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#5203 成績上位10%の生徒たちの理解力と指導の仕方  Mar.28, 2024 [65.a 成績上位層にかかわる問題]

 小学校高学年での算数の教え方が、高校生になったときに数学や化学や物理の理解力に大きな差を生じることを、具体例でお話ししようと思います。

問1 サトル君は時速5㎞で3時間歩きました、歩いた距離は何キロメートルでしょう?
問2 札幌まで380㎞あります。平均時速60㎞で走ったら何時間何分で着くでしょう?
問3 底面が正方形で辺の長さが15㎝、高さが8mmの直方体の体積を求めよ。

 小学6年生の問題としては基本問題ですが、これ3問全部正解できる生徒は1/3いますでしょうか?
 極東の町の小学校の先生たちは「ハジキ」というやり方で教えていました。便利な方法ですが、数学的思考を育めまないので、お勧めできません。

 問2と問3は単位の換算が関わる問題です。
 「ハジキ」の計算式に当てはめると、
問1 5x3=6km 答え6km
問2 380÷60=6と20/60、  20/60=/1/3、 60x(1/3)=20分
 答え6時間20分
問3 15x15x0.8=180 答え180㎝^3

 ところで、速さは内包量、比の値でもあります。同じ仲間には食塩水問題での食塩の濃度、合計・個数・平均値の問題での平均、人口密度、縮尺などがあります。人口密度と縮尺は中学社会科の問題でも出題されることがあります。  
 並べてみます。
① 距離 食塩  合計 人口  …
② 時間 食塩水 個数 面積  ...
③ 速さ 濃度  平均 人口密度 ...

 言葉はそれぞれ違っていますが、計算操作はどれも同じで区別がありません。
 ①=②x③
 ②=①÷③
 ③=①÷②

 表にして、並べて並べて見せたら、計算操作が同じであることに成績上位10%の生徒たちはすぐに気がつきます。
 だから、これらの計算を別々に覚える必要がないことも理解します。
 これって、とても重要なことなのです。高校数学の教科書及び問題集に『佐藤のシリーズ』というのが十数冊出版されています。分野別に解法を細分して解説しています。とても便利なものです。細分された解法がいくつあるのかカウントしたことがあります。500を超えていました。これだけの数の解法を習得するにに3年間で足りますか?足りないと思います。これが100種類にまとめ上げられたら、ほとんどの人が高校数学全分野を自在に歩くことができます。だから、同じ計算操作のものは一つにまとめたほうが好いのです。500以上も解法を覚えたらそれだけでパンクします。他の教科をそれほど大きくない記憶エリアに保管することができませんよ。同型性のあるものをまとめる、あるいは「一般化」という操作の重要性がわかると思います。

 問3の問題は実に重要です。初見だと次のようなミスをほとんどの生徒がします。
 15x15x8=1800㎝^3
 単位を揃えないといけませんが、なぜ揃えないといけないかを理解している生徒は滅多にいません。
 学校の授業では単位を揃えなければならないと説明はしているはずです。
 簡単なのです。
 単位だけを取り出して計算すると、
問1 ㎞/時x時=km
問2 ㎞÷時=㎞/時
問3 ㎝x㎝xmm=? ㎝x㎝x㎝=cm^3

 単位の計算を別に解説してやれば、理屈は呑み込めます。
 加速度はΔv/Δtで表されますが、Δv=Δl/Δtですから、
 Δv/Δt=Δl/Δt^2
 長さの単位をmに、時間の単位を秒(second)にとって、具体的に書くと、
 m/s^2
 これには、無限小という微分概念が入ってきますが、単位の意味は図示してやれば、概念の呑み込みのよい小学生なら理解できます。もちろん、単位の意味と計算操作を理解してもらうのが狙いです。小学高学年の成績上位10%の受容力は、こんな説明がすんなり脳に収まるほどやわらかく大きいのです。小学校で算数を教えている先生たちのほとんどが気がついていないでしょう。そんな生徒に標準的な難易度の授業をしても、生徒が文句を言わないのは、退屈さを我慢をしているからです。大人に文句を言うとしっぺ返しがあると知っているからです。お利巧な対応です。優秀な子どもたちがじっと我慢して堪えていることにすら気がつけないのでは、教師としての資質が問われます。いつまで、こういう子たちを我慢させたまま放置しているのでしょう?制度設計にも関係がありますから、文科省もかかわる問題です。

 さて、同じ計算操作で異なる種類の文章題が解けるということ。このような観方や思考の仕方を「一般化」と言います。個別の問題から、それぞれに特殊な解法を学び、そこからさらに抽象度を上げて、一般的な計算操作を導き出します。記憶しなければならない事項が数分の一に減らせます。同じ記憶容量だったら、一般化して記憶する生徒の方が断然学力が高くなってしまうというのはモノの道理です。
 ところで微分の計算操作は簡単です。小学生でも、三角関数や対数関数の微分の出てこない数Ⅱ分野までなら理解し実際に計算できます。

(無限小に分割するという概念を捕まえるのがむずかしいのです。『資本論』でつとに有名なマルクス(の数学の学習ノート)『数学手稿』をみると微分概念を理解できなかったことがわかります。19世紀ですから、仕方ありませんね。でも数学分野では劣等生だったことは否めませんね。苦手意識はあったでしょうね、だから、ユークリッド『原論』を読んだ形跡がありません。皮肉なことに彼の学位論文はユークリッドのお隣さんともいうべき領域のギリシア自然哲学に関するものでした。科学の体系構成(演繹的体系構成)として最初のものであったユークリッド『原論』を知らなかったので、流行りのヘーゲル弁証法でやってしまい、途中で頓挫、資本論の続巻が書けませんでした。マルクスが書いたのは第一巻のみ、第二巻と第三巻はマルクスの死後エンゲルスが膨大な遺稿を整理・編集したものです。存命だったら、出版を許さなかったでしょう。マルクスはその方法的な破綻に気がついていたのだろうと思います。資本論第一巻を出版してから、死ぬまでの16年間、資本論第二巻を出版しようとはしなかったことに、それ以外の説明はないでしょう。第2巻で予定していた市場論を書き進めるうちに方法的破綻に気がついてしまったのです。当前の帰結でした。生産性という概念を導入すると労働価値説が破綻することは、弊ブログですでに解説しています。)

 こういう単位の計算操作に慣れておけば、高校生になって物理で加速度が、化学でモル計算が出てきても、たじろぎません。単位の計算操作の仕組みはすでに理解していますから、あとは微分やアボガドロ数などの新しい概念に慣れるだけでいいのです。ハードルがグンと下がります。

 単位の計算操作は小4の普通の成績の生徒でも理解し運用できます。要は教え方次第です。想像で述べているのではありません、実証データに基づいて書いています。
 学力上位10%層は、それ以下の生徒達とは指導の仕方・授業内容が違って当たり前です。計算速度においてすら速い生徒と遅い生徒では30:1の差があります。これは中1の生徒たった5人で実測したデータです。標準的な難易度の授業では、上位10%の生徒は退屈しきっていますが、先生たちはそういうことをご存じでしょうか?おりこうさんが多いから、我慢して沈黙しているのです。たまに反抗的な生徒が現れます。そういう生徒は成績が良いからクラスメンバーに大きな影響力を持っています。高圧的な態度で臨むと反抗心が強くなります。理不尽なことさえしなければ、いたって温和で、授業に協力的なのです。先生よりも説明の巧い生徒もいますから、上手に使ってやればいいのですが、人の使い方の上手な人は民間企業でもとても少ないのです。だからたいがいの先生は、扱いを間違えて火傷します。学芸大や教育大で、そうした生徒の扱いについて実践的な授業があればいいのでしょう。大学の先生たちにはハードルが高い。

 なぜ「ハジキ」なんていう、イージーな方法が小学校の先生たちの間で広く普及して、批判が生まれないのかについては、小学校の教員たちが集まって教育研修を繰り返すからでしょうね。
 視野が高校数学や物理や化学のほうまで届かないからでしょう。小学校・中学校・高校で先生たちは孤立したグループをつくっている研修しているように見えます。
 そして、教員養成大学には、数学があまり得意ではない学生たちが多いということも遠因になっているかもしれませんね。それぞれのテリトリーの中で、「教育村」という狭い閉鎖集団の中だけにとどまっていてはいけないのではないでしょうか?
 授業のやり方、指導の仕方は無限大です。完成した形はない、そう考えたら、現在の指導法を批判する視点が必ず出てくるはずです。

<「読み書きそろばん(計算)」スキルの重要性>
 「読み・書き・そろばん(計算)」スキルは学力の基本をなしていますが、日本語読解力は小中高大と一気通貫で、どのようなレベルのスキルを身につけるのかという視点がないことが、大きな問題に感じられます。
 基礎的なスキルとして「先読みスキル」がありますが、音読している箇所よりも先を同時に黙読して意味のカタマリを判断したり、段落ごとの論理整合性をチェックしながら、脳はマルチタスク処理をしています。だから、先読みができるようになると、地頭がよくなります。そして、物事を考える時には日本語で考えますから、語彙が多いほど考えるのも考えた結果を相手に伝えるにも便利です。他分野の専門家と話すときには、相手の分野の基礎的な専門知識がなければ意思の疎通がうまくいかないので、異分野の専門書を読む読解力が必要です。
 社会人になってからは、語彙が豊富でないと、状況を的確に上司に説明できませんし、説得力のある提案書や報告書も書けませんから、仕事上で支障が出ます。日常的に意思疎通に齟齬が生じます。専門分野の異なる人にも理解してもらうために、平易な言葉で話したり、文書を書く機会も増えます。仕事の半分くらいはなんらかのコミュニケーションで成り立っています。上司や同僚、社外の取引先の営業マンやさまざまな分野の技術者と接点が生じるので、否応なしにコミュニケーションすることになります。そこに問題があれば、仕事はうまく進まないのです。職位が上がって部下を持てば部下とのコミュニケーションが仕事に占める比率が上がります。課長よりは部長、部長よりは数部門を束ねなければならない取締役と、階段を上るたびにコミュニケーションの比率は上がってきます。社外の人たちとのネットワークも広がります。
 コミュニケーションスキルは豊かな語彙に支えられている部分がありますが、若いうちはそういうことがなかなか理解しにくいかもしれません。だからこそ、小学校の先生たちや中学校や高校の先生たちが、このような小学生から社会人までの「一気通貫の視点」を持って、子どもたちの読書力を育んでもらいたいと願っています。
 中高生で本をたくさん読んでいる生徒たちのには、読めない漢字をスルーして読み飛ばしている者が多いのです。これでは何冊読んでも語彙力は大きくならないでしょう。
 音読させてみたら、読み飛ばしも、どの程度読めているかもすぐにわかります。日本語音読指導は、適切な語彙レベルのテクストを選び、小中高と一貫してやる必要がありそうです。
 
<余談-1:速度と食塩水の問題>
 極東の町の中学生で速度や食塩水の濃度の問題が正解できる生徒は10%以下でした。「速さ」や「濃度」という内包量の概念が把握できていないことと、計算操作に共通性があることを知らないからです。まったく別の種類の文章題だと思い込んでいますから、解ける生徒が滅多にいないのも合点がいきます。
 2005年頃は、中1の定期テストに食塩水の出題がなされていました。ある時期からどの学校も出題しなくなりました。正解者がほとんどいないから、出題しても無理だと数学担当の先生たちが判断したからでしょう。内包量や比の値の概念をちゃんと教えてあげたらよかっただけです。速度の問題も食塩水の濃度の問題も平均値の問題も人口密度の問題も縮尺の問題も、解き方は同じだとわかっていれば、速度の問題ができるけど、食塩水の問題や他の問題が苦手で解けないなんてことが起きません。

<余談-2:次元の立体格子点>
 夏目翔平著『やさしく物理』(朝倉書店)p.2に「次元の立体格子点」が図示されています。力学の物理量を「x軸が長さ(m)、y軸が時間(s)、z軸が質量(kg)で、3次元空間に格子点として表示して立体図」にしたものです。

 x軸は長さ(+1)、面積(+2)、体積(+3)と表示されています。ここで長さの単位はmですから、m、m^2、m^3ということになります。速度は(+1、-1、0)、加速度は(+1,-2、0)の格子点となっています。わかりやすい図です。こうした図が頭の中にあると、道先案内人のいる船のようなもので、さまざまな物理量の単位に整理がつきます。
 エネルギーの単位のジュールは「 kgm2s−2」ですから、格子点では(+2, -2, +1)にあります。高校生の時に物理を履修できなかったわたしにもじつにわかりやすい図です。


 ところで、「問3」で体積計算の際の、長さの単位を揃える必要性は「体積(+3)」で一目瞭然ですね。単位を揃えないと「+3」にならないのです。「cmxcmxmm≠cm^3」であることは自明です。

<余談-3:上位10%の子どもたち向きの教育システム>
 こういう上位10%の子どもたちが小学四年生から、適切な指導を受けたら、小6までに中学数学2年生までは終了できます。中学校卒業までに数ⅠAと数ⅡBをやり終えられます。数Ⅲも半分くらいは消化できそうです。
 そうすれば、高校物理は微分積分を前提にした、シンプルな授業の方が効率を考えても、内容の深さを考えてもいいということになるでしょう。
 高校2年生から大学レベルの数学、物理、化学、生物を学べます。情報処理関係の人材が圧倒的に不足しており、セキュリティが相当遅れているように見えますが、解消できますよ。
 学力の高い子供たちが、レベルが低くて退屈な授業を我慢して聞かなくて済む、能力に応じたレベルの授業が受けられる、そんなことがあたりまえの世の中になってもらいたい。
 文系と理系の両方の専門知識を備えた人材をたくさん産み出せます。
 
 今日のテレビ報道を見ていたら、日本証券取引所が海外向けのIRを強化するように上場企業へ要請していますが、TOEIC980点でも無理です。決算資料を並べてみても理解できないでしょう。
 会計学、管理会計学、経営分析、そうしたデータを処理しているコンピュータシステム、その企業が扱っている製品の専門知識、製造技術、新製品開発状況などを理解していないと、十分な説明が英語でできません。わたしが16年間仕事していた臨床検査会社を例に出すと、開発部がやっている製薬メーカーとの検査試薬の共同開発情報はIRには不可欠です。それらが現在の業界の検査試薬開発競争の中で、どのような位置にあるのかも必要な情報でしょう。3000項目を超える受託している臨床検査に関する専門的な知識も必要になります。それらをどうやって実施しているのか、機械化やシステム化についての社内情報も知って、理解しておく必要があります。10個ほどもある検査部、そして課まで含めると30ほどの部門の業務の実態を知っておいた方が好いでしょう。こうした仕事に文系・理系の区別はないのです。どちらもこなせなければなりません。各部門にはそれぞれ特定の仕事の専門家であり、職人です。分野の異なる職人たちとのコミュニケーションがなければ、IR上重要な社内の情報すら入ってきません。
 英語は専門分野ごとに専門用語があり、その点が基本漢字であらゆる分野の専門用語が作られている日本語と決定的に違います。ラテン語やギリシア語の接頭辞・語幹・接尾辞を組み合わせて専門用語ができているので、専門分野ごとに専門用語を覚えなければならないのです。

 英語が堪能なだけではIRの仕事はできないのです。せいぜい10~20%をカバーできるだけでしょうね。ここでも文系・理系を問わず複数の専門分野に精通した人材ニーズが産まれています。成績上位10%の子どもたちをどう育てるかということに、民間企業の未来、そしてこの国の未来が掛かっていると断言しても過言ではありません。



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