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#4271 Sapiens (32nd) : page 43 June 18, 2020 [44-3. 原書講読講座 Sapiens]

 第1部第2章"The Tree of knowledge"のまとめsummeriseの箇所で、少し複雑な構文があったので紹介する。

<43.1> To summarise the relationship between biology and history after the Cognitive Revolution:

a.  Biology sets the basic parameters for the behaviour and capacities of Homo sapiens. The whole of history takes place within the bounds of this biological arena.

b.  However, this arena is extraordinarily large, allowing Sapiens to play an asutounding variety of games. Thanks to their ability to invent fiction, Sapiens create more and more complex games, which each generation develops and elaborates even further.
 
c.  Consequently, in order to understand how Sapiens behave, we must describe the historical evolution of their actions. Reffering only to our biological constrains would be like a radio sportscaster who, attending the World Cup football championships, offers his listeners a detailed description fo the playing field rather than an accont  of what the players are doing.

  What games did our Stone Ages ancestors play in the arena of history?

 アンダーラインを引いた箇所が高校生にはなかなかむずかしいようだ。文の中に文が埋め込まれているので、目くらましに遭う。こういう文は生成変形文法と利用すると理解のピントを外さない。意味は基底文deep structureにあるのだ。

Reffering only to our biological constrais would be like a radio sportscaster who, attending the World Cup football championships, offers his listeners a detailed description of the playing field rather than an accont of what the players are doing.

 挿入句を外すだけで、ずいぶんと軽くなる。
Reffering only to our biological constrais would be like a radio sportscaster who offers his listeners a detailed description of the playing field rather than an accont of what the players are doing.

 これなら、高校教科書に出てくるレベルの難易度の文である。挿入句[, attending the World Cup football championships, ]があるだけで、英語の偏差値が75の高校生でも眩暈(めまい)がしてくるのである。挿入句は[, ..... ,]のように、両端がカンマになっているのですぐに見分けられるから、それを外してみたらいい。

 以下は、3つの文に分解したもの。(3)は基底文ではないが、意味を捕まえるためにはここまでで十分である。
(1) Reffering only to our biological constrais would be like a radio sportscaster.
(2) [a radio sportscaster who is] attending the World Cup football championships.

(3) [a radio sportscaster whooffers his listeners a detailed description of the playing field rather than an accont of what the players are doing.


(1) 生物学的な制限にのみ言及することはラジオのスポーツキャスターのようなものだろう。
(2) ワールドカップサッカー大会で実況中継中のラジオスポーツキャスター
(3) 選手たちが何をしているのかをほったらかしにして競技場の構造や色彩や芝の状態などどうでもよいことをこまごまと視聴者に伝えるラジオスポーツキャスター

 スラッシュリーディングならこれだけで十分だ、滑らかな日本語にするにはつなげばいいだけ。翻訳家ではないのだから、翻訳者の柴田さんのような訳文にならなくてもいい。高校生や大学生なら日常使う言葉で表現できたら十分だ。
「生物学的な制限にのみ言及するというのは、ラジオのスポーツキャスターがワールドカップの実況中継中に、競技場で選手たちが何をしているかをほったらかして、競技場の構造や色彩や芝の状態がどうなっているのか事細かくしゃべり続けるようなもの。…」ebisu訳案

 太字で示した部分の訳がちょっと悩ましい。
 arena:①試合場、競技場、アリーナ、リング ②(…の)闘争の場、(…の)界

 さてthis biological arenaは「この生物学的な競技場」と「この生物界」のどちらがいいのだろう?
 主語には定冠詞がついているから、「The whole of history」その意味は「サピエンス全史」である。「サピエンス全史が生物学上の競技場という範囲内で生起している」と読むべきだろう。だから、arenaは「競技場」、gamesはそこで行われる「試合」と訳したい。
 ハラリはarenaとgamesをセットで考えて書いている。競技場とそこで行われる試合を比喩として使っているのだ。

 プロの翻訳家の訳文を参考までに挙げておく。
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 認知革命以降の生物学と歴史の関係をまとめると、以下のようになる。
a 生物学的特性は、ホモ・サピエンスの行動と能力の基本的限界を定める。歴史はすべてこのように定められた生物学的特性の領域(アリーナ)の協会内で発生する。
b とはいえ、このアリーナは途方もなく広いので、サピエンスは驚嘆するほど多様なゲームをすることができる。サピエンスは虚構を発明する能力のお陰で、次第に複雑なゲームを編み出し、各世代がそれをさらに発展させ、練り上げる。
c その結果、サピエンスがどうふるまうかを理解するためには、かれらの行動の歴史的進化を記述しなくてはならない。わたしたちの生物学的な制約にだけ言及するのは、サッカーのワールドカップを観戦しているラジオのスポーツキャスターが、選手たちのしていることの説明ではなく、競技場の詳しい説明を視聴者に提供するようなものだ

 それでは石器時代のわたしたちの祖先は、歴史というアリーナでどのようなゲームをしたのだろう?
 …柴田裕之訳 57頁
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<余談:高3英作文トレーニング>
 1月半ばから、週4回、高校3年生対象に問題文と解説をメール配信でやっている。「英作文1000本ノック」と命名したが、これはNHKラジオ英会話の大西泰斗先生のテキストと解説がベースになっている。必要な範囲で問題を付け加えたり、解説を増やしたりしている。一昨日が75回目、平均して7問題くらいだから、500題を超えたので、どうやら1,000題やれそうです。
 しっかりやってくる生徒、時々やってくる生徒、やっているのかやっていないのかわからない生徒(笑)の三つのグループに分けられる。「わからなけりゃ、主語と動詞だけで十分だよ、そこまでやってきたらそのあとどうしたらいいかは個別に指導するから」と生徒たちには伝えてある。「数学大好き&英語嫌い」な生徒がほとんどなので、てこずっています。
 願わくば、長文対策には弊ブログの「原書講読講座Sapiens」シリーズも利用してもらいたい。

大西が当初から目指しているものは、認知言語学で広く使用されているイメージ・スキーマを一般の学習者にわかり易いように変えたメージを用いた英文法のわかり易い教授である
認知言語学はチャールズ・フィルモア格文フレーム意味論レイコフらが1970年代に提唱し、いわゆる「言語学論争」にまで発展した生成文法左派の生成意味論、そしてロナルド・ラネカーが独自に研究を進めていった空間文法(space grammar:後の認知文法)などが基となって融合的に発展した分野である。

 ノーム・チョムスキーの生成変形文法に出遭ったのは、1974年ころのことだった。経済学の原典を読んでいて、ときどき意味のつかめない箇所が出てきて困っていた。著名な経済学者が訳した良質な翻訳書で調べても納得のいく訳文ではなかった。板橋区常盤台の区立図書館で生成変形文法理論の専門書(大野照男著)『変形文法と英文解釈』見つけて、朝9時から夜6時ころまで1週間ほどで読み切って、ようやく原因が何だったかわかった。著名な先生たちでも文法工程指数の高い文はどうしようもないから、前後関係だけで当て推量の訳をしていることがわかった。論説文なら、基底文に分解・整理すれば、文法工程指数の高い文でも適切に処理できる。
 せっかくだから、生成変形文法の本は本家本元のノーム・チョムスキーの著作も数冊読んでみた。構造言語学に興味があったのは5年もあったかな、そんな程度です。理論のあまり細かい処へ立ち入ると、かえって煩雑になるので、適当なところで妥協しておくのがよい。
 ☆ 複雑な問題に遭遇したら、「必要なだけの小部分に分割すること」
*デカルト『方法序説』より「科学の方法、4つの規則の第二より」

 安井稔先生が高校の先生向けの参考書『英文法要覧』を書かれていますが、これは生成文法をベースにした英文法書です。専門書ではありませんので、とっつきやすいでしょう。安井先生にはチョムスキーの『文法理論の諸相』という本の翻訳があったはず。

 大西先生のイメージに基づく意味解説はとってもわかりやすくて助かるし、英文をどのように書けばいいのか指針になる。なにより、認知言語学は生成文法左派の生成意味論と関係があるらしいから、さらに親近感がわいた。


*https://ja.wikipedia.org/wiki/大西泰斗
**https://ja.wikipedia.org/wiki/認知言語学

*#4272 変形生成文法との出遭い June 18, 2020
https://nimuorojyuku.blog.ss-blog.jp/2020-06-18



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