程度の解説で十分やれることがわかった。予想通り解説を丁寧にやればいいだけ。高1の生徒には中3レベルの英作文から始めたほうが良さそうなので、来月から開始するつもりだ。半年も続けたら、500題、解答解説付きだから「立派な英作文問題集」が一冊できあがる。(笑)

 リスニングはいくつか教材を挙げて、家でやるようにいっているが、やりかたが大事なので、個別にチェックしていく。10分前後の音源で、視点を変えて百回も2百回3百回も、ひたすら繰り返して音読トレーニングすることが効果が大きい。ちゃんとやれば、文章の中で使われるhurtとheartが聞いた瞬間にだれでも聞き分けられるようになるよ。やりかたは、学校の先生や塾の先生に指導を受けたほうがいい。

<余談:育ち方>
 「育ち方」と書いたのは、わたしが「育てた」わけではなくて、生徒が己の好奇心の赴くままに勉強して、勝手に育ったてしまったというのが実感だからである。好奇心をくすぐることぐらいは繰り返しやっている、塾長の役割なんて、それぐらいなもんだよ。(笑)
 このレベルの生徒は、いまでも1学年に3人くらいいるだろう。問題は「育ち方」である。根室市内の中学生1学年の生徒数は200人くらいである。わたしは2002年の11月に故郷に戻ってきて塾を開いたのだが、20年前ころには400人いたし、学力上位層は現在の5倍以上存在したから、上手に育てたら、毎年5-10人は医学部へ進学できるレベルの生徒がいたということ。もったいない。市立根室病院の常勤医は12人、医者がいなくて困っているのは、地域に学力の高い生徒がいても、育てそこなってきたということ。30年かける用意があるなら、医者は根室でいくらでも自給自足できる。これからだって、年に2人、医学部へ進学する生徒を育てられたら、30年間で60人である。3人に一人が、根室で10年間仕事してもらえたら、市立根室病院は常勤医不足なんてことはなくなる。そして、そういう教育環境が用意されたら、40代のドクターが根室で仕事するのに子どもの教育という大きな障害がなくなる。年収が高額だから、根室出身ではないドクターもいくらでも集まる。130ベッドの病院でも、日本で地域医療の分野で先端の病院になりうる。どういうビジョンで地域医療を運営し、それへ向けて人を育てるかということが大事なのだ。根室の地域医療問題を根底からひっくり返すにはこういう長期戦略が必要
 進度の遅い授業や学力を無視したつまらない一律の宿題の無理強いはやめてもらいたい。たとえば、学力テストで数学90点以上の生徒は宿題免除でいい。授業も聞きたかったら聞けばいいし、難易度の高い問題集を授業中にやってもいい、それくらいの寛容な指導をしよう。そういう環境を提供すれば、勝手に育っていく。学力の低い生徒は、一律の宿題を出したらいい。放課後補習への強制参加もやるべきだ。英語アレルギーの高2の5人の生徒たちですら、2時間10回の英語補習で全員アレルギー症状が消滅している。そして英作文トレーニングをやっているのだ。チャンスをあげたら、這い上がってくる、指導する側が適切な手を差し伸べてないだけ。放っておいたら、生徒はそのうちにあきらめてしまいます。

(良書を厳選した日本語音読トレーニングを4年間やった。15冊だったかな、最後の2冊は福沢諭吉『福翁自伝』や物理学者で東大全共闘元議長山本義隆『近代日本150年史 科学技術総力戦体制の破綻』。山本は長年にわたって駿台予備校の物理の先生でもある。O君は小6のときから厳選して音読トレーニングをしてきたから、論説文の読みが深くなった、並みの大学生では比較にならぬ。)





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πとeの話―数の不思議

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  • 作者: Y.E.O.エイドリアン
  • 出版社/メーカー: 青土社
  • 発売日: 2008/09/25
  • メディア: 単行本
新装版 オイラーの贈物ー人類の至宝e^iπ=−1を学ぶ

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  • 作者: 吉田 武
  • 出版社/メーカー: 東海大学出版会
  • 発売日: 2010/01/01
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近代日本一五〇年――科学技術総力戦体制の破綻 (岩波新書)

近代日本一五〇年――科学技術総力戦体制の破綻 (岩波新書)

  • 作者: 山本 義隆
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2018/01/20
  • メディア: 新書



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#4166 高2の生徒がようやく数Ⅲをはじめた:複素平面の不思議 Jan. 15, 2020 [51. 数学のセンス]

 シリウス数Bはとっくに終わり、『シリウス数Ⅱ』の最後の章「微積分のまとめ」をやっている。入試問題が並んでいるから今の実力では手ごわい問題がある。ちょうど30頁だ。問題集自体は数Ⅱだけで277頁、解答集は557頁もある大部なもの。教科書もやらずに、この問題集に載っている解説を自分で読み、そして問題を解くという方式で、中1のときからずっとやってきた。普通の生徒にこの問題集をいきなりやらせるのは無理、高校生になったときに進研模試で数学の全国偏差値が75以上でないと無理、初めてのケースなのである。すっかり慣れちゃって、いまではへっちゃら。鍛えてみるものだ。
 ところで、シリウスシリーズの数学には数Ⅲは微分積分と極限の問題集しかないので、青チャート数Ⅲに切り換えた。今日が最初の授業、複素平面である。
 いつもは説明なしで、例題を読ませて独力でやらせるのだが、複素平面はまったく新しい分野なので、概念を押さえておいた方が、見通しがよくなるので、10分ほど解説した。
 複素平面は実軸と虚軸で構成され、実数と同じように座標平面上で複素数の加減乗除や累乗計算が可能だ。そして極座標形式で「r(cosΘ+isinΘ)」でも表現できる。座標の掛け算は、偏角Θの加算となる(つまり、回転となる)ことを、実際の数値でやらせてみた。
 (cosπ/3+isinπ/3)の累乗計算を指数を2、3、4、5、6、7と変えてやらせた。
 (1/2+√3/2)^nがn=7のときにもとに戻る。

  プログラマブル科学技術計算用計算機のHP35sは複素数の演算機能が標準装備しているので、次の計算は簡単にできる。
  (cosπ/3+isinπ/3)^6=1.000E0i1.623E-12
  1.623E-12=1.623×10^-12だから、12個ゼロが並んだ後に1.623だからゼロです、計算精度の関係で端数がでます。
  (cosπ/3+isinπ/3)^7=5.000E-1i8.6660E-12(=1/2+√3/2i)


 掛け算が偏角の加算になる。これ自体が、新鮮な驚きだろう。ガウス平面上の点の割り算が、偏角Θの引き算になることは容易に推察がつく。指数関数によく似ている。
 複素平面(ガウス平面)は数学者&物理学者のガウスの考案になるものだが、これができてからまだ200年に過ぎない、数学の分野としては微積分のついで新しい。ここから実数の世界は複素数の世界の特殊な分野ということになる。マックスウェルの電気磁気学では複素平面が問題になるらしいが、わたしは門外漢だ。
 四則演算も累乗計算も微分・積分も、複素数という拡張された世界では、いくぶん趣を異にする。とくに関数で複素平面Uから複素平面Wへの対応を考えると、四次元となるので、グラフの概形図を書いて理解した手法がお釈迦になる。途方に暮れる理数系の学生がどっと出るが、複素関数は実数の世界よりもはるかに面白いのである。ある種の計算は、複素数でやった方が簡単になる場合もある。
*https://ja.wikipedia.org/wiki/カール・フリードリヒ・ガウス

 ついでだから、オイラーの有名な公式も黒板に書いた。
 e^iΘ=cosΘ+isinΘ
 これにΘ=πを代入して計算。
 e^iπ=cosπ+isinπ=-1+0i=-1 (π⇒パイ)
 「あ!」と生徒が声をあげた。
  e^iπ=-1
 ネイピア数のeとπは代表的な超越数であり、どちらも無限級数であらわせるが、残念ながら高校数学の範囲ではない。それらが虚数単位のiと結びつくことで、シンプルなマイナス1になってしまう。
 「シンプルで美しいだろう?」
 「はい、美しいと思います」

 こういうところで感動できる者は幸せだ。(笑)

*超越数
https://mathtrain.jp/transcendental

 見通しがよくなっただろうから、あとは、ひたすら、問題を解いてもらう。ときどき質問に応えるだけでいい。こうして、昨日の授業で、数Ⅲに突入した。問題量がシリウスに比べると20%ほどしかないので、消化速度は大きくなる、夏休み前に全問題解き終えることができるかもしれない。本人はもう少し早く終えるつもりのようだが、甘くないよ。(笑)
 数Ⅱと数Bはたっぷり、過剰なくらい難易度の高い問題をこなしたから、数Ⅲで数Ⅱや数Bとの難易度の高い複合問題があったときにも、消化速度が落ちないだろう。

 今日は晴れの予報なのに、ひさしぶりに朝から雪が舞っている、羽毛のようにふんわりした雪である。
 札幌雪祭りは6000台のトラックで遠くの山中から雪を運んでいる。輸送に携わっている自衛隊のみなさんご苦労様。夕張の雪まつりは中止を余儀なくされたよし、とっても雪の少ない冬だ。

<余談:河合塾冬期講習生徒の感想>

 件の生徒は、河合塾の冬期講習を札幌まで行って受けた。化学の授業が素晴らしかったと絶賛していた。物理もそれに次いでいた様子。根室にああいう風に化学を教えてくれる先生がいたら、根室高校生の化学の学力が上がるだろうに、と感想を述べていた。大手進学塾の先生は指導法をよく研究している。
 数学は一番上のクラスではなくて2番目を受けたらしい。取り上げられてた問題が簡単すぎてつまらなかったと言っていた。英語は一番上のクラス、夏期講習のときの先生とは違う人で「英語は構文だ」なんてことはおっしゃらない。事前に予習していったから、よく理解できたという。受験問題から長文をピックアップして解説した授業だった。根室の塾でやっている長文トレーニングと似たような解説だったらしい。英語の文は、「後ろのものは前のものの補足説明」になっていると大西泰斗先生のような解説をしながらの授業だったという。わたしもよくやる。必要な範囲で生成変形文法も解説に利用している。長文は東大入試英語過去問からの採録が多かったそうだ。慶応大学医学部の過去問も、要するにそういうレベルが冬期特訓問題。「ここはwouldが省略されているから、補って読もう、気がついた人はいるかな?」なんて、まるで同じ解説をしたらしい。広い教室にたった8人の受講生だったらしい。
 河合塾の自習室は食事をしながらできる、ラウンジスタイルの部屋、飲食物禁止の部屋といくつもあって、便利この上なしという感想。さすが大手予備校、設備が整っている。空調もしっかり利いていて、居心地がよかったとのこと。春休みに行く人は参考にしたらいい。
 ハラリのSapiensを読み始めてから、読解スキルが上がってきているので、英文の見え方が変化している様子。いままで、文法・語法問題でできるかできないかの境目がはっきりしなかったのが、ラインが見えるようになってきたと報告があった。文法・語法問題は授業で採り上げていないが、読解に慣れれば、自然に上がる部分がある。




問題量が多すぎます(笑)

シリウスシリーズ 数学
https://www.ikushin.co.jp/shuppan/index.php?mode=detail&bi=150

青チャート
https://www.amazon.co.jp/チャート式基礎からの数学3―新課程-チャート研究所/dp/4410105558

*https://www.youtube.com/watch?v=Xz0L9GzQpQI

<HP35s>
https://www.amazon.co.jp/HP-35S-B12-35s-ハイエンド関数電卓-【並行輸入品】/dp/B004A0XHH4/ref=pd_sbs_229_img_0/355-0195408-8402464?_encoding=UTF8&pd_rd_i=B004A0XHH4&pd_rd_r=8c391177-0ac4-47ae-ac6d-36e7604fc0fa&pd_rd_w=my0ut&pd_rd_wg=L3cUu&pf_rd_p=ca22fd73-0f1e-4b39-9917-c84a20b3f3a8&pf_rd_r=EKKFYYMCK251XBV17ZBF&psc=1&refRID=EKKFYYMCK251XBV17ZBF

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 CDマニュアルが付属していて、それに日本語マニュアルも収載されているそうです。
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#4138 多角形の内角の和:一般化と拡張 Dec. 4, 2019 [51. 数学のセンス]

 中3の生徒が多角形の内角の和に関する問題を読んでいて、しばらく考えているようなのでそばに行くと「さっぱりわからない」とぼやいた。(笑) どうすればいいのか悩んでいたのである。
  多角形の内角の和は2年生で習う。この生徒は1年生のところもわからないところがたくさんあるとつぶやいた。教科書や問題をもってきて遠慮しないで片っ端から質問したらいいのである。何をどのように質問したらいいのかわからないのだろう。たくさん質問しているうちに、質問のしかたのコツが呑み込めてくる、それも大事なことなのだ。あまりそばに行って頻繁に質問を拾うのは気をつけないといけない。自主性の芽を摘みかねない。わからないことをわからないと伝えるのは社会人になってからはとっても大事な能力なのである。
 どれどれ、どういう問題なのか見てみよう。問題は次のような形で出題されていた。

 n角形は( A )個の三角形に分けることができる。三角形の内角の和は180度だから、n角形の内角の和は( B )の式であらわせる。

 正六角形を黒板に書いて、頂点に左回りでABCDEFと記号を振っていき、頂点AとCを線でつなぐと1つ目の三角形ができる。次いでAとDをつなぎ、AとEをつないだら、もうそれ以上三角形はつくれないことがわかる。そこで何個の三角形ができたか質問する。数えるだけだからすぐに4と答えた。正解である。
 六角形⇒三角形4個
T:「では6をnとしたら、4はいくつと表せますか?」
  …
S:「n-2ですか?」
T:「正解ですね、では( A )の答えは?」
S:「n-2です、そういうことか」(笑顔)

 4つの三角形に分解したので、その三角形の内角それぞれに弧の記号をつけていく。全部つけ終わったところで、全体を眺めると、六角形の内角の和になっていることがわかる。
T:「三角形4個の内角の和は何度になりますか?三角形の内角の和は180度ですよ、計算してみてください」
 …
S:「180×4で、720度です」
T:「4=n-2でしたから、nを使って書いた式が( B )です」
S:「(n-2)×180度ですか?」
T:「はい、それが、多角形の内角の和の公式です」

 この生徒の場合は、独力で一般化ができないので、理解が深いところに届かず、問題の形が変わると、別の問題に見えてしまってできない。理解をさらに深めるために黒板に正方形を書きます。
T:「正方形の内角の和は何度ですか?」
S:「360度です」
T:「では、対角線を一本引きましょう。二つの三角形ができます、三角形ふたつの内角の和は何度?」
S:「180度×2=360度です」
 正方形の内部にできた三角形の内角に弧のマークを順位つけていきます。全部つけ終わると、正方形の内角の和になることが視覚的に了解できます。
 ついで、正五角形をの頂点Aから、CとDに対角線を引いて3つの三角形に分けて見せます。

 まとめです。それぞれの多角形とそれを三角形に分解したときの数を並べてみます。
 正方形⇒ (4,2)
 正五角形⇒ (5,3)
 正六角形⇒ (6,4)
 正七角形⇒ (7、5)
 正n角形⇒ (n、n-2)
 
S:「ああ、そういうことだったんだ、nの意味が分かった」
T:「そして、これは”正”をとっても同じです、長方形や平行四辺形やひし形で試してみましょう」

 ここまでやって、概念の一般化と拡張の操作が理解できる。こういうことを繰り返し体験させることで、概念の「一般化」や「拡張」に慣れてくる。自分で規則性を見つけて、一般式で表すことができるようになる。2割くらいこういう教え方をしないといけない生徒がいる。
 メタ認知能力とはちょっと違うように思う、たんに概念の一般化や拡張操作に慣れていないだけ。だから、こういう操作に習熟することで、理解が深まり学力が上がってくる。しかし、普通の生徒の5倍くらい手間はかかります。(笑)

 この生徒は夏休みの後で入塾してきた中3の生徒です。もうすぐ高校生になります。
 高校数学では座標平面上の内分と外分がベクトル座標上でも再定義されて出てきますが、それも「拡張操作」の一つです。2次関数が3次関数に拡張されます。指数関数の逆関数として対数関数が定義されます。逆関数という新し概念が出てきます。数列の一般項も「一般化」の典型的な例です。漸化式もいくつかのタイプに分けることができますから、これも一般化に入れていいでしょう。微分と積分が三角関数や指数関数、対数関数で定義されますが、これは拡張です。実数が拡張されて複素数が定義されますがこれも数の概念の拡張です。数の拡張にともなってデカルト座標が複素平面に拡張されるという風に、概念の「一般化」や「拡張」が随所に出てくるので、そうした「操作」に慣れておかないといけません。

 こうした操作が自然に身についてしまう生徒が1割くらいいます。そういう生徒は分野が変わっても、新しい分野の中に前に別の分野で習った事項が透けて見えてしまう。そういう生徒にとっては同じことを繰り返しているだけだから、簡単に理解できてしまいます。生徒一人一人にこの辺の能力にはたいへんな差があります。だから小さな塾では、個別指導で教えるのがベストなのです。





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#3841 化学のモルの計算-2 Oct. 19, 2018 [51. 数学のセンス]

 #3832「化学のモルの計算がわからないので教えて」という記事を書いた。たのまれたので問題を50題ほど解いて教えたところまで書いた。ようやく学校の授業がそのあたりに入ったようだが、モルの計算の解説を授業で聴いた1年生の生徒は少し不満顔。
 単位系の説明が計算過程でまったくなされなかった点に不満があったようだ。札幌で開催された河合塾の夏季合宿授業をうけたときには単位も計算式にいれて解説していたという。
「ebisu先生と同じ解説を河合塾の先生がしていたが、高校の先生は単位を計算式に入れないで説明していた、僕は予習していたからわかっていたけど、あれでわかる人いるのかな?」
「河合塾の先生やわたしの説明がことさらいいわけではなくて、当たり前の教え方だよ、受験参考書に載っているふつうのやりかた。単位換算や単位変換を計算式の中に入れずに説明したら難解になるから、根室高校1年生で理解できる生徒はいないと思うよ。君が危惧した通りだろう。」

(この生徒は小6の時から、「距離・時間・速度」の文章題の計算には、表を用いた便利な解法と単位をつけた立式で説明していたので、単位を含めた計算説明に慣れがあったとはいえる。それでも河合塾の夏季合宿の化学の講義だけではモルの概念と他の諸概念との関係や式の展開が呑み込めなかったようす。わたしがちょっとフォローしだけで呑み込めるのは、標準的な生徒よりも格段に理解力が大きい証拠である。だから数学も英語も教えすぎないよう、独力でで道を拓き正解へと辿りつけるように配慮することが多くなる。教えすぎると「ひ弱な学力」に育つ。7月進研模試で3科目総合偏差値が80を少し切ったレベルだから、全道一の進学校である札幌南高校へ編入しても成績上位グループの学力である。
 ニムオロ塾では個別指導をしているから、生徒の学力や学力の段階に応じた解説をする。だから、同じ質問があっても生徒の学力が異なれば説明のしかたも違ってくる。学力の低い生徒には初めの内は十分では足りないので十二分の解説をすることになる。(笑) 学力が伸びてくれば解説は次第に簡略になる、それで理解できるからだ。)

 「単位の換算」は時間を分や秒に換算するというような事柄を指し、「単位変換」は物質量と1モル当たりの分子量を掛けてモルへ変換することをいう。物質量、原子量や分子量、モル、アボガドロ数、体積、密度、溶質、溶液など関係する概念の定義と相互関係、そして計算操作に現れる単位換算や単位変換の仕組みを理解すればモルの役割はよくわかる。
 前回とりあげた「溶液のモル濃度る[mol/L]」を計算する具体例で説明してみる。

<チェック問題3>…p.64より
---------------------------------------------------
 グルコース(分子量180)18gを水に溶かして250mLとした水溶液のモル濃度[mol/L]を少数第2位まで求めよ。

(18g×1mol/180g)÷(250mL×1L/10^3mL)=0.40[mol/L]
---------------------------------------------------

 溶液のモル濃度の単位は[mol/L]で、「溶質÷溶液」が濃度計算の計算式。出発点は物質量の18gであるから、溶質が何molあるか計算するのと、次に溶液が何Lあるか計算しなければならない。これら二つの商が溶液のモル濃度[mol/L]である。

 最初の項は物質量をモルへ変換する操作であることは、単位だけを分離して計算するとすぐに了解できるだろう。「g*(1mol/g)=mol」となり部質量18gが「mol/分子量g」を媒介にしてmolという単位へ変換がなされている。
 第2の項は「mL*(1L/10cm^3)=L」であるから、mLをLへ単位換算したもの。
 これら二つの商で物質量[g]が溶液モル濃度[mol/L]へ単位変換されている。
 要するに、物質量gから出発して溶液のモル濃度mol/Lへ変換するだけの話だ、出発点と到達点を確認すれば、あとはどういう換算系や変換系を間に挟むかという話に還元できる。そういう診方をすれば、モルにかかわる計算で混乱することがなくなるだろう。
(単位換算と単位変換という用語は、モルの説明の便宜のためにebisuがつくりだしたもの)

以下は前回#3832からの引用
--------------------------------------------
<化学諸概念と単位換算系・単位変換系
のネットワーク構造>

 秒・分・時・日・年への時間単位換算に困難を感じる高校生は少ない、せいぜい1-2割である。これらはどれも時間という概念で括(くく)れるからだ。
 ところが、距離・時間・速さは三つの異なる概念がそれぞれ他の二つの概念の計算式で表すことができる。概念が三種類になっただけで、この分野が苦手という高校生は半数程度はいるだろう。
 そして化学では1mol=6.02×10^3個という関係をベースにして原子量や分子量、そして物質量、体積、物質の密度、溶質と溶液、化学反応式という具合に、6種類の概念のネットワークが形成され、相互に変換系が存在している。3つが6つになって相互関係が生じるから、構造はとっても複雑になる。
 ほとんどの高校生がmolのところで一度は躓(つまず)くのは無理のない話に思える。概念の関係を整理し、計算トレーニングを積んで克服してください。
  「学問に王道なし」
 わからなくなったら基本に戻って学習すれば理解できます。基礎基本トレーニングをないがしろにしないこと。
--------------------------------------------


<余談:53年前の化学の授業の思い出>
 ebisuは根室高校2年生の時に化学を習った、もう53年も前のことだ。独力で勉強して公認会計士になると中学生の時に決めて大学進学するつもりがなかったのに、なぜかハードカバーの400頁ほどの化学の参考書をもっており、それを読んでいた。公認会計士2次試験科目に「化学」はない。(笑) 独力で読み進めているとわからないところが出てくるので、化学の授業が終わってからS先生に質問した。しどろもどろで要領を得ない。翌週、またわからないことができたので、同じように質問した、やはり要領を得ない。質問するだけ無駄であると悟った。それで分厚い参考書を読破するのをやめた。このころには公認会計士2次試験参考書兼問題集で勉強を始めていたから、化学まで手が回らなくなっていた。自力で化学の勉強に没頭したら公認会計士2次試験受験勉強の時間が削(そ)がれる。当時の公認会計士2次試験は簿記論・会計学・原価計算論・商法・経済学・経営学・監査論の七科目、尋常な手段では独力で制覇できない。独学でチャレンジしはじめたので、化学に費やす時間をカットした。読んで理解した後の答案練習に時間がかかった。要点を箇条書にまとめ、それを手掛かりに答案を書くトレーニングをしていた。計算がはいるのは簿記論と原価計算論の一部だけで、「~について説明せよ」式の問題が多く時間がかかったから、好奇心の強かった分野の一つである化学を断念した。
 だから、生徒からモル計算を教えてほしいと頼まれたときに、53年ぶりにもう一度化学の本を開く気になった。「化学Ⅰ」の教科書と教科書準拠問題集「化学ⅠⅡ」そして学習参考書を2日間かけて読み、概念を整理し、計算の仕組みをながめ、実際に50題ほど解いたら、そうむずかしいものではないことがわかった。それでも変数が3項目の「距離・時間・速度」「食塩・食塩水・濃度、「合計・人数・平均」の計算問題に比べたら、変数が多いので複雑になっていることは間違いがない。概念の整理になれていない高校生がモルでつまずくのはよくわかる。

 10/17の道新に「道内教員「広き門」」という記事が載っていた。過去20年で最低倍率、小学校1.5倍、中学校3.3倍、高校3.5倍である。五科目500点満点の学力テストで、中学時代にたまにしか400点を超えられなかったレベルの生徒が、学校の先生になる時代が来ている。そういうレベルの先生には成績上位層の生徒は教えられないだろう。
 そして、学校の先生は生徒に勉強しろとは言うが、自ら教えている科目についての参考書や専門書を渉猟している先生は概して少ない。
 市販の問題集の解説を見ただけでも、教え方が上手になるから、すこし努力すればいいだけ。

 件(くだん)の化学先生はebisuたちが卒業してからほどなく別海高校へ転任され、クビになったという風聞を耳にした。それが事実であるかどうかはさだかではないが、「ああ、そうか」と思った卒業生は多かったのではないだろうか。人柄はやさしかったが、教師には向いていなかった。
 いい先生が二人いた。一人は1年生の時に英語を習った沢井先生、低音での音読がすばらしかった、文型の解説とそのトレーニングも徹底していた。英文の読み方がなんとなく理解できた気がした。ほどなく釧路高専の教授になったから、根室にいた期間は5年くらいだったのだろう、北大文学部英文科卒。もう一人は簿記と原価計算を教えてもらった白方先生である。なかなかスマートな授業だった。ebisuは公認会計士2次試験講座(中央経済社)で原価計算論の勉強をしていたから、白方先生の知識がどの程度かよくわかった。学力差の大きいクラスで数人の成績上位層にも下位層にも配慮した授業をされた。指導法をよく吟味されていたということ、千葉商科大学卒だった。優秀な先生というのは、教えている教科はもちろんのことそれ以外も好奇心をもって勉強している人ではないだろうか。白方先生は母校の北見北斗高校へ転任されて、50歳前後で退職されて独立起業されたと聞いている。めずらしいタイプの先生である。
 当時の根室高校でたくさんの授業を聴いたが二重丸が付けられるのはこのお二人だけ、けた外れにダメな先生は2-3倍はいただろう。身分が保障されていると怠惰になるのは人のサガのようだから、いちいち具体例を挙げるのは差し控える。ああ、余り差支えがなさそうな事例を一つだけ挙げたい。「会計」科目担当のY先生が定期テストで出題した問題が公認会計士二次試験講座にあったものと同じだったので、その模範解答通りに書いた。そうしたら半分減点された。理由を訊いたら、「おれが授業で説明したのと違う」ということだった。そういう事例は現代国語の頭の固い定年間際の先生でもあったから、あっさりあきらめた。バカは相手にしてもしようがないことをありがたく学ばせてもらった。Y先生はそのご、道内のどこかの高校の校長先生になられた。


*#3832 化学のモルの計算がわからないので教えて Oct. 10, 2018
https://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2018-10-09




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#3832 化学のモルの計算がわからないので教えて Oct. 10, 2018 [51. 数学のセンス]

 「化学基礎」という科目を高校1年生が履修している。Z会の問題を解いていてなにをやっているのかわかわからなくなったので、モルのところ教えてほしいと先週金曜日に要望があった。言うことが振るっている。
  「先生、化学は専門外だろうけどお願いします」
と殊勝なことをいうから、めんこくて無碍(むげ)に断れぬ。「専門外だから、化学の本を読まないといけない、月曜日ね」そう応じた。

 そこで土日に、東京書籍「化学Ⅰ」(平成14年検定済み)教科書の数章に目を通し、準拠問題集『ニューグローバル化学Ⅰ+Ⅱ』と市販問題集『化学Ⅰの点数が面白いほどとれる』のモルに関する数章の50題ほど実際に解いてみた。専門外だから、ちゃんとおさらいしました。(笑)
 モルは原子番号にも分子量にも物質量にも体積にも粒子数にもモル濃度にも、化学反応と熱にも、「1mol=6.02×10^23」というアボガドロ数を通じてつながっている、いわばハブのようなもの。関係する概念の種類が多いので複雑になるからむずかしいことがわかった、なるほど!だが一度理解してしまうと自由自在、それだけにこの概念が捕まえられないと計算を繰り返しなぞってやってみても大きな森の中をさまようことになる。そして突然叫ぶ、
  "Where am I?"
  "Who am I?

 「森からでられない?」「学力は高いのにモルが理解できない」ということにあいなった。
 教科書や準拠問題集の計算を実際にやってみて、解説に目を通したが、受験参考書が計算テクニックの点でずっと優れていた。実際に科学技術用のプロブラマブル計算機HP-35sを使って鉛筆片手に紙に書いてやってみたのであるが、これが結構楽しい。(笑)
 遅い授業時間帯に来た他の生徒に確認したら学校の授業はとっても遅れていて、まだ習っていないところだとわかった。
 月曜日に生徒が来たのでZ会の化学問題のわからないものをピックアップさせて概念の関係と計算の仕方を解説したら、「な~んだ、そういうことだったの」とにっこり。原子量や分子量がそのまま1モルのときの物質量であることが理解できていなかったのと、単位をつけてやる計算が関係が複雑になったので迷いが生じ混乱していた。
 「距離・時間・速度」や「食塩・食塩水・濃度」そして「得点合計・人数・平均」は計算操作という点では同一パターンの問題である、この生徒は小6と中1で単位をつけて計算練習を十分積んだのだが、モルでは関係する概念が倍になったので応用にまごついたのである。
 高校生の中には「3桁×3桁の掛け算」のできない生徒が少なからずいる。成績が上位の生徒の中にもいるから驚きだ。なぜかというと小学校でも中学校でもやっていないからだ。「2桁×2桁」まで、まれに「3桁×2桁」はやることがあるようだが、練習量が十分ではないということだろう。桁数を拡張しても計算の方法は同一だから、一桁増やしてもできると小中学校の先生たちは思っているのだろうが、実際はそうではない。同じ計算法なのに桁数を拡張できない生徒が少なからずいる、高校生に3桁×3桁の乗算をやらせてみたらわかる。珠算を習ったことのある生徒なら、桁数がどれだけ増えても問題なしだ。桁数が増えても操作が同じことを体(指)で覚えているからだろう。
 この生徒は成績がよくて呑み込みが早いから、隘路になっているところを押し流して広げてあげたらあとは自分でやれる。わたしの役割は堰を切って流れをよくしてやるだけ。

 計算については橋爪健作著『決定版センター試験・化学Ⅰの点数が面白いほどとれる』中継出版社の解説がとってもよいから、購入してトライするように伝えた。
 わかっただけではダメで、計算トレーニングをある程度こなすことで、諸概念のネットワーク全体を俯瞰できるようになる。
 ついでにいうと『資本論』を読んでも理解できない経済学者が多いのは、マルクスがこの本の中で展開している経済学的諸概念の関係を理解できていないからだ。経済学の基本諸概念の展開がユークリッド『原論』と類似の演繹的体系構成をもっている。ヘーゲル弁証法にとらわれてマルク氏自身が晩年まで気がついていなかった。ヘーゲル弁証法が使えない代物とわかってからマルクスは沈黙を守り続けて亡くなった。プルードンはヘーゲル弁証法が経済学体系の叙述に使えないことをわかっていたようだ。かれはヘーゲル弁証法と言わずに「系列の弁証法」と書いている。
 世間に流布している『資本論第3版』はエンゲルスの手になる編集で、マルクスそのそれではない。存命なのにマルクスが沈黙したまま亡くなったので、死後にエンゲルスが遺稿をかき集めて編集したのである。『共産党宣言』以後、共産主義は世界中に広がりつつあった、その現実を前にしてどうしてよいのかわからなくなったのだ。まさか、いまさら間違いだったとは言えぬから、沈黙し続けた。それまで積み上げたものが足元から崩れ去ったのだから学者としては気の毒な晩年であった。次の叫びは晩年のマルクスの心の叫びでもある。
  "Where am I?"

 参考に問題例を一つお目にかける。
<チェック問題3>…p.64より
---------------------------------------------------
 グルコース(分子量180)18gを水に溶かして250mLとした水溶液のモル濃度[mol/L]を少数第2位まで求めよ。

(18g×1mol/180g)÷(250mL×1L/10^3mL)=0.40[mol/L]
---------------------------------------------------

 実際の表記は分子と分母に分けて書いてあり、単位を約分して消していくと、答えの単位[mol/L]になる。求める答えの単位になるように、分子分母の単位を選んでやればいいのである。
 最初の( )内はグルコース18gが何molになるか換算計算している。時間を分や秒に換算するのと同じである。gとgが分子と分母になっているので消え、molが残る。次の( )内のはmLをLに換算しているだけの式、分子と分母のmLが約分されて消えてLが残る。
 mLをLに換算するときは「1L/10^3mL」を掛ければいい、逆にLをmLに換算するときはひっくり返して「10^3mL/1L」を掛けたらいいのである。時間を分に、分を時間に、あるいは時間を分に換算するのと同じ操作に過ぎない。単位をつけて計算しているだけ、中身は簡単な話であるのだが、molとかアボガドロ数という新しい概念が導入されると、何か特別なことをやっているような気分になってしまい、迷路に踏み込むことになる。
 最初の括弧で残ったmolが分子、2番目の括弧で残った単位のLが分母である。モル濃度の単位はmolをLで除した[mol/L]であるから、これで計算終了。

 この生徒は、距離・時間・速度の問題や食塩水(食塩・食塩水・濃度)の問題を中学生の時にほぼ完ぺきにマスターしたので化学の計算も問題ないだろうと思っていた。計算操作は同じだが、概念の関係が複雑なだけ。概念の関係が複雑になると、普段できているレベルの計算が道に迷ったようになることがわかった。でも、もうだいじょうぶ。


 面白いのでしばらくの間、教科書準拠用問題集『化学Ⅰ+Ⅱ』と『化学Ⅰ』の両方を解いてみることにする。


<化学諸概念と単位換算系・単位変換系のネットワーク構造>

 秒・分・時・日・年への時間単位換算に困難を感じる高校生は少ない、せいぜい1-2割である。これらはどれも時間という概念で括(くく)れるからだ。
 ところが、距離・時間・速さは三つの異なる概念がそれぞれ他の二つの概念の計算式で表すことができる。概念が三種類になっただけで、この分野が苦手という高校生は半数程度はいるだろう。
 そして化学では1mol=6.02×10^3個という関係をベースにして原子量や分子量、そして物質量、体積、物質の密度、溶質と溶液、化学反応式という具合に、6種類の概念のネットワークが形成され、相互に変換系が存在している。3つが6つになって相互関係が生じるから、構造はとっても複雑になる。
 ほとんどの高校生がmolのところで一度は躓(つまず)くのは無理のない話に思える。概念の関係を整理し、計算トレーニングを積んで克服してください。
  「学問に王道なし」
 わからなくなったら基本に戻って学習すれば理解できます。基礎基本トレーニングをないがしろにしないこと。

<ebisの専門分野:学問と仕事の2分野に分けてみた>
 ebisuの専門分野をおさらいしてみると、大学院での専攻は経済学、それも経済学の体系構成という特殊な分野である。学部は商学部会計学科で簿記と会計学と原価計算が専門、これらは根室高校商業科の時代から「専門家」になるべく公認会計士2次試験参考書・問題集で独学で勉強した延長線上の分野、ほとんど高校時代の蓄積で用が足り、大学で付け加えたものはほとんどなかった。この分野で面白かった講義は茂木虎雄先生の『近代会計学成立史論』だけだった。記憶があやふやなところがあるが、大福帳が複式簿記の帳簿で、戦国時代に宣教師を通じて入ってきて、豪商がそれを理解して商売に利用した。当時の日本人の計算力はダントツに世界一、だからこそ日本で複式簿記が普及しえた。当時は斬新な研究だった。数冊この分野の本を読んでいるので、記憶が混ざっているかもしれない。しかし、会計学が単なる実務技術として公認会計士受験勉強科目にとどまるものではなく、学問として成立していることを知った。こちらへ進む選択肢もあったが、好奇心から経済学を選んだ。
 商学部に居ながら『資本論』や『経済学批判要綱』を読み漁って「学問の体系構成研究」に没頭した。面白かったのである。公認会計士2次試験程度のお受験勉強には学部1年生の中ころに興味をなくしていた。経済学の体系構成という研究テーマは学部で片が付くほど軽いものではなかったので、商学部会計学科から大学院経済学研究科へ進学することになった。異例のコースであるが、好奇心がそうさせるのだからしかたがない。

 仕事では経営分析と経営管理、経理財務、企業買収、経営そのもの(赤字企業の黒字化)、コンピュータシステム開発、2種類の産学共同研究プロジェクトの企画及びマネジメント。ひとつは臨床病理検査項目コードに関する臨床病理学会項目コード委員会と大手六社の共同研究で、数年かかって出来上がった「臨床検査項目コード」は日本標準となった。現在も全国の病院で使われている。コンピュータシステムの内部コードとして使用されている。もうひとつは出生前診断トリプルマーカ基準値(MoM値)に関するプロジェクトで、数年前までデファクトスタンダードであった。新しい検査法が開発されて、そちらへ変更された。

 話が前後するが、臨床検査センターであるSRLへ転職する前に、産業用エレクトロニクス専門輸入商社に1978年から84年1月まで勤務していた。そこでは取扱商品の主力であったマイクロ波計測器を中心に測定原理の勉強はした。営業マンは全員が理系大学出身あるいは国立高専出身者だったが、彼らや技術部の専門家たちに交じって社内勉強会や海外メーカのエンジニアによる新製品説明会に欠かさず6年間出席した。海外メーカのエンジニアによる新商品説明会はもちろん英語でなされるから、英語だけでなくて、測定原理や機器制御用コンピュータ、データ処理とインターフェイス等について周辺知識がなければ理解できない。最初の内は1割程度の理解だったが、制御とデータ処理に使われていたのがHP社のコンピュータだったから理解が楽だった。そこを中心に理解を広げていった。ディテクターの周波数が異なるだけで、構成がほとんど一緒であることに気がつくと、理解は一気に進んだ。しかし、「門前の小僧習わぬ経を読む」の類であるから、この分野に関しては専門家とはとても言えぬ。知らないことを学ぶのが楽しかっただけ。
 欧米50社のメーカの総代理店だったから、世界最先端のさまざまな理化学計測器については、実際のところ制御用コンピュータを中心にいくらか理解していたという程度である。自分の手で機械をいじったことはないので気持ちが悪かった、ハードウェアを自分の手でいじらないとわかった気にはなれない。優秀な技術屋さんが二人いたので、彼らの仕事を観察させてもらった。5プロジェクトで忙しかったので、残業が続くと、息抜きに技術屋さんの作業をみせてもらった。そういうわけでハードウェアのほう経験はなかったが、ソフトウェアは3種類のタイプのコンピュータ言語をマスターした。対象業務の異なるシステムを三つ開発し、それらの統合システムの外部設計をしたたことはあった。システム開発はソフトハウスの腕のよいSEと組んで経験した。オービックと日本電気のソフト会社のSEである。オービックのS沢SEは腕がよかった、その後開発担当役員になった。日本電気のソフトハウスのT島SEは関社長が、統合システム開発をするのでナンバーワンSEに担当させることという条件を付けて、NECの小型汎用機を導入した経緯があった。わたしは外部設計と実務設計を担当したが、一緒に仕事することでかれら2名のSEから技術を吸収できた。仕事運がよかった。
 業種の異なる会社へ転職する都度、取扱商品については勉強させてもらったから、これもありがたかった。
 1984年2月から16年間勤務した国内最大手の臨床検査センターの開発部門では大学医学部や臨床病理学会ドクターとの産学共同研究や製薬メーカと検査試薬の共同開発もしたことはあるが、たしかに化学は専門外。
 学術開発本部で仕事していた時は、直属の上司で取締役のI神さんが、青山学院大学で有機化学を教えていたことのある専門家だった。ラジオアイソトープに関する学会の宿泊研修に行けなくなったので代理出席しろと前日突然に上司のI神さんから依頼されたことがあったが、あれだけは苦痛だった。開発部課長のF波さんは京大理工学部出身だからかれに指示すればいいのに、わたしへお鉢が回された。たぶんF波さんも理系ではあっても放射線医学は専門外だったのだろう。この学会セミナーには20名くらいのワークショップがあった。I神さん、わたしには何でもやれると誤解して様々なタイプの仕事を次々に回してきた、学術開発本部の三部門である学術情報部、開発部、精度保証部、それぞれの仕事で問題のあるものばかり担当させてくれた。仕事を指示するのに大胆な上司であったが、幸いにご要望にはもれなく応え解決した。しかし、化学分野は例外だった、この分野はI神さんのテリトリーで、青山学院大で有機化学を教えていた人の学会セミナー代理出席は荷が重かった。(笑)
 高校生に教えている数学も英語も専門外といえば「専門外」である。数学科や英文学科出身ではないのである。化学に関する学部も大学院も出ていないのだから、そういう意味ではまったくの「専門外」、生徒の言う通りである。(笑)



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決定版 センター試験 化学Ⅰの点数が面白いほどとれる本

決定版 センター試験 化学Ⅰの点数が面白いほどとれる本

  • 作者: 橋爪 健作
  • 出版社/メーカー: 中経出版
  • 発売日: 2011/07/09
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
<HP35s>
 計算式を紙に書いてから、この科学技術用計算機を使って計算すると便利です。amazonで12620円(日本語マニュアル付き)です。ずいぶん安くなりました。
 この元になっているプログラマブル計算機HP-67は1978年に11万円、プリンター付きのHP-97は22万円もしました。産業用エレクトロニクス輸入商社に就職した時に、経営分析や利益管理、収益構造変革のために統計計算が必要で両方の計算機を使っていました。入社して1か月目に、社長の関周さんが米国出張の折に買ってきて、プレゼントしてくれました。会社の命運を左右する財務構造と収益構造変革を目的とした5つのプロジェクトを抱えて忙しかったからです。役員と部長クラスの5プロジェクトで、仕事は全部わたしがやり、メンバーはその分析と提案を聴いて、委員会として実行に移す。自分で経営改革案を提案して、やるのも自分ですから、仕事を省力化するためにコンピュータを使わざるを得ません。電卓で統計計算していたのでは埒があきませんでした、それを見ていた社長の関さんは2か月後にはプリンタ付きの高級機を買ってきてくれました。朝8時半ころには出社していますが、机の上に載っていました。向かいに座っている社長秘書のH金さんに訊いたら、「社長が米国出張から戻ってebisuさんにと置いて行きました」、うれしかった。プログラミングのできる科学技術計算機はHP社とTI社(テキサスインスツルメント社)しかなかった。HP社は取扱マニュアル(英文)が断然すぐれていました。2冊あり800頁を超えていました。パソコンがまだおもちゃだった時代です。業務を省力化するために次々にシステム開発を行い、オフコン、汎用小型機を使いました。パソコンが仕事でつかえるような代物になるのは1980年代半ば過ぎ、EXCELが使えるようになるのは1990年ころのことでした。
 SRLへ1984年に転職したときには、統合システム開発のために、当時国内最大の規模の大型汎用コンピュータを使うことになりました。
 スタートがHP-67で経営分析のために作ったプログラミングでした。高校生は数学や化学、物理学を学ぶときに使ってみたらいい。米国では大学入試に持ち込みが許可されています。もちろん、高校数学の教科書もこれらの計算機を使うことを前提に書かれています。



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#3573 未知の定理の予想と数学の感覚 Aug. 3, 2017 [51. 数学のセンス]

  午前7時の気温は12.5度、寒い、床暖房をいれた。今朝は根室が日本で一番寒かったのではないか。

  前回#3572の記事で、高校2年生から質問のあった夏休み宿題問題を紹介した。目を通していただけたら、話の全体が見渡しやすい。問題のみ採録しておきます。

  三角形の各辺の中点座標がそれぞれ (-1, -1)  (0, 1) (2, -2) であるとき、元の三角形の頂点の座標を求めよ。

  この問題が作図によって1分で解けることはすでに解説した。作図によって解くときに、ある予想を立てていることに気がついた人がいるのではないか。
  それは、「三角形の中点座標が格子点(xy座標がともに整数)であれば、元の三角形の頂点も格子点となる」という定理が存在するのではないかという予想である。この予想が真なら、平行定規を使ってメモリ1cmで作図をすれば各頂点が格子点となって求められるはず、実際に作図するとたしかにそうなっていた。
  証明は簡単である。三角形ABCの辺の中点をそれぞれLMNとすると、△ALNを辺AB上にスライドさせ、頂点Aを点Lに重ねると△ALNと△LBMは合同になる。LとMは格子点だからBも格子点となる。Cについても同じことが言える。以上から△ALNの頂点も格子点であることは明らか。図形の移動だけでこの定理の成り立つことが確認できる。

  こういう操作を頭の中でやるトレーニングは数学の学力を伸ばすうえで重要に思える。いつでもどこでも、暇なときに頭の中から数学の問題を取り出して図形イメージを操作できる。図形を頭の中で操作するのは、普段のトレーニングでしだいに可能になる。
  個人的な事情を説明しておきたい。家業がビリヤード店だったので幼稚園のころから夢中になってやっていた。夢中になるから、興奮して寝るときに頭の中にビリヤード台と赤と白のボールが出てきて、脳の創り出したイメージでゲームができるようになる。大人だって熱中しやすい人はそうなるから、わたしが特別だったわけではない。ご飯を食べながら無意識にレストを作り箸を指の間に通して茶碗を突っついてひっくり返してしまったという大人は何人かいた。人は似たようなことをやるものだ。頭の中でビリヤードをすることでそういう脳内のイメージ操作を小学生の時には身に着けてしまっていた。新しい技も頭の中でシミュレーションして、それを実際にビリヤード台で試してみる、そういう作業を無限に繰り返していた。脳内のイメージ通りに動かすには、あくなき工夫と試行が必要で、なかなかむずかしい。
  遊びへの熱中は、集中力を上げることで脳の発達を強力に促す効果があるようで、「よく遊びよく学べ」という俚諺(りげん:民間で言い習わされていることわざ)は真理を説いている。ここでも順序が大切で、よく遊ばない人はよく学べない。小寺さんがバドの指導の学力への効果を説いておられるが、その通りだと思う。

*小寺さんのブログのURL
(探せばバドについての記事が何本か見つかります。弊ブログのコメント欄でも何度かバドクラブいついて投稿してくれていますから、そちらを検索してもでてきます。
)
http://blog.goo.ne.jp/tsuguo-kodera?fm=rss

  個別指導では、生徒がどのような問題集や参考書のどこ、あるいは学校でもらったプリントのどの問題をやっているかわからない。何をもってきてもよいし、わからない問題があれば随時質問してよい、予習してきてわからないところの質問もよい、そういうルールになっている。生徒たちは自分の学力に応じた難易度の問題集を使っている。できる生徒もいるし、数学や英語がとっても苦手の生徒もいるから、同じ教材を使えない。
(部活の遠征や病気で欠席した場合には、個別に学校の授業の補講もやる。時間は学校の1/5以下で済む。予習中心で学習している生徒は既習だから、学校を休んだ場合でも問題が生じない。昨年は剥離骨折で札幌の病院で手術して3週間ほど休んだ生徒が、「予習方式で数学の勉強していてよかった」と言っていた。塾で既習だったから不安がなかったとうれしそうな顔。)

  数学の問題を解くには、どういうアプローチの仕方をするのか、質問をとりあげて実演できるところが個別指導の利点である。複数のアプローチのしかた、二つか三つに絞って考え比較してみる。こういうことは生徒が座礁してしまった問題をとりあげてやってみせるのが一番よい。なぜ座礁してしまったのか、乗り上げてしまった岩礁から船を切り離すにはどうしたらいいのか、その方法の実際をライブ授業で確認していく。
  中点連結定理から格子点に関する派生定理の成立を予想したが、質問をするたびにそういう予想派生一般化が数学的思考の土台をなしていることに生徒たちは徐々に気が付き始める。個別指導での数学の授業はそうした数学的思考や試行トレーニングを兼ねている。生徒たちの知的好奇心をくすぐり、数学的思考を体験として刷り込むためだ。

 「これを知る者はこれを好む者に如かず、これを好む者はこれを楽しむ者に如かず」(『論語』)

  そういう境地へ生徒をいざなう授業が10回に一度でもできたら幸いである。こういう個別指導授業は1クラス10人ぐらいがわたしの体力の限界だ。実際には余裕をもたせて1クラス7人以下にしている。

*#3572 幾何:この問題を 1分で解くにはどうすればいい? Aug. 2, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-08-02-1

 
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#3521 数学のセンス(7):他科目(英語)への拡張 Mar. 12, 2017 [51. 数学のセンス]

 思い込みが生じると正解への経路が閉ざされることがあり、そういう場面では「思い込み」をリセットしなければならない。そのやりかたを解説してきたが、同じことは英語の問題でも生じるので、具体例を挙げて説明する。数学で培った技が英語へ応用が利くのである。

 平成15年ころのものではないかと思うが、生徒がやっていた道立高校入試の過去問である。
----------------------------------------
問題5:北海道の高校で、農業をテーマにパネルディスカッション。Mr.Kingが司会、未来、宅、陸の3名が発表した内容です。

Mr. King: Now let's talk about "agriculture," one of the import industries of Hokkaido. What can we do to develop agriculture in Hokkaido? What do you think, Mirai?
Mirai: I think famers in Hokkaido should try to produce delicious products. My parents are farmers. We raise a cows and produce milk. Sometimes tourists visit us and drink our milk. They ofte say, "Wow, delicious! The milk I drink (different / are / and / every day / likes / this milk / very. )"
This always makes me happy but I didn't know why our milk was so special. I didn't know why our milk was so special. I asked my father about it. He answered, "Because the cool climate in Hokkaido is very good for raising cows. Cows eat a lot when it's cool. This makes milk delicdious."
----------------------------------------

 問題は青字の部分を並び替えろというものだ。わたしは「The milk I drink」が主語だと早とちりしてしまったから、動詞は三人称単数現在形のlikesしか選択肢がない。

 The milk I drink likes ...

  日本語では「牛乳が好きだ」とはいうが、そういう意味なら「I like milk」だからlikesを選択肢から外さざるを得ない。そこで、「The milk I drink=主語」から焦点を外してみる。likesがつかえないとなるとつかえる動詞はareだけである。「The milk I drink every day」は単数だから「are」は動詞の選択肢となりえない。隘路に行き着いたときは絞り込んだ焦点をぼかしてみる。気をそらすために後の方の文を読んでみたら、前後関係から文意とシーンに推察がついた、後は簡単だった。
 主語が二つだったのである。「the milk」と 「this milk」が主語、実に単純な文だった。
   A and B are different.
  Aの部分が関係節を伴っており、複文である。目的格の関係代名詞は消去変形が働く。修飾関係を[]で括ると次のようになる。

   The milk [I drink every day] and this milk are different.

 こんな簡単な問題でも、主語が単数であると思い込むと、正解経路から外れてしまうから、思い込みをリセットする必要があることは数学と同じだ。並行して文脈読みするところは日本語の文の読解と同じ。
  数学のセンスで採りあげた、「思い込みのリセット」が英語問題でもつかえることがわかる。少ないスキルで分野の異なる問題が解けたら便利この上ないから、汎用性の高いスキルをドントンためて、使って、磨こう。数学の分野で培ったスキルを他の科目へ拡張してみるとよい。使える科目と使えない科目があるから、試してみないとその限界がわからない。技の適用限界を知るためにも「拡張」は必要だ。

 さて、次回は7回書いた数学のセンスとその周辺にあるものをまとめてみるが、数学のセンスの正体が見えるだろうか?

   帰納的分析⇒総合
   
 これも数学的思考法だから、こういうことを通して数学のセンスを磨こう。


< 余談:失敗談 >
 日本語の文をたくさん読んでいる生徒ほど、文意の把握が早いことは当たり前、そのスキルが英語にも応用が利く。
 英語が大嫌いな生徒がいた。教科書はつまらないから嫌だと言い、本棚においてあった Gone with the Wind (1448ページの大著)をやりたいというのでやってみたが長続きしなかった。文学作品はむずかしいから小説がいいと今度はDarren Shan 'Vampaire Blood'を読みたいというので付き合ったがこれも十数ページでダウン。50ページ我慢してくれたら、ずいぶん読むのが楽になるのだがその手前で2度あえなく白旗。一冊読み通したら英語の力は格段につくのにもったいない。彼女の本棚にはいまも2冊英語の小説が並んでいるのだろう。いつか読むことになる、それでいい。
 勉強しないから定期テストの点数は悪いが、全国模試の英語は妙に点数が良くて、根室高校普通科で学年十番台のことが何度もあった。点数が取れるから、「わたし模試は点数いいから」と余計に勉強しなくなる。ニコニコして、これ読みたいというのだが、思い通りに行かないフラジャイル(取り扱い要注意)な生徒だった。本棚からいろんなジャンルの本を引引っ張り出しては「先生、これ貸して」と哲学からグリム童話まで読んでいた。東野圭吾はこの生徒が読んだものを次々にわたしに「これ面白かったから、先生も読んだら」と貸してくれた。
 小説が好きで、たくさん読んでいるから、日本語だとやたら読書スピードが大きい。この生徒は英語の長文問題の文意を知っている単語をつなぐだけでなんとなく正確に読めてしまう。文法語法問題はからっきしダメ、長文が得意、英語のベースは日本語だということがよくわかる事例だった。

< 余談-2:成功談 短期間での飛躍的な学力アップ >
 昨年12月に入塾した中1の生徒がいる。英語がわからなくなって点数が回を追うごとに下がったので何とかしたくて来たようだ。教科書を読ませたらまるで英語になっていないので、毎週1回90分、音読を中心に英語の補習授業を組んだ。3ヶ月やって前回の定期テストに比べて53点アップ、年度末テストは数学だけまだ返却されていないが試験の直前に『シリウス』の平面図形と空間図形の複合問題で8割の正解だったから90点は楽に超えただろう。五科目合計点は2学期期末テストに比べて130点前後アップしているようだ。苦手だった社会科の点数も飛躍的にアップしている。英語と数学の勉強を通じて、勉強の仕方がわかったようだ。いきなり学年3番以内に躍り出る。部活をやっている生徒である。文武両道。
 中学生にはこういうふうに短期間で劇的に点数をアップさせる者がいるから、学年トップはいつでも交代しうる。個別指導は相手を観察しながら、教え方を変えていくから、たまにこういうことが起きる。生徒の潜在能力が高かったのだろう。4月からは2年生だ、次の目標は学年トップ。ここまで点数が上がれば楽しいし、実績は自信を生み、根拠のある自信は大きな成果を生むものだ。


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#3520 数学のセンス(6):思い込みのリセット Mar. 10, 2017 [51. 数学のセンス]

 数学の問題を解くときに、書いてある条件の一つでも読み落としたら正解への道が閉ざされるから、問題文の読解には細心の注意が必要である。文を「読む」スキルが身についていないとアウトである。数学の問題を解くには「読み・書き・計算」の内、「計算」スキルと「読み」のスキルの二つが要求される。読みには汎用の読解スキルと数学問題文固有の読解スキルがある。数学の語彙とその使い方には慣用的なものがあるから、慣れる必要はあるだろう。完全に読めたとして次のハードルは「思い込み」と「思い込みのリセット」である。誰でもよくやることだから、具体例を挙げて2回にわたって説明したい。1回目は数学の問題で、2回目は英語の問題(道立高校入試過去問)をとりあげる。一つの科目で習得した技は他の科目にも応用が利くものがあるから、利用しない手はない。「技」を使うシーンの拡張である。数学がよくできれば、そこで培った技は英語へも応用できるものがあるということ。少ない技で異なる教科の問題を効率よく解く生徒は英語も数学もよくできる。

 チャート式問題集の『青チャート』をやっていた1年生から質問が出た。問題には図がついていたが、問題文を読み描いてみてほしい。
------------------------------------------------
 △ABCがある。辺AB上に点Dをとり、辺AC上に点Eをとる。Eから辺DCに平行な線を引き、辺ACとの交点をGとする。点DからBEに平行な線を引き、辺ACとの交点をFとするとき、GF//BCであることを証明せよ。
------------------------------------------------

 図を描いてみるとわかるが、2組の平行線が交わり、三角形内部に平行四辺形ができる。だから平行四辺形の性質を利用して証明できるのかなと考えて、正解手順を組み立てる。
 平行であることを証明するには、①錯角あるいは同位角が等しい、②同側内角の和が180度になることを示せばよい。

 5分間考えたが最後のところで、平行であることを前提にしないと錯角が等しいといえない、アウトであった。こういうときはリセットが大事だ。「他の証明法は何があるか?」、頭の中をサーチしてみると、平行であることを証明するには三角形の相似条件からもやれそうだ。△ABCと△AGFの相似を証明できれば∠B=∠Gから、同位角が等しいので平行だと証明できる。
 中学数学では辺の比で相似を証明するときには、必ず辺の長さが条件で示されているから、質問した生徒は辺の長さが問題文の条件にないので、辺の比で相似を証明できるという選択肢が思い浮かばなかったようだ。初めてのパターン、「初見」であった。
 中学2年のときに平行線で辺の比の計算問題をたくさんやっているから気がついてもいいのだが、問題にはすべて辺の長さが記載されていた。長さが記載されていないと辺の比が求められないという「思い込み」が生じていた。

 あるラインを手繰って攻めていって問題が解けないときは、いままでの線を捨てて、視点を変えて虚心に問題文を見る必要がある。頭の中からいまトライした方法を追い出すのはなかなか厄介である。ある箇所に集中していた意識を分散させる。目が三角形の中の平行四辺形にどうしてもいってしまうが、視点を切り替えるためにそれを消す。意識の焦点を特定のところに当てないのである。全焦点で「見る」。座禅の瞑想トレーニングでそういう脳の使い方をトレーニングできる。慣れたら歩いていてもできるようになる。呼吸に意識を置けばいい。数回ゆっくり丹田呼吸をして脳をリラックスさせる。
 意識を切り替えて、焦点を絞らないことが数学のセンスの一つなのかどうかはわからないが、問題を解くセンスに関係はある。センスというよりも一つの技と言った方が当を得ている。複数で議論するときでも、こういう思考法は案外威力を発揮する。

< 正解 >
DC//GEより、
 AG/AD=AE/AC ・・・①
BE//GEより、
 AD/AB=AF/AE ・・・②
①と②の辺々をかけて整理すると
 AG/AB=AF/AC
△ABCと△AGFの辺の比が等しいので、
 △ABC∽△AGF
よって、対応する∠B=∠G、
 同位角が等しいので、
  BC//GF


 こんな簡単な問題でも、視点があるところに固定してしまうと、容易にリセットできず時間切れとなる。数学の問題は正解があることがあらかじめ前提されているから、正解手順を絞り込むのはそうむずかしいことではない。社会人となったときに、複雑な仕事にぶつかったときには正解手順があるかどうかすら定かではない。そういう問題に比べると、正解手順が受験数学は単純なのである。だから、いくら受験数学ができても、仕事ができる保障にはならない。
 仕事では別な能力が試される。基礎学力*、文書力、企画力、遂行力、複数分野の専門知識と経験値、統率力、コミュニケーション能力、調整力等、それはそれでまた別なシリーズが書けそうだ。

*仕事に関する「基礎学力」とは「仕事で必要な専門書を独力で読むことができる程度の学力」と定義したい。

*#3507 数学のセンス(1):数字に表れる美への感動がセンスを育てる Feb. 16, 2017 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-15-1

 #3509 数学のセンス(2):「同型性」と「拡張」⇒どのように考えるのか Feb. 19, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-19

 #3511 数学のセンス(3):授業時間数減少、数量、平面図形 Feb. 24, 2017 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-23

 #3512 数学のセンス(4):空間図形 イメージ操作 Feb. 26, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-02-26

 #3514 数学のセンス(5):空間図形と論理的思考 Mar. 2, 2017
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2017-03-02

 #3514 数学のセンス(5):空間図形と論理的思考 Mar. 2, 2017
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