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#4513 ファイザー社製ワクチン個別接種は無理筋:知らざるを知らずと為す...   Mar. 21, 2021 [35.1 COVID-19]

 集団接種予定だったファイザー社製のワクチンが日本医師会中川俊男会長と河野太郎行政改革担当大臣の間で決まったという。ファイザー社製のワクチンはディープフリーザーで‐75度保管、衝撃や揺れに弱いので配送が通常の薬品卸ルートでは無理なのである。今頃になってなんでこんなに大きな方針変更がなされるのか、無神経にもほどがある。

 病歴を知っている掛かりつけ医の判断での接種が患者にとっては一番安心である、そこはいい、モノの道理である。
 副作用情報が錯綜して、専門家ですら意見が分かれているワクチン接種を普通の国民がその安全性を的確に判断できると思うのは幻想である。掛かりつけ医だって判断に迷うだろう。

 通常配送ルートを利用することで困るのは、保管温度が-75度であることと揺れや衝撃に弱いこと、そしてロット管理や配送時の温度記録を追跡できるようにすることだ。揺れや衝撃に弱いというのが一番問題かもしれない。他の試薬と混載して載せるわけにはいかない。ファイザー社製ワクチンの品質を保証するには車も人も別便で対応するしかないが、そんな人的・設備の余裕なんてあるわけがない。月次で損益を管理しているから、薬品問屋の各支店や営業所はギリギリのところでやりくりしている。

 薬品卸は常温、冷蔵、冷凍の3種類の薬品を配送している。冷凍と言ってもせいぜい-10から-20度の範囲でそんな商品は滅多にない。ディープフリーザー保管の薬品などほとんど扱ったことがないし、ディープフリーザーの設備もない。SRLでは年間100億円くらいも検査試薬を購入していたが、保管用冷蔵室とフリーザーはあったが-80度仕様のディープフリーザーはSRL八王子ラボ購買課にはなかった。検査室には-80度のディープフリーザーが八王子ラボには50台以上あると思う。1988年ころのことだが、研究部に-150度の日立製のディープフリーザがあった。市販品ではこれが最高性能のディープフリーザである。当時は薬品卸3社と取引があった。1社は大手薬品卸である。わたしは2年半購買課で仕事していた。担当は検査機器と購入協議書受付・審査、固定資産管理、購買システムに関わる一切の業務、そして検査試薬の価格交渉プロジェクト担当。薬品問屋と交渉してもムリなので、取引のある全製薬メーカーと直接交渉していた。検査試薬担当3名も横で仕事していたので自然に業務内容がわかる。全検査部検査室に仕事の打ち合わせ等で立ち入るので、購買課も含めて八王子ラボの全監査部、検査室がどのような設備や検査機器をもっているかも熟知していた。入社してその年に固定資産台帳の記載に不備がたくさん見つかったので、八王子ラボ固定資産全部を八王子ラボ側の担当者を同行して棚卸を実施、台帳の記載を直した。フランキ、フランキー、孵卵器、恒温槽はどれも同じものを指していた。本社で固定資産購入協議書の担当者は機械のことがわからない、もちろん見てもいなかった。固定資産の分類コード表を作成して固定資産管理システムを作り直した。冷凍庫は温度帯で分類した。本社は西新宿、ラボは八王子だから購入協議書担当者が実物を確認するのは無理だった。だから、記載ミスがたくさんあったのである。実地棚卸も規程がなかったので、手順を決めてそれも作った。検査機器の一部はメーカーと検査機器の共同開発もしていた。ここもやること満載、面白い部署だった。
(つぎの、学術開発本部は検査試薬の共同開発の標準化や検査項目コードの標準化、沖縄米軍から要求のあった出生前検査トリプルマーカの導入プロジェクトをマネジメントし、続いて慶応大学病院との出生前診断検査基準値に関する産学協同プロジェクトを担当したのでもっと面白かった。2年弱で「卒業」し、新しくできた関係会社管理部では赤字の臨床検査子会社の黒字化や、SRLグループ企業全社の経営分析と他の臨床検査会社の買収や資本提携を担当したので、ますます楽しくなった。臨床検査業界ナンバーワン、大きな会社は面白い仕事がいくらでもある。)

 ワクチン接種したにもかかわらずCOVID-19に罹患した患者が出たら、配送中のワクチン事故を考えなければならない、同じロット、同じ配送ルートを使ってワクチンを届け、個別接種をした患者を追跡、対処しなければならない。かかりつけ医の方でも在庫管理をして、バイアルごとにどの患者に打ったのか記録を残さなければならない。
 集団接種が前提だったから、そんな用意はないだろう。個別接種の受け入れ態勢を考えるとファイザー社製ワクチンは「不良品」である。ワクチンの仕様も碌に読まず、メーカと契約の話をしたのは厚生省のどの部局だ?実務知識のない者たちが寄り集まって杜撰な仕事の結果がこの体たらくである。

 日本医薬品卸業連合会は突然の方針変更に厚生省に抗議している。今更押し付けられても、ワクチンの配送に責任が持てないからだ。当然だろう。

 実務を知らないトップ同士で物事を決めることの危うさがここにも現出している。薬品卸の実務に疎い日本医師会長と河野大臣、暴走である。河野大臣は薬品に関してもワクチン接種を担当できるに十分な専門知識やマネジメント力があるとは思えない。おまけに独断的な性格の強い人だ。

 「子曰、由誨汝知之乎、知之為知之、不知為不知、是知也」 『論語』為政より
 「知らざるを知らずと為す是知るなり


 知っていることと知らないことを、はっきり区別し、知らないのに知ったかぶりをしてはいけないと戒めた言葉。真に「知る」とは知らないということを認めるということである。孔子がやや独断的な性格の弟子の子路を諭した言葉。三省堂『中国故事成語辞典』358頁

 ソクラテスの「無知の知」に同じ。


<記事の引用先>
医師会の「ごり押し」で現場は混乱…ワクチン個別接種が“危険な賭け”である理由

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揺れや衝撃にも弱いファイザー社製ワクチン

 ワクチン課題を担う河野太郎行政改革相は、3月12日の記者会見で5月中には約2150万人分(1瓶当たり6回接種で計算)を確保する見通しだと述べた。だが、どの自治体に、いつ、どれくらいの量が送られるのかは依然として不透明だ。

 1バイアル当たりの接種回数も、6回が5回に変更され、6回分を確保できる特殊な注射器を探して右往左往する。ワクチンを生理食塩水で希釈するためのシリンジ(注射器の筒)が不足していると分かったのも、つい最近だ。

 そもそも米国ファイザー社製のワクチンは、扱いが難しい。マイナス75℃前後で各自治体が設置する、超低温冷凍庫のディープフリーザーに運ばれて、そこで保管される。厚生労働省は当初、体育館などの大型施設での集団接種を考えていた。温度管理だけでなく揺れや衝撃にも弱いファイザー社製ワクチンを移送するのは、最小限にとどめたいからだ。

 1月27日、日医の中川会長が記者会見でこうぶち上げた。

「住民への接種は、普段の健康状態を把握しているかかりつけ医で安心して受けられることが重要」

小分け移送のデメリット

 つまり、集団接種と並行して個別接種を柱の一つに加えるよう提言したのだ。となれば、小分けして診療所に移送する手段が必要になる。ワクチンは摂氏2~8℃を保つ保冷ボックスで移送し、5日以内に使い切らなければならない。

 確かにかかりつけ医で接種できれば、患者ごとのアレルギー体質や病歴などを把握しているから安心につながる。

 だが、デメリットも少なくない。小分けの際には、どのロットのワクチンを、いつ、どこの診療所に、どれほどの量を送るのかなど管理手続きが煩雑になる。なにより小分けするほど、貴重なワクチンに無駄が生じる。また、診療所での接種を実施すれば、集団接種を担う医師や看護師の確保にも困難をきたす。

 ところが、中川会長の会見以降、事態は一気に動き出す。

政府への根回しはできていた

 記者会見5日前の1月22日、中川会長は河野行革相と面談して「個別接種」を申し合わせているという。政府への根回しはできていたのだ。そして会見2日後の29日、それまで大量の小分け移送に後ろ向きだった厚労省が、突然、動き出す。個別接種を中心とした「練馬区モデル」を「先進的な取組事例」として自治体に紹介したのだ。いわば個別接種を奨励したに等しい。

 それを知った自治体から、医薬品卸に問い合わせが殺到した。医薬品卸とは、実は医療においては重要な役割を担っている。製薬会社に代わって医薬品を医療機関に届けるだけではなく、薬の説明や、それに付随する医師の要望に応える医薬品供給のプロ集団だ。

 2月2日には、その医薬品卸を束ねる日本医薬品卸売業連合会(卸連)の渡辺秀一会長が、日医の中川会長に呼び出された。個別接種のための小分け配送に協力を求められた。

成功するかどうかは“賭け”

 だが、ファイザー社製のワクチンに関しては「携わることはない」と厚労省から何度も説明を受けていた医薬品卸は、戸惑う。医師会からの要請は意気に感じるが、いきなり配送せよと言われても情報が足りない。医師会や厚労省、製薬会社の狭間で立場の弱い医薬品卸だが、異例ともいえる文書を厚労省に送付する。

 突然の方針変更で「現場は大変混乱している」との抗議だ。

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