#3483 学力テスト教科別分析 Dec. 18, 2016 [71.データに基づく教育論議]
12/18 午前9時20分 諸々追記
午前11時15分更新
C中学校で行われた総合C(11/9)と模試1(12/2)の教科別階層データを表にまとめてみました。
国語 英語 社会 数学 理科 階級 総合C 模試1 総合C 模試1 総合C 模試1 総合C 模試1 総合C 模試1 55-60 0 0 1 1 0 0 0 0 0 0 49-54 0 2 2 2 0 0 0 0 0 0 43-48 4 6 3 1 1 2 1 2 1 3 37-42 8 6 6 5 6 3 1 2 4 4 31-36 7 14 9 4 2 3 8 3 3 2 25-30 15 7 8 7 6 8 2 4 5 5 19-24 13 11 10 11 6 8 7 7 8 8 13-18 5 6 9 15 19 16 9 11 11 11 7-12 0 1 4 5 8 6 11 7 10 9 0-6点 0 0 0 3 5 7 13 14 10 12 合計 52 53 52 54 53 53 52 50 52 54 AV 29 30 28 23 19 19 16 16 18 18 メジアン モード
< データ分布の形に見えるそれぞれの特徴 >
メジアン(中央値)は緑色で示してあります。棒グラフで示すと分布の状況がわかりやすいのですが、グラフの数が増えてメモリーを食うので、表で我慢してください。
メジアンを横並びにすると、データ分布の特徴が浮かび上がります。メジアンとモードが同じ階級に重なっているところは緑色だけになっています。
国語と英語が高いところに位置しています。国語は25-36点の階級(階級値でいうと27.5点と33.5点)に、英語は19-30点の階級(階級値は27.5と21.5)にあります。この二つに対して、社会と数学と理科のメジアンは横一線に並んでおり、13-18点の階級(階級値は15.5点)にあります。社会がメジアンと最頻値(モード)が同じ階級にありますが、数学と理科はメジアンとモードが離れています。数学と理科は最上位層が43-48点の階級であり、最下段の階級がモードになっているところに注目してください。成績上位層が枯渇していることと、成績下位層が膨らんでいることがデータ分布の形にはっきり出ています。
< 国語のデータ分布と語彙に関わる問題 >
国語はきれいに正規分布して、左右対称になっています。これは日本人だから当たり前のことでしょう。特別な勉強をしなくても、ある程度は点数が取れますから、分布の幅が狭くなるのです。平均値もメジアンも30点付近にあります。
大きな問題が見つかりました。小4レベルの語彙力の生徒の得点が、平均点に近い(平均偏差の平均値がマイナス3.8点)とうことです。語彙力が貧弱、小4レベルでも中学3年の学力テスト国語では平均点近くが取れるほど、試験問題の語彙が少ないということに驚かざるをえません。
問題文の日本語に日本語・語彙の大きな問題があります。
常用漢字の範囲で教科書に採録する作品を探すから、当然語彙が狭くなるのです。このままでは日本人は常用漢字の範囲でしか言語表現ができなくなります。現在の中高生が持っている語彙数の十倍以上を戦後の数年間まで日本人は共有していました。
わたしの推計では根室市内の中学生のおおよそ1/4が小4レベルの語彙力ですから、教科書を読んで理解することができません。国立情報研究所のリーディングスキルに関する最近の調査でも中学生の20%が教科書を読んで理解できないと判定されています。#3460「根室高校入試倍率はどうなる?」に書いておいたので、興味のある人はご覧ください。
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戦後のCIEが全国規模で実施した国語力テストがありますが、当時の日本人の語彙力も文章読解力も現在と比較にならぬほど豊かです。大野晋『日本語の教室』153ページ参照してください。当時行われた国語学力テストの問題文が155ページに載っています。
*#3111 記憶の構造と学力 Aug.21, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-08-20
こちらにはCIEが実施した国語力テスト問題の一部が掲載されたサイトのURLを載せてます。
*#3460 根室高校入試倍率はどうなる? Nov. 19,2010
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-11-19-1
学力テストの問題文を取り上げて、学力テストの作問の品質が劣悪であることに言及しています。作問する側の日本語能力がこれでは、お話になりません。論より証拠。
*#3405 原典のススメ:愛と寛容性概念の混同(中2学力テストから) Sep. 2, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-09-01
森永卓郎氏や数学者の岡潔先生の国語教育論を紹介しています。小学生に英語教育は不要で国語に力を入れろという主張です。
*#3391 小学生に英語教育は百害あって一利なし(森永卓郎) Aug. 14, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-08-14
タイトルどおり。読みと書きのトレーニングをどうやればいいのか迷っている方はお読みください。
*#3155 日本語読み・書きトレーニング(2):総論 「読み」と「書き」 Oct. 12, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-10-12
国立情報研究所の中学生に対する最新のリーディング・スキル(日本語読解力)調査結果を紹介しています。
*#3460 根室高校入試倍率はどうなる? Nov. 19,2010
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-11-19-1
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点数の分布から想定できる語彙レベルは、「日常会話+アニメのノベライズ小説」程度の語彙です。これでは、日本人が継承してきた文化を伝えることができません。文化は言葉(豊かな語彙)によって支えられています。
中学生の教科書は使用漢字の制限を外すべきです。DTPに制限があったので、漢字制限の必要のある時代がコンピュータ化の初期にはありましたが、もうそういう制限はありません。常用漢字以外はルビを振ればいいだけです。感情や論理を表現するのに語彙力が小さければ、それだけ伝わる情報が大雑把で味気ないものになります。高校2年の現代国語Bの教科書は純文学、高度な評論、語彙の豊かな随筆など、語彙力レベルが格段に上がっています。
戦後の小説は語彙が貧弱です。日本人として後世に伝えるべき語彙がたくさんあるはずです。漢字制限を撤廃をして、作家たちの表現の足かせを外してやりましょう。常用漢字以外はルビをふればいいのです。日本人の心は、日本人が使う言葉で継承されますから、語彙が貧弱になることは由々しき問題です。明治期の文学作品レベルの語彙を駆使して作品を書くことのできる作家はすでにいなくなりました。幸田露伴(1867-1947)の世代までです。『五重塔』の冒頭は美しい。
「木理(きめ)美(うるわ)し欅胴(けやきどう)、縁にはわざと赤樫を用いたる岩畳作りの長火鉢に対(むか)いて話敵もなく唯一人、少しは淋しそうに坐り居る三十前後の女、男のように立派な眉を何日掃いしか剃ったる痕の青々と、見る眼も覚むべき雨後の山の色をとゞめて翠(みどり)の匂い一トしお床しく、鼻筋つんと通り眼尻キリヽと上がり、、洗い髪をぐるぐると酷く丸(まろ)めて引裂紙(ひっさきがみ)をあしらいに一本簪(いっぽんざし)でぐいと留めを刺した色気なしの様はつくれど、憎いほど烏黒(まっくろ)にて艶ある髪の毛の・・・」
宮大工の仕事と意地と生活が切れがよく美しい日本語で書かれています。団塊世代が子どものころはそういうさまざまな職人が身近な生活空間で仕事をしていました。根室では桶職人、船大工、昆布棹職人、ヤンシュウ(出稼ぎ漁師)が代表例でしょう。水産加工場で働く女工さんたちも立派な職人です。魚を開いて並べて包装する、30年選手と3年では腕も速度もできた製品の品質も違うそうです。
読書量と読んでいる本の語彙数の激減が気になります。語彙が常用漢字に制限されることで、語彙の豊かな作品が読めなくなってしまいました。これは文化の伝承に断絶が起きることで重大なことです。
もうひとつ普段から気になっていたことを書いておきます。日本人の思想や価値観、そして哲学に関する作品が教科書にはありません。使う語彙がむずかしく、そこで使われている漢字が常用漢字からはみ出しているから、採録されないのだと思われます。しかし、それでは日本人がずっと伝えてきた思想や価値観の断絶が起きてしまいます。いや、すでに起きています。日本思想や哲学に関する作品を漢字制限を外して教科書に採録すべきです。
九鬼周蔵『「いき」の構造』、和辻哲郎『古寺巡礼』『風土』、福沢諭吉『福翁自伝』、柳宗悦『手仕事の日本』、柳田國男『海上の道』、石田梅岩『都鄙問答』、西田幾多郎『善の研究』
数ページでもよいのです。中高生があまりにも日本的情緒や日本人の倫理、思想を知らなさ過ぎです。語彙力と文章読解力が大きく、ないと理解できません。これら両方を同時に鍛えるには優れたテクストの採択と音読が最適です。音読によって用例ごと語彙を身体になじませるのがいい。
< 英語のデータ分布 >
英語の分布が一番国語に近いものになっています。分布が広がっているのがわかります。メジアンが低いほうに崩れているのも読み取れます。国語ではゼロだった「0-12点」の階層に学力テスト総合Cで4人、模試1で8人出現しています。国語がダメな生徒は英語の伸びが止まります。データ分布の形が似ているのは国語と英語の関連が強いからです。
< 社会と数学と理科のデータ分布比較 >
社会と数学と理科のメジアンが階級値15.5点のラインに並んで似た傾向を示しています。社会は記憶科目ですが、整理して記憶する必要があります。グラフにしてみると数学と理科の分布がよく似ています。山型にならずに高いほうから低いほうへ向かって度数が一直線増大して並びます。社会はメジアンより低いところが減少しているので、高いほうから棒グラフにすると、右側によった山形になります。分布の形状からは数学と理科がそっくりです。
< 数学の文章題と国語の力の関係 >
国語の下位40%層の3人に2人が小学4年生の語彙レベルであることは#3482で述べました。約13人ですが、数学の文章題も文意の読み取りが困難なので、特別な事情のない限り、数学の下位層と被っていると考えられますが、全部がそうであるとはいえません。計算問題と簡単な文章題だけで35点ほどあります。日本語読解力が小4レベルでも、計算の基礎がしっかりしていれば25-35点は取れるようになっています。
< 数学と理科のデータ分布は似ている >
数学の分布と理科の分布は、点数の低いほうへ向かって度数が一直線に上がっていますが、理科には計算を伴う問題分野がいくつもあるので、計算スキルや計算の仕組みを論理的に理解できない生徒は点数が低くなりますから、数学に分布が似てくるのでしょう。男女別に分けたら、もっと面白い分析ができます。
< データ分布の形と指導スタイル >
分布の幅の狭い国語が、教える側からは楽そうです。英語は正規分布が点数の低いほうへ傾いて広がっているので、学力別にクラス編成したほうが、成績上位層の学力を伸ばせます。
社会は勉強の仕方がわからない生徒が多いような気がします。ただの暗記ではなく、論理的に関連付けながら知識を整理して記憶しなければ高得点できません。地図と関連付けて憶えることや語彙理解が大事です。地図と地形と地政学的な視点、それらと産業と歴史的出来事などを関連付けて憶えてみたらいかがでしょう。
社会科の勉強の仕方がわからないという生徒が少なくありません。
< 学力別クラス編成が機能していない:部活と放課後補習 >
数学は40点以上で二つに分けると、成績上位層の学力を飛躍的に伸ばせるのですが、数が少なすぎます。43点以上で見ると1-2人しかいません。40点以上がこんなに少ないのでは話になりません。クラスを学力別に分けても、成績上位層が枯渇してしまっているように見えますから、指導の仕方に問題があると考えざるを得ません。普通にやっていれば、メジアンの13-18点の階層が、上方にシフトするはずです。25-30点の階層へシフトさせ、31-42点の階層を10点アップするにはどうすべきか具体策を考えるべきでしょう。
現状は、上のクラスも下のクラスも同じ内容の授業ですから、学力別クラス編成が効果を発揮できていません。
理科も数学と分布が同じなので、計算分野の放課後補習をやるべきなのでしょう。実際におやりになっている先生がいます。
部活をもっているので、放課後補習がやりにくいのでしょうね。ここは学校管理職とそれに協力するPTAの出番だと思います。
< 授業崩壊と対策:授業の雰囲気は生徒がつくる >
授業崩壊を起こしているクラスは、データを示して、具体的な説明を一度おやりになったらいい。他人に迷惑がかかっていること、すなわち、クラスの平均点を1割ほど(500点満点だと50点、300点満点だと30点)下げていることを自覚していません。そこに気がつけば、三人に一人はおとなしくなります。
< 五科目合計点の分布:上位層の枯渇 >
五科目合計点の階層別データも貼り付けておきます。
階級 | 総合C | 模試1 |
271-300 | 0 | 0 |
241-270 | 0 | 0 |
211-240 | 0 | 3 |
181-210 | 7 | 5 |
151-180 | 4 | 4 |
121-150 | 8 | 4 |
91-120 | 11 | 14 |
61-90 | 15 | 13 |
31-60 | 8 | 10 |
0-30 | 0 | 1 |
合計(人数) | 53 | 54 |
AV | 109 | 108 |
メジアン |
< 市街化地域の3校のデータを結合してみよう >
生徒個人名を外して、データを点数の低い順にソートしてから、市街化地域の3校で学年別・クラス別科目別データを交換して、表の結合をやって分析してみたらいかがですか?
自校の学年毎、クラス毎、科目毎の特徴がよくわかりますよ。偏差値の計算も簡単ですからやって、得点通知表でフィードバックしてあげたらいい。基本統計量を郡部校に公開してあげたら、郡部校のほうでも、市街化地域の3校のデータベースでの偏差値評価ができます。生徒たちが根室市内での相対的な学力を知るためにとっても有益です。とくに郡部校は数が13人とか20人とかとっても少ないので、有益な情報になります。もちろん、郡部校のデータも結合できたらなおすばらしい。
ほんとうはこんなことは指導主事か市教委がやるべき仕事なんです。学力を上げるための有益なデータベースができあがります。
*#3482 問題消化スピードの差の現実 Dec. 17, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-12-17
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