#4239 「鳴革の靴」ってなに?:幸田文著『草の花』 [44. 本を読む]
幸田露伴の娘である幸田文全集第三巻に「草の花」というタイトルの小説がある。
文は寺島小学校を卒業後、名門東京高等師範学校に不合格となり、継母のコネで女子学院(中学校)へ通う、その当時を思い出して書いている。ミッションスクールである女子学院は規則やしつけが厳しい。次のような一節があり、おやっと思った。
「鳴革の靴が流行っていたが、先生はこれを嫌って、その靴を穿いていた子を罰し、一時間の監禁を命じて、三階の物置小屋へ追い上げてしまうようなこともする。」(同書17ページ)
この文は旧仮名遣いで書かれているので、現代仮名に書き換えるとずいぶん印象が違うが、それは本題ではないので横に置いて、「鳴革の靴」ってなんだろうと疑問がわいた。念のために調べてみたが、もちろん広辞苑にも大辞林にも載っていない。
■「鳴革」というメーカ?
「メイカク」「ナルカワ」「メイカワ」、「よ、ナルカワ屋!」、どう読むのだろう?靴メーカーかなと考えてみたが、どうもピンとこない。先生に叱られて3階の物置小屋へ追い上げられて罰までいただくのだから、よほど先生の癇に障る靴だったのだと想像してみた。ミッションスクールでお嬢さんが多いから、靴は革靴、それが歩くとキュッキュと音が鳴るのではないか。
三十代半ばころ、気に入って通勤用にリーガル製の靴ばかり購入していたことがある。革底の靴はソールが2重になっている。タイプが二つあった。合成ゴムと革のものは接着剤でしっかりくっついているから音はしないが、二枚とも革製のものは糸で縫ってあり、歩くと軽く音がするものがあった。
歩くとキュッキュと音がする靴には特別な名前がない、文はその靴に「鳴革(ナルカワ)の靴」と名付けたのだ。文の造語だったというのがわたしの解釈。
ときどきへんてこな、意味の分からぬ名詞が出てくるから、読むのが愉しくなる。辞書を引いてわかるモノより、辞書を引いても載っていないモノの中に、文が造語したものが含まれているとしたら、それを見つけるのは河原の石ころからきれいなものを探す遊びと一緒だし、昆虫採集遊びのようでもある。子どものころ花咲小学校グラウンド向こうの湿原の野原を駆け回って遊んだころと一緒の気分が戻ってくる。
大正期の東京は江戸下町風情がまだ残っている、文が書き残してくれた「草の花」はタイムマシーンだ。
<余談:>
幸田文は東京高等師範に不合格になったときの面接官と30年後に、雑誌で対談する羽目になる。その人は文のことをはっきり覚えていた。不合格にした理由も、その台詞が面白い。本音は幸田露伴の娘だから合格にしたかったに違いない。(笑)
女子学院と言えば、名門「女子御三家」の一つ。
●桜蔭中学校
●女子学院中学校
●雙葉中学校
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出版時には定価3800円の製本と装丁のしっかりした本である、1995年岩波書店からの出版だから手を抜いていない。amazonでは中古品で1000円前後だ、とても安いと思う。タイムマシンに乗って大正期の東京を訪れたい好奇心旺盛な方にぜひお勧めしたい。(笑)
文は寺島小学校を卒業後、名門東京高等師範学校に不合格となり、継母のコネで女子学院(中学校)へ通う、その当時を思い出して書いている。ミッションスクールである女子学院は規則やしつけが厳しい。次のような一節があり、おやっと思った。
「鳴革の靴が流行っていたが、先生はこれを嫌って、その靴を穿いていた子を罰し、一時間の監禁を命じて、三階の物置小屋へ追い上げてしまうようなこともする。」(同書17ページ)
この文は旧仮名遣いで書かれているので、現代仮名に書き換えるとずいぶん印象が違うが、それは本題ではないので横に置いて、「鳴革の靴」ってなんだろうと疑問がわいた。念のために調べてみたが、もちろん広辞苑にも大辞林にも載っていない。
■「鳴革」というメーカ?
「メイカク」「ナルカワ」「メイカワ」、「よ、ナルカワ屋!」、どう読むのだろう?靴メーカーかなと考えてみたが、どうもピンとこない。先生に叱られて3階の物置小屋へ追い上げられて罰までいただくのだから、よほど先生の癇に障る靴だったのだと想像してみた。ミッションスクールでお嬢さんが多いから、靴は革靴、それが歩くとキュッキュと音が鳴るのではないか。
三十代半ばころ、気に入って通勤用にリーガル製の靴ばかり購入していたことがある。革底の靴はソールが2重になっている。タイプが二つあった。合成ゴムと革のものは接着剤でしっかりくっついているから音はしないが、二枚とも革製のものは糸で縫ってあり、歩くと軽く音がするものがあった。
歩くとキュッキュと音がする靴には特別な名前がない、文はその靴に「鳴革(ナルカワ)の靴」と名付けたのだ。文の造語だったというのがわたしの解釈。
ときどきへんてこな、意味の分からぬ名詞が出てくるから、読むのが愉しくなる。辞書を引いてわかるモノより、辞書を引いても載っていないモノの中に、文が造語したものが含まれているとしたら、それを見つけるのは河原の石ころからきれいなものを探す遊びと一緒だし、昆虫採集遊びのようでもある。子どものころ花咲小学校グラウンド向こうの湿原の野原を駆け回って遊んだころと一緒の気分が戻ってくる。
大正期の東京は江戸下町風情がまだ残っている、文が書き残してくれた「草の花」はタイムマシーンだ。
<余談:>
幸田文は東京高等師範に不合格になったときの面接官と30年後に、雑誌で対談する羽目になる。その人は文のことをはっきり覚えていた。不合格にした理由も、その台詞が面白い。本音は幸田露伴の娘だから合格にしたかったに違いない。(笑)
女子学院と言えば、名門「女子御三家」の一つ。
●桜蔭中学校
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出版時には定価3800円の製本と装丁のしっかりした本である、1995年岩波書店からの出版だから手を抜いていない。amazonでは中古品で1000円前後だ、とても安いと思う。タイムマシンに乗って大正期の東京を訪れたい好奇心旺盛な方にぜひお勧めしたい。(笑)