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C.2 遠くで鈴が鳴っている [38. cancer]

C. 遠くで鈴が鳴っている(2)

 2006年3月のことである。高校時代の同級生10人で毎年、川湯温泉へ行っている。あいつが東京から戻ってすぐに、仲間が暖かく迎え入れてくれた。9人会という名前だが、あいつが戻ってきたために10人になってしまった。「名称変更」も議論になったが、亡くなる者が出たら8人会かと誰かが言う。固有名詞だということで皆納得した。

 暖かく天気は好い。お昼頃、お店をやっている同級生の車に3人が同乗して出発した。他にもう一台一緒に出発した。弟子屈の交差点の店で広尾と釧路からきた二人と合流し、皆で軽く蕎麦を食べた。

 3時過ぎにホテルに着くと、車に積んであった材料を板長へ渡し、刺身を作ってもらう。魚介類はそれぞれの漁業組合から直接仕入れた新鮮なものだ。とびきりの良い材料である。なにしろ、根室組合、歯舞組合、広尾組合と道内3漁協に勤務する者がメンバーにいるから、魚介類の仕入れはお手の物だ。
 お風呂に入って皆、幾分赤くなった顔をしている。川湯のお湯は酸っぱい。裏磐梯にも飛びっきり酸っぱい温泉があった。町営だったかな?名前が思い出せない。何度か行ったが、その都度、川湯温泉とどちらが酸っぱいだろうと想像した。

 板長はすぐに調理してくれたらしく、大きな皿二つに刺身が並んでいた。どれも美味いが、広尾からもってきたマツブが絶品だった。マツブの良いものはなかなか手に入らない。上質のアワビでもこれほど美味いのはなかなかないだろう。歯ざわりがしこしこしてアワビに似ているが、味が違う。口の中で動きそうな歯ごたえだった。

 宴会まで少し休んでいたら、頼んでいたコンパニオンさんが3人来た。聞くと北見のコンパニオン会社から来ている。6時頃になって支度が出来たので、宴会場へと向かう。途中で女将が挨拶に来た。
 ご馳走が並んでいるが、4時頃に刺身を食べたのでお腹がすいていないが、温かいうちにと思い料理に箸をつける。温かいお吸い物が美味しい。今日は見本酒一本槍だ。ビールは腹が張るから、食べられなくなる。酒は肴を食べながらがいつものやり方だ。ご飯を食べながらでも平気で酒が飲める。根っからの酒好きではないのかもしれない。

 途中でお腹が一杯になったので、食べるのをやめて酒を飲む。メンバーの一人が北の勝『搾りたて』を持ってきていた。あいつは生酒を一本持ってきていた。たしか『山法師』という銘柄だ。『搾りたて』は度数が19度もあるから、酔いが回るのが早い。あとで『山法師』を飲むと16度だから軽くてのみ安く感じてしまう。

 8時になって宴会が終わり、コンパニオンの時間を延長し、部屋に戻ってまた騒ぐ。車を運転する一人は酒を飲まない。きちんとしたものだ。
 元来大喰らいで、大酒のみの部類だが、宴会を終わるとどういうわけかもう食べられない。12時頃まで騒いで、風呂に入って寝た。
 
 翌朝の食事は美味しかった。宴会が終わった後ほとんど食べていなかったので、朝ごはんが美味しい。ホテルで作っている塩辛がよかった。浅漬けであっさりしていた。つかりすぎた塩辛は食べない。というより塩辛は嫌いで普段は食べないのだが、皆で食べると不思議と美味しい。

 膨満感はあった。しかし、この段階では朝になると消えていた。だから、まだ気になるようなものではなかった。歳のせいか、食べる量も酒量も3割ほどは減ったかな、そうあいつは自ら納得していた。

 それが間違いだったとあいつが気がついたのは5月だった。病気がはっきり自己主張をし始めた。遠くでかすかに鳴っていた鈴はもう耳元でうるさく鳴り続けていた。

 2009年2月13日 ebisu-blog#543
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