#3273 ガンゲイル・オンラインⅣとフィフティ・シェイド・オブ・グレイ Apr. 20, 2016 [44. 本を読む]
生徒たちの読書傾向は精神の発達年齢に応じてさまざまである。最近生徒からお薦めがあり、借りた本4冊を読み終わったので、比較して論じてみたい。
『ガンゲイル･オンラインⅣ』（時雨沢恵一）は、爆発的に売れたゲーム小説である『ソードアート・オンライン』（川原礫）の別編として書かれたものであるが、未来のコンピュータゲームということではおなじだが、だいぶ趣が異なる。
前者は世界中に流通しているさまざまな銃をマニアックに紹介しながら、物語の中で展開していくのに対して、後者は剣が武器であり、神話が随所で関係してくる。
適当にルビが振ってあるから、小学生高学年から楽しめる本。
『フィフティ･シェイド・オブ・グレイ』は3分冊のロマンス小説である。純情な女子大生が大富豪の若き実業家と恋に落ちる物語、世界中で1億部も売れた小説である。訳はこなれていて読みやすい。ロマンスだから、性的描写のあるのはあたりまえ。主人公の女性アナスタシアは初めての経験にのめりこみながらも、じきにそういう状態から抜け出る。このような衝撃的な経験ではないにしても、誰もが若い時分にした切ない思いとどこかで通底するものがあるから、1億冊も売れたのだろう。アナスタシアとクリスチャンのお互いを求める心の葛藤が好く描けてるところが、ありきたりの官能小説との違いであろう。
ロマンスや性に興味のない高校生には無縁の本だが、女子高生の15％程度はこれくらいの本を読んでいるだろう。いろんなことを知っておくのは、いざというときにワクチンの役割を果たしてくれる。
『ガンゲイル・オンライン』や『ソードアート・オンライン』では「官能的なシーン」はまったく出てこない、「お子様ランチ」である。
さて、記憶を辿ってみたい。12年位前の北海道新聞根室地域版に根室高校3年生の性体験率が出ていたが、約30%あった。この12年間でそれが10ポイントほど下がっているようだ。スマホの普及と関係があるのかないのかわからないが、「2次元」の世界で満足して、リセットできない現実の世界での恋を面倒くさいと思う男子生徒が増えているのは事実だろう。
そうした性意識の男女格差は読書傾向や独身率の増大に現れているようだ。
所得格差や都会と地方の学力格差だけでなく、性意識の男女格差がこの12年間で広がった。若い人たちの性意識の男女格差拡大は、性に対する需要と供給のアンバランスをもたらし、少子化を加速するだけでなく、さまざまな問題を引き起こす。
十代も半ばを過ぎると成熟してくるから、同年齢の男たちに性欲が薄ければ欲求不満になるのは当然のことだろう。相手が身近に見つからなければ、SNSを利用してコンタクトし、メールをかわしただけで知らない異性と頻繁に性体験をもつ女生徒や成人女性が増える。
昔は、そういうことをトレーニングする社会習慣やある種のシステムが存在した。祭りや盆踊り、若衆宿などがそうした装置であったから、年頃になって性に目覚めない男なんてほとんどなかっただろう。「歌垣」というのも古い風習だ、女帝が開催した「歌垣」が記録に残っている。宮廷の女官たちが無礼講で「歌垣」を楽しんだ。Hする前に歌を読みあうという形式があり、気が合えば手に手をとって・・・、宮廷のそこここではじまってしまう。Hするには文学的な素養が男も女も必要で、恋の名手はすぐれた歌詠みでもあったのです。
-------------------------------
歌垣：①古代の習俗。男女が山や海辺に集まって歌舞飲食し、豊作を予祝し、また祝う行事。多く春と秋に行われた。自由な性的交わりの許される場でもあり、古代における求婚の一方式でもあった。人の性行為が植物にも生命力を与えると信じられていたと思われる。のち、農耕を離れて市でも行われるようになった。
②奈良時代、大勢の男女が歌い舞う宮廷の行事。①が宮廷化されたもの。
『大辞林』より
-------------------------------
性的エネルギーの抑圧がしばしば精神に異常をきたす原因となることは、フロイトやライヒの著作を見るまでもなく精神分析の世界ではよく知られた事実である。
マリアの処女受胎はヘブライ語からラテン語への翻訳ミスであると米原マリ（ロシア語通訳）が書いているが、そういうことを信じているキリスト教文明圏に精神を病む者が多く、精神カウンセラーの需要が大きいことは事実としてあるようだ。「未婚の女性」という意味のヘブライ語を「処女」と翻訳してしまったという。結婚していないマリアは数人の男たちとセックスを含めたお付き合いがあって、妊娠したのだろう。あたりまえの話だが、キリスト教徒は「処女懐胎」という神話を信じている。たとえ翻訳ミスから生じたものだとしても、そういう基礎の上にキリスト教神学が成立しているのだから、いまさら修正がきかぬ。他人様の信仰だから、異教徒がとやかく言うことではない、それはそれでよいのである。
日本には千年以上も受け継いできた性風俗や性意識があったが、それが明治期と昭和期に2度の断絶がなされてしまった。なぜそうなったのかは、富国強兵や西洋化と関係がある。明治の文科省が日本人の性風俗を野蛮なものとして封印してしまったのである。全国津々浦々で実に大掛かりにやった。
そういう西洋の性分化が入ってくる以前に日本人がどのような性意識や性風俗を受け継いできたのか、若い人たちは知る必要がある。
『忘れられた日本人』宮本常一著（岩波文庫）を手にとってご先祖たちの奔放磊落な性文化から学んでもらいたい。古来、日本には性意識に男女格差なんてありえなかった。昔の男たちはセックスするために、涙ぐましい努力をしているのである。
たとえば、器量よしの娘のところへも、後家さんのところにも、村の若者たちが競って「夜這い」したから、SNSがあったとしてもSNSでセックス相手を探すなんて必要がなかった。若い衆が年頃の娘のところへ「夜這い」してこなければ、結婚も遠のくから親はほんとうに心配した。セックスをすれば子どもが産まれ繁栄する、それと収穫物の豊穣と重ね合わせていたのである。お盆やお祭りになれば、「おまえも行って相手を見つけて抱かれておいで、わたしもそうするから」という会話が夫婦の間で普通になされていたのである。御伽草子の挿絵には、小さい孫が三人遊んでいる部屋で、昼日中に爺さんとばあさんがエッチしているものまである。昔の日本人はじつにおおらか、あっぱれ。（笑）
ほとんどの男子生徒たちはスマホでアダルトビデオは見ても、民俗学関係の本を読むはずもないから、縄文時代から受け継いできた伝統的な性文化を知らない。
もっともっと広い範囲の本を読み、日本的情緒や日本的性風俗を知ってもらいたい。
<あるデータ>
2014年9月13日のジャパンタイムズ紙に載った記事に数字が挙げられている。
20-24歳の独身女性の40.1％がバージンであり、35-39歳の独身女性ではバージン比率が25.5％となっている。少子化が進むはずだ。原文は下記のURLにあるので、興味のある人はお読みいただきたい。
*#2812 日本人の性意識の変化： Women express pride in remainig a virgin Sep. 18, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-09-18
70% 20%
-----------------------------------
このシリーズ4冊目であるが、生徒が貸してくれるので全部読んだ。もちろん、「ソードアート・オンライン』シリーズの方も16冊読んでいる。中高生の男子生徒たちの多くがこの程度の本にとどまっているとしたら、精神年齢が実年齢に比べて3～5年ほど低いように感じる。
『ガンゲイル･オンラインⅣ』（時雨沢恵一）は、爆発的に売れたゲーム小説である『ソードアート・オンライン』（川原礫）の別編として書かれたものであるが、未来のコンピュータゲームということではおなじだが、だいぶ趣が異なる。
前者は世界中に流通しているさまざまな銃をマニアックに紹介しながら、物語の中で展開していくのに対して、後者は剣が武器であり、神話が随所で関係してくる。
適当にルビが振ってあるから、小学生高学年から楽しめる本。
『フィフティ･シェイド・オブ・グレイ』は3分冊のロマンス小説である。純情な女子大生が大富豪の若き実業家と恋に落ちる物語、世界中で1億部も売れた小説である。訳はこなれていて読みやすい。ロマンスだから、性的描写のあるのはあたりまえ。主人公の女性アナスタシアは初めての経験にのめりこみながらも、じきにそういう状態から抜け出る。このような衝撃的な経験ではないにしても、誰もが若い時分にした切ない思いとどこかで通底するものがあるから、1億冊も売れたのだろう。アナスタシアとクリスチャンのお互いを求める心の葛藤が好く描けてるところが、ありきたりの官能小説との違いであろう。
ロマンスや性に興味のない高校生には無縁の本だが、女子高生の15％程度はこれくらいの本を読んでいるだろう。いろんなことを知っておくのは、いざというときにワクチンの役割を果たしてくれる。
『ガンゲイル・オンライン』や『ソードアート・オンライン』では「官能的なシーン」はまったく出てこない、「お子様ランチ」である。
さて、記憶を辿ってみたい。12年位前の北海道新聞根室地域版に根室高校3年生の性体験率が出ていたが、約30%あった。この12年間でそれが10ポイントほど下がっているようだ。スマホの普及と関係があるのかないのかわからないが、「2次元」の世界で満足して、リセットできない現実の世界での恋を面倒くさいと思う男子生徒が増えているのは事実だろう。
そうした性意識の男女格差は読書傾向や独身率の増大に現れているようだ。
所得格差や都会と地方の学力格差だけでなく、性意識の男女格差がこの12年間で広がった。若い人たちの性意識の男女格差拡大は、性に対する需要と供給のアンバランスをもたらし、少子化を加速するだけでなく、さまざまな問題を引き起こす。
十代も半ばを過ぎると成熟してくるから、同年齢の男たちに性欲が薄ければ欲求不満になるのは当然のことだろう。相手が身近に見つからなければ、SNSを利用してコンタクトし、メールをかわしただけで知らない異性と頻繁に性体験をもつ女生徒や成人女性が増える。
昔は、そういうことをトレーニングする社会習慣やある種のシステムが存在した。祭りや盆踊り、若衆宿などがそうした装置であったから、年頃になって性に目覚めない男なんてほとんどなかっただろう。「歌垣」というのも古い風習だ、女帝が開催した「歌垣」が記録に残っている。宮廷の女官たちが無礼講で「歌垣」を楽しんだ。Hする前に歌を読みあうという形式があり、気が合えば手に手をとって・・・、宮廷のそこここではじまってしまう。Hするには文学的な素養が男も女も必要で、恋の名手はすぐれた歌詠みでもあったのです。
-------------------------------
歌垣：①古代の習俗。男女が山や海辺に集まって歌舞飲食し、豊作を予祝し、また祝う行事。多く春と秋に行われた。自由な性的交わりの許される場でもあり、古代における求婚の一方式でもあった。人の性行為が植物にも生命力を与えると信じられていたと思われる。のち、農耕を離れて市でも行われるようになった。
②奈良時代、大勢の男女が歌い舞う宮廷の行事。①が宮廷化されたもの。
『大辞林』より
-------------------------------
性的エネルギーの抑圧がしばしば精神に異常をきたす原因となることは、フロイトやライヒの著作を見るまでもなく精神分析の世界ではよく知られた事実である。
マリアの処女受胎はヘブライ語からラテン語への翻訳ミスであると米原マリ（ロシア語通訳）が書いているが、そういうことを信じているキリスト教文明圏に精神を病む者が多く、精神カウンセラーの需要が大きいことは事実としてあるようだ。「未婚の女性」という意味のヘブライ語を「処女」と翻訳してしまったという。結婚していないマリアは数人の男たちとセックスを含めたお付き合いがあって、妊娠したのだろう。あたりまえの話だが、キリスト教徒は「処女懐胎」という神話を信じている。たとえ翻訳ミスから生じたものだとしても、そういう基礎の上にキリスト教神学が成立しているのだから、いまさら修正がきかぬ。他人様の信仰だから、異教徒がとやかく言うことではない、それはそれでよいのである。
日本には千年以上も受け継いできた性風俗や性意識があったが、それが明治期と昭和期に2度の断絶がなされてしまった。なぜそうなったのかは、富国強兵や西洋化と関係がある。明治の文科省が日本人の性風俗を野蛮なものとして封印してしまったのである。全国津々浦々で実に大掛かりにやった。
そういう西洋の性分化が入ってくる以前に日本人がどのような性意識や性風俗を受け継いできたのか、若い人たちは知る必要がある。
『忘れられた日本人』宮本常一著（岩波文庫）を手にとってご先祖たちの奔放磊落な性文化から学んでもらいたい。古来、日本には性意識に男女格差なんてありえなかった。昔の男たちはセックスするために、涙ぐましい努力をしているのである。
たとえば、器量よしの娘のところへも、後家さんのところにも、村の若者たちが競って「夜這い」したから、SNSがあったとしてもSNSでセックス相手を探すなんて必要がなかった。若い衆が年頃の娘のところへ「夜這い」してこなければ、結婚も遠のくから親はほんとうに心配した。セックスをすれば子どもが産まれ繁栄する、それと収穫物の豊穣と重ね合わせていたのである。お盆やお祭りになれば、「おまえも行って相手を見つけて抱かれておいで、わたしもそうするから」という会話が夫婦の間で普通になされていたのである。御伽草子の挿絵には、小さい孫が三人遊んでいる部屋で、昼日中に爺さんとばあさんがエッチしているものまである。昔の日本人はじつにおおらか、あっぱれ。（笑）
ほとんどの男子生徒たちはスマホでアダルトビデオは見ても、民俗学関係の本を読むはずもないから、縄文時代から受け継いできた伝統的な性文化を知らない。
もっともっと広い範囲の本を読み、日本的情緒や日本的性風俗を知ってもらいたい。
<あるデータ>
2014年9月13日のジャパンタイムズ紙に載った記事に数字が挙げられている。
20-24歳の独身女性の40.1％がバージンであり、35-39歳の独身女性ではバージン比率が25.5％となっている。少子化が進むはずだ。原文は下記のURLにあるので、興味のある人はお読みいただきたい。
*#2812 日本人の性意識の変化： Women express pride in remainig a virgin Sep. 18, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-09-18
70% 20%
-----------------------------------
このシリーズ4冊目であるが、生徒が貸してくれるので全部読んだ。もちろん、「ソードアート・オンライン』シリーズの方も16冊読んでいる。中高生の男子生徒たちの多くがこの程度の本にとどまっているとしたら、精神年齢が実年齢に比べて3～5年ほど低いように感じる。
ソードアート・オンライン オルタナティブ ガンゲイル・オンライン (4) ―サード・スクワッド・ジャム ビトレイヤーズ・チョイス (上)― (電撃文庫)
- 作者: 時雨沢恵一
- 出版社/メーカー: KADOKAWA/アスキー・メディアワークス
- 発売日: 2016/03/10
- メディア: 文庫
フィフティ・シェイズ・オブ・グレイ (上) (ハヤカワ文庫NV) (ハヤカワ文庫 NV シ 28-1)
- 作者: E L ジェイムズ
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2015/01/09
- メディア: 文庫
2016-04-20 11:26
nice!(0)
コメント(0)
トラックバック(0)
コメント 0