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#5232 中国の過剰生産問題とグローバリズムの終焉 May 13, 2024 [A2. マルクスと数学]

 中国製造業の過剰生産能力が問題になっていますが、槍玉に挙がっているのは新産業分野です。たとえば、EV車、太陽光パネル、通信、半導体関連です。
 これらの先端産業分野は欧米が危機感を持っているから、槍玉に挙げられているのでしょう。
 実は住宅建設も過剰生産ですが、これは直接欧米経済への影響はありませんから他人事です。しかし、巨額不良債権処理を決定したら、金融面で影響は避けられないのでしょうね。

 習近平政権は中国に過剰生産問題はないと火消しに躍起になっていますが、無理もないところがあります。理由は、共産主義の国には過剰生産問題は理屈の上ではあり得ないからです。
 商品の価値はそこに投下された労働量で決まるので、いくら生産してもかまわないのです。ところが、生産性が上がり、生産能力がアップすれば、実際に商品の過剰は生じます。
 建設途中で放棄された高層住宅群は労働価値説から考えると、それは労働が投下された商品生産です。ところが買い手はローンを組んでお金を先払い、建物は未完成のまま放置ということが起きています。そんな未完成の建物は市場では買い手がつかない。つまり商品としての価値がありません。こんな卑近な例からも、投下労働価値説は間違いだということがわかります。労働価値説が誤謬だということは、その前提の上に展開されている「資本家による労働者の搾取」という論も破綻するということです。マルクスの経済理論は市場を前提にすると現実には成り立たない妄想の産物だということです。彼は生涯にわたって、労働とかマネジメントをしたことがありません。頭の中で妄想していただけでした。でも『資本論第一巻初版』を出版した後、第二巻の草稿を書き進めて気がついたのだろうと思います。だから16年間沈黙を守って、『資本論第2巻』を出さずに亡くなっています。バカなエンゲルスが遺稿を編集して『資本論第2巻』と『資本論第3巻』をマルクスの死後に出版しました。

 マルクス『資本論』は経済理論としては矛盾、その結果論理的に破綻してます。経済的理論の基盤のない共産主義社会は経済社会としてはありえない幻想ということになります

 こうした政治体制と経済構造の捻じれは、中国では共産党が経済的に人民を搾取し、弾圧するという歪みとなって表れています。たとえば、地方から上海や北京に出てきた労働者たちは、「農村戸籍」で差別されています。都会で都会戸籍の人と同等の社会保障すら受けられません。大学進学でも農村戸籍の者たちは差別されています。
 何という皮肉でしょう、労働者は行政機構にも企業経営者にも文句すら言えません。言ったら警察が介入して逮捕されます。どういうわけか労働組合運動は共産主義の国では不可能です。
 企業経営で成功した者たちと、政治セクターに強いコネのある者たちが経済的な勝利者となり、そうではない者たちは貧困のどん底にあえいでいます。労働者のための国家であったはずが、生活改善を訴える労働者にや若者たちに警察や軍隊が牙をむく国家となっています。それが共産主義中国の政治体制と経済の捻じれの現実です。

 中国でも企業経営者はニーズのない商品が価値をもたないことは容易に理解できますが、政治セクターでは理解不能なのではないかと思います。それはマルクス『資本論』が投下労働価値説をとっているからです。政治セクターはマルクスの理論を否定すると自らの存在理由を失うので、否定できないのです。労働が投下されてつくられた商品は価値を持つというのが、政治セクターで仕事している人々の理解でしょう。マルクスの経済学説を否定することは中国共産党の自己否定につながりますから。共産党政権の経済理論上の正統性がなくなります

 ところが、市場のニーズを超えて生産された商品は無価値です。経済人には容易に理解できても、政治セクターの人々には無理です。そこで捻じれが起きています。捻じれとは何か、その一つが過剰生産にまつわる問題です

 国内で起きている高層住宅開発の大失敗、過剰供給問題は、その開発に地方の政治セクターが絡んで融資を行って開発を促進したことに起因します。経済の問題に政治セクターが絡むことでこのような問題が起きています
  日本でも類似の問題はありますね。東京オリンピックや大阪万博にまつわる建造物の大幅予算超過。市町村の第三セクターの赤字問題、政府関連外郭団体予算にまつわる問題など。半導体事業会社への兆円単位の補助金もそういう類のひとつでしょう。

 中国の生産能力はこの30年間ほどで飛躍的に増大しました。生産性が飛躍的に上がったことによって、新産業分野で過剰生産問題が起きています。国内市場だけではパイが小さすぎるのです。製造業の分野によっては世界市場の半分くらいを満たしうる生産能力をすでに手にしています。
 たとえば、太陽光発電パネルの生産能力はダントツに世界一で、すでに世界市場を席巻しています。電気自動車もそうなるでしょう。製造技術や生産性はすでに中国が欧米を上回ったいそうです。中国は国内の生産過剰から海外市場への販路を拓かないと経済発展が望めない、そういう曲がり角に来ています。
 欧米は経済覇権が中国へ遷ることを看過できません。

 グローバリズムは中国にとって最も有利な市場経済の在り方です。米国から、経済的覇権が中国へ遷る時代にわたしたちは生きています。中国の覇権を阻止するためにはグローバリズムをとめるということが選択肢に一つになっています。それは同時に米国が覇権を失うことでもあります。

 時代の要請から、わたしたちはグローバリズムの終焉を模索する必要があります。

 そうした視点から眺めると、日本が実にいい位置にいます。幅の広い、そして高品質な製品をつくるさまざまな製造業が日本にはあります。「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」というビジネス倫理もあります。
 日本の職人仕事と文化、さまざまな製造業のシステムとビジネス倫理を開発途上国に「輸出」したらいいのです。貿易は自国で清算できないものに限定します。欲望を抑え、つつましい生活をすれば、SDGsは可能です。
 四百年前から商道徳が根付いた日本にしかできないことだと思います。日本人は欧米や中国を向こうに回して、開発途上国と連帯し、グローバリズムと戦う肚(はら)を固めるべきではないでしょうか?

<余談-1:五反運動
 習近平氏の最側近である陳一新氏が中国共産党の幹部育成学校機関誌に「五反運動」を呼びかける記事を寄せています。毛沢東が1950年代初頭に行った「三反運動」や「五反運動」への回帰を促すものです。
●『反転覆』(政権を転覆させない)
●『反覇権』(覇権国家に対抗していく)
●『反分裂』(中国を分裂させない)
●『反恐怖』(テロを取り締まる)
●『反間牒』(スパイを取り締まる)
 この運動指示も共産主義という政治体制と実際の経済(資本主義)の捻じれを表す現象です。経済理論としては成立しえない共産主義経済社会を幻想のまま維持するには、労働者(人民)の弾圧しか手段がないのです、何という皮肉でしょう。共産党の正当性に異論を唱える者の自由を奪い、収容所送りにして強制労働させて「矯正」するしか手段がないのです。共産党が生き残るためなら何でもありです。


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