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#3040 新教室授業初日に庭の桜が咲いた:生徒たちの反応や如何に May 8, 2015 [44. 本を読む]

 新教室での授業初日の朝は、昨日の強風とは打って変わって穏やかな好天となり、朝9時半に確認したら、庭の桜の木が花を6輪つけていた。庭の桜の開花と新教室での最初の授業日が重なった。こんな偶然が、なんだかとってもうれしい。

<本を読むきっかけさまざま>
 教室を自宅書斎に移転して初日の授業が終わった。4時少し前に自転車で来た中2の生徒が英語の問題集をやり終わってから、本が並んでいるのを見て訊ねた。
「先生、ワールド・ウォー2の本ないですか?」

  岩波講座『日本歴史第21巻』に太平洋戦争の章があるので開いて渡したら読み始めた。読み方のわからない漢字をいくつか訊くので、読み方を教えて明解国語辞典で意味の確認をさせたら、次々にノートに書き込んでいた。
 雑誌WiLL2005年9月号が『大東亜戦争の真実』という特集物だったので、「大東亜」の意味を解説して渡したら、『大東亜戦争』には興味がないとハッキリ。清水馨八郎著『侵略の世界史』『裏切りの世界史』(祥伝社黄金文庫)、松原久子著『驕れる白人と戦うための日本近代史』(文春文庫)、ジャレド・ダイアモンド著倉骨彰訳『銃・病原菌・鉄<上>』(草思社文庫)
 7冊ピックアップした中に、友人の遠藤利國が翻訳したジョン・キーガン著『戦略の歴史』があった。イスラム教世界とキリスト教世界の戦争が11世紀(鎌倉幕府成立のころ)の第一回十字軍遠征に端を発して千年戦争が継続中であるが、ジョン・キーガンは下巻の「第4章 鉄」でそのあたりの事情に言及している。解説したら『戦略の歴史』上巻を読み始めた。
 「雲散霧消「残虐心」「逸脱」何個目かの読み方の質問の中に「18世紀フランス啓蒙思潮」が出てきたので、「けいもうしちょう」と読みを教えた。明解国語辞典では意味がわからないので、広辞苑第と大辞林を開き「啓蒙思想」の項を見せたら、書き写している。難解なほうの広辞苑のほうが面白いという。両方を載せるので、読み比べて彼の判断を追体験してみて欲しい。
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『広辞苑第2版』
啓蒙思想:ヨーロッパ思想史上、16世紀末葉に起こり18世紀後半において全盛に達した革新的な思想。人間的・自然的理性(悟性)を尊重し、教会の代表する旧来の精神的権威・思想的特権に反対して人間的・合理的思惟の自律を唱え、理性の啓蒙を通じて人間しえ勝つの進歩・改善・幸福の増進を行うことが可能であると信じ、宗教・政治・社会・教育・経済・法律の各般にわたって旧慣を改め新秩序を建設しようとした。オランダ・イギリスに興り、フランスドイツに及び、フランス革命を思想的に準備する役割を演じた。

『大辞林第三版』
啓蒙思想:18世紀フランスを中心としてヨーロッパ全域に広がった革新的思想。キリスト教会などの伝統的権威から解放された理性の使用を公衆に促し、、人類の普遍的進歩を図った。フランスではデカルト的体系への批判を伴った。フランスのボルテール・百科全書派、イギリスのロック・ヒュームが代表。
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 大辞林のほうは端緒の説明がなく、フランス啓蒙思想の後のほうに重点が置かれて解説がなされており、代表的な思想家の名前の列挙がある。広辞苑のほうが、啓蒙思想の端緒がヨーロッパのどの国にあり、その後の経緯、とくにフランス革命との関わりが記述してあって、より学術的な解説になっている。量は5:3で広辞苑のほうが多い。中2の生徒の内容判断の基準が意外だった。短くてわかりやすいほうを好むと予想していた。
 この生徒は学校の授業で社会科目はまるで苦手で、サッパリわからないので嫌いだという。「戦争」は社会科の最重要テーマのひとつだよというと「え、そうなんですか」とびっくりした顔をしている。そいう生徒が辞書を引きながら何冊か専門書に目を通してわからない日本語の意味をノートにせっせと書き込んでいることに今度は私のほうが驚く。
 夢中で書き写しているのがよくわかった。いつもは30分ほどしか集中力が続かないのだが、1時間半たったころに声をかけたら、「え!もうこんな時間、面白いのでもうすこし調べてから帰ります」と笑顔で返事、結局105分集中力が続いた。
(この生徒にはすこし事情があって、当面の課題を1時間集中力を持続させる脳のスタミナをつけることにおいている。小学生のときから持病があり薬を飲んでいるので、薬剤の影響もあって、なかなか集中力が続かない。徐々に量を減らすことができないか主治医に相談してみたらとは本人には伝えてあるが、そろそろ保護者と面談するつもりでいる。薬の長期服用は依存性を生み、副作用が大きくなるケースが多い。
 わたしはスキルス胃癌の手術のあと抗癌剤TS-1の副作用がきつくて、主治医に相談して、再発のリスクを承知で薬剤の量や投与期間を減らしてもらった。免疫機能が落ちて白血球数が基準値を大きく割り込み、逆隔離寸前の状況が数ヶ月続いた。免疫機能が落ちすぎると、なんてことはない感染症で簡単に死んでしまう。副作用で体力の消耗がはげしく、仕事を続けたくて冒険せざるを得なかった。当時は前のめりで仕事して倒れるなら本望と考えていた。
 だから病を抱える生徒はとても他人事とは思えない。)

 高校生が太宰治の『人間失格』がありますかと訊くので、理由を尋ねたら読んだことがあって、印象が強かったという。「あるよ」と、階下の文学書の本棚へ案内した。太宰治全集が揃っている。高1の女生徒は冒頭の1節をそらんじて見せた。

恥の多い生涯を送ってきました。自分には、人間の生活といふものが、見當つかないのです。自分は東北の田舎に生まれましたので、汽車をはじめて見たのは、よほど大きくなってからでした。・・・

 元気がよくて声の大きな生徒の暗誦がすばらしかった。「第一の手記」の冒頭だが、その前に3ページの「はしがき」がある。
 ところで現在の高校の現代国語の教科書は分厚く400ページを超えている。収載されている文学作品の数も多いから、あるレベルの読む速度を要求している。もちろん基本漢字やたくさんの語彙を知らないとレベルの高い作品は読めない。いや、むしろ興味のままにたくさんの本に目を通し、辞書を引くことで語彙数が拡張し、読む速度が上がるのである。
 小学校高学年から中学生時代に濫読期を経た生徒と、そういう時期を経なかった生徒の日本語語彙力に決定的な差がついてしまうことは容易に推察できるだろう。それは国語の学力ばかりでなく、他の主要科目である英語や数学や理科や社会の科目の学力に強烈に作用してしまう。「読み・書き・算盤(計算)」トレーニングを小学校低学年の内にしっかり躾けてしまうことがその後の学力向上にどれほど大きな影響を及ぼしているのかを若いお母さんたちに知ってもらいたい。

 この生徒は太宰治全集の隣にある芥川龍之介全集を見つけて喜んでいた。じつはわたしの蔵書の中で圧巻は『夏目漱石全集』である。これは初版復刻本で一つずつ本のデザイン(箱と装丁)が異なっており、それが実にすばらしい。こんな本をいま出版したら一冊1万円近い値段でないと採算がとれないだろう。
 一番上の段には林望現代語訳『謹訳源氏物語』全十巻が並んでいる。実に格調高く、品のよい訳文だから原著とあわせて読むことを薦めたい。
 たまには学校帰りによって「読書室」で読みたい本を手にとって読んだらいい。勉強に飽きたときの気分転換に利用してもよい。「山がそこにあるから登る」ように「本がそこにあるから読む」生徒がいるだろう。わたしができるのはきっかけをつくることのみ。そういう意味では、教室を自宅書斎に移したのは正解だった。

 ブログ「情熱空間」のZAPPERさんが、面白いことを論じている。まことのその通りと思うので、関連があるので読んでみてもらいたい。同じ問題を同じ日に別の視点から取り上げており、「偶然のコラボレーション」となっている。ZAPPERさんとの間で最近、こういう「偶然」が増えている。
*「「興味を持たせたなら、あとは自発的にやる」という思い込み
http://blog.livedoor.jp/jounetsu_kuukan/archives/7932037.html


*#3037 教室移転作業完了 May 4, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-05-04

 #3038 今日からスタート:新教室を写真で紹介 May 7, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-05-07
 

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戦略の歴史(上) (中公文庫)

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  • 作者: ジョン・キーガン
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2015/02/21
  • メディア: 文庫
戦略の歴史(下) (中公文庫)

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  • 作者: ジョン・キーガン
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2015/02/21
  • メディア: 文庫

 わたしが持っているのは昭和32年筑摩書房刊の全集(普及版)であるが、これは手に入らないので、文庫本の全集を紹介しておく。
 『人間失格』は第9巻収載、百ページほどの小品である。

太宰治全集 全10巻セット (ちくま文庫)

太宰治全集 全10巻セット (ちくま文庫)

  • 作者: 太宰 治
  • 出版社/メーカー: 筑摩書房
  • 発売日: 1994/03
  • メディア: 文庫


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コメント 4

ZAPPER

最近、ウチのボンズらの「なぜ?なに?どうして?」攻撃に若干閉口しつつあるものの、気長につき合っておりました。子どもを自発的に学習に向かわせたいのなら、その先、先、先と一緒に歩むことが、またはそのための材料を与える労力を厭わないことが重要だって思います。

ところで、押入れにいっぱいあった書籍類を捨ててしまったことを、今になって若干後悔しております…。やはり本はとっておくべきですね。反省しきりです。(ー ー;)

by ZAPPER (2015-05-08 21:40) 

ebisu

わたしも子どものころに大人に似たような質問を繰り返していました。たいていの大人は辟易したようです。でもこどものそういう疑問に答えてあげてください。
答えられなくなるあたりから、子どもが自分で答えを探し出します。
いきなり自分で答え探しをできるようになるわけではないのですね。疑問を出して、大人の答え方を観察して、適切な答えへといたる道筋を学習しているのです。そういう子どもは、成長するのしたがって、自分で探索の道を歩き出します。

棄てた本のことは忘れて、これからいい本をたくさん買ってあげたらいい。
小学生のころから、欲しい本があるとお袋は必ず買ってくれました。とっても感謝しています。たまに本屋へ連れて行ってくれて、「好きな本を選びなさい、十冊でもいい」というのです。姉や妹にはそういうことはなかった、総領息子は別扱いでした。その代わり責任も重い、「お前は総領息子だから姉や妹とは別」、繰り返しそう言い続けられて男の子に育てられました。

オヤジとオフクロに感謝です。
by ebisu (2015-05-08 23:10) 

Hirosuke

>「興味を持たせたなら、あとは自発的にやる」
>という思い込み
     +
>分かりやすい授業に徹したならば、
     ↓
8年前に、こんな記事を書いてたのを思い出しました。
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塾って一体・・・。 [塾講師として]
http://tada-de-english.blog.so-net.ne.jp/2007-01-27-1
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by Hirosuke (2015-05-12 00:04) 

ebisu

Hirosukeさん

2007年の記事ですね、
ずいぶん力が入っていますね。みなさん、URLをクリックして読んでください。
http://tada-de-english.blog.so-net.ne.jp/2007-01-27-1

本当のことをハッキリ書く。
直球勝負がすがすがしい。

「わかりやすい授業」⇒「わかったつもり」

危ないですね。何度も繰り返しやって、しっかり身につけなければどこかでボロが出るものです。

授業が下手だとか、いい加減な先生がある程度いたほうが、自分で自立的に勉強する生徒は(昔は)増えた。

教科書の内容がやせ細り、先生たちみんなが「わかりやすい授業」をするようになったら、子どもたちの学力は確実に低下します。
社会人になったからの副作用が怖い。
高い確率で「指示待ち人間」になるでしょうね。
by ebisu (2015-05-12 00:43) 

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