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どうしたら市立根室病院改革ができるのか?(公営企業「企業会計基準」を解説) [32. 市立根室病院建て替え]

どうしたら市立根室病院改革ができるのか?
広報『ねむろ6月号』から、市立根室病院事業を例に「企業会計基準」を解説


 10億円の赤字がどのようなカラクリで1億円の黒字に化けるのだろうか?仕組みを解説する

 教育問題においては、全国学力テスト結果および全道で定期的に行われている学力テスト結果の公表が、根室の子供たちの学力向上のために最低限必要な情報であるように、市立根室病院を良くするためにはその実態を表す財務諸表数値情報公開が必要である。情報公開が町を良くするための最初の一歩だ。そこを避けて通ったら改革はできない。

 赤字を黒字とごまかしている間は、まともな経営改善が一つも進まないことはこの5年間10億円を超える病院事業赤字を出し続けたことで証明されている。たったの5年間で実に50億円ものお金を市立根室病院維持のためにつぎ込まざるをえなかった。これを半減する努力をしただけで、病院は建てられたのである。このままでは財政健全化団体への転落もありうる、放置していいはずがない。

 根室市の広報(6月号)が数日前に届いた。病院事業会計のはどこにも赤字の表記がない。それどころか黒字になっている。しかし騙されてはいけない。
 裏表紙を見ると、5月1日現在の人口は30,203人となっている。前年同月比マイナス424人である。年内にも3万人割れしそうな状況である。市の財政は人口減と高齢化の相乗効果で次第にきつさを増してゆくから、ツケを先延ばししてはいけない。

 「企業会計のあらまし」が5ページから載っているので、開いてみて欲しい。20年度予算執行状況が載っている。下期分の「収益」19.4億円に対して「費用」は18.4億円で、差し引き1.2億円の「純利益」となっている。年額に換算すると「収益」39億円だ。ほんとうだろうか?北海道新聞の地域欄でも11億円の市立根室病院の赤字が伝えられていた。
 次のページには「平成21年度予算概要」が載っている。市立根室病院事業会計には「収益」37.7億円、「費用」35.8億円、「純利益」1.2億円となっている。決算・予算共に市の広報では黒字である。この数字を見る限り病院経営は健全であり、経営改善の必要性はない。

 要約すると、半期でも通期でも市立根室病院事業会計に赤字は存在しない。ところが病院事業会計は民間の企業会計基準に従えば、5年間連続して10億円を超える赤字が続いている。一体何がどうなっているのだろうか?

 どういうカラクリなのか、わたしの手元に平成18年度の決算書があるのでそれを例にとって説明しようと思う。いい病院をもちたいなら、根室市議は全員このブログを読んで勉強して欲しい。
 からくりがわからなければ、市議会で適切な質問ができないし、市議の重要な役割である市政チェック機能を果たせない。
 根室市議会議員の存在理由を問われる問題である。課せられた役割が担えないなら市議の数は半分の10人でも多い。市民団体から4件目の市議定数削減要求がでたことが今日の道新に載っている。人口が減っているのだから5人削減して15人の定数にすべきだという。ずいぶんと遠慮した数字だ。
 無投票当選は市議の質を下げるという趣旨のことも市民団体代表の方が述べている。思えば、現市長も無投票当選であった。
 市議職も市長職も市政を担うべき人材が不足している。人口が減少するということは若くて有能な根室人が中央へ出て行って戻らないということだ。長期人口減少の市町村に人材が不足するのは当然のことだろう。それを補う智慧が必要だ。生まれ育った根室の町を良くするために一緒に考えてみて欲しい。

 私はブログで病院事業問題を採り上げ始めた頃、そのころに首都圏のある県の県立病院事業管理に携わっていた友人から次ぎのような助言を受けた。
「病院事業会計に関わるP/LとB/Sは公開されているから、もらえるはずだ。市役所で請求してみたら?」
 さっそく電話をしてから行くと財政課で資料を用意してくれていた。丁寧にこちらの質問にも答えてくれる。応接の感じはたいへんよかった。こうして手に入った「平成18年度市立根室病院事業損益計算書」を元に具体的なカラクリを説明しようと思う。意外だったが公開されている情報も多い。

 「医業収入」は25.2億円ある。平成21年度予算37億円とは12億円も差がある。なぜだろう?
平成18年度は常勤医が15人いた年ではなかっただろうか?平成19年度に11人に減少し、そしていまは16人である。一人増えただけで売上が12億円も増えるはずはない。

 企業会計基準(地方公営企業法に基づくものは「企業会計基準」と括弧をつける。括弧のないときは、民間の通常の会計基準である。上場企業もこの会計基準に基づいて予算や決算数値を公表している。)では収益は3つに区分されている。営業収益、営業外収益、特別利益である。
 病院事業でも区分はある。平成18年度「医業収益」は25.2億円、「営業外収益」が8.0億円、「特別利益」が1.0億円ある。合計34億円の「収益」である。
 つまり、「収益」とは売上のことではない
 このなかに、「その他医業収益」として、国基準の一般会計からの繰入金1.4億円、「医業外収益」に「(2)一般会計負担金」と「(4)一般会計補助金」の二つ、合計で7.8億円の繰り入れがある。この区分には予算内繰入と予算外繰り入れが混在しているようだ。「特別利益」には「他会計繰入金」1.0億円があるが、これは全額予算外の赤字補填分だろう。合計で10.2億円が一般会計からの繰入金である。これらすべてを含んで「収益」としている。
 括弧のつかない正しい会計基準ではこの10億円はすべて特別利益に該当するので、売上にも経常収益にも含めてはいけない。ましてや「収益」として赤字補填の一般会計からの繰入金を経常収益に含めて報告するなど粉飾そのものであり、株主(市民)や利害関係者(患者、医者、病院職員)の判断を誤らせるものであるから、あってはならないことである。売上収益と一般会計からの繰入金は市の広報上でも区分表示すべき性質のものである。それがまっとうな仕事だ。
 予算上では5億円足らずの繰入金になっていたから、予算外で5億円余の繰入をやったことになる。

 これらのことから次のことが言える。市の広報に載せられた「市立病院事業会計」では予算も決算もまったく実態がわからないということだ。それどころか、10億円を超える赤字が1億円の黒字に化けてしまう
 これでは経営改善の必要性がまったくなくなる。

 貸借対照表にも民間企業会計基準と大きな隔たりがあるのだがそれはまた別の機会に論じよう。長期借入金を負債の部に記載せずに、資本の部に組み込んで記載することは、明白な粉飾であることはすでにブログに書いた。最近の新聞報道によれば、その点だけは、地方公営企業法に基づく公営「企業会計基準」を見直すことが決まった。

 病院職員も市の職員も市議も自分が果たすべき役割を自覚し、自らの仕事をまっとうすべきだろう。根室の町を住みよい町にするためには、それぞれが誠実で、嘘偽りのない仕事をするのが一番の近道である。

 根室の市議の中に会計の専門知識をもった者がいないようだ。市政チェックは市議の果たすべき重要機能である。そのためには予算書や決算書が理解できるように簿記の勉強をすべきだ。市議としての職責を全うするために必要な専門知識である。
 地方財政を理解するために簿記の知識は不可欠であり、予算も決算も簿記知識なしには手も足も出ない。
 公営企業会計はまったく実態を表していないから、明細レベルの資料を見て、財務課職員に質問してひとつひとつ確認しなければならない。質問一つするのにも簿記の専門知識が必要なのである。
 さて、簿記を教えてほしいという職務に誠実な市議が現れるだろうか。
 
 2009年6月6日 ebisu-blog#603
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