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#4276 Sapiens (33rd) : page 45 ☆ June 24, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

<最終更新情報>6/22午前11時半

 第3章"A day in the Life of Adam and Eve"、このタイトルをそのまま直訳しても著者が何を言いたいのかピンとこないだろう。「アダムとイブが暮らしていた時代」、そんなの神話=旧約聖書の世界の話、サピエンスの歴史と何の関係があるのというのが高校生の素直な反応。生徒にこのタイトルはどう理解したのか訊いてみた。
 アダムとイブは蛇に唆(そそのか)されて「善悪の知識の実」を食べてしまい、エデンの園を追放される。the Lifeというように定冠詞がついているのは、エデンの園から追放されたアダムとイブの暮らしを指している。男は額に汗して働いて食べるものを求め、女は出産の苦しみを味わうことになった。サピエンスに置き換えるとそれは農耕以前の狩猟採集生活をしていた時代である。
 そういう時代がこの章のテーマ、ハラリは過去1万年から7万年前にさかのぼる狩猟採集で暮らしていた時代をエデンの園を追放されたアダムとイブになぞらえている。
 翻訳者の柴田氏は、アダムとイブを訳語に登場させていない、「狩猟採集民の豊かな暮らし」と訳している。的確な訳ではあるのだが、なにか物足りぬ、アナロジーを切り捨てたそっけない訳だからだ。名翻訳家である柳瀬尚紀さん(根室高校の6学年先輩)ならここはどう訳すだろうか?
「失楽園のアダムとイブ」では俗っぽく、渡辺淳一の不倫小説『失楽園』を連想させる。生徒は『失楽園』を知っていた。作者の渡辺淳一(1933-2014)が砂川町出身で札医大の整形外科医だと告げると、びっくりしていた。彼のお爺さんと同じころの卒業のはず。
 語彙力が貧弱なわたしには適当な訳語が思い浮かばなかった。
 ところで、『ゲーデル、エッシャー、バッハあるいは不思議の国の環』に柳瀬尚樹さんの訳者あとがきが(739頁に)ある。ここで柳瀬さんは言葉遊びを披露しているが、名人芸だ。なにがどのように名人芸であるのか興味のある人は図書館で閲覧したらいい。この本はニムオロ塾の本棚にもあるので、見たかったらどうぞ。好奇心に任せて購入した面白い本が5%くらい200冊ほどあります。
*https://ja.wikipedia.org/wiki/柳瀬尚紀

 話題をタイトルから本文へ移そう。生徒はアンダーライン部分の文章があんまり長いので迷ったようです。[during which]の組み合わせが初体験だったのでしばしびっくりしただけでしょう。

<45.0> To understand our nature, history and psychology, we must get inside the heads of our hunter-gatherer ancestors. For nealy the entire history of our species, Sapiens lived as foragers. The past 200 years, during which ever increasing numbers of Sapiens have obtained their daily bread as urban labourers and office workers, and the preceeding 10,000 years, during which most Sapiens lived as farmers and herders, are the blink of an eye compared to the tens of thousands of years during which our ancestors hunted and gathered.

 57 wordsの文です、長いですね。でも長さでめげないでね、繰り返しで簡単なんですから。during whichが目立つように処理します。

The past 200 years, during which ever increasing numbers of Sapiens have obtained their daily bread as urban labourers and office workers, and the preceeding 10,000 years, during which most Sapiens lived as farmers and herders, are the blink of an eye compared to the tens of thousands of years during which our ancestors hunted and gathered.

 太字の部分は「前置詞+関係代名詞」である。3か所それぞれ先行詞の補足説明となっているだけ。挿入された節をカットしてみよう。レントゲン写真で見るようなものです、筋肉組織やコラーゲンなどが消え去り、この長い文章の骨格が現れます。

The past 200 years are the blink of an eye compared to the tens of thousands of years.
(過去200年は数万年に比べると一瞬のまばたきである。)

 修飾部分や補足説明を外してしまうと、第Ⅱ文型SVCの簡単な文章になってしまいます。大学受験をしようと思っている高校3年生でこの文章の意味が分からない人はいないでしょう。

 何がどうして一瞬の瞬きに見えるのか、過去200年間を補足説明している関係節を独立の文に書き換えてみます。
(1) ever increasing numbers of Sapiens have obtained their daily bread as urban labourers and office workers [during past 200 years]
(過去200年間たえず人口が増加していたサピエンスの多くが都市労働者とオフィスワーカーとして、その糧を毎日得ている。)

 都市労働者に対してオフィスワーカーが対置されています。本社管理部門で働く人、工場部門でも事務部門や管理部門で働く人はいわゆる「労働者」ではないわけです。肉体労働をする人のことを「労働者」と言います。日本では学校の先生も自分を労働者だと思っている人がいますが間違いですね。日教組や北教組に所属している先生たち、マルクスがいう労働者とは工場労働者のことなんです、あなたたちは労働者ではありませんよ、インテリなんです。ロシア革命を起こしたレーニンも労働者ではありませんでした、マルクスもそうでしたが、レーニンも大学に職を得そこなったインテリです。共産党宣言で「万国の労働者よ団結せよ(Workers of all lands, unite)」と労働者を煽ったのがマルクスとエンゲルス『共産党宣言』で、実際に革命を起こし、親玉にのし上がったのがレーニンでした。
 workers(働く人々あるいは仕事する人たち)という概念は、labourersとoffice workersを包摂した概念です。マルクスは工場労働を『資本論』の公理に措定しています。その淵源は奴隷労働にあります、だから労働疎外なんて言葉が生まれます。江戸職人は道具も自前、そして請負仕事でした。職人仕事の伝統は工場ではたえざる工程改善として生き残っています。そして本社管理部門の仕事でもマルチの専門技能をもって困難な仕事にチャレンジする人たちの中にその精神が受け継がれています。コロナ後は、職人仕事を公理に措定した経済学の時代が来てほしいと思っています。

 200年間に先行する1万年はどうだったのかも比較対象として並べられている。
(2) most Sapiens lived as farmers and herders [during the preceeding 10,000 years]. 
(過去200年間に)先行する1万年はサピエンスのほとんどが農耕や牧畜で暮らしていた)

 では1万年から数万年前のサピエンスの暮らしがどうだったのか。これで三つの時代が併記されて比較される。
(3) our ancestors hunted and gathered [during the tens of thousands of years].
(過去数万年にわたってサピエンスの祖先は狩りをし、木の実や果実を食べて暮らしていた。)


 産業革命以後の200年間は、先行する1万年に比べても、さらにそれに先行する数万年に比べても、一瞬の瞬きほどの長さしかないのである。
 サピエンスは7万年前から、集団で狩りをすることで、効率的に動物の群れを谷などへ追い込み、大量屠殺して肉の確保にも困らなくなっていた。

 ofやwithと関係代名詞の組み合わせは見たことがあっても、[during which]にお目にかかったことのある高校生はほとんどいないのではないか。迷ったら「原理原則に還れ!」である。

 『表現のための実践ロイヤル英文法』264頁にduring whichの例文が載っていたので紹介する。
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①文尾に置くと不自然になる前置詞
 beside, beyond, during, excwpt, near, opposite, outside, round, since, up

 After three years at Cambridge, during which I specialized in European history, I wrote a thesis.
 (ケンブリッジで3年間ヨーロッパ史を専攻していましたが、その後、わたしは論文を書きました。)
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 修飾句や補足説明を外して文の骨格だけにして眺め、次いで丁寧にそれぞれの関係節をシンプルセンテンスに書き換えてみたらいい

「第3章 狩猟採集民の豊かな暮らし
 わたしたちの性質や歴史、心理を理解するためには、狩猟採集民だった祖先の頭の中に入りこむ必要がある。サピエンスは、種のほぼ全歴史を通じて狩猟採集民だった。過去200年間は、しだいに多くのサピエンスが都市労働者やオフィスワーカーとして日々の糧を手に入れるようになったし、それ以前の1万年は、ほとんどのサピエンスが農耕を行った動物を飼育したりして暮らしていた。だが、こうした年月は、わたしたちの祖先が狩猟と最終をして過ごした膨大な時間に比べれば、ほんの一瞬にすぎない。」
   
『サピエンス全史(上)』59頁 柴田裕之訳

  びっくりするほど分量の少ない高校教科書、これでは論説文が読めるようになるわけがない。
*#3344 高2の英語教科書をチェックする  June 25, 2016
https://nimuorojyuku.blog.ss-blog.jp/2016-06-24-1




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ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環 20周年記念版

ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環 20周年記念版

  • 出版社/メーカー: 白揚社
  • 発売日: 2005/10/01
  • メディア: 単行本

①ゲーデル『不完全性定理』岩波文庫
昨年読みました。面白いけど、数学の専門書しかも不完全性定理の証明ですから、準備なしにはまるで理解できませんね、だから数理論理学の入門書を読んでからチャレンジしました。付箋がいっぱいです。(笑)

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②バッハとエッシャー
 バッハは斬新な感じがするので好きです。エッシャーは面白い絵を描きますね。いわゆるだまし絵ですが、美しいことと細部にこだわって丁寧に描いているところがいい。この大判のエッシャーの本は東京の大きな本屋のどれかで購入したのではないかと思いますが、日本橋のデパートの古書展会場だったかもしれません。
  ISBN 0-8019-2268-1
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③エッシャー:タイトル MOBUS SRTIP Ⅱ (RED ANTS)
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④エッシャー:タイトル DRAWING HANDS
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⑤エッシャー:タイトル WATER FALL
この絵はみなさんお馴染みの物。
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#4275 「青チャート数Ⅲ制覇」:5か月と7日間 June 24, 2020 [51. 数学のセンス]

 他の人の参考になるだろう。医学部受験の生徒は1月14日から「青チャート数Ⅲ」の問題を解き始めた。例題を読み、片っ端から問題を解いていくスタイルである。数学の偏差値が70でも消化不良を起こすのでお勧めできない勉強法だ。能力に応じた勉強法をとるのがいい、この生徒にはこのスタイルがふさわしかっただけ。6/21に総合問題を残して、全問解き終わった。総合問題は受験直前の「ご馳走」である、いまやる必要はないというのは本人の判断。

 この生徒は小学5年生の1月から弊塾へ通い始めた。(45年前の)首都圏なら小学4年生からが標準的なスタート、1年と9か月遅れてスタートしたことになる。理系に秀でる生徒はしばしば国語力に弱点がある。この生徒も文学作品に感動するところが概してすくないから、放っておいたら文学作品をほとんど読まぬ。仕方がないので国語力の底上げのために良書を選んで5年間にわたって日本語音読トレーニングをやった。語彙力強化のために音読テクストとして選んだ17冊の本のリストを末尾に貼り付けておく。

 最初から1年9か月の遅れを意識して、それをカバーするために、シリウス・シリーズを使って、予習方式で数学の勉強を6年と5か月間やり続けてきた。コンパクトな解説だけでやり方を理解し、すぐに問題を解くことに慣れてしまった。他の生徒にはこんな無茶なやり方をさせない。
(根室では医学部進学希望の生徒を5年生の四月から一人だけ教えたことがあるが、中学1年の終わりには3年生用のシリウスを半分消化していた。英語は中学生になってから教えたが、堰を切ったように1年生用の問題集は3か月で終わった。1年次の終わりまでに3年間分消化してしまった。並行して音読用のCDのついた教材を選んでやらせた。3月に突然親の転勤が決まって転校したので、その後どうなったか知らない。OR君は昨年大学受験だったはず。シリウスのコンパクトな解説を独力で読ませて予習方式で全問やらせたのは過去二人だけ。)

 シリウスに比べると「青チャート数Ⅲ」は断然例題が多く、演習問題数が少ない(1割程度?)から、この程度の問題集なら今まで通り、例題を読んで理解し、次いで演習問題をやり通せると判断した。
 月曜日(6/22)から「大学への数学1対1対応」シリーズ6冊にチャレンジし始めている。これは自分で情報収集して選んだ問題集である。ときどきエレガントな解法が提示されているので、そういう問題をピックアップしてランダムにやるつもりのようだ。問題の難易度も解法も「青チャート数Ⅲ」をやったあとにふさわしいレベルである。

 最後は先生のサポートなしに、単独で勉強できるような学習スタイルを身につけること、それが理想と思っている。問題集の選択も、仕上げに関しては自分で選んだ、それでいい。

 数Ⅲのスタートと同時、英作文も1/14日からメール配信方式で「英作文千本ノック」を始めた。季節が廻(めぐ)り、なんとなく気が向いてしまった。(笑)

 必要な時期が来れば、自然に必要なことが始まってしまうのは、季節廻りのようなもの。生徒がハラリのSapiensを坦々と精読して読みの力を蓄えているうちに、教えている私の方では書きのトレーニングをはじめたいという欲求が蕾となってジッと開花を待っていた。「英作文千本ノック」は偶然に数Ⅲと同時のスタートとなった。「青チャート数Ⅲ」のスタートは生徒が自分で決めた。河合塾の冬季特訓から戻って塾へ来た日から始めたのである。その日にわたしは用意していた英作文問題をメールでかれに送った。数学と英語、生徒と先生、二重の意味で「啐啄同時であった。

 週に4日間、1回に5-10題問題を消化している。NHK英会話教材を利用した問題と解説になっている。認知言語学で用いられているイメージ・スキマーを利用した大西泰斗先生の解説はなかなか楽しいし、言語理論としても最新のものだ。英作文トレーニングを通してこういう最新の理論に触れるということが大切なのである。構造言語学の大御所であるチョムスキーの生成変形文法理論をつかって解説をしている。ハラリ「Sapiens」を11か月間読んでいるから、「読み」と「書き」の両輪が揃って相乗効果が出ている
 昨日、第78回目をやった。問題数は550題くらいになっているだろう。最近は8割くらいの正解率までアップしている。夜の10時ころにメールで問題文を配信すると、翌日それをやって塾へ来る。問題演習を始める前に英作文の答えをチェックし、解説を行う。時間は10-15分間ですむ、これが週に4回だから、普通に授業でやったら2時間を超えるだろう。じつに効率的なのだ。
 NHK英会話テキストがベースだから、慣用句がふんだんに出てくるし、それに加えてイメージ・スキマーと生成変形分法がベースになった解説だから、目から鱗が落ちるようなことがちょくちょく起きる。「千本ノック」をしてから、模試のリスニングの得点が8-9割にアップしたと副次効果に喜んでいる。
 Sapiensの朗読音源でリスニングトレーニングを3か月間ほどやれば、リスニング力は飛躍的に伸びる。共通試験レベルでは不要だが、やれるときにやっておいた方がいい。将来どこで、どんな風に役に立つかわからないが、それが人生の岐路で強力な武器になるときがいつかきっとやってくる。

 東京で勉学し、そしていくつか業種を変えて本社経営管理部門で仕事する企業人として人生の半分近くを過ごしたから、複数分野の高度なスキルをもつメリットがよくわかる。

(この生徒は高校生になってから英検を初めて受験している。いきなり準2級を受験して高得点でクリア、次の英検で2級を受験しこれもハイスコアでクリアした。あれからかなり力がアップしてるので準一級の問題集を2周したら、合格できるレベルだろう。大学共通試験の英語が民間の試験に置き換わるというので必要な英検2級を受験しただけ。本人は「もう英検は必要ない」と言っている。)

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<6. 日本語音読トレーニング:国語力が学力の基礎>
 最後に、日本語音読トレーニングで5年間に読破した本のリストを挙げておく。件(くだん)の生徒は高1で日本語音読トレーニングは終了している。17冊、レベルを上げながら、たっぷりやった。
 生徒と交代で輪読するし、速度を変えて読むので、スキルス胃癌を患い胃と胆嚢を全摘出したわたしには、体力への負荷が大きい。だから、この2年間は本気でやろうという生徒にだけ対応している。休みの水曜日に日本語音読トレーニングを充てていた。昨年は1時間でへとへと。寄る年波には勝てません、年々体力が落ちてます。でも、まだがんばれます。(笑)


〈日本語音読リスト〉…
*#3726 
日本語音読トレーニングのススメ:低下する学力に抗して Apr. 18,2018
https://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2018-04-18-1

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<7. 国語力アップのための音読トレーニング >
 中2のトップクラスのある生徒の国語力を上げるために、いままで音読指導をしてきた。読んだ本のリストを書き出してみると、
○『声に出して読みたい日本語』
○『声に出して読みたい日本語②』
○『声に出して読みたい日本語③』
○『坊ちゃん』夏目漱石

○『羅生門』芥川龍之介
○『走れメロス』太宰治
○『銀河鉄道の夜』宮沢賢治
 『五重塔』幸田露伴
 『山月記』中島敦
●『読書力』斉藤隆
●『国家の品格』藤原正彦
●『すらすら読める風姿花伝・原文対訳』世阿弥著・林望現代語訳
●『日本人は何を考えてきたのか』斉藤隆

『語彙力こそが教養である』斉藤隆
●『日本人の誇り』藤原正彦(数学者)

◎『福翁自伝』福沢諭吉
◎『近代日本150年 科学技術総力戦体制の破綻』山本義隆(物理学者)

(○印は、ふつうの学力の小学生と中学生の一部の音読トレーニング教材として使用していた。●印の本はふつうの学力の中学生の音読トレーニング教材として授業で使用した実績がある。◎は大学生でも語彙力上級者レベルにふさわしいテクストである。平均的な語彙力の大学生には手が届かぬ。
 音読トレーニング授業はボランティアで実施、ずっと強制だったが、2年前から希望者のみに限定している。本気でやる気にならないと効果が小さいので、お互いに時間の無駄。)

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