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#4276 Sapiens (33rd) : page 45 ☆ June 24, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

<最終更新情報>6/22午前11時半

 第3章"A day in the Life of Adam and Eve"、このタイトルをそのまま直訳しても著者が何を言いたいのかピンとこないだろう。「アダムとイブが暮らしていた時代」、そんなの神話=旧約聖書の世界の話、サピエンスの歴史と何の関係があるのというのが高校生の素直な反応。生徒にこのタイトルはどう理解したのか訊いてみた。
 アダムとイブは蛇に唆(そそのか)されて「善悪の知識の実」を食べてしまい、エデンの園を追放される。the Lifeというように定冠詞がついているのは、エデンの園から追放されたアダムとイブの暮らしを指している。男は額に汗して働いて食べるものを求め、女は出産の苦しみを味わうことになった。サピエンスに置き換えるとそれは農耕以前の狩猟採集生活をしていた時代である。
 そういう時代がこの章のテーマ、ハラリは過去1万年から7万年前にさかのぼる狩猟採集で暮らしていた時代をエデンの園を追放されたアダムとイブになぞらえている。
 翻訳者の柴田氏は、アダムとイブを訳語に登場させていない、「狩猟採集民の豊かな暮らし」と訳している。的確な訳ではあるのだが、なにか物足りぬ、アナロジーを切り捨てたそっけない訳だからだ。名翻訳家である柳瀬尚紀さん(根室高校の6学年先輩)ならここはどう訳すだろうか?
「失楽園のアダムとイブ」では俗っぽく、渡辺淳一の不倫小説『失楽園』を連想させる。生徒は『失楽園』を知っていた。作者の渡辺淳一(1933-2014)が砂川町出身で札医大の整形外科医だと告げると、びっくりしていた。彼のお爺さんと同じころの卒業のはず。
 語彙力が貧弱なわたしには適当な訳語が思い浮かばなかった。
 ところで、『ゲーデル、エッシャー、バッハあるいは不思議の国の環』に柳瀬尚樹さんの訳者あとがきが(739頁に)ある。ここで柳瀬さんは言葉遊びを披露しているが、名人芸だ。なにがどのように名人芸であるのか興味のある人は図書館で閲覧したらいい。この本はニムオロ塾の本棚にもあるので、見たかったらどうぞ。好奇心に任せて購入した面白い本が5%くらい200冊ほどあります。
*https://ja.wikipedia.org/wiki/柳瀬尚紀

 話題をタイトルから本文へ移そう。生徒はアンダーライン部分の文章があんまり長いので迷ったようです。[during which]の組み合わせが初体験だったのでしばしびっくりしただけでしょう。

<45.0> To understand our nature, history and psychology, we must get inside the heads of our hunter-gatherer ancestors. For nealy the entire history of our species, Sapiens lived as foragers. The past 200 years, during which ever increasing numbers of Sapiens have obtained their daily bread as urban labourers and office workers, and the preceeding 10,000 years, during which most Sapiens lived as farmers and herders, are the blink of an eye compared to the tens of thousands of years during which our ancestors hunted and gathered.

 57 wordsの文です、長いですね。でも長さでめげないでね、繰り返しで簡単なんですから。during whichが目立つように処理します。

The past 200 years, during which ever increasing numbers of Sapiens have obtained their daily bread as urban labourers and office workers, and the preceeding 10,000 years, during which most Sapiens lived as farmers and herders, are the blink of an eye compared to the tens of thousands of years during which our ancestors hunted and gathered.

 太字の部分は「前置詞+関係代名詞」である。3か所それぞれ先行詞の補足説明となっているだけ。挿入された節をカットしてみよう。レントゲン写真で見るようなものです、筋肉組織やコラーゲンなどが消え去り、この長い文章の骨格が現れます。

The past 200 years are the blink of an eye compared to the tens of thousands of years.
(過去200年は数万年に比べると一瞬のまばたきである。)

 修飾部分や補足説明を外してしまうと、第Ⅱ文型SVCの簡単な文章になってしまいます。大学受験をしようと思っている高校3年生でこの文章の意味が分からない人はいないでしょう。

 何がどうして一瞬の瞬きに見えるのか、過去200年間を補足説明している関係節を独立の文に書き換えてみます。
(1) ever increasing numbers of Sapiens have obtained their daily bread as urban labourers and office workers [during past 200 years]
(過去200年間たえず人口が増加していたサピエンスの多くが都市労働者とオフィスワーカーとして、その糧を毎日得ている。)

 都市労働者に対してオフィスワーカーが対置されています。本社管理部門で働く人、工場部門でも事務部門や管理部門で働く人はいわゆる「労働者」ではないわけです。肉体労働をする人のことを「労働者」と言います。日本では学校の先生も自分を労働者だと思っている人がいますが間違いですね。日教組や北教組に所属している先生たち、マルクスがいう労働者とは工場労働者のことなんです、あなたたちは労働者ではありませんよ、インテリなんです。ロシア革命を起こしたレーニンも労働者ではありませんでした、マルクスもそうでしたが、レーニンも大学に職を得そこなったインテリです。共産党宣言で「万国の労働者よ団結せよ(Workers of all lands, unite)」と労働者を煽ったのがマルクスとエンゲルス『共産党宣言』で、実際に革命を起こし、親玉にのし上がったのがレーニンでした。
 workers(働く人々あるいは仕事する人たち)という概念は、labourersとoffice workersを包摂した概念です。マルクスは工場労働を『資本論』の公理に措定しています。その淵源は奴隷労働にあります、だから労働疎外なんて言葉が生まれます。江戸職人は道具も自前、そして請負仕事でした。職人仕事の伝統は工場ではたえざる工程改善として生き残っています。そして本社管理部門の仕事でもマルチの専門技能をもって困難な仕事にチャレンジする人たちの中にその精神が受け継がれています。コロナ後は、職人仕事を公理に措定した経済学の時代が来てほしいと思っています。

 200年間に先行する1万年はどうだったのかも比較対象として並べられている。
(2) most Sapiens lived as farmers and herders [during the preceeding 10,000 years]. 
(過去200年間に)先行する1万年はサピエンスのほとんどが農耕や牧畜で暮らしていた)

 では1万年から数万年前のサピエンスの暮らしがどうだったのか。これで三つの時代が併記されて比較される。
(3) our ancestors hunted and gathered [during the tens of thousands of years].
(過去数万年にわたってサピエンスの祖先は狩りをし、木の実や果実を食べて暮らしていた。)


 産業革命以後の200年間は、先行する1万年に比べても、さらにそれに先行する数万年に比べても、一瞬の瞬きほどの長さしかないのである。
 サピエンスは7万年前から、集団で狩りをすることで、効率的に動物の群れを谷などへ追い込み、大量屠殺して肉の確保にも困らなくなっていた。

 ofやwithと関係代名詞の組み合わせは見たことがあっても、[during which]にお目にかかったことのある高校生はほとんどいないのではないか。迷ったら「原理原則に還れ!」である。

 『表現のための実践ロイヤル英文法』264頁にduring whichの例文が載っていたので紹介する。
-------------------------------------------
①文尾に置くと不自然になる前置詞
 beside, beyond, during, excwpt, near, opposite, outside, round, since, up

 After three years at Cambridge, during which I specialized in European history, I wrote a thesis.
 (ケンブリッジで3年間ヨーロッパ史を専攻していましたが、その後、わたしは論文を書きました。)
-------------------------------------------

 修飾句や補足説明を外して文の骨格だけにして眺め、次いで丁寧にそれぞれの関係節をシンプルセンテンスに書き換えてみたらいい

「第3章 狩猟採集民の豊かな暮らし
 わたしたちの性質や歴史、心理を理解するためには、狩猟採集民だった祖先の頭の中に入りこむ必要がある。サピエンスは、種のほぼ全歴史を通じて狩猟採集民だった。過去200年間は、しだいに多くのサピエンスが都市労働者やオフィスワーカーとして日々の糧を手に入れるようになったし、それ以前の1万年は、ほとんどのサピエンスが農耕を行った動物を飼育したりして暮らしていた。だが、こうした年月は、わたしたちの祖先が狩猟と最終をして過ごした膨大な時間に比べれば、ほんの一瞬にすぎない。」
   
『サピエンス全史(上)』59頁 柴田裕之訳

  びっくりするほど分量の少ない高校教科書、これでは論説文が読めるようになるわけがない。
*#3344 高2の英語教科書をチェックする  June 25, 2016
https://nimuorojyuku.blog.ss-blog.jp/2016-06-24-1




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ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環 20周年記念版

ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環 20周年記念版

  • 出版社/メーカー: 白揚社
  • 発売日: 2005/10/01
  • メディア: 単行本

①ゲーデル『不完全性定理』岩波文庫
昨年読みました。面白いけど、数学の専門書しかも不完全性定理の証明ですから、準備なしにはまるで理解できませんね、だから数理論理学の入門書を読んでからチャレンジしました。付箋がいっぱいです。(笑)

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②バッハとエッシャー
 バッハは斬新な感じがするので好きです。エッシャーは面白い絵を描きますね。いわゆるだまし絵ですが、美しいことと細部にこだわって丁寧に描いているところがいい。この大判のエッシャーの本は東京の大きな本屋のどれかで購入したのではないかと思いますが、日本橋のデパートの古書展会場だったかもしれません。
  ISBN 0-8019-2268-1
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③エッシャー:タイトル MOBUS SRTIP Ⅱ (RED ANTS)
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④エッシャー:タイトル DRAWING HANDS
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⑤エッシャー:タイトル WATER FALL
この絵はみなさんお馴染みの物。
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#4272 変形生成文法との出遭い June 18, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

 #4271でチョムスキーの変形生成文法に触れたので、思い出したことがあり、書き留めておきます。

 実は、商学部会計学科の学生だった時にチョムスキー著・安井稔訳『文法理論の諸相』(1970年刊)を買ってました。ちょっと変わった文法理論だなくらいでした、強いニーズがなかった、それで途中で放り投げたんです、難解でした。この本は初版で絶版になっています。これは構造言語学の専門書で「理系の本」であって、「英文法書」ではなかったのです。読んで理解できる英文法学者や研究者、学生が少なかったのだろうと推察します、売れるわけがありません。
 3年くらい後で、大野照男著『変形文法と英文解釈』を読んでます。Eric Roll"A history of economic thought"を読み、ノートに日本語訳を書いていて、意味不明な個所がいくつも出てくるので、何とかしたいと切実な思いがあったときに、板橋区立図書館で『変形文法と英文解釈』を見つけたのです。強いニーズが背景にありました。入試直前でしたが、ノートに要点をメモしながら、半分ほどやるのに1週間かけました。大学院経済学研究科の受験の仕上げにはそれで十分でした。
 3校受けましたが、点数の確認ができたのは1校だけ。英語は90点でした。受験生は控室で待ちますが、次に面接する人は面接室のドアの横に置かれた椅子まで移動して着席して待つことになっていました。前の人が出てきた後、名前と得点を読み上げる声が聞こえてきました。「ああ、合格したな」。(笑) この本のお陰です。他の2校もたぶん9割前後だったでしょう。変形生成文法が身につくと、訳文にはっきり差がつきます。1校はB4版に小さな文字でびっしり英文が並んでいました。外部経済と内部経済、マーシャルだったと後でわかりましたが、まったく馴染みのない分野でした。量が多いので1時間では全訳できるわけもないので、出題者は抄訳を要求していると判断して、コンパクトに要旨を書き並べていきました。それでも時間いっぱいかかってます。得点はそこが一番よかったでしょうね。50人ほど受験して合格者は2人です。
(受験した3校のうちの1校は母校でしたが、学内試験含めて、3度受験して、3度とも合格者無し、つれない母校でした。試験は3度ともトップだったと思います。商学部会計学科の学生が経済学研究科を受験して、学内試験のときに指導教授になる人と議論して貨幣論で大きな採点ミスが判明し、30人ほど教授たちが並んでいるところでコテンパにやつけてしまったのが祟りました。ミスは明らか、それも商学部会計学科の学生から指摘されたのですから、顔がみるみる真っ赤になってました。経緯は2度ほど弊ブログに書いてます。「君の後輩は苦手だよ」、入試の後その教授から同じゼミだった院生の先輩が某教授がそう言っていたと教えてくれました。採るつもりがなかったのです、時間を無駄にしました。他の受験生の迷惑にもなったでしょう。「合格者無し」の巻き添えですから。母校の経済学研究科で合格者無しは後にも先にも、その3度のみだったのかも。それでよかったと思います。お陰で業種の異なる4社を経験して、経済学研究が格段に深くなったのです。大学に残っていてはわからないマルクス『資本論』の深淵(公理的演繹体系の全体像)を覗き見し、マルクスが弁証法を用いたことでその経済学の体系化に破綻をきたしたことが理解できました。日本のマルクス経済学者はいまだに誰も気がついていません。『資本論』や『経済額批判要綱』や『数学手稿』を丹念に読んでいないからでしょうね。解説書を読んでいたのでは永久にわかりません。ユークリッド『原論』を読んで考え抜いたらわかるかもしれません、わたしはそうしました。)

 ついで、R・ジェイコブズとP・ローゼンボーム共著『基礎英語変形文法 上・下』(1977年6版)を本屋で見つけました。新宿紀伊国屋(旧店舗)だったのではないかと思います。この本は基本を平易に解説した好い本でした。変形文法の入門書です。

 1978年から1984年1月まで産業用・軍事用エレクトロニクス輸入専門商社で会社の経営改革とシステム開発を担当していたので、AIにも興味が広がり、自然言語処理がどのような学問的な背景をもって研究されているのか、チョムスキーの構造言語学の解説書や彼自身の著作を読んでみたいと思ったのです。好奇心に突き動かされました。1冊精読してしまえば、あとは読むのにそれほどの困難はありません。自分の専門外の専門書を読むのは、最初の一冊がたいへんなのです。あとは好奇心に任せて「芋づる式」に本を選びかったぱしから読破していく。つまらないと感じたらすぐにやめる。50頁も読んだところで、読む価値がなかったとわかる本もたまにあるのです。それが3000円から5000円ほどもするような本だとがっかりです。高い本はタイトルだけで判断せずに、手に取って30分は本屋で立ち読みしてから買うようになります。学生時代はそんなにお金ありませんから。社会人になってから本題に費やすお金が楽になりました。

①  John Lyons "CHOMSKY" 1977

②  Editor:Frank Kermode "CHOMSKY" 1985, Fifteenth impression(15刷)
③  Noan Chomsky "Knowledge of Language  Its Nature, Origin, and Use" 1986
④  V.J.Cook "Chomsky's Universal Grammar An Introduction" 1988
⑤  Andrew Radford "TransformationalSyntax (A student's guide to Chomsky's Extended Standard Theory)" twice 1988
  

 ③と④は必要を感じていたので全頁読みました。③はSRL八王子ラボで機器担当しているときに、暇潰しに仕事中に読んでいた本です。購買課では購入申請受付審査業務、購入業務、検査機器の共同開発、購買システムのメンテナンス、機器購入予算管理、ラボ内の危機の標準化業務などを担当していました。ラボ内図書室の30種類ほどの欧米の医学雑誌も仕事中に読み漁っていました。「2回の図書室で医学雑誌読んでいるので、用事があったら図書室へ電話まわしてください」、それでよかった。業務に優先順位をつけて優先度の低い業務は2割程度廃止、重要なものはシステム化をしてしまう。やりたい仕事ができたら、必要な予算は自分で提案書を書いて金額に応じて一般協議書か稟議書で許可をもらえばいいだけ。ルーチン業務をシステム化してしまうと、いくらでも時間ができます。減価償却費予算の計算と固定資産管理はシステム化で劇的に変わってしまいました。だから移動すると同時に、購入協議書周りの業務と固定資産管理業務を購買課へもってきて担当してます。それに購買課にもとからあった購入業務がルーチン業務となりました。不具合のあった購買在庫管理システムの手直しもしてます。3人の担当者がいたのですが、だれもシステムに関するスキルをもっていなかった。あまりもたついているので、出力帳票の半分くらいは仕様書を書いてあげました。
 固定資産実地棚卸マニュアルや実務フローは当時とほとんどかわらないでしょう。固定資産分類コードも制定しました。ラボ管理部の機器や予算担当者に協力してもらって、現物確認しながら数か月かけて分類整理をしていきました。機器の種類が多くて整理がたいへんでしたが、いったんやってしまうと、便利です。-80度の冷凍庫が八王子ラボ内にどの検査部署に何台あるのか、すぐに画面で確認できます。国からの調査依頼が年に一度ありますが、それまでいい加減な数字を書いていました。何も資料がないのですから仕方ありませんでした。
 投資予算と既存固定資産をベースにした減価償却費予算も精度が一桁アップしました。それまで1億円を超える予算差異がでていましたが、投資予算管理をシステム化して固定資産管理システムと統合することで、減価償却費予算差異が1000万円くらいに縮小しました。減価償却費予算差異の縮小が上場要件の一つとして挙がっていましたが、これでクリア。他に、固定資産税申告に3人のバイトを雇い社員一人と3か月かかっていましたが、ゼロになっています。自動出力に変えてしまいましたので、申告書添付の固定資産台帳の作成作業は消滅しました。もちろんいまでも同じでしょう。全部1984-85年に創りました。

 話を構造言語学の専門書に戻しますが、またすぐに脱線します。①②⑤は抜き読みしただけです。
 ④を読んでいた時に、ラボの学術開発本部担当役員が机の前を通りかかって、「何読んでいるんだ」と言いながら、本を手に取って一瞥すると、席に戻ってすぐに社内電話がありました。
「俺のところに来ないか」
 異動のお誘いでした。学術開発本部内には学術情報部、開発部、精度保証部の三つの部がありました。わたしは取締役直属のスタッフとして三つの部門で手に余る仕事や開発部でやっている製薬メーカとの検査試薬共同開発案件2つと共同開発手順の標準化を担当。そして担当できる者がいなかった学術営業から依頼のあった沖縄米軍がらみの出生前診断検査や慶応大学病院との出生前診断(トリプルマーカ―)の日本標準値制定に関する産学共同研究プロジェクト案件を任されることになりました。
 ここで、また仕事の幅が広がります。学術開発部長のK尻さんとは臨床検査項目コードの日本標準制定プロジェクトで3年前に一緒に仕事をしていました。わたしの提案で始まった大手六社と臨床病理学会(現在、日本検査医学会)項目コード検討委員会の産学協同プロジェクトは5年ほど毎月検討会議を重ね、臨床病理学会から公表されて、いま全国の病院で使われている臨床検査項目コードとなっています。項目コードの新設や改定は作業はSRLに事務局を置いてやっているはず。
 1984年に上場準備中のSRLに中途入社したときには全社の予算編成と管理がルーチン業務、そして統合システム開発の中心部分を担いました。財務会計及び支払い管理システムと投資・固定資産管理システムを開発しています。前者は仕様書作成スタート8か月で本稼働。異常に短い期間での開発でした。必要なスキルが全部そろっていたのでやれました。原価計算システム、購買在庫管理システム、売上債権管理システムとのインターフェイス仕様書は1週間で書き上げました。いまも当時のままでインターフェイスしているでしょう。当時は全部作りこみですから、外部仕様書と実務デザインは当時の日本のトップレベルのスキルが必要でした。
 それをやり切って、予算編成・管理責任者として16億円の検査試薬(材料費)カットを提案したら、専務が価格交渉プロジェクトを作るから、お前が八王子ラボの購買課へ2か月間行って価格交渉を担当しろと言われて、ラボ勤務。製薬メーカを個別に呼んで予定通りコストカットすると、すぐに購買課への異動辞令が出されました。そんな話ではなかったのに。(笑) 翌年も20%ダウンが可能でしたから、利益管理上外せなくなったのです。それにしても2年やれば一つの型ができてしまいますから、あとは誰でもやれます。2年以上わたしに担当させる意味はありません。それまで、製薬メーカと価格交渉したことがありませんでした。卸問屋とやっていたのです、阿呆な話です。卸問屋にはせいぜい10%しか利益がないのに、20%の原材料費をカットできるわけがありません。だから、「やれっこない」と現場の課長から反対意見があったのでしょう。困った本社専務(富士銀行からの転籍組、陸士と海士に合格し陸軍士官学校卒、戦後は東大に入り直してご卒業)は、言い出しっぺの予算編成統括責任者のわたしに材料費カット・プロジェクトを引っ張らせることにしたというわけ。自分でやれないことは提案しませんから、望むところでした。
 機器担当の2年余に、数件の検査機器の共同開発をやりました。産業用エレクトロニクス輸入商社にいたときに、6年間毎月世界最先端の計測器を開発する欧米50社のメーカーからエンジニアが来て理系大卒の営業マン相手に製品説明会を開いていたので、ずっと聞いてました。門前の小僧習わぬ経を読む類で、マイクロ波計測器についてずいぶん詳しくなりました。ディテクターとデータ処理部と双方向インターフェイスの三つの構成要素から計測器ができていました。データ処理部は要するにコンピュータですから、こちらは数種類のプログラミングを経験済みの専門家でしたから、そこを中心に理解しました。検査機械も基本的な構成は同じです。ディテクターの種類が違うだけ。同じ三つの部分から構成されていたのでわかりやすかった。インターフェイスやデータ処理部が検査機械はびっくりするほど遅れてましたね。だから、エンジニアでもない私でもメーカとの間に入って、共同開発の調整ができたのです。世界最先端の理化学計測器の最新情報を6年間も勉強してきたわけですから、無駄にはなりませんでした。どこで得するかわからないものです。
 LKB社の紙フィルター方式の液体シンチレーションカウンター2台(96チャンネルだったかな、96検体同時測定だからバイアル方式の従来タイプに比べて、処理速度は比較にならぬほど速いしガラスのバイアルを紙フィルターに置き換えるので省スペース)世界初導入、SRL仕様でのγカウンター開発、栄研化学LX3000、結石前処理アームロボット(これはラボ管理のO形さんの担当で、相談されて一緒に業者対応しただけ)、ニコン子会社ニレコ社との染色体画像診断装置開発断念と英国メーカ―IRS社の染色体画像解析装置導入など、2年半ほどいた期間中の仕事でした。
 先に書いたようにひょんなきっかけで、学術開発本部へ異動しましたが、その直前まで八王子ラボの検査機器の標準化も進めてました。電子天秤は世界最高のメトラー社に統一、検査担当者が異動するたびに電子天秤のメーカが違って、マニュアルを読むのはばかばかしいので。(笑)
 いま話題のPCR自動検査機器を製造しているPSS社の田島社長は1987年当時はアドバンテック東洋という会社の営業マンでした。SRLの業務部とRI部で自動分注機の開発をしていました。かれはすぐに独立しました、目先の利く人でした。自動分注機では日本でナンバーワンの会社でしょう。その技術とPCR検査機器を組み合わせただけ。だから、もう30年も前に要素技術の開発は終わっていたのです。八王子の居酒屋で一度だけお酒を飲みました。一人で数十億円の購入協議書を受け付け、審査して、業者へ仕事を発注していましたから、取引先とは年に一度だけお酒の席のお付き合いをすると決めていました。ほとんど居酒屋です。一社だけ、社長さんがキャバレーが大好きで、突き合わされてことがあります。メーカ側の人からは必要な開発情報や不満も聞いておく必要がありました。田島さんには、「SRLにこだわっていたらそれだけの会社になってしまう、そろそろ離れたら?」そんな話をした覚えがあります。「SRL御用達」の会社になりつつありました。せっかく独立してPSSという旗を挙げたのですから、いつまでもSRL御用達では成長力が削がれます。田島さん、びっちり現場に張り付いて、ニーズの吸い上げを渾身の力でやってました。偉い人ですが、それゆえ危ない面もあったのです。紙一重ですね。両方を牽制しました。小さいけれどSRLにとっては大事なメーカさんと現場の間で不祥事が起きてしまっては影響が小さくありません。粒は小さいながら当時もSRLにとっては自動化に欠かせない大事なメーカーでした。
 入社2年目には開発部長の金額の大きい不祥事(業務上横領、懲戒免職処分)があったし、それから数年して業務部社員の不祥事(取引業者から毎月現金受領、懲戒免職処分)もあった。この二つは金額が大きかった。長くやっていたらどこかでバレます。購買関係者はつねに業者のターゲットです。危ういお付き合いをしている社員や管理職がいました。早く異動させてしまうのがいい。お酒が好きなら素敵な女性のいるバーへ、「どうぞお使いになって結構です」なんて言うんです。請求書は製薬会社へ回ります。ゴルフが好きなら接待ゴルフ漬け。最初は小さい接待、徐々に麻痺してくるんです、それが怖い。何人か見ました。どこかで誰かが知ることになります。創業社長のもとへは3日に一通の内部告発文書が届いていました。ちゃんとしている社員の方が断然多い、たまにヘンなのが出るんです。そのほとんどが管理職でした、権限が大きいですからね。
 暇ができたら、好奇心に任せて本を読んでいたら、そうしたことからは距離を置けます。ゴルフの趣味もないし、綺麗なギャルのいる店で飲む必要もありません、ラボにはお酒の好きな女子社員がたくさんいます、1000人中800人ほどが女性でした。銀座でお店を一軒持ってもやっていけるような美人でスタイルがよくて色っぽくて言葉遣いのきれいな女性もいました。たまに誘って数人で飲んで騒げば十分愉しいのです。仲の好い同僚と二人で新宿の居酒屋や銀座のライオンで飲めば、女性同士で来ている客と相席してにぎやかに呑むこともできます。
 染色体画像解析装置を2台まとめて購入したときに、バックアップ用に1台ラボ内に設置してもらうようにお願いしました。英国エジンバラにあるメーカでしたから、機器にトラブルがあってもすぐに対応できません、こちらはルーチン検査に使うのですから、即時対応が必要です。だから、バックアップ1台設置を提案しました。向こうが呑みやすいように、値引き要求はしません。こちらもニコン子会社と染色体画像解析装置開発失敗経験があり、IRSの製品が高性能であることは認めてました。手作りのプリント基板のボードコンピュータにCCDカメラ、そしてソフトと高性能レーザプリンタですから、原価はせいぜい定価の20%程度だと思います。エレクトロニクス輸入商社でマルチチャンネルアナライザーを開発、販売するために原価計算した経験があるので、機械の中身とソフトの動きを見ればコストは見当つきました。
 バックアップをメーカ側に飲ませる口実を用意したのと、販売会社である日本電子輸入販売の担当者へは商談を一つ紹介してあげました。「二番手の会社にSRLで導入したので買わないかと商談してみろ、必要なら当社の現場(染色体課)を見学させてあげるから、値段は1円も引くな、それでも売れる」と提案。その通りになりました。営業マンのSさん喜んでました、もうけが大きい。(笑) 製造は英国のメーカでしたから、ゴルフの名門セントアンドリュースでのゴルフ接待、会社の了解がとれたので、一緒に行きましょうと提案がありました。彼はゴルフが大好きだったのです。わたしにはゴルフの趣味がない、「会社の了解とったのに…」とガッカリしてました。期待に応えられず申し訳なかった。染色体画像解析装置はほかに国内の臨床検査センター2社販売されました。3年後にその一社である東北の臨床検査センターに1億円の出資交渉をして役員出向することになります。運命の糸はずっと前からつながっていました。そしてさらに4年ほど後で、もう一社である帝人の臨床検査子会社の買収交渉を担当することになるのです。
 どちらの会社も採算が悪いので、打開のために新規分野へ進出しました。しかし、この分野はSRLが80%の寡占分野で、検体を集められるわけがありません、経営判断が甘いと思いました。高額の機器の他に染色体検査の要員を揃えると赤字はさらに膨らみます。いずれ経営が行き詰まると1990年ころに判断してました。その通りになったのです。だから、帝人との臨床治験合弁会社の経営をSRL近藤社長から任されたときに、合弁会社の黒字化と帝人の臨床検査子会社の買収も3年以内にやれという指示は、わたしにはもう何年も前に、シミュレーション済みのことでしたから、ラボ内を一度見学させてもらって3年分ほどの決算書を分析して、権限をもっている帝人本社役員を説得できると確信しました。帝人のほうにもメリットのある話ですから。「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」、もちろんそこで働く従業員が一番だいじでした。ちゃんと期限内に仕事をしました。
 SRL側のラボを移転、大型自動化ラボを中心に会社を作り変える構想をもっていました。米国市場で臨床検査子会社を造り展開すればさらに大きくなったでしょう。ラボの自動化では世界一の水準です。
 グループ企業全体をコントロールする、利益管理に収斂する画期的な経営統合システム構想は1988年ころにつくってありました。実行していたら、グループ全体の売上規模は4倍、売上高経常利益率は15%を超えていたでしょうね。米国での事業展開にめどがついたら、英国、ドイツ、フランスで展開すればよかった。SRLは大きな可能性を秘めた面白い会社でした。

 機器の統一は例えば、ウィルス部の蛍光顕微鏡はツァイス製品に統一。値段は350万円ほどしました。ニコン製品だと250万円、オリンパスだと180万円くらいでしたね。購入申請が出ると、ウィルス部の検査課長に「オリンパスでなくていいよ、カーツ・ツァイスを買ってあげるから、検査管理部に話は通しておくから、購入協議書書き換えてきて、見積書はこちらでとっておきます」、「え!ほんとうに買ってもらえるんですか?」、「任せとけ、その代わり使っている機器に見合ういい仕事してください(笑)」。支払う税金が少し減るだけ。
 検査担当者にいいもの使わせると、いい仕事してくれるんです。大学検査室の先生たちや大学病院の先生たちのラボ見学のときにも、そういう世界最高の顕微鏡がズラっと並んでいると、説明の必要がなくなるんです。「さすがSRLさんだ、技術レベルが高いから、使っている機器も違う」、ラボ見学のご案内をしているときに表情をみるとよくわかります。法人税20億円も支払うくらいなら、ラボの機器を世界最高性能のものに揃えたほうが「お得」です。350万円しても4割引き、210万円で買ったようなもの。ニコン製品よりも安いというのが、予算管理をしていた私の感覚です。「好いもの揃えるから」って、本社役員にあったついでに一言いうだけで、全部通ります。わたしの後継の予算管理担当者もだまって予備費から予算を回してくれます。入社して2年間は予算編成と予算管理の統括責任者をしていたので、副社長や経理担当役員に話を通すだけで、全部OKがでました。要するに八王子ラボと本社のパイプ役だったんです。それまで、本社管理部門で、検査や検査機器、ラボの自動化についてスキルのある社員が一人もいませんでしたから、貴重な存在だったのでしょう。これからもそういうマルチのスキルのある人間が民間企業本社部門には必要です。

 好奇心がわいたら、原典を探して読む、そういうことが仕事のさまざまな方面で活きてくるんです。あるとき思いがけない方向へ広がっていきます。チョムスキーの構造言語学への興味を通してそういうことが言いたかった。
 今日も弊ブログを読んでくれてどうもありがとう。

*PSS(プレシジョン・システム・サイエンス)社ホームページ:http://www.pss.co.jp/

1. チョムスキー著・安井稔訳『文法理論の諸相』(1970年刊)
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2. R・ジェイコブズとP/ローゼンボーム共著『基礎英語変形文法 上・下』(1977年6版)
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3. ①  John Lyons "CHOMSKY" 1977
  ④  V.J.Cook "Chomsky's Universal Grammar An Introduction" 1988
  ③  Noan Chomsky "Knowledge of Language  Its Nature, Origin, and Use" 1986


SSCN3584.JPG

4.大野照男『変形文法と英文解釈』
  Noam Chomsky "Refrections on language"
  ⑤  Andrew Radford "TransformationalSyntax (A student's guide to Chomsky's Extended Standard Theory)" twice 1988


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#4271 Sapiens (32nd) : page 43 June 18, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

 第1部第2章"The Tree of knowledge"のまとめsummeriseの箇所で、少し複雑な構文があったので紹介する。

<43.1> To summarise the relationship between biology and history after the Cognitive Revolution:

a.  Biology sets the basic parameters for the behaviour and capacities of Homo sapiens. The whole of history takes place within the bounds of this biological arena.

b.  However, this arena is extraordinarily large, allowing Sapiens to play an asutounding variety of games. Thanks to their ability to invent fiction, Sapiens create more and more complex games, which each generation develops and elaborates even further.
 
c.  Consequently, in order to understand how Sapiens behave, we must describe the historical evolution of their actions. Reffering only to our biological constrains would be like a radio sportscaster who, attending the World Cup football championships, offers his listeners a detailed description fo the playing field rather than an accont  of what the players are doing.

  What games did our Stone Ages ancestors play in the arena of history?

 アンダーラインを引いた箇所が高校生にはなかなかむずかしいようだ。文の中に文が埋め込まれているので、目くらましに遭う。こういう文は生成変形文法と利用すると理解のピントを外さない。意味は基底文deep structureにあるのだ。

Reffering only to our biological constrais would be like a radio sportscaster who, attending the World Cup football championships, offers his listeners a detailed description of the playing field rather than an accont of what the players are doing.

 挿入句を外すだけで、ずいぶんと軽くなる。
Reffering only to our biological constrais would be like a radio sportscaster who offers his listeners a detailed description of the playing field rather than an accont of what the players are doing.

 これなら、高校教科書に出てくるレベルの難易度の文である。挿入句[, attending the World Cup football championships, ]があるだけで、英語の偏差値が75の高校生でも眩暈(めまい)がしてくるのである。挿入句は[, ..... ,]のように、両端がカンマになっているのですぐに見分けられるから、それを外してみたらいい。

 以下は、3つの文に分解したもの。(3)は基底文ではないが、意味を捕まえるためにはここまでで十分である。
(1) Reffering only to our biological constrais would be like a radio sportscaster.
(2) [a radio sportscaster who is] attending the World Cup football championships.

(3) [a radio sportscaster whooffers his listeners a detailed description of the playing field rather than an accont of what the players are doing.


(1) 生物学的な制限にのみ言及することはラジオのスポーツキャスターのようなものだろう。
(2) ワールドカップサッカー大会で実況中継中のラジオスポーツキャスター
(3) 選手たちが何をしているのかをほったらかしにして競技場の構造や色彩や芝の状態などどうでもよいことをこまごまと視聴者に伝えるラジオスポーツキャスター

 スラッシュリーディングならこれだけで十分だ、滑らかな日本語にするにはつなげばいいだけ。翻訳家ではないのだから、翻訳者の柴田さんのような訳文にならなくてもいい。高校生や大学生なら日常使う言葉で表現できたら十分だ。
「生物学的な制限にのみ言及するというのは、ラジオのスポーツキャスターがワールドカップの実況中継中に、競技場で選手たちが何をしているかをほったらかして、競技場の構造や色彩や芝の状態がどうなっているのか事細かくしゃべり続けるようなもの。…」ebisu訳案

 太字で示した部分の訳がちょっと悩ましい。
 arena:①試合場、競技場、アリーナ、リング ②(…の)闘争の場、(…の)界

 さてthis biological arenaは「この生物学的な競技場」と「この生物界」のどちらがいいのだろう?
 主語には定冠詞がついているから、「The whole of history」その意味は「サピエンス全史」である。「サピエンス全史が生物学上の競技場という範囲内で生起している」と読むべきだろう。だから、arenaは「競技場」、gamesはそこで行われる「試合」と訳したい。
 ハラリはarenaとgamesをセットで考えて書いている。競技場とそこで行われる試合を比喩として使っているのだ。

 プロの翻訳家の訳文を参考までに挙げておく。
------------------------------------------
 認知革命以降の生物学と歴史の関係をまとめると、以下のようになる。
a 生物学的特性は、ホモ・サピエンスの行動と能力の基本的限界を定める。歴史はすべてこのように定められた生物学的特性の領域(アリーナ)の協会内で発生する。
b とはいえ、このアリーナは途方もなく広いので、サピエンスは驚嘆するほど多様なゲームをすることができる。サピエンスは虚構を発明する能力のお陰で、次第に複雑なゲームを編み出し、各世代がそれをさらに発展させ、練り上げる。
c その結果、サピエンスがどうふるまうかを理解するためには、かれらの行動の歴史的進化を記述しなくてはならない。わたしたちの生物学的な制約にだけ言及するのは、サッカーのワールドカップを観戦しているラジオのスポーツキャスターが、選手たちのしていることの説明ではなく、競技場の詳しい説明を視聴者に提供するようなものだ

 それでは石器時代のわたしたちの祖先は、歴史というアリーナでどのようなゲームをしたのだろう?
 …柴田裕之訳 57頁
------------------------------------------


<余談:高3英作文トレーニング>
 1月半ばから、週4回、高校3年生対象に問題文と解説をメール配信でやっている。「英作文1000本ノック」と命名したが、これはNHKラジオ英会話の大西泰斗先生のテキストと解説がベースになっている。必要な範囲で問題を付け加えたり、解説を増やしたりしている。一昨日が75回目、平均して7問題くらいだから、500題を超えたので、どうやら1,000題やれそうです。
 しっかりやってくる生徒、時々やってくる生徒、やっているのかやっていないのかわからない生徒(笑)の三つのグループに分けられる。「わからなけりゃ、主語と動詞だけで十分だよ、そこまでやってきたらそのあとどうしたらいいかは個別に指導するから」と生徒たちには伝えてある。「数学大好き&英語嫌い」な生徒がほとんどなので、てこずっています。
 願わくば、長文対策には弊ブログの「原書講読講座Sapiens」シリーズも利用してもらいたい。

大西が当初から目指しているものは、認知言語学で広く使用されているイメージ・スキーマを一般の学習者にわかり易いように変えたメージを用いた英文法のわかり易い教授である
認知言語学はチャールズ・フィルモア格文フレーム意味論レイコフらが1970年代に提唱し、いわゆる「言語学論争」にまで発展した生成文法左派の生成意味論、そしてロナルド・ラネカーが独自に研究を進めていった空間文法(space grammar:後の認知文法)などが基となって融合的に発展した分野である。

 ノーム・チョムスキーの生成変形文法に出遭ったのは、1974年ころのことだった。経済学の原典を読んでいて、ときどき意味のつかめない箇所が出てきて困っていた。著名な経済学者が訳した良質な翻訳書で調べても納得のいく訳文ではなかった。板橋区常盤台の区立図書館で生成変形文法理論の専門書(大野照男著)『変形文法と英文解釈』見つけて、朝9時から夜6時ころまで1週間ほどで読み切って、ようやく原因が何だったかわかった。著名な先生たちでも文法工程指数の高い文はどうしようもないから、前後関係だけで当て推量の訳をしていることがわかった。論説文なら、基底文に分解・整理すれば、文法工程指数の高い文でも適切に処理できる。
 せっかくだから、生成変形文法の本は本家本元のノーム・チョムスキーの著作も数冊読んでみた。構造言語学に興味があったのは5年もあったかな、そんな程度です。理論のあまり細かい処へ立ち入ると、かえって煩雑になるので、適当なところで妥協しておくのがよい。
 ☆ 複雑な問題に遭遇したら、「必要なだけの小部分に分割すること」
*デカルト『方法序説』より「科学の方法、4つの規則の第二より」

 安井稔先生が高校の先生向けの参考書『英文法要覧』を書かれていますが、これは生成文法をベースにした英文法書です。専門書ではありませんので、とっつきやすいでしょう。安井先生にはチョムスキーの『文法理論の諸相』という本の翻訳があったはず。

 大西先生のイメージに基づく意味解説はとってもわかりやすくて助かるし、英文をどのように書けばいいのか指針になる。なにより、認知言語学は生成文法左派の生成意味論と関係があるらしいから、さらに親近感がわいた。


*https://ja.wikipedia.org/wiki/大西泰斗
**https://ja.wikipedia.org/wiki/認知言語学

*#4272 変形生成文法との出遭い June 18, 2020
https://nimuorojyuku.blog.ss-blog.jp/2020-06-18



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文法理論の諸相 (1970年)

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#4269 Sapiens(31st) : Page 42, 43 June 13, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

 昨日、6/12金曜日の授業から。
 42頁第2段落で出てくる副詞句の訳がやっかいだった。生徒からの質問がなければわたしも漫然と読み飛ばしてしまう。いい質問だ。

<42.2> ... If you tried to bunch together thousands of chimpanzees into Tiananmen Square, Wall Street, the Vatican or the headquarters of the United Nations, the result would be pandemonium. By contrast, Sapiens regularly gather by the thousands in such places. Together, they creat orderly patterns --- such as trade networks, mass celebrations and political institutions --- that they could never have created in isolation. The real deffernce between us and chimpanzees is the mythical glue that binds together large numbers of individuals, families and groups. This glue has mde us the masters of creation.


 ここが問題の箇所である。
 Together, they creat orderly patterns

 together:副詞 ともに、一緒に、協力して
 中学生の時から見慣れた単語だが、この副詞句は強調で文頭に置かれただけではない。カンマがついているところもしっかり確認しておきたい。カンマには意味がある。アンダーラインを引いたtogetherと呼応している。そちらは仮定法過去の文で、反実過去。

 2回目に現れたtogetherのほうは内容から推して単なる条件節ですから、必要なものを補って書き直すと、次のような文になる。
 If you try to bunch together thousands of [sapiens], they creat orderly patterns...


 「サピエンスを数千人集めたら、その行動は整然としたパターンを描く」と述べて、
そのあとに整然としたパターンの具体例が三つ示されている。貿易ネットワーク、集団での儀式、政治機関の三つである。


 Together, they creat orderly patterns

 したがって、この部分は「数千のサピエンスを集めたら、整然としたパターンを描く」と訳したらよいのだろう。
 柴田氏は前後関係からうまくつないだように見える、これもプロの翻訳家の技か。ハラリの言いたいところとはちょっとニュアンスが違うようにわたしには感じられる。「サピエンスが一緒になる」ことでは貿易のネットワークは生じない。ああ、ここは交易ではなくて現代の話だから貿易と訳すべきだ。ハラリの言わんとしていることは「数千人単位のサピエンスが集まり一団をなせば」ということ。数人や数十人や数百人単位の集団では現代の貿易ネットワークや集団での儀式、政治機関は生み出せない。数十人単位の集団行動ならネアンデルタール人でもやれたのだ。


もし、何千頭ものチンパンジーを天安門広場やウォール街、ヴァチカン宮殿、国連本部に集めようとしたら、大混乱になる。それとは対照的に、サピエンスはこうした場所に何千という単位でしばしば集まる。サピエンスは一緒になると、交易のネットワークや集団での祝典、政治機関といった、単独では決して生み出しようのなかった、整然としたパターンを生み出す。わたしたちとチンパンジーの真の違いは、多数の個体や家族、集団を結びつける神話という接着剤だ。この接着剤こそが、わたしたちを万物の支配者に仕立てたのだ。」柴田裕之訳 56頁

<43.0> How is it that we now have intercontinental missiles with nuclear warheads, whereas 30,000 years ago we had only sticks with flint spearheads? Physiologically, they has been no signeficant improvement in our tool-making capacity over the last 30,000years.

  この文をどう処理していいかわからないというので、itが何を指しているか訊いてみたら、that節という答えが返ってきた、ちゃんとわかっている。ではなぜ訳に戸惑ったのだろう?単に文が長いからではないだろうか。whereasという接続詞も使われているので、that節には2つの節があり、節同士の関係を読みそこなったからだ。
 しかし文構造は単純である。こういうときは基底文deep structureに書き直せば意味は簡単につかめる
  How is it? 「それはどういうことなのか?」「それはどうしたことだろう?」
 itという箱の中身は生徒自身が答えたようにthat節である。3万年前に火打石の穂先をつけた槍しかもっていなかったわたしたちが、今日大陸間弾道ミサイルをもっているのはどういうことなのか?生物学上、道具を作る能力において30,000年間に意味のある変化はなかった。なのにこれほどの差が生じているのはどうしたわけなのだろうというのが、ハラリの問題提起である。
 whereasは3万年前といまを比較しているから、そのまま対比的に訳せばいいだけ。訳語を知らなくても文脈で気がつく。つねに文脈を読みつつ読み進むのは日本語で書かれた本を読むときと同じである。この生徒は良質の日本語テクスト15冊を厳選して5年間の音読トレーニングをやり終えている。日本語テクストでできることが、英文ではまだできない。英語の本は1冊目、それも10か月かけてようやく43頁であるから無理もない。文章を読んで、普段使っている日本語レベルで訳文を書くトレーニングを続けているが、そろそろ卒業して、速度重視のスラッシュ・リーディングへ切り替えたい。精読トレーニングを100頁やれば景色が違ってくるし、文脈への反応もずっとよくなる。
 このサピエンスの朗読音源がamazonから出ているので、それを利用してリスニング・トレーニングをすることにしている。理解している英文を繰り返し音読することで頭から英文を理解できるようになる。相乗効果を狙っている。

 ハラリの視点はとってもユニークである。大陸間弾道ミサイルの開発や製造には数十万ものイベントがある。数十万もの単位のジョブ・イベントをPERTチャートに展開して仕事を進めなければならない。数十万人~百万人を超える人々が協調して仕事をしないとつくれない。それを可能にするのが「集団を結びつける神話という接着剤」であり、ネアンデルタールやそれ以前の人類がもてなかった能力なのである。その分岐点をハラリは「認知革命」と名付けた。

3万年前には燧石の穂先をつけた木の槍しかもっていなかったわたしたちが、今では核弾頭を搭載したミサイルをもっているのはどういうわけか?生理学的には、過去3万年間にわたしたちの道具作成能力には目立った進歩はなかった。」 柴田裕之訳



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#4266 Sapiens(30th) : page 40 June 7, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

 1/14から始めたメール配信による英作文問題、120回目の問題を作成し終わった。平均7問題くらいだから、840問題と解説をし終えたということ。今日が72回目だから12週分貯金ができた。(笑)
 問題と解説でA4版ですでに125頁の分量、1頁1600語くらいだろう。
 Lineで生徒が受信してやってきたら、塾で個別に添削解説している。やってこない人は送信された解説を読むくらいはしているのだろう。生徒には「主語と動詞と目的語だけでいい、主語と動詞だけでも結構、あとは英文の作り方を塾で個別に教えてあげる」、そう伝えている。本人のやる気や自主性、自律性を重んじている。ようするに大人扱いしている。
 これ(ブログ)書き終わったら、数学の問題を少しやり脳のバランスをとる?なんだか似たような使い方をしているような気もするのだが…

 金曜日(6/5)の授業で質問のあった個所をとりあげる。40頁第2段落。
 (直前の段落は前回取り上げている)

<40.2> Hunting techniques provide another illustration of these differnces. Neanderthals usually hunted alone or in small groups. Sapiens, on the other hand, developed techniques that relied on cooperation between many dozens or individuals, and perhaps even between deferent bands. One particularly effective method was to surround an entire herd od animals, such as wild horses, then chase them into a narrow gorge, where it was ezsy to slaughter them en masse. If all went according to plan, the bands could harvest tons of meat, fat and animal skins in a single afternoon od collective effort,and either consume these riches in a giant portlatch, or dry, somke or (in arctic areas) freeze them for later usage.


 問題の箇所はアンダーライン部分。
Hunting techniques provide another illustration of these differnces.

 illustrationをイラストつまり「絵」だと理解していた。思い込んでしまっているから、「意味がさっぱり分からない、どう訳せばいいのですか?」ということになった次第。
 案外こういうことはよくあること。知っている単語ほど危ない、辞書を引かないからだ。記憶にある訳語だけで処理しようとしたってできるわけがないし、頓珍漢な迷訳を創り上げることになる。
 単語の暗記はしなければいけないが、訳語で考えてしまう癖がつくことには注意を払おう。
 文脈次第で名詞なのか動詞なのか変幻自在の単語は多いし、名詞でも動詞でも訳語がいくつもある単語はむしろ普通だ。動詞はとくに目的語が何かで意味が変わる動詞は目的語とセットでなければ意味がつかめないケースが多い。動詞は副詞や前置詞と組み合わされても意味がちがってくるから、つねに基本イメージに戻って考える癖をつけよう。
 たとえば、be fed up withだ。fedはfeed「餌をやる」の過去分詞形だが、餌をやり続けて喉まで一杯に(up)なれば、それ以上はもう見たくもなくなるだろう。そこから、「うんざり」という意味が出てくる。

 文脈をトレースしながら、整合性を確認しつつ読む努力もしよう。日野ン語で書かれて本を読むときと同じだ。
 前段は長距離の交易をしていたサピエンスはネアンデルタールや古代の人類たちとは異なる密度が濃くてそして広汎な知識のネットワークも創り出していただろうというハラリの推測・仮説が述べられていた。
 そして段落を変えてさらなる説明になる。前段で提起した仮説をさらに敷衍して見せるのだ。「狩猟技術は差異についての別の説明を提供する」と言っている。illstrationの意味さえ取り違えなかったら簡単な文章である。
 保留して先を読み進むのも一つの技である。続く文章はアンダーラインの文章をさらに具体的に展開しているから、先を読み進んでから戻ってみたらほとんどわかる。

 こういう思い込みをして、思考が隘路に迷い込む、数学でもたまにあるでしょ。問題文の条件を一つ読み落としたら、解けない場合がある。そういう時には、「どこか間違って考えているはず、間違えているのはどこ?」、深呼吸を数回して、虚心に問題文を読んでみよう。
 文脈からこの文章の意味の見当はつく。見当をつけておいて、知っている単語についても辞書を引けばいいのだ。辞書に書いてある訳語は①②…と数が多いから、だれだって全部を知っているわけではないのである。基本イメージを抑えるように普段から努力しよう。

 illustrate:(v)説明する ②挿絵を入れる illustration:(n)例、説明 ②挿絵、説明図、イラスト
 文章で説明されるよりも、簡単な絵や図にして説明してもらえばよくわかるでしょう。そういう時に使われるのがこの単語です。

 意識を集中するのは簡単である。ヨガの呼吸法を知っていたら、数回ゆっくりと呼吸したらいい。意識をどこにも集中させないほうがずっとむずかしい。意識の放散がむずかしいどこにも意識を集中させず全体を眺めていると、感覚に引っかかってくるものが現れる
 高校生の時から、どういうわけか呼吸コントロールに興味がわいて、呼吸を長くする(長息呼吸法)トレーニングをしていた。失敗もあった。我流だったからなんでもやってみた。(笑)
 止息トレーニングは呼吸器系に悪影響があるからやらないほうがいい。歩いて呼吸するときに吸気、止息、吸気、吸気...という具合に間隔をだんだん長くしていく。一呼吸の間の歩数を増やしていけばいいのだ。座禅を組んで瞑想してみるのもいい。ようは意識を呼吸に置くだけ。
 呼吸は止めてはいけない。吐ききったら自然に吸気が始まり、頂点に達する直前にゆっくり吐き出し、吐き切る。意識の集中や分散には呼吸のコントロールが不可欠である。

(呼吸法は性や健康や精神にも深い関係があります。トレーニングによって次第に深く長い呼吸が自在にできるようになります。興味のある方は「タントラ・ヨーガ」で検索してください。呼吸のトレーニングは健康法なのです。)

狩猟の技術もこうした違いを浮かび上がらせてくれる。ネアンデルタール人はたいてい単独で、あるいは小さな集団で狩りをした。一方サピエンスは、何十人もの協力、ことによると異なる生活集団間の協力にさえ頼る技術を開発した。なかでもとりわけ効果的なのは、野生のウマなどの動物を群れごとそっくり取り囲み、それから狭いという峡谷に追い込むという手法で、こうすれば楽々ひとまとめに獲物を殺すことができた。万事計画通りにいけば、複数の集団がある日の午後の間、協力するだけで、何トンもの肉と脂と皮を収穫し、大宴会を開いて肉を平らげたり、後に食糧とするために乾燥させたり、燻製にしたり、(北極地方では)凍らせたりした。」柴田裕之訳54頁
 


 呼吸法や瞑想法に関するヨーガの本はたくさん出てますから、お好きなものを選んで読めばいい。呼吸法をDVDで独習してもいい。便利になりました。身近に教えてくれる人がいたら、そのほうがいい。

 お釈迦様の呼吸法について面白い本が出ています。この本を書いている方、たしか台東区に「調和道場」を開いていて、そこへ行って教えてもらおうかと思った時期もあったが、なかなか暇がとれなかった。(笑)

 わたしの持っているのは1981年第六刷りである。

釈尊の呼吸法: 大安般守意経に学ぶ

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  • 作者: 村木 弘昌
  • 出版社/メーカー: 春秋社
  • 発売日: 2020/04/14
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この本は読んでいません。検索したら引っかかってきただけ。
ブッダの〈呼吸〉の瞑想

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  • 出版社/メーカー: 新泉社
  • 発売日: 2012/10/02
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#4259 Sapiens (29th) : page 40 May 30, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

<最終更新情報>5/31朝8:50

<40.0> When two strangers in a tribal society want to trade, they will often establish trust by appealing to a common god, mythical ancestor or totem animal.
<40.1> If archaic Sapiens believing in such fictions traded shells and obsidan, it stands to reason that they could also have traded information, thus creating a much denser and wider knowledge network than the one that served Neanderthals and other archaic humans.

 アンダーライン部のit stands to reasonの 'it' が何を指しているのかと言いう質問があった。
 話の流れを確認すると、「部族社会の見知らぬ二人が交易したいと思ったら、共通の神とか神話上の祖先とかトーテムの動物に訴えることで相互の信用を確立する」、「そうした虚構を信じる古代のサピエンスが貝殻や黒曜石を交易していたと仮定するなら...」という文脈である。前のものを指示しているとすれば、その候補は archaic Sapiens か文全体かという選択肢が思い浮かぶ。

 theyはarchaic Sapiensである、人だからitでは受けられないし、集合名詞としてのSapiensでもない。個々のサピエンスがハラリの脳裏に浮かんでいる。weで受けずにtheyで受けたのは、飛行機で移動し、飛行機でスマホなどのエレクトロニクス製品を運び、電子決済をして地球規模で貿易する現代社会に生きるサピエンスであるわたしたちと物々交換をしていた古代のサピエンスに距離を感じているからだ。

①archic Sapiens believing in such fictions traded shells and obsidian (このような虚構を信じる(同じ部族内の)古代のサピエンスたちが貝殻や黒曜石を物々交換していた) 

it stands to reason that they could also have traded information


 could have treded は形だけ見ると仮定法の帰結節にも見えるが、文脈から判断するとこの場合は仮定法ではない。「過去時の可能性・推量」で、その意味は「情報を交換できたであろう」
である。美しい貝殻や黒曜石が数百キロメートルを隔ててなお物々交換がなされたという事実から、ハラリが合理的に推量しているのである。日本語の論説文でも事実と意見を分けて書くのは、あたりまえのお作法に属するが、英文でも同じこと。書き手が考古学的な事実とそこから推して有力な仮説を自分の意見として述べているのだから、読み手の方もそれらを分けて受け取る必要がある。数万年も前に数百キロメートルという距離を隔てた交易がなされていたという考古学的事実から、それを行ったサピエンスにはすでに共通の神とか神話上の祖先とか、トーテムの動物に語りかけることという共通の虚構があったはずというのが、彼のユニークな推論である。考古学的な事実や証拠はたくさんの人が目にしているが、共通な虚構が存在したこと、そしてその重要性に気がついた人はいない。ハラリの仮説はとてもユニークなのである。この本が世界中でベストセラーになっているから、このユニークな意見は現在進行形で通説化しつつある。


 文法的な解説に戻ると、standは前置詞句を伴なっているから自動詞である。「立っている、位置している、…である」のどれだろう?toは到達を表すから、「(理由のないところから)理由のあるところに到着して立っている⇒明確な理由がある」、なんだか慣用句の匂いがするので、reasonを辞書で引いたらあった。ジーニアス4版から引用する。
-------------------------------------
 it stands to reason that (…は当然である、理に適う)
 It stands to reason that workers are paid. (労働者が賃金をもらうのは当然だ)
-------------------------------------
 「理由のあるところに到着して立っている⇒明確な理由がある⇒理に適う」、なるほど。
 なんてことはない、慣用句化したit...that構文である。itはthat節ということになる。
 「(ものばかりでなく)同時に情報も交換しえたということは理にかなっている」

③archaic Sapiens could have created a  knowledge network.
(古代のサピエンスはある種の知識ネットワークを創り出すことができたかもしれない)
④the knowledge network served Neanderthals and other archaic humans.
(その知識ネットワークはネアンデルタール人たちや古代の人類に役にたっていた)

④’ the one that served Neanderthals and other archaic humans.

 それで、③と④が比較されている。片方は古代のサピエンスが創りだした知識ネットワーク、比較されるのはネアンデルタール人たちやその他の古代の人類の役に立った知識ネットワーク。the one となって定冠詞がついているのは、[ネアンデルタール人や古代の人類の役に立った]知識ネットワークという限定がついているから。同じ名詞句の繰り返しを嫌ったということ。英文の修辞法(rhetoric)では基本に属する知識。
 servedを「役に立つ」と訳したが、気になるので『英語基本動詞辞典』を引いてみると次の用例が載っていた。
-----------------------------------------
2c. S serve O  :S〈物〔事〕〉がO〈人〔人の目的など〕〉に役にたつ〔かなう〕
   That excuse will not serve you. (それは君の言い訳にはなるまい)

-----------------------------------------

⑤archaic Sapiens could have created a much denser and wider knowledge network than the one that served Neanderthals and other archaic humans.


 以上で解説終了、やっかいな文だ。(笑)


 翻訳者の柴田裕之さんは上手に処理してる。
部族社会で見知らぬ人同士が交易しようと思ったときには、共通の神話的な祖先やトーテムの動物に呼びかける。
 もしそのような虚構を信じている太古のサピエンスが貝殻と黒曜石を交換していたとしたら、情報も交換して、ネアンデルタール人ら、他の太古の人類のものよりも格段に濃密で広範な知識のネットワークを生み出せたと考えるのは理に適っている。」p.53

 柴田さんは「貝殻と黒曜石を交換していたとしたら」と書いているが、もしそうなら、ハラリは次のように書いただろう。

  If archaic Sapiens believing in such fictions traded shells for obsidan, ...

 美しい貝殻や刃物として役に立つ黒曜石は、物々交換される貴重品の代表としてあげられているのであって、貝殻と黒曜石を交換する話ではない、細かい話だが、意味が違ってしまっている。
 わたしの訳案を書いておく。

「このような虚構を信じる古代のサピエンスが貝殻や黒曜石を物々交換していたとしたら同時に情報交換もしていたと考えるのが理にかなっている。したがって(thus=数百キロメートルもの距離を隔てた交易によって)、ネアンデルタール人たちやその他の太古の人類が利用していたもの(=知識ネットワーク)よりはるかに濃密で広範な知識ネットワークを太古のサピエンスが創り出していたと云いうる。」




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英語基本動詞辞典 (1980年)

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 こういう素晴らしい辞書は絶版にしないでもらいたい。買う人がいなければ出版社は絶版にせざるを得ませんから、毎年数百人の人が購入したら8刷り、9刷りと続きます。翻訳をやる人には必携の辞書に一つです。
 わたしがもっているのは1999年初版7刷り、新品同然のきれいな状態のものを8000円ほどで手に入れました。
 絶版になっていないかもしれませんので、新品を購入したい方は本屋で問い合わせてください。この辞書には姉妹編として『英語基本形容詞・副詞辞典』と『英語基本名詞辞典』があります。会計学や経済学、コンピュータシステム開発、医学関係の専門書を知的興味や仕事上の必要があって原書で読んできたので、文学作品には疎く、わたしは英語の形容詞や福祉にはあまりなじみがないのですが、文学作品を読む人は『英語基本形容詞副詞辞典』が役に立つでしょう。もちろん、英文を書く場合にも圧倒的に多数の用例が整理されていて使い勝手がいい本なのです。

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#4254 Sapiens (28th) : page 38 May 22, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

<更新情報>5/23、13時、余談<分詞構文メモ>を追加

 寒いね、極東の町は今朝7時の気温が2.3度だった。最高気温は6.3度、一体どうなっているんだろう。桜は半分くらい花びらが落ちて庭の黒い土をまだらに覆っている。

<38.2> In other words, while the behaviour patterns of archaic humans remained fixed for tens of thousands of years, Sapiens could transform their social structures, the nature of their behabiours within a decade or two.  Consider a resident of Berlin, born in 1900 and living to the ripe age of one hundred.  She spent her childhood in the Hohenzollen Empire of Wilhelm II; her adult years in the Weimar Republic, the Nazi Third Reich and Communist East Germany.She died a citizenof a democratic and reunified Germany. She had managed to be a part of five very different sociopoliteical systems, though her DNA remained exactly the same. 


 問題になったのはアンダーラインを引いた文である。うっかり読み違えてしまった。この文の後で、この百年間で目まぐるしく5つの治世交代があったことが記されているのでripe(ライプ)を「ドイツ全盛期の百年間」と読んでしまった。

 Consider a resident of Berlin, born in 1900 and living to the ripe age of one hundred.
 ripe:形容詞 熟れた。熟した。実った。⑤円熟した。老齢に達した

 「1900年に生まれ、ドイツ爛熟期の百年間を生き抜いたベルリン在住の女性を脳裏に浮かべると…」と訳してしまった。
 ドイツは1870年に普仏戦争に勝利すると、鉄鉱石の産地であるフランスのアルザス・ロレーヌ地方を領土に組み入れ、ドイツ帝国が勃興する。ルール炭田の石炭とアルザス・ロレーヌの鉄鉱石を組み合わせて、製鉄産業が盛んになって国力が強大になり、ヨーロッパに覇権を称えた。まさにドイツ帝国爛熟期と言える百年間だったのである。

 生徒が翻訳書で確認したら、「100歳の天寿をまっとうした」となっていた。そこでジーニアスを引いてみたら、つぎの用例(a)が載っていたので、本文を変形して(b)並べてみる。
a) die at the ripe age of 95 (95歳の高齢で死ぬ)
b)   live to the ripe age of one hundred (百歳の高齢まで生きる)
 シンプルセンテンスに書き直してみる。
①(the resident was) born in 1900.
②(the resident) lived [from 1900] to the ripe age one hundred.(そのベルリン居住者は(1900年に生まれ)百歳まで生きた。)
 節clauseが句phraseに書き換えられて、次のようになった。①’の [being] は統語法上省略が原則。
①’  [being] born in 1990
②’  living to the ripe age one hundred

 前置詞 to は到達点を表しているが、ここも見落とした。意味が曖昧だと感じたら、辞書はしっかり引いて確認しないといけない。反省。

言い換えれば、太古の人類の行動パターンが何万年も不変だったのに対して、サピエンスは社会構造、対人関係の性質、経済活動、その他多くの行動を10年あるいは20年の内に一変させることができた。たとえば、1900年に生まれ、100歳の天寿を全うしたベルリンの女性を想像してほしい。彼女は子供時代をウィルヘルム二世のエンツォレルン帝国で過ごし、成人してからはワイマール共和国、ナチスの第三帝国、共産主義の東ドイツで暮らし、再統一された民主主義のドイツ市民として生涯を終えた。彼女は、DNAが少しも変わらなかったにもかかわらず、五つのまったく異なる社会政治体制を経験できたのだ。」p.52 柴田裕之訳
 
*https://ja.wikipedia.org/wiki/ホーエンツォレルン城

<分詞構文メモ>
 お馴染みのグリム童話ヘンゼルとグレーテルから引用。
  That night was a terrifying night for the two children.  Abandoned, alone, they sat sleepless together under a tree. 『英語で読む世界昔話1』

①  the two children was abandoned
②  the two children was alone

①’ [the two children being] abandoned

②’ [the two children being] alone

その夜は、二人の子どもにとってぞっとするような夜でした。見捨てられ、2人っきりで、まんじりともせずに木の下で座っていました。

  アンダーライン部は強調なのでしょうね。「見捨てられ、二人っきり」ということを強調したかった。
 普通に書くと、
  They were abandoned and alone, sitting sleepless together under a tree.
 
 受験英語では分詞句が先頭に来る場合がほとんどですが、実際には主節が来てから、次に分詞句が来る場合の方が圧倒的に多いのです。どちらが先になるかは、時間の推移と関係があります。物事が起きる順序に並べます。上記の例文では、ヘンゼルとグレーテルの二人が見捨てられabandoned、二人っきりaloneになったのが先、それから木の下で眠られぬ夜を過ごしています。物事が生起している時間の順序をきちんと守っているでしょ。だから、このケースでは分詞句を後ろに配置できないのです。
 「彼女はレストランへ行って、(そして)友達とランチを食べた」なら、次のように分詞句が後になります。
 She went to the restaurant, having lunch with her friend.

 この文からわかるように、先に主節が来ていると、分詞句の主語が何なのか明示されているので、わかりやすいのです。分詞句が先に来る場合は分かりにくいから分詞句が先に来るケースは実際の文では頻度が著しく少ない。強調構文の一つだからイレギュラーというわけ。英作文の場合には不可欠の知識です。時間の流れ通りに話を配置すればいいだけですから、実際は簡単なのです。


 ところで、この『英語で読む世界昔話』シリーズは中3と高校生用の音読トレーニング用におススメ。
 理由:
 ①話に意外性があって愉しい。
 ②文の難易度が中3~高校生にちょうどいい。
 ③5編のお話が収載されていておおよそ5000語程度だから、分量が適度。高校3年の教科書とほぼ同じワード数です。

 読みたいものをピックアップして2冊もやれば十分でしょうね。音読トレーニングは繰り返し同調音読するので1冊で十分です。
 話が愉しいのはどういうことかというと、白雪姫で継母が白雪姫を殺して内臓をシチューにして食べるなんて話は、みなさんにはおそらく初耳。グリム童話のオリジナルは残酷、そしてグロ。このシリーズのエッセンスはオリジナルに近い姿を保っているのでしょう。残酷さやグロテスクも人間の本質の一部、グリム童話は子供向けに教育上の配慮が繰り返しなされ、改変されていまのソフトな物語になっています。「本当は恐ろしいグリム童話」です。

<余談-2:リスニング対策のための英作文トレーニング>
 今年1月14日から現在の高3生にラインで配布している「英作文問題と解説」は会話文がほとんどです。もちろん慣用句もふんだんに入っています。リスニング問題に会話文が出されるので、会話文を作文できるレベルの理解力があって、さらに音読トレーニングで口と耳を鍛えておかないと高得点できません。
 音読トレーニングだけは気に入った教材を見つけて独力で家庭学習してください。
 読解の方はハラリの「Sapiens原書講読講座」(本欄左側のカテゴリー欄の「44-3. 原書講読講座 Sapiens(28)」)をクリックして利用してください。分量にしてすでに高校3年生2年分、28回解説をアップしてあります。ハラリの著作は今年の入試長文問題に四大学で採り上げられたそうです。「よしのり」さんという方が、投稿欄に大学名を書き込んでくれました、ありがとう。

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英語で読む 世界昔ばなし Book 1

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  • 出版社/メーカー: ジャパンタイムズ
  • 発売日: 2006/03/05
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
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  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

 次のシリーズは、もう8-9年も前になりますが、中3の生徒にグリム童話の単行本(上下2冊)を貸してあげたら、読み終わって、数日して面白い本見つけたって報告がありました。それを読み終わると「面白いから」と2冊続けて貸してくれました。本の大好きな生徒で、読書スピードが大きかった。教えた生徒では最速だったかも。
本当は恐ろしいグリム童話 (WANIBUNKO)

本当は恐ろしいグリム童話 (WANIBUNKO)

  • 作者: 桐生 操
  • 出版社/メーカー: ベストセラーズ
  • 発売日: 2001/01/01
  • メディア: 文庫
本当は恐ろしいグリム童話〈2〉 (WANIBUNKO)

本当は恐ろしいグリム童話〈2〉 (WANIBUNKO)

  • 作者: 桐生 操
  • 出版社/メーカー: ベストセラーズ
  • 発売日: 2001/01/01
  • メディア: 文庫
大人も眠れないほど恐ろしい初版『グリム童話』

大人も眠れないほど恐ろしい初版『グリム童話』

  • 作者: 由良 弥生
  • 出版社/メーカー: 三笠書房
  • 発売日: 2014/12/04
  • メディア: Kindle版
本当は恐ろしいグリム童話 最終章 (ワニ文庫)

本当は恐ろしいグリム童話 最終章 (ワニ文庫)

  • 作者: 桐生 操
  • 出版社/メーカー: ベストセラーズ
  • 発売日: 2008/07/18
  • メディア: 文庫

これは、2次元の世界にはまり切ってしまった高校生を現実の世界へ誘(いざな)うためにおススメの薬です(笑)
本当は恐ろしいグリム童話 禁断のエロス編

本当は恐ろしいグリム童話 禁断のエロス編

  • 作者: 桐生 操
  • 出版社/メーカー: ベストセラーズ
  • 発売日: 2013/07/20
  • メディア: 単行本

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#4250 Sapiens (27th) : p.36 May 17, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

<更新情報>5/18朝8時半

 そろそろ文章を頭から読んで、英語の流れのまま理解するスラッシュリーディングに切り換えたいのだが、50ページまでは全文ノートにこなれた日本語で訳を書くトレーニングがしたいと主張して譲らぬ、なかなか頑固、まだ納得がいかないのだろう。
 精読をみっちりやれば、音読併用の速度アップ訓練は短期間で成果が上がるのも事実だからよしとしよう。

 最近は、ハラリの文体に使われる修辞法や語彙に慣れてきたので、内容を議論することが多くなりつつある。
 遺伝子の変異による動物の進化速度は数百万年単位と気が遠くなるほど遅いが、サピエンスは認知能力の発達によって、言葉を使って虚構の世界を創り出す能力を身につけた。虚構の物語のもとに集団的行動能力を獲得し、同種の兄弟姉妹(siblings)たちを絶滅へ追いやり生態系の頂点への階段を駆け上がった。ハラリの言葉で言えば、遺伝子の変異という渋滞路を迂回する 高速道(the fast lane)を見つけたのである。それが言葉を使って産み出した「虚構fiction」という物語である。たとえば、大きなものでは宗教が虚構であるが、最大のものは百数十年前に創り出した虚構、法的な人格を付与された法人=永続する企業という概念である。いまや経済は社会体制や政治制度の違いを超えて法人を抜きには成立しえない。
 20世紀末から現れた虚構がある、コンピュータゲームがその代表だろう。高精度のディスプレイは次第に現実感を増している。その虚構のゲームが戦争目的で現実とインターフェイスし始めている。ドローンにミサイルを積んで中東のいずれの国からか飛ばせば、その周辺の国の大統領を暗殺できる。ドローンの操縦者は米国のどこか長閑な地方にいて、ディスプレーに表示されたドローンを見ながら、標的の顔写真と現在地を確認して、中東の基地から発信させる。レーダーに捕捉されないように、低空飛行を続け目標に近づくと、ターゲットをロックオンしてミサイル発射スイッチを押す。画面にミサイルが爆発する瞬間が映し出される。ドローンを発信基地に帰還させると、ゲームは終了。電源を落としてコントロールルームを出て、家に帰り、妻や子どもたちと夕餉を囲む。どこにも戦争の匂いが感じられない、自分が攻撃される恐れはないからだ。
 ゲームと実戦が区別のつかないVR(バーチャル・リアリティ)の時代がすでに来ている。ゲームに夢中になってスキルが上がる。たくさんの子どもたちが殺人ゲームや格闘ゲームに夢中して大人へ育っていく。VRの世界で操作に慣れた者は兵士としての資質も高く、実際の武器の操作に短期間で慣れてしまう。VR技術を駆使したゲームでスキルをアップさせた者たちは、いつでも優秀な一兵卒として戦争へ動員する準備ができている。バーチャルとリアリティの区別が消失してしまうあらたなゾーンへわたしたちサピエンスは突入してしまった。新技術はつねに開発者の意図するところとはまったく異なる使い方をされてしまうことに注意していても益のない話だ。戦争も虚構の物語の代表例の一つであり、「国家」という虚構が、それにもとづくシステムが、敵を見つけ殲滅目標を立てる。目標た立てられたら、数年、時に数十年をかけて戦略が実行される。米国の日米規制改革および競争政策イニシアティブに基づく要望書もそういう戦略の一つだ。
*https://ja.wikipedia.org/wiki/%E5%B9%B4%E6%AC%A1%E6%94%B9%E9%9D%A9%E8%A6%81%E6%9C%9B%E6%9B%B8

 VR技術は外科医の教育、技術トレーニングなどでも抜群の効果がある。技術というのはいつでももろ刃の剣だ。わたしたちサピエンスが強力な武器を手に入れれば入れるほど、精神的な面での進化が要求されるということは、だれでもわかっているのだが、現実の行動はまったく別だ。地球上でいまだかって戦争が絶えたことはない。そして戦場には常に新しく開発された武器が投入されている。実践に投入することで新製品の欠陥が露になり、すぐに技術の改善がなされる。そうした武器を開発・生産・配備・使用することがGDPの重要な一角を占めている。それは経済に影響するのみならず外交を含む政治にもおおきな影響を与えている。1960年代終わりに出てきたあたらしい用語である産軍複合体という言葉すらなくなるほど、経済と軍事とデジタル技術の融合はあたりまえのものになっている。米国には傭兵会社まであり急成長している。戦争は合法的に民間企業に外注され出し、傭兵なしには戦争が遂行できないほどかかわりが強くなっている。軍隊よりも傭兵会社の軍事プロが戦争を担っている。日産元会長のカルロス・ゴーン海外逃亡劇に手を貸したのもそういう類の会社。

 ここまではわたしの意見だが、生徒は生徒の意見があるので、耳を傾ける。本を読むだけではない、それは著者の思索の跡をたどり自分の考えを付け加えること、あるいは批判的に吟味して自分の思考を練り上げることでもある。ハラリという巨人の思考過程を丹念に追跡すること自体が、それを読む者の思考に飛躍をもたらすことになる高校生の時に、智の巨人とまみえることはとても重要だ。わたしは高校生の時に智の巨人であるマルクスと『資本論』を通してまみえた。そして20年ほど前にようやく彼を超えた。30年の民間企業で働いた経験とたゆまぬ思索の結果『資本論』の公理に気がついたのだ。だから、公理を書き換えることでちがう経済学モデルの成立の余地を理論的に明らかにするところまではできた。あたらしい経済社会を建設するのはいまの若い世代である。

 さて、今日紹介する箇所は、生徒が単に思い込んだだけ、とくに難しいところではなかった。「なあ~んだ、そうか、気がつかなかった」で終わり。思い込みというのはよくあるが、それをクリアするのは高等テクニックに属する。瞑想で意識を集中するのは簡単だが、それを開放するのはとってもむずかしい。それをどうやるかヒントぐらいはつかまえられるかもしれない。


<35.2>  Consequently, ever since the Cognitive Revolution Homo sapiens has been able to revise its behaviour rapidly in adccordance with changing needs. This opened a fast lane of cultural evolution, by passing the traffic jams of genetic evolution. Speeding down this fast lane, Homo sapiens soon far outstripped all other human and animal species in its ability to cooperate.

  Speeding down this fast lane、この句は受験英語でお馴染みの分詞構文という奴だが、滅多に文頭では出てこない、めずらしいタイプだ。「スピードダウン」と日本語に引っ張られて読んでしまうと意味が分からなくなる。文脈からそういう意味ではつながらないからすぐにわかる。
 認知革命を経てサピエンスは変化の必要が生じると自らの行動を見直し改める能力を身につけた。そのことが遺伝子の進化という渋滞路を迂回して、文化を進化させる高速道路への道を拓いた。
 だから、高速道fast lane でスピードダウンというのは渋滞路から高速道へ乗り換えたわけだから、文脈上おかしい。そこに気づいただけで十分だ。
 あとは対処の方法を身につけたらいい。わたしは生徒が入塾したときに名刺を渡している。その裏に勉強の仕方の原則が三つ書かれているあ、机の前にでもどこでもいいから、困ったときに見えるところに張っておくように伝えてある。その2番目は「迷ったときには原理原則に還る」である。このケースでは、元のシンプルセンテンスに書き換えたらいいのだけ。主節に主語があるのでそれとasを補うと、


  As Homo sapiens speeded down this first lane,

 ロードバイクに乗っていると、ダウンヒルとクライムヒルがある、それと同じ。down this fast lane だから追い越し車線を下るから加速がつく、speedは動詞でspeed down で「速度を上げる⇒疾走する」という意味。そこまで見当つけてから、辞書が引けたらなお素晴らしい。
 基本に還ってシンプルセンテンスに書き直してみたら思い込みが消せる、簡単でしょ。

認知革命以降、ホモ・サピエンスは必要性の変化に応じて迅速に振る舞いを改めることが可能になった。これにより、文化の進化に追い越し車線ができ、遺伝子進化の交通渋滞を迂回する道が開けた。ホモ・サピエンスは、この追い越し車線をひた走り、協力するという能力に関して、他のあらゆる人類種や動物種を大きく引き離した。」 柴田裕之訳『サピエンス全史』p.50


<余談:名刺の裏に記載してあるebisu勉強法三原則>

 ☆ 覚えるよりも考える

 ☆ 迷ったときは原理原則に還る

 ☆ 複雑な問題に遭遇したら、「必要なだけの小部分に分割すること」*

*デカルト『方法序説』より「科学の方法、4つの規則の第二より」

<余談-2:減らない商品の登場>
 デジタル商品は消費されても減ることはない。開発すればあとは生産すら不要になる。ネット上からダウンロードすることで購入できるからだ。デジタル商品の割合は急速に増大しつつある。こうした商品はかつて存在しなかった。その経済への影響の大きさが次第に明らかになるだろう。いままでの物やサービスという商品概念とはまったく異なる。いくら消費しても減らないのである。物とサービスとデジタル商品、経済は三本の柱で支えられることになったのだ。経済社会がさらに大きく変質する。
   


 

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#4240 Sapiens (26th) : p.33 May 2, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

<最終更新情報> 5/2午後9時
 『Sapiens』p.33第2段落から。

<33.2> In the US, the technical term for a limited liability company is a 'corporation', which is ironic, because the term derives from 'corpus' ('body' in Latin)-- the one thing these corporations lack. Despite their having no rial bodies, the American legal system treats corporation as legal persons, as if they were flesh-and-blood human beings.
<33.3> And so did the French legal system back in 1896, when Armand Peugeot, who had inherited from his parents a metalworking shop that produced spring saws and bicycles, decided to go into the automobile business. To that end, he set up a limited liability company. He named the company after himself, but it was independent of him. If one of the cars broke down, the buyer could sue Peugeot, but not Armand Peugeot. If the company borrowed millions of francs and then went burst, Armand Peugeot did not owe its creditors a single franc. The loan, after all, had been given to Peugeot, the company, not to Armand Peugeot, the Homo sapiens. Armand Peugeot died in 1915. Peugeot, the company, is still alive well.

  生徒が取り上げてくれた問題の箇所は、アンダーラインを引いた部分である。そこだけ取り出してみよう。

And so did the French legal system back in 1896, when Armand Peugeot, who had inherited from his parents a metalworking shop that produced spring saws and bicycles, decided to go into the automobile business.

 なるほど厄介そうな箇所だ。意味はとれているので文法的な解説が欲しいということだった。soがなんなのか文法的な説明が欲しいとも言った。勘が鋭い!えらいとこ質問するやっちゃ。
 邪魔なものを外して少し簡単にしてみる。
 
And so did the French legal system back in 1896, when Armand Peugeot decided to go into the automobile business.


 たったこれだけでも、ずいぶんすっきりしたと思う。プジョーの説明である補足説明の節は外して、必要な最小限の部品だけで考えると、文全体の構造がよく見えるようになる。外した部分はアルマン・プジョーという人物の補足説明として挿入されたclause(節)である。
(, who had inherited from his parents a metalworking shop that produced spring saws and bicycles, )

 and soは前の文とのつなぎだから、前の文と並べてみたらその関係がよくわかる。並べて、変形過程を書いておくので、参考にしてもらいたい。

a: the American legal system treats corporation as legal persons.
b: And so did the French legal system back in 1896.

a': the American legal system treats corporation as legal persons.
b': And the French legal system treated (corporation as legal persons) back in 1896.
b'': And the French legal system treated so  back in 1896.
b''': And so did the French legal system back in 1896.

  ここまで理解してからsoをジーニアス4版で引くと、「先行する句や節の代用「そのように」」という項目がある。元はtreatという動詞の目的語で名詞句だがそれを受けるsoは副詞だから動詞とセットで扱われる。それで、セットで倒置されることになった、強調構文です。ハラリが強く言いたかったのは"so did"の部分。

 ジーニアスには次の用例が載っていた。
 例:Do you think it will rain tomorrow? I think so.
 so= it will be tomorrow.
 soは直前のセンテンスのclauseを受けている。ふつうの英語力のある高校生なら、「何だこれなら知っている」というだろう。知っていることと使えることはこんなに違うのだ。数学でも同じだ。例題を理解したのと実際に全国模試で問題が解けるのは違う。どんなスキルもそれを身につけるには鍛錬が必要だということ。知っているだけでは技として使えるレベルにはならぬ。

 「(現行)米国法体系は会社を法的人格(法人)として扱っている、フランス法体系が会社を法人として扱うようになったのは1896年にさかのぼる。その年にアルマン・プジョーは両親からバネや鋸や自転車を生産する金属工場を相続している。」ebisu訳

 結果から言うと、倒置である。treatedが代動詞didに化け、「代動詞+主語」の語順となり、その直前の文と繰り返しになる目的語が省略になってsoに置き換わった。文法工程指数の高いまことにやっかいな文章。
 b'の文の(corporation as legal persons) は、同じ句の繰り返しになるので後の文の方が b''でso(=corporation as legal persons)
に置き換わった。そしてb'''で倒置された。米国現行法制と同じくフランス法体系も会社を法人として1896年に扱っていた。

 ついでに言うと、資本主義のチャンピオンの国、米国法体系が法人という規定を獲得したのがいつかについては言及がなく、現在形treatsで書かれ、それにに対比した形でフランス法体系は過去形didで書き分けられている。自然に読めば、資本主義のチャンピオンの米国法体系は会社を法人として扱っているが、フランス法体系が法人をその中に取り込んだのは1896年にさかのぼると読める。資本主義の国ならどの国でもその法体系に株式会社の規定がある、その一般的な事例、あるいは典型例として現行米国法体系に言及した後で、フランス法体系をとりあげている、「一般⇒特殊」という論理構成だ。フランス法体系の方が法人規定に関しては米国法体系よりも古いことを現在形と過去形という時制の差でハラリは示唆していると言えそうだ。

 以上で説明は終わり。数学ならQED(証明終わり)かな。

 結論から言うとこの箇所の柴田訳は誤訳。優良な翻訳家10人が訳しても10人とも誤訳する箇所です。英語のできる人ほどこういう文法工程指数の高い箇所はコンテキストを読んでごまかしてしまう、いやそうするしかないのです。変形生成文法の知識がなければアウトの箇所です。構文を変形生成文法で分析していないから、省略された目的語(corporation as legal persons) を補って読んでいない。だが瑕としては小さい。重箱の隅を突っつくようで申し訳ないので、これくらいにします。勘違いがあるといけないので、ここまで読んできた限りで、柴田氏の翻訳の品質は優れているほうだと思う、それがわたしの柴田訳に対する判断。

  大学院を受験するときにEric Roll"A history of economic thought
"(絶版)丹念に読んだが、隅田三喜男氏訳の『経済学説史』(有斐閣、1970年再版第5刷り・絶版)は文法工程指数の高い箇所の翻訳が文脈から類推して訳してあった。そういう箇所の半分くらいは的を外れていたが分量としては少ない。総じてみれば隅田氏の翻訳文は格調が高く名訳と言っていい、敬意を表したい。水田洋訳、アダム・スミス『道徳感情論』(筑摩書房、1973年刊・絶版)は読むに堪えない悪文であった。数頁読んだのみ、すさまじい悪文にゲンナリし、時間の無駄と判断した。後に他の訳者による翻訳が出ている。『諸国民の富』(岩波書店)は研究テーマに関係が深かったので、原書の方もいくらか読んだ。リカードの『経済学及び課税の原理』(東大出版会、1973年初版)も同様。
 大学院時代にアダム・スミスのMoral Sentimentを薦めてくれたのは鈴木信雄さん(千葉経済大学教授・社会思想史)だが、もちろんかれは原書で読んでいた。



 いい質問だった。生徒は文脈をちゃんと読んで柴田訳くらいは意味がわかっていた。話を聞いて、こちらから質問を投げてみたら、did が treat であることに気がついた。いくつか質問するだけで、自分の頭で考え、正解に手が届いている。生徒の成長に気がついた愉しい授業だった。問題の箇所のあとはスラスラ読めていた様子。34頁を読み終わったようだ。34頁は1ッか所だけ、柴田訳をみて「うまい訳だ!僕にはこんな日本語訳は思いつかない」と感心していた。生意気な高校生になった(笑)
 自分で訳すのに苦労した部分はプロの技のキレ味がよくわかるのだろう。

アメリカでは有限責任会社のことを、専門用語では「法人」と呼ぶ。これは皮肉な話だ。なぜなら、「corporation(法人)」という単語はラテン語で「身体」を意味する「corpus」に由来し、それこそ法人には唯一欠けているものだからだ。法人には本物の身体がないにもかかわらず、アメリカでは法人を、まるで血の通った人間であるかのように、法律上は人として扱う。
 アルマン・プジョーが、バネや鋸、自転車を製造していた金属加工工場かを親から相続し、自動車製造業に手を染める決断を下した1896年当時のフランスの法制度も、同様だった。彼はこの新事業を始めるにあたり、有限責任会社を設立した。そして自分の名字を社名にしたが、会社は彼から独立していた。製造した車の1台が壊れたら、買い手はプジョーを告訴できるが、アルマン・プジョーは告訴できない。会社が何百万フランも借りた挙句、倒産しても、アルマン・プジョーは債権者たちに対して、たったの1フランも返済する義務はない。つまるところ、お金を借りたのはプジョーという会社であって、ホモ・サピエンスのアルマン・プジョーではないのだアルマン・プジョーは1916年に亡くなったあ、会社のよーの方は、いまもなお健在だ。」柴田裕之訳、46ページ

<余談-1:株式会社制度と法体系>
 米国には連邦法と州法がある。法人が米国法体系にいつ規定されたのか、ネットで検索してみたがわからなかった。米国法体系で法人が規定されてから後に、フランス法体系に法人が規定されたという前提で訳した。
 調べた限りでは、米国自動車メーカで一番古いフォードは1903年創業で、デトロイトの投資家たちの出資による株式会社であった。よって、この時すでに米国には株式会社制度があったことは確認できた。GMがそれよりも遅く1908年創業である。
 日本で最初の株式会社(https://ja.wikipedia.org/wiki/株式会社_(日本))は1872年の第一国立銀行である。明治維新から5年後には商法が完備していて、株式会社が発足している。短期間によくこれだけの仕事ができたものだ。当時の日本人の資質の高さが窺い知れる。日本の会社法はドイツ法をベースにつくられているから、ドイツの会社法と株式会社(Aktiengesellschaft)の方が古い。
 株式会社として世界初のものは英国の東インド会社(1600年)であるが、英国法体系がいつ有限責任会社を法体系に取り込んだかは確認できなかった。国王の勅許によって成立したのだが、英国は伝統的に慣習法の国だから、法律として明文化されたのがいつかは、調べきれなかった。アダム・スミスは1776年に著した『諸国民の富』で経営と所有の分離が引き起こす問題に言及している。1776年は米国が独立宣言を発した年でもある。
*https://ja.wikipedia.org/wiki/株式会社
 このあたりの議論は法律史の研究者でなければ精確なところがわからぬ、どなたか投稿欄で教示してくれたらありがたく拝聴したい。

<余談-2:ある生徒のチャレンジ>
 この生徒は1/14から開始した英作文問題が52回、260題すでに消化している。メールで配信して翌日答えを確認して、解説している。週4回・各5問(20問/週)中身の濃い英作文トレーニング。6月末には400題を超えている。7月末頃には四六判で200ページを超える分量の英作文問題・解説の本の原稿ができあがることになる。大西泰斗先生のNHKラジオ英会話講座がベースだから、いままでにない視点からのユニークなものになっている。愉快な作業だ。どんな答えを書いてくるか、週に4日月火木金曜日の授業の冒頭10~15分間が英作文問題答え合わせと解説に費やされている。家で作文して、学校の隙間時間で推敲してくる、効率の良い英作文トレーニングだ。
 学校でこれから使う長文問題集にある18題全部を各問題15分で解き切るトレーニングをはじめたようだ。ワード数は400語前後。問題の解き方に慣れておかないと共通試験で95%の得点が確実にならないと考えてのことらしい。自分でしっかり考えて、チャレンジする、なかなかたくましくなった。
 リスニングは『Sapiens』の音声版がAmazonから出ているので、それで数ページを視点を変えながら繰り返しやることになっている。やり方は「KHシステム」流、どこかで具体的に書いた。
 数Ⅲ青チャートも独力でチャレンジ、全問絨毯爆撃だ。まだ十回程度しか質問が出ていない。微分がそろそろ終わりそう。新型コロナで5月いっぱい休みになれば、全部解き終わりそうな勢いだ。自力で読んで理解、そして問題を解く、数学も大学共通試験95%の得点をターゲットにがんばっている。物理は何とかなりそうだが化学が問題ありと言っていた。それも一つ手を考えているようす。根室高校の先生の協力を得ようとしている。コミュニケーション能力、交渉力を磨くいいチャンスだ。
 最近は作戦報告を聴き、頷くだけのことが多い。(笑)
 実質的にもうわたしの掌から飛び出しており、塾に来る必要があまりなくなった。ニムオロ塾の最終目標、自分の頭で考え、判断ができるという領域に到達してしまっている。まあ、暇つぶしに来るといい。わたしと会話しながら、Sapiensを読んだり、数Ⅲの問題を解いている。マルチタスク型だ。小5の1月4日からの勉強スタイルだから、マルチタスクがあたりまえになっている。わたしに忖度せずに自分の意見をハッキリ言う、ストレス発散になるのだそうだ。面白い生徒だ。

<余談-3:懐かしい生徒>
 東京では塾の専任講師として働いたのは大学院へ通っている間だけだったが、自閉症だったのでお母さんから頼まれて塾をやめたあとも毎週土曜日に長い期間個別指導した生徒が一人だけいる。口数の少ない手先の器用な子だったからいい職人になれそうだと思った。新宿駅から歩いて5分のマンションの13階の一室で教えていた。「使っていない(物件な)ので自由にお使いください」と母親から鍵を渡された。そのころわたしは、すぐ近く、西新宿のNSビル22階、SRL本社で働いていた。
 その生徒は医療分野の職人、整形外科医になった、整形外科を選んだところがうれしい。器用だが指が太かったから脳外科や心臓血管外科よりも整形外科が向いていたのだろう。どうして整形外科を選択したのかは知らない。
  2012年ころだったかな、どこで医者をしているのかなと彼の名前を検索したらある病院のホームページに整形外科医として載っていた。しっかり仕事している。
 授業の合間に極東の町の地域医療の話を良くしたが、高校生になって医学部へ進学したいと本人が言い出した、うれしかった。素直でまじめに努力できる生徒だった。中学生の時に仲良くしていた同級生が左折してきたトラックに巻き込まれて亡くなった。当時はずいぶん落ち込んでいた。自閉症からかなり抜け出してきたころで人と普通に会話できるようになっていたが、心を許せる友達は少なかったはず。天はこの子になぜこんなに辛い試練を与えるのかと思った。まさか医者になると本人が言い出すとはわたしも、ご両親も、本人すらもその時は思っていなかった。目標を自分で選んだ人間は強いものだ。人の心の痛みのわかる優しい医者になっているのだろう。


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#4237 Sapiens (25) : p.33 April 29, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

 武漢コロナウィルス感染症で世の中が騒がしい。「これから2週間が山場です、行動の自粛を願います」という言葉を総理大臣や東京都知事や道知事から再三聞かされてきたが、4月も終わろうとしているのに、まだ同じことをアナウンスしている。じきににっちもさっちもいかなくなる。GDPは50兆円減ると3月下旬に書いた、リーマンショックどころの話ではない。500兆円前後ある上場企業の内部留保も赤字計上続出で数十兆円規模で消滅する。2年続けば飲食業界や観光業界、鉄道や航空業界のなかでどれだけの企業が生き残れるのか。死者は300人を超えただけ。秤にかけたらいい、事の重大さに気がつき、さっさと経済活動を再開することになる。
 こういう時は普段読めなかった本をじっくり眺めるに限る。

 先週の授業では日本語訳に窮した個所と、「何言っているのかわかりません」という箇所が一つだけあった。

<32.3> Peugeot belongs to a particular genre of legal fictions called 'limited liability companies'. The idea behind such companies is among humanity's most ingenious inventions. Homo sapiens lived for untold millenia without them. During most of recorded history property could be owned by flesh-and-blood humans, the kind that stood on two legs and had big brains. If in thirteenth-century France Jean set up a wagon-manufacturing workshop, he himself was the business.

ingenious:very clever and skilful, ro cleverly made or planned and involving new idea and method


 'limited liability companies'すなわち有限責任会社の説明をしている個所である。「人間が生みだした至高の発明」と「数えきれない千年祭」をどのように訳すかだが、訳者の柴田さんのこの部分の語彙の選び方がいい、「さすがプロだ」と生徒は感心しきりだった。この部分の訳を引用するので、プロの技を味わってもらいたい。themは'limited liability companies'であることは言うまでもない。
 もう一つ、the businessの箇所が引っかかったようだ。定冠詞がついているところが味噌。businessには「商売・仕事・職業・事業・実務」などたくさんの訳語がある。プジョーは19世紀末にガソリンエンジン車の製造会社として世に現れたのだが、それが13世紀フランスで荷馬車の工場をはじめていたら、ジャン自身が事業だった、つまり法人としての有限責任会社ではなくて、ジャンが個人的に無限責任を負う事業であらざるを得ないということ。事業の失敗はジャン自身の失敗となる。「ジャン=事業」であってこれらを切り離すことはできないのである。
 個人事業に関しては、日本はまだ「13世紀フランスのまま」だ。個人事業をしていると、それが株式会社であっても、借用書には個人の資産を担保にしなければ借り入れができない。だから、会社が破綻すると、それは代表取締役の破滅となる。不動産も有価証券も何もかもを失うケースがあたりまえのようにある。連帯保証という制度が経営者をさらに追い詰めることになる。自分の破産は連帯保証人の破産となるケースが多い。自殺が多くなるのはそういう特殊な制度を残しているからだ。連帯保証は本質的には江戸時代の「五人組制度」そのもの。こういう制度を残存させているので、日本の若者たちの起業の足かせになっているように思えてならない。

プジョーは法的虚構のうちでも「有限責任会社」という特定の部類に入る。このような会社の背景にある考え方は、人類による独創的発明の内でも指折りのものだ。ホモサピエンスは、有限責任会社なしで幾千年、幾万年とも知れぬ月日を暮らしてきた。有史時代のほとんどの期間、資産を所有できるのは生身の人間、つまり二本の足で立ち、大きな脳をもった種類の人間に限られていた。もしプジョーの創業者一族のジャンが13世紀のフランスで荷馬車製造工場を開設していたら、いわば彼自身が事業だった。」柴田訳

<33.2> This is why people began collectively to imagine the existence of limited liability companies.  Such companies were legally independent of the people who set them up, or invested money in them, or managed them.  Over the last few centuries such companies have become the main players in the economic arena, and we have grown so used to them that we forget they exist only in our imagination.  In the US, the technical term for a limited liability company is a 'corporation', which is ironic, because the term derives from 'corpus' ('body' in Latin)ー the one thing these corporations lack.  Despite their having no real bodies, the American legal system treats corporations as legal persons, as if they were flesh-and-blood human beings.


 質問のあったところはアンダーラインを引いた箇所である。何を言っているのかわからないというときは、周辺知識がないか、英文が理解しきれないとき、今回は、さてどちら?


Over the last few centuries such companies have become the main players in the economic arena, and we have grown so used to them that we forget they exist only in our imagination. 


 スラッシュを入れて頭から訳してもらったら、'so used to them that'の箇所に問題があった。themはcompaniesである。
  used to them(会社に慣れる)
「過去数世紀にわたってこのような有限責任会社が経済の舞台で主役であり続け、わたしたちはそういう中で育ってきたので、すっかり会社というものに慣れてしまい、有限責任会社というものが想像の中にしか存在していないということを忘れてしまっている」


 有限責任会社の代表例は株式会社である。それは法的な虚構のなかであたかも人格をまとっているかのように存在している。モノを購入し、人を雇用し、製品を製造し、販売して利益を上げ、株主に配分する。飽くことのない拡大再生産を続けることで企業は成長してきた。
 ハラリは現実の経済社会に存在している株式会社を、個人と対比しながら法的な人格である法人の歴史的特異性を明らかにして見せてくれる。

だからこそ、人々は有限責任会社の存在を集団的に想像し始めた。そのような会社は、それを起こしたり、それに投資したり、それを経営したりする人々から法的に独立していた。その手の会社は過去数世紀の間に、経済の分野で主役の座を絞め、ごく当たり前になったため、わたしたちはそれが自分たちの想像の中にのみ存在していることを忘れている。アメリカでは、有限責任会社のことを、専門用語では法人と呼ぶ。これは皮肉な話だ。なぜなら「corporation法人」という単語はラテン語で「身体」を意味する[corpus]に由来し、それこそ法人には唯一欠けているものだからだ。法人にはんものの身体がないにもかかわらず、アメリカでは法人を、まるで血の通った人間であるかのように、法律上は人として扱う。」柴田訳


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