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#4486 医大現役合格は長期戦略が決め手 Feb. 16, 2021 [65.a-1 旭川医大現役合格者の軌跡]

 わたしは根っからの企業人である。それも経理に専門分野を置いて、統合システム開発や経営企画管理、学術開発部門など、さまざまな分野で先端的な仕事を繰り返してきた。仕事では常に長期戦略を頭に描いて、やってきた。それをPERTチャートに落として、確認する。大まかなところは頭の中だけでできるから、癖になっている。
 だから、この生徒を預かったときに、国公立大医学部へ現役合格させるためには、いかなる長期戦略がありうるのかということがテーマになった。
 戦略目標は現役での国公立医大合格である。戦略は資源の棚卸も要求する。まずはこの生徒がいまどの程度の能力でどういう教育戦略がベストなのかを、観察を通して策定することだった。

 小学生5年の12月の下旬に両親と一緒に相談に来たので、1月4日から授業をすることにした。父親はわたしの主治医岡田優二先生である。巨大胃癌とスキルス胃癌の併発で診察をお願いし、手遅れだったがどういうわけか生き延びることができた。術後苦しい時期が数年あったが、その後孫が生まれ遊んでやることができた、とってもありがたかった。

 理系で問題になるのは国語。本を読むのが大好きな子は別だが、国語力のアップは時間がかかる。数学の得意な生徒は国語が苦手、なんていうのはよくあるケースだから、すぐに手を打ち、優良な本を選んで音読指導することにした。塾でやるのは読解力をつけることに限定し、入試1年前くらいから過去問やセンター試験問題を解けばいい。古典と漢文は高1のときに外国語のつもりでやれといっただけ。高校で国語の先生に力の応じた問題集を選んでもらえばいい。音読指導はそれまで10年ほどの実績があったから、採り上げるテクストは最初は難易度が高くなく、広くいろんな分野が採録されているものを選び、どの分野に興味を示すか観察した。それで、好奇心のある分野の本へシフトしていった。音読に利用した15冊のリストは弊ブログにある。興味がなければ効果は小さい。好奇心を育むことが大切なのだ。

 個別の議論に入る前に大枠について思いつくところと記しておきたい
 大学受験まで7年間教えることになる。週4日間、2.5時間/日の授業だから、毎日繰り返すことが習慣となり、習慣はいつか性格や思考の鋳型を形作ることになる。だから、最初の1年間が大事だ
 店頭市場へ公開する前の産業用エレクトロニクス輸入専門商社で6年間、一部上場企業で16年間働いたので、高学歴の社員が周りにいた。慶応大学大学院卒、慶応大学医学部、一橋大5人、東大理Ⅲ&院卒、京都大理系、東大の入試が中止になった年が受験でやむなく中大法学部卒となった同僚加藤、慶応・早稲田それぞれ数名。二人の例外を除いて、仕事ができなかった。共通していえることはマネジメントの才能がない。たとえば、赤字の子会社を任されると、赤字を減らしたくて経費を削る、その結果は売上が削減した経費以上に減少して赤字幅が拡大するという風に。ようするにカチンカチンの受験頭なのである。二人の例外はSRL社長だった近藤さんと東証1部上場のベンチャー企業ペプチドリームの代表取締役の窪田氏である。
 窪田氏は早稲田の理系卒だったと思う。SRL学術営業部長だったが、目が出なかった。よい意味で言葉を使うが、「人たらしの名人」なのである。ごろにゃんがうまい。それが仕事で見事に生きた。富士レビオとSRLの創業者である藤田さんが彼に5億円出したと聞いた。起業したものの、間もなくつぶれた。ペプチドリームは二つ目の起業だった、パートナーがよかった。新分野で確立した技術をもった東大の先生があらわれ、彼にパートナーとなることを申し出たようだ。チャンスをゲットした彼はたいしたものだ。

 話を元に戻そう。7年間教えるということは教えた生徒の柔軟な脳に鋳型を造り上げることでもある。答えを見て覚えるような効率的な勉強を排除した。カチンカチンの受験専用脳をつくらぬように配慮したということ。何をどのようにやったかは次回以降に書くことになる。
 目標は高校2年生までに数学と英語は全範囲を終了するということ。つまり1年前倒しで受験に臨むこと。高校3年生の1年間を共通テストよりも難易度の高い問題演習に充てれば、首都圏の進学校に国数英の3科目だけは近づける。この3科目で600点だから、残り3科目300点は成り行き任せ。出たとこ勝負で、きっかけをつかませる。とくに何か策があったわけではない。なくていいのだ。とっても面白いことが起きた。

 2時間半の授業で最初の20分は音読指導に充てた週4回80分の音読指導で、ときどき中身について対話をするように心がけた。彼は気がついていないだろうが、高校生になったときには、大学の文科系の優良なゼミと同じレベルの対話をしていた。どういうレベルの対話になっているかについては生徒本人は比較のしようがないから自覚がない。対話を重ねた私にははっきりそれがわかる。面接官が優れていれば、気がついただろう。既存の塾の枠内ではこんな指導を受ける機会はまったくない、この生徒はついているのだろう。
 大学入学共通テストで現代国語分野では満点。根っから国語が好きで本の虫なら、古典と漢文でも85%の得点が可能だが、そうではない生徒にとっては7割がせいぜい。その通りの結果だった。文学作品にはからっきし興味がわかない生徒である。これはどうしようもない、長期戦略の埒外である。(笑)

 数学は小6の半ばから中1のシリウスを使い、予習方式での学習である。コンパクトな解説と例題を読み、難易度の高い演習問題にすぐに取り掛かる。読んでわかれば解説は時間の無駄、四でもわからないときだけ質問する。一次方程式の応用問題が難所だが、全問解き切った。
 英語は小学生の時にウィンビーへ通っていた。発音だけきちんとしていたら十分、塾では中学生になってから英語を教えた。教えたと言っても、数学と同じ方式でシリウスをやらせただけ。本格的に教えたのは高校生になったからで、高校3年間の教科書を1年半でやり終え、その後はハラリのSapiensを読んだ。質問のあった箇所を生成文法で構文解析した。その内容はカテゴリー「Sapiens」に授業40回分ほど記録してある。大学の英語の授業や外書講読の水準の授業になった。大学院受験は英語に関しては何の問題もないだろう。あとは十数冊医学専門書を原書で読んだら、日本国内の医学系大学院はどこでも合格できるだろう。

 コンパクトな解説を読み、自力で演習問題に取り組む。それを繰り返すことで、新しい分野を独力で読んで理解し、考え、問題を解きながら、理解を深めていくという学習スタイル、思考スタイルが習慣となり、いつしか性格となる。本人はそれが自然に身についていくから自覚がない。
 問題が解けなければすぐに解説集を読み、解法を覚えていく勉強とは正反対の勉強法である。だれでもがこんなスタイルでやれるわけではないから、最初の1年間は授業を通じた観察と見極めが大事なポイントになる

 困ったことがあった。土日に勉強時間が取れないことだ。両親と出かけることが多く、土日の勉強時間が取れない、それは家庭の方針でもあるから、認めざるを得ない。お父さんは根室高校から進学させるので、ハンディがあるので浪人していいと言っていた。わたしにも生徒にもそのつもりはなかった。(笑)
 首都圏で難関大学を目指す子たちは、小4から個別指導塾や大手進学塾の特進コースで学習する。週に30-35時間が標準的な勉強時間である。土日で15-20時間やらないと追いつかない

 しかたがないので、生徒と話して学校の授業時間中に塾用問題集をやることにした。これはトラブルのもとになる、それも覚悟の上だった。学校の算数や数学の授業はこの生徒にとっては既習事項で、難易度もまるで違う。
 小学校では叱られた。「こんな問題集をやっているが百点獲れないだろう」、「とれます」そう言い切り、百点とったら、それ以降は先生は言わなくなった。勝手なうざい生徒だと思われただろう。
 中学校でも3年間、数学と英語は同じスタイルを貫いた。数学の教科書は高校卒業まで開いたことがないと笑っていた。
「知りたいことが教科書には書いていません、シリウスの説明はコンパクトですが、知りたいことが書いてあります」
 塾で4日間×2.5時間=10時間、学校の授業でおよそ週に7時間、こうして不足する土日分の過程学習時間を確保した。強引だったな、彼はほんとうに大変だった。でも、大人を説得して自分の意志を貫くという訓練にはなった。(笑)
 教科担当の先生にはさぞ迷惑だっただろう。担任の先生も教科担当との間に挟まり、苦労されただろう。この生徒は難易度の低い宿題もほとんど拒否した。現役で国公立大医学部へ進学するので、そんな難易度の低い問題で時間を潰す暇はなかったのだ。合理的に考え、判断し、行動できる中学生となっていた
 長期戦略を立てるのはいいが、こうした個別の障害が出てきたときに、臨機応変に処置して、打開策を見つけることも手を抜けない仕事なのだ。予定外が発生してもちゃんとスケジュール通りに仕事するのは、システム開発でPERTチャートを使っていたから、できることなのだろう
 英語の教科書はしっかり音読していたようで、内容を細部にわたって熟知していた。だから、中学校のときには質問に答えるだけで、ほとんど教えていない。どきどき教科書の内容に引っかかるような質問をして、どの程度記憶しているか、すなわち勉強しているか確認していた。音読さえしっかりやっていたら、後はシリウスで十分だ。

 ついでに書くが、小学生で英語教育に効果があるのは成績上位10%ぐらいなものあとはお金の無駄と日本語つまり国語に悪影響が出る日本語語彙が爆発的に増える時期に、英語をやるなんて狂気の沙汰、普通の学力の子どもたちは失うもの(日本語語彙の拡張を見逃し三振)が大きすぎる。英語の発音をマスターし、日本語語彙を飛躍的に増やせる資質のある生徒は10%に満たない。5%もいるのかな
 論より証拠、小学校からずっと英語を習っていたのに高校生になっても英検2級が取れないという生徒はとっても多いのです。この生徒は2年生の時に、共通テストで英語は外部試験で判定となっていたので、準2級と2級を続けざまに受験してハイスコアで合格しています。ライン配信で英作文トレーニングを7か月ほどしたので、語彙を増やして問題集を1冊解けば準1級合格レベルです。大学へ入学したらさっさと準1級はとっておいた方がいい。将来、米国の大学へ進学する可能性がある。

 授業で気をつけたことがある、教え込みすぎるといけないということだ。自ら勉強すると疑問が出てくるし、その疑問のほとんどは自分で考え抜けばわかる、それでもどうにもならないときに質問をぶつけてくる。だから対話スタイルの授業を7年間繰り返し、思考の鋳型を造り上げた。ひたすら問題演習をして、ときどき、鋭い質問をぶつけてくるから、楽しい。
 他の生徒も嫌いな英語でも勉強が進むと質問の内容が違ってくるので、学力アップがすぐにわかる。質問を吟味していればいい。

 現役合格にこだわったのは、生徒自身がそれを切に願っていたからだ。中1の「お迎えテスト」(第一回目の学力テスト4科目)では啓雲中で学年1位だが2位との差が1点だった。次の定期テストは2位と2点差。そこからぐんぐん2位との差が開いていった。定期テストの成績はどうでもいい、とにかく1年間の余裕を作ることが目標だから、先取り学習を進めるのが最優先事項。定期テストの学年トップは棄てていい、学力テストのトップも生き崖の駄賃でいいと言い続けたが、学力テストのトップにはこだわりを捨てられなかったようだ。3年間通して学力テストも定期テストも学年トップを撮り続けた。位置学年50人ほどしかいないからそんなに大したことはなかった。一番いい時で300点満点で280点を超えた。それくらいの生徒なら、根室市内には毎年一人はいる。2月に行われた中3最後の学力テストで、293点をとった生徒がいる。札幌南へ進学予定と聞いている。このように優秀な生徒は毎年数人いる。だから、育て方次第で、根室高校から毎年国公立大医学部や北大総合理系へ進学する生徒が数名いて、当たり前なのだ。それがそうではないのだから、育てるシステムがないということ。20年前には生徒の数が2.5倍くらいいたから、ずいぶんもったいない話だ。
 この生徒は根室高校に進学してからも全国模試で学年トップを取り続けた。最後の共通テストまで学年トップであるが、結果論である。大学入試に焦点を合わせていたので、途中での全国模試で学年トップは「いきがけの駄賃」だった。
 町づくりの基礎は将来この町を担う子どもたちの学力アップから始まるとわたしは考える。

 今回はここまでにしておきます。次回以降をお楽しみに!


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