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#4227 Sapiens (24th) : page 31 April 18, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

  武漢コロナウィルス感染症が広がっているので、北海道は独自の非常事態宣言をし、全道の小中学校へ休校要請を出した。根室市の小中学校も5/6まで休校である。武漢コロナウィルスは広がる勢いを弱めていないので、五月になればさらに延長されることになりそうだ。
 それにしても日本人の死亡率は極端と思われるほど低い。4/18までで10181人の感染者、207人の死亡者であるから、感染者の死亡率は2.0%にすぎない。日本はPCR検査数が極端に少ないので、発熱しても検査されていない感染者が多いと推定されるので、ヨーロッパ並みの検査数が確保されたら死亡率がさらに低いことが証明されるだろう。検査数がずっと少ないのにドイツの死亡率2.8%を下回っている。(ドイツは4/17までで、感染者数134000人、死亡者3868人、死亡率2.8%)
  検査数データを拾った。ドイツは150万件、米国100万件、韓国43万件、日本はたったの9万件。
 人口百万に当たりの死亡率で見ると、ヨーロッパの1/600というデータをみた。BCGの接種率が98%と高く、それが「訓練免疫」を賦活化しているという説がある。ヨーロッパでBCG接種効果を試すために臨床治験が始まっている。日本人は何か特別な理由があって、武漢コロナウィルスに感染しても重篤化して死亡する割合がヨーロッパ諸国や米国に比べてずっと低いようだ。したがって、ヨーロッパや米国並みの自粛が本当に必要なのか疑問。
*https://www.bing.com/search?q=%E6%96%B0%E5%9E%8B%E3%82%B3%E3%83%AD%E3%83%8A%E6%84%9F%E6%9F%93%E8%80%85%E6%95%B0&form=EDGTCT&qs=PF&cvid=5ddb19701be64d24b7f39314cffa6517&refig=2d41ee72b56941a884112269bc171388&cc=JP&setlang=ja-JP&plvar=0&PC=NMTS
ドイツhttps://blogos.com/article/451453/
検査数データhttps://www.msn.com/ja-jp/news/coronavirus/新型コロナ「検査拒否」の実態、電話中に咳をしたら切られた…他/ar-BB12OUYd?ocid=spartanntp

 さて、本題に入ろう。
<31-2>People easily understand that 'primitives' cement their social order by believing in ghosts and spirits, and gathering each full moon to dance together around the campfire.What we fail to appreciate is that our modern institutions function on exactly the same basis. Take for example the world of business corprations. 

  gathering以下の訳に窮して質問があった。「月を一杯集めて...」いったい何の話だろうということ。
 文を基底文に書き換えてみよう。

 ① 'primitives' cement their social order by believing in ghosts and spirits,
 ②('primitives') gather each full moon to dance together around the campfire.

 ここでgatherは自動詞なのだが、each full moonを目的語ととってしまったから他動詞だと思い込んだ。じつは副詞句であるがそうと見抜けなければ生徒がやったような訳になり、意味がつかめなくなる。ちょっと難しかったかもしれない。①の文は第Ⅲ文型、②の文は第Ⅰ文型である。
 「①原始時代の人々は/社会的絆を深める/幽霊や霊魂を信じることで」、どういうやり方でそれを行うかというと「②原始時代の人々は/集まる/満月のたびごとに/焚火の周りでともに踊るこために(集まる)」、このようにぶつ切りにして頭から読めばいい。後ろに続く文が前の文の説明になっている。

 function:(v)機能する  appriciate:(v)きちんと認識する



原始的な人々は死者の霊や精霊の存在を信じ、満月の番には毎度集まって焚火の周りでいっしょにおどり、それによって社会的秩序を強固にしていることを、わたしたちは簡単に理解できる。だが、現代の制度がそれとまったく同じ基盤によって機能していることを、わたしたちは十分理解できていない。企業の世界を例にとろう。」柴田裕之訳 p.44

<31-4> In what sense can we say that Peugeot SA (the company's official name) exist? There are many Peugeot vehicles, but these are obviously not the company.  Even if every Peugeot in the world were simultaneously junked and sold for scrap metal, Peugeot SA would not desappear.  It would continue to manufacture new cars and issue its annual report.  The company owns factories, machinery and showrooms, and employs mechanics, accountants and secretaries, but all these together do not comprise Peugeot.  A disaster might kill every single one of Peugeot's employees, and go on to destroy all of its assembly lines and excutive offices. Even then, the company could borrow money, hire new employees, build new factories and buy a new machinary.  Peugeot has managers and sharholders, but neither do they constitute the company.  All the managers could be dismissed and all its shares sold, but the company itself would remain intact.
  It doesn't mean that Peugeot SA is invulnerableor inmoral....

  質問があったのは次の箇所である。
There are many Peugeot vehicles, but these are obviously not the company. 
  簡単なように見えて何を言っているのか意味が分からないという。「プジョーの車がたくさんあるが、プジョーの製品である車はプジョーという会社ではない」、この文の理解には経験の差がでる、ようするに普通の高校生には周辺知識や企業人としての経験がないから意味が分からないだけ。「法人」という言葉の意味を知っていたら理解できただろう。「法的な人格」である、そういうことについてハラリがくどいくらい書いている。意味不明のときは構わず先を読めば具体的な記述があるから、先を読むというのが読解の定石である。法人格としての企業とはどういうものかを具体例を挙げてハラリは順次説明していく。
 アンダーライン部は精確にとらえていた。慣れてきたのだろう。

 every [last] single one of NP: 最後の一人まで …全員を強調した表現

 フランス語でSA(société anonyme)は株式会社を表す。ドイツ語ではAG( Aktiengesellschaft)と表記する。

わたしたちはどういう意味でプジョーSA(同社の正式名称)が存在していると言えるのだろうか?プジョーの乗り物はたくさんあるが、当然ながら、それらの乗り物自体は会社ではない。たとえ、世界中のプジョー製の乗り物がすべて同時に廃車され、金属スクラップとして売られた通しても、プジョーSAは消えてなくなりはしない。同社は新しい車を製造し、年次報告書を発行し続けるだろう。同社は機械、ショールームを所有し、機械工や会計士や秘書を雇っているが、これらをすべて合わせてもプジョーにはならない。何かの惨事で従業員が一人残らず亡くなり、製造ラインとオフィスが全滅するかもしれない。それでもなお、同社はお金を借り、新たに従業員を雇い、工場を新設し、新しい機会を買い入れることができる。プジョーには経営陣と株主がいるが、彼らが同社を構成しているわけでもない。経営陣を全員首にし、株式をすべて売却しても、会社自体は元のまま残る。
 これは何もプジョーSAが不死身だとか不滅だとかいうわけではない。」柴田裕之訳p.44
 




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#4213 Sapiens (23th) : p.29 April 4, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

 武漢コロナウィルス感染症、正式名称はCOVID-19だったかな、そのあおりで根室高校は3月一か月間休校になった。弊塾も3/14から3/29までお休みしたから、久しぶりの原書講読SAPIENS授業である。問題となったのは一箇所のみ、なるほどと思う文だった。前後関係がわかるように段落全部をタイピングしておいた。<29.1>は29ページ第一段落という意味である。

<29.1>There are clear limits to the size of groups that can be formed and maintained in such a way.  In order to function, all members of a group must know each other intimately.  Two chimpanzees who have never met, never fought, and never engaged in mutual grooming will not know whether they can trust one another, whether it would be worthwhile to help one another,and which of them ranks higher.  Under natural conditions, a typical chimpanzees troop consists of about twenty to fifty individuals.  As the number of chimpanzees in a troop increases, the social order destabilises, eventually leading to ruputure and the formation of a new troop by some of the animals. Only in a handful of cases have zoologists observed groups larger than a hundred.   Separate groups seldem cooperate, and tend to compete for territory and food.  Researchers have documented prolonged warfare between groups, and even one case of 'genocidal' activity in which one troop systematically slaughtered most members of neighbouring band. 


 アンダーライン部は文構造がちょっと複雑だから、生徒と一緒に分析してみた。主語と動詞と目的語がわからば半分はOKだ。
Only in a handful of cases have zoologists observed groups larger than a hundred.

 文構造を書き出すと次のようになっている。
 Adv.P+have+S+V+O

 問題は二つある。文頭の前置詞句は機能から捉えると副詞句(Adverb Phrase)であるが、その位置から判断すると、強調である。いわゆる「強調構文」という類の文。二つ目の問題はhaveである。使役なのか現在完了なのかということ。文頭が副詞句で転置されているとしたら、主語の位置が助動詞と過去分詞に挟まれることになる。文を元に戻すと次のようになる。

  zoologists have observed groups larger than a hundred / only in a handful of cases.

 ずっと読みやすくなったのではないか。
 少し前に視線を移すと、'about twenty to fifty individuals'という前置詞句がある。「20-50頭のチンパンジー」ということ。'a hundred'が'a hundred individuals'であることは、このように文を複数頭の中において関連させながら読むこと(=文脈読み)で推察がつく。慣れてくるとこの'a hundred'を読む時に'individuals'を補って読めるようになる。

 わたしたちは日本語の文章を読むときに、文章前後の関係に留意しながら、無意識にあるいは意識的に論理的な整合性をチェックしながら読んでいるから、同じことを英文を読む場合にも使えばいいだけだ。だから、日本語の良質の本をたくさん読んだ生徒は英文の理解も速くて精確である。母語でできない技がとつぜん英語でできるわけがない。そういう点からは、中学生の終わりまで、或る程度のレベルの読書経験を積んでおくことが大切だ。中学卒業までに文庫本50冊、新書10冊が目安。新書版の本は専門書への扉のようなもの。文庫と新書版の本で先読み技術を磨いておこう。

 「動物学者は百頭以上の集団を観察したことがある」と書いて、それがどの程度の分量であるかについて補足説明をするのが典型的な英文の文章作法である。「わずか一握りの事例にすぎない」と付け足している。ハラリはその補足説明部分を強調したくて文頭にもってきた。
 20-50頭のチンパンジーの生態観察は研究報告事例が多いが、百頭を超えるような集団の生態研究はほとんどないというのが実情。ハラリがなぜそんなことを問題にするかというと、人間の集団なら150人あたりに閾値があるからだ。企業も150人までなら、社員全員の顔をお互いが判別がつくし、それぞれの性格も熟知して組織を動かすことができるが、それを超えると、別の枠組みが必要になる。たとえば、詳細な行動規則、分掌権限、部門別予算、目標とする収益構造や財務構造、企業を動かすコンピュータシステム、経営理念などである。

 20歳代の終わりから6年間勤務した産業用エレクトロニクスの専門輸入商社関商事(のちに、セキテクノトロンと名称変更し店頭公開)が200人弱の規模だった。為替変動にあえぐ企業だったが、5つのプロジェクトで仕事の仕方を根本から見直し、為替管理や円定価表や納期管理をシステム化し統合することで収益構造と財務構造を劇的に変えた。1984年1月末に退職して、2月1日から10倍の企業規模の臨床検査最大手企業SRLへ転職した。収益構造と財務構造を変革することでセキテクノトロンは店頭公開要件をクリアし、株式公開を果たしたが、東大出の三代目に代わって十数年、2010年ころに業績悪化で消滅している。1978-1983年までにやった経営改革の果実を30年間で食いつくしたからだろう。マネジメントはもって生まれたセンスだから、学歴ではなんともならぬ。
 150人というのは企業で言うと、個人企業から会社組織への転換だ。ここがうまくいかずに30-50億円くらいの売上規模で消滅する企業が多いというのは事実である。逆説的にいうと、150人以上の人数が上手に動かせる企業なら、売上規模が100億円を超えても、従業員数が500人に拡大しても問題が生じないということ。
 この節のタイトルは「プジョー伝説」である、どのような展開になるのか面白そうだ。


 例によって当該段落の訳を引用しておく。
そのような形で組織し、維持できる集団の大きさには明確な限界がある。一つの集団がうまく機能するには、成員全員が互いを親しく知らなければならない。一度も会ったり、戦ったり、グルーミングし合ったことのないチンパンジーどうしは、信用し合えるかどうかや、助け合う価値があるかどうか、どちらが上位かがわからない。自然状況下では、典型的なチンパンジーの群れは、およそ20-50頭から成る。群れの個体数が増えるにつれ、社会秩序が不安定になる、いずれ不和が生じて、一部の個体が新しい群れを形成する。100頭を超える集団を動物学者が観察した例は、ほんの一握りしかない。別々の集団が協力することは稀で、たいていは「縄張りと食べ物をめぐって張り合う。研究者たちは集団の長期に及ぶ線背負う状態を詳細に記録してきた。一つの集団が、近隣の群れの成員のほとんどを計画的に殺害する「大量虐殺」活動さえ、一件記録されている。」柴田訳


<余談>
 産業用エレクトロニクス専門輸入商社の関商事の従業員数が200人に近づいたときに、第一営業部長だったM木さんが退職して、取引先の米国メーカーと突然に日本法人を立ち上げた。そのときに社員が20人ほど移籍した。社長の関周さんには寝耳に水だっただろう。関商事は20%ほどの売上を失った。
 150人を超えると不安定になるというのは、チンパンジーの群れだけではない、人間の群れである企業でも同じようだ。ヒューレットやパッカードとスタンフォードで一緒に学んだ創業社長が亡くなり、慶応大学大学院経済学研究科卒の二代目に代わった。先に応募していた森英恵の会社で社長面接をして内定をもらった。ニューヨーク勤務か国内の子会社を一つ任せてくれるという話だった。どちらかに決めるので少し待ってほしいと言われたので、そのまま応募書類を出していた関商事に電話して経理総務担当役員へ告げたら、断っていいから、会社においでと言われて、日本橋の本社ビルへいくと、技術部にマイクロ波計測器がゴロゴロしていた。すぐに社長室へ通され、話をした。関周さんは慶応大学大学院で経済学専攻、わたしも東京経済大学大学院で経済学専攻、ウマが合った。企業経営にはまるで関係のないマルクス『資本論』をベースにスミスやリカード経済学にさかのぼって基本概念の相互の論理的な関係や体系構造を研究したことはその時に話した。経理や原価計算の専門知識があることが異色だっただろう。経済学専攻の院卒でそういう人材はほとんどいない。仕事を用意してあるからと誘われた。その前がアパレル関係(紳士服の製造卸の会社)だったので、同じ業界では詰まらぬという考えが浮かび、産業用エレクトロニクスの輸入商社で働くのもいいかと入社を承諾した。そしてすぐに社運を左右する6つのプロジェクトのうち5つを任された。関周さん、自分がやらなければならない課題を中途入社早々のわたしに丸投げしてくれた、ありがたかった。6つのプロジェクト・メンバーは取締役と部長職、課長職が3人だった。実務はわたしが全部やる、他のメンバーはわたしの報告と経営改革案を毎月聞いて、一つ一つ実行に移す決定を下した。生産性と仕事の精度をアップ、そして利益をコントロールした内部留保を増やし財務体質を変えることが目標だった。ルーチン業務は予算編成と管理を任された。それぞれがシステム開発を伴なう提案だったから、実行もわたしの担当になった。社内にはだれもやれる人がいなかったからだ。自分で提案して自分でやるのだから、だれも文句を言うはずもない。大幅に利益が増えたので、利益の三分割案も社長はすんなりOKしてくれた。社員のボーナス、配当、内部留保に三分割した。これには社員が喜んだし、士気が上がった。会社は儲けなけりゃ嘘だ。円安になると赤字でボーナスが1か月なんてこともあったが、社員は意気消沈してしまう。経営改革をやってからは為替変動に関係なく安定して年間6-7か月のボーナスがだせるようになった。これで住宅ローンが組めると喜ぶ社員もいた。
 関商事は三井合同の幹部職だった先代が、財閥解体で社員をリストラして、最後に自分も三井合同を去って、独立起業してできた会社である。社員の首を切ったら最後は自分もそこを去る、潔い人だったようだ。創業社長はスタンフォード大を卒業しており、大学同期の友人であったヒューレットとパッカードが創業したHP社と総代理店契約を締結して会社を立ち上げた。あるとき、HP社が横河電機と日本法人をつくることになり、総代理店契約を解消して社員の半数くらいが合弁会社YHPへ移籍した。もちろん相応の対価があったと聞いている。先代が亡くなり、二代目が30代前半で社長になった。固定相場制だった外国為替がフロートに切り替わり、為替変動に業績が左右されていた。営業マン一人一人がドル価格をベースにして販売価格(円)を計算していた。だから、会社にいて見積書を作っている時間が長かったし、利幅も薄かった。てんでばらばらだったのである。取締役たちは先代社長の薫陶を受けた人たちだったから、為替変動の荒波をかぶり経営の悪化も重なって二代目社長と軋みが生じていた。二代目は為替変動の影響を受けて業績がアップダウンすることや、利益が薄く、財務構造が脆弱であることに危機感を抱いていた。だから、それらを変えるために6つのプロジェクトを用意していたのだろう。長期経営計画委員会・資金投資計画委員会・収益見通し分析委員会・為替対策委員会・電算化推進委員会・利益重点営業委員会そこへタイミングよくわたしが新聞広告の中途採用に応募したというわけ。利益重点営業委員会だけメンバーではなかったが、東京営業所長が実者担当者になっていた。かれが提案した「円定価表」システムは円定価を計算するためにドル価格・仕入レート・為替予約が関連しており、相談を受けているうちに為替変動と連動したコンピュータシステムが良さそうなので、こちらも引き受けた。だから6つの委員会全部がわたし個人の仕事になった。四半期単位で円定価表を出力して取引先に配布した。ある計算式を使ってバルクで為替予約をしたから、日米金利差で為替差損がでない、そして為替差益が常にでるような仕組みが出来上がった。円定価表の粗利益を操作することで、粗利益率がコントロールできるようになった。それまでよりも10ポイント以上高くなった。関商事は欧米50社の世界最先端で競争力の強い商品を扱っていた。スイスのオシロクォーツ社やウォータゲート事件で使われたレシーバーのメーカであるWJ社、HP社の技術者数名がスピンアウトして作ったウィルトロン社などいい製品群が揃っていた。
 経済学、外国為替、会計学、原価計算などの専門知識はあったが、システム開発についてはプログラミングも開発に関連するさまざまな技術もなかったから、プロジェクトを抱えながら、専門書を読み漁り、オービックのSEと一緒にシステム開発をしながらスキルを吸収した。システム開発の専門書を40冊ほどは読みながら、仕事ですぐにつかったのでスキルが飛躍的に伸びた。3年ほどで国内トップレベルのSEと対等な関係で仕事ができた。
 2年間でプロジェクトは初期の目的を果たし、成果が出てきたころだった。東京営業所長のEさんから、売上の3割を占めている米国メーカの日本法人立ち上げを打診されているので、一緒にやらないかと誘われた。魅力的な話だった。彼とはウマが合っていたから心が少し動いた。Eさんは一つ年上、わたしが出遭った中ではナンバーワンの営業マンだった。TDKの担当をしていたことがあり、細かい注文を取りながら大きなものを狙っていた。嗅覚が鋭い。毎年5億円×10年間、50億円の受注を一人で上げるほどの凄腕。そして営業事務の合理化についてもしっかりした考えの持ち主だった。二人で朝までよく飲んだ。売上の3割を失うと、関商事の屋台骨が揺らぎそうだったので、お断りしたら、彼は思いとどまったが、翌年その米国メーカは総代理店解約を解消して日本法人を設立した。わたしが承知していれば、Eさんが社長でわたしが管理担当副社長だったかも。33歳のときの話しである。
 統合システム開発で二代目社長と衝突して関商事をやめた。我慢のならない約束違反があったからだが、若気の至りでもあった。
 どこから話を聞いたのか、退職して2週間後にオービックのSEのS沢さんに「うちの社に来て、一緒に輸入商社向けの統合システムパッケージ開発をしないか、20社ほど取引先があるからそこへ売り込める」とお誘いをいただいたが、お断りした。S沢さんは、その後オービックの開発担当取締役になった。かれからSEの技術を盗んだ、専門書を読んだだけでは実務はやれない。トップレベルのSEと仕事をすると学べることが多い。S沢さんの後(1983年)で、日本電気情報サービスのT嶋SEと半年ほど統合システム開発で仕事している。この人は要求がきつかったね。実務設計も外部設計もプログラミング仕様書も独力で書いた。(実務デザインは日本能率協会方式の事務フロー図を描いた。SRLへ転職してNCDさんのSEと仕事したときは産能大方式だった。)T嶋SEの仕事は内部設計のみ。仕事の分担ははっきりしているほうがいい。日本電気の汎用小型機を導入するからナンバーワンSEを派遣しろと二代目社長が注文を付け、それで担当になったSEだった。オービックのS沢さんと同じくらいのスキルのもち主だった。三菱電機系列と日本電気系列のシステム会社のそれぞれのトップSE2人と仕事させてもらった。スキルが伸びたのは、彼らのお陰だ。トップレベルのSEの仕事がどの程度のものかがわかった。
 日商岩井の出身の総務部長からも日商岩井の関係会社を紹介すると電話があったし、帝人エレクトロニクスにコネがあった第3営業部長のSさんも、課長職で推薦するからと、退職直後に電話いただいた。SRLに転職して、最後の仕事は帝人とは臨床治験検査データ管理の合弁会社の経営を任されることになるのだから人生とは不思議だ。
 経営分析やシステム開発で時代の尖端技術をもち、マネジメント能力に優れていたら企業を選んで転職できた好い時代だった。辞表を出してから就活しても、ブランクなしに転職できたのである。運がよかっただけかもしれない。
 1984年2月1日にSRLへ転職して2か月後には上場要件を満たす統合システム開発の核の部分を担当することになった。関商事の10倍ほどの開発予算で、使うコンピュータは当時富士通で最大の汎用大型機だった。10億円のマシン、うれしかった。
 統合システム開発が4つのプロジェクトチームに分かれて私の入社1年前にスタートしていた。経理課長と係長が担当していたが、二人ともコンピュータの知識はゼロ、まったく進んでいなかったから、経理部長の岩本さんも専務の矢口さんも焦っていた。この二人は富士銀行から転籍組。だからすぐに担当替えがされ、関商事で培ったスキルがすぐに役に立つことになった、こういう仕事を担当する運命になっていたのだろう。トーマツ青木監査法人から財務経理システムチームにシステム・スキルのあるという触れ込みで公認会計士Tさんが派遣されていたが、経理課長が「いらないだろう、外していいか?」と訊くので外してもらった。スキルが低すぎて、こちらのほうが教えなければならず、足手まといだった。SRLはこの人の派遣に毎月300万円支払っていたから、2か月分で入社早々のわたしの年収だった。ずいぶん安く使ってもらった。(笑) 当時は「公認会計士+SE」というマルチ人材がまだ育っていなかった。
 財務経理システム、投資及び固定資産管理システムがわたしの担当。統合システムだから購買在庫管理システム・売上債権管理システム・原価計算システムとのインターフェイス仕様が問題となった。全部のプロジェクトチームが集まって4月に会議したときに、暗礁に乗り上げた。わたしが担当することに全員が承知したので、翌週インターフェイス仕様書を書いて各チームにその通りにやるように通知した。皆さんびっくりした顔をしていた。各サブシステムの内容を承知してなけれが、インタフェイス仕様書は書けない。そんなマルチの能力のもち主は一人もいなかった。購買在庫管理システムの外部設計もすったもんだしていたので半分ほど手伝ってやった。わたしの担当部分は2か月間の並行ランをふくみ8か月で開発完了、1年以上遅れてスタートした財務経理システムが一番最初にノートラブルで動き出した。わたしがどういうレベルの仕事をやったかわかっていたのは、親会社である富士レビオの元経理部長で1984年当時SRLの監査役をしていた外口さんだけ。富士レビオの東証一部上場時に経理部長だったから、上場要件を満たすための統合システム開発どれほど大変なのかよくご存じだった。それを入社して8か月でやりぬいたのをよく見ていてくれた。
 仕事は困難なほど楽しい。だから簡単な仕事はつまらぬ。


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#4199 Sapiens : p.26 Mar. 6, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

 学年末試験の勉強で1週パスしてます。
 質問が少なくなりました。問題になったのは24ページ第2段落から一つだけです。

<24.2> The gossip theory might sound like a joke. but numerous studies support it. Even today tha vast majority of human communication -- whether in the form of emails, phone calls or newspaper colums -- is gossip.  It comes so naturally to us that it seems as if our language evolved for this very purpose.  Do you think that history professors chat about the reasons for the First World War when they meet for lunch, or that nuclear physicists spend their coffee breaks at scientific conferences talking about quarks?  Sometimes. But more often they gossip about the professor who caught her husband cheating, or the quarrel between the head of the department and the dean, or rumours that a colleage used his research found to buy Lexus.



Itgossip
この代名詞が何を受けているのかがはっきりしないと意味がまるでつかめません。後の方の'it'は' it seems as if ...'(まるで…のようだ:仮定法直説法)、ジーニアスに次の例文が載ってます。電子辞書の使い方が目に見えてよくなってます。肝心なところは手を抜かずに引いている。
 It seemed as if I would be die. (死ぬかと思ったほどだった)

 代名詞を元の名詞に置き換えて書き換えると、だいぶ様子が見えてきます。
  Gossip comes to us.
「ゴシップはわたしたちのもとへとやってくる」では日本語にならないので、意訳の必要ありですね。
 英語は日本語と違ってモノやコト主語の場合が多い、そして「コト」主語は日本語にしにくいことが多いものです。そういうときにどう処理するか、文例に出遭うたびによく考えてコツをつかんでください。この場合はゴシップ(噂話)の方からやってくるんです、自然にね、するりと話題に上ってしまう。そうしてみるとこの文、なかなかうまい表現です。
「人というものは寄ると触るとうわさ話に興じてしまうもの」
 この日本語を元の英文に戻せたら、英作文の達人でしょう。だから、こういう文例を書き溜めて、WORDで自分のライブラリーをつくってみたらいかがでしょう?
 英語の学力の差はモノ主語の英文の和訳や、日本語特有のレトリックで書かれた文章を、モノ主語の英文に作文できるところに如実に現れます。そのまま日本語に置き換えて不自然ではない英文や、そのまま英文に置き換えられる日本語文を英文で書くのはやさしい。
 勉強のコツは必要になる都度、必要とされる範囲で何か工夫をしてみること。それが他の科目に「汎用化」できる場合も出てきますから。英語の勉強をするときににも数学の勉強をするときにも、頭の中には「個別⇔特殊⇔一般化」という図式がつねに浮かんでいます。

 Gossip comes naturally to us.
「数人寄ればうわさ話に興じるのは人間の性(さが)」

「数人寄ればうわさ話に興じるのは自然な流れ、それゆえ、わたしたちの言語はそうしたうわさ話に興じることを目的にして進化してきたかのようにみえます」

 soは論理の一定の流れの方向を指し示す言葉です。
 この一文、最初は「so…that」構文であることをうっかり見逃してました。いけませんや。(笑)
It comes so naturally to us that it seems as if our language evolved for this very purpose.

「噂話」説は冗談のように聞こえるかもしれないが、おびただしい研究に裏打ちされている。今日でさえ人類のコミュニケーションの大多数は、電子メール、電話、新聞記事のいずれの形にせよ、噂話だ。噂話はごく自然にできるので、わたしたちの言語は、まさにその目的で進化したかのように見える。考えてほしいい。歴史学の教授たちが集まって昼食をとったら、第一次世界大戦勃発の理由について雑談するだろうか?あるいは科学の会議の休憩時間を、原子物理学者たちはクォークについての話し合いに費やすだろうか?そういうこともあるだろう。だが、夫の浮気の現場を押さえた教授について、あるいは学部長と上司との口論について、はたまた、同僚が研究助成金を使ってレクサスを買ったという風評について、噂話をすることの方が多い。」柴田訳


 翻訳者の柴田さんも、意訳してますね、だいぶ苦労してます。(笑)


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#4187 Sapiens : page 24 Feb. 23, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

 学年末試験があったので、先週はSapiens授業は中止して試験勉強に充てた。数学は、ベクトルをやっていたのが1年前なので、思い出すために問題集でチェックマークのついている問題と準拠問題集WIDEのB問題のみやっていた。それが終わると、数Ⅲの問題集を解いていた。試験期間中でも面白くて止まらない様子。(笑)
 
<24.1> It was not the first language. Every animal has some kind of language. Even insects, such as bees and ants, know to communication in sophisticated ways, informing one another of the whereabouts of food.  Neither was it the first vocal language.  Many animals, including all ape and monkeyspecies, have vocal languages.  For example, green monkeys use calls of various kinds to communicate. Zoologists have identified one call that means 'Careful! An eagle!'.  A slightly different call warns 'Careful! A lion!'  When researchers played a recording of the first call to a group of monkeys, the monkeys stopped what they were doing and looked upward in fear.  When the same group heard a recording of the second call, the lion warning, they quckly scrambled up a tree.  Sapiens can produce many more distinct sounds than green monkeys, but whales and elephants have equally impressive abilities.  A parrot can say anything Albert Einstein could say, as well as mimicking the sounds of phones ringing, doors slamming and sirens wailing. Whatever advantage Einstein had over a parrot, it wasn't vocal.  What, then, is so special about our language?

  green monkey とは森林ではなくサバンナ(草原)に棲むサルである。緑ザルと訳していることもある。草原に棲むサルだからgreenをつけたのに、緑ザルでは原意を伝えてない。ところで、AIDSのHIVは元々このサバンナ・モンキーがもっていたウィルスだと、1980年代の終わりごろ、雑誌TIMEのAIDS特集で読んだ気がする。
*サバンナモンキー
https://pz-garden.stardust31.com/reichou-moku/onagazaru-ka/savanna-monky.html

 
<段落読みに慣れよう>
 最初のアンダーラインの文にはすぐに気がついた。
「先生、これ倒置だよね」
 慣れてきたのだろう。
 でも、ここはちょっと対話したい箇所だった。前段落ではサピエンスの言語について取り上げているから、この段落冒頭のItはサピエンスの言語である。それが言語としてはじめてのものではないとハラリは書いた。そしてなぜ初めてではないか、具体例を挙げて説明している。すべての動物が何らかの言語(some kind of language、この個所をO君は「何らかの言語」と訳した、好いセンスしてる)をもっており、'Even insects'(昆虫ですら)言語をもつとハチやアリを例に挙げている。そして話題を転じて、サピエンスの言語は'vocal language(音声言語)'として初のものではなかったというのが、アンダーラインの箇所である。ハラリはここで'neither'を強調したかった。「言語として初のものでもなければ、音声言語として初めてではなかった」と書き、サピエンスに先立って現れた類人猿やサルの音声言語について例示していく、それがこの段落の役割なのだ。こういう段落読みにも慣れてもらいたくて、トレーニングしている。日本語で書かれた本を読むときとまったく一緒なのだ。それに気がつき、日本語の本を読んで蓄積し磨いた技を英文読みにも使えるレベルへ持ち上げるために原書講読授業をしている。

 ハラリの論理運びに注意して読んでいると、こういう論理運びの文章スタイルを模写できるようになる。日本語の作文も同じ論理運びで書けるようになる。よく読むというのはよく書くことに通ずる。「抽象⇒具体」「一般⇒特殊⇒個別」という、ロジック運びに慣れてくる、いわゆる演繹的な論理運びである。それができたら、逆のコースの文章練習をしてみたらいい、帰納的な論理運びの文章である。往復やることで、論理展開が自在になってくる。数学の勉強でよくやっていることです。

 高校生や大学生のためにビジネスの世界でのことに言及しておきます。わたしはさまざまなプロジェクトを率いてきましたから、担当役員や社長へ定期的に報告書を書くことが多かった。提案型プロジェクトの場合は稟議書もです。そういう際に、論理運びというのはとっても重要で、書いているうちに(つまり、場数を踏むうちに)慣れてきます。会議での発言もそうした論理運びが自然に出てきます。じっくりみんなの意見を聞いてから、自分の意見をなるべく普遍的な立ち位置から述べ、そのご個別具体的な事象を織り交ぜて語りだします。そうすることで説得力が増すからです。もちろん、結果をちゃんと出すことが大事、結果が出せなければただの口舌の徒です。弁護士出身の政治家に多いタイプですね。ビジネスでは結果の出せない口舌の徒は不要です。プロジェクトにはお呼びがかからなくなります。稟議書を書いても信用されないから、承認されません。ビジネスの世界では、当該事項に専門外の役員もいるので論理運びが大事、そして何より大事なことは、言ったことや書いたこと以上の結果を出すことです。

<Ⅲ文型動詞は目的語とセットで意味を考える>
 2番目の文のところで質問があった。「playをどう訳していいのかわからない」、そういう質問だった。第Ⅲ文型の動詞は目的語とセットで考えないと意味がわからない。たとえば、
 I have two sisters.
   I have a dog.
   I have a Snowman's ticket.

  それぞれ、「妹が二人いる」「犬を飼っている」「スノーマンのチケットもっている」である。目的語とセットでないとhaveの意味はわからない。haveのコアイメージは「自分の手の届く範囲にある」ということなんです。「二人の妹」「飼い犬」「スノーマンのチケット」これらはみんな自分の手に届く範囲にあるのです。

 では、play a recording はセットで考えるとどうなりますか?
 「録音済みのものを再生する」です。
 ’played a recording of the first call to a group of monkeys

 「一群れのサルが発した叫び声(the first call='Careful An eagle!')を録音したものを再生した」
 その録音には初めがあって終わりのある一塊(ひとかたまり)の録音だから、'a recording' と不定冠詞がついています。
 1964年、高校1年生の時にに買ってもらったソニー製のオープンリールのテープレコーダーにはハンドルがついており、それでプレイ、ストップした。ガチャガチャ音がしました。いま机の上にあるソニー製のICZ-250には「再生」「停止」「早戻し」「早送り」ボタンがついていますが、操作音はありません。次の文でもplayedが使われているから、どんどん読んでみたら気がついたでしょうね。「意味不明なら、次の文を読め」という方法はここでも有効です。

「動物学者たちが、一群のサルが発した最初の叫びの録音を再生すると、途端にサルたちはしていることをやめ、恐怖におののき空を見上げた。」


<意識の置き方が読みの上達のコツ>
 3番目の文は質問はなかったが構文が少し捉えにくかったかもしれません。アインシュタインが突然登場するところも意表をついていて面白い。ハラリは楽しんで書いているように見えます。

①mimicking the sound of phones ringing,
②(minicking the sound of) doors slamming
③(minicking the sound of) sirens wailing

 'mimicking the sounds'が三つの前置詞句を引き連れて現れています。三つ並んだからsoundsとsがついていることに気がつきましたか。O君はsirensを辞書を引くまで意味が分からなかったようでした。「ああ、サイレンか」ってつぶやいたもの、聞き逃してませんよ。(笑) 音声を出さずに頭の中で「音読」してみたら気がついたのではないか。辞書を引く前にちょっと「タメる」癖をつけたらいいのです。気がつく単語がたくさん出てきますよ。意識のちょっとした置き方が読みの上達のコツです。簡単でしょ。

「オウムはしシュタインが言えることは何でも言える。それは電話のベルの真似や、ドアのバタンという音、そしてサイレンの低く唸る音を真似るのと何ら変わるところがない」

<柴田訳>
 例によって、翻訳者である柴田氏の訳文を掲げておく。
「それはこの世での初の口述言語ではなかった。ミツバチやアリのような昆虫でさえ、複雑なやり方で意思を疎通させる方法を知っており、食物のありかを互いに伝え合う。また、それはこの世で初の言語でもなかった。類人猿やサルの全種を含め、多くの動物が口頭言語をもっている。たとえば、サバンナモンキーはさまざまな鳴き声を使って意思を疎通させる。動物学者は、ある鳴き声は、「きをつけろ!ワシだ!」という意味であることを突き止めた。それとはわずかに違う鳴き声は、「気をつけろ!ライオンだ!」という警告になる。研究者たちが最初の鳴き声の録音を一群のサルに聞かせたところ、サルたちはしていることをやめて、恐ろし気に上を向いた。同じ集団が二番目の鳴き声(ライオンだという警告)の録音を耳にすると、かれらはたちまち木によじ登った。サピエンスはサバンナモンキーよりもずっと多くの異なる音を発せられるが、クジラやゾウもそれに引けを取らないほど見事な能力をもっている。オウムは、電話の鳴る音や、ドアのバタンと閉まる音、けたたましくなるサイレンの音も真似できるし、アルベルト・アインシュタインが口にできることはすべて言える。アインシュタインがオウムに優っていたとしたら、それは口頭言語での表現ではなかった。それでは、わたしたちの言語のいったいどこがそれほど特別なのか?」…芝田訳

 太宰治がこの本の訳者だったら、どういう文章が紡ぎ出されるのか見てみたい気がします。それはともかく、この文の続きが読みたくなるでしょう、ハラリは読み手の知的好奇心をくすぐってくれます。

<慣れとステップアップ>
 質問が減ってきているので、ハラリの文章に慣れてきたように見える。いまは塾で読むだけだが、もう家で独力でかなり読めるようになっている。いまやっている青チャート数Ⅲが終わって、時間が取れる7月には毎週5-8ページくらいのペースになっているはず。まだ当分は青チャート数Ⅲが優先。英作文トレーニングを週4回合計20題やっているから、すでに120問題消化した。3か月で英作文トレーニング用の本の原稿が書きあがる。勉強してくれる生徒がいるからそんな成果も生まれる。励みがなければ、続きやしない。
 すでに大学受験には関係のないゾーンに入っている。面白いから、3か月継続。そのあとは時間が許せば、100ワードくらいの作文練習をしたらいい。Sapiens本文だと、段落一つ分くらいだ。
 でも、英作文は3か月間で切り上げて、音読トレーニングを優先したほうがいいだろう、リスニングの訓練になる。




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#4178 Sapiens: p.22-24 Feb. 8, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

  今回は、三つ採り上げる。授業は次第に対話形式に変わりつつあり、生徒の読解力アップを実感できた授業だった。

 22頁、第3段落から…
<22.3> This poor record of achievement has led scholars to speculete that internal structure fo brains of these Sapiens was prbably different from us.  They looked like us, but their cognitive abilities -- learning, remembering, communicating -- were far more limited.

 farの部分、その役割がわからないということだったが、文意全体が読み取れていない様子。farは副詞で、比較級の'more limited'を強めているだけ。文意は「(当時のSapiensの)認知諸能力は著しく制限されていた」ということ。farはmuchでも構わぬ、意味を強めているだけ。
 シンプルセンテンスに書き直すと、次のようになる。
① their cognitive abilities  were far more limited.
 認知諸能力とは「学習、記憶、意思疎通という三つ」を具体的に例示している。

 ニムオロ塾には『形容詞・副詞辞典』が置いてあるから、それを引いてみたらいい。
学者たちはこのような乏しい実績に照らして、これらのサピエンスの脳の内部構造は、おそらく私たちのものとは違っていたのだろうと推測するようになった。太鼓のサピエンスは見かけはわたしたちと同じだが、認知能力(学習・記憶・意思疎通の能力)は格段に劣っていた。」柴田訳



<23.1> The first objects that can reliably be called art date from this era (see the Stadel lion-man on page 25), as does the first clear evidence for religion, commerce, and social stratification.


  論点は二つ、従属節の主語は何かという問題と、代動詞のdoesは単数主語を受けているはずだが、それは何かという問題。主節の主語はobjectsと複数形だから、論外。生徒は倒置だと見抜いた。主語は'the first clear evidence for religion, commerce, and social stratification'なのだ。長いので倒置された。doesは主節の本動詞のdateである。「さかのぼる、~始まる」という意味が自動詞の項に載っている。
 わかりやすいように書きなおそう。

 the first clear evidence for religion, commerce, and social stratification date from this era.


 主語が倒置され、述部の前置詞句が省略されているのだ、補って読まなければ意味をつかめないから、ここはむずかしい。東大2次試験レベルを超えてるかな?数分間対話を重ねて生徒自身が気がついた。
 asはいろんな意味で出てくるので、厄介ごとの一つだろう。でも、文脈を読むことに慣れたらわかる。節を率いているので、役割は接続詞、「~と同様に」。

「(シュターデルの半身ライオン像のような芸術作品群と)どうように、宗教、交易、社会階層化の明白な証拠はこのころを始原とする」

 commerceは商業とか貿易という意味が載っているが、商業はもっと後のことだし、貿易は近代国家が成立しなければ出てこない概念である。翻訳者の柴田さんは「交易」と訳出している。さすがプロ、的を射た語彙選択である。


芸術と呼んで差し支えない所の品々も、この時期にさかのぼるし、(図4のシュターデルのライオン人間を参照こと)、宗教や交易、社会階層化の最初の明白な証拠にしても同じだ。」柴田訳


<23.3>The appearance of new ways of thinking and communicating, between 70,000 and 30,000 years ago, constitues the Cognitive Revolution. What caused it? We're not sure. The most commonly believed theory argues that accidental genetic mutations changed the inner wiring of the brains of Sapiens, enabling them to thing in unprecedeneted ways and to communicate using an altogether new type of language.  We might call it the Tree of knowledge mutation.  Why did it occur in Sapiens DNA rather tha in that of Neandelthals? It was a matter of pure chance, as far as we can tell.


 太字部分は第2章のタイトルになっている。わたしはそれをアダムとイブが果実をとって食べた木のことだと思い込んで読んでいた。その果実を食べることで、善悪の判断ができるようになった、あの木だろうと。ここにきて、別の意味があることを知る。ハラリは「We might call it the Tree of knowledge mutation」と明快に述べている。
 「知識の木の突然変異」とはニューロンが伸びて行ったことを言っているのでは、生物の教科書で見たニューロンの樹状突起がイメージとして浮かんだとは生徒の意見である。
 なるほど、そういうことかと納得。ハラリがこの章のタイトルを考えたときに、彼の脳内に浮かんでいたのは、neuronなのだ。神経細胞体をつなぐ軸索と神経細胞体と樹状突起、これらが言語の発達の影響なのか、ニューロンが延伸したから高度な言語が操れるようになったのか、どちらが先かはわからないが、ニューロンのネットワークが伸びていく様をハラリ自身の脳内にイメージして語彙選択をした、それでthe Tree of Knowledgeと書いたのだ。アダムとイブがあの実を食べたとたんに、脳内にミューテーションが起きたと考えてもいい。
 若い生徒の解釈にひたすら感心。対話形式のライブ授業の楽しさはこういうところにもある。


このように七万年前から三万年前にかけてみられた、新しい思考と意思疎通の方法の登場のことを認知革命という。その原因は何だったのか?それは定かではない。もっとも広く信じられている説によれば、たまたま遺伝子の突然変異が起こり、サピエンスの脳内の配線が変わり、それまでにない形で考えたり、まったく新しい種類の言語を使って意思疎通したりすることが可能になったのだという。その変異のことを「知恵の木の変異」と呼んでいいかもしれない。なぜその変異がネアンデルタール人ではなくてサピエンスのDNAの起こったのか?わたしたちの知る限りでは、まったくの偶然だった。」柴田訳


 本棚に"Molecular Biology of THE CELL second edition" がある。1989年の出版、1990年にSRL学術開発本部スタッフとして仕事していた時に、購入したものだ。学術情報部の海外の製薬メーカからのラボ見学案内対応と英文のラボ見学案内書作成、開発部の仕事である製薬メーカとの検査試薬の共同開発担当(2メーカ、2検査試薬)と担当者ごとにばらばらだった共同開発手順のPERTチャート方式での標準化、精度保証部のCAPライセンス(臨床検査に関しては世界一厳しい品質管理基準)更新のための資料整備のお手伝いなどがわたしの担当だった。やる能力があれば、どの部門でも仕事を担当させてもらえるユニークな会社だった。
(元々は経営管理と会計、そしてシステム開発が専門分野だった。この部門の後、1991年に新しくできる関係会社管理部で、子会社・関係会社の経営分析システム開発と、それを使った実際の経営分析を担当している。25ゲージのレーダチャートによる総合偏差値評価のできる経営分析システムだった。1979年に開発してあったものを、EXCELに載せ替えただけ。2年間ほど担当し、2件の臨床検査会社の買収と資本参加交渉を担当し、福島県の臨床検査会社へ1億円資本参加し役員出向している。)
 学術開発本部のときは、検査試薬の共同開発案件(Ⅳ型コラーゲンと膵癌マーカー)を担当するために、尖端の医学雑誌論文に目を通しておく必要があった。それで海外の医学専門誌十数冊に目を通していると、先端情報だから、医学事典のSTEDMANを引いても載っていないことが多くて、この本を字引代わりに使っていた。当時は翻訳書がなかった。
 1059頁から「The Nervos System」(第19章神経組織)が載っている。1061頁にcell body(細胞体)とdenderites(樹状突起)とaxon(軸索)の模式図「Figure 19-2」が載っている。「Figure 19-3(c)」がtreeそのものだ。

<英作文トレーニングと読解速度アップトレーニングについて>
 メール配信の英作文トレーニングの方は、15回目を終了。正解率が6-8割ほどにアップしており、成長著しい。週4日、基本は最低5題/日、よって80問題を超えた。統語論や修辞法にこだわった読み方をしているから、そういう大人のレベルの英文が書けるようになってくれたらうれしい。

 ところで、そろそろ読解速度アップトレーニングの下地ができたように感じる。いままで、ノートに和訳を書きながら精読したところを、スラッシュ・リーディングしてみたらいい。文構造はしっかり理解できてるから、頭から読み下していける。10回もやれば、1ページ/5分の速度で読めるだろう。
「大和言葉落とし」をしつつ、スラッシュ・リーディングも試みたらいい。意味の塊ごとに音読し、その意味を声に出して「大和言葉落とし」してみる。
 30ページ精読したら、100回そうした「大和言葉落としスラッシュ・リーディング方式」でトレーニングを積めば、受験には十分すぎるほどの読解速度を手にできる。スキル上昇がはっきり感じられるから、きっと楽しいだろう。(笑)

---------------------------------------------------
*以下の2枚の図は「神経細胞の特徴」からの参照

http://web2.chubu-gu.ac.jp/web_labo/mikami/brain/10-1/index-10-1.html





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https://ja.wikipedia.org/wiki/柳瀬尚紀

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#4174 Sapiens: p.20, 21 Feb.2, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

 授業内容が全部採録できたらいいのだが、そうもいかないので、毎回重要と思われるトピックスをいくつか選んで紹介している。
 成績トップの高校2年生が対象の授業だが、内容は見たとおりだから、難関大学院入試を予定している大学生の受験勉強用にも役に立つ。わたしが大学生のときには外書講読でこういうレベルの解説は期待すべくもなかった。大学行きたかったけど、事情があって行けなかった人もハラリのSapiensを買って、弊ブログで勉強してもらいたい。前置きはこれくらいにして、本論に入ろう。

 中高生には見慣れた構文だが、使われ方がハラリ流、うっかりすると見落とす。前にも出てきたから、慣れたようで、今回は「so…that」を見落とさなかった。高校の教科書では「…」の部分が7つの単語で構成されている文はみたことがないが、”Sapiens”ではすでに数回出てきている。あまり長いので、最初は面食らって、生徒と一緒に大笑いした。

 20ページ、第一段落から。
<20.1> Over the past 10,000 years, Homo sapiens has grown so accustomed to being the only human spices that it's hard for us to coceive of any other possibility.  Our lack of brothers and sisters makes it to imagine that we are the epitome of creation, and that a chasm separates us from the rest of the animal kingdom.

 こんなに間が長いと、アイスパンが狭いとsoがあったことを忘れそうになるものです。(笑) 慣れです。一文に一気に目を通してしまう癖をつけよう。単語一つ一つに目が行ってしまうと、見落としがちになります。
  epitome(発音は"イピタミ")を電子辞書を引いて「権化」と訳してしまったことが隘路へ誘うことになった。かれはシャープの電子辞書搭載のジーニアスを引いている、ここでは「典型」と訳さないと日本語として意味が通じない。ピンとこないときは、辞書をよく読む。紙の辞書はそういう作業に威力を発揮します。スクロールしなくても見えますから。(典型という訳語はスクロールしなくても、隣に並んで見えてました。)
 こういうときは英英辞典を引くと、なーんだそうかということが多いもの。CALDには、次のように簡単に書いてあり、間違えようがありません。電子辞書にはいくつか英英辞典が載っています。
epitome:the epitome of sth  the typical or highest example of stated quality, as shown by a particular person or thing.

 epitomeに定冠詞がついています。「創造物の典型」とは人類のこと、それは書き手と読み手の間で了解事項ですから、theがつけられています。

 二つ目の文は使役のmakeが動詞として使われており、主語は人ではなく「こと」の英語特有の表現で、どう訳したらいいのか質問がありました。
「こういうときはどうするんだっけ?」と質問を投げ返しました。
「ああ、そうか、主語を副詞句に訳せばいいんだ」
「(デニソワ、フローレンシス、ネアンデルタールなどの)兄弟姉妹を欠いているので...」と柴田さんもそうしてますね。ふだん、繰り返し言っても、知っているという段階で、身についた知識となっていません。こういうふうに具体的な英文になんども出くわすことで慣れてきます。だから、たくさん読まなければいけません。
 もう一つ。"a chasm separates us from the rest of the animal kingdom"の文の意味が分からないというのがありました。文脈が読めてなかった様子。chasm(キャザム)は「深く大きな割れ目」ですが、この文が読めなかった原因は"the rest of the animal kingdom(「animal kingdom」は生物分類学上の用語で「動物界」と訳します。)、その中でも、"the rest"の定冠詞の意味がつかめなかったからです。「動物界の残りの部分」というのは、「(人間以外の)残りの動物界」です。ちなみに、サピエンスやデニソワ、ネアンデルタールなどのヒト種以外の残りの部分ということ。書き手は定冠詞でメッセージを送ってきてます、定冠詞の重要さが理解できるでしょう。リスニングでも定冠詞の聞き落としたら、どういうことになるかわかりますね。とくに強調しない限りは、弱音になってしまうので、注意深く聴かないといけないということ。音読トレーニングで定冠詞theの弱音を徹底的に真似してみればいいのです。
 文構造は案外簡単です。
①Our lack of brothers and sisters makes it to imagine
②that we are the epitome of creation 
③that a chasm separates us from the rest of the animal kingdom.

 imagineの目的語が②と③の二つのthat節です。並列に並んでますから、andでつないでます。


「過去1万年の間に、ホモ・サピエンスは唯一の人類種であることにすっかり慣れてしまったので、わたしたちはそれ以外の可能性について思いを巡らせるのが難しい。わたしたちは進化上の兄弟姉妹を欠いているので、自分たちこそが万物の霊長であり、ヒト以外の動物界とは大きく隔てられていると、つい思いがちになる」…柴田訳


 ついでだから、生物学分類をおさらいしておきます。分類階層のトップから順次下位分類へと下っていきます。
 domain(ドメイン)⇒kingdom(界:動物界、植物界、菌界)⇒phylm/division(門)⇒class(鋼)⇒order(目)⇒family(科)⇒genus(属)⇒species(種)
 専門用語はしっかり定義を捕まえておきましょう。

<20.2>Whether Sapiens are to blame or , no sooner had they arived at new location than the native population became extinct.

 この文は、hadが倒置されているので、仮定法の文だと思い込んだよう。19頁にそういう特殊な構文が出てきたからだろう。#4172から該当箇所を引用しておく。
Imagine how things might have turned out had the Nenaderthals or Denisovans survived alongside Homo Sapiens.

 「特殊構文」ありきで文を眺めると、柳の下に幽霊を見ることになる。二匹目のドジョウはいなかった。できるだけ先入見を外して英文を読む習慣を育みたい。数学でも、問題が解けないときは、角度を変えて問題を眺めるために先入見を外すことが必要になる。
 今回のケースは、倒置でも、たんなる過去完了の文、no soonerを強調するための倒置を外してみたらよくわかる。語順が普段と違うと、混乱するのはしかたがない、でも慣れてくると、瞬時にシンプル・センテンスに置き換えながら読めるようになる。とても簡単な文なのだ。でも、「no sooner」の意味文章上の位置には注意が必要である。'no sooner' は動詞のarrivedを修飾していることは意味を考えるとわかる。これって、文法問題で出題されたら、正答率が低いだろう。構文丸暗記してるか、意味が読み取れないと、thanの直前に入れてしまうだろう。

  they had no sooner arrived at new location than the native population became extinct.

 soonの項をジーニアス(4版)で引いてみた。


no sooner ... than:…:するとすぐに(…する)(1)通例 no sooner の節が過去完了時制、thanの節が過去時制である。 (2)しばしば意外さを含意する
 例文:No sooner had he gotten home than it stopped raining.(彼が家に帰るとすぐに雨が止んだ)
 =He had no sooner got home than it stopped raining.
   =As soon as he had got home, it stopped raining.  ...ジーニアス4版より

 ここでは、no sooner は「(雨が止むのに比べて)ちょっとの間も置くことなく」という意味で、比較の対象がthan以下の文だ。副詞句を文頭にもって来るというのはよくあるケースだが、助動詞がそれに続くということはあまり見ない。この副詞句が動詞を修飾しているからだろうか。ちょっと遊んでみたい。
  I'll be back soon. (すぐに戻ります)
  It will soon be dinner time.(もうすぐ夕食時です)
 どちらの文もジーニアスから。最初のものは通常の副詞句で文末が定位置、時間を表す補足説明です。英語語順での「S+V+Place+Time」のTimeに関する情報です。「戻って来るよ、すぐにね」
 2番目は動詞を修飾した例です。

「サピエンスに責めを負わせるべきかどうかはともかく、彼らが新しい土地に到着するたびに、先住の人々はたちまち滅び去った。」…芝田訳
 
 the native populationをわたしは「元々いた人たち」と訳出した、翻訳者の柴田さんは「先住の人々」と訳している。学術書的な香りが微かに漂う内容の本だから、語彙の選び方に気を使っているのだろう。

<20.3> What was the Sapiens' secret of success? How did we manage settle so rapidly in so many distant and ecologically differnt habitats? How did we push all other human speces into oblivion? Why coudn't even the strong, brainy, dold-proof Neanderthals survive our onslaught? The debate continues to rage.  The most likly answer is the very thing that makes the debate possible: Homo sapiens coquered the world thanks above all to its unique language.

  なかなか、興味深い内容ではある。太字の箇所は辞書を引いてもらいたい。debateに定冠詞theがついているのは、ずっと議論になっている「交雑説」と「交代説」のことだから。theをちゃんと理解していないと
、わけがわからなくなることがあるので、定冠詞にはご用心。冠詞類については英作文でも、高校教科書の読破でも、いつもうるさく言ってきているが、まだ、ピンとこない部分がある様子。理解が進んでいるから、読書量が増えれば自然にわかるようになる、もうすこしだろう。

「サピエンスの成功の秘密は何だったのか?わたしたちはどうやって、これほど多くの、遠くて生態学的に異なる生息環境に、これほど速く移り住むことができたのか?わたしたちはどうやって他の人類種をすべて忘却の彼方へ追いやったのか?なぜ強靭で、大きな脳をもち、寒さに強いネアンデルタールたちでさえ、わたしたちの猛攻撃を生き延びられなかったのか?激しい議論はいまなお尽きないが、最も有力な答えは、その議論を可能にしているものに他ならない。すなわち、ホモ・サピエンスが世界を征服できたのは、何よりも、その比類なき言語のお陰ではなかろうか。」…芝田訳

*人類の遺伝子に残っているネアンデルタール人の遺伝子の痕跡に関する最新の研究成果
 交雑は双方向だった。ネアンデルタール人の遺伝子の中にも現生人類の遺伝子が交雑によって取り込まれていた。20万年前にアフリカを出発し、さまざまに交雑を繰り返して、6万年前に東アフリカへ戻ってきた。だから、6万年前の東アフリカの現生人類の遺伝子の中に、ネアンデルタール人由来のものがあるということが分かった。
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/020300072/?ST=m_news&P=3

<余談>
 7月27日からハラリの本を読み始めて、”Part One The Cogniteve Revolution"(第一部認知革命」),

"1. An animal of No Significance"(第一章「唯一生き延びた人類種」)を読み終え、文字数にして高校3年の教科書の分量を少し超えた。半年かかった。ノートに自分のやった和訳を書かせている。対象化するという作業が大切なのだ。いいところも悪いところもそのまま文章になって現れるから、どう直したのかが後で検討できる。スキルが育つということはそうしたことの積み重ねである。量よりも質を重視した読みを3か月後も続けているのだろうか、さて次の半年でどれくらい読めるのだろう?高校教科書で2年間分読めたらいいか。ブレイクスルーがきっとどこかで起きる。

 難関大学の2次試験問題には、難易度の高い文章を精読させるような設問がでるから、カメさんの歩みでしっかり読むしかない。前後関係でわかるところは、辞書をあまり引かずに、どんどん読み飛ばしたほうが読書の楽しみがある、日本語の本だってそうしている、なんだかもったいない。



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#4172 Sapiens: p.17, 18, 19 Jan. 26, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

 取り上げたい箇所は3か所ありますが、高校生対象にメール配信方式での英作文トレーニングを先々週から始めたことや、2020年版での『青チャート数Ⅲ』の複巣数平面が平成26年度版よりも30ページほど増え、複素平面幾何の問題がかなり増えているので、全部解くのに数日忙しく、ブログで遊んでいる時間がありません。決算と税務申告書作成も今週中にやることになりそうです。
 そんなわけで、最重要な一箇所だけの紹介になります。暇になったときにまとめて紹介したいとは思ってます。本文に印はつけてありますから。

 以下、"Sapiens" 19頁第3段落から引用。

<19.3>  Whichever way it happend, the Neanderthals (and the other human species) pose one of history's greater what ifs.  Imagine how things might have turned out had the Nenaderthals or Denisovans survived alongside Homo Sapiens.  Whatokind of cultures, societies and politeica structures would have emerged in a world where several different human speicies coexisted?

 
 ’what ifs’が辞書に載っていないというので、’what if’について解説をした。’what if’はこれで一つの単語だと解釈してもらいたい、その複数形です。
 会社の経営計画でさまざまな’what if’、つまり’what ifs’頻繁に使ってきました。’what if question’とは、たとえば、臨床検査会社で、人的生産性向上3倍にするような業務システムと検査システムを構築したら、売上、売上総利益、営業利益はどうなるだろう、というようなの「Aすれば(Aしたら)、Bはどうなる?」というもの。
 42年も前のことだが、産業用エレクトロニクスの輸入商社で、営業マンが注文してから1年先の納期にになる製品の仕入価格や為替相場を想定して一日の半分くらい見積書作成作業に追われているので、それを毎日見ていて何とかしようという東京営業課長の遠藤さんが円定価システムで自動化したら、何とかなりそうだ、ebisuさん一緒にやってくれないかと、中途入社まだ1年のわたしに相談を持ち掛けてきた。営業課長で営業事務のやり方、生産性アップを常日頃から考えているだけでなく、社内でもいつもトップセールスでした。わたしが知っている営業マンでは彼が最高でした。SRLの営業部門にはこんな優秀な人はいませんでしたね。数は10倍近くいましたが…。「30分だけ飲みに行こう」と誘ってくれるのですが、必ずハシゴで、終電に乗れないこともありました。5時まで飲んで、酒が抜けず、午前中はトイレで数回吐いて仕事なんて無茶もしてました。そんな日でも人形町の「芳梅」のおかゆランチを食べたら、「エンちゃん」とまた飲みに行きたくなります。いいコンビでした。「独立起業しよう」と誘われたことがありました。米国メーカの日本法人設立の動きがあって、遠藤さんに白羽の矢が立った。断ったら、かれは独立しませんでした。彼が社長でわたしが副社長、強い営業マンと経営に秀でたわたしのコンビ、面白い会社ができたでしょうね。好い奴です、エンちゃんどうしてるかな。
 営業マンは理系の大卒と国立高専が3人、その営業マンの人的生産性が2倍に上がるから、同じ人数で倍の売り上げ達成化可能だし、営業マンが一人一人計算していた見積価格は会社の利益政策で設定・管理できる。28%しかない粗利益率を40%にコントロールできるなんてことを、酒を飲みながら話して、翌日から具体案を考えた。問題は仕入レートと、注文してから数か月からい年後に輸入される世界最先端の商品の支払い時の決済レートには為替変動で差異が生ずる、それを消せなければ、会社の業績は為替変動の波に足元をすくわれる。うまい方法を考案した。バルクで為替予約をすることを思いついた。円定価レートと仕入レートをリンクさせて、バルクで為替予約をしてしまえばいい。90%が予測範囲内に収まれば、為替差損の発生は消滅し、日米金利差で為替差益が必ず出せる。お客様にも予算を採って発注時に円定価で注文できるから、実際に入荷したときに為替レートがいくらになっていようが関係なしということになる。お客様が予算をとるときに金額が決められるので、担当者も都合がいい。それで、懸案だった納期管理システムを立ち上げて、円定価システムと連動させた。社内での為替管理業務は不要になった。3年間で見事に高収益会社となり、財務体質も大幅に改善できた。その後、この会社は上場することになる。そして約30年後に上場廃止、他社へ吸収合併されている。
(初代社長はスタンフォードでHP社創業者のヒューレットやパッカードと同期の友人、2代目は慶応大学大学院経済学研究科卒、わたしはこの人の下で20代後半から34歳まで仕事した。3代目が1年浪人して東大へ合格した後で辞めたので、3代目はあったことがない。会社を辞めて、1か月後にオービックのS沢SEから電話をもらった。やめたことを知って電話してくれたのだ。輸入商社専用の統合システムパッケージを開発するので、オービックに来ないかと誘われたが、その時はもうSRLへ転職していたので、お断りした。十数年前にオービックの役員をみたら、開発担当役員S沢さんの名前があった。5年間一緒にいくつかのシステム開発をしたので、かれと仕事することでシステム開発技術を学んだ。対等で仕事したかったので専門書を30冊ほど読んだ。彼は当時、事務系システム開発では、オービックトップのSE。最後の1年間は日本電気情報サービスの高島SEと仕事した。社長の関さんが、大口取引先だったNECに、コンピュータを三菱からNECに切り換えることを条件に、統合システム開発なので日本電気にトップクラスのSE派遣を要求した。それで来たのが日本電気情報サービスの高島さんだった。S沢さんとはやりかたが違ったので、いくつか新しい方式を学べた。統合システムは簿記・売上債権管理、為替管理、仕入・納期管理業務、円定価システムなどの専門知識と、実務設計力を必要とした。仕様書はプログラミン儀仕様書レベルで外部設計をしている。プログラミングは必要に応じて5年間で3言語マスターした。)
 こうして、仕入レート(仕入時の外貨換算レート)を自動計算し、必要な為替予約をすることで、為替差損発生が消滅しました。たった3年間で、円高・円安に翻弄されて、赤字ギリギリの低空飛行だった会社が高収益会社に化けました。ようするに「こうしたら・ああすれば」が’what if quetion’。「タラ・レバ」と訳したっていい。
 そういう'what if'が2個以上あれば'what ifs'となる。こんなにビビッドで具体的な解説は、極東の町の塾でないと聴けません。(笑)
 問題はアンダーライン部分である。O君、この文は仮定法ではないか、それも倒置だと主張した。hadは使役かとわたしは考えたのだが、’might have turned out’があるのと、直前の文に'what ifs'がある。O君が正解です。

「どちらが起きたにせよ、ネアンデルタール(とそれ以外の人類種)は歴史上の大きなファット・イフ・クエッション(たら・れば)を提起している」
 
 わかりやすいようにこの仮定法過去完了の文を、倒置をほどいた文に書き直してみる

 ①Imagine how things might have turned out
 ②the Nenaderthals or Denisovans had
survived alongside Homo Sapiens.

 turn out: ...になる、進行する
 どの辞書にも、'turn out' の最初の項目には「~わかる」が載っていますが、それではいけません。電子辞書は、こういう時にスクロールしなければみれません。紙の辞書だと全部視野に入りますから、圧倒的にサーチしやすいのです。このあたりでも、電子辞書を使うか紙の辞書を使うかで、学習の深さに差が出てきます。電子辞書は発音が耳で確認できるので便利ですが、一覧性がないという弱点もある。臨機応変に両方使って、自分で比較したらいかが? 


 このように二つに切って、間にカンマを入れ、倒置しない文で書いてくれたら読みやすいのだが、主節と条件節の順序が入れ替わっているうえに、条件節の主語が倒置されてhadとsurvivedの間に挟んであるので、難易度が上がっている。こういうのを文法工程指数の高い文章という。こういうレベルの本を1冊読めば、慣れます。なぜ、主節と条件節をカンマで区切らなかったのか、あるいはなぜ倒置法を使ったのかを考えてみるのは一興です。わかりやすい文にはなりますが、幼稚に見えます。だから修辞法にこだわったのでしょう。区切りのカンマを外したら、倒置しないと"might have turn out Neanderthals or Denisovans had survived alongside Homo Sapiens" となって、Neanderthals以下がturn outの目的語に見えてしまいます。そこまでが主語に見えてしまうからではないでしょうか。hadを倒置して先頭にもって来ることで、読み手にサインを送った、そうわたしは解釈します。

「実際はどうだったにせよ、ネアンデルタール人(と他の人類種)は歴史にまつわる「もし」のうちでも屈指のものを提起する。もし、ネアンデルタール人かデニソワ人がホモ・サピエンスとともに生き延びていたら、どうなっていただろう?いくつか異なる人類種が共存する世界では、どのような文化、社会、政治機構が誕生していただろう?」柴田訳

 O君は英語の特殊な構文を解説した参考書を一冊読んだらしい。そこに仮定法の倒置の例が載っていた、どんぴしゃりの文で、河合塾の冬季特訓でやった東大過去問レベルの文と喜んでいた。

 ところで、二つ前の段落に次のような文がある。
"One possibility is that Homo sapiens drove the to extinction."(一つの可能性はホモ・サピエンスがネアンデルタール人やデニソワ人たちを絶滅に追いやったということ)、
 そしてひとつ前の段落の"Another possibility is that competition for resources flared up into violene and genocide"(別の可能性として、資源をめぐる競争が高じて暴力や大量虐殺につながったことも考えられる)が、あって、冒頭に掲げた段落が続いている。O君、段落が離れたところにあった"one possibility"と "another possibility"もちゃんとつなげて考え、段落ごとのロジックを読んでいた。余裕が出てきたのか、慣れてきたのか、生徒の成長を感じた瞬間である、うれしいものです。こうして生徒たちは「勝手に育っていく」のです。わたしは、なんにも「教導」しません。(笑)

<サンドイッチ法>
 文章を文脈の中でロジカルに解釈していくと、自然に正解に行きつきます。直前に合った'what ifs'との関連と、直後の文を読むと、書いていることがはっきりわかります。"サンドイッチ読み"すれば判断できる場合が多い。それでもダメな場合は、文法工程指数の高い句構造や節構造をシンプルセンテンスに分解すればいいのです。だから意味不明な個所があっても構わず先を読み進むことが大事です。先を読み進んでサンドイッチ読みする習慣をつけましょう。共通一次試験のリーディング対策として、効果の高い技です。
 日本語の本なら、文庫本や新書版を百冊以上読んだ人なら誰でも、そういう読み方をしているでしょう。当たり前のことを当たり前にできるようになることで、英文読みのスキルは嫌っていうほど上がります。だから、正攻法でいいのです。 

<余談:仮定法の基礎
 仮定法を忘れた読者もいるのではないかと、意味の違いが比較できるように並べておきます。
 1.それやれるよ(潜在的可能性:現在形)
   I can do that.
 2.それできなかった(過去形)
     I couldn't do that.
 3.もっとお金があれば、できるかもしれない。(実際にはおカネがなくてできない⇒反実仮想:仮定法現在)
     If I had much money, I could do that.
 4.できたかもしれない(やればなんとかできたのに実際にはあのときはあれができなかった:仮定法過去完了)
     I could have done that.
 
 4番目は軽い後悔の念を伴うことが多いことはおわかりでしょう。助動詞のwouldやcouldやmightが使われますが、それぞれ、話者や書き手の気持ちを表現しています。could haveは「クッダヴ」と発音しましょう。


<英作文トレーニング実施中!>
 これが最近忙しい理由の一つです。英作文は高校2年生だけ、週4日×5題=20題問題を作ってメールで配信中。やってきたのをチェックして、生徒の学力に応じた解説をしている。あんなに英語にアレルギーがあってやろうとしなかったのに食いつきがいいので、こちらもうれしい。
 高1は問題数を少なくしている。まだテスト段階、生徒たちの学力に応じた英作文問題を開発中(笑)
 ニムオロ塾長は走りながら考える。不可能そうに見える仕事も、それで全部やり切ってきました。必要なものをやりながら補充していきます。

<走りながら考える:具体例>
 たいがい、1年あるいは数年前から、好奇心の赴くままに専門書を読んで学んできたことが重要な役割を果たす難易度の高い仕事が回ってくるようなめぐりあわせが何度かありました。マルチな専門分野をもっておくこと、そしてそれを好奇心のままにつねに拡大していくことが人生を切り拓くためには大事なことのようです。

 ついでだから、書きます。
 第一段階:簿記・会計学・原価計算
 第二段階:理論経済学(経済学の基礎的概念とその体系構築との関係に関する研究)
 第三段階:統合システム開発技術と世界最先端のマイクロ波計測器、外国為替の専門知識、経営分析の専門知識
 第四段階:臨床検査に関する専門知識、臨床検査試薬開発に関する医学専門知識

 こんな感じで、専門分野を増やしてきました。数学と英語はさまざまな専門書を読むためになくてはならぬ基礎スキルでした。
 第一段階は高校時代、第2段階は学部(商学部会計学科)と大学院、第3段階は産業用エレクトロニクスの輸入専門商社の6年間で、最後は臨床検査業最大手のSRLでの16年間。臨床検査項目の日本標準コードを大手6社と臨床病理学会項目コード検討委員会の櫻林郁之助教授との産学共同プロジェクトを発案、マネージメントできたのは、そうしたさまざまな専門知識があってのことでした。臨床検査コード標準化プロジェクトは1985年か86年に書いた『臨床診断システム支援事業』の10個のプロジェクトの一つにすぎません。全国の大学病院や著名な専門病院をネットワークでつなぐつもりでした。血液疾患のような診断手順が複雑な病気は専門医育成に役に立ちます。病理もそうです。グレーゾーンの病理標本を数十万単位で収集してデータ解析することで、自動判定可能になるし、そういうデータで繰り返し判読して診断精度を急激にアップできます。つまり、いくつかの分野では専門医育成にこの事業で蓄積したデータが絶大な威力を発揮することになります。いまなら、あの構想が実現可能です、コンピュータも通信速度もとっくに要件を満たしてます。どこかであの構想を1000億円で買ってくれないかな?数十兆円のビジネスになりますよ。わたしが一部分だけマネジメントしてもいい、大きいプロジェクトは人材確保とキックオフの仕方が大切ですから。SRL創業社長の藤田さん、即座に経営会議にかけて1週間でgoサインだしてくれました。フィジビリティ・スタディと事業化の目途をつけるために、とりあえず200億円使っていい。(笑)
 創業社長の藤田さんは医者です、小児科の医師。次の社長は近藤さんでした、この方も医師ですが、厚生省の技官になって、臨床はやらずじまい。どちらの社長も重要な仕事を任せてくれました、恵まれてましたね。高度な経営分析スキルと統合システム開発スキルがあった上に、検査現場を熟知していたので、臨床検査会社の買収も2件担当して、そのうちの1社に先方からの要求で経営改善を目的の役員出向もした。近藤さんには帝人との臨床治験検査受託及び治験データ管理合弁会社の経営を任せてくれました。赤字解消と資本買取による合弁解消そして帝人臨床検査子会社(羽村ラボ)の買収という、面白そうな仕事を、3年間の期限付きで引き受けました。全部やりましたよ。3年かからなかった。楽しめました。だから藤田さんと近藤さんに感謝。平社員だって、トップの理解があれば、そして複数の専門分野をもち、仕事の実績があれば何でもできますよ。
 いま、この臨床検査項目コードは全国の病院でもれなく使われてます。病院のコンピュータにはすべて採用されてますから、わが町の市立根室病院も主治医のところのO医院も例外ではありません。利用者側には見えません、コンピュータ・システムの中で標準項目コードに自動変換されてやりとりしてます。2年に一度保険点数の改定があるたびに、日本標準検査項目コード管理の事務局になっているSRLがテーブルをネットにアップして、それを各病院が取り込んで使っているのでしょう。SRLは業界最大手ですから、こういう無償の仕事もやるべきで、社会的責任があります。だから、高収益会社である必要があります。社会的責任を担うにはコストをカバーできる利益がなければいけません。企業は儲けなければ存在価値なしですが、儲けること、利益追求が自己目的になったらアウトです。だから、数百年前から、日本の企業は次のような商売道徳を大切にしてきました。
売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし
 日本企業は昔から、アクセル(儲けましょ)とブレーキ(商業道徳)のついた車だったんです。最近、そうではない経営者が日本にもはびこるようになりました。カルロス・ゴーンが日本の経営者の貪欲な欲望の堰を切ってしまった。せめて日本の企業だけは、ちゃんとやろうよ、そう言いたい。日本が世界に商業倫理の範を示したらいい。日本が世界中に輸出すべきものは日本企業が生産する品質の高い製品に非ず、それを支えてきた「商いの倫理」です、人間は動物本能を抑止しなければならない、若い人たちに期待してます。いつかどこかで、このブログを読んだあなたのお役に立ちますように。






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#4169 Sapiens: page 17. Jan.18, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

 生徒が河合塾の冬期講習に行っていたので、3週間ぶりの授業である。付番ルールを忘れてしまったので、確認、ああ、なるほど、「ページ数[.]段落番号[-]枝番号」だった。

<17.1>   A lot hinges on this debate.  From an evolutionary perspective, 70,000 years is a relative short interval.  If the Replacement Theory is correct, all living humans have roughly the same genetic baggage, and racial distinctions among them are negligible.  But if the Interbreedig Theory is right, there might well be genetic diffrences between Africans, Europians and Asians that go back hundreds of thousands of year.  This is political dynamaite, which could provide material fore explosive racial theories.


 ネアンデルタール人の化石から遺伝子を抽出して、マッピングした研究成果が2010年末に公表されており、その調査研究レポートを踏まえてハラリは書いている。最近の研究結果がこの段落と次の段落で展開されている。まだ、高校生物の教科書には収載されていない内容であるから、知的好奇心をくすぐってくれる部分だ。生徒はワクワクしながら読んでいる。

 ところで、アンダーライン部が面白い。文型はⅠ文型でとってもシンプルだが、'a lot hinges' を名詞句だと思い込んだらわけがわからなくなる。hingesは名詞ではドアのヒンジ、つまり蝶番の部分だが、ここでは動詞であり、「~次第である」という意味。わけがわからないと思ったら、原理原則に戻って、辞書を引いたり文型チェックをしたらいい。そうすれば「視点変換」できる。数学の問題を解くときと一緒です。数学のできる生徒は、処理の類似点に気がつけば、英語も簡単になる。

 'a lot'が主語になっているが、こういう文は前にも出てきた。'many'が主語になっている文がp.8の第三段落にあった。
 Some lived only on a single island, while many roamed over continents.
 (単一の島に住む種もいたが、多くはさまざまな大陸を歩き回った)

 それぞれ、 'some (of these specis)'と 'many (of these species)'のカッコ内が省略されたものであるから、補って読めばいい。省略するのが普通だ。

 8ページの第2段落でハラリは、2010年にデニソワ洞窟でデニソワ人の指の化石が発見され、その遺伝子解析がなされたことにも言及している。

 'a lot (of things)'の省略であると見たらいい、この名詞句は不定冠詞がついているから単数であることに注意。thingsのほうは複数だが、'a lot'という名詞句を修飾する前置詞句である。
 'a lot' を'lots'とやったら、もちろん複数だから、hingeと書かなければならない。

 間の好いことに、始めたばかりの、メールによる英作文5題/日の#002の五番目に次の問題をだしていました。ちょうど、授業の前にやったところです。

---------------------------------
 問題5:あれからいろいろなことがありました。
 生徒の答えは、次のようになっていたかな。
 There is a variety of things since then.
 マルはあげられませんが、△はあげたい。でも、ヘンな英文です、なぜでしょう。相aspectの選択ミスです。日本語には完了相がないので、ピンとこない生徒が多いのですが、完了相の英文は案外多い。'since then'と書けたのですから、単純現在形の文とは相性が悪いことに気がついてほしかった。次の文が正解。
 A lot has happended since then.

----------------------------------


  どうです、ずっとシンプル、そしてコンパクト、完了相を使っているところが味噌。「あれからいままでいろんなことがあった」ことがスーッと伝わってきます。
 二つ英文を比べてみることで、あとの方の切れの好さがよく理解できるでしょう。 
 英作文とSapiens講読が早くも絡み合ってきました。書くことを考えながら、ハラリの文章を読む、ハラリの文章を読みながら、英作文のコツをつかむ、ますます楽しくなります。内容も知的好奇心をくすぐってくれます。

 hinges on:~次第である

 2番目のアンダーライン部'the same genetic baggage'はハラリは現人類が「同じ遺伝子の手荷物」をもっていると書いたのだが、baggageは持ち歩ける荷物であることから、代を継いで現人類が遺伝子コードをまるで手荷物に詰めて受け渡してきたようなイメージで語っている。それをどのように訳すかは日本語語彙の選択の問題である。訳者の柴田さんはさらり、「同じ遺伝子コード」と意訳している。日本文学の専門家、あるいは日本文学に造詣の深い翻訳者なら、どのような語彙を選ぶのだろう?もっと、読みやすくて、切れの良い文章になるのだろうな。
 翻訳の名人の一人であった柳瀬尚紀氏はその著『翻訳はいかにすべきか』(岩波新書 2000年刊)の冒頭で「翻訳という語は、筆者にとって、あくまで日本語である。翻訳という行為を、あくまで日本語の行為として考える」と書いている。柳瀬さんは1943年6月2日生まれであるから、根室高校の6学年先輩にあたる。弊ブログにも一度だけ、コメントをいただいたことがある。2016年7月30日にお亡くなりになった。贅沢な話だが、柳瀬さん訳のSapiensも読んでみたかった。
 根室高校の先生と生徒諸君は、名翻訳家である柳瀬尚紀さんの著作を読んだことがあるかな?滅多にいませんよ、一流の翻訳職人、名人の域です。遊びごころもひょこひょこと顔を出します。『ゲーデル、エッシャー、バッハあるいは不思議の国の環』の訳者あとがきをご覧ください。定価が5800円ですが、根室高校図書室に置いてもらいたい。柳瀬さんの著作が全部図書室に揃ったらすばらしい。「柳瀬尚紀翻訳・著作コーナー」なんて、想像しただけですてきです。

二つの説をめぐる論争には、多くがかかっている。進化の視点に立つと、七万年というのは比較的短い期間だ。もし交代説が正しければ、いま生きている人類は全員ほぼ同じ遺伝子コードをもっており、人種的な違いは無視できるほどにすぎない。だが、もし交雑説が正しいと、何十万年も前までさかのぼる遺伝子的な違いがアフリカ人とヨーロッパ人とアジア人の間にあるかもしれない。これはいわば人種差別的なダイナマイトで、一触即発の人種説の材料を提供しかねない。」p.29 柴田訳

「もし交代説が正しければ」は、「交代説が正しい場合には...」とした方が文章がすっきりします。あとのほうの交雑説のところも同様です。
 これって、哲学者の市倉宏祐先生が、イポリットの『ヘーゲル精神現象学の生成と構造』を翻訳されていたころ、午後のゼミで、われわれの退屈な議論にねむそうな顔をされながら「if節は、「~の場合」と訳すといいんだよな」とつぶやいたのを聞き逃しませんでした。眠そうな顔をされていたので、「徹夜ですか?」「イポリットの翻訳していたら、夜が明けてしまったので、そのまま研究室へ、眠ってないんだ」との返事、そのあとの誰かの質問に対するものだったのかもしれません。
 市倉ゼミへ入ったのは2年生の時でしたが、1年生の時に許万元著『ヘーゲルにおける概念的把握の論理』を3度ほど読んでました。高校2年生の時にヘーゲル『大論理学』に目を通したのですが、歯が立たなかったからです。マルクス『資本論』の延長線上にヘーゲル論理学がありました。ずっと、気になっていたのです。市倉先生はサルトル哲学研究者として第一人者でしたが、わたしがゼミに入れてもらったころには、ヘーゲルへも興味が移っていたのでしょう。ゼミでは、一度もヘーゲル哲学について先生と議論したことがありませんでした。『資本論』全巻と『経済学批判要綱』ⅠとⅡをテクストに使っていたので、ヘーゲル哲学について議論をはじめたら、他のゼミ員に迷惑になると当時のわたしは考えていたのかもしれません、もったいないことをしました。3年間も謦咳に接していたのに、阿呆です。


 予習してきてないし、久しぶりに会った生徒とおしゃべりが多くて、全然はかどらなかった。その分、今日の授業で全力疾走してとりもどしてもらいます。甘くありませんよ(笑)

<余談:大鷲>
 12:20、大鷲が2羽、羽を広げて悠然とこちらへ向かって飛んでくるので、双眼鏡で見た。肩の部分が真っ白、尾も真っ白だ、きれいだな。もう一羽が変わっていた。肩の部分が白くない、広げた羽の中央部分が白くなっていた。尾羽は真っ白。あんな色、模様の大鷲見たことない。


*柳瀬尚紀 
https://ja.wikipedia.org/wiki/柳瀬尚紀


 柳瀬さんのユリシーズだけ読んでいません。

日本語は天才である (新潮文庫)

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  • 作者: 柳瀬 尚紀
  • 出版社/メーカー: 新潮社
  • 発売日: 2009/09/29
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翻訳はいかにすべきか (岩波新書)

翻訳はいかにすべきか (岩波新書)

  • 作者: 柳瀬 尚紀
  • 出版社/メーカー: 岩波書店
  • 発売日: 2000/01/20
  • メディア: 新書
ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環 20周年記念版

ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環 20周年記念版

  • 作者: ダグラス・R. ホフスタッター
  • 出版社/メーカー: 白揚社
  • 発売日: 2005/10/01
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対局する言葉

対局する言葉

  • 作者: 羽生善治
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2018/03/16
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ユリシーズ1-12

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  • 作者: ジェイムズ ジョイス
  • 出版社/メーカー: 河出書房新社
  • 発売日: 2016/12/02
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ヘーゲル精神現象学の生成と構造〈上巻〉

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#4154 Sapiens: page 14, 15, 16 Dec. 20, 2019 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

 生徒がインフルエンザA型に罹患して先週は原書講読授業はお休みだった。3年生の明大受験の人が、このシリーズ利用してくれていたらうれしい。
(番号は整数部が頁、小数第一位が段落番号を示す。段落番号が0になっているのは、前頁からの続きの段落であることを示している。)

<14.3>  Despite the benefits of fire, 150,000 years ago humans were still marginal creatures.  They could now scare away lions, warm themselves during cold nights, and burn down the occasional forest.

 この文のoccasionalをどう訳したらいいのかというのが生徒の質問である。'the forest'という名詞句に挟まっている、もちろん形容詞だが、そのままでは日本語にならない。「時折森」では意味をなさぬ。
 スーパーアンカーに次の用例が載っている。
 She enjoys the occasional glass of champegne. (彼女は時おりシャンペンを飲むのを楽しみにしている)
 名詞を修飾する形容詞だが、日本語にするときには副詞的に訳せばいいということがわかる。
 「15万年前の人類は時おり森を焼くことができた」
 英作文する側から考えると、どうして次のように書かないのだろうと疑問がわく。
  She occasionally enjoys the glass of champegn.
 この文では「時折楽しい」となってしまう。occasionalのほうだとグラスでシャンペンを飲むのが時おりで、そうしたシーンはいつも楽しいということになり、意味に違いが出る。


 文の構造は次のようになっている。
a) They could now scare away lions
b) (They could now) warm themselves during cold nights
c) (They could now) burn down the occasional forest

  スラッシュリーディングする場合は、瞬時にこうした文構造を見抜かなければ、適切な個所にスラッシュを入れられないし、入れたとしても意味のつながりが読み取れない。だから、こういう文構造を読み取るトレーニングは、読書速度を上げる必要条件である。

「火の恩恵にあずかってはいたものの、15万年前の人類は、依然として取るに足らない生き物だった。いまやライオンを怖がらせて追い払い、寒い晩に暖をとり、ときおり森を焼き払うこともできた」柴田訳26頁


<15.0> Our own species, Homo sapiens, was already present on the world stage, but so far it was just minding its own business in a corner of Africa.

 太字にした3か所が引っかかって意味がとれなくなったという。27語の文で3か所で引っかかるとお手上げになるというのは、だれでも遭遇することだろう。カンマがやたら入った文章も、たくさん読んでいなければ読みにくいものだ。
 presentは形容詞である。『スーパーアンカー』から用例を引こう。
  Tests showed unusual level of radiation are presnt in the patient. (検査によるとその患者の体内に異常なレベルの放射能が存在することが分かった)

 present:~存在する
 挿入句と副詞を取り除くとこんなに簡単になる。
 Our own species was present on the world stage.
「わたしたち自身の種は、世界の舞台に登場していた」
 [present on the world stage]という風に、動詞句は前置詞句や目的語とセットで、つまり意味の塊でとらえることができたらいいのである。たくさん読むことで、次第に慣れます。

 [but so far]を一塊の熟語だと思い込んでしまった。[but+so far(それまで)]ということに気がつけばなんてことはないのだが、… 前の部分でpresentに引っかかったので、頭が真っ白、考える余裕がなくなったということ。平常心で読もう。

 mind:①嫌がる、②気をつける、③...の言うことを聞く、④~の世話をする
 ④の意味を知っている高校生は少ないだろう。「知っている訳語で意味が通らなければ、辞書に訊け」、それで、④の意味のあることが分かったら、①~④まで共通しているのは何かを考えてみよう。「そこに心をとめる」というのが原義だと見当がつく。

 ,but so far it was just minding its own business in a corner of Africa.
 (だがしかし、それまでホモサピエンスはアフリカの片隅で自分自身の仕事の世話をするだけだった)

 15万年前、ホモサピエンスは生態系の頂点にはおらず、捕食者におびえながら、自分の身の安全や食糧確保に精いっぱいという暮らしを送っていたのである。生態系の頂点に駆け上るなどということは夢想だにできなかった


「わたしたちの種であるホモサピエンスは、すでに世界の舞台に登場していたが、この時点ではまだ、アフリカ大陸の一隅で細々と暮らしていた」…柴田訳

<15.2> When Homo Sapiens landed in Arabia, most of Eurasia was already settled by other humans.  What happened to them.  There are two conflicting theories.  The 'interbreeding Theory' tells a story of attraction, sex, and mingling.


 質問はアンダーラインを引いた部分が日本語にしにくい、どうさばけばいいのかということだった。
「交雑説というのは、ホモサピエンスと他の人類種がお互いに魅力を感じ、セックスして、交雑するということ。」
 そのまま直訳したら、こなれた日本語にならないから、日常使うようなレベルの日本語で作文するとこうなる。高校生にこのような訳はできなくていいよ。だけど、名詞を動詞であるかのように訳せば、こなれた日本語にできるケースがあることは、記憶にとどめておいてもらいたい。
 書き足すと次のようになる。
 a story of being attractive each other, having sex and mingling
 これを、名詞句に置き換えたものがハラリの書いた文章である。それぞれの動詞句の主語はサピエンスと他の人類種であるから、それも読み取らなければならない。原文自体がずいぶんと圧縮されているので、和訳の字数を同じくらいに収めようとしたら、わかりにくい文章にならざるを得ない。こういう文章を生成文法では文法工程指数の高い文章という。
 ところでattractionとsexとminglingは時系列に並んでいる。お互いに惹きつけ合い、番って、溶けて一体化してしまう、遺伝子レベルで一つになってしまうということ。実際に、わたしたちサイエンスの遺伝子コードにはネアンデルタール人の痕跡がある。

 翻訳者の柴田さんは次のように訳している。
「ホモサピエンスがアラビア半島に行き着いたときには、ユーラシア大陸の大半位はすでに他の人類が住していた。では、彼らはどうなったのか?それについては二つの相反する説がある。「交雑説」によると、ホモサピエンスと他の人類種は互いに惹かれ合い、交わり、一体化したという。」

<15.4> ( Archaeologists have discovered the bones of Neanderthals who lived for many years with severe physical handicaps, evident that they were cared for by their relatives.)
  Neanderthalsare often depicted in caricatures as the archetypical brutish and stupid 'cave peopel', but recent evidence has changed their image.

 質問はアンダーラインを引いた部分の意味が分からないということ。構文が瞬時につかめていない様子。慣れるしかないのかな。文構造は次のようになっている。
a) Archaeologists have discovered the bones of Neanderthals
b) (Archaeologists have discovered) evident that they were cared for by their relatives


 もっと簡単にすると
 Archaeologists have discovered the bones and evident
「考古学者たちは骨と証拠を発見した」
 whoで始まる関係節は、先行詞the bones of Neanderthalsの補足説明である。間に余計なものが挟まって、文が長くなるととたんにうろたえるように見える。こうして何度もさまざまな飾りがついたり、挿入句のある文章をたくさん読むことで、瞬時に大くくりで文の構造を見抜くことに少しずつ慣れてもらいたい
。頭の中で適切な個所にスラッシュを入れながら、文章を先頭から高速で読むには必要な修業である。そのためのトレーニングが原書講読講座である。
(2時間の授業で、英文を視写し、日常使う言葉へ落とした和訳をノートに書きながらやらせているので、ようやく1ページ処理できるようになった。8月から始めたから6か月かかっている。この生徒は10月の英検2級に合格している。次の段階はレベルBの文章だけ、和訳を書かせるので、2時間で3頁の速度を期待している。4月ころにそうなるだろう。)

<16.1>  The opposing view, called the 'Replacement Theory', tells a very differnt story-- one of incompatibility, revulsion, and perhaps even genocide.  According to this theory, Sapiens and other humans had different anatomies, and most likely different mating habits and even body odours.  They would have had little sexual interest in one another.


  'one of incompatibility'を「不一致の一つ」としてしまった。1970年代後半はIMB互換機(コンパチブル)か非互換機(インコンパチブル)かで、国内コンピュータメーカが迷った時期である。懐かしい用語だ。受験生は「one of them」という型が頭に浮かんでしまうので、他の可能性が見えなくなる。oneは一つではなく、'a very differnt story'を受ける不定代名詞である。不定代名詞oneの用法を中学校では説明しない先生が多いようだ。受験英語に慣れると、こういう風に思い込みが入ってしまい、虚心に文章を眺めることができずに、デッドロックに乗り上げる。compatibilityは「両立」「並存」であり、否定辞'in'があるから「両立できない」「並存できない」が適切。サピエンスと他の人類種が共存できないと「交代説 Replacement Theory」は主張しているのである。
 なんとなく訳していたのでは、上達がおぼつかぬ。この生徒は、草をつかみ地べたを這いながら急な上り坂を登りつつある。きついけど、楽しいだろうな。
「サピエンスと他の人類種が共存できず、激しい憎悪をお互いに向け、おそらくは大量虐殺さえもなされたという物語」
 「物語」は「交代説」のほかに、先に見たように「交雑説」があるから、不定冠詞 'a' がついている。読む(黙読する)ときも、声に出して音読するときにも、リスニングのときにも冠詞の有無に細心の注意を払ってチャレンジしよう。意味がまるで違ってしまうからだ。

 次の問題はアンダーラインを引いた部分である。mostはlikelyを強調する副詞だから、「ほとんど」と訳してはいけない。「most people」のような形容詞ではない。シンプルセンテンスに書き直すと次のようになる。
a) Sapiens and other humans had different anatomies,
b) (Sapiens and other humans had) most likely different mating habits and even body odours.


a) サピエンスと他の人類種は解剖学的構造が異なる
b) サピエンスと他の人類種はつがう習慣や体臭さえもおそらくかなり異なっていた

 同一主語だから、後に続く文の方では主語が省略されただけのこと、簡単でしょ。文章が長くなると案外気がつかない。わたしが英文を読むときには、ほとんど無意識に補って読んでいる。

 受験英語に慣れるとこういう箇所で'be likely to do'が頭に浮かび「…しそうである」「…ありそうな」という訳語を振り払えない。ここでは「たぶん、おそらく」という意味である。『スーパーアンカー』には次の用例がある。
 Most likely it is true.(十中八九それはほんとうだろう)
 "most likely different mating habits"は「十中八九つがう習慣が異なっている」であるが、それは具体的に何を指しているのだろう?言及がない。
 サルと人間を想起してみたらどうだろう。わたしたちはサルとは番(つが)わないし、番いたいとも思わない。つがう習慣どころか生活習慣も食習慣も知能も異なる。サルと一緒に暮らして子どもをつくろうとする人間はいない。実際に、番ったところでこどもはできない、それほど生物学的に違ってしまっている。「交代説」は生物学的に子どもができないほど、あるいはロバと馬の子であるラバが生殖能力を失い子孫を残せないように、たとえば、サピエンスとネアンデルタールの間に子ができたとしても、子孫を残せず死に絶えたと考えるのである。
 'body odours'は体臭である。体臭はセックスに強い関係がある。犬や猫は盛りがつく時期になると、メスの局部の匂いを嗅ぐ、匂いの中にフェロモンが混じっているからだろう。匂いはオスとメスが番うときに重要な役割を演じている。人間のメスが香水をつけるのもそういうことである。自分が自然に発する匂いだけでは足りない、もっと強烈なフェロモンを振りまき、優秀なオスと番って、優秀な子孫を残したいという、生物としての根源的な欲求に根ざしたものだろう。
 あなたは、女性とすれ違ったときに、昔いとおしいと思った人と同じ香水が鼻先をかすめたら、はっとしたことはありませんか。女性の場合なら、男性の整髪料の香にハッとしたことはありませんか。本能に近い部分である嗅覚が生殖行動に及ぼす作用は数万年単位ではかわらないようです。


<この節のタイトルについて>
 ところで、この節のタイトルは「Our Brother's Keepers」であるが、'keepers'を「番人」と訳した人はいないだろう。意味がちんぷんかんぷんになるから、それではいけないことには大方の人は気がつく。この授業の生徒もその中の一人だった。だから、質問が出た。
「先生、この節のタイトルの意味がわかりません」
 そこで、解説しながらヒントをだして、思考を促す。
 'our brother's'はわたしたちの兄弟だから、他の人類種のことだ。ソロエンシス、デニソワ、ネアンデルタールやフローレンシスなどのこと。
「keepの原義は「保存する、維持する」だから、原義に戻って考えてごらん、そして辞書をもう一度引いたら見当がつくよ」

と言ったら、すぐに見つけた。-erがついているが、人ではなくてモノなのである。受け継がれ維持されてきた価値のあるもの、遺伝子と言い換えてもいい。「われわれサピエンスの中にある他の人類種の痕跡」と翻訳した。翻訳者の柴田さんも、ここは考えたようだ。例によって、出版側からの字数制限の要求を満たすために次のようなタイトルを付している。
 柴田訳 「兄弟たちはどうなったか?」

 急所をとらえた訳だが、もうすこしやりようがあったのでは?
 全体に訳文に硬さがあるのは、ハラリの書いている文自体が硬いからだ。もう少しほどいて訳したらずっと読みやすくなる。要所要所でほどくだけだから、2割ページを増やしたらなんとかなりそうである。ところどころ、ほどいて書いた。解説部分でそういう処理をした訳文を例示しているつもりである。

 16頁まで終わった。本人の弁だと「だいぶスムーズに訳せるようになってきました」という。読み慣れてきたことはたしかである。今年の原書講読授業はこれで終わり、来年は1月16日がサピエンスの授業の初日になる。

<英作文トレーニング>
 カタカナで書くときには「リテラシー」と書くようだが、音はリタラシー(literacy)である。読み書き能力、識字能力のことであるが、Sapiensを読むのは「読みのスキル」を磨くためで、先週から、書く方のトレーニングも始めた。毎回テーマを絞って5題、英作文を課している。昨日は名詞の単数複数、冠詞のあるなしに絞った問題だった。
(コンピュータ関連で「リタラシー」というときは、コンピュータの基礎的運用能力を指している。)
 英作文トレーニングは週に4回の頻度だから、月に80題である。たくさん書けば書けるようになる。さて、問題のつくりがたいへんだから、大西泰斗先生のNHKラジオ英会話テキストを利用させてもらっている。掲載してある文例から選ぶと、その都度ピントを絞った質の良い英作文演習ができる。昨日は5題に15分かかった。1月が終わるころには10分でやれるだろう。3月末までには5分で5題にペースアップするつもり。それまでに200題以上やることになる。1年間で1500題くらいが目標値、受験には十分な量だ。
 どこかで、読みのスキルと書きのスキルの相乗作用が生じることを期待している。




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#4141 Sapiens: page 13 Dec. 6, 2019 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

<最終更新情報>
12/7朝11時

 今日の授業は13頁である、質問のあった個所は2つだけだったが、ネット上の高校生や大学生の読者のために2-3蛇足を付け加える。

<13.0>  Having so recently been one of the underdogs of the savannah, we are full of fears and anxieties over our position, which makes us doubly crued and dangerous. Many histrical calamities, from deadly wars to ecological catastrophes, have resulted from this over-hasty jump.

 アンダーラインを引いたoverの意味が分からないということだった。overは「上に、覆う、越える」というのが原義だから、「われわれの地位を覆っている恐怖と不安」、つまりわたしたち人類はつい最近(40万年前)までサバンナの負け犬だったので、急激に生態系の頂点に上り詰めたことで威風堂々と頂点に君臨し続ける自信の裏付けがない、いつどうなるか恐怖と不安で覆われているということ。それがなにをもたらしているのかはwhich以下で説明されている。わたしたちが生態系の頂点にいるということから生じる恐怖と不安がわたしたちをより残忍で危険なものにしているとハラリは書いた。
 前置詞は基本イメージを抑えておこう。前置詞は運動方向や空間的な位置関係を表している。名詞とくっついたときには前置詞だが、動詞とくっつくと副詞である。前置詞と副詞は便宜的な(機能上の)区分けにすぎぬ。

<13.1>  A significant step on the way to the top was the domestication of fire.

 ついでだから、質問はなかったが、前置詞ofについても言及したい。「A of B」のときに、①Bが主語になる場合と②目的語になる場合の2通りあることに注意。
 例: ①the rise of the sun (日の出)<The sun rises>
    a statement of facts  (事実の陳述)<Somebody states facts.>

  domestication:飼いならすこと
「人類が生態系の頂点へと昇りつめる重要なステップは火を飼いならすことだった」

 ところでこの節のタイトルは<A Race of Cooks>である。「of+目的格」ととらえたら、「調理をする種族」と訳せる。ハラリの脳裏にいろいろな種族がが想定されていることは、不定冠詞 "a" が付されていることからわかる。いろいろな種族の中で日常的に火を使うのはヒト(デニソワ人、ネアンデルタール人、サピエンス)である。すると種族全体は動物ということになるだろう。"cooks"と複数になっていることにも注意したい。わたしは"with fire" を Cooksの後に付けて理解した。< A race of Cooks with fire >火を使って煮たり焼いたりするという風に。柴田訳では「調理をする動物」となっている。不定冠詞や複数形、そして"of"の用法についても文法的な吟味を十分にしている、なかなかいい訳だ。高校生や大学生にはとっては参考になる優良な翻訳である。
 ところで、土器を使って初めて穀類を煮炊き(調理)した人類は縄文人である。縄文土器は煮炊きに使われた世界最古の土器で、中国へ伝わり、そしてシルクロードを渡って中東やヨーロッパに西端まで広がっていった。NHKが特別番組を放映したのを見た記憶がある。

<13.1-1>  Not long afterwards, humans may even have started deliberately to tourch their neighbourhoods.
 
 最初の副詞句について質問があったがなんてことはない、「ほどなくして」くらいでいいのだ。こういう場つなぎの副詞句は辞書を引く前に前後関係contextを読めばおのずと適当な日本語語彙が思い浮かぶようになる。前の文章との論理的整合性を考えたら適語は自然に絞り込まれる。そのあとで辞書を引けばいい。
 "not long" 「長くない」と"after+ward"だから、おおよそ見当がつこうというもの。wardは「区画・区域」だから、「後ろのほうの区域⇒後で」、forwardとセットで覚えてしまおう。forefatherという語もでてきた。foreは「前」だから、前方に父そのまた父そのまた父とラインナップされている状態が想像できるから、「先祖」という意味は前後関係からも容易に類推できる。辞書を引くときは「接頭辞+語幹+接尾辞」から意味を類推し、さらに文脈からも意味を判断してみよう。
 それよりもtourchの訳が問題だった。名詞では「たいまつ」だが、動詞になると「火をつける」だから、「故意にdeliberately自分たちの住居の周りに火をつけ始めたかもしれない」。deliberateとdeliver(配達する)、その名詞形deliveryは似ているから注意しよう。neighbourhoodsは近隣地域という意味と隣近所の人々という意味があるが、前者である。具体例がすぐに出てくるので、確認できる。


<13.1-2>  In addition, once the fire died down, Stone Age entrepreneurs could walk through the smoking remains and harvest charcolated animals, nuts and tubers.

  entrepreneurs(アントレプレナー)はわたしには懐かしい語である。大学生の時に習った。enterpriseのもとの語で、フランス語である。企業家と訳すが、原義は「冒険」だから、「冒険者」と訳したい。"walk through"「歩いて通り抜ける」を接続詞のthoughと勘違いしたので混乱したらしい。わたしにはセットで見えるのだが、切り離して接続詞に見えたという。頭がだいぶ混乱していたようで、harvestが動詞であることも見抜けなかった。名詞の「収穫」と思い込んだのは、次のcharcolatedが動詞だからだろう。こちらのほうはanimalsを修飾する分詞形容詞である。いったん思い込んだらなかなかそれを頭の中から消すことができない。簡単な文だったのだ。頭の中に情景をイメージしながら読むと好いのだが、まだそこまで行ってないということ。

a) Stone Age entrepreneurs could walk through the smoking remains
b) Stone Age entrepreneurs could harvest charcolated animals, nuts and tubers.

 同一主語と助動詞の省略である。こんな簡単なことが頭が混乱すると見抜けない。シンプルセンテンスに分解すれば、こんなに簡単だから読み間違えたり、混乱するわけがない。まだ意味の塊を見抜いて読むレベルにはないということだ。スラッシュ・リーディングはこういう意味の塊を瞬時に見抜きながら読むということだから、このレベルのテクストの読解には英検2級くらいではとても手が届かない技である。毎日トレーニングを積んでスキルを磨けばいい。
 スラッシュ・リーディングはじつは日本語の文章の先読み技術と同じことである。それができない中学生がこの10年間で激増した。それは根室市内の中学生だけではあるまいが、毎日教えているわたしとしてはふる里の未来に危機感を覚えるくらい、子どもたちの学力低下を推し進めてしまっているように感じる。
 意味の塊を意識して英文を音読することでも先読みに慣れることができる。併用したら、相乗効果が期待できる

 remainsも動詞ではなくて名詞、「煙のくすぶっている焼け野原を歩いて通り抜ける」サピエンスが脳裏に浮かんでくるようになればしめたものだ。マル焦げになった動物もナッツ類もイモ類もご馳走だらけなのである。チャコール(こげ茶色)はチャコール・グレイ(消し炭色)などで色を表すのに使われている。

わたしたちはつい最近までサバンナの負け犬だったため、自分の位置についての恐れと不安でいっぱいで、そのためなおさら危険な存在となっている。多数の死傷者を出す戦争から生態系の大惨事に至るまで、歴史上の多くの災難は、このあまりに性急な飛躍の産物なのだ。」24頁 柴田訳

頂点への第一歩は火を手なずけたことだった。
その後まもなく、人類は故意に近隣に火を放ちさえし始めたかもしれない
しかも、いったん火がおさまれば、石器時代の才覚者たちはくすぶる焼け跡を歩き回って、うまい具合に焼きあがったう物や木の実、芋類などを収穫できた。

 さて、少しは予習してきたようだが、1/2頁ほどしか進めなかった。毎回1ページのペースでやると先週言い渡してあるから、少し焦っている様子だった。英語の力に不足を感じている、もっと力をつけたいという気持ちが現れていた。
 4月までには「2頁/90分授業」のペースにアップすると目標値を設定して、共有している。毎月16頁、高校3年教科書の1年分の分量である。そこから半年以内にブレークスルー"break through"が訪れる。一気に読み切るだろう。
 どうして札幌でやる冬季特訓教材もってこなかったか訊いてみた。ハラリをやる時間がなくなるので、それが嫌だと云った。うれしいね、モノがよく見えている。
 1ページ予習して来れば、わからなかったところだけ対話形式で授業するだけでいいから、もっとペースアップできる。予定のペースに慣れるまで、しばらくきついだろう。英語だけやっているわけではない、数学も微分積分を早く終えて数Ⅲに入りたいはず。微分積分はシリウスは問題量が多いし、難関大学の過去問が並んでいるから、後半部は手ごわい。
 よくがんばっている。いまはしんどいだろうが、2月が終わるころにはずいぶん見通しがよくなっている。

*#4140 高難易度冬季特訓英語教材で質問あり Dec. 6, 2019
https://nimuorojyuku.blog.ss-blog.jp/2019-12-06



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