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#5059 井上あづみ(歌手):となりのトトロ Sep. 12, 2023 [17. ちょっといい話]

 オヤジの命日だ。ちょっといい話と最後に悪い話をしたい。
 井上あづみさんという歌手を知っているだろうか?
 わたしは今朝、NHK朝4時からのラジオ番組をうとうとしながら聞いていて知った。45分間彼女が自分を語っていたからだ。1965年2月生まれ、石川県金沢市で生まれ育った。
 歌が上手で小3の時に、地元の音楽教室の主催者に、週1日レッスンをしてあげると言われて、高校卒業までその先生のレッスンを受けた。上手なつもりでいたが、音程が外れているのを指摘され、先生のピアノの音に合わせて発声のトレーニングを続ける。
 中学生の時に演劇に興味が出て演劇部へ。主役をもらって、次に裏方へ回る面白さを知って、演技することよりも演出して自分の思うように舞台を創り上げる楽しさを知る。成り行き上、中高と演劇部長を務めた。
 演劇の発声の仕方と歌の発声の仕方は異なっており、声がガラガラになって音楽教室の先生から「声を治してから来なさい」と宣告された経験がある。治して通ったそうだ。
 1983年(18歳)のときに、マイナーなレーベルからアイドル歌手として売り出すも、年々仕事が減っていった。それで、女優業へ幅を広げ、ちょい役でもせっせと出演して稼ぐが芽が出ない。1983年は「不作の83年」と言われるほど、売れたアイドル歌手がいない。生き残っているのは、いまではほとんど歌手活動をしていない松本明子くらいだろうか。井上さんはアイドル路線はもともと無理だったように思える。やるところまでやって行き詰まらないと方向転換できないというのもごく普通のことなのだ。

 デビューから数年が過ぎ、あるとき「あづみちゃんって、歌手だったよね」と声を掛けられる。映画の主題歌の仕事がある、曲を2つ吹き込んだテープをもってくるように言われ、指示に従う。それが6月のこと。宮崎駿氏のところの音楽監督が映画「となりのトトロ」の主題歌を歌う歌手を探していた。OKが出て7/7にレコーディング。映画の封切りは8月だった。適当な歌手がいなければ、メロディだけ流して作るつもりだったという。どんぴしゃり、はまったわけだ。歌声の透明さと音程の確かさは『となりのトトロ』を見た人はご存じだろう。

 ところがこの後仕事がなかなか入らない。お弁当屋さんや喫茶店のウェイトレスのアルバイトで食いつなぎながら、考えた。自分の方から行動を起こさなきゃ何も変わらないと気がつき、ミニコンサートを開く。
 バラード系の歌が彼女の声質にはあっているので、コンサートにはそういう曲が増えた。観客はトトロ効果があって、小さな子どもたちから、母親、おばあちゃんへと広がっていた。なんとなく気合が入らず歌うと、子どもたちが敏感に感じ取って30分のミニコンサートがもたない。子どもたちがざわつき始める。
 30分のコンサートを1時間にそして90分に拡大するにはどうしたらいいのか考えた。子どもの興味を持続させることがポイントだと気がつき、語りを重視するようになる。そしてクイズもコンサートに織り込み、小さな子どもたちが退屈しないで、自分も楽しめるコンサートへと変わっていった。それでようやく、歌手だけで食べていけるようになった。
 彼女のコンサートスタイルは「ファミリー・コンサート」である。三世代の孫・親・ジジババが一緒に来て楽しむことのできるコンサートが、自分が生きていく領域だと自覚するようになる。
 夏は日程が開かないほどコンサートの予定がびっしり詰まるようになった。全国を回って、ファミリーコンサートを開くことが増えた。歌手一本で飯が食べられて、忙しいのである。ラジオの声にその喜びが思いっきり出ていた。
 念願の歌手の座を築き上げるには、途中で女優の端役やアルバイトで何年も食いつなぐ辛抱の時期が必要だった。それでもあきらめずにやっていたら、思いもかけないところから歌う仕事が舞い込んだ。歌が上手だったから、音程を外さず声域が広かったから、そしてそこをちゃんと評価してくれる映画音楽監督がいたから、その監督を紹介してくれる人がいたからいまがある。
 人生ってわからないものですね。

 とっても明るい声で、この放送を録音したのは2023年7月のことだった。NHKラジオで今回のものは再放送されたもの。
 井上あずみさんは8月に「井上あづみ40周年記念コンサート」のリハーサル中に、脳出血で倒れ、緊急手術、いまリハビリ中です。
 彼女が一日も早く回復しますように。
(19歳の歌手の「ゆーゆ」さんは彼女の娘さんです)


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