#3234 2月8日は日露戦争開戦の日 Feb.11, 2016 [44. 本を読む]
1904年(明治37年)2月8日は日本とロシア帝国が戦争に突入した歴史的な記念日です。これが世界史上画期的な出来事であったことを、中学校の歴史科目でも、高校の日本史でも教えていません。有色人種の国が白人の帝国に戦争で初めて勝利したのです。この戦に勝利できなければ、いまでもアジアのすべての国が白人帝国の植民地だったでしょう。すべての戦争が悪ではない、子孫のためにそしてアジアの同胞のために戦わねばならない戦争もありました。
ナポレオン軍ですら、ロシア帝国へ侵攻すれども敗れています。
下瀬火薬と秋山好古の機関銃を装備した騎兵の運用という発明があっての勝利でした。
渡部昇一『日本、そして日本人の「夢」と矜持』がその辺りを鮮やかに解説しているので紹介します。
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日露戦争がなかったら、あるいは日露戦争に日本が負けていたならば、この白人優位の世界史のながれはずっと変わらず、二十一世紀を迎えようとしている今日でも、世界中は植民地と人種差別に満ちていたであろうということには、毫毛の疑いもない。
ところが、日露戦争で日本が勝ったために、コロンブス以来四百年ぶりに、世界の歴史の大きな流れが変わったのである。つまり、有色人種が白人のいいなりになりつづけるという時代に終止符が打たれた。それを日本が満天下に示したのである。
そして、時間が経てば経つほど、誰の目にも日露戦争の世界史的意義は大きくなってくるのである。再び繰り返すが、ここ500年間の世界史の事件で、コロンブスの新大陸発見に匹敵する大事件は、日露戦争における日本の勝利しかない。 132ページ
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*下瀬火薬 ウィキペディアより
https://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%B8%8B%E7%80%AC%E7%81%AB%E8%96%AC
「ピクリン酸は1771年にドイツで染料として発明され、その100年後に爆発性が発見された。猛烈な爆薬であるが、同時に消毒液としての効果もある。 しかしピクリン酸は容易に金属と化学結合して変化してしまう為、鋭敏な化合物を維持する点で実用上の困難があった。下瀬雅充は弾体内壁に漆を塗り、さらに内壁とピクリン酸の間にワックスを注入してこの問題を解決した[1]。なお、日本海軍規格の下瀬火薬/下瀬爆薬は、ほぼ純粋なピクリン酸である[2][3]。 爆薬として用いた場合の爆速は7,800m/s。」
「日本海軍は1893年にこの火薬を採用し、下瀬火薬と名付け(後に下瀬爆薬と改称)、炸薬として砲弾、魚雷、機雷、爆雷に用いた。これは日清戦争(1894年-1895年)には間に合わなかったが、日露戦争(1904年-1905年)で大いに活躍した。海軍はただでさえ威力の大きな下瀬火薬を多量に砲弾に詰め、また鋭敏な信管(伊集院信管)を用いて榴弾として用いた。敵艦の防御甲鈑を貫通する能力は不十分だったが、破壊力の高さと化学反応性(焼夷性)の高さから、非装甲部と乗組員に大きな被害を与えた。[4]明治38年(1905年)5月27日の日本海海戦でロシアのバルチック艦隊を粉砕した一因は下瀬火薬である。」
*秋山好古
http://www.sakanouenokumo.com/yosihuru.htm
司馬遼太郎の『坂の上の雲』の登場人物である。正岡子規や夏目漱石と同時代人。
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#3105 『ソードアートオンライン16』:アリシゼーション・エクスプローディング Aug.16, 2015 [44. 本を読む]
〈更新情報〉
8/16朝9:00 1/4ほど追記
太平洋上に浮かぶオーシャン・タートルは自衛隊がアリシゼーション計画を進めるための移動型秘密研究施設であるが、そこはいま米軍の奇襲攻撃を受けている。
桐ヶ谷和人(アバターでは「キリト」)は現実世界で毒針を刺されて意識不明の重態に陥っており、意識回復治療のためにオーシャン・タートル内の医療用メデキュボイド*(注-1)でアンダーワールドへ接続されている。
アンダーワールド内の時間は現実世界の1/1000の超高速で駆動しており、いまダーク・テリトリーと人界の大戦が生じている。その中でキリトは体が動かせず、意識もはっきりしない、まるで重症のALS患者のような生活をロニエとティーゼが献身的に支えてくれている。アンダーワールドのキリトが死ねば、キリトのフラクト・ライトが消滅する、それは現実世界のキリトの死でもある。なんとしてもキリトを守らなければならないから、アスナは米軍の奇襲があり、メインコンソールを奪われた状況下で、船内の別室のサブコンソールからアドミニストレータ権限でのダイブを敢行する。著者は恋に狂う女の姿を初めてSAO物語の中で描いた。真正人工知能のアリスもともに戦ってきたキリトに恋し自分のものだと譲らない。ロニエもキリトに危ういところを助けられて強い恋心を抱いて、実際にお世話してきたという自負もある。剣の指導教官であった年上の女剣士も・・・、なにやらキリト争奪戦という恋の大戦争が始まったようだ。
ダーク・テリトリーからの攻撃に対しては整合騎士20名と衛士長や衛士が防いでいるが、数が少なく劣勢である。アリスと騎士長ベルクーリが全体を総てよく戦っている。
キリトが危機に陥ったときに、突然空からステイシア神が現れ台地が裂ける。キリトのフラクト・ライトを消滅の危機から救うために結城明日菜(アバター名「アスナ」)がアドミニストレータ権限でダイブしてアンダーワールドに現れた。ダークテリトリーには現実世界からガブリエルが暗黒神ベウターとしてすでに降臨しており、これで人界軍とダークテリトリー軍との戦力バランスが回復した。しかし、双方に強力な戦力が出現すれば双方のダメージがさらに破壊的なものになる。戦争は絶えずエスカレーションし、犠牲を拡大しながら、いずれかが勝つ。
わたしたちが住む現実世界では、ドローンやさまざまなタイプのロボットの開発が急速に進み、戦場に投入されてその絶大な効果のほどが確認されつつある。弾の届かない地球の裏側の安全な制御室にいてコンソールを前にしてゲームを楽しむかのような意識でコントローラを操作して戦争がなされている。人工知能の開発が進めばそうした基地(制御室)すら要らなくなる。ターゲットに関する情報を入力するだけで、後は人工知能が考え・判断してターゲットを確実に破壊する。敵を視認して引き金を引くことすら必要がなくなる。単なるデータ入力だけで敵の命を破壊できるから、敵を殺したという罪の意識にさいなまされることがなくなる。地球の裏側で、人工知能が敵を補足すると同時に、人工知能が最適な兵器でターゲットを破壊するから、ターゲットのデータを入力する人間は命のあるものを殺すという実感がなくなる。
今回のバーチャルワールドは以前より進化しており、たとえば、焚き火をすると木のはぜる音や焦げ臭い匂いまで見事に再現していて、オモチャのようなところがなく、感覚的には現実世界と区別がつかない。
この小説の中でもコンピュータの性能は短期間で格段に進化している。人の手でプログラム全体を書き換えることがこんなに速くできるはずがない。超高性能の人工知能がプログラミング言語を開発し、バーチャルワールドを再設計して、プログラミングしているのだろう。
亀に似た姿形をした洋上の移動型研究施設オーシャン・タートルはいま米軍の攻撃を受けて、メインコンソールは米軍の管理下にある。なぜ、米軍が日本の自衛隊指揮下の研究施設を襲うのかについて、著者は次のように説明している。
人工フラクト・ライト(光量子)であるアリスが自力で禁止コードの封印を破壊して、特異な人工知能(真正AI)に成長してしまっている。そのフラク・トライトを確保できれば、コピーすることで、人間よりもはるかに性能のよい兵士を大量に生産できる。軍需産業にとって真正人工知能を手に入れたら、とてつもなく巨額の儲け仕事になる。どんなに高値でも米国政府はそれを買わねばならない。
アンダーワールドには無数のフラクト・ライトが誕生しており、現実世界からはアリスのフラクト・ライトを特定できない。だから、アンダーワールドでアリスのフラクト・ライトを補足して現実世界に転送する必要がある。
人工フラクト・ライトは、人間の心と同じもので、それを兵器に使えば神風特攻隊と同じことになる。フラクト・ライトは命そのもの、キリトとアスナはアンダーワールドで長い時間を過ごしたから、アンダーワールドに友人が多い。BMIでダイブしてきたプレイヤーの他に、人工・フラクトライトの住人が大勢生まれて、リアルの世界の人間と同様に思考し生きている。人工・フラクトライトの消滅は命の消滅そのものだから、キリトやアスナは戦争への利用やアンダーワールドの消滅を防ぎたい。アリスを補足してしまえば、莫大な電力を消費する実験研究を続ける意味がなくなるから、自衛隊も米軍も真正アリスを捕らえたら、アンダーワールドを稼動する電力供給をとめてしまう。それは無数の命(人工フラクト・ライト)が消滅することと同義である。人間にたとえて言えば、地球が消滅するだけではない、宇宙そのものの消滅を意味する。
すでにさまざまなタイプのドローン(無人機)が現実の戦争に使われている。大きなものでは巡航ミサイル搭載型の戦闘機まである。ドローンやミサイルに搭載可能なサイズの超高性能人工知能が開発されたら、地球上のどこにいても標的は確実に破壊される。兵器の遠隔操作の必要すらいらなくなる。写真や歩き方のパターンなどの標的情報をインプットすれば、インフラとなっているネットワークを利用して即座に位置を把握し、目標を破壊できる。昆虫型の小さいドローンすら飛び交うことになる。それに超小型のカメラや殺傷武器搭載が可能になる。人工知能の進化で戦争は人間の生存にとって危険性を飛躍的に高めることになる。
フルダイブ型のBMI装置であるナーブギアやアミュスフィアができるとはわたしは思わないし、この物語が想定するブレイン・マシン・インターフェイス(BMI)もいくつかの理由で実現可能だとは思わぬが、神経を遮断しないBMIならある程度のレベルの開発は可能である。
人工知能が進化し続けたら、頭部にBMIチップを装着したマン・マシンハイブリッド型人間以外は存在理由がなくなるだろう。BMIを装着することで、人間は人工知能のほうから簡単に操作可能な生物となる。BMIで感覚器官を刺激され、ドーパミンの分泌を操作されたり、痛覚をコントロールされたらアウト、人間は抗えない。
科学の発展の果てに、利便性の劣る旧式の機械と化してしまう人間は存在余地がほとんどなくなってしまうのだろう。人間はどこかで、利益追求や利便性追求をやめなければならない、その限界となる時期は近づいている。そういっているのはわたしだけではない、世界的に著名な理論物理学者のホーキング博士も同じ警告を世界に向けて発している。
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(この本の語彙レベルは小学生高学年~中学1・2年生にお薦め、コンピュータや人工知能についての記述を理解するには多少の(理系の大学生レベルの)専門知識が必要かもしれない。ルビの振り方がほどよい。このシリーズはとても楽しい娯楽本であるが、さっさと卒業して、中学生のうちに文庫本の文学作品を50点ほど読んでおきたい。できれば、新書版も5~10冊くらいはアタックしてみたらいかが?)
*(注-1)メディキュボイドについて
最初のSAOではナーブギアというフルフェイス型のBMIが登場した。外そうとすると強い電磁パルスが出て、プレイヤーを殺してしまう、プレイヤーはゲームをクリアするまで外せない。茅場明彦が設計した。最初のSAOでは、ベータ版のゲームに参加したプレイヤー4000人がナーブギアを装着して死んでいる。その反省を踏まえて第2世代のBMI装置であるアミュスフィアが登場する。電磁パルスの出力を弱めたタイプである。そしていま登場しているのが、医療用の箱型BMI装置である。いずれも電磁パルスを利用した非侵襲型のBMI装置である。
侵襲型のBMIは研究が進んでいるが、極細の電極のようなものを硬膜や脳にたくさん差し込まなければならないので、感染症のリスクが大きい。電極の経年劣化も問題になっている。脳内の信号処理に利用されているのは電磁パルスだけではない、さまざまな神経伝達物質が存在しているから、電磁パルスだけでのBMIが実現できたとしても、非常に限定された機能しか発揮できない。しかし、超高性能人工知能は実現可能性が大きい。
NerveGearは説明の必要もなさそうだ。「神経系に直接アクセスするBMI装置」という意味だろう。AmuShereはAmusementShereの短縮形だろう。NerveGearが命の危険を伴うBMIだったから、命の危険がなくゲームを楽しめるBMIとうことで命名されたのではないか。
cuoid:a solid object which has six rectangular sides at right angles to each other ・・・(OxfordAmericanAdvancedDictionaryより)
直角に交わる6面体だから、直方体ということになる。MedicalCuboidを縮めてmedicuboidと綴るのだろう。医療用箱型BMIである。箱型のBMI装置に全身が包まれる。体を動かすこともままならず、意思を伝えることもできない患者に、その中では必要な酸素供給や栄養素の点滴、排泄処理などが自動的に行われるのだろう。『2001年宇宙の旅』に出てく宇宙ステーション内の冬眠装置のような外形を想像すればいい。
専門用語ではBMIではなくBCIである。Brain-Computer Interface。
*novelization:何かを小説化すること。したがって、アニメを小説化することもノベライゼーションという。
weblioより
http://ejje.weblio.jp/content/novelization
*「資本論と21世紀の経済学」の5章「労働観と仕事観:過去⇒現在⇒未来」でSAOを採りあげている
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http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-08-02-2
Ⅰ. 学の体系としての経済学 …6
1. <デカルト/科学の方法四つの規則とユークリッド『原論』> …6
2.<体系構成法の視点から見たユークリッド『原論』> …8
3.<マルクスが『資本論』で何をやりつつあったかを読み解く> …10
4.<資本論体系構成の特異性とプルードン「系列の弁証法」> …11
5. <労働観と仕事観:過去⇒現在⇒未来> …13
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*#2784 百年後のコンピュータの性能 Aug. 22, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-08-22
#2779 『ソードアートオンライン 9 』:量子コンピュータ・オンラインゲームと心 Aug. 17, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-08-17-1
#2804 『ソードアート・オンライン14』 Sep. 12, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-09-13
#2882 ソードアートオンライン007 マザーズロザリオ Nov. 26, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-11-26
#3051 『ソードアートオンライン・プログレッシブ』001~003を読む May 31 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-05-31
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ソードアート・オンライン (16) アリシゼーション・エクスプローディング (電撃文庫)
- 作者: 川原礫
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2015/08/08
- メディア: 文庫
#3094 高2の現代国語教科書に採録されている作品は案外レベルが高い July 28, 2015 [44. 本を読む]
高2の生徒が現代国語の教科書を視写していた。「視写」とは字の通りで、目で見て書き写す作業である。
ワンセンテンス全部を見て、記憶し、一気に書ける生徒は速い。それを単語ごとに分割して書き写す生徒は文意もつかめないし、速度も遅くなる。だから、視写の速度を測れば、国語の能力や学力のおおよそが分かる。
写している文を見て驚いた、言語学者である鈴木孝夫の著書で、内容は言語学そのもの、普通の高校生にはたいへんハードルが高い。わたしはこの人の本『日本語と外国語』(岩波新書)を1990年に購入して読んでいる。この本を出版したときの鈴木の肩書きは慶応大学言語文化研究所教授となっている。『教養としての言語学』も読んだが、学部の学生が読むレベルの内容である。
ずいぶんレベルの高い論説文が載っているなと驚いて、教科書を見たら、政治学者の丸山真男のものもとりあげている。団塊世代が大学時代に読んだ本である。これも高校生には高いハードルだ。
他に美実評論家の評論や科学に関する評論も載っていた。どちらもかなり硬い内容である。
岩波新書や中公新書は専門書を読むときの入門書レベルだが、そういうレベルかそれ以上のレベル、本格的な専門書レベルの論説文や評論が並んでいた。
文学では漱石の『こころ』が載っていた。こころの登場人物は「先生」と「先生の奥さんの静子」と「わたし」である。「先生」は自殺する。『こころ』が公刊される数年前に明治天皇が崩御し、乃木稀輔が夫人とともに殉死する。『こころ』はそういう古い封建的価値観への嫌悪感の表明だったという解釈がある。
おそらく採録された論説・評論・文学作品の半数以上は解釈がむずかしいもののように感じた。鈴木孝夫の本の内容を解説するには、言語学の専門知識が必要となるし、丸山真男のものは政治学の素養を必要とする、漱石の『こころ』は当時の時代状況についての知識が必須だ。
ここで疑問なのだが、高校の現代国語の先生に、そういう多方面の知識があるだろうか?自分の高校時代を思い起こしてみても、とてもそのような広範な教養と専門知識を持ち合わせていた国語教師像は思い浮かばない。
娘が高校生だったときに、鴎外の『舞姫』が教科書に載っていた、よく分からないので解説して欲しいとせがまれ、当時の時代状況や価値観そして鴎外の経歴を絡めて解説してあげたら、ずいぶん喜ばれた。国語の先生はそういう解説をしてくれないと言っていた。「文学的解釈」だけでは作品の面白さは3割伝えられたらいいほうだろう。
高校2年の現代国語に採録された人々の論説文や評論と同等レベルの専門書を読む高校生は3%を超えない。全国模試の記述式問題には、こういうレベルのテクストが採録されているから、偏差値65を超えようと思ったら、複数の分野の定評のある本を読みなれておくべきだ。それは、2次試験レベルの英語長文問題への対策にもなる。日本語の読解力は、その学部の専門分野から出題される英文読解の基礎的な力となる。
これを機会に、採録された作品の著者の他の本も読んで見たらいい。レベルの高い本への導入として教科書はなかなか優れた作品を採録しており、感心した次第。
大事なことがもう一つあった。視写は作文指導に効果が高いということを書き忘れるところだった。下手な文を自分で創らせるよりも、論理的な文章や名文を書き写すトレーニングは、作文上達への近道である。いいテクストを選び、一冊丸ごと書き写すくらいのことを夏休み中にやってみたらいい。作文が苦手の人がやれば、夏休みが終わったときには作文を書くのが苦でなくなるかもしれない、物は試しだ。
わたしは中2の生徒にこの数ヶ月間、北海道新聞の「卓上四季」の視写をやらせている。650字くらいの中に、起承転結が織り込まれたコンパクトな文章を真似て書いてみるのは楽しい経験である。書き写しのトレーニングを繰り返す内に自然に文章のリズムや起承転結が具体例とともに身体にしみこんでくる。目標タイムは16分を切ること。いいお手本をみて繰り返し練習することが上達への近道である。
<7/26 ポイント配分割合変更>
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日本の感性が世界を変える: 言語生態学的文明論 (新潮選書)
- 作者: 鈴木 孝夫
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2014/09/26
- メディア: 単行本
新書版の内田義彦先生の本は、いったん書いた原稿を半分以下に圧縮校正して密度の高い文章となっているから、お手本として挙げておく。
- 作者: 内田 義彦
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1985/01/21
- メディア: 新書
#3093 東野圭吾『禁断の魔術』を読む:安保法制と軍需産業と成長路線は一体のもの July 25, 2015 [44. 本を読む]
7/26 朝8時20分 自走式レールガン等追記、米海軍のレールガン実験記事を移動。
<余談-2:登場人物の図解>を追記
土曜日の授業は第1と第3のみ3時間連続授業なのだが、間違えて来る生徒がいる。今日も近所に住む中2と高2の生徒が来たので、授業をした。生徒には夏休みの宿題が出ているが、自力で分からないところがある。たいした手間ではないから、家にいるときは対応する。所用があって外出していたら勘弁してもらいたい。
中学校は3日間程度の補習授業をするようだ。ニムオロ塾は夏休み期間中は4時から7時までの時間帯は、好きなだけ来ていいことにしてある。いつものように個別の質問にはしっかり応えるつもりだ。
ところで、東野圭吾『禁断の魔術』(2012年)を生徒が貸してくれたのでさっそく読んだ、これで東野圭吾は3冊目。天才物理学者湯川学が主人公、ガリレオシリーズの一冊である。たいへん面白いが、娯楽小説だから、高校生がこういうレベルの本をいくら読んでも読解力は上がらないし、語彙力も強化できない。高校2年でこの程度の本に夢中になっているようでは、国語の偏差値はせいぜい50止まり。中学生が好奇心に任せて濫読するならいい。娯楽小説としての完成度は高いが、語彙レベルは良質の漫画の本とそう変わらぬから、漫画を読むがごとくに片っ端から読めばいい。不思議なもので濫読すると、レベルを上げた本が読みたくなるものだ。知らぬ間に顎(あご)の力が強くなって、いままで食べていたものでは噛み応えを感じなくなり、もっと硬い食べ物がほしくなる。
帝都大准教授の湯川は、部員が一人になってしまい存亡の危機にあった母校物理研究会の古芝伸吾に頼まれて、高校の新入生勧誘イベントの実験を企画し指導してあげた。古芝はその後帝都大工学部機械工学科に入学してくるが、10歳ほど年上の新聞記者のお姉さんがホテルのスィートルームで不審死を遂げると、大学を3ヶ月ほどで中退、クラサカ工機へ入社する。伸吾は大学入試を滑ったので就職先を探したと社長の倉坂達也には説明している。物覚えがよく、一生懸命に仕事をする古芝に社長の倉坂は目をかける。
古芝伸吾は姉の復讐をするために、物理学研究会で湯川に教えてもらったレールガンを発展させて、姉を見殺しにした大物国会議員の大賀仁策を狙う。おもちゃのような実験用レールガンを、金属加工企業に勤務することで技術を身につけ、持ち前の頭の良さと物理専門知識を利用して、レールガンを1km離れたところから狙撃できるような高出力・高性能なものに仕上げる。
最後のシーンはよく考えられていて、結末までデザインした上で、作品が書かれているらしいことはこれまでの彼の小説と同じ、見事な職人仕事で小説としてはよくできている。著者が脳髄を絞って考え抜いた結末は書かないのが礼儀だろう。結末は本を読んでもらいたい。
作品を読めば気がつくだろうが、重要な登場人物二人を紹介していない。作品の構想全体やストーリーの面白さに関わる役回りの人物なので、わざと言及を避けた。
東野は大阪府立大学工学部電気工学科で学んだ後、大手自動車部品メーカのデンソーに勤務する。小説は書いているが出身は理系。学校で学んだ専門知識や、就職してから企業で学んだことなどが、小説に色こく反映するのは当然のことだろう。『マスカレードホテル』では企業内部のシニア管理職と優秀な社員の仕事の関係とか、職位による責任の範囲の違いや思考の仕方の違いについて、大企業勤務経験を物に言わせてきびきびと描いていたし、『卒業』では高校剣道部や茶道部、そして大学剣道部が舞台となっていた。ここでも金属材料の研究室が重要な役割を担っていたが、府立大工学部時代に見聞きしたことがベースになっていたのだろう。いずれも、小説の内容に東野の学歴や職歴が深く関わって、現実感のあるものになっていた。
強いて弱点を言うと、高校時代に古典文学への興味が足りなかったようにみえる。理系科目の勉強にのめりこんだのだろう。大学も工学部電気工学科だから、おそらく古典文学や明治期の文豪の著作を濫読していない。そういう背景があるから使われている語彙の範囲が狭いのだろう。もっとも、語彙の範囲が3倍くらいになっていたら、東野作品が大好きな読者の大半は辟易して逃げ出すに違いない。売れっ子になるには娯楽作品でいいのである。著者はそういうことを十分知って書いており、小説の中で使用語彙レベルを上げるようなことは今後もないだろう。
すでに巨匠の一人である東野圭吾は直木賞選考委員でもある。
(2014年現在の選考委員は、浅田次郎、伊集院静、北方謙三、桐野夏生、高村薫、林真理子、東野圭吾、宮城谷昌光、宮部みゆきの9名、このうち東野を含めた6名はebisuが好きな作家である)
レールガンについて、小説の中で天才物理学者湯川が説明するが、解説は極めて簡素なものだ。その原理は電磁誘導力(ローレンツ力)によって、弾体の伝導体を加速して発射するというものである。砲身(密閉)タイプにすると、町工場の設備では加工が無理、必要な治具がない。だからオープンの2本のレールの間に挟んだ弾(伝導体)を加速するのだが、語られているのは弾の材料の工夫とレールの高精度加工くらいだ。一度発射実験をやると、そのレールは弾が通った摩擦熱で熔けて使い物にならない。次の実験をするためにはレールの高精度加工をしなければならない。威力を増すためには「砲身」であるレールの長さを大きくすることと、大電力を供給する必要があるが、さすがに専門家である東野は大電力を供給する具体的な方法が見つからなかったようで、小説の中での言及はない。密閉型の砲身のほうが威力も照準精度も格段に増すように思えるが、金属加工に特別の治具を要することになるし、砲身の中にレールガンの仕組みを入れないといけないとか、絶縁体で砲身を作る必要があるとか、材料によって強度の問題があるとか、どう考えても町工場の設備や治具や技術では間に合わないので、東野はオープン型のレールガンを伸吾に作らせている。こういうところは飛躍があっていいのだろう。『ソードアートオンライン』でもフルダイブ型のヘルメット様のナーヴギアの仕様にかなり飛躍があった。ナーヴギアはわたしには百年後でもまったく不可能に思えるが、仕事で使えないと1979年に判断したパソコンが13年後には業務で使われ始め、15年たった1994年には汎用大型機にとって変わったのを経験しているから、「不可能」ではなく「飛躍がある」と書くべきなのだろう。
レールガンについて作者にはもっともっと書き込んでもらいたかったが、東野は府立大工学部電気工学科の出身だから、書き込みすぎると無理が露呈するのでやめたのかもしれぬ。小型の超強力な電源が必要だが、そんなものはいまどこにもないし、開発費に膨大なコストが掛かる、天才物理学者の湯川准教授にもいまは無理。
それでも、このレールガンは架空の兵器ではなく、いま実験開発中の有力兵器なのである。レールガンに使用する弾は、火薬を使った弾丸に比べてはるかに小さいものですむし、初速が比べ物にならないほど大きい。厚さ1cmほどの鉄板なら6枚貫通できるほどの威力だから、既存の装甲車両や戦車で撃ち抜けないものはない。厚さ1mのコンクリートだって遮蔽できない。対戦車砲としては劣化ウラン弾よりもずっと威力が大きいし、戦場を放射能で汚染することもないから、味方への放射能被害もない。
米軍は昨年(2014年)実験砲を公開している。レールガンは電磁加速砲という訳語がよさそうだ。まだ車両に搭載できるほど小型化はされていない。船に搭載するか、陸上基地にミサイルや航空機迎撃用に設置することになる。なにしろ大電力の供給が不可欠だから、電磁加速砲本体よりも電源装置が大きくなってしまう。
*「砲弾を音速の約7倍の速さで撃ち出すレールガンの世界初艦上実験の実施をアメリカ海軍が発表」
http://gigazine.net/news/20140409-electromagnetic-railgun/
初速が大きいので射程距離200km超に開発目標を設定しているようだ。これが実戦配備されたら、火薬を使う「砲」は一気に旧式兵器となってしまう。射程距離は短距離ミサイル(800km)よりは短いが、砲弾は短距離ミサイルの1/20程度のコストで製造できる。音速の5~10倍の速度だから、地対地、地対空や艦対空に使える。赤外線追尾装置やレーダ補足、ドローンによる攻撃対象補足システムと組み合わせたら、ミサイル迎撃にも遠距離からの暗殺にも使える。電源がコンパクトにできれば、リモートコントロールによる自走式の対戦車砲もありえる。百年後なら人工知能を搭載して、自動索敵・攻撃型のロボット砲が戦場を動き回るだろう。戦場で人工知能とレールガンを搭載した車両が人間を殺戮しまくる不気味な光景はみたくない。
まもなく実戦配備されるが、戦車はレールガンの格好の餌食となるから、戦場に投入できなくなりそうだ。ドローンを前線に飛ばして偵察させてGPSで攻撃対象の位置補足をして200km先の固定基地からレールガンを発射できる。標高の高いところを移動しながら自動攻撃すればレールガン1台で百台の戦車部隊を100~200km先から殲滅できる。戦車程度の装甲ならレールガンの弾が間単に貫通してしまう。レールガン基地を攻撃しようにも、巡航ミサイルも戦闘機もレーダで確認後、基地の周りに張り巡らした赤外線感知装置で正確無比に撃ち落されてしまう。
開発しているのは米国だけではない、EUも開発中である。ロシアや中国についての情報はないが、おそらくしのぎを削っている。日本ではどのメーカがやるのだろう。やれそうなのは三菱重工だけではない。
いまからなら、日本のメーカ数社が開発競争に参入する余地がありそうだ。とくに小型で超強力な電源装置の開発や複雑な砲身加工技術、連動システム開発は日本人向きの技術開発分野だろう。それらに対して絶縁体でつくる砲身材料は苦手の分野。材料開発は基礎物理の分野で、こういう方面の地道な材料開発が日本企業ではほとんどなされていない。大学も独立行政法人になってしまっているから、基礎研究分野への人材と資金投資ができなくなるのではないだろうか。国家戦略上、基礎研究分野は予算を別枠で手当てすべきだ。
安保法制の中には武器の輸出は入っていないが、「従来の政府見解」がすでに変更されて、外務省のホームページに載っている。「武器輸出三原則」は「武器移転三原則」に書き換えられた。
日本製のコンパクトで高性能な電磁誘導砲が開発できたら、世界の武器市場を席巻できるドル箱製品となる。日本の軍需産業から強いプッシュがあったことは想像に難くない。法律ではなく、一片の政府見解変更だけで武器輸出を緩和できる仕組みになっている。このように重大な政策転換なのに法律ではないから、国会の埒外であり、国会のチェック機能が働かない。
巨大市場だから、武器製造が可能な企業の経営者たちは売上と利益を大幅に増やすチャンスと捉えている。
政府財政破綻のリスクを小さくするためには、経済成長が不可欠だが、日本企業の未開拓市場で最大のものは武器製造・輸出だ。日本はお金のために選んではいけない道へ分け入ろうとしている。まったく新しいタイプの高性能武器の開発費は巨額だから、日本市場だけではとても引き合わない。政府は日本企業の国際武器市場への参入が成長路線のキーの一つだと考えている。
しかし、日本は別の道を選択すべきだし、選択できる。職人主義経済学に基づく強い管理貿易の下に、輸入を制限し、国内に正規雇用を確保する自立型経済を確立すればいい。そしてその生産システムそのものを輸出すればいい。後進国に生産技術と生産システム、教育システムを提供できる。その経済学の公理系は弊ブログ・カテゴリー「資本論と21世紀の経済学」で明らかにした。
<余談:武器輸出三原則と武器移転三原則>
武器輸出については従来は武器輸出三原則が守られていたが、安保法制で武器移転三原則に変わる。
武器輸出三原則は次の三つの条件に当てはまるときは、輸出を禁止するというもの。
(1)共産圏諸国向けの場合
(2)国連決議により武器等の輸出が禁止されている国向けの場合
(3)国際紛争の当事国又はそのおそれのある国向けの場合
これらは法律ではなく、政府答弁である。武器移転三原則はこれらを緩和しているようにみえる。ようするに、国連がOKしている国であればどこへでも輸出できるという主旨だ。内容が長いので、外務省のホームページの「外交政策」⇒「日本の安全保障」に載っているのでそちらをごらんいただきたい。
http://www.mofa.go.jp/mofaj/gaiko/page22_000407.html
<余談-2:登場人物の図解>
A4の用紙に、主要な登場人物名を円で囲み、その下に肩書きや経歴を書き込んで、関係の強い他の人物と線で結んで、図解しながら楽しく読んだ。A4の用紙だと小さいと感じる人はB4でもA3でも好きなサイズの用紙を選べばよい。
書き込まれたのは18人の登場人物である。たくさんの登場人物がでてくると、はてこの人物の経歴・職業・性格・人間関係はどうなっていたか混乱することがあるから、暇なら登場人物とその属性を明らかにする作図は本を読む楽しみを倍加してくれる。林望『謹訳源氏物語』は登場人物が多いし10冊もある長編だから、A3版の用紙数枚に書き込むといい。
*#3052 東野圭吾『マスカレード・ホテル』を読む May 31, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-05-31-1
#3075 東野圭吾『卒業』を読む July 10. 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-07-09
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*#2935 『資本論』と経済学(1):「目次」 Jan. 25, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-25
#2936 『資本論』と経済学(2):「1.経済現象と日本の国益」 Jan. 26, 2015 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-26
#2937 『資本論』と経済学(3):「円安はいいことか?80⇒120円/$の威力」 Jan. 27, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-27
#2938 『資本論』と経済学(4) : 「経済学の定義」 Jan. 27, 2015 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-27-1
#2939 『資本論』と経済学(5) : 「『資本論』の章別編成」 Jan. 27, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-27-2
#2941 『資本論』と経済学(6) : 「マルクス著作の出版年表」 Jan. 29, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-28-1
#2942 『資本論』と経済学(7) : 「デカルト/科学の方法四つの規則とユークリッド『原論』」 Jan. 29, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-28-2
#2943 『資本論』と経済学(8) : 「学の体系構成法の視点から見たユークリッド『原論」 Jan. 29, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-29
#2944 『資本論』と経済学(9) : 「何をやりつつあったかを読み解く」 Jan. 29, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-29-1
#2945 『資本論』と経済学(10) : 「資本論体系の特異性とプルードン「系列の弁証法」 Jan. 29, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-29-2
#2947 『資本論』と経済学(11) : 「労働観と仕事観:過去⇒現在⇒未来」 Jan. 29, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-29-4
#2948 『資本論』と経済学(12) : 「公理書き換えによる21世紀の経済学の創造」 Jan. 29, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-30
#2950 『資本論』と経済学(13) : 「経済学体系構成原理は四つ」 Jan. 31, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-31-1
#2951 『資本論』と経済学(14) : 「第1の公理を巡って:マルクスの労働観と日本人の仕事観」 Jan. 31, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-31-2
#2952 『資本論』と経済学(15) : 「対極にあるもの:ヨーロッパ労働観⇔と日本の仕事観」 Feb.1, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-01-31-3
#2953 『資本論』と経済学(16):「日本人の仕事観:仕事は楽しい!」 Feb.1, 2015 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-01
#2955 『資本論』と経済学(17):「要領の悪いものほど忙しいとぼやく」 Feb.3, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-03
#2958 『資本論』と経済学(18):「教育の職人」 Feb. 5, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-04-2
#2960 『資本論』と経済学(19):「日本経済の未来」 Feb. 6, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-05-1
#2961 『資本論』と経済学(20):「経済成長の天井 山田久氏の論」 Feb. 7, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-07
#2964 『資本論』と経済学(21):「過剰富裕化論」 Feb. 8, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-07-3
#2966 『資本論』と経済学(22):「相対的貧困率上昇と富裕層増大」 Feb. 9, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-08-1
#2967 『資本論』と経済学(23):「ピケティの空想的所得再分配論」 Feb. 10, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-09
#2968 『資本論』と経済学(24):「浜矩子 予算案と公共性について」 Feb. 11, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-10
#2971 『資本論』と経済学(25):「村落共同体と税:自由民と農奴について」 Feb. 12, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-12
#2972 『資本論』と経済学(26):「文部科学大臣下村博文「教育再生案」について」 Feb. 13, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-12-1
#2973 『資本論』と経済学(27):「注-1~5」 Feb. 13, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-13
#2974 『資本論』と経済学(28):「注ー6」と主要文献リスト Feb. 14, 2015 http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-02-13-1
#3015 『資本論と経済学』(29)人工知能の開発が人類滅亡をもたらす:ホーキング博士(資本論と経済学-補遺1) Apr. 2, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-04-02
#3082 『資本論』と経済学(30):利便性の追求の果てには何があるのか July 15, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-07-15
#3087 『資本論』と経済学(31):外国人持ち株比率3割の意味するもの(金子勝慶応大教授) July 21, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-07-20
#3093 『資本論と経済学(32):』安保法制と軍需産業と成長路線は一体のもの:東野圭吾『禁断の魔術』を読む July 25, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-07-25-1
<7/26 ポイント配分割合変更>
70% 20% 10%
#3091 ハマナスの花と極楽:『蜘蛛の糸』と『徒然草』 July 24, 2015 [44. 本を読む]
ID:dogmn0
<更新情報>
7/25 朝10:20 追記:『徒然草』引用
7月24日は芥川龍之介の命日にあたる。1927年だから、1923年の関東大震災後の混乱が収まったあたりだろうか。福島第一原発の爆発から4年4ヶ月が経過したが、メルトダウンした核燃料がどうなっているのかすらいまだにわからない、事態はまったく収束の様子がない。原子炉の100~200m下を流れる地下水とメルトダウンした核燃料に汚染された水がまじり大規模な海洋汚染が生じるのだが、防ぐ手立てはなにもない。2011年3月11日に地獄の釜の蓋が開いたのだろう、地獄の底から得体の知れないものが這い出してくる。
ハマナスの強い香りが漂っていると、『蜘蛛の糸』の冒頭シーンを思い出す。お釈迦様が朝、蓮池の周りをお歩きになる長閑(のどか)な場面である。
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或る日の事でございます。御釈迦様は極楽の蓮池のふちを、独りでぶらぶらお歩きになっていらっしゃいました。池の中に咲いている蓮の花は、みな玉のようにまっ白で、その真ん中にある金色の蕊(ずい)からは、何とも云えない好い匂いが、絶間なくあたりへ溢れております。極楽はちょうど朝なのでございましょう。
やがて御釈迦様はその池のふちにお佇みになって、水の面を蔽っている蓮の間から、ふと下の様子を御覧になりました。この極楽の蓮池の下は、丁度地獄の底に当たって居りますから、水晶のような水を透き徹して、三途の川や針の山の景色が、丁度池を覗き眼鏡を見るようにはっきりと見えるのでございます。
するとその地獄の底に、カンダタという男が一人・・・
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冒頭部分は誰もが力を入れて書く、この部分は、極楽の或る朝の何気ない景色の描写の中にすっと読者を引っ張り込む力がある。芥川は地獄の話をはじめるのに、極楽ののんびりした情景描写をさらりとやって、それをすんなりと地獄につなげる荒業を見せてくれる。読者にも蓮池の水を徹して、主人公のカンダタの姿が見える。
朝から鶯が啼いている。300mくらい離れたところに林があるので、そこでカッコーも啼く。玄関から庭に出ると、朝露にぬれたハマナスから強い香りが漂っていた、そう、まるで極楽のよう。
そのハマナスもすっかりしおれた。2週間ほど前に元気のよい盛りに撮った写真があるのでアップする。
八重のハマナスなので、花が大きい。女優でいうと米倉亮子さんかな、ネットで見たら来週40歳の誕生日だ。10年前の古いケイタイで撮っているので、ピンボケになっている(古いケイタイでも上手に撮ればピンボケはしません)。萎垂(しおた)れたハマナスではなく、盛りのハマナスの写真をアップするあたりは、まだまだ、『徒然草』第137段の心境にはなれていないようだ。心境がだいぶ近づいたと思っていたのだが・・・
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花は盛りに、つきは隈なきをのみ、みるものかは。雨に対(むか)ひて月を恋ひ、垂れ込めて春の行衛(ゆくへ)知らぬも、なほ、あはれ情深し。咲きぬべきほどの梢、散り萎(しを)れたる庭などこそ、見所多けれ。歌の詞書(ことばがき)にも、「花見にまかれりけるに、早く散り過ぎにければ」とも、「障る事ありてまからで」なども書けるは、「花を見て」と言へるに劣れる事かは。花の散り、月乃傾(かたぶ)くを慕ふ習ひはさる事なれど、殊(こと)にかたくななる人ぞ、「この枝、かの枝散りにけり。いまは見所なし」など言ふめる。
万(よろず)の事も、始め・終りこそをかしけれ。男女(おとこおんな)の情けも、ひとへに逢ひ見るをばものかは。逢はで止(や)みにし憂さを思ひ、あだなる契りをかこち、長き夜を独り明かし、遠き雲井を思ひやり、浅茅が宿に昔を偲ぶこそ、色好むとは言はめ。望月の隈なきを千里の外(ほか)まで眺めたるよりも、暁近くなりて待ち出でたるが、いとこころ深う青みたるようにて、深き山の杉の梢に見えたる、木の間の影、うちしぐれたる村雲隠れのほど、またなくあはれなり。椎柴・白樫などの、濡れたるようなる歯の上にきらめきたるこそ、身に沁みて、心あらん友がなと、都恋しう覚ゆれ。
すべて、月・花をば、さのみ目にて見るものかは。春は家を立ち去らでも、月の夜は閨(ねや)のうちながらも思へるこそ、いとたのもしうをかしけれ。よき人は、ひとへに好けるさまにも見えず、興ずるさまも等閑(なほざり)なり。片田舎に人こそ、色こく、万はもて興ずれ。花の本(もと)には、ねぢより、立ち去り、あからめもせずまもりて、酒飲み、連歌(れんが)して、果は、大きなる枝、心なく折り取りぬ。泉には手足さし浸して、雪には下り立ちて跡つけなど、万の物、よそながらみることなし。 231-232頁
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3日ほど前から芍薬(しゃくやく)の花が咲き始めた。薄いピンクで縁取りした花が密集して咲いている。
<ポイント配分割合>
60% 30% 10%
(「根室情報」の比率を60⇒30%に、「日本経済」の比率を20⇒60%に変更しました。日本経済のジャンルでは8位に! 24日22時追記)
#3083 又吉直樹「火花」芥川賞受賞への古館氏の発言 July 18,2015 [44. 本を読む]
<更新情報>
7/18 朝9時40分 六根を追記
7/18 11時15分 追記 「・・・そういうところが芸人が暇つぶしに書いたという域を出ていないのである・・・」
7/18 12時10分 平井呈一に関する記述を追記
7/19 10時45分 <余談:花火の炸裂光と炸裂音について>追記
<極東の町の季節の移ろい>
玄関前にアジサイの植木鉢が二つ置いてある。女房殿が近所でいただいてきたのを育てており、先週から花が開き始めたが花の色が薄くて冴えなかった。ところがこの数日の暖かさに勢いをえたのか、一鉢はピンク色、もう一鉢はブルーの色が濃くなってきた。同じ株からとってきたのに、植えた鉢で色が違うのはなぜだろうと首をかしげている。
高幡不動尊金剛寺(東京都日野市)のアジサイ祭りが有名だが、6月1日から7月初旬に境内には山アジサイ200種7500株が咲き乱れる。家から歩いて何度か行ったことがある。高幡不動尊の境内は案外奥が深い、寺の建物が建っているところは平地なのだが、境内の奥は小山になって、小規模な縦走路のような山道がうねっている。
アジサイ前線はまだ青森近辺のはずだが、極東の町の我が家の鉢植えは主に似て気が早いのかおっちょこちょいなのかもう色鮮やかになってきた。
*高幡不動尊金剛寺あじさい祭り
http://www.takahatafudoson.or.jp/?page_id=30
*高幡不動尊のあじさい画像
https://www.google.co.jp/search?q=%E9%AB%98%E5%B9%A1%E4%B8%8D%E5%8B%95%E5%B0%8A%E3%81%AE%E3%82%A2%E3%82%B8%E3%82%B5%E3%82%A4&rls=com.microsoft:ja:IE-SearchBox&oe=UTF-8&rlz=1I7SUNA_jaJP310&gws_rd=ssl&hl=ja&sa=X&oi=image_result_group&ved=0CBQQsARqFQoTCLzp6uHh48YCFWVdpgodv_MIEg&tbm=isch
<又吉直樹『火花』を3ページだけ読む>
報道ステーションで古館キャスターの発言が問題になっているようだ。MSNニュースのURLを挙げておく。
http://www.msn.com/ja-jp/news/entertainment/%e5%8f%a4%e8%88%98%e6%b0%8f%e3%80%81%e5%8f%88%e5%90%89%e3%81%ae%e8%8a%a5%e5%b7%9d%e8%b3%9e%e3%81%ab%e3%80%8c%e3%81%82%e3%82%8c%e3%81%a3%e3%81%a6%e3%81%84%e3%81%86%e6%84%9f%e3%81%98%e3%80%8d-%e6%9c%ac%e5%b1%8b%e5%a4%a7%e8%b3%9e%e7%99%ba%e8%a8%80%e3%81%8c%e7%89%a9%e8%ad%b0/ar-AAd5k1q?ocid=iefvrt
「芥川賞と本屋大賞の区分けがだんだん無くなってきた」
「僕なんかの年代は『あれ?』っていう感じもちょっとするんですけどね」
古館は1954年生まれだから、団塊世代よりも6歳下、感覚は団塊世代のわたしとそう違わないだろう。
生徒が『火花』をもってきた。「お母さんが買って読んでみたんだけど、あまり面白くなかったらしい、先生はどう思う?」と訊くので、3ページだけ読んでみた。
最初のページに気になる箇所が一つあった。「この箇所はわたしなら書き直すよ」と問題の文章を読み上げる。そして3ページ目にも一つ気になる表現があった。たった3ページで2箇所である、そこから先は読む気が失せてしまった。
冒頭は花火大会の会場でお笑いをやっているシーンである。2箇所目の気になったところをピックアップする。ドーンと花火の音がしてから振り返ると、暗い夜空に明るい花が咲くようなことを書いてあった。花火の音がしてから振り返ったら、花は咲いた状態から形が崩れて火の粉が下に流れ落ちるところだろう。しゅるしゅるしゅると音を鳴らしながら上がってぴかっと光って、ちょっと間をおいてドーンと地に響く音が伝わってくる。音がしてから振り返って見たのでは遅いのである。頭の中に情景をイメージしながら読むから、こういう稚拙な描写は気に障る。自分が描いたイメージと読み込んだ文章が齟齬を来たし、二つの異なるイメージがガッシャーンという大きな衝突音を生じて頭の中で鳴った。一度目は何とか持ちこたえたテンションだったが、またもや冷や水を掛けられて流石(さすが)に萎えてしまった。
葛飾北斎の富嶽三十六景の一つに、大波の中で翻弄される小船と波が砕ける瞬間を描いた浮世絵があるが、ほんとうに波が砕ける瞬間が描けている。(1/2000)秒でシャッターを切ったら、波が上がって砕け散るところが北斎の描いた絵と同じ形になる。カメラの性能が上がって1/2000の速度でシャッターが切れるようになったのはそんなに遠い意昔のことではないのに、160年前の北斎には見えていた。北斎の観察眼の凄さが伝わってくる絵である。色も構図もすばらしい。
実際の情景をきちんと描写するとか、登場人物のこころの襞を適確にそして独自の視点で読み取ることのできる観察眼の有無は作品のデキに深く関わる。センスの有無と言い換えてもよい。
センスは六根で支えられている。眼耳鼻舌身意の六根である。そういう意味ではすべての人間がセンスをもつわけだが、問題はその感度である。そしてそれを表現する文章の技巧だろう。
『火花』は148ページ(1ページ当たり680字)あるので残りの145ページをわたしは読んでいない。いままで買った読んだ小説は、3ページ読めばとまらなくなるのが普通だった、3ページ読んでつまらない本は買わないことにしている。
技巧のつもりなのだろうが表現が妙にごてごてして読みにくかった。大学生が書いたのなら青臭いのもいいだろうが、これは立派な大人の書いた小説である。(又吉直樹は1980年6月生まれ、35歳)
又吉君は太宰治が好きだとテレビで発言していたから、『火花』をもってきた生徒に読みかけの『太宰全集9』から、1ページだけ音読して聞かせた。太宰を読み終わった後に又吉君の『火花』を比べ読みして聞かせた。「論より証拠」、太宰の文章は鼻につくような技巧はない、ごてごてしていないのである。文章の良し悪しは音読すれば中1年生の生徒でも判別がつく。
(富嶽三十六景で思い出したが、太宰の作品に『富岳百景』というのがあった。斉藤孝の音読破シリーズの太宰の巻に収載されている。)
明治の文豪の文体は、漢文素読世代ではないわたしたち(団塊世代)にはその文体を真似ることができない。しかし、昭和の文人なら別だ。
師匠がいれば、彼(又吉君)の原稿に朱をいっぱい入れてくれただろうし、それが修行になったはず。永井荷風に師事して後に破門になった平井呈一*の語彙力と文章力は、なかなか凄まじいものがあるし書き手の気迫が伝わってくる。プロの文筆家なら、そういう高みを目指したいが、又吉君には無理なのだろうか?
*#2664 英文和訳問題(1)解説 Gone with the Wind より Apr. 30, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-04-29-1
#2550に友人の遠藤利國『明治二十五年九月のほととぎす 子規見参』131ページ「第二章 ラフカディオ・ハーンの見た日本」から平井の訳文転載してあるので、幕末に薩摩藩のとある橋の上で起きた斬撃の緊迫感のあるシーンを描写した彼の筆力を味わってもらいたい。翻訳文とは思えないレベルの日本語で書かれている。原文は英語、書き手はラフカディオ=ハーン(小泉八雲)。
*#2550 文脈把握問題(1):『風とともに去りぬ 三』から Jan. 1, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-01-01
師匠をもたぬ又吉君には太宰全集を2冊ほど選んで視写してみることを薦めたい。和漢混淆文の名品『平家物語』も視写してみたらいい。センスは悪いままだろうが、文章のリズムと文体だけはいいほうに変わる。
だからプロは仕事に不断の努力を惜しんではならない。文章修行を怠っている、そういうところが「芸人」が暇つぶしに書いたという域を出ていないのである。
古館は多読家だそうだが、そのせいか作品の良し悪しを見分けるアンテナはしっかりしているようだ。
<芥川賞候補作品に挙げられた作家、島本理生>
ところで島本理生(1983年5月生まれ、32歳)が候補の一人に挙がっていた。対象の作品は『夏の裁断』*であった。
*『夏の裁断』冒頭部分の抜粋
http://hon.bunshun.jp/articles/-/3837
わたしはこの作家の作品を2点読んだことがある。『ナラタージュ』と『あなたの呼吸が止まるまで』の2冊である。この人にはまだ荒削りだが才能を感じた。こころの襞を読み取るのが上手で、それを素直に表現できていた。まだ若いので、冊数を重ねたら林真理子クラスの小説家にはなるだろうと予感させるものがあった。
いま検索してみて、昨年『red』という小説を出したのを知った。官能小説のジャンルのようだ。恋愛は小説の主要なテーマの一つであるし、恋愛を描いていればセックスシーンがあるのは当然である。その辺りの男女のこころの襞(ヒダ)が巧みに描けたら立派なものだ。30歳を超えて何度も大人の恋愛経験を積まないと書けないジャンルであるが、高校生デビューを果たした少女作家の島本理生もそういう年齢になったということ、その成熟を祝いたい。紫式部『源氏物語』や和泉式部『和泉式部日記』などの正統派の系譜に連なる女性作家とわたしは認める。
まだ読んでいないので、そのうちに買って読みたい、3ページ読んだら最後までノンストップだろうから、土曜日の仕事が終わった後がいい。
こうしてみると、芥川賞はとっくに商業主義に毒されてしまっている。印刷部数の多いものがいいなら、芥川賞は「本屋大賞」と名前を変えたらいい。
<余談:花火の炸裂光と炸裂音について>
花火が打ちあがって上空で炸裂すると、その光は秒速30万kmで時間差なく伝わる。小説の冒頭シーンにあるお笑いのステージが花火が炸裂する空中から直線距離で1600km音速を秒速330mとすると、光ってから炸裂音が届くまで約5秒の時間差が生じる。
もう一度繰り返すと、花火を打ち上げる場所から1500m離れた場所にステージがあり、花火が300m上空で炸裂すると仮定すると、その直線距離は1635mである。光ってから音が伝わるまでその時間差は5秒だから、音が聞こえてから振り返って見えたとしたら、次の花火の炸裂光である。
打ち上げ場所から600mしか離れていなくても時間差は2秒生じるから、結果は同じことだ。こんなことは中学程度の基礎的な理科の知識でわかる。
原稿を誰かが読んで、「この箇所ヘンだよ」と言って上げられたらよかった。周りにそういう友がいなかった、そして文章作法の師匠もいなかったことが作品の質を下げているとわたしは判断した。
この小説の著者は普段からものごとをちゃんとみていないし、考えてもいないタイプではないか。なにより自分の書いた文章に違和感が生じていないことが小説家としてのセンスに欠ける。自分の書いたことが脳にイメージとしてありありと再現できているのだろうか、疑問を感じた。審査員のお歴々は何を見たのだろう?
芸能関係は昔は修行を要するものが多かったが、この30年ほど「お笑い」と称して、さしたる修行も芸もないのに売れて年収億円クラスの者たちが増えて感覚がおかしくなってはいないだろうか。10年たって残っているものは稀である。たった3ページしか読めなかったのは、わずか3ページで頭の中でガシャーンと音がなってしまったから、そういうノリで書いた小説と感じた次第。
私塾で生徒たちを教えていると、計算練習とか英語の文章の音読や書き取り練習、漢字の書き取り練習、さまざまな分野の読書など基本的なトレーニングを嫌がる中学生や高校生が増えているような感じがして心配になる。どんなことでも、基本的なトレーニングを怠ったら、上達の道が閉ざされてしまう。プロを自称する人たちは、基本的なトレーニングを欠かさぬものだ。
日々四股を踏まぬ相撲取りはいないし、日々包丁を砥がぬ料理人もいない、日々鉋の刃を砥がぬ大工もいない、すべからくプロというのはそういうものだ。
(ビリヤードのプロも日々素振りを欠かさない、欠かせばそれは結果となって現れる。鋭い素振りができるように、鉄製のキューで素振りをするプロすらいる、そうしなければできない技があるからだ。シルクハットはそういう超絶技巧の技の一つ。)
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中学生にお薦めの、ルビが振ってある斉藤孝『音読破2 走れメロス』の巻に「富岳百景」が収載されている、2004年が初版なのにすでに絶版となってしまった。この中にある「駆け込み訴え」はキリストとユダを題材としたものだが、この作品も面白いから、ちくま文庫の全集の中から探して読んだらいい。文庫の全集は安いから、自分の小遣いをはたいて全冊購入して本棚に飾ろう、いつか手にとって読むことになる。
- 作者: 太宰 治
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 1989/05
- メディア: 文庫
#3075 東野圭吾『卒業』を読む July 10. 2015 [44. 本を読む]
<更新情報>
7/11 8時30分 編集
高校生から、「先生、面白かったからこれ貸してあげる、読んでみたら?」と言われ、勧められるままに文庫本を借りて読んだ。元の単行本は昭和61年に出版されている。1986年だから29年前の作品。
主人公の相原沙都子とその仲間たちは同じ高校の出身で、地方の国立T大学へ進学した。ボーイフレンドの加賀恭一郎は沙都子と高校時代から同じ剣道部に所属、剣道一途で全国大会で念願の優勝を果たす。
県内大会優勝確実と思われていた沙都子の親友の金井波香はなぜか決勝戦でS大の三島亮子に敗れる。女剣士の頂点を目指してきた波香はそのあとで何かに気がつき、あちこちを調べ回っていた。これが事件Bの伏線になっている。沙都子は親友の波香が何を調べまわっているのかさっぱりわからない、ただ、剣道部の後輩に部員の履歴書があったら見せろと頓珍漢な要求をしたことだけ耳にしている。そんなところへ同じグループの友人の牧村祥子が死ぬ(事件A)。
祥子は藤堂正彦の恋人であり、波香の隣の部屋に住んでいた。自殺か他殺か警察も両方の可能性ありと捜査を始める。加賀の父親は警察官、どこか父親に似たところがあるのか嗅覚が鋭く、事件に興味をもち自殺か他殺か友人の死の真相が知りたくて捜査し始める。小説の冒頭で加賀は沙都子に「結婚したい」と自分の意志を一方的に表明している。返事はいらないという、自分の気持ちを伝えたかったと言い添えた。沙都子に否やはないはずだが、なぜか返事に躊躇している。「卒業するまでには・・・」。
もう二人重要な登場人物がいる。テニス部の若生(わこう)勇と伊沢華江である。同じ高校の出身で大学生になって付き合っている。その役回りは、加賀恭一郎の謎解きの部分を読んでもらいたい。
この人の作品を読むのは2冊目だが、実によく計算されているようにわたしには見える。絵の具を塗る前に何枚もデッサンがなされたのではないだろうか。デッサンが細部までなされた結果、それが作品の骨格を確実なものに仕上げているように見える、職人仕事といってよい。デッサンに忠実に肉付けして作品を仕上げていく力技にも感心する。小説を書きたいと思う人にはオーソドックスな意味で参考になる本だとわたしは感じた。デッサンをせずにいきなり書き始める夢枕獏の書き方が東野圭吾の対極にある(夢枕氏の場合は、主人公が勝手にストーリーをつむぎ出す)。
紋切り型ではない東野氏独特の表現が時々顔を出すので、それを見つけるのも楽しみで、たとえば、次のような文がそうだ。
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そのときドアが開いて、藤堂が姿を見せた。
「待たせたな」と感情のこもらない声で言う。表情の変え方を忘れてしまったのかと思うほど、彼の顔は大雨の前のように曇ったきりだった。 ・・・p.38
加賀はバリバリに乾いた唇を舌で舐めながら藤堂の様子をうかがった。藤堂はまるで彼の話を訊いていないかのように、何の反応も示さない。駅のホームに立って、最終電車を待っているような調子だ。 ・・・p.320
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少し表現が硬いようにも感じられるが、「東野風」でいい。
結婚したいと加賀が沙都子に言い放ってからしばらくして、高校時代の恩師で茶道の師匠でもある南沢雅子を訪ねてお茶を飲むシーンで、ラストへの伏線が引かれる。相原沙都子の両親のところへ挨拶に行く時期を加賀が先生に問われて、次のように答えるのだが、横で話を聞いている沙都子の切り返しがいい。返事は決まっているのだが、じらすのである。恋の駆け引きだったはずが、切り返しの言葉が予想もしない結末になる。
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二口目を味わっていた彼は茶碗から顔を上げた。そして隣の沙都子を見た。彼女は知らない顔をしている。彼は答えた。
「自分の希望がこうだと言ったまでです。彼女にそれを要求したのではないし、回答を求めたのでもありません」
「回答は出すわ」
沙都子が言った。「卒業までには必ず」
「卒業まで・・・か」
加賀はため息をついた。「まるで何かいいことでもあるみたいに思っているんだな。卒業したら過去が消えるとでも考えているのかい?」 ・・・p.289
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卒業で何かが変わるわけではないから、いま結論を出したって同じだからいいだろうと、加賀が促している。高校時代からの友人の祥子が殺され、ついで親友の波香が殺されている。全員が高校時代に南沢雅子に茶道の手ほどきを受けており、悩みがあると各自がこうして師匠の雅子を訪れお茶を飲みながら悩みを打ち明けていた。茶道の師匠である雅子の洞察はこころの奥深くまで届く。
「卒業までには必ず」と沙都子が言ったことが別のシーンで加賀に利用される。今度は加賀が沙都子に事件の解決の時期を問われて、「卒業までには」と答えるのである。ジグゾーパズルの最後のピースのようにしっかりはめ込まれるようにつくられている。そこら辺りが職人技で、東野氏はこういうことが実に上手だ。
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「はっきりしたら必ず連絡するさ。今度話するときは、すべての謎が解けた時だと考えてもらってかまわない。それまでは決して電話しないさ。正直言って、沙都子の家に電話するのは苦手だしな」
沙都子が何か反論しようとした時、電車はちょうど彼女が降りるべき駅に到着した。彼女は膨れっ面をして立ち上がりながら、「いつごろになるの?」と訊いた。
「卒業までには必ず」
そして加賀はにっこりと笑って見せた。沙都子は彼の方を睨みつけながら車両を降りた。・・・p.292
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恋の駆け引きで、「技あり」をとられた加賀が、今度は「一本」とり返した。加賀が「にっこり笑って見せた」のは頭の中に剣道の試合がイメージにあったからだろう。さあ、試合はイーブン。
ラストシーンが秀逸だ。何も解説せずにさらりと、余韻のある終わり方をしている。加賀の父親は警官である。母親は仕事に没頭してほとんど家に帰ってこない夫に愛想をつかして家を出ていってしまった。加賀は凄腕の佐山刑事よりも鋭い勘と観察力で事件の真相に先にたどり着いてしまう。大学剣道の全国大会で優勝した加賀が、自分と結婚したら、躊躇なく教師の道を選ぶと沙都子は確信している。沙都子と幸せな家庭を築くために加賀は警官の道を断念する。ところが加賀は刑事として捜査に特別な才能をもった人間であることを沙都子は友人の自殺と殺人事件を通して知ってしまった。こうして二つの事件が沙都子の判断を変えた。類い稀な加賀の才能を活かすためには結婚できない、愛する加賀の資質の芽を摘みたくなかった。
なんとも美しく悲しい終わり方ではないか、二人の凛とした心のありようが伝わってくる。オホーツクに沈む大きな落日を眺めるようだ。卒業式の日のこのシーンがラストである。
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「訊いていい?」
と沙都子は訊いた。いいよと答えるかわりに、加賀はフライド・ポテトを口に入れる手を止めて彼女を見た。
「いまでもあたしと結婚したいと思っている?」
彼はポテトを口に放りこんだ。「思っているよ」
「そう・・・・・ありがとう」
「残念だな」
「残念だわ」
ご馳走様と加賀はマスターを呼んだ。代金をカウンターに置いて、彼は椅子から降りた。カウンターの上では、例のピエロが皆から忘れられたまま愛想笑いを浮かべている。サイホンの熱に刺激され、ピエロはほんの少し首を振った。 ・・・p.365
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「そう・・・・・ありがとう」、それだけで加賀は沙都子の返事の意味を十全に理解した。間のあき方で感じたのか、声の調子で感じたのかはこれだけでは読み取れない。しかし、加賀には確かに伝わった。二人の阿吽の呼吸を作者はラストシーンで初めて書いた。この二人は大学を卒業するまで付き合っているのにまだエッチもしていないのである。波香も祥子も男女関係には奔放なところがあったのに、沙都子はそうではなかった。こんなすばらしいカップルなのに、・・・「残念だな」「残念だわ」、というのはこのシーンの読み手の感情でもある。読者の心理まで計算して、加賀と沙都子の気持ちに読み手の気持ちを重ねた。計算しつくされているのである。
このピエロは形状記憶合金でできた針金で作られている。大学の研究室で形状記憶合金をトリックに利用した「永久機関」の製作者が作成したものである。藤堂が祥子の部屋に通うために寮の物置の窓に形状記憶合金で仕掛けをしたのを示唆したくて、同じ研究室の研究生に頼んで加賀がつくってもらった物だ。温度が変わるとピエロは動く。このピエロは事件を解く重要な鍵だった。御用済みのピエロがサイホンの熱にあぶられて、加賀にさようならをいうようにかすかに動いた。
<余談-1: 1986年のころ>
この本が出版された1986年はSRLへ上場準備要員として入社して2年目、統合会計情報システム(経理及び支払いシステム・購買在庫管理システム・原価計算システム・売上債権管理システム・固定資産管理システムがインターフェイスしていた)のうち、担当した「経理及び支払い管理システム」と「各システム間インターフェイス」を8ヶ月で開発を完了(外部設計書と実務フロー図とテストデータ作成は2ヶ月、各システムとのインターフェイス仕様書は1週間、ベンダーによる内部設計とプログラミングにその後5ヶ月、現行システムとのデータ突合に1ヶ月間を要した)し、ノートラブルで本稼動。その後、新システムで全社の予算編成作業を統括していた。固定資産管理台帳記載の全物件を実地棚卸しして百数十に記載名称を分類、投資予算を入力することで予算減価償却費が計算できるように、固定資産管理システムを作り直した。予算減価償却費が1億円以上も外れて、利益計画がぶれて上場要件に引っかかるので、工夫が必要だった。固定資産の細目分類と名称の統一、そしてあらたな実務デザインが必要だったのである。当時は統合パッケージシステムがまだ出現していなかったから、外部設計書を書いて、全部造り込みだった。統合パッケージシステムを独自開発したようなもの。
仕事はどれも一区切りがついていた。担当した業務ごとに実務フロー図を作成し、作業マニュアルも作ったから、あとは誰でも引き継げる、そういう時期だった。自分の担当した業務はすべて大幅に変更、システム化できていないものはシステム化し、システム化ができているものは精度を上げると同時に他システムとの連結可能なレベルに作り直し。システム間のインターフェイスを前提にした実務設計が得意だった。
SRLにいた間は経理部⇒総務部購買課(八王子ラボ)⇒学術開発本部⇒関係会社管理部⇒CC社へ役員(経営企画担当)出向⇒本社管理会計課⇒子会社Tラボへ出向(経理部長)⇒帝人との合弁会社へ役員(管理部門及びシステム担当)出向、新会社の黒字化や合弁解消、帝人臨床検査子会社買収の三つの課題を3年の期限内に完了、50歳で早期退職。さまざまな部門と仕事を経験したが、仕事のやり方は一貫して、システム化あるいはそのレベルアップによる経営改善だった。システム化はすさまじい精度向上と省力化(生産性向上)を同時に実現する。後に関係会社管理部で千葉ラボのラボシステム開発で劇的な収益改善を経験することになる。臨床検査のことがいろいろ分かり始めて、仕事がますます楽しくなりつつあったなつかしい1986年。
<余談-2>
東野圭吾や山田悠介の作品に耽溺していた中学生の男子生徒がいた。小さいそろったきれいな字を高速で書けた。中3のときに数学を強化したいと入塾してきた生徒だが、学力テストの国語の点数が毎回90%を超える特異な生徒、末が楽しみだった、釧路湖陵に進学し卒業したが大学には進学しなかったという。高校でも部活をがんばっていたので、文武両道ができなかったのだろうか?高校での学力の伸びに期待していた。
何がいいたいかというと、この程度のレベルの小説は中学生の内に濫読しておけということ。高校生ではもっと語彙のレベルの上がったものや難易度の高いものにチャレンジすべきだ。この程度のレベルの本では残念ながら、全国模試でいい成績は取れない。
しかし、東野圭吾の作品はなかなかよくできている、小説家を志す高校生にはよいテクストだろう。
<余談-3:中学生へ>
「東野風」と思われる表現全部に緑色の線を引け。
ebisuが中学校あるいは高校の国語教師なら、次の夏休みの宿題を課す。
「東野圭吾の小説を一つ選び、「東野風」の表現の箇所に緑色の線を引き、提出すること」
だれが、どこに引いたのか確認する作業は楽しいだろう。生徒の読書量とセンスが結果にでる。
<余談-4:9隻帰港するも根室はサンマの水揚げなし>
サンマの初水揚げがあった。釧路港である、初値は15,500円/kg。例年の2倍の価格がついた。1尾150gとすると2000円だ。
根室花咲港にも9隻の船が戻ったが、鯖と鰯だけでサンマの姿はなかった。最初の内は不漁でも、流し網が終わり、棒受け網漁が始まる8月半ば過ぎからは大漁となることが多い。釧路港でテレビに映った漁船員は高値に歓ぶ一方で、量が少ないことをいぶかしむ複雑な表情だった。
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#3057 Alice's Adventures in Wonderland 『不思議の国のアリス』 Jun. 8, 2015 [44. 本を読む]
<更新情報>
6/10 11時 <マザーグースより> ハンプティダンプティを追記
高校の前期中間テストが先週土曜日に終わった。根室高校はこれから約1ヶ月間学校祭準備に入る。仮装ダンス衣装の準備やら、ダンスの練習が忙しくて、来週からは塾に来るのもままならぬ。クラス対抗だから、最後の思い出作りに高3年生は気合が入るから、その分受験勉強はお留守となる。受験生がこれでいいのかと首を傾げたくなる根室高校特有の現象にはもう慣れてしまった。8月9・10・11日の金刀比羅神社のお祭りまで、お盆(7月13日から)や港祭り、花火大会と行事が続くので、気分は浮かれたまま、勉強が手につかぬ。
三年間毎年繰り返すから、ほとんどの生徒が潜在的な能力よりもワンランクかツーランク下の大学に進学することになる。学力が弱くて専門学校へ進学せざるをえなくなる生徒も多い。高校生になっても進学にはさっぱり緊迫感のないのが根室の高校生の特質である。
その根室は朝夕に霧が出る季節になった。最低気温は7度、最高気温は10-18度程度、日本で一番涼しく過ごしやすい季節が到来、勉強にはもってこいなのだが・・・。全国レベルで大学進学を考えたら、優先順位が間違ってはいないか、高校生が優先すべきは学校祭やお祭りではないはず。
優先順位を適確に判断して行動できない者は就職してから確実に落ちこぼれる、高校時代に悪い癖をつけてはいけない。高校の先生たちはどう考えているのだろう?
とにかく試験が終わったと高校生3年生がまったりしている。4月の進研模試と5月の全統模試(河合塾)の結果表を見て、課題を再確認した。
すぐに勉強には手がつかない、本棚から『不思議の国のアリス』を取り出して1時間ほどで読み終え、ようやく数学の問題を解いていた(いま使っている問題集を2回やり、青チャートを2回やれば、希望の大学への進学は120%かなう、簡単な話なのだが・・・)。
原著を探し出して、生徒の横に置いておいたが、こちらはぱらぱらめくっただけ、あまり興味がなさげで空振り。原著の言葉遊び、奇想天外な物語の裏に込められた当時の社会風刺、数学的なパズルなど、読み手の教養に負うところが大きい。当時の英国を知れば知るほど『不思議の国のアリス』の奥行きの深さがわかってくる。
わたしはマザーグースの歌を知らないが、知っている人にはまた別の情報が読みとれる。マザーグースや聖書も読まずにアリスを読むなんてと笑われそうだが、たぶんその辺りは後志のおじさんが詳しい。子供向けでありながら、大人が十分に楽しめるのがこの本。
原著は英国で150年ほど前に書かれた、子ども向け「9-12歳対象」の本である、英国では聖書やシェークスピアに次いで読まれているという。著者はオックスフォード大学の数学の講師。本の名前は知っていても、読んだことのある中・高校生は少ないだろう。
高速読みも良いが、ふんだんに出てくるなぞなぞや詩をゆっくり噛むように読むのもおもしろい。何を風刺しているのかを考えながら読むのも一興。
英語で書かれた詩を日本語の詩に訳すのは至難の業、日本語で韻を踏んでるところなど、翻訳者は日本語の言葉選びにずいぶん力を入れているようにみえる。英詩の音韻などかまわないからすっかり無視して、日本語特有のリズム、五七調の歌に置き換えたらどういうことになるのか見てみたい。
この本は言葉遊びが随所でなされているからそれをどのような日本語に置き換えるかも腕の見せ所。だからところどころでも原著の英文を確認しながら読めば楽しさは百倍となる。翻訳のむずかしい本だ。
原著のほうは別の物語であるThrough the Looking Glass『鏡の国のアリス』も載っているので341ページある。
(『鏡の国のアリス』にはマザーグース由来のキャラクターがいくつか出てくる。お馴染みなのは卵のハンプティ・ダンプティ)
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<マザーグースより>
Humpty Dumpty sat on a wall,
Humpty Dumpty had a great fall;
All the king's horses,
And all the king's men,
Couldn't put Humpty together again.
ずんぐり卵のハンプティ・ダンプティ 塀に座った
ずんぐり卵のハンプティ・ダンプティ おっこちて割れちゃった
王様の馬ぜんぶでも
王様の家来ぜんぶでも
ハンプティを もとにはもどせやしない
斉藤孝『からだを揺さぶる英語入門』より引用
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王様だって偉そうにしているけれど、割れた卵ひとつだって元に戻せやしないんだ。当たり前のことを言っているように見えながら、身分制社会の理不尽さやばかばかしさがマザーグースの中に垣間見えてくる。
優れた本を一冊読めば、
読みたい本が10~20冊は増える、
人生は短く、読みたい本は増え続ける
・・・ebisu
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わたしがもっている古いPUFFIN BOOK版(ISBN 0 14 03.0169 0)が見当たらないので、別のものを挙げる。2冊目のほうは92枚の水彩画が追加されている。
Alice's Adventures in Wonderland and Through the Looking Glass
- 作者: Lewis Carroll
- 出版社/メーカー: Seven Seas
- 発売日: 2014/08/19
- メディア: ペーパーバック
Alice's Adventures in Wonderland (Puffin Classics)
- 作者: Lewis Carroll
- 出版社/メーカー: Puffin Books
- 発売日: 2008/06/19
- メディア: ペーパーバック
150年前に出版された『不思議の国のアリス』にはさまざまな研究がなされているから、興味のある方はこちらもどうぞ。著者のルイス・キャロルはペンネームで、オクスフォード大学の数学講師であるチャールズ・ラドウィッチ・ドッドソンが著者。だから、数学に焦点を当てた研究もある。それも1冊もっていたはずだが、見つからない。しかたなく別のものをリストアップする。
不思議の国の“アリス”―ルイス・キャロルとふたりのアリス (求龍堂グラフィックス)
- 作者: 舟崎 克彦
- 出版社/メーカー: 求龍堂
- 発売日: 1991/07
- メディア: 大型本
マザー・グースの唄―イギリスの伝承童謡 (中公新書 (275))
- 作者: 平野 敬一
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 1972/01
- メディア: 新書
#3055 『配信せずにはいられない』山田悠介著 Jun. 6, 2015 [44. 本を読む]
物語は孝広の三人称の語りで進行して行く。主な登場人物は、幽霊の弟孝平君、そして同級生の橋本陽介(長身)、サブ主人公の「ピザ豚まん」そして孝広の4人である。
「○○やってみた」という実験動画を制作してみないかとピザ豚まんが提案して、3人でレインマン202というユニットを組み役割分担してやっていたが、たくさんのリスナーに見てもらいたくて、ピザ豚まんがどんどん先鋭化していき、人の心理の負の側面がしだいに明らかになる。ピザ豚まん本人にも、主人公の孝広にも、リスナー獲得のために先鋭化がとめられない。ネットのもつ、一種の狂気がテーマなのだろうか。
物語はピザ豚マンが学校の屋上から飛び降りて怪我を負って入院しているシーンで終わっているが、その病室には新品のノートパソコンがあり、小型カメラが取り付けられていて、レンズはベッドに寝ているピザ豚まんをとらえている。著者は続編を書くつもりのようだ。
ピザ豚まん君には怪我が治ったら、国立久里浜医療センターのネット依存治療部門TIARに転院して、デジタル・デトックス治療を受けるように勧めたい。(笑)
現実にネット中毒者による事件が起きているが、ネット中毒者を対象とした専門心療内科は国立久里浜医療センターのみ。ネット中毒は覚醒剤やタバコ、そしてアルコール中毒、パチンコ中毒患者と変わらない。都道府県単位で専門診療外来を整備すべきだ。人口10万人以上の市にもあったほうがいい。
ネットで検索したら、「ネット依存症 事件・事例」のリストが出てきた。
・http://www.angels-eyes.com/net_b/case.htm
弊ブログでも2週間ほど前にネット中毒をとりあげたことがある。
*#3047 ネット依存症診断:ヤング博士の8項目の質問票 May 21, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-05-21
著者は若い人だから、ネット問題に感度がよいのだろう。たぶんこのジャンルの開拓者の一人なのだろう、人間の心理の暗闇の側面とネット中毒が生み出す狂気を巧みに描いてはいる。
スマホやパソコン、オンラインゲーム機の受動的な利用から、ブログ、ツィッター、動画配信という能動的なネット利用へ踏み込んでいる若い人たちが、自分の状況を客観的にみつめる契機になることを期待したい。
ネット利用をテーマにした娯楽本だから、小学生高学年から中学生向き、若い人たちが食いつきやすいジャンルである。もう20冊も書けば大きく成長する作家かもしれない。作家も職人であるから、仕事をする中で腕をあげていくものもいるし、そうではないものもいる。若い割にはずいぶんな冊数をすでに書いているから、このレベルで成長がとまってしまう危惧もある。
最近読んだ東野圭吾の『マスカレード』と「職人の腕」という点から比べてみると、遠く及ばない。シリーズを重ねることでさらなる成長を期待したい。
<余談>
著者は高校卒業後アルバイトをしながら本を書いていたようだ。大会社で社員としての勤務経験がないから、東野圭吾の『マスカレード』のように、会社組織内部の人間関係やマネジメントのあり方などを織り込んだ「重厚な」ストーリーは書けそうもない。
しかし、せっかくいくつか経験したであろうバイトが生きるようなシーンが小説に出てくるようになれば、うすっぺったらな印象がなくなり、奥行きのある小説書きになるかもしれぬ。
高校生が山田悠介レベルの本しか読んでいないとしたら、国語は進研模試で偏差値40前後だろう。もっと語彙数の多い文学作品や岩波新書そして中公新書などにチャレンジすべきだ。
<余談-2:類似の事件がすでに起きていた> 6/10 午前1時追記
わたしはものを見ているようで、重要なものを案外見落としている。小説と現実の事件のリンクがとれていないのは、ある種のセンスの欠如だろう。センスのよいペトロナスさんが、類似事件がすでに起きていることをコメントしてくれた。産経ニュースの後段部分(太字)もご覧いただきたい、まるで小説の中の一シーン。著者の山田悠介氏は先見の明があるようだ。
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先月逮捕されたドローンの少年がリスナーを集めるために、過激な生配信をしていたのを思い出させるような作品なのかなと思います。
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6/8 産経ニュースより
「手を汚すことなくスリルを」 ドローン少年を事件に駆り立てた「囲い」とは 資金援助、十数人から計73万円」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1506/08/news040.html
「ドローン」の飛行を示唆した少年が逮捕された事件をめぐり、少年を支援していた「囲い」と呼ばれる存在が浮かび上がっている。少年の口座には、計十数人から73万円もが振り込まれていた。
「明日も放送してね」「強気でいこうぜ」。少年が浅草の三社祭でドローンを飛ばすことを示唆した動画の画面には、視聴者からこんなコメントが表示された。「だめだよ」「やめとけ」といった忠告の方が多かったが、少年が警察などから再三の注意を受けていたことを知った上で、その行為をおもしろがっていた視聴者も数多くいたとみられる。・・・
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【文庫】 配信せずにはいられない (文芸社文庫 や 2-7)
- 作者: 山田 悠介
- 出版社/メーカー: 文芸社
- 発売日: 2015/04/04
- メディア: 文庫
#3054 『ガンゲイルオンライン-1 スクワッド・ジャム』 Jun. 4, 2015 [44. 本を読む]
これも生徒が貸してくれた本の中の一つで、時雨沢恵一という作者の作品である。川原礫のSAO(ソードアートオンライン)の枠組みをそっくりいただいて、別の主人公がフルダイブ型のオンラインゲームを楽しむ物語である。内容も日本語語彙も文章表現も小学生高学年レベルの本である。
ゲームの中身が人対人の殺し合いをいうところがSAOとは異なる。こういうゲームが開発されたら、兵士のトレーニング用に使われるだろう。
この本(シリーズ)は完全な娯楽本で読解力や語彙力強化にはまったく寄与しない、ほとんど漫画の本に近いレベル。面白いことは間違いないが、深みのない面白さといえば伝わるだろうか。
中学生がこういうレベルの本しか読んでいないとしたら、日本語語彙力が貧弱で高校生になって全国模試を受験したときに、国語・数学・英語はともに偏差値40(全国レベルで百人中84番)以下になるだろう。数学の問題は文意を捉えられない。国語の論説文はスピードと難易度の両方で手も足も出ないということになる。日本語ができなければ、まして英語は・・・ということになる。正答できるのはネイティブの小学生レベルの日常会話文に限定されることになるだろう。
ところで、表紙に主人公がP-90というピンク色に塗られた銃が描かれているが、生徒がの一人がたまたま偶然にもっていた。スマホから銃を構えた写真を引っ張り出して見せてくれたが、同じ型の銃だった。電気銃で色はクロ。
大正10年生まれだったオヤジのアルバムの中に、落下傘部隊に所属していたときの写真が何枚かあったが、よく手入れされた真っ黒い機関銃に二本足をつけて地面に固定して構えているものがある。黒い外套を着て映画のシーンのような写真だった。銃を構えた若いころのオヤジは映画俳優のようなイケメンで精悍な顔つきをしている。さすがは陸軍最強の秘密部隊のメンバー。
この物語ではさまざまなタイプの銃がでてきて、その都度説明がなされているが、オヤジが構えていた真っ黒い機関銃のような凄みや重みが文章からはちっとも伝わってこなかった。所詮はオンラインゲームの世界の創りごとだから、現実感が薄くてよいのかもしれないが、文章表現次第ではなかっただろうか。オンラインゲームであろうとも、毎日十分に手入れされた銃の凄みを伝える文章表現力をもってもらいたいと思った。
<新潮社の百冊>
1976年から毎年公表されているが、年々レベル低下しているような・・・、「2014年版新潮社の百冊」を紹介する。2番目のURLはウィキペディア。37年間で25回以上選ばれた作品22冊のリストがあるので、高校卒業までにこちらは全部読み、使われている語彙の幅の広さを体験してもらいたい。
http://100satsu.com/
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E6%96%B0%E6%BD%AE%E6%96%87%E5%BA%AB%E3%81%AE100%E5%86%8A
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その他、2012年までの37年の間に25回以上選出された作品は、以下の通り。
- 芥川龍之介 『羅生門・鼻』 - 35回
- 芥川龍之介 『蜘蛛の糸・杜子春』 - 29回
- 安部公房 『砂の女』 - 32回
- 井上靖 『あすなろ物語』 - 26回
- 遠藤周作 『海と毒薬』 - 28回
- 遠藤周作 『沈黙』 - 28回
- 梶井基次郎 『檸檬』 - 34回
- 川端康成 『伊豆の踊子』 - 30回
- 川端康成 『雪国』 - 31回
- 高村光太郎 『智恵子抄』 - 30回
- 太宰治 『斜陽』 - 26回
- 谷崎潤一郎 『痴人の愛』 - 33回
- 壺井栄 『二十四の瞳』 - 28回
- 中島敦 『李陵・山月記』 - 25回
- 夏目漱石 『坊っちゃん』 - 29回
- 三島由紀夫 『金閣寺』 - 36回
- 武者小路実篤 『友情』 - 31回
- 森鴎外 『山椒大夫・高瀬舟』 - 27回
- ゲーテ 『若きウェルテルの悩み』 - 25回
- サガン 『悲しみよこんにちは』 - 25回
- コナン・ドイル 『シャーロック・ホームズの冒険』 - 29回
- リチャード・バック 『かもめのジョナサン』 - 31回
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<余談> ・・・4日7時追記
わたしはこの本を小学生や中学生の皆さんに薦めているわけではない。好奇心をもっていろんな本を読むこと自体はよいが、新潮文庫の22冊に挙げられている本くらいは中学生の内に全部読み切ってもらいたい。
koderaさんがわが意を強くする投稿を寄せてくれたので紹介したい。
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私なら子供にこんな本やゲームは買わせません。お小遣いをあげないからです。もっとも今でも孫にお年玉もあげません。
私は、私に将棋で勝ったときにあげます。二枚落ちプラス香桂落ちですが。いい勝負なのです。孫は貯金しています。
娘には、嵐が丘や小説十八史略や、漫画でもキャプテンやプレイボールなら買ってあげました。
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孫と飛車角桂香落ちで将棋が指せるというのはアマ2段以上、おそらく4段クラスの棋力だろうから、定石と基本手筋は一通り教えられる。こういうお祖父さんがいたら将棋好きな孫は幸せ者。
じつは家に電気銃「P-90」がある生徒も将棋が大好きだ。お父さんにはぜんぜんかなわないと言っていたが、4枚落ちではなく2枚落ち。将棋好きでも本を読まない子どもは棋力がなかなか上がらないし、定石や基本手筋に習熟することができない。学力の高い生徒は将棋の解説書を読むから、読み出すと急激に棋力が上がってしまう。理論研究をする者は上達が速い。
(将棋が好きな生徒には将棋の本を貸してあげたり、あげたりすることがある。私はビリヤードが趣味だから、書き溜めたセミプロの技術ノート(配置図面とコツを描いたもの、中にはスリークッション世界チャンピオンの小林先生に教わったものもある、昭和天皇のビリヤードコーチだった吉岡先生の短クッションを折り返すアメリカンセリも)を体育系の部活をやっている生徒にみせることがある。理論研究の大切さを知ってもらいたいからだ。)
漫画の本にも名作は数が多い。koderaさんが挙げたものの他に、手塚治『鉄腕アトム』『釈迦』『不死鳥』『ブラックジャック』等々、斉藤タカオ『ゴルゴ13』(高校同級生の神田猛が斉藤タカオの一番弟子)、『タッチ』などがすぐに思い浮かぶ。日本の漫画の本はレベルの高いものが多いので、それらを読むことは否定しないし、私自身もスキルス胃癌で入院したときまで漫画の週刊誌をずっと読み続けたきた。中学1年生のときに少年マガジンと少年サンデーが発売された、そのとき以来44年間週刊漫画誌のファンであった。いまの子供たちは、ゲームや漫画の本に夢中になるとそこからレベルを上げていくものが少ないので心配している。好奇心が旺盛で、学力が上がってくれば日本語語彙の貧弱な本は飽きてくるというのが自然だ。ところがいつまでもレベルが上がらない者が多い。そういう子どもたちは、精神的にもひどく幼児化している。読む本のレベルを上げて精神の成長を育んでもらいたい。
*#2882 ソードアートオンライン007 マザーズロザリオ Nov. 26, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-11-26
#3051 『ソードアートオンライン・プログレッシブ』001~003を読む May 31 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-05-31
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