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根室市と4町に溝〈2〉(北海道新聞より) [21. 北方領土]

  2,008年6月29日   ebisu-blog#214 
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 6月28日付け北海道新聞朝刊の第2面と第28面の記事を紹介する。後者は釧路・根室地域版である。

 大義なき再編反発招く
   報道本部 久保田裕之

・・・
 しかし、地方が反発すると、再編の根幹である総合振興局の数を膨らませ、宗谷、後志に総合振興局を残した。これでは「置き去り」にされた根室や留萌、桧山、日高地方の住民が猛反発するのは当然だ。
 再編の主目的も、当初の「地域主権方社会に向けた体制整備」との説明が分かりにくく、理解を得られないと見ると、「財政再建のための行革」に変えた。だが、それならば、道町村会など地方4団体が主張した「全道一律のスリム化」ではなぜいけないのか理解しにくい。
 知事が反対を押し切る形で再編を急ぐ背景には、待ったなしの道の財政再建がある。・・・

《道東総合振興局を根室に誘致しよう》
 報道本部による署名記事である。この久保田氏の説とは違い、支庁再編案に大義があるとわたしは思う。狙いは最初から道庁の財政再建であった。それをストレートに言えないから、オブラートに包んで「14支庁体制が道民生活の実態に合わない」と作文したのだろう。
 支庁再編は誰の目から見ても財政破綻を避けるための政策の一つであることは明白だった。2010年に再建団体入りする可能性がある。言霊の国であるから悪い事態を言い辛い。実際に破綻するまで言えないのが当事者である。言えばそれが現実となりそうな気がする。夕張でもそうだったろう。
 道職員の半数がリストラされ、道立病院や道立高校の過半数が閉鎖されるような事態を避ける手立てをすることは当たり前のことだろう。
 そうは言っても、根室よりも面積の小さい宗谷支庁を総合振興局で残すのはフェアではないし、全支庁を一律にスリム化するという選択肢はあった。道庁が一律スリム化を嫌ったということだろう。道庁の自己都合である。この問題を掘り下げて行けば、道民不在の道庁の自己保身の姿が見えてくるだろう。
 宗谷支庁は扱いに困ったのではないだろうか。道北総合振興局に統合してしまうと道北総合振興局の面積が広くなりすぎる。かと言って、網走に統合はできない。鉄道網から行っても網走との関係は薄いからだ。歴史的、交通網的に処理のしようがなかったと言うのが実情ではないだろうか。
 根室支庁は網走支庁と統合する手も考えられただろう。世界遺産の知床半島が一つの総合振興局のなかに収まる。魅力のある案ではあるが、これも鉄道網からみると無理がある。地元の考古学者の北構さんならオホーツク文化を共有する一まとまりの地域と言うかもしれない。それと単独で残すにしては釧路支庁の面積が小さすぎる。地図で区割りを見ると以下にも不自然に見えてしまうのだ。
 過去200年程度の歴史からみると、根室は網走より釧路との関連がはるかに強い。したがって、根室釧路を一つの支庁にまとめるのは自然な意見である。
 釧路支庁と根室支庁を統合した道東総合振興局を根室に置くという考え方があっても良かったはずだが、どこからもそのようなアイデアが出ていない。
 道東総合振興局は北方領土を所管することになるのだから根室に置くべきだというのは正論である。少なくとも根室からはあってもいいはずの提案だし、高橋はるみ知事と交渉の余地があったはずである。今からでも遅くはない。やってみたらいい。
 条例に道北総合振興局を釧路に置くと書いてあるかどうかが分岐点だろう。書いてあれば条例の一部修正を要求する住民運動になるだろう。書いてなければ、行政の裁量の範囲内だ。交渉のやりかた次第だ。
 釧路から異論が出るだろうから、根室管内4町に根回しして、1市4町の強い要望を背景に交渉すべきだ。これなら再編案に賛成した中司道議と松浦道議が手を組めるし、4町との溝も少しは埋めることができるかもしれない。関係諸団体が道東総合振興局を根室に誘致する署名運動を始めたらわたしも喜んで署名する。


 第28面から
 根室市と4町に溝
  振興策論議に影響も

・・・根室管内では再編に強く反対した根室市とやや距離を置いた管内4町の溝を印象付けた。管内1市4町は北方領土隣接地域としても一体の活動をしてきたが、支庁再編論議を通じて鮮明になった根室市と4町の温度差は、今後の地域振興をめぐる論議にも微妙に影を落とす。
 根室市は道の行財政改革の必要性は認めながらも、北方領土返還運動の原点であることと、面積や一次産業の生産額で根室より小さな宗谷を総合振興局として残すなど、再編案の不公平さを問題視。官民26団体が「根室支庁存続を求める根室市連絡協議会」を発足させ、反対運動を展開し、道議会でも、根室選出の松浦宗信道議(自民)が最後まで反対を通した。
 一方、4町は、道町村会などと歩調を合わせて反対してきたが、根室市のような目立った活動はなかった。
 支庁再編に賛成した根室管内選出の中司哲雄道議(自民)は「道の行財政改革の一環であり、やらざるをえない。反対するのは簡単だが、それでは将来に禍根を残しかねない。地元4町の大方の意見がそうだった」と話す。
 4町関係者からは「根室も反対するエネルギーをもっと別なことに生かせないのか」とさめた声まで聞こえる。「強引な支庁再編が根室市と4町の対立を顕在化させてしまった」と道や道議会の対応を批判する意見もある。

 返還運動「士気下がる」
・・・元島民や市民は失望感を強めている。「国の主権の問題だと、歯を食いしばって運動を進めてきた根室の立場をわかっていない。返還運動の士気も下がる」。やりきれない思いに言葉も少ない。
 千島連盟根室支部の河田弘登志支部長は「情けない。高橋はるみ知事も道議会も、北方領土の拠点である根室に、これまで道が支庁を置いてきた重要性を全く理解していない」と憤るとともに、「根室支庁の格下げはロシアに対し返還運動が後退したという印象を与えることになる」と危惧する。
・・・市民の間には「年間運動はこれからは道が責任を持ってやればいい」「はしごを外されるのなら返還運動をする気にならない」という声もあり、返還運動関係者は危機感を強めている。

 補助金に頼りきったり、年中行事を消化するだけの関係諸機関の智慧と熱意に欠ける返還運動のツケが回ってきた。4町すら巻き込むことなく、独りよがりの返還運動を60年やってきた結果が残した溝である。
 戦後の沖縄返還にかけた住民運動の火傷をするような熱さと比べてみるがいい。北方領土返還運動の本当の危機がどこにあるのか歴然とするだろう。

*『少し過激な北方領土返還論』でMIRV(多弾頭ミサイル)開発計画プロジェクト公表を武器とする北方領土返還交渉について書いた。今のままでは埒があかない。日本の技術開発力を武器に戦略転換すべきである。下記のアドレスをクリックすれば当該記事へジャンプできる。
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2008-06-07