トムラウシ縦走遭難(続報)職業倫理と経営理念 [91.経済]
トムラウシ縦走遭難(続報)職業倫理と経営理念
トムラウシ山の遭難についてだんだん詳しいことがわかってきた。単独登山の男性は死因が「凍死」と判明した。やはり寒かったのだ。報道にあった8度というのは推定どおり昼の気温で、山小屋付近には残雪も残っており、零度以下だったという。それに加えて強風では冬の防寒着でも凍えるほど寒かったに違いない。遺体を旭川医大へ搬送して司法解剖した結果、8人の死因は凍死であると道警が公表した。
記者会見した社長は防寒着の用意はリストに載せてツアー客に通知してあるので、会社の責任はそこまでで、実際に用意してきたかどうかはツアー客の自己責任と言い訳していた。杜撰な仕事、杜撰な商品、杜撰なサービス、杜撰な経営姿勢としか言い様がない。
遭難事故にはガイド二人はトムラウシ縦走は初めてだったというおまけがついた。わたしがガイドなら社長に言って事前に一度縦走させてもらい、現地を確認してからでないと仕事を引き受けないだろう。
小さな会社のようだから、費用が出せなかったのかもしれない。プロならそういう場合は自前で現地調査をするか、仕事を経験のある人へ回してもらうか、仕事を下りるかしかない。ぎりぎりの判断を求められる。職業倫理の問題に関わるので、社内事情によっては転職も覚悟しなければならない。
わたしは職人のように自分の技を常に磨き、質の高い仕事をまっとうする「職人主義経済」への転換をブログで何度か提唱している。アメリカ流のグローバリズム(資本主義)は地球環境すら破壊し人類を滅亡へと誘いつつある。それを避ける智慧が日本には伝統文化として受け継がれている。日本には職人の職業倫理と、近江商人に見る「売り手よし、買い手よし、世間よし」の商人道に共通して流れる伝統的価値観があるが、米国流資本主義へのアンチテーゼとなりうるものだ。その淵源はおそらく数万年の歴史をもつ縄文期にまで遡ることができるのだろう。
ツアーガイドもプロの職人である。仕事に誇りをもって、そして常日頃自分のプロとしての技を磨くべきだ。アミューズトラベル社のガイドがそうした仕事の仕方をしていたら、今回の遭難は避けられたに違いない。
高齢者のツアーで天候悪化にも関わらず軽装備で縦走を強行したのは、プロらしからぬ判断ミスであった。ツアーを中止すると売上が減る。経営者が売上至上主義で、働くガイドがイエスマンだと仮定すれば起こるべくして起きた遭難事故と言えるのかもしれない。
遭難の要因は一つではない。ツアー会社の経営方針、服装などの装備上の問題、トムラウシ縦走経験のないガイドの選定、ガイドの仕事に対する職業倫理の欠如、ツアー客の防寒着チェックの手抜き、ツアー客の体力上の問題の軽視、悪天候下の縦走強行、判断ミスなどが重なってしまった。遭難が起きるときはいくつものミスの連鎖が存在している。全部がそろったところで事故は起きる。
ツアーガイドの実態がこれでは、客だからといって業者に安全を100%委ねてはいけないようだ。自分でも調べて、きつい状況を想像し、それに備えた装備をするのは当たり前のことだろう。自分の体力への過信もいけない。少なくとも長い距離を縦走するからには、ベテラン並みの準備が要求される。軽装での登山は考えられない、厳冬期の防寒具が必要だとトムラウシを縦走したことのある登山者が述べている。
私はこんなに長い縦走コースを歩いた経験がないが、東京にいた頃、近隣の低い山をよく散策した。2~5時間くらいのコースを選び、そのあと温泉につかって一杯やるというのが私の流儀だ。だから奥多摩と箱根が多い。トレーニングには高尾山を利用していた。朝早く行ってその都度好きなコースを選び歩き回る。そしてお昼には戻る。
地形図を読むこと自体が楽しい知的な遊びでもあるので、事前に5万分の一か2万5千分の一の地形図でコースをなぞり、しっかり頭に入れてからハイキングした。
コースのポイントごとにどの方角にどういう地形が確認できるか地図でシミュレーションするのである。等高線から地形の断面図を描くのも楽しい。慣れてくれば褶曲し稠密になったり疎になったりする等高線を見るだけでおおよその断面図が頭に浮かぶようになる。慣れとはすごいものだ。繰り返すうちに等高線を見ただけで地形図を見れば立体的な姿がある程度想像できるようになる。
一度だけ奥多摩でコースを外したことがある。外してから15分で気がつき戻った。分岐点のところで下側の細い道を降りるべきだったが、大きな木があってそこに腰掛けて休んで歩き出したら、下側に細い道があるのを見落とし、うっかりますっぐの道を選んでしまった。尾根から谷へ向かうはずの道が尾根伝いになっている。傾斜も緩い。シミュレーションのときは休憩箇所の辺りから階段状のきつい下り勾配に入っているはずだった。おかしいと思ったので林が切れたところで周りの山のピークの方角を確認してみたら、コースから外れて傾斜の緩い尾根伝いの道を歩いているのがわかった。この道を行くと別のコースに入り迷ってしまう。どこへ続く道か地形図からは読み取れなかった。
こういうときに地形図で歩くコースからみえる地形をシミュレーションしておくと心にゆとりを残して状況を判断し、確信を抱いて引き返せる。気持ちが不安になると人間は判断ミスを犯しやすくなるから、地形図での全コースのシミュレーションはハイキングでは欠かせない作業だ。
昼間の2~4時間くらいの軽いハイキングといえどもコースを外せば夜になり危険はあるので、油断はできない。迷って夜になったときのことも考えて食糧や装備の確認は怠らなかった。
それには理由がある。小学校のときに花咲小学校の裏手の家まで近所の婆さんにお使いを頼まれたことがあった。ひどい吹雪の日だったが、そこは男の子、勇気を出して冒険心に駆られて猛吹雪のなかを歩き出したが、電信柱さえ見えなくなる。いまならホワイトアウトという言葉を知っているがその当時はない。言葉よりも体験が先だった。花咲小学校手前の海へ抜ける3車線の大通りへ出たあたりで遭難しそうになった。雪が深くて足を抜いてもモモのところまであった。退くことも進むこともままならなくなるし、吹雪で方角すらわからない。やばいな、命の危険を感じた。それ以来、自然をなめないようにしている。街中ですら猛吹雪に遭うと遭難する可能性がある。ましてや山でそのような目にあったら冬山用の重装備がなければ100%死ぬだろう。自然は怖いものだと体が記憶している。
東京では大きい本屋へ行けば5万分の一あるいは国土地理院発行の2万5千分の一の地形図が(主要なところは)大体そろっている。ところが根室は本屋で地形図が売っていない、残念だ。
もっとも根室半島は5万分の一の地形図では等高線がほとんど姿を表さない。ほとんどまったいらだから。そのことは船に乗って海からわが故郷を眺めるとよくわかる。ノサップ岬から水晶島を眺めたときにうすぺったらい印象をもつが、あれと根室は同じだ。向こうから見たらなんとうすぺったらいところだと思うだろう。国後島の山がオホーツク海に聳えて見えるのと好対照をなしている。
さて、根室はこのところ雨が多く、このブログを書いている今朝も屋根を叩く雨音がうるさい。この雨では花火大会は中止になるだろう。
6月の雨量は例年の5倍という発表があったが、この分だと7月も同様の記録になるだろう。根室半島はこの1ヶ月余も雨雲の中に包まれている。2ヶ月以上もこんな天気が続くわけもないから8月は晴天続きのいい夏が期待できそうだ。
根室最大のイベント、金比羅さんのお祭りは8月9・10・11日だ。
*トムラウシは花の多いところというアイヌ語に由来するらしい。その縦走の素晴らしさをブログで語ってくれている人や縦走コースの詳細、登山家の装備に対するコメントなどをが載っているURLを以下に記す。
トムラウシ縦走コース地図
http://yamachizu.mapple.net/mt01-0006/
トムラウシ山(縦走山旅日記)
http://www1.u-netsurf.ne.jp/~tamu/183tomurausi-kaun.htm
北海道勤労者山岳連盟会長のコメント
http://sankei.jp.msn.com/affairs/disaster/090717/dst0907171109009-n1.htm
ガイドの判断に疑問:登山家の田部井淳子さんのコメント
http://sankei.jp.msn.com/affairs/disaster/090717/dst0907171152011-n1.htm
大雪山系相次ぎ遭難、10人死亡-道警捜査(17日8時42分時事通信)
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20090717-00000030-jij-soci
モルゲンロート:トムラウシ縦走経験者が語る「厳冬期用」の衣服の必要
http://sam0802.exblog.jp/10637572/
人気ツアーに落とし穴(中国新聞社説-19日)
http://www.chugoku-np.co.jp/Syasetu/Sh200907190113.html
拙ブログでの初報
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2009-07-16-1
2009年7月19日 ebisu-blog#659
総閲覧数:130,900/602 days(7月19日7時15分)
ジャパニーズマイスター制度がよろしいですね
by クラブナビ (2009-07-19 19:28)
衆議院選挙でも争点にはならないでしょうが、ジャパニーズ・マイスター制度、いいですね。
親方や師匠のところで5年の修業を義務付けて5段階くらいのレベルの称号を付与したいものです。
そしてそういう技術伝承者を大切にする。
by ebisu (2009-07-19 23:54)