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#4154 Sapiens: page 14, 15, 16 Dec. 20, 2019 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

 生徒がインフルエンザA型に罹患して先週は原書講読授業はお休みだった。3年生の明大受験の人が、このシリーズ利用してくれていたらうれしい。
(番号は整数部が頁、小数第一位が段落番号を示す。段落番号が0になっているのは、前頁からの続きの段落であることを示している。)

<14.3>  Despite the benefits of fire, 150,000 years ago humans were still marginal creatures.  They could now scare away lions, warm themselves during cold nights, and burn down the occasional forest.

 この文のoccasionalをどう訳したらいいのかというのが生徒の質問である。'the forest'という名詞句に挟まっている、もちろん形容詞だが、そのままでは日本語にならない。「時折森」では意味をなさぬ。
 スーパーアンカーに次の用例が載っている。
 She enjoys the occasional glass of champegne. (彼女は時おりシャンペンを飲むのを楽しみにしている)
 名詞を修飾する形容詞だが、日本語にするときには副詞的に訳せばいいということがわかる。
 「15万年前の人類は時おり森を焼くことができた」
 英作文する側から考えると、どうして次のように書かないのだろうと疑問がわく。
  She occasionally enjoys the glass of champegn.
 この文では「時折楽しい」となってしまう。occasionalのほうだとグラスでシャンペンを飲むのが時おりで、そうしたシーンはいつも楽しいということになり、意味に違いが出る。


 文の構造は次のようになっている。
a) They could now scare away lions
b) (They could now) warm themselves during cold nights
c) (They could now) burn down the occasional forest

  スラッシュリーディングする場合は、瞬時にこうした文構造を見抜かなければ、適切な個所にスラッシュを入れられないし、入れたとしても意味のつながりが読み取れない。だから、こういう文構造を読み取るトレーニングは、読書速度を上げる必要条件である。

「火の恩恵にあずかってはいたものの、15万年前の人類は、依然として取るに足らない生き物だった。いまやライオンを怖がらせて追い払い、寒い晩に暖をとり、ときおり森を焼き払うこともできた」柴田訳26頁


<15.0> Our own species, Homo sapiens, was already present on the world stage, but so far it was just minding its own business in a corner of Africa.

 太字にした3か所が引っかかって意味がとれなくなったという。27語の文で3か所で引っかかるとお手上げになるというのは、だれでも遭遇することだろう。カンマがやたら入った文章も、たくさん読んでいなければ読みにくいものだ。
 presentは形容詞である。『スーパーアンカー』から用例を引こう。
  Tests showed unusual level of radiation are presnt in the patient. (検査によるとその患者の体内に異常なレベルの放射能が存在することが分かった)

 present:~存在する
 挿入句と副詞を取り除くとこんなに簡単になる。
 Our own species was present on the world stage.
「わたしたち自身の種は、世界の舞台に登場していた」
 [present on the world stage]という風に、動詞句は前置詞句や目的語とセットで、つまり意味の塊でとらえることができたらいいのである。たくさん読むことで、次第に慣れます。

 [but so far]を一塊の熟語だと思い込んでしまった。[but+so far(それまで)]ということに気がつけばなんてことはないのだが、… 前の部分でpresentに引っかかったので、頭が真っ白、考える余裕がなくなったということ。平常心で読もう。

 mind:①嫌がる、②気をつける、③...の言うことを聞く、④~の世話をする
 ④の意味を知っている高校生は少ないだろう。「知っている訳語で意味が通らなければ、辞書に訊け」、それで、④の意味のあることが分かったら、①~④まで共通しているのは何かを考えてみよう。「そこに心をとめる」というのが原義だと見当がつく。

 ,but so far it was just minding its own business in a corner of Africa.
 (だがしかし、それまでホモサピエンスはアフリカの片隅で自分自身の仕事の世話をするだけだった)

 15万年前、ホモサピエンスは生態系の頂点にはおらず、捕食者におびえながら、自分の身の安全や食糧確保に精いっぱいという暮らしを送っていたのである。生態系の頂点に駆け上るなどということは夢想だにできなかった


「わたしたちの種であるホモサピエンスは、すでに世界の舞台に登場していたが、この時点ではまだ、アフリカ大陸の一隅で細々と暮らしていた」…柴田訳

<15.2> When Homo Sapiens landed in Arabia, most of Eurasia was already settled by other humans.  What happened to them.  There are two conflicting theories.  The 'interbreeding Theory' tells a story of attraction, sex, and mingling.


 質問はアンダーラインを引いた部分が日本語にしにくい、どうさばけばいいのかということだった。
「交雑説というのは、ホモサピエンスと他の人類種がお互いに魅力を感じ、セックスして、交雑するということ。」
 そのまま直訳したら、こなれた日本語にならないから、日常使うようなレベルの日本語で作文するとこうなる。高校生にこのような訳はできなくていいよ。だけど、名詞を動詞であるかのように訳せば、こなれた日本語にできるケースがあることは、記憶にとどめておいてもらいたい。
 書き足すと次のようになる。
 a story of being attractive each other, having sex and mingling
 これを、名詞句に置き換えたものがハラリの書いた文章である。それぞれの動詞句の主語はサピエンスと他の人類種であるから、それも読み取らなければならない。原文自体がずいぶんと圧縮されているので、和訳の字数を同じくらいに収めようとしたら、わかりにくい文章にならざるを得ない。こういう文章を生成文法では文法工程指数の高い文章という。
 ところでattractionとsexとminglingは時系列に並んでいる。お互いに惹きつけ合い、番って、溶けて一体化してしまう、遺伝子レベルで一つになってしまうということ。実際に、わたしたちサイエンスの遺伝子コードにはネアンデルタール人の痕跡がある。

 翻訳者の柴田さんは次のように訳している。
「ホモサピエンスがアラビア半島に行き着いたときには、ユーラシア大陸の大半位はすでに他の人類が住していた。では、彼らはどうなったのか?それについては二つの相反する説がある。「交雑説」によると、ホモサピエンスと他の人類種は互いに惹かれ合い、交わり、一体化したという。」

<15.4> ( Archaeologists have discovered the bones of Neanderthals who lived for many years with severe physical handicaps, evident that they were cared for by their relatives.)
  Neanderthalsare often depicted in caricatures as the archetypical brutish and stupid 'cave peopel', but recent evidence has changed their image.

 質問はアンダーラインを引いた部分の意味が分からないということ。構文が瞬時につかめていない様子。慣れるしかないのかな。文構造は次のようになっている。
a) Archaeologists have discovered the bones of Neanderthals
b) (Archaeologists have discovered) evident that they were cared for by their relatives


 もっと簡単にすると
 Archaeologists have discovered the bones and evident
「考古学者たちは骨と証拠を発見した」
 whoで始まる関係節は、先行詞the bones of Neanderthalsの補足説明である。間に余計なものが挟まって、文が長くなるととたんにうろたえるように見える。こうして何度もさまざまな飾りがついたり、挿入句のある文章をたくさん読むことで、瞬時に大くくりで文の構造を見抜くことに少しずつ慣れてもらいたい
。頭の中で適切な個所にスラッシュを入れながら、文章を先頭から高速で読むには必要な修業である。そのためのトレーニングが原書講読講座である。
(2時間の授業で、英文を視写し、日常使う言葉へ落とした和訳をノートに書きながらやらせているので、ようやく1ページ処理できるようになった。8月から始めたから6か月かかっている。この生徒は10月の英検2級に合格している。次の段階はレベルBの文章だけ、和訳を書かせるので、2時間で3頁の速度を期待している。4月ころにそうなるだろう。)

<16.1>  The opposing view, called the 'Replacement Theory', tells a very differnt story-- one of incompatibility, revulsion, and perhaps even genocide.  According to this theory, Sapiens and other humans had different anatomies, and most likely different mating habits and even body odours.  They would have had little sexual interest in one another.


  'one of incompatibility'を「不一致の一つ」としてしまった。1970年代後半はIMB互換機(コンパチブル)か非互換機(インコンパチブル)かで、国内コンピュータメーカが迷った時期である。懐かしい用語だ。受験生は「one of them」という型が頭に浮かんでしまうので、他の可能性が見えなくなる。oneは一つではなく、'a very differnt story'を受ける不定代名詞である。不定代名詞oneの用法を中学校では説明しない先生が多いようだ。受験英語に慣れると、こういう風に思い込みが入ってしまい、虚心に文章を眺めることができずに、デッドロックに乗り上げる。compatibilityは「両立」「並存」であり、否定辞'in'があるから「両立できない」「並存できない」が適切。サピエンスと他の人類種が共存できないと「交代説 Replacement Theory」は主張しているのである。
 なんとなく訳していたのでは、上達がおぼつかぬ。この生徒は、草をつかみ地べたを這いながら急な上り坂を登りつつある。きついけど、楽しいだろうな。
「サピエンスと他の人類種が共存できず、激しい憎悪をお互いに向け、おそらくは大量虐殺さえもなされたという物語」
 「物語」は「交代説」のほかに、先に見たように「交雑説」があるから、不定冠詞 'a' がついている。読む(黙読する)ときも、声に出して音読するときにも、リスニングのときにも冠詞の有無に細心の注意を払ってチャレンジしよう。意味がまるで違ってしまうからだ。

 次の問題はアンダーラインを引いた部分である。mostはlikelyを強調する副詞だから、「ほとんど」と訳してはいけない。「most people」のような形容詞ではない。シンプルセンテンスに書き直すと次のようになる。
a) Sapiens and other humans had different anatomies,
b) (Sapiens and other humans had) most likely different mating habits and even body odours.


a) サピエンスと他の人類種は解剖学的構造が異なる
b) サピエンスと他の人類種はつがう習慣や体臭さえもおそらくかなり異なっていた

 同一主語だから、後に続く文の方では主語が省略されただけのこと、簡単でしょ。文章が長くなると案外気がつかない。わたしが英文を読むときには、ほとんど無意識に補って読んでいる。

 受験英語に慣れるとこういう箇所で'be likely to do'が頭に浮かび「…しそうである」「…ありそうな」という訳語を振り払えない。ここでは「たぶん、おそらく」という意味である。『スーパーアンカー』には次の用例がある。
 Most likely it is true.(十中八九それはほんとうだろう)
 "most likely different mating habits"は「十中八九つがう習慣が異なっている」であるが、それは具体的に何を指しているのだろう?言及がない。
 サルと人間を想起してみたらどうだろう。わたしたちはサルとは番(つが)わないし、番いたいとも思わない。つがう習慣どころか生活習慣も食習慣も知能も異なる。サルと一緒に暮らして子どもをつくろうとする人間はいない。実際に、番ったところでこどもはできない、それほど生物学的に違ってしまっている。「交代説」は生物学的に子どもができないほど、あるいはロバと馬の子であるラバが生殖能力を失い子孫を残せないように、たとえば、サピエンスとネアンデルタールの間に子ができたとしても、子孫を残せず死に絶えたと考えるのである。
 'body odours'は体臭である。体臭はセックスに強い関係がある。犬や猫は盛りがつく時期になると、メスの局部の匂いを嗅ぐ、匂いの中にフェロモンが混じっているからだろう。匂いはオスとメスが番うときに重要な役割を演じている。人間のメスが香水をつけるのもそういうことである。自分が自然に発する匂いだけでは足りない、もっと強烈なフェロモンを振りまき、優秀なオスと番って、優秀な子孫を残したいという、生物としての根源的な欲求に根ざしたものだろう。
 あなたは、女性とすれ違ったときに、昔いとおしいと思った人と同じ香水が鼻先をかすめたら、はっとしたことはありませんか。女性の場合なら、男性の整髪料の香にハッとしたことはありませんか。本能に近い部分である嗅覚が生殖行動に及ぼす作用は数万年単位ではかわらないようです。


<この節のタイトルについて>
 ところで、この節のタイトルは「Our Brother's Keepers」であるが、'keepers'を「番人」と訳した人はいないだろう。意味がちんぷんかんぷんになるから、それではいけないことには大方の人は気がつく。この授業の生徒もその中の一人だった。だから、質問が出た。
「先生、この節のタイトルの意味がわかりません」
 そこで、解説しながらヒントをだして、思考を促す。
 'our brother's'はわたしたちの兄弟だから、他の人類種のことだ。ソロエンシス、デニソワ、ネアンデルタールやフローレンシスなどのこと。
「keepの原義は「保存する、維持する」だから、原義に戻って考えてごらん、そして辞書をもう一度引いたら見当がつくよ」

と言ったら、すぐに見つけた。-erがついているが、人ではなくてモノなのである。受け継がれ維持されてきた価値のあるもの、遺伝子と言い換えてもいい。「われわれサピエンスの中にある他の人類種の痕跡」と翻訳した。翻訳者の柴田さんも、ここは考えたようだ。例によって、出版側からの字数制限の要求を満たすために次のようなタイトルを付している。
 柴田訳 「兄弟たちはどうなったか?」

 急所をとらえた訳だが、もうすこしやりようがあったのでは?
 全体に訳文に硬さがあるのは、ハラリの書いている文自体が硬いからだ。もう少しほどいて訳したらずっと読みやすくなる。要所要所でほどくだけだから、2割ページを増やしたらなんとかなりそうである。ところどころ、ほどいて書いた。解説部分でそういう処理をした訳文を例示しているつもりである。

 16頁まで終わった。本人の弁だと「だいぶスムーズに訳せるようになってきました」という。読み慣れてきたことはたしかである。今年の原書講読授業はこれで終わり、来年は1月16日がサピエンスの授業の初日になる。

<英作文トレーニング>
 カタカナで書くときには「リテラシー」と書くようだが、音はリタラシー(literacy)である。読み書き能力、識字能力のことであるが、Sapiensを読むのは「読みのスキル」を磨くためで、先週から、書く方のトレーニングも始めた。毎回テーマを絞って5題、英作文を課している。昨日は名詞の単数複数、冠詞のあるなしに絞った問題だった。
(コンピュータ関連で「リタラシー」というときは、コンピュータの基礎的運用能力を指している。)
 英作文トレーニングは週に4回の頻度だから、月に80題である。たくさん書けば書けるようになる。さて、問題のつくりがたいへんだから、大西泰斗先生のNHKラジオ英会話テキストを利用させてもらっている。掲載してある文例から選ぶと、その都度ピントを絞った質の良い英作文演習ができる。昨日は5題に15分かかった。1月が終わるころには10分でやれるだろう。3月末までには5分で5題にペースアップするつもり。それまでに200題以上やることになる。1年間で1500題くらいが目標値、受験には十分な量だ。
 どこかで、読みのスキルと書きのスキルの相乗作用が生じることを期待している。




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