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重複組合せ公式の説明に窮する [57. 塾長の教育論]

重複組合せ公式の説明に窮する

 夜9時過ぎの気温は昨日は14度、今日は4度、寒暖の差が激しい。膨らみかかった桜のつぼみも夜の寒さに震えている。

 一昨日届いた本は『起きてから寝るまで口慣らし練習帳』、西蔭浩子著『英語が伝わる100のツボ』、佐々木高政著『和文英訳の修業』、『数学を決める論証力』の4冊だった。春だから受験や授業に使えそうな本を20冊ほど冊注文し、片っ端から目を通している。生徒個々人のニーズやレベルに最適な教材を選ぶにはふだんの労力を惜しまぬことだ。

 佐々木高政の著作は初版が昭和24年だ。最新のものは昭和55年の4訂版である。格調の高い本だ。「テレビ受信機」などの用語例が見られるので時代のずれを感じる部分が散見されるがさしたる欠点ではない、「風雪に耐えて残った」証拠でご愛嬌だ。展開されている英文構成法の論理は優れもので受験参考書の域を超えている。ひとつの例文に3つも4つも英訳をつけて解説している。おそらく初版から優れものだったうえに、著者が渾身の改訂を5回も繰り返したから実によい本に仕上がっている。受験生のみならず英語の勉強をやりなおしたい社会人に薦めたい。

 さて、本題である。数日前に生徒から重複組合せに関する質問があり、公式を使わない説明をしておいた。組合せが50までなら力仕事になるが短時間で答が出せる。しかし、組合せの数が大きくなるとこの方法は使えない。公式を利用せざるを得なくなる。公式に納得の行く説明が見つからなかったから、授業では原理・原則に遡って組合せを全部数え上げる解法を例示した。
 少ない人数で個別指導をしているから、同じ授業時間中に数Aの受験レベルの問題集をやっている者、数Ⅱの問題集をやっている者、数Bをやっている者などさまざまで、同じ問題集でもやっている箇所が違う。学習速度はばらつきが大きい。学校から出された週末課題の質問をする生徒もいる。個別指導は生徒の質問が多くて退屈することがない。その場で「名案(迷案?)」が浮かばないときには次回まで「質問を預る」こともあり、そうした時間も楽しい。一緒に考えている実感がある。

 重複組合せの説明を手元の受験参考書、たとえば『大学への数学A』42頁(研文書院)では、関連する二つの集合の要素の間に1対1対応がつくことからnHrn+r-1Crに等しいという説明をしている。やり方が違っているが、塾用問題集も同じ論理に基づいた解説だった。この説明ですんなり納得のいく高校生はマレだろう。現に能力別に分けられた"the first class"の生徒が問題集に載っている解説を見て、「さっぱりわからない」という。
  『佐藤の数学教科書[個数の処理・確率編]』でも重複組合せを136ページで取り上げているが、nHrがなぜ出てくるのかの説明がない。いきなり公式の計算トレーニング問題から入って、その使い方のみ。公式がどのように導かれるのかが気になる生徒の期待にはこたえてくれない。
 もともと重複組合せは高校の学習指導要領の範囲外だから、受験参考書には抽象的でおざなりな説明があるのみのようだ。
 そこで受験参考書ではない本で探したら、
松坂和夫著『数学読本4』(岩波書店)707~709㌻に適当な説明が見つかった。重複順列と既知の組合せ公式から演繹的に重複組み合わせの公式を証明したものだ。これならわかりやすい。重複順列の公式が承認できれば、nCrの変形操作のみで重複組合せの公式が導き出せる。公理的演繹による論理展開=証明は(『資本論』)経済学体系ではおなじみの方法で、私の好みに合う。もちろん最古の数学書であるユークリッド『原論』も公理的演繹体系である。松坂和夫先生の証明は既知の公式を利用して変形操作をするだけなのでいたってシンプルである、とりもなおさず生徒が理解しやすいということだ。

 重複組合せの解説を調べてわかったが、受験参考書は解法のテクニックに焦点を結んでいるようだ。生徒の好奇心に応え、しっかりした数学能力を育むには受験参考書以外の数学書がいい松坂和夫先生の数学読本シリーズは6冊ある。中学・高校数学から大学教養課程での数学の橋渡しをする目的で丹念に定理の証明を解説している。1冊3000円弱だから正月のお小遣いで買うといい。できれば全巻そろえることを薦めたい。索引が第6巻に載っているのでこれがあったほうが好奇心がわく都度、当該箇所を調べられる。このシリーズは2冊ばかり一時期品切れになったことがある。良書でも絶版になる本が多いので、数学が好きな生徒は手に入る今のうちに買っておくべきだ。お父さん・お母さん、買ってやってくれ社会人になってからも数学と英語は必要だ。このブログでも具体例を何度か書いた。文系の生徒にこそしっかりした数学の素養が必要で、社会人になったときに数学のできる文系出身者には面白い仕事がたくさん待っている
 
 質問をした生徒には重複組合せ証明の大まかな道筋を説明をして、コピーを渡した。
 「ゆっくり読んで、丹念に論理を追ってごらん。その上でまだわからないところがあればこの次に説明しよう」
 材料を投げて、思考が深まるのをじっくり待つ、生徒の成長を確認できる楽しいひと時だ。たまらない至福のときだ、ふるさとに戻り私塾を開いた喜びを実感できるときだ。酒の発酵をみまもる杜氏の気持ち…に似ているだろうか。いい酒になるかな?

 2009年5月1日 ebisu-blog#566
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/522 days(5月1日23時10分


OPD ピクチャー・ディクショナリー [57. 塾長の教育論]

OPD ピクチャー・ディクショナリー
 
 オクスフォードから標題の"The Oxford Picture Dictionary"(絵で見る辞書)が発売されている。
 モノリンガル版とバイリンガル(日・英)版があり、前者は前から持っていたが、授業の材料に使いたいと思ってバイリンガル版とワークブックをamazonへ発注し、昨日届いた。もう一冊注文してある"Classic Classroom Actibities"は在庫が切れていて5月半ばの予定だ。

 今日の授業は数学だったが、中2の生徒二人に見せた。
「先生、これ面白い!」
 食いつきがよかった。もともと数学が得意で英語には尻込みしていた二人だが、このところ英語に興味がわいている。
 バイリンガル版だと英語の下に日本語が明るいブルーで印刷してあり見やすいので、中学2年生なら読める。

 たとえば時間に関する表現が18ページにある。それぞれの時刻を指した時計の絵の下に次の句が載っている。絵と一緒だから理解しやすいし記憶に残りやすい。
   1:10 one-ten, ten after one
   1:15 one-fifteen, a quarter after one
   1:20 one-twenty, twenty after one
   1:30 one-thirty, half past one
   1:40 one-forty, twenty to two

  数学の時間にちょっと脱線し、これらの句を材料に黒板に時間表現を書き並べて解説すると生徒は喜んでいた。英語があまり得意でない生徒にはこの程度で十分楽しいようだ。
 絵と一緒に語彙が載っているので、日常使われる表現に関するフレーズが場面と共に記憶に定着しやすそうだ。採り上げられたシーンに関わる質問、場面を説明するショート・ストーリ、そして"Think about it"がセットになって載っている。おおよそ150シーンくらいもある。
 こうした材料がたくさん載っているので、毎週テーマを決めて小出しに使ってみたい。1年間にわたって採り上げたテーマと生徒の反応の観察記録をとれば私も楽しい。
 どういうテーマをどのように採り上げればどのレベルの生徒に効果があるのだろう。一人ひとりにもたせて授業をしてみるのもいいだろう。
 「英文解釈中心の伝統的な英語教授法」にOPDを材料にした「アクティブ・アプローチ」を織り交ぜて、生徒の反応をみよう。

 もうひとつ偶然が重なった。Hirosukeさんのブログを先ほど見たら、PDを優良書籍の筆頭に上げている。彼のブログのアドレスを載せておくので興味のある人は見て欲しい。
 CD-ROMがいいとHirosukeさんのブログにある。広告を見る限りではトムソン・ハインリーのものが優れている。しかし、私が使って確認したわけではないので、インタラクティブCD-ROMの内容は以下のアドレスをクリックして判断して欲しい。録音された声と自分の声が比較できるようだ。 
  https://www.espritline.co.jp/order_form_one/order_form_one.php?act=entry&ad_id=227087&
    http://tada-de-english.blog.so-net.ne.jp/2009-04-26-1
   http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4889962204/tadadeenglish-22/ref=nosim

 2009年4月30日 ebisu-blog#564
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/521 days(4月30日0時10分


第3回全国学力テスト実施(4月21日) [57. 塾長の教育論]


 今日(4月21日)日本中の小中学校で学力テストが実施された。小学6年生と中学3年生が対象である。生徒の学習習慣などについてのアンケートも集められた。

 昨年実施の学力テストの結果では、北海道は全国47都道府県中44位である。ビリから4番目、そして北海道14支庁管内で根室管内が最低であった。だから、根室の子供たちの学力は全国最低レベルということになる。根室人の一人としてこのような事実は受け入れがたい。

 前回のブログでも書いたように、国公立大学の合格者が20名と近年稀に見る実績をあげて喜びにわいており、根室高校の先生たちすら中学生の急激な学力低下の事実をまだ知らない。まるで「裸の王様」ような話しが現実の根室で起きているように私には見える。
 高校の進学実績は中学校が優秀な生徒たちを育て上げた上に築かれるが、そのベースが急激に瓦解しつつある。
 先週行われた学力テストで市街化地域の三校のうち、5科目500点満点で400以上がゼロの学校が出ているこのような現象はかつてなかった今春高校を卒業していった生徒たちが中学生のころはその学校では400点以上が26人前後いた。このままでは数年後の進学実績はどうなるのだろう

 学力向上のためには全国学力テストの結果公表が不可欠である。根室市教委も市長も市議会も、根室の子供たちの学力を向上させたいと切実に願っているだろうから、すみやかに学力テスト結果に関する情報を公開し、叡智を集めて効果的な具体策を実施するだろう。
 全国最低レベルという学力の現状をこのままにしておいてよいなどという不心得者は一人もいるまい、いや、いてはならぬ。

 2009年4月21日 ebisu-blog#562
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/512 days(4月19日23時40分

根室高 進学指導が成果 国公立大に20人 [57. 塾長の教育論]

根室高 進学指導が成果
 今春、国公立大に20人

 根室高(小野章校長、583人)が力を入れる進学指導が、しっかり実を結んでいる。今春は卒業生197人のうち、20人が東北大や北大など難関の国公立大に進学した。手厚い進学講習が奏功した結果で、教諭たちは「一人でも多く、地元から難関大学に合格させたい」と意気込んでいる。       4月18日付け北海道新聞26面より

 7時から数学の「朝講習」をやったり、三年生の進学志望者26人が「勉強部」を結成したりとにわかに活気付いている。けっこうなことだ。

 実績を見ると旧帝大への合格者は2名、東北大と北大である。小樽商大、釧路公立大、札幌市立大、北海道教育大、北見工業大学、室蘭工業大学、山形大、弘前大など地方国立大や公立大合格者が18名いる。

 この学年が中学生のころは、啓雲中学と柏陵中学が学力テスト400点以上が両校併せて50人を超えていた。光洋中学を加えると市街化地域の中学校3校で学力テスト400点以上が65人いた。野球部で部活をやりながら学年トップの生徒もいた。よくできた学年だったといえる。この7年間では最高だったろう。来年度以降も期待できるのだろうか?

 さて、新学期になって学力テストがあった。市街化地域の3校のうち1校の「得点通知表」が配られたが、ある学年で5科目500点満点で、400点以上がゼロである
 他の2校も5~6年前に比べ、400点以上の高得点者が半分から3分の一に減少している市街化地域3校の学年全体で400点以上の高得点層はわずかに20~25人である。根室高校の先生たちはまだ中学生の急激な学力低下の事実に気がついていないだろう。
 それにしても、わずか5~6年で中学生の学力がこれほど落ち込んだのはどうしてだろう。

 北海道は全国47都道府県中44位の学力であり、根室は北海道14支庁管内で最下位である。そしてこの数年間、中学生の学力が急速に落ちている
 道立高校入試に照準を合わせているから、中学校で実施している学力テストの問題の難易度は低い。それでも点数が取れない。

 首都圏では私立中学受験の関係から、成績上位の生徒の大半が個別指導の進学塾へ通い、国語と算数に力を入れて勉強している。だから、国語と数学の能力が高くなる傾向がある
 これに対して根室の地域的な特徴は小学生の英語学習熱だ。子供というより親が望んでいる。前々回のブログで紹介したが、言語修得期に英語を学ぶことの危険性をフィールズ賞受賞数学者である小平邦彦が30年も前に指摘している物理的に考えても、勉強時間の大半を英語に費やしたら、算数や国語の能力の発達の妨げになることはあたりまえのことだろう。体やある種の能力は伸びる時期がある。発達時期を逃すとその能力は成長せず低いままになりはしないだろうか。
 大学入試制度がこの40年間で大きく変わったので、得意不得意に関わらず数学が必須の入試科目になっている。国語と数学で高得点できなければ受験に失敗する、それが現実である。

 小学校のうちに、友だちと外で遊び、たくさん本を読み、そして文章を書き、基礎計算を際限なく繰り返すことこそが、中学・高校・大学で学力を伸ばすために必要なことだろう

 現象としては、中学1年生で分数の計算や小数の乗除算がきちんとできない生徒が増えている。今では約40%もそうした生徒が中学1年生にいる
 小学低学年で2年間ぐらい珠算を習わせて欲しい。そうすれば基礎計算力に問題のある生徒は5%程度に減らせるだろう
 日本人の数学能力が図抜けて高かったのは、珠算が盛んだった時期と重なっている。計算オリンピックがなかったのでわからないが、江戸時代の日本人の庶民の計算力は圧倒的に世界一だったろう。珠算は基礎計算力を高める。基礎計算力は高校数学でも重要だ。

 小学校でも珠算教育を復活させて欲しい。学校教育、両親の教育への考え方、塾の指導方針などがかわらなければならない。小学校で大切なのは「読み書きそろばん(基礎計算力)」である。
 一番大事なのは両親の教育に対する考え方だ
 ①小学校低学年では国語と算数の基礎能力を伸ばし、健全な学習習慣の芽を育てる。
 ②小学校高学年では国語と算数の基礎力を堅固なものに築き上げ、毎日1時間の家庭学習習慣を育む。加えて、文庫本で日本文学作品を読み始め、読書習慣を育てるべきだろう。
 
 小学生のうちに何をやらせて何をやらせないか、そしてどのような家庭学習習慣を育むか中学生になったらどういう能力を育てるべきか、そうしたひとつひとつの具体的な事柄が問われている。どのような教育方針の下に自分の子どもを育てるべきか、子供たちの一生に少なからざる影響があるから親はトコトン考えるべきだ。

 いまのままでは根室の子供たちの学力の地盤沈下がとまらない。
  第3回統一全国学力テストは4月21日に実施される。根室の学力向上のために根室市教委も市議会も市長も結果の公表へ動いてもらいたい。 

 2009年4月19日 ebisu-blog#561
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/510 days(4月19日15時10分


#559 フィールズ賞受賞数学者小平邦彦の教育論 [57. 塾長の教育論]

フィールズ賞受賞数学者小平邦彦の教育論

 Hirosukeさんのブログ、楽しく読んでいます。イチローは努力の天才、英語も同じこと、見ようと思えばあちこちにお手本が見つかる。

 今日は数学者の教育論を紹介したい。ひとつは小平邦彦が三十余年前に書いた「初等教育論」である。戦後まもなくの頃、プリンストン高等研究所を中心に18年間米国生活のある数学者であり、ノーベル物理学賞の湯川秀樹とも親交がある。
 もう一人は『国家の品格』を書いた藤原正彦であるが、彼も英国ケンブリッジ大学や米国での研究生活経験が十数年あるようだが、小学校では日本語をしっかり勉強すべきだと小平と同様の意見を述べている。少し言い方がいついの出、穏やかな小平のほうを紹介する。

「子供が言語を修得する能力に優れているうちに国語を十分時間をかけて徹底的に教えておこう」(『怠け数学者の記』小平邦彦著、岩波現代文庫102ページ)

 小学校の時期は、子供たちが言語を修得する時期にあたるので母国語を徹底的に教えておくべきだというのが彼の主張で、戦前の教育はそうなっていたという。言語修得期には母国語をしっかり教えるべきだと言っている。この点は藤原正彦も同じである。つまり、小学校で英語を教える必要はないというのが彼らの意見だ。母国語の修得期に英語を教えたら多くの場合、母国語の基礎能力に影響がでる。
  早い時期から英語を学んだ子供たちの国語の成績や数学の成績をよくみればいい。少なからざる数の生徒が国語や数学の成績に影響がでている。国語や数学の勉強時間を削ってしまうから当たり前のことが起きているだけだが、子供の学力全体への影響が懸念される。
 小平や藤原は小学生に英語を教える必要はない、子供の言語の発育段階を考慮すると小学生は日本語をしっかり学ぶべき時期だということになる。
 小学生に英語を教えてはいけないし、教える必要はないというのが彼らの意見だが、大きな副作用を覚悟の上でどうしても教えたい場合は、教える側に細心の注意が必要だということだろう。
 小学生時代は毎日のように英語の勉強時間を採って、健全な日本語能力を育むための読書時間や算数の基礎計算トレーニングの時間を減らすことがあってはいけないということだ。日本語の運用能力や数学の基礎能力に後遺症が出てしまう。

 文科省は小学校から英語を教えるという。4月から新しい学習指導要領を先行実施する意向のようだ。国語と算数の軽視はここにきわまれりと言っていい。泉下の小平は亡国の教育政策と嘆いている。

「昔の小学校では修身、唱歌、体操を除くと、二年までは国語と算数以外は何もなく、図画が3年から、理科が4年から、地理と歴史は5年からであった。そして国語は1年のとき週10時間、2年から4年までは週12時間あった。」

 「国際人」となるためにも、日本の古典といわれる本をいくつも読んでおく必要があると藤原正彦は言う。彼らの付き合ってきた欧米人は教養のレベルが高い。そういう人たちは母国の伝統文化を理解していない人間を相手にしないという。相手にする価値もない教養のない人間とみなされてしまうのだそうだ。
 源氏物語は読まなくても、夏目漱石、芥川龍之介、森鴎外、幸田露伴、永井荷風、泉鏡花、太宰治などの作品群は読んでおくべきだろう。読みやすい古典である『徒然草』が入門書として薦められる。世界最高水準の芸術書である世阿弥『風姿花伝』も大学生頃には読んでおきたい。日本の伝統文化である能の極意書だが、「国際人」の教養書としても欠かすことができないだろう。人生訓や哲学書としても読める。
 小学生には読みやすい宮沢賢治の作品群がいい。健全な倫理観を育むために太宰治『走れメロス』や夏目漱石『坊ちゃん』はいい読み物だ。幸田露伴の『五重塔』は職人仕事を描いていい。中学生には職人仕事がどのようなものかを語る西岡常一『木のいのち木のこころ〈天〉』と、その弟子である小川三夫『木のいのち木のこころ〈地〉』も読ませたい本である。日本人の伝統文化を支える心意気の一端に触れることができる。思春期にこそ読むべきだ。こうした本を足がかりに、自分の進むべき道や職業について考えさせてみたい。
 とにかく、小中学校の時期にたくさん本を読ませるべきだ。それがその後のコヤシとなる。数学も、社会も理科も教科書は日本語で書かれている。だから日本語の読解能力は高いほど他の教科の成績によい影響が出るのはあたりまえのことだろう
 センター試験の委員を3年務めた佐藤恒雄は『佐藤の数学教科書シリーズ』を12冊出しているが、問題文の読解を強調して、問題ごとにそのテクニックを解説している。センター試験においては問題文の理解が解答への重要なファクターである。テクニックの解説書特有の欠点もあることは注意しておかねばならないが、それでも「良書」に入れていい。独自の思想で高校数学をまとめ「数学教科書シリーズ」を著したユニークさを買う。

(高校数学全体の展望をえるためには、『数学読本(全6冊)』(松坂和夫著、岩波書店)がいい。様々な定理の解説や証明が丁寧になされているのはこのシリーズのみではないだろうか。数学の好きな高校生に薦めたい。いまなら入手できる。一時、どの巻か手に入らないことがあった。絶版になる前に買っておけ。全巻そろえると2万円に近い。もちろん社会人になっても使える。高校生が正月の小遣いを使って惜しくない本だろう。自分の能力を高める投資は身銭を切って積極的にすべきだ。)

 小平邦彦は34年前、数学教育に強い疑問を呈している。その問題はいまもって当時のまま放置されている。

数学における技術では基本的なのは計算の技術であって、その基礎となるのが小学校の算数で学ぶ数の計算である。・・・小学校の算数で最も重要なのはこの計算の訓練である」(124ページ)
「昔から読み書きそろばん、と言われているように、読み方、書き方、計算の仕方を教えるのが初等教育の基本である。」(同書125ページ)

 小平は初等数学教育での基礎計算トレーニングの重要性を強調している。他の箇所で、集合を小学校や中学校あるいは高校で教える必要はないと言っている。歴史的順序で数学を教えるべきで、論理的順序で教えるべきではないという。ユークリッド幾何学を中学校で十分に教えるべきで、そうすれば学問の体系である公理的構成も自然に理解できる。他の諸学、とくに経済学の理解に不可欠だ。

 高校数学は2次関数も三角関数も指数関数も対数関数もベクトルも数列も微分積分も、計算力が要求される。基礎計算能力の高い生徒ほどテストの点数が高くなる傾向がある。
 意外なようだが高校数学においてこそ基礎計算能力がものをいう。商工会議所珠算検定2級程度の技倆があれば、基礎計算能力において高校数学では圧倒的に有利だろう。受験数学には一定程度以上の計算速度と精度が要求される。

 ところが、全国44番目の北海道14支庁管内で最低の学力と公表された根室の中学1年生の40%近くが、小数の乗除算や分数計算が満足にできないそしてこの数年間で急激に中学生の計算能力が落ちつつある。小学校で基礎計算トレーニングに割いている時間が少ないからだろう。そろばん塾へ子供を通わせる親が激減したことも影響しているようだ。日本の伝統文化の一つである珠算を小学校で教えなくなって久しい。基礎計算力は今後も落ち続けるだろう。

 小平邦彦の国語と数学教育への危惧は、三十有余年を経て現実となりつつある。わが町だけの問題ではない。

 2009年3月28日 ebisu-blog#559
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学校の先生が頑張っている⇒独自教材の開発 [57. 塾長の教育論]

学校の先生が頑張っている⇒独自教材の開発

 市内の中学校の動きがよくなってきた。二つだけ紹介しよう。
 Hab中学の「愛と勇気の英語」の先生は春から独自教材での授業に力を入れていた。最近、中1に261文例の『ことばの素振り編』という文例集を配った。
 けっこう手間がかかった教材である。採り上げている文例はわかりやすいし、これだけのボリウムがあれば十分だ。読んで書けるように指導しているようだ。現場の先生たちが本気で手間をかければいい教材が創れる。パソコンは教師にとって教材創りの武器である。
 3年間で750文例書けるようになれば、学力テストでも90点とれるだろう。500文例も覚えて使えたら中学英語は普通以上の成績がとれる。
 さて、女子は坦々とやるのでいいが、課題は男子をどうやって巻き込むかだ。このままでは平均点の男女格差が25点以上に開くだろう。

 Ha中学の社会の先生は地理と歴史の暗記用問題を作って配っている。生徒たちは問題を解くのに一生懸命だ。ただ、この暗記用問題だけでは高得点は無理だろう。歴史は自分で流れを書いてみないといろいろな出来事の脈絡がつかめない。単なる暗記だけでは社会科は高得点は無理だ。さらに一歩突っ込んだ勉強を生徒自身がしなければならない。

 どちらも生徒にはほど好い刺激になっている。とにかく根室の子どもたちは学習習慣がない者が多いから、こういう取り組みは効果が大きいはずだ。継続してやってもらいたい。
 たまたま、アンテナに引っ掛かった2例のみ採り上げた。他にも工夫して授業を改善している先生が多数いるに違いない。期待したい。

 2009年2月24日 ebisu-blog#556
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日本語力向上の要諦とは? [57. 塾長の教育論]

日本語力向上の要諦とは?

 国語や数学の問題を読ませると、つかえてスムーズに読めない生徒がいる。一気に高速で読まないと、複数の文章を頭にしまうことができないし、複数の文章を同時に頭の中に格納して比べてみないと文脈がつかめない。かくして、そういう生徒は問題文の意味が適切にとらえられないことになる。国語の成績や数学の文章問題の点数が著しく低くなるから、すぐに判別がつく。

 そういう生徒は本を読む習慣がない点が共通している。十分な量を読んでいないから読むことに慣れていないのだろう。
 塾は生徒の成績をあげて当たり前である。数学を教えていても文章問題ができず成績が上がらなければ生徒ではなく塾の教え方が悪い。
 それゆえ、日本語力に問題がある生徒をほったらかしにはできないから、国語の問題文を音読させたり、ルビを振った本を6種類用意して、その中から各自の興味の持てるものを選ばせ、家へ持ち帰って読ませたりしてはいる。

 中学生は英語の授業時間を20分間延長して日本語の音読トレーニングもやっている。教材は斉藤孝『読書力』(岩波新書)、藤原正彦著『国家の品格』(新潮新書)、林望著『日本語の磨き方』(PHP新書)の3冊である。三色ボールペンで粗筋(青)、重要な箇所(赤)、面白いと思った箇所(緑)で引かせている。やったあと各自の線を引いた箇所を発表させ確認をする。明治大学の先生である斉藤孝方式である。一昨年は中3に世阿弥著林望現代語訳『風姿花伝』(講談社)を使ったが、このときは原文と格調の高い林先生の訳をひたすら音読し、線は引かなかった。新書版ではなく単行本で、本が立派だったので、生徒が「先生、この本に線を引くのはもったいない」と言ったからである。なるほど新書に比べると立派な本だ。ほんとうは2冊買って、1冊を線引き用にすればいい。線を引いたり、書き込みをたくさんするとその本への愛着が格別なものとなる。
 国語の成績の悪い生徒は、読めなかった漢字や書けない漢字の書き取りもさせる。線を引いた本でやらせるから、無意識に文脈の中で捉えながら、書き取りしていることになる。この点が「漢字書き取り問題集」とは違う。漢字の書き取りトレーニングをしながら、同時に生きた用例が脳に刻み込まれる。

 大部分の生徒はそれで問題が解決する。ところが読むのが下手な生徒の三分の一ぐらいがそれでも改善しない。音読も一向に巧くならない。
 原因は家で読んでこないのである。人間、嫌いなことはやりたくないものだ。そしてそういう生徒はそもそも家庭学習習慣がほとんどないことも共通しているから、宿題に音読を課してもあまりやらないのである。楽しくないからだとも思える。先読みしないとスムーズに読めないし、意味を考えながらの先読みだから、最初の内は苦しい。でも、あるところを超えると意味や文脈が突然スムースに頭に入り始める。そうすると苦しさはなくなり、音読が楽しくなる。

(根室の生徒と東京の生徒と比べてみると、家庭学習の習慣の有無に顕著な差がある。根室と東京の両方で教えた経験から言える。東京渋谷駅近くの進学塾だったから、小学生の生徒は私立中学受験生ばかりだ。だから、週に20~30時間程度の学習習慣のある生徒が大半だった。単純には比べられないが、それでも根室の子どもたちは小学校時代に家庭学習習慣のつけられなかったケースが多い。その率は30%を超えて40%に近いだろう。道内の他の地域に比べても異常に多いのではないだろうか。家庭学習時間については文部科学省の全国学力調査で一緒にデータを集めているから根室市教委は知っている。根室の子供たちの学力を向上させるために数値を公表して欲しいものだ。)

 このままではだめだ、何やもっと有効な方法はないものだろうかと考えていたところに、昨日のブログにHirosukeさんからトラックバックがあった。
 日本語力を向上させる有効な具体論だと思うので、再度独立の記事として採り上げておく。生徒の成績があげられ、日本語テクストを読む楽しさが味わえる生徒が増えることを願っている。
以下は昨日、『什の掟(会津)』に付け加えた文である。

*Hirosokeさん、トラックバックありがとう
オバマ演説はHirosukeさんがトラックバックしてくれているので、そちらをクリックしてCBSで聴いてください。意味を理解してから、意味をイメージしてシャワーのごとく浴びてください。何度も何度も。
 それから下に書いたアドレスをクリックすると、音読に関するHirosukeさんのユニークな意見がみられます。他でこういうことを言う人を見たことがない。
 日本語力の弱い生徒に共通していることは音読が下手、これはわたしの観察。これがなかなか改善できなくて困っていた。日本語力が弱いと総合点での成績アップが苦しくなるケースが多い。Hirosukeさんの説によればイメージする力が弱いせいだという。日本語力が音読で鍛えられることは誰もが気がついているところだろう。しかし、具体的なイメージを伴って読むというところ、その具体論のあるところが他の人とは違うし、わたしも気づけなかった点である。Hirosukeさんはそのことにたぶん英語を教えていて気がつき、古文へ応用したのだろう。見事なものである。そしてこの点は日本語力の弱い生徒の成績改善に重要な方法論を提供してくれている。
 日本語力の弱い生徒は音読を嫌がる傾向がある。上手く読めないから声を出して人前で読みたくない。人間、苦手なことはやりたくないものだ。音読が好きな生徒は音読が上手いし、よどみなく意味をつかんで高速で読める。早く精確に抑揚をつけて読めるようになれば、国語だけではなく社会も数学の文章問題も点数が確実に上がる。日本語力がすべての科目の土台だからだ。苦手なら、とことん練習するしかないではないか。さあ、本を読むのが苦手の人は、Hirosukeさんの指導経験から生まれたオリジナルな意見を読んでみよう。
 読んだら試す、いいと思ったらやってみる。自分に合わなければ他の方法を探す。相性がよければとことんやってみる。

  http://tada-de-english.blog.so-net.ne.jp/2006-12-17-1

 2009年2月7日 ebisu-blog#525
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什の掟(会津) [57. 塾長の教育論]

什の掟(会津)

 会津藩に什の掟というものがある。藩士の子弟教育組織として「什」がある。町内を「辺」にわけ、その辺をさらに什という組織に細分する。什には什長がいる。
 薩摩藩にも「郷中」いう同様の組織があった。西郷隆盛は若い頃この郷中の総代表だった。
 いまも会津では子どもたちが什の掟を大きな声でそらんじているのではないだろうか。

 七は今はもうそういう時代ではないにしても、四と五は今でも大事な価値観だろう。とくに「五、弱いものをいぢめてはなりませぬ」は毎日学校で生徒に大声でそらんじさせたい項目だ。イジメが減るかもしれない。
 もちろん、前のブログにある「暮らしよいふるさとを創るための市長の心得五つ」はこの「什の掟」をもじったものだ。クラブナビさんは最後の「ならぬことはならぬものです」、このひとつだけで十分だとコメントしてくれた。
 数学者の藤原正彦さんが『国家の品格』のなかでこの「什の掟」を採り上げている。
 最後の問答無用の「ならぬことはならぬものです」がいい、理屈は抜きだ。
 
  • 一、年長者の言うことに背いてはなりませぬ
  • 二、年長者には御辞儀をしなければなりませぬ
  • 三、虚言をいふ事はなりませぬ
  • 四、卑怯な振舞をしてはなりませぬ
  • 五、弱い者をいぢめてはなりませぬ
  • 六、戸外で物を食べてはなりませぬ
  • 七、戸外で婦人と言葉を交えてはなりませぬ
    ならぬことはならぬものです

    *什の掟解説⇒「ウィキペディア」へ
    http://ja.wikipedia.org/wiki/%E4%BB%80_(%E4%BC%9A%E6%B4%A5%E8%97%A9)
     
     

    《会津2題》
     会津若松には美味しい蕎麦屋の老舗があった。会津坂下で高速を降りてすこしある。地元では有名な店だ。いまでもあるだろう。そこへ行く途中にやはり美味しい蕎麦を出す店「蕎麦道場」があった。酒を頼むと、自家製の漬物を出してくれた。そばができるまで漬物をつつきながらゆっくり酒を飲む、いい時間だった。
     焼いた秋刀魚を一匹丸ごと頭から食べる会津人がいた。当時30代半ばで虫歯が一本もない、緻密なきれいな歯をしていた。大きな秋刀魚を頭から骨ごと食べる根室の人はみたことがない。見事な食べっぷりだった。会津には豪傑がいる。

     2009年2月6日 ebisu-blog#524
      総閲覧数:74,848 /438 days(2月6日23時25分


    *Hirosokeさん、トラックバックありがとう
    オバマ演説はHirosukeさんがトラックバックしてくれているので、そちらをクリックしてCBSで聴いてください。意味を理解してから、意味をイメージしてシャワーのごとく浴びてください。何度も何度も。
     それから下に書いたアドレスをクリックすると、音読に関するHirosukeさんのユニークな意見がみられます。他でこういうことを言う人を見たことがない。
     日本語力の弱い生徒に共通していることは音読が下手、これはわたしの観察。これがなかなか改善できなくて困っていた。日本語力が弱いと総合点での成績アップが苦しくなるケースが多い。Hirosukeさんの説によればイメージする力が弱いせいだという。日本語力が音読で鍛えられることは誰もが気がついているところだろう。しかし、具体的なイメージを伴って読むというところ、その具体論のあるところが他の人とは違うし、わたしも気づけなかった点である。Hirosukeさんはそのことにたぶん英語を教えていて気がつき、古文へ応用したのだろう。見事なものである。そしてこの点は日本語力の弱い生徒の成績改善に重要な方法論を提供してくれている。
     日本語力の弱い生徒は音読を嫌がる傾向がある。上手く読めないから声を出して人前で読みたくない。人間、苦手なことはやりたくないものだ。音読が好きな生徒は音読が上手いし、よどみなく意味をつかんで高速で読める。早く精確に抑揚をつけて読めるようになれば、国語だけではなく社会も数学の文章問題も点数が確実に上がる。日本語力がすべての科目の土台だからだ。苦手なら、とことん練習するしかないではないか。さあ、本を読むのが苦手の人は、Hirosukeさんの指導経験から生まれたオリジナルな意見を読んでみよう。
     読んだら試す、いいと思ったらやってみる。自分に合わなければ他の方法を探す。相性がよければとことんやってみる。
    http://tada-de-english.blog.so-net.ne.jp/2006-12-17-1

麻生総理男らしくないぞ、今頃郵政民営化反対だったって言うか? [57. 塾長の教育論]

麻生総理男らしくないぞ
 今頃郵政民営化反対だったって言うか?

 郵政民営化に賛成した小泉チルドレンにも担がれて総理大臣になったのではなかったの?
 郵政は総務大臣の所管だったはずだが、民営化のときの総務大臣は麻生総理あなただった。
 郵政民営化に反対した自民党議員は公認されずに自民党から追い出され、"刺客"まで選挙区に送りこまれたいへんな苦汁をなめた。麻生議員が公認を外されたなんて話はトンと聞いたことがないから、郵政民営化に賛成していたのだろう。
 所管大臣だから、ほんとうに反対なら信念をかけて総務大臣を辞任すべきだったはずだが、辞任騒ぎすらなかった。

 こういう輩を、日本人は卑怯者と呼んでさげすんできた。ああ、情けなや日本国総理大臣の器の小ささ。バカバカしいから、口直しにオバマの就任演説を聴こう。

 2009年2月5日 ebisu-blog#522
  総閲覧数:74,401 /437 days(2月5日23時00分


中学1・2年学力テスト日(2月4日) [57. 塾長の教育論]

中学1・2年学力テスト日(2月4日)

 今日(2月4日)は市内の中学1・2年生の学力テストが行われている。現在の1・2年生は3年前に比べると著しく学力が落ちてしまっている。たぶん、2年前から市内の小学6年生の学力テストの平均点は急激に下がっていただろう。
 市教委は一向にテストデータを公開する気配がない。別海町は町内の小中学生の学力が低いことを認め補習を行っている。このことは、ブログにも書いた。現職の先生がコメントを寄せてくれた。補習には反対のようで、教師の授業力の向上で何とかなると言う意見だった。
 もしもそういう技術がおありなら、ぜひ情報公開して欲しい。他の先生がその技術を学ぶことで生徒の学力は向上できるだろう。もちろん、わたしもその先生のやり方に学びたい。

 わたしは20点未満の生徒を数ヶ月間にわたり何度か個別補習した経験がある。その結果の3例については現職教師のY先生がご存知だ。手間隙はかかるが、飛躍的に点数があがる場合がほとんどである。数ヶ月で80点以上の点数をとるようになった例を何度も経験している。

 どんなに上手な授業をしても、すでにオチこぼれてしまった生徒を集団授業で救うことはできない(ある特殊なやり方を採用するしかないが、だれもそういう方法で授業していない。私は個別指導とグループ指導を組み合わせてやっている)。たとえば、中学2年生の授業を中断し、小数位取りや分数計算を教えるわけにはいかない。教科書が終わらなくなってしまうからだ。半分以上の生徒はその間アイドルタイムとなる。母親たちから苦情が来ないほうがおかしい。だから、通常授業時間を潰して落ちこぼれた生徒を救うことは現実の授業ではできない。それゆえ別海町では補習を始めた。

 授業速度の問題に少しだけ触れたい。中1数学を見ると、1月末で200ページある教科書の120~130ページまでしか進んでいない学校がほとんどである。中2は140~150ページだ。後一月余でどうやって教科書の三分の一をやるのだろう。毎年、2ヶ月弱で教科書の最後のほうの一番難しい箇所をやったことにしている。正直な中学校では、4月に遣り残した確率の章をやっていたことがある。その学年で一番難しいところを、3倍以上のスピードでやったことにするから、4月の学力テストの平均点がさらに低くなる。当たり前のことだ。
 原因がなくて結果があるわけではない。そういう意味で、授業速度も含めて、教師の授業力向上は必要だ。この点だけはわたしもコメントを寄せてくれた現職教師の方に諸手を挙げて同意できる。

 教師の授業スキルの向上は絶対的に必要であるが、スキルが向上しないような仕組みになっていることも、この間の現職教師の方からの意見にコメントとして書いたので、再説しない。この点はご同意いただけたようだ。教育を支えているのは現場の先生たちである。そこが変われば根室の小中学生の学力は確実に向上する。だから、お互いにいいと思う意見を出し合い、現実を変えていくべきだ。
  大統領就任演説のことばを引用しておこう。IをWeと読み替えるだけで、根室の子どもたちの学力向上のために大人たちがそれぞれの立場で、全国47都道府県中44位の北海道、その北海道14管内中最低の学力という現実を目の前にして謙虚な心で取り組むべきだと語っているように聞こえる。
   I stand here today humbled by the task before us.*
  (私はここに立っている/厳粛な気持ちで/私たちの前にある課題(=大統領として何が何でもやらねばならぬ職務))
  (私は今日、我々の前にある職務に対して厳粛な気持ちを抱きここに立っている)
 *『大統領就任演説を読む』⇒http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2009-01-28
 

 教育問題は学校関係者や教育行政関係者のみで語っても改善できない性質の問題ではないだろうか?家庭教育や学校教育外、つまりは私塾とも手を結ばないと地域の学力向上は望むべくもない。協力し合えば必ずできる。根室の子供たちの学力を全国一にだってできる。
 "Yes, we can"

 さて、中3は先月最後の学力テストが終わった。ほとんどの生徒が25点前後前回11月よりも5科目合計点を上げた。釧路湖陵受験の生徒にはレベルのすこし高い複合問題中心にやれせていた。ようやく東京都立高校の入試問題で85点がとれるようになった。道立高校の入試問題なら、英数合計で105点/120点満点はかたいだろう。
 成績上位の生徒の点数を上げるのと成績下位の生徒の点数を上げるのとでは、やり方がまるで違う。

 1年生と2年生が昨日と一昨日5~6名高校生の授業時間に来て、それぞれ分からないところを質問していた。個別授業だから、てんてこ舞いの二日間だった。高校生には多少なりとも迷惑だっただろう。ごめん。後輩たちの学力向上のためだ。テスト前になるとこういうことがこれからもあるだろう。入塾半年でようやく勉強をやる気になり始めた1年生が数名いる。協力をよろしく頼む。余裕があれば、君たちが教えるのを手伝ってくれてもいい。可愛い後輩の面倒を先輩が見る、微笑ましい構図だ。

 2009年2月4日 ebisu-blog#520
  総閲覧数:73,630 /436 days(2月4日15時00分


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