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#1735 TPP?ちょっと立ち止まって考えよう:異質な経済学の展望 Nov. 17, 2011 [A4. 経済学ノート]

 TPP、TPPとかまびすしい。TPPは日本人に価値観の転換を迫っているのかも知れぬ。パラダイムシフトのいいチャンスである。過去ログと最近頼まれた原稿の下書きに書いたものを続けてアップしたい。「鎖国のススメ」である。過去の記事の他に新しいものを1~2回追加する予定だ。
(過去の記事に1行ほど加筆・修正した)

http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2011-03-31
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#1454 異質な経済学の展望 :パラダイムシフト Mar. 31, 2011

 原発は便利である。利便性を追い求めた結果、人類が手に入れたものはたくさんある。しかし、この便利さを疑ってみる必要がないだろうか?東北関東大地震とそれによって引き起こされた津波が福島1号原発を襲った。3機の原発が火災を起こし、4機の原子炉建屋から大量の放射能がばら撒かれた。地震からすでに21日目であるが一向に終着点が見えない。

 これは3月7日に書いてそのままにしてあった小論である。いろいろ考えあぐねているのだが、私には商品経済をどの程度制限すべきかについてはいまだに整理がつかない。

 人類が生き延びるためには「過剰な利便性」を排除し、ある程度の不便を受容する経済社会が必要なのではないか。日本列島は4枚のプレートに載った不安定な構造上にある。原子力発電はそういう日本の地質学的な構造に適さない。利便性と同時に破滅的なリスクを抱えることになるからだ。そういう現実を今回わたしたちは目の当たりにし、原子力専門家の言うこと(何重にも施された安全性)が当てにならないことを思い知らされた。

 かなり不便なそして高いコストを払うことになるが、私たちは生活基本物資を国内で自給自足できる体制を創出すべきだと思う。世界各国は国内で生産・調達できない物のみ国際市場で調達すればいい。リカードの比較生産費説による国際分業を真っ向から否定することになる。スミスとリカードとマルクスは一本の線でつながっているから、マルクス経済学に取って代わる経済学を創るためには結局、スミスもリカードも否定することになるということにいまごろ気がついて、それですこし狼狽している。
 商品経済を制限し、国単位での自給自足の度合いを強め、経済縮小や人口減少を図り地球環境とのバランスを取り戻すべきで、それを実現できる経済学を提唱したい小欲知足の経済社会である。
  
  私には見果てぬ夢がある『資本論』とは異質な経済学を垣間見ることだ。まさか、リカードの『経済学及び課税の原理』まで否定することになるとは考えていなかった。
  これは試論である。浅学菲才の私には描くべき経済学の全体像がどのようなものかまだわからない、要点を整理してみようと思う。

(1)労働概念から職人仕事概念へ
 労働は苦役だというのが西洋経済学思想の根底にある。労働はもともと奴隷や農奴のもので、苦役以外の何物でもない。特権市民は労働をしない。労働からの解放は奴隷からの解放と重なる。
 マルクスにとっては工場労働者の労働は人間疎外や苦役という観点から、奴隷や農奴の労働と変わらない。労働が苦役だという考えは古代奴隷制社会や農奴制社会に固有なものだろう。決して普遍的な概念ではない
 日本は奴隷制社会も農奴制社会も経験していないが、そのことが労働概念の違いとなっていることに日本の経済学者は誰も気がついていないようにみえる。宗教(神道)と職人仕事の関係も無視できぬ。
 日本人の労働観は西洋のそれとはまったく異なる。刀鍛冶はその年の仕事始めはをしてから刀を打つ、日本人にとって仕事は古来から神聖なものであった。あらゆる分野の仕事がさまざまな職人によってなされており、名工は尊敬されている。
 労働を私は仕事と言い換えたい。もっとはっきり言えば職人仕事*である。
 自らの仕事を「人間疎外」だなんて感じる職人は日本には一人もいないだろう。職人仕事は自己実現そのものであり、全人的な行為である。だから、工場でさまざまな改善活動が自然に起きてしまう。工場にいる職人たちは仕事の改善活動が楽しいのだ。職人が自分の技を磨くのは他からの強制ではないし、自分がそのときになしうる最高の仕事をするというのが職人仕事の基本である。日本の風土は「工場労働者」さえも職人化してしまう風土と経済も切り離しえないのだろう。
 マルクスは資本論の出発点に抽象的人間労働を措定したが、これを職人仕事に置き換えたらどのような経済学体系が展望できるのだろう。私たちはまったく違う世界をみることになる。
 とはいえ、公理的な体系である経済学の学の端緒を入れ替えて別な建物を建てるのは簡単ではない。本音を言えば最初のところから沈没しそうである。種々の概念を比較分析し、基本的なものを篩(フル)いにかけ、ついでそれらに順序をつけて、基本的な関係から順を追って複雑な関係の中のおいて、概念を発展させていかねばならぬ。つまり、うんざりするような仕事がまっているのだ。
 そもそも価値形態論は書きうるのだろうか?それとも不要なのか?それすらまだ分からぬ。やってみるしかないだろう。世界市場関係や国際関係までの道のりは遠い。誰かがやるべき仕事だろうが、正直言って私の手には余る。

(2)経済成長論から経済縮小論への転換
 日本の歴史は400年ごとに大きく変貌を遂げてきた。平安時代から400年で武家政権の鎌倉時代へ、そして1600年の関が原の戦いで鎖国体制に入った。その後の400年は経済成長と人口増加の時代だった。2000年を境に人口縮小・経済縮小の時代に入ったのではないかというのがわたしの見方だ
 感覚の鋭い経済学者である馬場宏二氏が90年代後半から「過剰富裕化論」で縮小の経済学を説いているのは興味深い。大きな潮流の変化を感じ取っているのだろうと思う。
 遺伝子の中でどういうプログラムが働いているのかわからないが、日本人はピーク時の四分の一、人口3000万人へ縮小しつつあるのかも知れぬ。
 3000万人へ人口縮小という假説に立ってみよう。食糧の自給は可能になるし、二酸化炭素の排出量も四分の一になる。経済成長論よりも経済縮小論のメリットのほうがはるかに大きいのではないだろうか。
 EEZ(排他的経済水域)内には現在の人口でも100年分のメタンハイドレートが眠っているし、レアメタルも海底に無尽蔵にある。巧く人口を減らせれば、資源は500年でも1000年でももたせることができる。その間に人類が生存可能なように智慧を絞ればいい。
 人口減経済縮小環境に負荷のかからない生活様式への切り替を世界に先駆けて日本人がやる。おそらくそうすることでしか世界は救えない。古代奴隷制社会や農奴制社会を経験した欧米の国民やロシア人や中国人にはこのような役割を期待できない。労働に関する価値観や商道徳が違うからだ。
 縮小経済論は特殊日本的なものでありながら世界経済へ普遍性をもつものとなるだろう

(3)商道徳
 自由放任で神の見えざる手が働くというのがスミス『諸国民の富』の説くところであったが、地球環境的にも行き詰まりである。レッセフェール(laissez-faire=自由放任)に対して私利私欲を棄て、三方善しの経済を対置する。原始仏教の小欲知足という考えや自然と調和して1万2千年過ごしてきた縄文の価値観とも通底する。

 人間は自らの欲望を理性でコントロールしなければならない時代に入っている。日本人は特有の商道徳の実践で強欲を戒めてきた世界に類のない国民である「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方善し」の商道徳は広く受け入れられて、様々な企業で家訓や社訓として受け継がれてきた。
 日本には信用を旨とし、200年以上の歴史を誇る企業が多い。世界中にある200年以上の歴史を誇る企業のおおよそ80%は日本にあると言われている。住友家の家訓の一つ「浮利を追わず」というような企業理念をもつ会社が日本には多い。
 だまされるほうが悪いという西洋流の無軌道な弱肉強食のルールは日本には合わないし、そういう考えの企業は一時的に反映してもあだ花に終わり永続できない。
 そもそも地球環境の維持ができないほどの経済発展は「三方善し」の考えに立てば、「世間善し」とはならないから、やってはいけない事柄に属する。自らの欲望を固く閉じ込めなけらばならないのだが、日本人にはそれが可能だ
 この点でも特殊日本的な職人主義経済は世界経済への普遍性をもつことになる。

(4)宗教と経済
 プロティスタンティズムと資本主義の精神という本があるくらいだから、近代資本主義とプロティスタンティズムは関係が深い。ジョンロックの思想やスミスを研究することで論証できるだろう。もちろん、マックスウェーバーの著作もだ。
 イスラム世界はまた違った思想で経済が動いている。ユダヤ教も然り。これら三つの宗教に共通するのは啓典宗教ということと、もともと同じ神を信仰しているということだろう。預言者が違うというだけのことで、お互いに自分が正しいと言い募っている。

 日本は多神教の世界である。自然界のあらゆるものに神が宿っていると考えている。古代奴隷制も農奴社会も経験していない。必要以上に収穫をせず、自然と調和する生活を縄文時代1万年にわたって続けてきた100万人の人口があった江戸すらも当時の技術で自然と可能な限り調和を求めた社会ではなかっただろうか。上下水道や糞尿処理の違いを比べてみるのも一興である。
 縄文期の暇つぶしのための縄文土器造りや神への捧げ物とつくる仕事が原点にあるのではないだろうか。
 多神教という意味では、ヒンズー教のインドへの興味もわく。そして仏教はユダヤ教やキリスト教やイスラム教が宗教という意味での宗教ではなく、哲学である。人間がいかに欲望を抑えるかということを繰り返し説いている。私は小欲知足という言葉を使いたい。
 ネパール、チベット、ブータンなどの国々が日本と似ている。ネパールはヒンズー教が8割、仏教が2割のユニークな国である。仏教徒は欲望をコントロールする術を知っている。お釈迦様は欲望を離れることを繰り返し述べておられる。苦は欲望の火から生まれる。無明を脱するためにその火を消しつくすことを繰り返し述べれおられる。涅槃=やすらぎは理性による本能の制御によってもたらされるのだろう。

 小欲知足。必要なもの以上を自然から収奪しない、つまり商品経済社会ではない経済社会を描くことになる。しかし、現実はツギハギになる。いや、商品経済社会そのものを制限するか止揚しなければならないのだろう。この辺りも大きな問題を孕んでいそうだ。
 
*#484 「国民の95%が幸せ…屈託のない笑顔(ブータン)」
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2009-01-11-1

(5)政治形態
 経済と政治形態は切り離しがたいのではないだろうかという疑問が私にはある。近代資本主義と民主主義、マルクス経済学と共産主義や社会主義。職人主義経済もそれにふさわしい政治形態があるのではないだろうか。漠然としたイメージがあるだけだ。

 おおよそ、以上のような五つの要素を土台にして新しい経済学が展望できれば本望である。マルクス『資本論』のように経済学体系として一つの書物を書き切ることはできないだろうが、要点を記述するぐらいのことは私にも可能だろう。現段階ではそう考えている。
 もちろん、他の誰かがやってくれてもいい。誰がやるというよりも、仕事の結果が大事だ。行き詰まりを迎えている人類を救う経済理論が生まれなければならぬ、そういう大きな転換期に来ている。これから400年間日本経済の理論的支柱となるべき経済学である。日本が率先してやって見せ、世界へ範を示せばいい。いいものは広がり、普遍性を獲得する

 カテゴリー「経済学ノート」は新しい経済学体系を創造するための試行錯誤である。いくつかの職人仕事についてはすでに何度か書いた。伝統的な商道徳や200年を超える歴史をもつ企業についても。これらは日本経済を理解する上で、そして西洋経済学へのアンチテーゼとして重要な鍵であると私は考える。


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*職人仕事について
 ドイツのマイスター制度に代表されるように、ヨーロッパにも職人仕事の伝統はある。ドイツばかりでなくイタリアにも、広くヨーロッパにも存在している。そういう点から見ると日本の職人仕事は普遍的な広がりをもつもののようだ。
 そして奴隷労働も時代と地域で様々であることを古代ローマや古代ギリシアの専門家であるEさんが数ヶ月前にメールで指摘してくれた。どのように取り扱ったものかと考えあぐねている。
 ひとつ違うところを言えば神道とのつながりがあるところだろう。神への捧げ物を作るというところに日本人の職人仕事の原点があるように思える。
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PIROSHIKI

鎖国をするなら、まずは食料自給率を100%以上にする必要が最低限必要でしょうね。

TPP、問題点やメリットについてどうお考えですか?
by PIROSHIKI (2011-11-18 00:20) 

ebisu

食糧自給率の問題は原則は仰るとおりでしょう。
でも江戸期に見るように鎖国は貿易をしないことではありませんから、とくに問題はないでしょう。
いずれ人口が減少や生活スタイルの変更が自給率を100%以上にアップしてくれます。


TPPのメリットや問題点については次々回で採り上げたいと思います。
極論を考えると問題点やメリットがはっきりすると予想しています。
比較生産費で生産拠点が国際間を移動する⇒国家の存在を前提として比較生産費説を検討する

米国は米国の国益の上に立ってTPPを言い出している。だから、関税を撤廃して完全な比較生産費説の世界の実現を提唱しているのではない。そんなことをしたら、労働集約的な産業は米国からなくなります。米国は自国内の雇用を確保し、増やしたい。
TPP自体はなんだかよくわかりません。もう少し議論が進んでみないと具体論でどの分野にどういう影響が出るのかわかりません。

次回、次々回どころではなさそうです。長丁場の議論になりそうな気配です。
なんだか大仕事になりそうで、たいへんそうです。(笑い)

でも、コメント歓迎。
私の論に都合の悪いコメントどんどん書き込んでください。
考えてみます。
by ebisu (2011-11-18 00:50) 

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