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サブプライムローンとはなんだったのか #777 Oct.30, 2009 [A4. 経済学ノート]

サブプライムローンとはなんだったのか #777 Oct.30, 2009

 夜中にNHKの再放送番組を見た。『マネーの暴走がとまらない』というタイトルで、ある米年金機構がリスクの高いNR(No-Ratings)に手を出し、損失を被り基金が毀損する過程が詳細に取材されていた。
 最初はヘッジファンドが手を出し、莫大な儲けを手にする。ヘッジファンドがさまざまな格付けのサブプライムローンを組み合わせた証券を販売し巨額の利益を上げ始めると、それに遅れまじと投資銀行がヘッジファンドを立ち上げて算入していく。
 後発のヘッジファンドは儲けを大きくするためにリスクの高い金融商品であるNR(No-Ratings,格付け外)のサブプライムローン証券に手を出す。AAAだと3%以下の利率だがBBだと10%、NRだと20%の利率がつく。投資銀行の子会社であるヘッジファンドは保有の金融派生商品についての情報を開示する必要がない。投資銀行とヘッジファンドとの間で何が行われているか監視機関が関知できないまま暴走が始まってしまう。
 地価が上げどまり、証券が暴落しはじめると、ヘッジファンドや年金機構はは損失をカバーするために一斉に高利のNRに殺到し、莫大な損失を出しす。次々に破綻していくヘッジファンドの損失は巨額で、親会社である投資銀行をも巻き込んでいく。それが世界中を震撼させた金融危機だった。

 年金機構は積立金が大きく毀損しまい、今までのベースで年金を支払い続けることが不可能になっている。支払額を減額するか、新たな投資先を見つけて損害を取り戻すか、保険料を増額するか、選択肢は三つある。一番目は受給者の強い反対が予想されるし、三番目の選択肢は現在の経済状況からして保険料増額は不可能である。それゆえ運用担当者は2番目の「新たな効率のよい投資先」を必至に探している。しかし、巨額の損失は運用で浮利を追うことから生じたのではなかったか。またぞろ、巨額の損失を招来する投資行動に走っているように見えてならない。

 日本の成果市場組合の年金積立金も被害を被るが、担当者はサブプライムローンやヘッジファンドの仕組みがわからなかった、チェックできなかったと述懐している。金融商品に関する理解能力を欠いている者が年金基金の運用を担当している不可思議さ。プロ意識の欠如はどうしたことだろう。損害を出した原因は運用担当者が金融工学の知識を欠いていたからだと反省しているようだが、それは見当はずれかもしれない。浮利を追いかけるという欲望に負けたのではなかったのか。

 日本には「浮利を追うべからず」という言葉がある。住友家の家訓であるが、広く受け入れられた商道徳だ。
 年金機構は預った基金で浮利を追ってはならない、それが当たり前の日本人の常識である。青果市場組合の年金基金管理担当者はそういう日本人の常識すら欠いていたといえる。

 米国のヘッジファンドは、商道徳というものがないようだ。弱肉強食のジャングルの論理、弱いものは食われる。サブプライムローンは不動産価格が上げ止まれば自己破産必至のローンである。しかも、低所得層を狙い撃ちにしたもので、購入した不動産も、預貯金もなくなるようにできている。低所得層は肉食動物(ヘッジファンド)の餌食になった。餌を食いつくし、増えすぎた肉食動物はその数を減らすことになった。

 競馬や競輪に似て、一度儲かると深みに嵌ってしまう。金利の高いNRのサブプライムローン証券はそのようなものだった。しかし、先発のヘッジファンドが莫大な利益を上げているのを横目に見てしまったら、欲望が歯止めを失う。実際に、莫大な利益を手にする者たちが現れるとそれの遅れまじと、次々に新規参入が始まってしまう。誰にも止められない。実体経済の数千倍もの規模のマネーゲームはネズミ講と同じだ。必ず破綻することが約束されている。それでも欲望は誰にも止められない。年金運用担当者やヘッジファンドの強欲だけが問題なのではなく、人間そのものの本質に根ざす欲望の暴走が問題なのだ。したがって、問題の本質は普遍的な人間の欲望に行き着く。

 金融危機から学ばねばならないこと、自問しなければならないことは、次々に巨利を手にする者たちが現れたときに、自分がそのゲームに参加しない自制心、倫理性の高さを保てるかということだ。回りがどのようにあろうとも、毅然として距離を保っていられるかという問題である。

 浮利を追うという火種はまだ残っており、年金運用担当者は損失をカバーするために必至になって新たな高利の運用先を探している。あなたの年金は大丈夫か?
 
賭け事に失敗し、その損を取り戻すためにさらにリスクの大きいものに全財産を投じてしまう愚を冒してはいないのだろうか。投じられる金額が大きすぎて、運用担当者にはその金額に現実感がないように見えた。

 日本には「買い手よし、売り手よし、世間よし」という商道徳もある。買い手の低所得層が破産するような商品を売ってはならないし、世界中が金融破綻の連鎖を起こすような商品に手を染めてはならない。
 こうしてみると、日本人の商道徳に真っ向から反する商品がサブプライムローンであった。だから、日本の金融機関や年金機構も損害を出してはいるが被害は比較的少なくてすんだ。致命傷になったところはない。

 自己(売り手)の利益よりも、取引相手(買い手)の利益や世間の利益を優先して考える経済社会のほうが米国よりもよほど健全である
 日本が輸出すべきものは、仕事に対する正直さ、私的利益よりも公益を優先する道徳心の高さであろう。そのことで日本人が製造した商品、日本人が売るものが世界中から信頼されることになる。

 「仕事に手を抜かない職人気質」、「買い手よし、売り手よし、世間よし」、「浮利を追わず」等々、このような価値観が世界中に広まれば、経済社会は安定するし、CO2も減少するに違いない。わたしはそういう経済社会が来ることを夢見ている


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