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#601 基準年変更と日本人の美質崩壊 Jun. 5, 2009 [A4. 経済学ノート]

基準年変更と日本人の美質崩壊

 温室効果ガス中期目標
 基準年 05年に変更
 政府方針削減数値 底上げ
 2020年をめどとする温室効果ガス削減の中期目標について、政府は2日、これまで1990年としていた基準年を、2005年に改める方針を固めた。政府は「国際的方向に合わせる」としているが、日本では90年以降、排出量の増加が続いており「削減幅を大きく示すための変更」との見方も出ている。麻生太郎首相は近く、具体的な目標値を決める。
 河村建夫官房長官は2日の記者会見で、1日に行われた環境省などとの関係閣僚会合で「基準年を05年に変更すべきだ」との意見が多かったことを明らかにした。
 中期目標について米国は05年比14%減の目標を掲げるなど、国際的には京都議定書基準年の90年ではなく、直近の05年を選択する流れが出ている。
 東欧は90年代、古い工場を整理してエネルギー効率を改善し、排出量を大幅に削減。90年を基準とした場合、欧州連合(EU)全体ではさほどの削減努力をしなくても数字の上で有利になるとされる。
 5月下旬に開かれた地球温暖化問題に関する懇談会でも「国際的公平性を確保するため05年比にすべきだ」との声が出ていた。
 一方で日本の排出量は増え続けており、07年の確定量は13億7400万㌧(二酸化炭素換算)。90年比9%増で、京都議定書の目標6%減を大幅に上回った。
 同懇談会が4月に示した、中期目標の選択肢6案にも影響を与える。政府の世論調査で支持が多かった90年比7%減は05年比だと「14%減」。もっとも緩い90年比4%増も「4%減」となり、見かけ上の削減幅が大きく、積極的なイメージになる。」

 北海道新聞6月3日朝刊一面トップに温室効果ガス削減の中期目標変更ニュースが載っていた。自分が言い出した京都議定書の枠組みを変える無責任で小ずるいやり方といっていい。米国が05年基準を持ち出したらすぐにそれに追随する、何たる主体性のなさよ。これでは国連安全保障理事会の常任理事国になれるわけがない。国際的には米国の議席を増やすことになるだけだから。

 90年を基準に取ったのはEUの戦略である。それにまんまと乗せられたのは当時も今も智慧が足りないからだ。
 しかしだ、いったん自分から言い出したら、たとえ状況が不利だろうと愚直にやり抜くべし。それが明治以来培ってきた日本人の国際的信用というものだ。

 関係閣僚会合では基準年を05年に変更すべきだという意見が多かったようだ。90年の京都議定書の枠組みを変えることに愚直に反対したのは公明党の斉藤環境相だけだったのではないだろうか。昨日、浜四津議員が90年基準堅持の申し入れを麻生首相に行ったから、公明党の方針だろう。今のままでは都議選を戦えない、自民党と共倒れになる、だから都議選への布石だろう。環境問題は大衆受けのよいテーマである。したたかに損得勘定を計算できる作戦参謀が公明党に育ちつつある証拠かもしれない、たいしたものだ。民主党にはこのように仕事のできる作戦参謀がいないようだ。
 いずれにせよ、政権の閣僚たちの大半が日本人の美質を失い、卑怯を憎む心のない人々だということだ。情けない。

 日本人は卑怯な振る舞いをしない、自分の損得で物事を判断しない。公の利益を自己の損得よりも優先して考える美質をもっていた。
 幕末や明治期に海外に出た日本人の振る舞いが尊敬を受けた時代があった。いまでは閣僚たちの大半が、地球規模の利益より国益を優先し、公の利益よりも自己の損得を先に計算するようになっている。これでは弱肉強食の欧米や中国と変わらない。ずるい欧米や中国と変わらない。
 日本人は千年を超えて培ってきた美質、卑怯を憎む心や惻隠の情を棄ててはならぬ。これから国際的な場で日本人の発言力を高めるためにもあってはならぬことである。

 たとえばさまざまな分野で伝統的な職人仕事が受け継がれている。そこに「ズルさ」を許容したら、職人仕事は成り立たず、根底から崩れ、技術の伝承すらできなくなる。
 職人は努力を惜しまず愚直に仕事に専念することで人間業とは思えないような域まで自己の技術を高め、最高の仕事をするのであるが、二酸化炭素削減もそうした日本人の伝統的価値観に基づいて行動すれば必ず25%削減だって実現できるに違いない。
 それができれば2020年になっても日本は世界一の環境技術をもつ国であり続け、損なことを承知で高い目標を掲げ、そして自ら達成した国として世界中から賞賛を浴びるだろう。一流の国とはそういうものだ。日本がなしうる国際貢献は大きい。北方領土問題だって国際世論が日本の主張に耳を傾けざるをえなくなるだろう。

 日本は基準年を変更せずに30%削減を公表すべきだ。国連決議がどのようなものになろうとも、日本は自己が立てた目標値を達成すると宣言すべし。余計なことは考えずともよい、そのためにだけ叡智を絞れ

 日本が輸出すべき最大の価値は「卑怯を憎む心」や「惻隠の情」である。その向こうに、「弱肉強食=ジャングルの掟」を超えた世界が見えてくる。

 2009年6月5日 ebisu-blog#601
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