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#5062 「出演料は全額本人へ」:通用しない日本的価値観 Sep. 14, 2023 [8.2ジャニーズ事務所性加害問題]

 ジャニーズ問題の3回目です、一貫してマネジメントという視点で事態の粋を分析しています。
 ジャニーズ事務所が標記の方針を公表しました。芸能プロダクションとしては1年間、金銭を受け取らないのだそうです。それでことをおさめたいのでしょう。

 経済同友会代表幹事・サントリー社長の新浪剛史はジャニーズ事務所と取引することは、創業者が長年にわたってしてきた性加害を企業として是認することになるので、取引を断念する旨公表しています。サントリーは珍しく外資比率ゼロの企業です。有価証券報告書の35ページに載っています。
 上場企業3874社の外国人持ち株比率の平均値は30.5%です。そのなかでも外資比率の高いプライム上場企業は、欧米の人権感覚を基準として経営判断しなければいけないのです。取引を継続した場合、外人投資家から、会社の方針を変えさせるために株主代表訴訟の可能性すらあります。そんなことになったら、経営者としてみっともないですからね、気持ちはよくわかります。

 それに対して、ジャニーズ事務所側で、芸能事務所として報酬を1年間受け取らないで、ボランティアでやるので、どうぞご勘弁をというのはいかにも日本的な価値観での判断に見えます。つまり、欧米の人権感覚と企業行動基準が理解できていない。

 日本のマスコミは「性加害」とは書いていますが、「小児性愛」の用語は使っていません。小児性愛は英語ではpedophileと言います。pedは「足」を意味する接頭辞です。pedestrianは「歩行者」です。phileはphilosophy(知を愛する者)のphiloと同じ語源で、「愛する者」を意味しています。これは個人の性癖ですから、そこへ注目すると、欧米基準が理解できなくなります。
 ジャニー喜多川が個人的に起こした事件なら話はまったく別ですが、この事件はジャニーズ創業者が芸能プロダクションという企業とビジネスを道具に、組織的に数十年にわたって犯してきた犯罪です。法人が犯してきた組織的な犯罪だということです。日本国内だけなら、いままで同様に、マスコミは無視し続けたでしょう。今回は事情が違いました。
 英国BBC放送が採り上げて報じたので、国際的に広く知られるところとなり、まず外資比率の高い企業がこういう超ブラックな企業とは取引を解消せざるを得なくなったというわけです。もちろん、そういう「性加害」がジャニーズ事務所でずっとなされてきたことは知っていたのです。でも、広告に便利だから使っていました。それで問題にならなかったのです。ところが今度は海外で大騒ぎになっています。個人の問題ではない、法人の問題なのです。
 ジャニーズ事務所も日本企業もマスコミも、どうもそのあたりが理解できていないように感じます。

 一流企業はプライム市場に上場しているところが多いし、外人持ち株比率も40%超のところが多いのです。上場企業3874社の平均値で30.5%が外人投資家のシェアです。

 一流企業がジャニーズ事務所との取引を解消することになると、外人持ち株比率の多寡に関わらず、他の上場企業も手を引かざるを得なくなります。CMへの起用を停止するだけでなく、ジャニーズ事務所のタレントが出演する番組のスポンサーも降りることになります。この動きはもう止まらないでしょう。一番最後に「さようなら」を言うのはテレビ局でしょうね。タレントの入れ替え作業を視聴率を気にしながらやることになるので、後始末がたいへんです。

 ジャニーズ事務所にできることは、会社の清算です。
 聞くところによると、売上高は800億円、企業価値は2700億円だそうです。この査定を欧米の金融機関の専門家がやったと仮定すると、年間売上の3.375倍ですから、超優良企業です。ここから推定できる具体的な企業の財務指標の一つは、売上高経常利益率20%、売上成長率10%、純資産額1200億円規模の企業です。
 東山新社長は、就任して財務諸表を確認したでしょうから、被害者が300人出てきても、一人1億円を支払っても随分余裕があると考えて当然です。自分はノータッチで、性被害者との話し合いや査定は第三者機関に丸投げして、さっさと補償を済ませて、やり直したいのだと思います。そんなことばかり考えているから、一流企業がなぜ取引停止を言い出しているのかが理解できないのでしょう。

 有名企業が次々に取引停止を決定すると、大物タレントへの需要が急減します。すると、バーター取引になっていたその他大勢の所属タレントもテレビ出演の機会がなくなります。いままで強引に押し通してきた相場の5~10倍という大物タレントのギャラは、仕事がそのままあったとしても1/5~1/10になるでしょう。
 実際には、売上は急減し、純資産額も減少します。赤字転落と同時に売上高成長率は大きくマイナスになるので、1年後には企業価値は3割の810億円以下になっているかもしれません。
 被害者と話し合いの場をもち、誠実に被害の補償を進めると同時に、速やかに会社の清算をすることが傷を浅くします。話し合いの場をもったら、記者会見のような嘘やごまかしは通じません。

<メモ>
 1978年から83年まで、産業用エレクトロニクスの輸入商社で、自社の収益性の改善と財務構造の変革を目的とした経営分析と為替管理、受注残管理、納期管理、円定価などのシステム開発を担当していました。このときに、企業価値の評価に関する具体的な基準を作っています。臨床検査企業のSRLで1991~93年まで、関係会社管理部で企業買収や資本参加を担当していました。学術開発本部にいたときに、一つだけ米国のナスダック上場企業の買収交渉をした経験があり、そのときに自分が創り上げていた企業の買収価値の評価基準の妥当性を確認する機会がありました。買収提案の金額がわたしの評価と一致していました。100億円の買収案件でした。。企業買収では当時世界ナンバーワンの金融機関のもってきた案件です。


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コメント 4

mina

サントリー本体は非上場を貫いてますよね。日本的価値観を守って遠きをはかる経営をするには、目先の利益を優先する大株主や外国人投資家、アクティビストなどの声が挟まれない非上場企業を貫いたほうが良いのでしょうか。
by mina (2023-09-16 06:04) 

ebisu

minaさん
おはようございます。
投稿ありがとうございます。
財務報告書が公開されていたので、上場企業だと思っていました。株主構成がシンプルですから、非上場だったんですね。知りませんでした。

事業拡張資金を借り入れでやれるなら、非上場の方がいいですね。経営が安定していることが必要条件ですね。
出光石油も非上場だったはず。

私の勤務していたSRLの創業者は藤田光一郎氏でした。親会社の富士レビオも藤田さんの創業。2社を東証一部に現役社長で上場したのは当時は藤田さんのみでした。
株を買い占められて、富士レビオが味の素の傘下になり、ついで、臨床検査業のSRLが富士レビオに吸収合併されました。
この事例をみると、上場はメリットだけではないことがわかります。製薬メーカーも臨床検査業もあまり理解できない親会社から、役員が天下ってくるので、企業経営に成長性が失われました。
藤田さんはチャレンジ精神の旺盛な方でした。晩年は、富士レビオにもSRLにもあまり興味がなく、細胞工学関係の新規事業分野にチャレンジしていたようです。
SRLは2000年頃にはダントツの業界ナンバーワン企業でしたが、富士レビオに吸収合併されてから、業界第2位のBMLに売上で抜かれてしまったようです。

by ebisu (2023-09-16 08:53) 

ebisu

H.U.グループの株主構成を確認してみました。
信託銀行2社が筆頭株主で23%を占めています。
米銀が2行あわせて6%です。
そのあとは日本の生命保険会社。
わけのわからない資本構成の会社になりました。

https://www.hugp.com/ir/stock/shareholder.html#:~:text=%E6%A0%AA%E4%B8%BB%E6%A7%8B%E6%88%90%20%282023%E5%B9%B43%E6%9C%8831%E6%97%A5%E7%8F%BE%E5%9C%A8%29%20%E6%89%80%E6%9C%89%E8%80%85%E5%88%A5%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E6%95%B0%E3%81%AE%E7%8A%B6%E6%B3%81,%E5%A4%A7%E6%A0%AA%E4%B8%BB%E3%81%AE%E7%8A%B6%E6%B3%81%20%EF%BC%88%E6%B3%A8%EF%BC%89%20%E6%8C%81%E6%A0%AA%E6%AF%94%E7%8E%87%E3%81%AF%E3%80%81%E8%87%AA%E5%B7%B1%E6%A0%AA%E5%BC%8F261%2C190%E6%A0%AA%E3%82%92%E9%99%A4%E3%81%84%E3%81%A6%E8%A8%88%E7%AE%97%E3%81%97%E3%81%A6%E3%81%8A%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%99%E3%80%82%20%E3%81%AA%E3%81%8A%E3%80%81%E8%87%AA%E5%B7%B1%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E3%81%AB%E3%81%AF%E6%A5%AD%E7%B8%BE%E9%80%A3%E5%8B%95%E5%9E%8B%E6%A0%AA%E5%BC%8F%E5%A0%B1%E9%85%AC%E5%88%B6%E5%BA%A6%EF%BC%88%E5%BD%B9%E5%93%A1%E5%A0%B1%E9%85%ACBIP%E4%BF%A1%E8%A8%97%EF%BC%89%E3%81%AB%E3%82%88%E3%82%8A%E5%BD%93%E8%A9%B2%E4%BF%A1%E8%A8%97%E3%81%8C%E4%BF%9D%E6%9C%89%E3%81%99%E3%82%8B%E6%A0%AA%E5%BC%8F300%2C778%E6%A0%AA%E3%81%AF%E5%90%AB%E3%81%BE%E3%82%8C%E3%81%A6%E3%81%8A%E3%82%8A%E3%81%BE%E3%81%9B%E3%82%93%E3%80%82

会社沿革のページ
https://www.hugp.com/company/history.html

すっかり外資に乗っ取られた形ですね、株式上場は考えものです。グローバリズムは結局こういう結果になるのでしょう。
by ebisu (2023-09-16 09:10) 

mina

ご返信ありがとうございます。


H.Uグループについてご紹介ありがとうございます。当社の株主構成ですが、信託銀行が大株主として出てくる場合は、機関投資家(年金基金、銀行や保険会社等)や個人から運用委託を受けた信託財産かと思います(投資信託や企業年金での株式運用もここに入ってくると思います)。国内信託銀行の大口顧客として有名なのはGPIFや大学ファンドと言われていますが信託銀行の背後にいる本当の株主は誰なのかが気になりますよね。
by mina (2023-09-21 22:51) 

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