SSブログ

新年度市立病院予算案を検証する [26. 地域医療・経済・財政]

2,008年2月21日   ebisu-blog#097
総閲覧数: 4789/86 days (2月21日10時45分現在)

 市長の言い分はこうだ。
病院事業会計は、市立根室病院の常勤医師を、現在より4人多い15人と想定。一般会計から同1億3千万円増の6億千万円を繰り入れ、総額は同31.8%増の46億8300万円とした。単年度で収支均衡を図る一方、政府が08年度限定で創設する公立病院特例債を10億8500万円を発行し、不良債務解消に充てる。
まとめるとこうなる。
①常勤医は15人
②6.1億円の一般会計から病院事業への繰出金予算を組む
③赤字特例債で10.8億円調達する
④不良債務の解消

 ①の常勤医15名体制はこれから3月末までの努力目標であることが、記者の解説記事であきらかだ。つまり、具体的根拠がない
 ②の予算は5億円の予算増額前に一般会計から出しうるぎりぎりの予算だった。つまり、これで、単年度収支が均衡するという計画を描かなくてはならなかった。赤字特例債の発行は単年度収支均衡を要求しているからだ。そのために常勤医15名体制が逆算されたのだろう
 ③の赤字特例債は2月7日の市長の説明では6億円であった。たった2週間でなぜ4.8億円増えたのかについては何も説明がない。説明責任を果たせと言いたい。平成19年度の病院赤字額は推計12.5億円、繰出金予算は4.8億円である。
 ④の不良債務解消はケースを二つに分けて検証してみる。
(1)予算額どおりの決算の場合⇒7.7億円の不良債務が積み増される。10.8億円赤字特例債を発行すればH18年から持ち越している一時借入金6億円も繰出金決算を1.7億円積みますだけで解消できる。
(2)昨年並みの10億円程度の繰出金を捻出して決算する場合⇒10.8億円の赤字特例債で不良債務をチャラにできる。不良債務は見かけ上消失する。どういう仕組みかはわからないが、予算で4.8億円の繰出金が決算では10億円に化けている。平成18年度も平成17年度もにたような経緯をたどっている。今回は赤字特例債で繰出金決算額を10.8億円積み増し、予算額4.8億円と合わせて15.6億円の決算にするのだろうか?計算してみよう。
 H18末自己資本-H19営業損失+H19繰出金予算+赤字特例債-一時借入金返済額=H19末自己資本
    2.1-12.5+4.8+10.8-6=0.8(債務超過額)
市側はH19年度の赤字額を11億円と予測しているから、債務超過にはならない計算だろう。


 ここで言葉にごまかしがあることを指摘しておきたい。消えるのは“不良債務”ではなくて“不良流動債務”である。流動債務が赤字特例債という固定負債へつけ換わるだけのことだ。ところがさらに、公的企業会計は不可思議なごまかしを定式化している。固定負債を10.8億円を資本の部に組み入れてしまう。企業債がその例である。すると負債は10億円文字通り消えてしまう。7年後に償還しなければならないのにも関わらず・・・民間の企業会計ではこのような処理は決算の粉飾行為であり、株主代表訴訟で取締役全員が連帯して責任を問われる。上場企業なら証券取引法違反である。その前に財務担当役員が首になるだろう。外部監査を通るわけがない。会計監査人が記載のミスを指摘して、財務部長か課長が大恥をかいて終わるだけである。
 しかし、公的企業会計では長期借入金を資本の部に記載するのが慣習のように見える。笑われる財務課長も、責任を問われる市長もひとりもいない。だから無責任なことになる。会計基準を上場企業と同一のものに変更したら、国と地方自治体の大半が破綻するかもしれない。一度そうしたほうがいいのだろう。少しはまともな運営がなされるようになるだろう。官民の会計基準の統一は絶大な効果を発揮するだろう。

内容を分析するために、2月17日付け「市立病院決算見通し」のデータを再掲載しておく。H19年度の決算予測である。
 売上高      20.0 ⇒#087参照 病院への電話取材データ
 
医業費用   32.5
 営業損失   12.5
 H18末自己資本-H19営業損失+H19繰出金予算=H19末自己資本
    2.12-12.5+4.8=5.58(債務超過額)

 赤字特例債10.8億円で不良債務を消すというが、流動負債が固定負債に替わるだけである。借金額そのものには変動がない。ところがお役所のやる公的企業会計では赤字穴埋めの特例債が資本の部に計上され、見かけ上資本注入した形になる。返済義務のある項目を資本の部に記載すること自体、初等簿記では間違った処理として扱われる。長期借入金であるから、固定負債の部に記載すべき項目である。事実としては借金が増えるのみで、返済の始まる7年後に市の財政は火達磨になる。典型的な問題先送りであり、夕張市はこのような自転車操業を続けた挙句に、借金の額を膨大に膨らませて財政破綻した。
 
 売上高と医業費用の推計をしよう。H19年度の売上は4~6月の常勤医が6名だった。それで各月売上高が1億円少ない。もし4月から11名体制だったとしたら、売上高は3億円増えただろう。合計23億円である。常勤医が15名に増え、非常勤も同じ比率で増え、患者がその割合で増えたら、売上高増加率は36.4%である。31億円の売上が期待できる。医業費用は34.5億円程度だろう。経常損失は3.5億円、一般会計からの繰出金6億円でおつりが来る。
 もちろん、市側もそのような夢のような計算をしているわけではない。非常勤の医者が増えるという予想はしていないだろう。患者も半分程度が戻ればよいほうだろう。しょっちゅう医者が替わるようでは患者は安心して治療を受けられない。治療方針が担当医によってくるくる代わる場合があるからだ。そういうわけで、患者が半分戻ると仮定した場合には、売上高は27億円である。医業費用は33.5億円程度だろう。経常損失は6.5億円である。大雑把な計算だから、市側の6億円との差は正常な誤差範囲内と考えて好いだろう。
 けれども、医者の増員に関する具体的な話が新聞記事を見る限りまったくない。増員も減員もなされないという前提で推計すると、売上高23億円、医業費用33億円で経常損失10億円である。6億円の繰出金予算措置ではカバーしきれない。4億円不足する。単年度収支均衡が実現できるか否かは、常勤医15名が確保できるかどうかにかかっていると仁科記者が解説しているが、まさにその通りである。

 まとめて感想を述べてみよう。
 長谷川市長は市民に対して不正直な予算案を提出した。医師確保について辻褄あわせの希望的観測を述べるばかりで、医師確保の進捗状況や具体的改善策については何も語っていない。
 長谷川市長は病院の経営改善に手をつけるべきである。人口2万5千人の規模に向けて、療養型50床、一般病床80床、合計130床の病院へと縮小すべきだ。そうすれば、新築問題にも手がつけられる。

 さて、データの提供はした。私の役割はここまでである。定例市議会の場で市会議員たちは市民を代表してどのような質問をし、その職責を全うするのであろう。次回の選挙ではきちんと仕事をした市議に一票を投じるつもりだ。


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0