#4580 中学校前期中間テスト得点分布表:学力向上の決め手は何か? July 7, 2021 [71.データに基づく教育論議]
朝7時の気温12.5度、東南東の風7.6m/s、湿度100%
もちろん床暖房が入っていて、室温は23度、別海牛乳を3分電子レンジで温めて、床にセット。これで4時間後にヨーグルトができあがる。
さて、本題である。6/21実施の前期中間テストの科目別得点分布表を並べるので、根室の教育の現況に興味がある方はご覧いただきたい。
左から、1年生、2年生、3年生の順に並べてある。
科目は上から順に、国語、社会、数学、理科、英語、五科目合計点である。五科目合計点のグラフは途中で切れている。「0~250点」までしか表示されていないことをお断りしておく。
● 国語の得点の分布をみると、1年生は左へ寄っており、2年と3年生は右側へ寄っているので、隣同士の1年と2年を比べると線対称なグラフになっている。国語は母語である日本語だから、右側に寄るのがあたりまえで、左に寄っているのが異常だと判断してよい。1年生は国語力の低い生徒が多いということだ。あとで40点以下が何人で何%を占めているか数字をお見せする。
●3番目の数学の得点分布は1年生が高得点層が少ないのが特徴である。どの学年もフラットなグラフとなっており、他の科目に比べて得点下位層が多い。1年生だけ事情が違う。これもあとから具体的な数字を挙げて論じたい。
●5番目の英語得点は1年生が右側に偏ったグラフになっているが、これは英語をはじめたばかりで、問題が易しいから高得点層が多くなっているだけ。9月の期末テストは真ん中が高くなる。そして後期には現在の3年生のような分布に変わるだろう。英語の教科書の難易度が全学年アップしている。受け身や現在完了形は以前は中3で教えていたが、今年から2年生で教えることになった。中3では仮定法が新たな項目として入ってきている。昨年までは高校の範囲である。教科書の文字も小さくなり、内容が増えた。漫画でシーンを挿入した会話重視へ切り替わっている。各ページにはQRコードがつけられ、音声をスマホで聞くことができる。この点は大きな進化だ。発音の悪い先生がいても問題がなくなった。スマホで音読トレーニングする生徒が増えている、喜ばしい変化である。
40点以下の人数を学年別・科目別に追ってみたい。
<1年生94人>
数学の平均点は40.0点、40点以下は43人、45.7%です。
英語の平均点は55.5点、40点以下は31人、33.0%です。
国語の平均点は50.3点、40点以下は34人、36.2%です。
この36.2%は小6の語彙力テストで50点以下の得点しか獲れないでしょうね。3人に一人の割合でそういう生徒がいます。まったく本を読まない層だと考えていい。
数学の40点以下の層と併せて考えると、国語や数学の授業が成り立ちません。
ところで数学のテスト範囲は「正負の数」「文字式」のみ。テスト範囲は計算の基礎だけですから、これができないと2学期以降は学習意欲をなくす生徒が増えます。とっても危うい状況です。
日本語で書かれた本を使って音読指導をする必要があります。根室では小学校でも、中学校でも音読指導に力が入っていません。だから、中学生になっても、アニメのノベライズものくらいしか本を読んだことがないという生徒がほとんどを占めます。読もうという好奇心もないし、また語彙力がないので児童書以上の年齢相応の本が読めないのです。小学校を含めて根室の教育の在り方全体を見直す必要があります。あとで、具体例を挙げます。
<2年生95人>
数学の平均点は50.7点、40点以下は37人、38.9%です。
英語の平均点は53.6点、40点以下は38人、40.0%です。
国語の平均点は55.9点、40点以下は22人、23.2%です。
この23.2%は小6の語彙力テストで50点以下の得点しか獲れないでしょうね。4人に一人の割合でそういう生徒がいます。
<3年生107人>
数学の平均点は47.1点、40点以下は51人、47.7%です。
英語の平均点は42.5点、40点以下は57人、53.3%です。
国語の平均点は64.9点、40点以下は10人、9.3%です。
英語の教科書が今年から分量も難易度もアップしているので、落ちこぼれが多数出そうです。学力テストだと平均点は30点台前半になるかもしれませんね。30点以下は高校なら赤点です。
この学年は国語の平均点が64.9点ととても高いですが、問題の難易度が低かった可能性が大きい。柏陵中学校で一度、教科書準拠問題集の問題をそのまま出題して、平均点が7割を超えたことがありました。難易度が極端に低いテストは問題が大きい。生徒や保護者に誤解を与えます。9月の学力テストの平均点が60点近くなら、この学年の国語力はほんとうに高い。9月にはっきりしますから、3年生の国語については判断保留です。
<民間企業ならどのような対応になるのか?>
課長職が科目担当と半期の課題設定をします。前期期末試験と9月の学力テストの平均点と、得点分布について目標設定をします。たとえば、1年生の数学なら、平均点を5点アップして、40点以下の層を43人から33人に減らすという数値目標を立てます。9月の学力テストでも同様の目標設定をします。そして9月に結果が出たら、評価します。未達の場合は原因分析と次の課題設定がなされます。成果を出せばボーナスの査定は上がるし、昇給昇格にも影響します。
だからこんな事態をそのまま放置するということは決してありません。
課題設定の際に、科目担当教員の「主張」を聴きます。部活指導で忙しくてできないという具体的な問題が俎板(まないた)に上がれば、部活を当分の間(例えば半年)週3回に制限します。これは管理職の仕事ですから、科目担当教員任せにはしません。具体的な現状データと目標値を挙げて、保護者のみなさんに説明します。理解と納得ずくで学力向上策を進めます。
<学力と地域の未来>
5年前に1校体制になったので全員が根室高校へ入学できます。そして生徒たちの20-30%が地元へ就職しています。成績上位10%の学力層の生徒が戻ってくるのは年に1-2人ぐらいなものです。
学力下位30%は都会へ出てもほとんどが非正規雇用の職しかありません。年収150-200万円前後です。家賃を払って自活はとても無理です。学力の低い生徒たちは進学しても卒業して非正規雇用だと親は仕送りを続けることになるでしょう。偏差値50くらいの大学でもその大学で成績下位グループはそういうことはふつうにあります。借金して進学した女子の中には、借金返済のために風俗で稼ぐ人もでてきます。悲しいことですが20人に一人がそうしているというデータもあるようです。戻って来れば、親に寄生してとりあえず飯は食えますが、キャリアをつめないまま年齢が増えます。30過ぎたら、もう正規雇用は無理、低賃金の非正規雇用を続けるしかない人が増えます。
根室を支えるのは学力中位層ですから、五科目平均点が釧路根室管内で最低ということは、根室の町を支える担い手の学力が、釧路根室管内で最低ということになります。
その学力中位層の得点はどれくらいでしょう。3年生の4月の学力テストで見ると、受験した105人中の中央値は190点です。38%の正答率のところが中央値(メジアン)ですから、これくらいの人材が主力で将来待ちを支えることになるのでしょう。
教育こそがまちづくりの礎です。このまま放置してはいけないことはだれでもわかります。釧路・根室管内の他の地域はどうしているのか、すこし根室の外側に目を向けましょうよ。
<国語力がすべての学力の基礎>
「読み・書き・計算」が学力の基礎であることはよく知られた事実です。そしてこれら三つは重要な順に並んでいます。国語力が最優先だということです。釧路市議会の月田議長(当時)は秋田県大館市の小学校を視察しています。2期目の釧路市教育長の岡部義孝さんも。
別海中央中学校と根室市内の市街化地域の中学校は学力格差が広がっています。なぜ、広がったのか?別海町が学力向上のための具体策を実施しているからです。教育長と校長が一緒になって取り組んできたからですよ。好いところは学ぶべきです。
ここに載せるのは、お隣の別海町の眞籠毅元教育長(2014年4月-2017年4月)としたFB上での最近の対話の一部です。
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全国学力テストのB問題(応用)で、白紙回答が多いと聞き、原因は質問の内容が理解できなかった、うまく言葉で説明できなかったためでした。つまり、国語力の低下なのです。秋田県の小学校を視察した時に驚いたのは、児童玄関の真向かいに、吹き抜けになった大きな図書室(図書館)がどーんとあり、専任の図書館司書が常駐していて、本の貸し出しを受ける子供たちが列をなしていました。コンピュータ管理をしているので、誰が、どのような本を何冊読んでいるか把握していました。1年生でも年間100冊以上は読んでいるとのこと。司書さんは授業にも参加して、宮沢賢治の世界を紹介したり、本を読む大切さを子供たちに話していました。近年では、新聞を活用した教育(NIE)も盛んに行っているとのこと。図書室に各社の新聞が常備されていて、授業用にも各社から寄贈されているとのことでした。学力向上の原点ですね。
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秋田県横手市雄物川小学校です。横手市は秋田県の中でも学力の高い地域だそうです。現職の時に秋田県に視察に行かせた学校長等が、横手市の教育長と親しくなって、翌年別海町にお招きして講演やら教員との交流会を催してから、今も交流が続いております。横手市の現職教員を招いての「スーパーティチャー研修会」では、あっと言う間に別海の子供たちを引き込んでいった授業は圧巻でした。別海では横手方式を結構取り入れて頑張っていますよ。
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眞籠さんも釧路教育長の岡部さんも、地元出身者です。学力向上に力を入れている町は、教育長を道庁からもらっていません。お飾りではないからです。わたしが故郷に戻ってきてから、現在の寺脇根室教育長で5人目だったと思いますが、全員道の教育局の人です。一人の例外もなく任期が切れたら、お戻りになっています。つまり「腰掛」、これで教育改革ができるとは思えません。歴代市長が子どもたちの学力向上を軽視してきた証拠でしょう。
眞籠さんの文章には小学1年生の読書量について言及がありました。横手市の雄物川小学校は特別な例であって、例外だという意見の方がいるかもしれないので、東京の事例を書いておきます。東京の幼稚園の年長さんだと、児童書を年間百冊くらい読んでいるのが半数くらいはいそうですね。幼稚園も親も読書習慣を躾けるのに一生懸命です。就学前にすでに大の本好きになっています。そういう準備を親がしなかった子どもは学校へ入学してから根室の子どもたちよりも苦労するでしょうね。
小学1年生で百冊も本を読んでいる地域の子どもとほとんど読まない地域の子どもに小学校6年間で大きな学力差がつくことは誰にでもわかる理屈です。学力の高い地域はそういう具体的な仕掛けを作る努力や読書習慣を育む努力をしています。何もしないで学力がアップしているわけではありませんよ。だから、根室市内の子どもたちの低学力化の進行は、教育関係者や家庭での学習習慣や読書習慣を躾けそこなった親たちが産み出したものです。いわば「人災」ですから、そこに住んでいるわたしたちのやり方次第で改善できます。断じて「天災」ではないのです。よくしようじゃありませんか。自分にできることから始めましょう。わたしもそうしています。
2019年のデータですが、別海中央中学校五科目合計点の平均142.6点、啓雲中111.5点、柏陵中108.8点でした。300点満点で30点を少し超える差がついています。根室の市街化地域の中学校は釧路根室管内の市街化地域の中学校でビリなんです。そんな事実を知らない保護者がほとんどでしょう。もちろん、学校の先生たちも、ふだん実施されている学力テストのデータすら見ていない根室市教委も、市議会文教厚生常任委員会のメンバーも知らないでしょうね。データは下記#4099にありますので、クリックしてください。
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