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重複組合せ公式の説明に窮する [57. 塾長の教育論]

重複組合せ公式の説明に窮する

 夜9時過ぎの気温は昨日は14度、今日は4度、寒暖の差が激しい。膨らみかかった桜のつぼみも夜の寒さに震えている。

 一昨日届いた本は『起きてから寝るまで口慣らし練習帳』、西蔭浩子著『英語が伝わる100のツボ』、佐々木高政著『和文英訳の修業』、『数学を決める論証力』の4冊だった。春だから受験や授業に使えそうな本を20冊ほど冊注文し、片っ端から目を通している。生徒個々人のニーズやレベルに最適な教材を選ぶにはふだんの労力を惜しまぬことだ。

 佐々木高政の著作は初版が昭和24年だ。最新のものは昭和55年の4訂版である。格調の高い本だ。「テレビ受信機」などの用語例が見られるので時代のずれを感じる部分が散見されるがさしたる欠点ではない、「風雪に耐えて残った」証拠でご愛嬌だ。展開されている英文構成法の論理は優れもので受験参考書の域を超えている。ひとつの例文に3つも4つも英訳をつけて解説している。おそらく初版から優れものだったうえに、著者が渾身の改訂を5回も繰り返したから実によい本に仕上がっている。受験生のみならず英語の勉強をやりなおしたい社会人に薦めたい。

 さて、本題である。数日前に生徒から重複組合せに関する質問があり、公式を使わない説明をしておいた。組合せが50までなら力仕事になるが短時間で答が出せる。しかし、組合せの数が大きくなるとこの方法は使えない。公式を利用せざるを得なくなる。公式に納得の行く説明が見つからなかったから、授業では原理・原則に遡って組合せを全部数え上げる解法を例示した。
 少ない人数で個別指導をしているから、同じ授業時間中に数Aの受験レベルの問題集をやっている者、数Ⅱの問題集をやっている者、数Bをやっている者などさまざまで、同じ問題集でもやっている箇所が違う。学習速度はばらつきが大きい。学校から出された週末課題の質問をする生徒もいる。個別指導は生徒の質問が多くて退屈することがない。その場で「名案(迷案?)」が浮かばないときには次回まで「質問を預る」こともあり、そうした時間も楽しい。一緒に考えている実感がある。

 重複組合せの説明を手元の受験参考書、たとえば『大学への数学A』42頁(研文書院)では、関連する二つの集合の要素の間に1対1対応がつくことからnHrn+r-1Crに等しいという説明をしている。やり方が違っているが、塾用問題集も同じ論理に基づいた解説だった。この説明ですんなり納得のいく高校生はマレだろう。現に能力別に分けられた"the first class"の生徒が問題集に載っている解説を見て、「さっぱりわからない」という。
  『佐藤の数学教科書[個数の処理・確率編]』でも重複組合せを136ページで取り上げているが、nHrがなぜ出てくるのかの説明がない。いきなり公式の計算トレーニング問題から入って、その使い方のみ。公式がどのように導かれるのかが気になる生徒の期待にはこたえてくれない。
 もともと重複組合せは高校の学習指導要領の範囲外だから、受験参考書には抽象的でおざなりな説明があるのみのようだ。
 そこで受験参考書ではない本で探したら、
松坂和夫著『数学読本4』(岩波書店)707~709㌻に適当な説明が見つかった。重複順列と既知の組合せ公式から演繹的に重複組み合わせの公式を証明したものだ。これならわかりやすい。重複順列の公式が承認できれば、nCrの変形操作のみで重複組合せの公式が導き出せる。公理的演繹による論理展開=証明は(『資本論』)経済学体系ではおなじみの方法で、私の好みに合う。もちろん最古の数学書であるユークリッド『原論』も公理的演繹体系である。松坂和夫先生の証明は既知の公式を利用して変形操作をするだけなのでいたってシンプルである、とりもなおさず生徒が理解しやすいということだ。

 重複組合せの解説を調べてわかったが、受験参考書は解法のテクニックに焦点を結んでいるようだ。生徒の好奇心に応え、しっかりした数学能力を育むには受験参考書以外の数学書がいい松坂和夫先生の数学読本シリーズは6冊ある。中学・高校数学から大学教養課程での数学の橋渡しをする目的で丹念に定理の証明を解説している。1冊3000円弱だから正月のお小遣いで買うといい。できれば全巻そろえることを薦めたい。索引が第6巻に載っているのでこれがあったほうが好奇心がわく都度、当該箇所を調べられる。このシリーズは2冊ばかり一時期品切れになったことがある。良書でも絶版になる本が多いので、数学が好きな生徒は手に入る今のうちに買っておくべきだ。お父さん・お母さん、買ってやってくれ社会人になってからも数学と英語は必要だ。このブログでも具体例を何度か書いた。文系の生徒にこそしっかりした数学の素養が必要で、社会人になったときに数学のできる文系出身者には面白い仕事がたくさん待っている
 
 質問をした生徒には重複組合せ証明の大まかな道筋を説明をして、コピーを渡した。
 「ゆっくり読んで、丹念に論理を追ってごらん。その上でまだわからないところがあればこの次に説明しよう」
 材料を投げて、思考が深まるのをじっくり待つ、生徒の成長を確認できる楽しいひと時だ。たまらない至福のときだ、ふるさとに戻り私塾を開いた喜びを実感できるときだ。酒の発酵をみまもる杜氏の気持ち…に似ているだろうか。いい酒になるかな?

 2009年5月1日 ebisu-blog#566
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