#4550 学習習慣のない生徒はどれくらいの割合か?:in 根室 May 26, 2021 [71.データに基づく教育論議]
ニムオロ塾は水曜日は休みであり、「ボランティア」の日でもある。今日は2時間高校3年生の英語音読指導をする。今月と来月は高3の生徒に教科書『VIVIDⅢ』をつかって、音読指導と長文読解トレーニングをしている。英語が苦手な生徒はこうしないと、いつまでたっても自分でやろうとしない、いやできないのである。どうしていいのかわからないのだ。音読しながら語順通りに理解する読み方を「伝授」したい。
英語が苦手な生徒でも、2時間の授業で15回、合計30時間この音読と語順通りの読解トレーニングをやれば、後は自力で長文問題をやれるようになることを昨年の3年生5人が実証してくれた。数学は得意だが英語がとっても苦手だった生徒たちである。根室高校の英語の先生が同じことをやろうとしたら、部活指導を担当していたら無理だ。現実は部活の方が優先である、本業の授業よりも部活重視の学校のシステムができあがってしまっている。それは登攀不可能な絶壁のように聳(そび)え立って見えているのだろう。小さな私塾には簡単なことが、学校という組織では不可能になる、何たる本末転倒か?三人に一人くらいは部活を担当しない先生をつくり、やれるところから始めたらいい。
極東の個別指導の小さな塾は現在生徒数17人である。最大1クラス7名までだが、入塾当初は数か月間毎日補習しないといけない生徒がいるので、これぐらいが望ましい。
平均以下の学力生徒の学力アップに魔法はなく、手間が数倍かかるし、かけている。それでも、決められた日の決められた時間に塾へ来ない生徒は2割はいる。部活で疲れたとか、いろいろ言い訳はある。ようするに生活全般がルーズになっているのだ。個々の例は後で出てくるだろう。2002年に根室へ戻って塾を開いた当初は、野球部の生徒で、学力アップしたいので、部活担当の先生に申し出て、月曜日は部活を休み、まっすぐ塾に来て勉強した生徒がいた。半年ほどで見事に学力をアップ(数学と英語が両方とも50点以上アップ)した。ああいう生徒が少なくなった、いやほとんどいなくなったといった方が的を射ている。
72歳になったから、そんなに塾を続けるつもりはない。70歳を目安にしていたからもうタイムオーバーなのだ。
高3が6名卒業していって、四月からは十名前後になる予定を立てていた。じっくり1年間教えてリタイアしたいと。ところが案に相違して9名の生徒が入塾した。それぞれ課題を抱え重要な時期だ。
70歳前後でやめるつもりだったので、2016年5月7日に縮小のために日専連ビルから自宅へ教室を移し、折込の宣伝はその前にやめ、電話帳での有料広告はもっと前にやめた。だから、新しく入ってきた生徒は全員「口コミ」である。卒塾生が社会人になって周囲の同僚へ紹介してくれたり、部活の先輩の親の紹介だったり、同級生に誘われたり、さまざまである。生徒たちや保護者の情報ネットワークは案外強力だ。そういうわけで予定したようには生徒が減らない。
残り時間が少なくなってきたことは事実だから、データを挙げていくつか書き残しておきたい。
通塾している生徒たちの学力分布はじつに広い。(笑)
ピン(3月には根室高校から旭川医大へ現役合格を果たした生徒が出た)からキリまでという言い方は誤解を招く恐れがあるので、いくつか実測データを挙げてみたい。
例えば、計算速度で見ると、ピンとキリでは1:30なんてことがある。速い者が30題やるのに、一番遅い生徒は1題しかできない。30倍の差があるのにはわたしも驚いた、計算力にはそれほど技能差が大きい。つまり訓練効果が非常に大きい分野だということ。計算能力をアップするには古典的なツールである珠算の効果がナンバーワンである。四則計算(加減乗除)の計算技能アップには珠算をやるのが一番効果が大きい。わたしは日商珠算能力検定1級取得者で半分の時間で合格点が取れるので、おおよそ全朱連の3-4段相当であるから、計算技能のアップに珠算のトレーニングがどれほど効果があるか経験で知っている。実用上は初段で十分である。珠算を習えば10人に1-2人は初段試験に1-2年で合格できる。(笑)
日本語音読速度なら3倍くらいの差があるのは普通である。先読みできる生徒は、流れるように読めるので速度が大きく正確に読む。語彙力不足の生徒は漢字を飛ばし読みしているから、ところどころ内容が理解できないし、文脈が読めない。読みなれていないと、戻り読みが頻繁に生じて流れが止まるし、読んでも字面を追っているだけで、意味として頭に入ってきていない。音読させてよく観察すれば誰にでもよくわかることだ。そして速度が速いほど内容理解が深いということが起きる。
(面白い生徒が一人いた。読書速度が一番速かった生徒である。わたしの本棚から面白そうな本を持ち出しては「先生これ借りていい?」と小説から哲学書まで片っ端から読んでいた。1週間ほどたつと感想を言って返却する。もって行った本に関連のする好奇心をくすぐった文庫本を買ってはわたしのところへもってきて「これ面白かったから先生も読んでみたら?」ともって来る。なるほど、本を選ぶセンスがいいことが分かった。わたしが選ばないような若者向けのゲームが話題の小説は何冊かそうして読んだ。この生徒は芸術方面のセンスが抜群に良かった。英語と数学は嫌いで、何のために塾に来ているのかわからないが、生物など自分が好きな他の科目を塾で独習していた。本が好きだから、小説を原書(『風と共に去りぬ』とダーレンシャンの蜘蛛の出てくる小説)で読もうと誘ったが、2度チャレンジして、10頁ほどで2度とも挫折。受験勉強はゼロ、動物が大好きでいろんなものを飼っていた。それで農業大学校へ進学した。農業試験場に勤務したいと言っていたので国立大学卒業でないと無理と伝えた。帯広畜産大へ進学したいので英語を教えてと、農業大学校2年生の夏に来た。一日数時間教えただけだから、合格は無理だと思っていたら、帯広畜産大へ3年次編入試験に合格、そのまますんなり卒業。運の強い子だ。現役で帯広畜産へ合格したのと結果は同じことになった。
ブラスバンド部と写真部で活動し、習字は「学生チャンピオン」の腕前、Y字バランスのできるほどの身体の柔軟性もある。とっても面白い生徒だった。漫画家になれば年間1億円以上稼げるのではと思うほどそちらのセンスがいい。眼から描き始めるので表情が生きている。あれは一流の漫画家にしかできない技だ。周りに特別に絵の上手な同級生や劇画家になった者がいるので、どの程度の力量かはその友人と比べることで判断できる。本の虫恐るべし、この生徒が読書速度が一番速かった。自分の才能を持て余しているのではないかな。どんな人生を選択することになるのか、選択肢が多すぎる。(笑))
視写速度(たとえば、北海道新聞のコラム「卓上四季」を書き写す)でも速い者と遅い者では2倍の差(最速の生徒で14分、一番遅かった生徒は27分であった)がある。意味のカタマリごとに脳に一時記憶して、一気に書ける生徒は視写速度が大きい。一語一語見て書く生徒はとっても遅くなる。英語のライティングでも同じことが起きる。
これらはすべて、過去に実測したデータをもとに書いている。
たとえば、「読み・書き・計算」能力が標準より2倍あるものと半分の者では、前者が1時間勉強したら、後者は4時間勉強しないと追いつけない。
実際には読み書き計算能力に秀でた者ほど勉強するのが楽しくて、集中して長時間勉強する傾向があるから、学力差は年々拡大していく。小学校で6年間、中学校で9年間そういう差が広がり続けたら、高校3年間でもさらに学力差が広がってしまうことは想像に難くないし、実際にそういうことが起きている。小学1年生と2年生の時の家庭学習習慣の躾がとっても大事だということ。そこで失敗している親が多い。そこで失敗したら、中学生までに6年間家庭学習しないという習慣がついてしまう。勉強の愉しさは家庭学習して、知らないことが分かったことが喜びとなったときに実感できるが、そういう経験がないまま6年間を無為に過ごして、中学生になる。厄介なのは読書や家庭学習習慣がないことが6年間も続けば、それがその子どもの性格になるということ。
本も読まない、家で勉強する習慣もない、テストの1週間前だけ勉強する生徒はおそらく根室では中学生に半数くらいいるだろう。親やジジババが育てたように子は育っている。もちろん、しっかりと家庭学習習慣を育んでいる親もいるが、生徒の学力分布から推して10%程度だろう。首都圏と比べると極端に小さい。
個別指導している17名の生徒たちのうち、数学の勉強を自力ではできない者は6名(35.3%)。これは入塾当初そうだった生徒でいまはそうではないものを含んでいる。
家庭学習しろと言われても途方に暮れるだけで、どうしていいのかわからない。中学生なら、小学校の分数計算や少数の四則演算までさかのぼって、穴だらけになっている知識を埋めてやらなければならない。生徒の自尊心の問題があるので、中学校の問題集を使ってそれをやるのである。文章題の解き方も、文章を図や表にするところから教える。文章からいきなり式は立たないからだ。できる生徒は描かずともそういうことを頭の中でやっている。高校生では関数の問題を解くのにグラフの概形を描くのはあたりまえだ。小中学生だって、表や図を書けなければ文章題は解けない。
もちろん学校の授業でも、表や図の書き方は教えているはずだが、しかし、見て理解したことと自分が独力で適切な表や図を書けることは違う。学力テストの結果である得点通知票から学力分布を読むと、そこまでトレーニングがなされていないということだ。先生たちだってわかっているはず。しかし、そういう低学力生徒の学力アップはとてつもなく手間がかかるので、逃げている。部活指導の方がずっと楽なのだ。音読指導と計算トレーニング、そして表や図の書き方の「伝授」はとっても手がかかる。でも、それでわかるようになったときの生徒はじつにいい顔をしている。
家庭学習習慣がまったくない生徒が多いのは根室の特徴だろう。入塾当初に普段の学習習慣のない生徒は8人(47.1%)である。「ふだん学習習慣がない」というのは、試験直前と試験期だけ勉強する生徒を含んでいる。だからゼロではないが、試験期間を除けば、部活三昧で家庭学習をしないとか、家に帰ってくるとスマホをいじってなんとなく時間を潰し、疲れ切って寝てしまう、そういうタイプが多い。
もちろん、そういう生徒たちは読書する時間もない。読書は精神年齢を引き上げる効果があるが、読書をまったくしない生徒たちは、語彙力不足で授業で先生の使う言葉が理解できなくなる。授業が理解できなければ、退屈なので授業中に私語をすることになる。授業中に歩く生徒すら出てくる。言ってもまるで言うことを効かないので、先生も注意することに疲れて、放置するようになる。いまや根室高校でもそういう学級崩壊状態が見られるようになってしまった。時々、先生の説明が聞こえなくなれば、授業内容が理解できない生徒が増える。語彙が貧弱だと、適切な漢字に頭の中で変換できずに意味がわからなくなる。「けいようしはめいしをしゅうしょくする」と中学校の先生が国語や英語の時間に説明したとしよう。「就職」という漢字を頭に思い浮かべた生徒は、意味が理解できない。本を読まない生徒は語彙が貧弱で、こういうことが頻繁に起きる。「形容詞は名詞を修飾する」と適切な漢字に変換できて初めて意味が伝わるのである。それがモノの道理というものだ。
高校生になると教科書のレベルが上がる。とくに現代国語Bには難解な評論が出てくるが歯が立たない。アニメのノベライズもの程度しか読んだことのない生徒に高度な評論が独力で理解できるはずがないのである。数学の問題文の題意の読み取りは、国語の読解力とはちょっと違った特殊な部分があるが、それも基礎は日本語の読解力が支えている。
語彙力については、『中学入試【小学3~6年生用】文章が読める!わかる!書ける! 言葉力ドリル実践編』(学習研究社 2008年初版刊)を中3の生徒たちにやってもらった結果の点数データが、弊ブログのどこかにある。「先生、そんなのできるに決まってるじゃん(笑)」、やってみたら真っ青、「おれたちこんなにひどいのか」。この時やってみた4人の生徒が全員50点以下、いや50点台が一人いたかな。授業を聞いてもわからないのはあたりまえです。
生徒たちの読書力がどの程度かについてもデータがある。
ふだん本を読む習慣のない生徒は6人(35.3%)である。この生徒たちは先生の説明の2割くらいは理解できない。2割理解できなかったら、話の文脈を読むことができない。つまり、先生の説明がほとんど理解できないということだ。語彙力が貧弱で聞き取った言葉を頭の中で適切な漢字に変換できないからである。
わたしたちは日本語で考えているだけでなく、音声言語を瞬時に漢字に置き換えることで意味を理解しているのだ。
日本語の優良なテクストを選んで、日本語の音読指導を十数年間やってみたが、数年前から希望する生徒だけに変更した。トレーニングしたくない生徒があらわれ、そういう生徒に無理強いしても仕方がないことに気がついた。希望者だけだから、学力の高い生徒は難解なテクストを選んで読解スキルをアップする。学力の低い生徒は学力や生徒の語彙力に応じた本を選ぶ。生徒がもっている読書力のレベルにあったテクストを選べる。
ここでも学力の低い生徒の音読指導は十倍以上の手間がかかる。こんなことは学校ではやりたがらないだろう。部活を半分くらいやめてグループ別に音読指導体制を敷かないといけないことになる。それほど根室の生徒たちの読書力は深刻な問題を抱えている。程度の問題はあるが、全国の中学生に起きていることだろうと思う。
かくして、根室の市街化地域の中学生の学力テストの平均点は、釧路管内と根室管内18校で最底辺にある。中標津町や別海町の中学校よりも下である。別海中央に比べたら、かなり下なのだ。別海町は教育長も保護者も先生もこの数年間教育への関心が高かった。真籠教育長や別海中央には青坂さんという校長がいた。根室にも佐藤さんという啓雲中学校の校長が荒れ放題だった学校を大石先生と立て直した。要するに人なのだ。別海中央中学校と根室の市街化地域の3校は2年前に五科目300点満点で平均点が30点以上開いていた。いまもその差は変わらないだろう。
生まれ故郷の子どもたちの学力が振るわないのは何とも歯がゆい。 だからこそ、今自分にできることを坦々とやるのみ。昨年1月14日からネット配信を始めた英作文問題と解説集は740回分、5550題出来上がっている。4判の紙で760頁書き溜まった。そういうことだから、英語の授業の内容に関しては今年が最良のものになりそうだ。
生徒の人数が予定通りにはいかないことも含めて塾稼業は楽しいのである。何か工夫しろということか。(笑)
<釧路根室管内18校の学力テスト平均点比較データ>
<参考>
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英語が苦手な生徒でも、2時間の授業で15回、合計30時間この音読と語順通りの読解トレーニングをやれば、後は自力で長文問題をやれるようになることを昨年の3年生5人が実証してくれた。数学は得意だが英語がとっても苦手だった生徒たちである。根室高校の英語の先生が同じことをやろうとしたら、部活指導を担当していたら無理だ。現実は部活の方が優先である、本業の授業よりも部活重視の学校のシステムができあがってしまっている。それは登攀不可能な絶壁のように聳(そび)え立って見えているのだろう。小さな私塾には簡単なことが、学校という組織では不可能になる、何たる本末転倒か?三人に一人くらいは部活を担当しない先生をつくり、やれるところから始めたらいい。
極東の個別指導の小さな塾は現在生徒数17人である。最大1クラス7名までだが、入塾当初は数か月間毎日補習しないといけない生徒がいるので、これぐらいが望ましい。
平均以下の学力生徒の学力アップに魔法はなく、手間が数倍かかるし、かけている。それでも、決められた日の決められた時間に塾へ来ない生徒は2割はいる。部活で疲れたとか、いろいろ言い訳はある。ようするに生活全般がルーズになっているのだ。個々の例は後で出てくるだろう。2002年に根室へ戻って塾を開いた当初は、野球部の生徒で、学力アップしたいので、部活担当の先生に申し出て、月曜日は部活を休み、まっすぐ塾に来て勉強した生徒がいた。半年ほどで見事に学力をアップ(数学と英語が両方とも50点以上アップ)した。ああいう生徒が少なくなった、いやほとんどいなくなったといった方が的を射ている。
72歳になったから、そんなに塾を続けるつもりはない。70歳を目安にしていたからもうタイムオーバーなのだ。
高3が6名卒業していって、四月からは十名前後になる予定を立てていた。じっくり1年間教えてリタイアしたいと。ところが案に相違して9名の生徒が入塾した。それぞれ課題を抱え重要な時期だ。
70歳前後でやめるつもりだったので、2016年5月7日に縮小のために日専連ビルから自宅へ教室を移し、折込の宣伝はその前にやめ、電話帳での有料広告はもっと前にやめた。だから、新しく入ってきた生徒は全員「口コミ」である。卒塾生が社会人になって周囲の同僚へ紹介してくれたり、部活の先輩の親の紹介だったり、同級生に誘われたり、さまざまである。生徒たちや保護者の情報ネットワークは案外強力だ。そういうわけで予定したようには生徒が減らない。
残り時間が少なくなってきたことは事実だから、データを挙げていくつか書き残しておきたい。
通塾している生徒たちの学力分布はじつに広い。(笑)
ピン(3月には根室高校から旭川医大へ現役合格を果たした生徒が出た)からキリまでという言い方は誤解を招く恐れがあるので、いくつか実測データを挙げてみたい。
例えば、計算速度で見ると、ピンとキリでは1:30なんてことがある。速い者が30題やるのに、一番遅い生徒は1題しかできない。30倍の差があるのにはわたしも驚いた、計算力にはそれほど技能差が大きい。つまり訓練効果が非常に大きい分野だということ。計算能力をアップするには古典的なツールである珠算の効果がナンバーワンである。四則計算(加減乗除)の計算技能アップには珠算をやるのが一番効果が大きい。わたしは日商珠算能力検定1級取得者で半分の時間で合格点が取れるので、おおよそ全朱連の3-4段相当であるから、計算技能のアップに珠算のトレーニングがどれほど効果があるか経験で知っている。実用上は初段で十分である。珠算を習えば10人に1-2人は初段試験に1-2年で合格できる。(笑)
日本語音読速度なら3倍くらいの差があるのは普通である。先読みできる生徒は、流れるように読めるので速度が大きく正確に読む。語彙力不足の生徒は漢字を飛ばし読みしているから、ところどころ内容が理解できないし、文脈が読めない。読みなれていないと、戻り読みが頻繁に生じて流れが止まるし、読んでも字面を追っているだけで、意味として頭に入ってきていない。音読させてよく観察すれば誰にでもよくわかることだ。そして速度が速いほど内容理解が深いということが起きる。
(面白い生徒が一人いた。読書速度が一番速かった生徒である。わたしの本棚から面白そうな本を持ち出しては「先生これ借りていい?」と小説から哲学書まで片っ端から読んでいた。1週間ほどたつと感想を言って返却する。もって行った本に関連のする好奇心をくすぐった文庫本を買ってはわたしのところへもってきて「これ面白かったから先生も読んでみたら?」ともって来る。なるほど、本を選ぶセンスがいいことが分かった。わたしが選ばないような若者向けのゲームが話題の小説は何冊かそうして読んだ。この生徒は芸術方面のセンスが抜群に良かった。英語と数学は嫌いで、何のために塾に来ているのかわからないが、生物など自分が好きな他の科目を塾で独習していた。本が好きだから、小説を原書(『風と共に去りぬ』とダーレンシャンの蜘蛛の出てくる小説)で読もうと誘ったが、2度チャレンジして、10頁ほどで2度とも挫折。受験勉強はゼロ、動物が大好きでいろんなものを飼っていた。それで農業大学校へ進学した。農業試験場に勤務したいと言っていたので国立大学卒業でないと無理と伝えた。帯広畜産大へ進学したいので英語を教えてと、農業大学校2年生の夏に来た。一日数時間教えただけだから、合格は無理だと思っていたら、帯広畜産大へ3年次編入試験に合格、そのまますんなり卒業。運の強い子だ。現役で帯広畜産へ合格したのと結果は同じことになった。
ブラスバンド部と写真部で活動し、習字は「学生チャンピオン」の腕前、Y字バランスのできるほどの身体の柔軟性もある。とっても面白い生徒だった。漫画家になれば年間1億円以上稼げるのではと思うほどそちらのセンスがいい。眼から描き始めるので表情が生きている。あれは一流の漫画家にしかできない技だ。周りに特別に絵の上手な同級生や劇画家になった者がいるので、どの程度の力量かはその友人と比べることで判断できる。本の虫恐るべし、この生徒が読書速度が一番速かった。自分の才能を持て余しているのではないかな。どんな人生を選択することになるのか、選択肢が多すぎる。(笑))
視写速度(たとえば、北海道新聞のコラム「卓上四季」を書き写す)でも速い者と遅い者では2倍の差(最速の生徒で14分、一番遅かった生徒は27分であった)がある。意味のカタマリごとに脳に一時記憶して、一気に書ける生徒は視写速度が大きい。一語一語見て書く生徒はとっても遅くなる。英語のライティングでも同じことが起きる。
これらはすべて、過去に実測したデータをもとに書いている。
たとえば、「読み・書き・計算」能力が標準より2倍あるものと半分の者では、前者が1時間勉強したら、後者は4時間勉強しないと追いつけない。
実際には読み書き計算能力に秀でた者ほど勉強するのが楽しくて、集中して長時間勉強する傾向があるから、学力差は年々拡大していく。小学校で6年間、中学校で9年間そういう差が広がり続けたら、高校3年間でもさらに学力差が広がってしまうことは想像に難くないし、実際にそういうことが起きている。小学1年生と2年生の時の家庭学習習慣の躾がとっても大事だということ。そこで失敗している親が多い。そこで失敗したら、中学生までに6年間家庭学習しないという習慣がついてしまう。勉強の愉しさは家庭学習して、知らないことが分かったことが喜びとなったときに実感できるが、そういう経験がないまま6年間を無為に過ごして、中学生になる。厄介なのは読書や家庭学習習慣がないことが6年間も続けば、それがその子どもの性格になるということ。
本も読まない、家で勉強する習慣もない、テストの1週間前だけ勉強する生徒はおそらく根室では中学生に半数くらいいるだろう。親やジジババが育てたように子は育っている。もちろん、しっかりと家庭学習習慣を育んでいる親もいるが、生徒の学力分布から推して10%程度だろう。首都圏と比べると極端に小さい。
個別指導している17名の生徒たちのうち、数学の勉強を自力ではできない者は6名(35.3%)。これは入塾当初そうだった生徒でいまはそうではないものを含んでいる。
家庭学習しろと言われても途方に暮れるだけで、どうしていいのかわからない。中学生なら、小学校の分数計算や少数の四則演算までさかのぼって、穴だらけになっている知識を埋めてやらなければならない。生徒の自尊心の問題があるので、中学校の問題集を使ってそれをやるのである。文章題の解き方も、文章を図や表にするところから教える。文章からいきなり式は立たないからだ。できる生徒は描かずともそういうことを頭の中でやっている。高校生では関数の問題を解くのにグラフの概形を描くのはあたりまえだ。小中学生だって、表や図を書けなければ文章題は解けない。
もちろん学校の授業でも、表や図の書き方は教えているはずだが、しかし、見て理解したことと自分が独力で適切な表や図を書けることは違う。学力テストの結果である得点通知票から学力分布を読むと、そこまでトレーニングがなされていないということだ。先生たちだってわかっているはず。しかし、そういう低学力生徒の学力アップはとてつもなく手間がかかるので、逃げている。部活指導の方がずっと楽なのだ。音読指導と計算トレーニング、そして表や図の書き方の「伝授」はとっても手がかかる。でも、それでわかるようになったときの生徒はじつにいい顔をしている。
家庭学習習慣がまったくない生徒が多いのは根室の特徴だろう。入塾当初に普段の学習習慣のない生徒は8人(47.1%)である。「ふだん学習習慣がない」というのは、試験直前と試験期だけ勉強する生徒を含んでいる。だからゼロではないが、試験期間を除けば、部活三昧で家庭学習をしないとか、家に帰ってくるとスマホをいじってなんとなく時間を潰し、疲れ切って寝てしまう、そういうタイプが多い。
もちろん、そういう生徒たちは読書する時間もない。読書は精神年齢を引き上げる効果があるが、読書をまったくしない生徒たちは、語彙力不足で授業で先生の使う言葉が理解できなくなる。授業が理解できなければ、退屈なので授業中に私語をすることになる。授業中に歩く生徒すら出てくる。言ってもまるで言うことを効かないので、先生も注意することに疲れて、放置するようになる。いまや根室高校でもそういう学級崩壊状態が見られるようになってしまった。時々、先生の説明が聞こえなくなれば、授業内容が理解できない生徒が増える。語彙が貧弱だと、適切な漢字に頭の中で変換できずに意味がわからなくなる。「けいようしはめいしをしゅうしょくする」と中学校の先生が国語や英語の時間に説明したとしよう。「就職」という漢字を頭に思い浮かべた生徒は、意味が理解できない。本を読まない生徒は語彙が貧弱で、こういうことが頻繁に起きる。「形容詞は名詞を修飾する」と適切な漢字に変換できて初めて意味が伝わるのである。それがモノの道理というものだ。
高校生になると教科書のレベルが上がる。とくに現代国語Bには難解な評論が出てくるが歯が立たない。アニメのノベライズもの程度しか読んだことのない生徒に高度な評論が独力で理解できるはずがないのである。数学の問題文の題意の読み取りは、国語の読解力とはちょっと違った特殊な部分があるが、それも基礎は日本語の読解力が支えている。
語彙力については、『中学入試【小学3~6年生用】文章が読める!わかる!書ける! 言葉力ドリル実践編』(学習研究社 2008年初版刊)を中3の生徒たちにやってもらった結果の点数データが、弊ブログのどこかにある。「先生、そんなのできるに決まってるじゃん(笑)」、やってみたら真っ青、「おれたちこんなにひどいのか」。この時やってみた4人の生徒が全員50点以下、いや50点台が一人いたかな。授業を聞いてもわからないのはあたりまえです。
生徒たちの読書力がどの程度かについてもデータがある。
ふだん本を読む習慣のない生徒は6人(35.3%)である。この生徒たちは先生の説明の2割くらいは理解できない。2割理解できなかったら、話の文脈を読むことができない。つまり、先生の説明がほとんど理解できないということだ。語彙力が貧弱で聞き取った言葉を頭の中で適切な漢字に変換できないからである。
わたしたちは日本語で考えているだけでなく、音声言語を瞬時に漢字に置き換えることで意味を理解しているのだ。
日本語の優良なテクストを選んで、日本語の音読指導を十数年間やってみたが、数年前から希望する生徒だけに変更した。トレーニングしたくない生徒があらわれ、そういう生徒に無理強いしても仕方がないことに気がついた。希望者だけだから、学力の高い生徒は難解なテクストを選んで読解スキルをアップする。学力の低い生徒は学力や生徒の語彙力に応じた本を選ぶ。生徒がもっている読書力のレベルにあったテクストを選べる。
ここでも学力の低い生徒の音読指導は十倍以上の手間がかかる。こんなことは学校ではやりたがらないだろう。部活を半分くらいやめてグループ別に音読指導体制を敷かないといけないことになる。それほど根室の生徒たちの読書力は深刻な問題を抱えている。程度の問題はあるが、全国の中学生に起きていることだろうと思う。
かくして、根室の市街化地域の中学生の学力テストの平均点は、釧路管内と根室管内18校で最底辺にある。中標津町や別海町の中学校よりも下である。別海中央に比べたら、かなり下なのだ。別海町は教育長も保護者も先生もこの数年間教育への関心が高かった。真籠教育長や別海中央には青坂さんという校長がいた。根室にも佐藤さんという啓雲中学校の校長が荒れ放題だった学校を大石先生と立て直した。要するに人なのだ。別海中央中学校と根室の市街化地域の3校は2年前に五科目300点満点で平均点が30点以上開いていた。いまもその差は変わらないだろう。
生まれ故郷の子どもたちの学力が振るわないのは何とも歯がゆい。 だからこそ、今自分にできることを坦々とやるのみ。昨年1月14日からネット配信を始めた英作文問題と解説集は740回分、5550題出来上がっている。4判の紙で760頁書き溜まった。そういうことだから、英語の授業の内容に関しては今年が最良のものになりそうだ。
生徒の人数が予定通りにはいかないことも含めて塾稼業は楽しいのである。何か工夫しろということか。(笑)
<釧路根室管内18校の学力テスト平均点比較データ>
#4099 学力テスト総合A18校科目別データ Oct. 11, 2019
#3038 今日からスタート:新教室を写真で紹介 May 7, 2015
<参考>
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<6. 日本語音読トレーニング:国語力が学力の基礎>
最後に、日本語音読トレーニングで5年間に読破した本のリストを挙げておく。件(くだん)の生徒は高1で日本語音読トレーニングは終了している。17冊、レベルを上げながら、たっぷりやった。
生徒と交代で輪読するし、速度を変えて読むので、スキルス胃癌を患い胃と胆嚢を全摘出したわたしには、体力への負荷が大きい。だから、この2年間は本気でやろうという生徒にだけ対応している。休みの水曜日に日本語音読トレーニングを充てていた。昨年は1時間でへとへと。寄る年波には勝てません、年々体力が落ちてます。でも、まだがんばれます。(笑)
〈日本語音読リスト〉…
*#3726 日本語音読トレーニングのススメ:低下する学力に抗して Apr. 18,2018
https://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2018-04-18-1
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<7. 国語力アップのための音読トレーニング >
中2のトップクラスのある生徒の国語力を上げるために、いままで音読指導をしてきた。読んだ本のリストを書き出してみると、
○『声に出して読みたい日本語』
○『声に出して読みたい日本語②』
○『声に出して読みたい日本語③』
○『坊ちゃん』夏目漱石
○『羅生門』芥川龍之介
○『走れメロス』太宰治
○『銀河鉄道の夜』宮沢賢治
『五重塔』幸田露伴
『山月記』中島敦
●『読書力』斉藤隆
●『国家の品格』藤原正彦
●『すらすら読める風姿花伝・原文対訳』世阿弥著・林望現代語訳
●『日本人は何を考えてきたのか』斉藤隆
●『語彙力こそが教養である』斉藤隆
●『日本人の誇り』藤原正彦(数学者)
◎『福翁自伝』福沢諭吉
◎『近代日本150年 科学技術総力戦体制の破綻』山本義隆(物理学者)
(○印は、ふつうの学力の小学生と中学生の一部の音読トレーニング教材として使用していた。●印の本はふつうの学力の中学生の音読トレーニング教材として授業で使用した実績がある。◎は大学生でも語彙力上級者レベルにふさわしいテクストである。平均的な語彙力の大学生には手が届かぬ。
音読トレーニング授業はボランティアで実施、ずっと強制だったが、2年前から希望者のみに限定している。本気でやる気にならないと効果が小さいので、お互いに時間の無駄。)
・・・
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<6. 日本語音読トレーニング:国語力が学力の基礎>
最後に、日本語音読トレーニングで5年間に読破した本のリストを挙げておく。件(くだん)の生徒は高1で日本語音読トレーニングは終了している。17冊、レベルを上げながら、たっぷりやった。
生徒と交代で輪読するし、速度を変えて読むので、スキルス胃癌を患い胃と胆嚢を全摘出したわたしには、体力への負荷が大きい。だから、この2年間は本気でやろうという生徒にだけ対応している。休みの水曜日に日本語音読トレーニングを充てていた。昨年は1時間でへとへと。寄る年波には勝てません、年々体力が落ちてます。でも、まだがんばれます。(笑)
〈日本語音読リスト〉…
*#3726 日本語音読トレーニングのススメ:低下する学力に抗して Apr. 18,2018
https://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2018-04-18-1
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<7. 国語力アップのための音読トレーニング >
中2のトップクラスのある生徒の国語力を上げるために、いままで音読指導をしてきた。読んだ本のリストを書き出してみると、
○『声に出して読みたい日本語』
○『声に出して読みたい日本語②』
○『声に出して読みたい日本語③』
○『坊ちゃん』夏目漱石
○『羅生門』芥川龍之介
○『走れメロス』太宰治
○『銀河鉄道の夜』宮沢賢治
『五重塔』幸田露伴
『山月記』中島敦
●『読書力』斉藤隆
●『国家の品格』藤原正彦
●『すらすら読める風姿花伝・原文対訳』世阿弥著・林望現代語訳
●『日本人は何を考えてきたのか』斉藤隆
●『語彙力こそが教養である』斉藤隆
●『日本人の誇り』藤原正彦(数学者)
◎『福翁自伝』福沢諭吉
◎『近代日本150年 科学技術総力戦体制の破綻』山本義隆(物理学者)
(○印は、ふつうの学力の小学生と中学生の一部の音読トレーニング教材として使用していた。●印の本はふつうの学力の中学生の音読トレーニング教材として授業で使用した実績がある。◎は大学生でも語彙力上級者レベルにふさわしいテクストである。平均的な語彙力の大学生には手が届かぬ。
音読トレーニング授業はボランティアで実施、ずっと強制だったが、2年前から希望者のみに限定している。本気でやる気にならないと効果が小さいので、お互いに時間の無駄。)
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2021-05-26 10:54
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コメント(2)
さすがにebisu先生はすごい!!と思いました。先生は得られた知見をまとめて書き残している。見習わなければいけないと思いますが、阿保の私はもう気力もなくなり、ただ惰性でバドクラブを主宰しています。
楽しみは練習会の後の娘と息子との昼ご飯です。彼らの話を聞いていると私が小学生の時に先生や親から聞いた話のように感じられます。要するに教育はやる気をどう引き出すか、です。遊びでも良いし、LOVEでも構わない。
今娘と息子が盛り上がっているのはドラゴン桜です。でも私が受けた終戦直後の教育の焼き直しのように思えて仕方がありません。
私はコンピュータ信者ですが、日本の劣化をICTが加速するとしか思えません。ICTやAIは情報格差を拡大し、インチキ事件の被害者を増やすとしか思えなくなりました。この点はドラゴン桜と見解が違うようですが。
by tsuguo-kodera (2021-05-27 12:20)
koderaさん
わたしもコンピュータ信者の一人のようです。仕事でかかわってきましたから。
コンピュータは学力格差を拡大するだけでなく、富の(経済)格差もますます拡大するのでしょう。
まれに、ツールをうまく使いこなしてアップルやamazonやファイスブックの創業者のように這い上がる者が出ても社会の二分化傾向はそのことによってますます加速されることがあっても歯止めはかからないのでしょう。
いずれにしろ、コンピュータもICTもAIも道具でして、上手に使う少数の者とそうでない大多数の者とに分岐していくのはどうしようもありません。賭博にたとえると、賭場を開帳する胴元とそれを利用する客のような関係。胴元は客から一方的にお金を吸い上げます。そういうシステムが巨大化して地球の隅々にまで堂々と根を張る。
こういうツールが指数関数的に性能をアップして行ったら、それを使う人間自身がどこかで進化しないと、ツールが独立して人を使う世界が到来します。
そういう世界でも衣食住を保障されていたら満足できる人間が大多数なのかもしれませんね。
中国はとっくに監視社会に突入していますが、そういう枠組みで満足して生きている「中国人民」が多いのでしょう。「慣れ」が生ずるのでしょうね。衣食住に困らなければ、他は不自由でも何とも感じなくなる。人の不幸はしょせんは他人事です。共感をもたなければ、痛みも伝わってきません。
不平不満分子は強制収容所で再教育、再教育の効果のない者は性奴隷化や生きたまま新鮮な内臓を取り出して、政府高官の臓器移植に原料を際限なく供給することになる。
日本には未来永劫関係のない話であってほしいと願っていますが、とても極端な社会の分かれ目に私たちは人生最後の時間に立ち会っているようです。それも運命。
さて、人の意識は進化できるでしょうか。
コンピュータの性能の指数関数的なアップがどこかで質的な変化を引き起こす転換点を超えてしまいます。
千年後には人類はどのような分布で何をして地球上で暮らしているのでしょうか?
腕の良いSF作家も描くのがむずかしいでしょうね。
by ebisu (2021-05-27 13:33)