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#3344 高2の英語教科書をチェックする  June 25, 2016 [71.データに基づく教育論議]

 #3341で高校の英語の教科書を採り上げた。「Vivid Ⅱ」(高2用)、 English Communicationと副題がついた教科書である。
 英語教育の全体的な流れが会話重視へ切り替わったと云うことが影響しているのか、テクスト(text:本文)がずいぶんやさしいものになっている。高校生用の読み物にしては使われている語彙と文量が貧弱なのが気になった
 そこまでは主観的な印象論であるから、では客観的なデータではどうなのかを検証してみたい。ポイントは二つ。一つめは使用されている動詞に焦点を当ててみること、二つめは教科書本文の語数が高校入試問題の本文と比較して何倍くらいになっているかという文量の問題。
 

<使われている動詞のチェック>
  たとえば、[Lesson 5][part 1]で使われている動詞は次のようになっている。

know an old movie
called Fantastic Voyage
To save an injured scientists
become tiny
go into
have only one hour
finally reach the damaged part
have only six minutes
begin curing the part
are about to get out
breaks down
needed to become tiny
can have a safer path
is stressful to swallow
is done away with by using a thinner endscope
easily passes through the nose
reduces the stress 

 題材は昔見た「ミクロの決死圏」という邦題のSF映画である、
"Fantastic Voyage"が原題だったのか。
 医療チームが光線でミクロサイズになって、宇宙船のような乗り物で体内へ送り込まれ、治療するというストーリーのもの。
 swallow(飲み下す)だけは動詞で使われているのを見たことがなかったが、動詞の語彙レベルはネイティブの小学生高学年ではないだろうか。読みやすいといえばとっても読みやすくなっているのだが、英字新聞のJapan Timesでこんなに優しい動詞が続くのはみたことがないから心配になる。唯一の例外は、HP(ヒュ-レッドパッカード)社の英文マニュアルが昔はこういう平明な英語で書かれていて読みやすかった、ビジネスの場でわたしが読んだものの中では平明な英語で書かれたものはこれだけ。マイクロ波計測器制御用のパソコンでもマニュアルはとっても読みやすいものだった。製品の性能も良かったが、英文マニュアルの読みやすいことが世界中でたくさん売れた理由だろう。1980年ころは日本メーカのものは開発部隊が作成してノーチェックだからマニュアルどおりにやっても動かないケースが散見された。


<語数チェック>
 もうすこし客観的なデータをチェックしてみたい。
 本文と解説や問題文があるが、本文だけをピックアップして数えたら42ページあった。
 全部でどれくらいの語数があるのか計算するために1ページ当たりの語数を計算して推計に利用しようと思う。
 「Lesson 5」の1ページ当たりの語数を数えた。

 part 1 : 126 words
  part 2 : 111
  part 3 : 115
  part 4 : 115
   合計   467 words
   平均   116.75/ページ
 
  一冊では本文が42ページだから、
  42ページ×116.75=4903 words 

 これが高2生が1年間で学習する本文の語数である。センテンスでカウントすると38文になるから、ひとつの文章が12.3語で構成されている
 大人向けの読み物として書かれたナマの英語のセンテンスはこんなに単語数が少なくない。

 比較のために英字新聞記事のワード数とセンテンス数をカウントしてみた。次の弊ブログ記事はJT紙の記事を採り上げたものである。
 「#3247 East Antiarctica at risk of thaw Feb.28, 2016」
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-02-28

 数字を排除して英単語のみをカウントしたら、478語/15文だった。平均31.8語でひとつの文章ができている。センテンス当たりの語数で見ても、英字新聞記事の4割というのが高校2年の教科書である。構文の難易度が比較にならぬほど簡単だということがお分かりいただけるだろう。高校2年生用の教科書はネイティブには「子供向けにリライトされた読み物」という位置づけの英文に見える
  JT紙のこの記事の冒頭部分(1)を辞書の使用を許可したとして、5分以内に構文を正しく理解して読みこなせる根室高校の生徒は学年に何人いるだろう?

 動詞類は青字にした。
======================
Study adds to worries over rising sea levels
East Antarctica at risk of thaw
Reuters

(1)
 OSLO – Part of East Antarctica is more vulnerable than expected to a thaw that could trigger an unstoppable slide of ice into the ocean and raise world sea levels for thousands of years, a study Sunday showed.

(2)  The Wilkes Basin in East Antarctica, stretching more than 1,000 km (600 miles) inland, has enough ice to raise sea levels by 3 to 4 meters (10-13 feet) if it were to melt as an effect of global warming, the report said.

(3)  The Wilkes is vulnerable because it is held in place by a small rim of ice, resting on bedrock below sea level by the coast of the frozen continent. That “ice plug” might melt away in coming centuries if ocean waters warm up.

======================
 
 
<高校入試問題と高2教科書の本文語数を比較する>
 次に、1年間で学習する本文4903語が多いか少ないかを測るための尺度を用意してみた。以前カウントした道立高校と東京都立、そして全国トップクラスの開成高校入試問題の語数を尺度に、高校2年の教科書がどの程度のものか測ってみようというわけだ。

#3309より抜粋
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-05-31
---------------------------------------------
定量的な比較がしたくて開成高校の入試問題を取り寄せて words 数を調べてみた。

道立高校:平成27年度  532語
都立高校:平成28年度 1449語
開成高校:平成28年度 1932語

 開成高校は15行 words 数をカウントし、行平均値をだして、全行数を乗じて計算した。

 都立は道立高校の約3倍、開成高校は3.6倍である。文の難易度も words ..
---------------------------------------------

 高2の教科書の本文全語数は都立高校入試問題の3.4回分、開成高校の2.5回分である、それを1年間かけて学ぶ、なんとわびしい文量であることか
 都立高校入試英語は50分、開成高校のそれも同じ50分で本文を読み、問題文にしたがって答案を書かなければならない。リスニング問題もある。高校受験生が授業時間にして3~4回分でこれだけの問題本文にチャレンジしているのである。高校に入るとこんな貧弱な文量の教科書で勉強するのでは、英文読解能力が伸びない。
 内容の点から言うと、高2の教科書の英文よりも開成高校の入試問題のほうが難易度が高い。


<会話重視には読解力低下という副作用がある>
 日本では基礎的学力のことを「読み・書き・そろばん」と言ってきた、ところが英語は「聞く・話す」というのが国際化時代の英語教育政策の重点であるという。英語圏の国の植民地になったことのない日本では、英語を聞いたり話したりできなくても、何の不自由もない。英語に触れる機会は「聞く・話す」よりも、「読む」が圧倒的に多い。インターネットでも日本語の情報の数十倍の英語の情報であふれているから、英語を読めたほうがいい。学問や科学や技術の先端情報のほとんどが英語で発信されているから、国内企業で働いていても英文を読む必要はすくなからずある。

 こんなに少ない量で、英語教育の重視、国際化をいうのは、羊頭掲げて狗肉を売るの類である。実際には国民全員が国際人になる必要はない。千人に一人が英語に堪能であれば「国際人」へのニーズを十分満たせるだろう。そういう意味では高校の英語教科書は千人中999人のためにつくられているのだろう。
 
 リスニングを考えると、日本人の高校生が聞き取れるレベルに見合っているのかもしれない。つまり、リスニング重視で、英文読解力の育成は棄てたということなのだろう。ずいぶん割り切りの良いことだ。日本における英語教育は、リスニング力と生の英文読解力の両方を同時に高校の授業で育てることは不可能と云うことか。


<ニムオロ塾で使用してきた教材>
 高2の教科書がこんなに文量が少ないとは思わなかった。ニムオロ塾では高校英語教科書を使ったことがなかったので、気がつかなかった。では、何を使っていたのか?

■ Japan Times記事
■ 英文法問題集"Grammar in use intermediate"

 この2種類を教材に使っていた。最近、この二つの教材では無理になってきたので、教科書を利用して、頭から読みこなすトレーニングに切り替えた。それが終了してから、これらの教材を使う。


<結論と文教政策への提案>
 教科書がこのような貧弱な内容では、現実に流通している英文を読む能力は到底育たない。
 読解中心から会話重視へ極端に振れてしまい副作用が大きすぎる、英語教育政策は見直すべきではないのか?英字新聞程度のレベルの教材の教科を2単位程度増やすべきだと思う。授業時間が足りなければ、週に3日程度選択で7時間目の授業をメニューに加えたらどうか?土曜日午前中の4時間でも良い。
 数Ⅲも社会に出たら文系出身者でも必要になるケースが少なくないから、選択できるように改善すべきではないか?文系理系の両方をクロスオーバできる人材を30年前から先端企業が必要としているが、それに見合う人材を学校教育が供給できていない。

*#3309 英語長文words数比較:道立高校<都立高校<開成高校 May 31, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-05-31



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コメント 4

dolce

素晴らしい投稿記事です。ぶろぐ村への投稿はこういう記事が良いと思います。現実の話なのか妄想なのかわからないような者は、参考にならない。今後の記事も期待しています。今回はありがとうございました。
by dolce (2016-06-25 10:21) 

ebisu

dolceさん

いらっしゃいませ。
励ましのコメントありがとうございます。

データに基づいた具体的な教育論議がしたくて、少し調べてアップしました。

「後志のおじさん」というハンドルネームの方から、開成高校の入試問題の英文が優れているという投稿をいただき、そのときに調べてあったワード数を利用しました。

さきほど、弊ブログで扱った、ジャパンタイムズ紙の記事を材料に、1文当たりの語数データを追記しています。

わたしのブログは投稿いただいた方のアイデアを利用させてもらうことが多いのです。

これからも具体的なデータに基づく議論をアップしたいと思いますので、どうぞご愛読ください。

by ebisu (2016-06-25 11:56) 

ペトロナス

2016年度の大学入試センター試験の英語が試験時間80分で約4200語(ここ数年はほぼ一定の語数)なので、「Vivid Ⅱ」の1年間で読む英文はセンター試験の1.15倍なのでかなり少ないですね。




by ペトロナス (2016-06-26 23:19) 

ebisu

ペトロナスさん

センター試験約4200語というのは、問題用紙に載っているすべての語数ではないですか?
道立高校も、都立高校も、開成高校も、長文問題の本文のみの語数で、設問の英文はカウントしておりません。

気になったので、同じ基準で2016年のセンター試験の長文問題の語数をカウントしてみました。

第4問 500
第5問 390
第6問 314

合計1204語でした。
第3問にも少しまとまった文がありますが、200~250語くらいです。

センター試験の長文問題のワード数は開成高校よりも少なく、おおむね都立高校程度と言えるようです。
by ebisu (2016-06-27 02:00) 

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