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18兆円の損失発生(国会での財務大臣発言) [A4. 経済学ノート]

  2,008年4月8日   ebisu-blog#161 
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 日常取引で発生する為替変動差損益は為替損失あるいは為替差益という勘定科目で処理し、決算取引は「その他有価証券評価損益」勘定あるいは「外貨換算損益」勘定で処理する。このような外貨換算会計は日商簿記1級の出題範囲に含まれており、単なる簿記技術だけでなく、経済のメカニズムについてもある程度の理解を必要とする。
 簿記1級を学ぶ諸君へ、国家財政と外貨換算会計に関わる経済の仕組みを具体例を挙げて説明しておきたい。

 外国為替特別会計は大半が米国債で運用されており、その残高は約1兆ドルある。諸外国と違って日本ではリスク管理がまったくされておらず、ドル相場の変動リスクに曝されている。

 国会中継(予算委員会)を見ていたら11時12分(4月7日)に民主党の国会議員の「埋蔵金」に関する質問に応えて、額賀財務大臣が「外為特別会計積立金の20兆円は18兆円の評価損でほとんどなくなる」と発言した。さらりとした言い方だった。臨機応変な質問を期待したが、18兆円もの巨額損失がでたと財務大臣が答えているのに、質問者はその原因も責任も追及しなかった。
 外為特別会計でドル急落による巨額評価損発生の可能性はブログで何度か採り上げた。最近では、4月4日#157『春の雪仏』で17兆円の評価損が3月末に発生しただろうと書いている。該当箇所を太字にしておいた。

 なぜ、このような巨額損失がでたのだろうかという問に答えることは、防ぐことができなかったのだろうかという疑問に答えることでもある。輸出産業や銀行が過去30年にわたり超過利潤をあげられた原因や、犠牲にしたものも明らかになる。
 
 直接の原因はリスク分散しなかったことによる。$一辺倒の運用は日本だけの特異現象である。各国はリスク分散するために、いろいろな通貨で運用しているルーブルやユーロあるいは元などに分散運用していれば、逆に50兆円以上の評価益を出せただろう。先を見て仕事をしないからチャンスを逃し、巨額損失を被ることになる。

 ではなぜリスク分散しなかったのだろうか?
 できなかったのである。ニクソンショック前から、日本は$一辺倒の運用をしてきた。なぜ100兆円も米国債だけで運用して来たのか。
 ドルを買い支えて円安を作り出すためである。日銀のドル買い介入によって、円安が演出され、輸出産業と銀行が超過利潤をあげ続けてきた。輸出産業保護と銀行保護が日本の一貫した政策であった。シナリオを書いて演出してきたのは財務省である。
 たとえば、ゼロ金利政策で預金金利を低く抑え、集めた預金で米国債を買うことで、大手都市銀行は5%近い日米金利差を利用してイージーに利益を上げている。20兆円米国債を買えばだまって1兆円儲かるのである。小学生でもできるイージーな運用で濡れ手に粟の利益を手に入れている。日銀の継続的なドル買い介入によって円安が保証されなければ、ありえない運用だ。

 何を犠牲にして輸出産業と銀行の超過利潤が守られたのか?預金金利を低く抑えることによってである。国内金利を低くして2%以上の日米金利差を30年以上にわたって維持してきたのである。企業や個人の預金金利が輸出産業や銀行の超過利益に付け替えられた

 なぜ国内金利を低く抑えたのか。公共事業へお金をばら撒くために赤字財政を一貫して執ってきた。そのために大量の国債発行が必要になり、金利を低く抑える必要があったのである。その結果、国債発行残高は839兆円(2,007年12月末)である。
 金利が米国並みの5%になったら金利支払いだけで42兆円である。税収全部を国債の金利支払いに振り向けなければならない事態が起きる。プライマリーバランスの確保など絵空事である。だから、異常なゼロ金利政策を続けなければならないのだ。財務省が日銀総裁ポストに固執するのはここにその理由がある日銀がゼロ金利政策をやめて、金利水準を国際相場に近づけた途端に、財政が破綻するのである。欧州並みに3%にしただけでも、年間25兆円が金利支払いで消える。コンスタントに使える税収は40~50兆円しかないのだが、その半分が金利支払いで消えてしまう。財務省出身者で日銀総裁を抑え、、ゼロ金利政策をとり続けさせて国家財政の破綻を回避せざるをえないのである。夕張市と同じ構図がここにある。夕張市では地元信金や大手銀行(みずほ銀行)が破綻規模を拡大したが、国家財政の破綻規模を拡大しているのは財務省と日銀である。

 財務官僚が先を見て仕事をしていないからこういうことになる。省益を守ることに拘泥して、国の行く末を考えない小役人(キャリアー官僚)に任せ続けた結果、政策選択の余地がなくなっているのである。夕張市どころの話しではない、日本が明日にも破綻しかねない状況である。財務省は増税政策かハイパーインフレを起こして解消することしか考えていないのだろう。
 お米10kg当り10万円の時代の到来である。3000万円の貯金が150万円に減価するハイパーインフレが、もうそこまで来ていると覚悟しなければならない。長期的に見れば、円の対ドル相場は一時60円を超えて暴騰した後、ユーロに対して暴落するだろう。円の対ユーロ相場は現在161円付近にある。
 自己責任ということが言われるが、主権在民である。わたしたちが財政の監視を怠り、批判をしなかったツケがまもなく廻ってくる。現実的で具体的な回避策は創れるのだろうか?厳しいが、智慧を絞れば実行可能な回避策がありうる。