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#1889 職人仕事の成り立ち  Apr. 3, 2012 [A4. 経済学ノート]

 BS放送で地球温暖化シミュレーションの番組をやっていた。最後に江守正多という研究者が出てきて「心・技・体」ということを強調していた。
 わたしたちのこころの在り方、温暖化阻止技術、経済社会の体系そのものの変革が三つセットで必要となるということ。
 ちょっと気になることも言っていたのでメモっておこう。南極の氷が溶け出しているという説だが、南極の氷河の流速が大きくなり大陸から離れて海へ流れ出す量が増えているというのだ。従来考えていたよりも3倍くらいの水位上昇(+1.5m)になるという。

 二週間の休暇をとったが、その間に数冊の本に眼を通した。日本において職人の成立はどれくらいまで遡れるのか、日本史の専門家はどうみているのかを探りたくて網野善彦著『日本の歴史を読みなおす(全)』筑摩文庫を読んだ。
 網野氏は、律令国家の財政が窮乏化しお雇い職能集団がそれぞれ自分でお金を稼がなくてはならなくなったあたりにその淵源を求めている。踊りをやっていた者たちは白拍子などへ、それぞれ自分たちがもっている技能や技術を生業に自立していったということはたしかなことなのだろう。

 もともとは神への捧げ物にルーツがあるのではないだろうか。神前には海で獲れたものや畑で取れたものを供えるが、それらは腕によりをかけて海から獲った魚だったり、手間をかけて育てたお米だったりしたのだろう。いまでも伊勢神宮は昔のままに同じ畑でお供え物を作っているようだ。神への供え物を作る畑で手抜き仕事は考えられない。そこには、ひたすら正直に誠実に手間を惜しまぬ仕事の姿がある。

 神社の建築に係わる宮大工や武器である剣をつくる刀工が自立・分化した職人として最古かもしれない。これらも神に係わるものだ。刀工はいまでも正月に禊をしてから仕事始めをするという伝統を守り続けている。

 職人仕事はもともと神への捧げ物をつくるところにルーツがあったのだろう。漁師も農民も土器を作る人も分化していない時代から、それぞれの職能が分化していくときに成立したのだろうと思われる。そう考えると、縄文時代から古墳時代にまで職人のルーツを遡ることができるのだろう。大事なのは八百万の神々への供え物を作ることと関わりがあったという点である。神への供え物は最上等品でなければならない。

 日本人にとって職人仕事とはその原初から嘘偽りや誤魔化しのない正直で誠実なものだったと言ってよいのではないだろうか。
 それが自動車生産の工場でも、農民の米や野菜や果物作りにも現れている。製品の品質を上げるために工場で仕事をする人々は指示されずとも毎日仕事の改善を積み重ねていく。
 それゆえ労働における人間疎外の問題は日本ではマルクス経済学者の頭の中にしか存在しない。職人仕事はもともと神聖なものであり、ごまかしの許されぬものであるから、その都度、渾身の力でいい仕事をすればいい。
 あらゆる業種にそれぞれ細分化された職人がおり、名人がいる。それが日本の伝統的な経済社会だ。スミスやリカードやマルクスの考えた「労働者」とはまったく異なる仕事のやり方をする職人が日本ではあたりまえだ。職人仕事のあり方は商道徳にも影響を及ぼしている。「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」、信頼に基く経済社会こそが日本本来のあり方と言ってよいのだろう。

  問題の先送りや、ごまかしの仕事をしてはいけない。好い加減な仕事は恥ずかしいことと心得よう。
 仕事は正直に誠実にやり、日々その技を磨くべし。そういう心がけでやる仕事は楽しいもの、腕が上がっていくのが実感できる。
 日本人本来の仕事のあり方とは何か、それを自らに問いつつ日々の仕事に精励したいものだ。

*地球温暖化シミュレーション
http://www.team-6.jp/cc-sim/

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