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#3055 『配信せずにはいられない』山田悠介著 Jun. 6, 2015 [44. 本を読む]

 どういう本を中高生が読んでいるのかを知りたくて、塾生が読み終わった本を借りて読んでいる。山田悠介(34歳)の本は中高生に広く読まれているが、わたしははじめて手にとった。この本にはネット中毒に関する極端な症例(?)が描かれている。坂本孝広という人物の周辺を描いた一連のシリーズ物の最新作である。
 物語は孝広の三人称の語りで進行して行く。主な登場人物は、幽霊の弟孝平君、そして同級生の橋本陽介(長身)、サブ主人公の「ピザ豚まん」そして孝広の4人である。
 「○○やってみた」という実験動画を制作してみないかとピザ豚まんが提案して、3人でレインマン202というユニットを組み役割分担してやっていたが、たくさんのリスナーに見てもらいたくて、ピザ豚まんがどんどん先鋭化していき、人の心理の負の側面がしだいに明らかになる。ピザ豚まん本人にも、主人公の孝広にも、リスナー獲得のために先鋭化がとめられない。ネットのもつ、一種の狂気がテーマなのだろうか。
 物語はピザ豚マンが学校の屋上から飛び降りて怪我を負って入院しているシーンで終わっているが、その病室には新品のノートパソコンがあり、小型カメラが取り付けられていて、レンズはベッドに寝ているピザ豚まんをとらえている。著者は続編を書くつもりのようだ。

 ピザ豚まん君には怪我が治ったら、国立久里浜医療センターのネット依存治療部門TIARに転院して、デジタル・デトックス治療を受けるように勧めたい。(笑)
 現実にネット中毒者による事件が起きているが、ネット中毒者を対象とした専門心療内科は国立久里浜医療センターのみ。ネット中毒は覚醒剤やタバコ、そしてアルコール中毒、パチンコ中毒患者と変わらない。都道府県単位で専門診療外来を整備すべきだ。人口10万人以上の市にもあったほうがいい。

 ネットで検索したら、「ネット依存症 事件・事例」のリストが出てきた。
http://www.angels-eyes.com/net_b/case.htm

 弊ブログでも2週間ほど前にネット中毒をとりあげたことがある。
*#3047 ネット依存症診断:ヤング博士の8項目の質問票 May 21, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-05-21

 著者は若い人だから、ネット問題に感度がよいのだろう。たぶんこのジャンルの開拓者の一人なのだろう、人間の心理の暗闇の側面とネット中毒が生み出す狂気を巧みに描いてはいる。
 スマホやパソコン、オンラインゲーム機の受動的な利用から、ブログ、ツィッター、動画配信という能動的なネット利用へ踏み込んでいる若い人たちが、自分の状況を客観的にみつめる契機になることを期待したい。

 ネット利用をテーマにした娯楽本だから、小学生高学年から中学生向き、若い人たちが食いつきやすいジャンルである。もう20冊も書けば大きく成長する作家かもしれない。作家も職人であるから、仕事をする中で腕をあげていくものもいるし、そうではないものもいる。若い割にはずいぶんな冊数をすでに書いているから、このレベルで成長がとまってしまう危惧もある。
 最近読んだ東野圭吾の『マスカレード』と「職人の腕」という点から比べてみると、遠く及ばない。シリーズを重ねることでさらなる成長を期待したい。

<余談>
 著者は高校卒業後アルバイトをしながら本を書いていたようだ。大会社で社員としての勤務経験がないから、東野圭吾の『マスカレード』のように、会社組織内部の人間関係やマネジメントのあり方などを織り込んだ「重厚な」ストーリーは書けそうもない。
 しかし、せっかくいくつか経験したであろうバイトが生きるようなシーンが小説に出てくるようになれば、うすっぺったらな印象がなくなり、奥行きのある小説書きになるかもしれぬ。
 高校生が山田悠介レベルの本しか読んでいないとしたら、国語は進研模試で偏差値40前後だろう。もっと語彙数の多い文学作品や岩波新書そして中公新書などにチャレンジすべきだ。


<余談-2:類似の事件がすでに起きていた> 6/10 午前1時追記
 わたしはものを見ているようで、重要なものを案外見落としている。小説と現実の事件のリンクがとれていないのは、ある種のセンスの欠如だろう。センスのよいペトロナスさんが、類似事件がすでに起きていることをコメントしてくれた。産経ニュースの後段部分(太字)もご覧いただきたい、まるで小説の中の一シーン。著者の山田悠介氏は先見の明があるようだ。

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先月逮捕されたドローンの少年がリスナーを集めるために、過激な生配信をしていたのを思い出させるような作品なのかなと思います。

by ペトロナス (2015-06-09 22:49) 

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6/8 産経ニュースより
手を汚すことなくスリルを」 ドローン少年を事件に駆り立てた「囲い」とは 資金援助、十数人から計73万円」
http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1506/08/news040.html

「ドローン」の飛行を示唆した少年が逮捕された事件をめぐり、少年を支援していた「囲い」と呼ばれる存在が浮かび上がっている。少年の口座には、計十数人から73万円もが振り込まれていた。

小型無人機「ドローン」の飛行を示唆し東京・浅草神社の三社祭の運営を妨げたとして横浜市の無職少年(15)が逮捕された事件をめぐり、少年を支援していた「囲い」と呼ばれる存在が浮かび上がっている。警視庁には少年のファンを名乗る男性が「少年の口座に25万円を振り込んだ」と話しているほか、複数の人物が現金やギフト券で約33万円分を支援したことが分かっている。同庁が金の流れなども慎重に調べている。・・・

 「明日も放送してね」「強気でいこうぜ」。少年が浅草の三社祭でドローンを飛ばすことを示唆した動画の画面には、視聴者からこんなコメントが表示された。「だめだよ」「やめとけ」といった忠告の方が多かったが、少年が警察などから再三の注意を受けていたことを知った上で、その行為をおもしろがっていた視聴者も数多くいたとみられる。・・・




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【文庫】 配信せずにはいられない (文芸社文庫 や 2-7)

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  • 作者: 山田 悠介
  • 出版社/メーカー: 文芸社
  • 発売日: 2015/04/04
  • メディア: 文庫

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コメント 2

ペトロナス

先月逮捕されたドローンの少年がリスナーを集めるために、過激な生配信をしていたのを思い出させるような作品なのかなと思います。


by ペトロナス (2015-06-09 22:49) 

ebisu

ペトロナスさん

真夜中ですが、こんばんは。
例の事件の少年はリスナーを集めたくて、ドローンを使って生配信していたのですか。やめられませんね、リスナーが増えて面白くて。
すでに現実になっていたのですね。

ある数の読者数を確保することが、自己目的化してしまうという傾向はブログにもあります。何のために書くのかという意味を不断に問わなければなりません。
平々凡々、坦々とやるのがよさそうです。
by ebisu (2015-06-10 01:32) 

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