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#3485 数学の学力別クラス編成は機能しているか? Dec. 20, 2016 [71.データに基づく教育論議]

 根室の市街化地域の3中学校では、数学の授業が学力別クラス編成になっています。どの学校も上下の二つになっており、「発展クラス」「標準クラス」「基礎クラス」など、呼称は学校によって異なっているようです。
 #3484で3校の学力テスト総合Cの数学の平均点を見ましたが、60点満点のテストで16点から17.7点の間に収まっています。3校ともに数学の点数が低いのです。
 根室高校普通科は、学力の高いほうから順に、ガンマー、ベーター1、ベーター2、アルファの4段階の学力別クラス編成をとっています。中学校で40-60点の上位層がほとんど涸渇しかかっており、ガンマークラスの学力劣化が激しい。10年前には1月20日に数1Aを終了し、21日から数Ⅱをやっていたが、何年前からか忘れましたが、2月末までかかるようになりました。当然のことですが、根室高校生の数学の学力も低下傾向がとまりません。来年3月の入試から、根室には高校が1校ですから、定員割れ、実質全入です。根室高校へ入学したい学力下位層は、12月ころから必死に勉強する生徒が少なくありませんでしたが、それも台風シーズンが過ぎ去ったかのようになくなりました。

 中学校の授業参観3校計8回を見た限りでは、上下のクラスで授業内容には差がありません。どの学校でも、どのクラスでも教科書の基本例題を丁寧に教えており、まるで芸がないのです。
 授業の焦点はどこに当たっているのかというと、60点満点の学力テストだと、おおむね20-39点の真ん中のゾーンかそれ以下。先生たちは生徒の2/3くらいに焦点を当てた授業をしているつもりでしょうが大外れ、実際には30%の生徒にしかフィットしていません。これでは生徒たちの学力が上がらないのは当たり前です。
 論より証拠、11月9日に行われた学力テスト総合Cの得点階層別度数分布表をご覧下さい。

総合C 数学
階級 A校  % C校   %A+C  %
41-6056.611.964.7
21-402228.91834.64031.3
0-204964.53363.58264.1
合計76100.052100.0128100.0
平均点17.6 16 17.0  


 市街化地域のA校とC校の得点階層別度数分布を合計で見ると、「41-60点」の上位層が4.7%、「21-40点」の中位層が31.3%、「0-20点」の下位層が64.1%となっています。
 先生たちが焦点を当てているのは、中位層の31.3%だから、下位層の64.1%は勉強になっていません。上位層の6人、4.7%は基本例題のスローな解説に退屈しきっています。
 肝心の中位層の40人の学力が上がらないのはどういうわけでしょう?C校は学力テスト総合ABCで平均点が16点のまま動いていません。B校のデータの推移は「19.7⇒20.6⇒17.7」ですから、低下しているように見えます。どの学校も現実の授業は中位層の学力を上げる効果すらありません。

 10年前に比べて教員の学力が低下しているように見えます。具体的な事例があるから、こんなことをいうのですが、事例を挙げると差し障りがあるので書きません。たまたま異動の偶然でそういう配置になったのか、全体に教員の学力低下が起きているのかは、本稿のテーマではなく、国立の研究機関や北海道教育局が調査すべき仕事です。
 もちろん、生徒たちの基礎計算力や語彙力を含めた国語力の劣化の問題、そして小学校における授業崩壊も見過ごすことができません。

 小学校の先生たちは、生徒を中学校に送り出してしまえばそれで仕事が終わったと考えているのではないでしょうか。小学校の先生たちがやりそこなった基礎学力の欠損が中学校へ大きな問題として引き渡されてしまっています。そしてほとんどがそのまま高校生になります。
 小学校から中学校へそして高校へと「読み・書き・計算」の基礎的技能の欠落が引き渡されるだけで、有効な対策がなされていないことが大きな問題です。
 それでも一部の先生たちの放課後補習の努力は認めたい、効果はまだ小さいが慥(たし)かに出ています。やっている内にやり方の改善や工夫がなされるでしょうから、長い眼で見たらこういう努力が大きな果実を生みます。データを分析して効果の高い補習のやり方を工夫してもらいたい。

 下位層は、分数や小数の計算がままなりません。逆九九がすらすらすら言える生徒は下位層の三人に一人。そういう生徒に、学習指導要領に定められた項目をそのまま授業しても理解できるはずがありません。分数や小数が計算に出てくるたびにお手上げとなっています。逆九九がすらすら言えない生徒は割り算が極端に苦手です。そこからやらなきゃいけない生徒は下位層の三人に一人くらいの割合でいます。

 基礎計算能力に瑕疵があると他の教科に影響してしまいます。たとえば、理科の分野には計算を伴うものがあります。電気回路、地震波、雷(光の速度と音の速度)、化学反応で生成される物質の質量計算、ジュールやワット、高度と気温の変化などが例に挙げられます。こういう分野は女子が苦手で、男子も苦手な生徒が少なくありません。集中的にこれらの分野を授業や放課後補習でやろうとしても、リーディング・スキルが低すぎて文章を読む前にあきらめる者や、基礎計算能力に欠陥があって計算に移った途端に投げ出す者が続出します。理科担当の先生、お手上げ状態でしょうが、あきらめないでください。
 このように小学校で基礎計算トレーニングをおろそかにしてきた生徒たちは、数学で落ちこぼれるだけでなく、理科でも計算が出てくる分野で落ちこぼれます。
 社会・地理にも時差の計算に数学が現れる。地球一周で24時間だから、360度/24時間で15(度/時間)はすぐに計算できます。あとは地球の自転方向と経度の差を計算すれば、簡単に時差や現在時刻を計算できます。基礎計算能力がしっかりしている者たちは難なくこれらの分野をクリアしていきますが、基礎計算に劣る生徒たち(64.1%)はここで確実に躓きます。基礎計算能力に問題のある生徒に時差の計算原理を理解させるのはなかなか困難で、とっても手間がかかります。方向が逆になれば、足し算は引き算となるのですが、それも複雑さの一因です。

 半数以上の生徒たちが、小数や分数計算そして割り算が苦手だからそれらの計算トレーニングをすることからはじめなければなりません。ところが、生真面目な先生たちは目の前にいる生徒たちを見ずに、中学校の学習指導要領に忠実な授業をやっているので、小学校で落ちこぼれた64%の生徒たちが中学校の授業で救われることはほとんどありません。ちっともわからない授業を6割の生徒が我慢して聞いているのだから、辛抱できずに私語をする生徒が数人現れるのはちっとも不思議ではありません。一人が私語すると連鎖反応が起きます。そして授業はどきどき聞こえなくなります。前後の脈絡がつかなければ、内容の理解できません。時々聞こえなくなる授業でも内容を理解できるのは予習している生徒だけですが、予習方式で勉強している生徒は5%程度しかいません。クラスに1-2人です。だから、数人が私語するだけで、クラス全体の学力が顕著に下がってしまいます百点満点で10点くらい平均点が下がります。五科目全部だと50点も下がってしまうのです。実際にいま各学校で起きている現象です
 五科目合計点で230点(500点満点)を切れば授業崩壊があるとみなしてほぼ間違いありません。250点辺りがボーダーラインであることは「#3476 学力崩壊危惧ラインは学力テスト平均点でどの辺りか?」や「#3477 負の相乗効果と学習権の侵害 Dec.9, 2016」で詳述しました。

 64%の下位層は自力では勉強できませんから、教師が救うしかないのですが、学校の数学担当の先生たちはそういう半数を超える学力弱者の生徒たちに適切な救済の手を差し伸べていません。

 学力別クラス編成で基礎クラスに必要なのは、割り算や小数や分数計算を速く正確にできるようにトレーニングすることです。
 中学校へ入学してきたときに、学力テスト数学の点数が50点以下の生徒たちには、「5桁÷2桁」と「5桁÷3桁」の割り算20題(各5題ずつ割り切れるもの10題と割り切れないもの10題)、3桁同士の掛け算5題、小数の乗除算20題、分数の加減乗除算40題、小数と分数の混合算15題、合計100題を1時間でやらせてみたらいい、惨憺たる結果がでます。

 基礎計算能力に劣る生徒は中学入学後2ヶ月間部活停止をして、放課後補習で徹底的に計算練習させましょう。苦手な分野の計算を選んで毎日200題くらいやらせたら、半数くらいの生徒たちは基礎計算能力がしっかりします。
 全分野の混ざった問題百問を30分以内に9割正答した生徒から、順次部活に参加させたらいかがでしょう。時間がちょっと厳しいかもしれないから、やらせて問題数と時間を調整してください。高校数学はそれくらいの計算力のあることが理想です。
 計算速度の差は1時間辺りの学習量に大きな影響があります。速度が標準の3倍の生徒は、1/6の生徒に比べて、1時間当たり18倍の勉強をしていることになります。1クラスの中には上位3人と下位3人を比べたら10倍~20倍もの速度差のあることが普通です。#3482で詳しい解説をしたので、そちらをお読みください。

 適当な市販計算問題集があるでしょうか?先生たちの計算問題作りがたいへんかもしれませんね。3中学校の数学担当教師が集まって、作業分担すれば作業が軽減できます。一度つくってしまえば、毎年使い回しできる。問題の原本に分類番号と制作年月日を入れて、学校間で交換して原本を保存し、学校の資産として引き継いだらどうでしょう。

 学力テスト総合Cの数学で20点以下の得点層は全体の64.1%を占めていますが、その生徒たちに適切な授業や放課後補習体制がとられることを願っています。
 そして涸渇化している成績上位層に配慮した授業がなされることも望みます。先生たちの学力アップと指導力アップなしには実現しえない目標です。生徒の学力劣化と先生たちの指導力劣化いう負のスパイラルを断ち切ってもらいたい。
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  釧路市と釧路町の中学校14校の学力テスト総合Bの集計が出ています。平均点が20点以下の学校は鳥取西中学校と景雲中学校の2校(19.7点)のみです。あとの12校は20点を超えています。数学に関しては根室市内の3中学校は釧路の最底辺の学校並(B中)かそれよりもさらに低いことがわかります。学力テストの平均点は数学を担当している先生たちの勤務評定値です。
(12/21 追記)
*釧路教育活性化会議
http://www.kitamon.com/cpek/datas/1610b.shtml
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 先に行われたプーチンロシア大統領と安部総理の会談は、ロシア側の大勝利に終わりました。領土が戻ってきたら米軍基地を置く可能性があるという総理側近の発言があり、オウンゴールの様相を呈しています。政府予算に依存している領土返還運動関係者たちの歯切れが相変わらず悪いのは残念なことです。
 その後の根室の経済人の発言を見ていると、北方四島の利権がほしいだけの浅ましい発言が北海道新聞根室地域版に載っていました。
 このような体たらくですから、さまざまな経済団体や北方領土返還運動団体をリードしている根室の大人たちに希望はもてません。

 子どもたちが健全な心を育て、学力を身につけて根室の未来を担うようになってもらいたい。そのために小中学校の先生たちには果たすべき大きな役割があります。真正面から取り組むときつい仕事ですが、頑張り抜いて子どもたちに背中で手本を示して下さい。

*ブログ「情熱空間」より
指導する側の学力が低すぎる件」
http://blog.livedoor.jp/jounetsu_kuukan/archives/8687883.html#comments


*#3484 学校別学力テストデータ比較分析 Dec. 19, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-12-18

 #3483 学力テスト教科別分析 Dec. 18, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-12-17-1

 #3482 問題消化スピードの差の現実 Dec. 17, 2016 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-12-17

 #3477 負の相乗効果と学習権の侵害 Dec.9, 2016
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-12-09

 #3476 学力崩壊危惧ラインは学力テスト平均点でどの辺りか?
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2016-12-06


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ZAPPER

近い将来、彼ら彼女らが仕事において取得を命じられる各種資格。経験上、4割イコール120点を切るレベルだと、平易なものであっても合格は相当に厳しいですね…。20年ほど前、尻を叩きまくり、100点程度で「奇跡的」に市内某公立高校に合格した、昔の担当生徒、旧姓Sさんが先日、言っていました。

卒業・進学後の歯科衛生士の試験勉強。その勉強のあまりのつらさに「死ぬかと思った…」そうです。当時は、そのできなさに《悶絶》しながら補習に付き合った彼女でしたが、今では学校の「平均点」自体がそのレベルです…。

お願いです。子ども達を鍛えてください。その彼女からの伝言であります…。
by ZAPPER (2016-12-20 22:17) 

ebisu

ZAPPERさん

根室で育つと、300点満点の学力テストで120点以下がどういう学力レベルかわからないのです。
学力テストの得点通知表では学年真ん中ぐらいですから、「人並み」に学力があると勘違いします。

高校へ入学してから、全国ネットの進研模試を受験してはじめた自分の位置を知るんです。120点は偏差値40あるのかな?日本全国で高校普通科の生徒が100人だと仮定したら、偏差値40は84番目の成績です。五段階評価ならかろうじて「2」がつくでしょうが、「2の下」です。

根室から都会へ出て行っても、そのような学力では、知的職業に就くことは不可能です。選択できる職業の幅が狭い。

中小企業でも「女子事務員の職」は180点以下ではむずかしい。第一必要な資格が取れません。
経理事務なら全商簿記実務検定1級か商工会議所簿記能力検定試験2級取得は当たり前です。
英検2級くらいで、つける事務職はほとんどありません。輸入商社で仕事をしていたときに、経理事務をしていた女子社員は日商簿記2級と英検2級の両方をもっていました。その程度はめずらしくないのです。

大企業は大卒でないと女子事務員の採用はほとんどありません。SRLでは一部上場後の新入社員の採用は応募10000人に、試験と面接が200人、合格は20人でした。
人事・総務・経理部門の女子社員は偏差値60以上の大学卒業生がほとんどでした。北海道なら北大です。それ以上の学力がなければムリ。

根室にいるとそういう現実が見えません。大人が現実を説明する必要があります。
7割以上の根室っ子は高校を卒業すると同時に都会の学校へ進学し、都会で就職します。

せめて、基礎計算能力は身につけましょう。住宅ローンの組み方が適切かどうかの判断も計算能力がなければできません。収入に比べて過大な借り入れであることが判断できず、営業マンに勧められるままに買ってしまったら、10年たたないうちに自己破産、住んでいる住宅を売却せざるをえなくなります。借金はチャラにならず、住宅を売却した後も返済に追われます。

学力は世の中を生き抜いていくための強力な武器なのです。
長い目で見ると、中高生の時代は勉強の季節なのです。
手を抜けば、それなりの代償を払うことになります。人生は甘くない。

ZAPPERさんが投稿で紹介してくれたSさんからのメッセージをしっかり受け止めてほしい。

by ebisu (2016-12-20 23:13) 

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