SSブログ

#3482 問題消化スピードの差の現実 Dec. 17, 2016 [71.データに基づく教育論議]

<更新情報>
12/17午後6時10分 <補遺:下位1/3の語彙力レベル>を追記

 #3480で60点満点の学力テストで、数学の得点18点以下が63.5%もいるデータを挙げました。37点以上はたった2人、49点以上はゼロ、こんなに悪い数学のデータははじめてみました。習熟度別で2クラス編成になっていますが、まったく効果がありません。
-----------------------------------------------
数学の階層ごとの得点分布は次のようになっています。
             累計%
 0-12点  24人  46.2%
 13-18点  9人  63.5%
 19-36点 17人  96.2%
 37-48点  2人  100%
 49-60点  0人
  合計   52人
  平均   16点
-----------------------------------------------

 授業のやり方の問題と、生徒たちの問題消化速度の差が学力に及ぼす影響について先生たちはご存じなさそうなので、データを明らかにします

 学力テスト総合Cのデータを引用しているのですが、この学年の五科目平均点は107点です。6年前の荒れていたころとほぼ同水準に落ちています。他の2校は129点と116点です。

< ケース・スタディ(事例研究) >
 数日前に3年生と2週間前に入塾した1年生が同じ時間帯で勉強していたので、問題消化速度を計測してみました。
 3年生の問題は2次方程式の文章題、1年生は「比例と反比例」の文章題です。
 2次方程式の文章題は、「1500円の原価の品物にx%の利益を見込んで定価をつけたが、売れ残ったので定価のx%引きで売ったら、売値が1440円になりました。xを求めなさい」という問題でした。
 文章を読んでから、つくった指揮を見ると、利益の意味がわかっていません。
 1500+x/100 という式を書いていたので、「利益」の意味を訊いてみました。「定価1000円の品物に50%の利益を見込むと定価はいくら?この式に入れてみるよ」
  1000円+50/100=1000円+0.5

 いくらになるのか訊くと、1000.5円と答えました。「50/100」の意味がわかっていないのです。百分率の意味がわかっていないということ。これは百分率という割合で単位が円ではないのですから足し算ができません。1000円の原価の品物を1000.5円で売るのでは人件費も家賃も出ません、丸っきりの赤字ですが、そういうことが数字を見ても飲み込めないのです。
 簡単な数字に置き換えて、語彙の説明からします。語彙によっては自分で国語辞書を引いてもらいます。なんでも説明してもらうと、辞書を引く習慣が育たないので、家で自分だけで勉強ができるようになることを願って、辞書を引かせます。
  図を描いて、式を示して説明しても理解できないので、いくつかのパーツに分けて簡単な数字で語彙説明を交えながら説明します。節目節目で生徒自身に考える時間を与えるので、時間がかかります。最終的には、次の方程式へ到達することになります。

  1500円×(1+x/100)(1-x/100)=1440円

 この生徒の数学の得点は35点ですから、学年52人中10番目くらいの成績上位層ですが、日本語語彙が貧弱で、文章の読解に頻繁に問題を起こします。本をほとんど読まないので、文章の意味を理解するのが苦手です。人と話すのも好きではありません。本を読まないことや人と話すことが嫌いなことと、一時記憶域が小さいことが関係があるのかないのかわかりませんが、こういう生徒はわたしの感触では15%くらいいます。最近増えてきました。文章題の1行目を読み終わり、2行目を読み終わると、1行目が記憶域にないことがよくあります。10秒間も記憶を保持できません。読むのが遅ければ、時間がたつので、脳のワーキングメモリー領域から消えてしまうようです。国語の問題文を読むときにも、音読するときにも、段落が変わると2つめを読み終わったときには一つ目を忘れています。人の話を聞くときも、話の途中で自分の意見や質問をします。1分間の説明全部を聞いて全体を理解するのが苦手です。ワーキングエリアが小さいと仮定すると、これらの現象の意味に説明がつきます。幼児期のある季節に脳のワーキングメモリーの拡張が起きるのだと思います。そこで何か特別の事情があったと推測します。トレーニングしだいで、ワーキングエリアの拡張はできるはずです。それには読書が一番いいのですが、本を読むのが嫌いなので、良質のテクストを選び音読指導をしても、家でやってこないので、進歩がありません。どこかで本をむさぼり読むようになるまで、またなければならないのでしょう。この生徒には2年やった音読指導をあきらめました。「家でやってこなければ効果がないので音読トレーニングは今日で終わりにします」と宣言しました。反省を求めるためです。
(10年前にはほとんどいませんでした。ゲーム機などの情報機器の高性能化と母親や父親がそれらへの依存が強いと言語を通じたコミュニケーションが極端に少なくなり、言語習得期に必要なインプットがなされないのでしょう。5年ほど前から爆発的に普及し始めたスマホの影響はこれから子どもたちへ出ます。いまはまだ、中高生の「スマホ依存症」の増加だけですんでいます。ちょっと怖い話です。「小学生低学年にプログラミングを習得させよう」なんて、生徒一人一人にタブレットを配布して授業を試みる例が出ているようですが、副作用は大丈夫ですか?生徒たちが実験動物に見えます。)

 結局、「練成問題集」2題の文章題に3時間15分かかりました。計算も標準の5倍くらいかかります。

 もう一人、こちらは1年生ですが、問題集は「シリウス」ですから、「練成問題集」よりも難易度が高い。1時間45分で5ページ半やりました。あとで書きますが、標準速度の3倍、消化速度の大きい生徒ですから、期末テストが60点台での入塾ですが、3ヵ月後の2月の学力テストでは90点台をたたき出し、数学は学年トップに躍り出ます。学校の先生には信じられないでしょうが、感触でわかります。やらせる問題集の難易度と指導方法が適切なら飛躍的に学力が伸びる生徒がいます。一律に同じ問題集を使って学力に大きな差がある生徒たちを指導したら、こういう生徒の学力を伸ばすことができないでしょう。

(学力テスト70点以上の生徒たちだけのクラスなら、わたしは30人の生徒でも同時に個別指導が可能です。学力テストで20点以下の生徒なら1クラス6人ぐらいがわたしにとって個別指導の限界です。スキルス胃癌の手術をしてからは、体力的な問題があり、10人以上のクラスはしんどいので、教室を自宅に移し、最大7人までに制限しています。)

 1時間当たりの問題消化量を計算して見ます。
 3時間15分を時間に換算すると3.25時間、1時間45分を時間に換算すると1.75時間です。単位の換算はこういうところで必要になります。苦手な生徒が多い。
 問題消化速度の計算でした。

  0.5頁÷3.25時間=0.154(頁/時間)
  5.5頁÷1.75時間=3.143(頁/時間)

    0.154:3.143 ≒ 1:20

 問題消化速度に20倍の差があることがわかります。特別な例ではありませんよ。市内の中学校はわたしの知る限りで30人を越える学級はありませんが、各クラスのトップ3人と下位3人の問題消化速度を比べたら、これくらいの差は普通でしょう。根室の中学校ではどこにでもある話です。特別な事例ではありません。
 A君とB君とすると、A君が1題解く間にB君は20題解いてしまいますA君の1時間の勉強量はB君の3分に相当します。現実にはこんなに差があるんです。

< 標準速度の定義と問題消化量等式>
 ここで、文章題を解く標準速度を「1頁/1時間」と規定すると、A君は1/6、B君は3倍となります。

 問題消化量=「読み・書き・計算」基礎技能×集中力×時間
  V=(S×C)×H

 このような等式を頭に置くと、消化速度は[=「読み・書き・計算」基礎技能×集中力]であらわされます。
 B君が標準速度の3倍とすると、A君は標準の1/6ほどの速度です。先生たちはこんなに問題消化速度の差がある生徒たちを教えています。気がついていましたか?
 B君が1時間勉強したとすると、問題消化速度が1/20のA君は20時間勉強しないと追いつかないのです。そしてそれは不可能ですから、速度が上がらなければ時間がたつほど学力の差が大きくなるのは当然です。そうなっています。

< 基礎スキルに問題を抱える生徒の指導 >
 そんなに速度が遅いのに、なぜ学年10番で成績上位層かと疑問がでるでしょう。塾でフォローしてきたからです。訊いたら驚くほどの時間をかけて教えています。1年生のころは、週に5日、4時間教えていました。数英2科目で週当たり20時間です。いつまでもそんなことはしていられませんので、3年生になってから週に6時間に減らしました。数学は半分ですから3時間です。

 授業スキル向上にいそしんでいる先生たちに伝えたい。どんなに上手な教え方をしても、速度が標準の1/6では集団授業ではまったく救えません、別の対応が必要だということ。「読み・書き・計算」の基礎技能速度と集中力は学力向上を左右する大きな要素であることは明らかでしょう。
 もちろん、速度をアップするトレーニングをやってきました。家で継続的に学習しないので効果がありませんでした。いろいろ事情がありますが、ここでは言及しません。

< 学力別2クラス編成は効果があるか? >
 学校でいまやっている、数学授業の学力別2クラス編成授業が効果を挙げているか?否と答えるしかありません。60点満点で平均点が16点、そして高校なら赤点である18点以下が63.5%もいるのですから。学力テスト総合ABCの数学の平均点が16点(60点満点)で動いていません。市街化地域の3校では3回とも一番低いのです。
 複数校で授業参観しましたが、どちらのクラスも内容は同じでした。これは他の学校にも言えます。高校数学に踏み込んだ説明をしている授業を見たことがありません。あれでは成績上位生はあくびが出ます。簡単な問題をだらだらくどい説明をしています。そして授業の進捗管理がないがしろにされ、12月16日でも3年生でまだ「三平方の定理」の章に入っていない学校があります。1月末までには教科書が終われませんから、2月の私立高校の受験に間に合いません。各学校の管理職はチェックしたらいかがですか。進捗管理の悪い教員は言われないとわかりませんよ。
 成績上位生のクラスは「発展クラス」とか名前はそれぞれついていますが、授業では教科書の問題の解説がほとんどです。先生によってはプリント主体の授業をしている方がいます。生徒はどこをやっているのかわからない。先生が教科書を無視するから、生徒もどこを予習すればいいかわからず、予習がやれない。だから授業の理解度が下がります(数学だけの話ではありません)。
 そして宿題は一律に難易度の低い教科書準拠問題集ですから、これでは成績上位層の学力が伸びないのは当然です。上位層の生徒は、難易度の低い問題はばかばかしいから、時間の節約のために答えを丸写しします

 では、12点以下の46.2%はどうか?2割しか得点できないのですから、8割の問題ができません。だから、答えを丸写しします先生たちはテストの採点をして、生徒一人一人の学力を承知していますから、成績上位層のインチキが見抜けないとしても、下位層の生徒から提出された問題集の解答欄が丸写しであることはわかっているはずです
 意図しない教育のことを「隠れたカリキュラム」と教育の専門家たちが言いますが、この場合はカンニング、ズル、卑怯なことを奨励しています
 こんなことを中学校3年間やり続けたら、1年間で習慣となり、3年目には性格にまでなっています、高い確率で不正直でズルイ大人になります


< 教育のありようと町の未来 >
 町の将来にとって実にまずいことになります。真っ当な経営改善をせずに、市政と癒着してズルをする地元企業経営者が少なくないようにわたしには思えるのですが、教育改革からやらなければ根室の町の未来がないような気がします

(教育問題を論じながら、自分の子どもは中学校から都会の進学校へ学力疎開させているような地元企業経営者がいたら、そういう人には地元の中学校を善くしようなんて気持ちがありません。同じふるさとに生まれても、人の価値観はさまざま。どのように生きるのもその人の勝手です。こんなのは一部の例外で、ほとんどの地元企業経営者はまともであると信じます。)

 ズルや卑怯なことはしないというのは、重要な教育目標の一つです。
 根室
の町の未来は、いま何人、仕事でまっとうな努力のできる人間を育てられるかにかかっているとは思いませんか?


< 補遺:下位1/3の語彙力レベル >
 国語のデータ分布は、正規分布している。日本人だから、日本語を使って暮らしているから、きれいな分布になるのだろう。
 A君の日本語語彙力はほぼ小4レベルです。わたしは『中学入試 言葉力ドリル実践編』(学研)の問題で50点未満を小4レベルと判断しています。A君の語彙力は中3の生徒としては例外的なものではありません。
 この学校では、12月2日に行われた模試を含めて、学力テストは5回行われていますが、A君の国語の「平均偏差の平均値*」は-3.8ですから、10階層に区分されたデータで、A君が所属するのは中央値の隣の階層になります。どういうことかというと、毎回の得点が平均よりも-3.8点低いだけですから、A君は国語の点数では下位40-50%層に含まれており、国語力が極端に悪いわけではなく、平均よりも少しだけ低いだけです。平均偏差の最大値は-20点でした。読解に語彙力を要求する問題文が多ければ、極端に点数が下がるのかもしれません。
 このことから次のことが言えます。国語の成績下位45%の内の3人に2人が小4レベルの日本語語彙力と推定すると、根室市内の中3生246人の内の74人が小4レベルの語彙力ということになります。「利益」、「原価」、「仕入原価」、「定価」、「売値」などの用語の意味が解説ナシには理解できません。いま根室高校で使われている教科書を自力で予習することはムリです。

 五科目を教科ごとに見ると、国語が正規分布に一番近い。英語は正規分布が点数の低いほうに崩れた形をしています。数学は点数順に並べると右上がりの直線分布になっています。次回は各教科の分布の特徴の解説を予定しています。

 *平均偏差の平均値=∑(得点-平均点)/5

-------------------------------------------
 ブログ「情熱空間」とコラボ企画ですので、こちらも併せてお読みいただければ幸甚です。釧路と根室の学校の状況はよく似ています。

*「不正のすすめ(丸写しの奨励)
http://blog.livedoor.jp/jounetsu_kuukan/archives/8686485.html

  「外道である(そこは不正とカンニングを教える場なのか?)
http://blog.livedoor.jp/jounetsu_kuukan/archives/8687018.

 機能していないクラス分け(学力別クラス編成)
http://blog.livedoor.jp/jounetsu_kuukan/archives/8687627.html

 「指導する側の学力が低すぎる件」
http://blog.livedoor.jp/jounetsu_kuukan/archives/8687883.html
-------------------------------------------

 
      70%       20%      
 日本経済 人気ブログランキング IN順 - 経済ブログ村教育ブログランキング - 教育ブログ村


nice!(0)  コメント(2)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 2

ZAPPER

おかげさまで、色々と煮詰まって参りました。
久々にまた、視界が開けた気がしています。

ありがとうございます。
by ZAPPER (2016-12-17 13:58) 

ebisu

ZAPPERさん

データに基づく議論を始めるといろんなことがわかってきます。
次回は、5教科それぞれの科目の特徴と関連をテーマに書くつもりです。
ますます面白くなるので、ご期待ください。
by ebisu (2016-12-17 18:16) 

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0