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#3268 日本語力と数学の能力:実例 Apr. 8, 2016  [47. 語彙力と「読み・書き・そろばん」]

 授業をすると生徒からさまざまなことを学べます、生徒に教えることは生徒から学ぶことでもあります。昨日の中3のある生徒の例を取り上げて、いまの子供たちが抱える共通の問題を掘り下げてみたいと思います。

 4月11日に「お迎えテスト」があります。北海道教育文化協会という業者がつくっている新学期最初の学力テストを生徒たちはそう呼んでいます。北海道の公立中学校では全校が採用しています。全道の平均点すら算出されない劣悪なテストなのですが、毎年独占受注しています。全国でみるとテスト業者は少なくありません。論点がずれるのでこの点はパスします。

 3年生の「お迎えテスト」は1・2年で習ったところから出題されるので、1年生で習った作図問題が必ず出題されています。すっかり忘れていたようなので、確実に点を取れるようにこの生徒には作図に関する基本を解説してトレーニング課題を黒板に書いて家で練習するように指示しました。その内容をリストします。

①角の2等分線
②線分ABの垂直2等分線
③直線ℓ上にない点Pから直線ℓへの垂線
④直線ℓ上の点Pを通る垂線
⑤線分ABの3等分線
⑥三角形ABCの内接円
⑦三角形ABCの外接円
⑧正三角形
⑨正六角形

 生徒は「全部やってきました」と自己申告してくれました。学力テストや入試問題で、このまま出る問題はほとんどありません。複数の基本を組み合わせるとか、どのように読み替えるかを問う問題が多いのです。

T:それでは実際の問題で試してみよう。付箋をつけた入試過去問にトライしてごらん、これがすらすらできれば作図問題はOKです。

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 (1)下の図2で、六角形ABCDEFは、直線ℓを対称の軸とする線対称な図形である。図2-Aに示した図を基にして、辺AB、辺BC、辺 CDを、それぞれ定規とコンパスを用いて作図し、六角形ABCDEFを完成せよ。ただし、作図に用いた線は消さないでおくこと。(描いてあった図は省略)

 (2)右の図2に、直線ℓ上にない点Pを通り、、ℓと垂直に交わる直線を、定規とコンパスを用いて作図せよ。ただし、作図に用いた線は消さないでおくこと。
 
               P●


        ℓ                                

 (3)右の図のような三角形ABC(鈍角三角形の図が描かれている)があります。辺AC上に点Pをとり、AP=1/2ABとなるようにします。点Pを定規とコンパスを使って作図しなさい。ただし、点を示す記号Pを書き入れ、作図に用いた線は消さないこと。
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 たった3問の作図問題をやるのに小一時間(約1時間)かかりました。これでは実際のテストでは得点できません。
 (1)の問題が10分たってもできないので、問題文を音読するように指示します。ぶつ切りで変なところで区切って読んでいます、これでは意味がすっと頭に入るわけがありません。おまけに「用いる」を「よういる」と読んでいます、この時点で問題文の意味がまるでわかっていないと判断しました。
 この生徒の学力は学年50人で上位3-4割前後だから「中の上」でよいほうですが、日本語能力に問題があります。読み書きの速度がかなり遅いのです。読みは半分程度で書きの方は7割程度の速度です。日本語の読み書き速度を上げるために、日本語テクストの音読指導を2年間したのですが、家で高速音読トレーニングをしてこないから、成果が小さいので、今年度はしばらく中止します。気の長いわたしでも2年間の音読トレーニングがこの状態ではさすがに徒労感が漂い、しばし休養です。生徒の心に変化が見られたらまた再開したいと思います。

 「線対称」というところに注意が行かずに読み落としているようなので、何度読んでも問題の意図するところがわからないのです。「六角形ABCDEFは、直線ℓを対称の軸とする線対称な図形である」と口では読んでいますが、頭の中に残っていません。読みがたどたどしいから、終わりの方を読んでいるときには前の方の句が頭の中から消えてしまっています。このようにたどたどしい句単位や文節単位の読み方は、文章全体を頭の中に一括で保持し理解することを不可能にすることがあります。もちろん、文脈読みも困難になります。速く読むことと読んだものを頭の中に一時記憶する量には比例関係があるようです。
 一気にすらすら読めば、文章の意味するところが理解できますから、どこが重要でどこが瑣末なところか読み分けができます。文章の「濃淡」の差を無意識にかぎわけて読めます。したがって、一定の音読速度は日本語文章理解に不可欠なスキルだと考えられます
(これらのことから、音読が下手な成績下位25%くらいの生徒たちに朝読書をやらせても、読みの正確性や速度改善はほとんど望めないでしょう。)

 この(不等辺)六角形が線対称なら、線対称な図形の基本に戻って考えたらいい。点Aと点Dを結ぶ線分はは対称軸ℓに対して垂直に交わりかつ距離が等しいのだから、作図基本③でD点が求められます。
 基本作図③はふたつやり方があります。どちらでもいいが、こういうときは簡単なほうを選べと指示しています。

 (2)の問題は作図基本③そのままだから、これはできました。
 (3)の問題は線分ABの垂直2等分線を作図するところまではできましたが、その後ができませんでした。「辺AC上に点Pをとり、AP=1/2ABとなるようにします」という設問の意味は、点Aにコンパスの芯を刺し、AMを半径とする円を描いてACとの交点を求めよということです。「AP=1/2AB」を「1/2ABを半径とする円を描け」と読み替えることができなかったのです。

 結局、この生徒は基本作図がそのまま出題されないと得点できないということになります。

T:基本作図9個が完全に描けるようになるだけでは、作図問題での得点が覚束ないことがわかっただろう。だから、過去問を10題くらいは何度も練習する必要がある。この3題を繰り返しやるだけでなく、付箋をつけた作図問題を全部やろう。それから、日本語の音読トレーニングを家でもやらないと、数学の文章題だけでなく、国語はもちろんのこと、社会も理科も成績がこれ以上あがらないぞ。いつまでも逃げていてはダメだ。
S:・・・

 返事がありません、生徒本人は「自信をなくした」となげやりでした。基本作図を9パターン描く練習をしただけで、学力テスト問題が解けると思うのは自信ではなくて過信です。ちょっと努力すればそれだけで得点できると考える前に、自分の日本語の読みの速度と深さを反省すべきです。うまくいかないとすぐにふくれっ面になります。これもいまのうちに直さなくてはいけない。社会人になったときにこのままだと就職に苦労します。この延長線上だとどういう社会人になるのかをいう視点からもふだんの個別指導のチェックをしています。
 何かほかに理由がありそうなので訊いてみました。お迎えテストで五科目合計点が両親に指示されたある点数を超えないと、ゲーム禁止だそうです。ゲームができないことが大きなショックである様子。日本語の読み書き速度が遅いことの方がよほど重大事だと思うのですが、本人はとにかくゲームがしたい、すでに心療内科の領域です。セルフコントロールができなくなっています。
 昨年11月と今年2月に行われた学力テストの五科目合計点から、過去の生徒のデータで分布範囲をみると、10~15点足りません。厳しい現実ですが、それもはっきり告げました。ゲームができないことがショックで、少しハードルが高いだけでやる気が失せてしまいます。この程度のわがままややる気の小さい生徒は3割いますから、いまやスタンダードです。どうしてこんなに辛抱できない性格の生徒が増えたのでしょう?幼少期に過程で甘やかし放題で、躾が充分ではなかったのでしょう。自分の経験から言っても、子どもの躾はなかなかの難事業でした。幼少期から本気でやらないと、辛抱できない厄介な性格を育て上げてしまいます。部活は熱心にやるけど、勉強はしないという生徒の割合が中学生ではすでに3割を超えてしまっているというのが、根室の現実です。勉強と部活、文武両道を実践できている生徒は2~3割です。

 日本語能力が著しく劣った生徒は10年前には1割はいませんでしたが、最近の生徒は2割程度いるようです。日本語能力が低いと学力はあるところで頭打ちになります。どんなにがんばっても瞬間的に上位1/3に食い込めるだけで、維持はできません。抛っておけば学力は下位20%付近となります。
 このレベルの日本語能力の生徒は、高校普通科の標準レベルの授業にはほとんどついていけません。定期テストのたびに複数の赤点を繰り返して、何とか卒業させてもらうことになります。高校だって本音を言えば迷惑でしょう。今年の中3から、根室の高校は統合されて1校体制になります。根室高校普通科に成績下位20%の生徒もどっと押し寄せます。授業は大混乱でしょう。

 読む速度と書く速度が遅いと、板書をノートに写していると先生の話の意味を理解できないし、話を聞いていると書けないのです。
 「読み・書き・そろばん(計算)」の速度が標準レベルに達しない生徒たちの学力は伸び代が小さいといえます。
 スマホやゲームや部活漬けで、本を読む時間が奪われ、子どもたちの日本語能力が10年前に比べて著しく落ちつつあるというのが、学校の先生や塾で教えている先生たちの共通した印象です。日本の高校生の半数が読書をほとんどしていません。
 小学校での英語教育は不要です、良質の日本語のテクストを選び、週に1時間は音読授業をやってもらいたい。
 下位30%は社会に出たときに、上司の仕事上の指示を理解できない、的確に報告ができない、そういうことになります。新卒では40%以上が非正規雇用ですから、正規雇用の職を見つけることはほとんど不可能でしょう。中小企業がこういうレベルの人材を社員として何人も雇えば会社の十年二十年をかけてゆっくりと屋台骨が揺らぎます。小さな地震で崩れます。

 成績下位層の生徒たちが将来行き所がなくて大半が根室に残れば、地元企業は人材確保に窮するでしょう。このままでは地元企業が没落していきます。
 根室市議の皆さんは50歳を過ぎた人がほとんどですから、根室の小中高生の学力低下の現状をご存じない。わたしのブログには具体的なデータを載せてあることが多いのでその情報を元に、高校統廃合や小中学校の統廃合の問題をちゃんと議論してください。子どもたちや根室の未来のためにお願いします。市長や市教委や教育長に任せっぱなしにしてはいけません。

 釧路市教委の非公式サイトを紹介します、根室市教委が見習ってくれたら嬉しい。
*千日の昼と万日の夜~釧路市教育委員会の非公式情報発信~ 04/07NEW



<余談>
 Fランク大学へ借金して進学するのはやめましょう。世の中そんなに甘くはありませんよ。正規雇用の職を見つけるのは著しく困難です。卒業して非正規雇用となり借金返済するために売春する女子大生が増えています。身体を売ってもいまや風俗市場は「供給過剰」でたいしたお金になりません。そういう記事がネットにアップされていました。
 低学力・低所得層を狙い撃ちにしたサブプライム・ローンはリーマンショックを引き起こしました。金融機関の強欲がベースにあります。
 返済能力に問題がある低学力で貧乏な学生にお金を貸すのはサブプライムローンとそっくりです。リーマンショックではなく、結果としてこいう事例を量産することになります。低学力の大学生に奨学資金を貸すのは風俗産業へ誘導しているようなものです。日本の金融機関はこういうビジネスはしなかった。銀行は優良な貸付先を失って、破廉恥な商売をしています。何かが狂っています。巷間取りざたされるブラック企業は銀行から見たらかわいいものです。銀行こそが最大のブラック企業です。こんなことを続けていたら、銀行には有能な若者が集まらなくなるでしょう。金さえ儲けりゃ何でも構わないという価値観の人は増えていますが、日本人が守り育ててきた倫理観や商道徳をなおもち続ける若者もすくなくありません。
 日本の伝統的な商道徳、「売り手よし、買い手よし、世間よしの三方よし」はどこへいったのでしょう?日本の銀行経営者たちのビジネス倫理を問いたいと思います。

 だまされるほうも悪いのですよ、借りる前に返済ができるかどうかよく考えてください。返済の推計計算もできないような者が無理に無理を重ねて大学生になろうとするから、文科省と銀行とアダルト産業と風俗産業の餌食になるのです。
 大手銀行の頭取に訊いてみたいですね、「貴行の商道徳は地に落ちてやいませんか?」とね。通常の貸付審査と同様に返済能力を厳格に査定すれば「被害者」は激減します。
 批判だけでなく具体的な審査基準も提示すべきですね。進研模試で偏差値45以下の大学・学部へ進学する場合には奨学資金の貸付は慎重に審査すること。偏差値45は下位31%*の大学ですから、奨学資金貸付の対象から原則カットしてよいでしょう。偏差値45以下の大学へ進学する女子学生への奨学資金貸し付けは風俗関係へ追い込むリスクを大きくしますから、商道徳から考えても問題があります。
 わたしが大手都市銀行の行員なら自行の貸付方針に異を唱え、奨学資金の貸付審査基準を変える段取りを考え実行します。マスコミに方針変更を公表すれば、その銀行の社会的評価が上がることは間違いないことです。
 文科省は困るでしょうね。偏差値40以下の大学・学部は受験生が激減してつぶれかねません。官僚が大学教官として天下る先が少なくなります。45はともかく現在偏差値40以下(下位16%)の大学学部はつぶれていいのです。ざっと計算して10万人分の定員が減少します。110万人に対して60万人の大学定員は多すぎて、大学教育の質の劣化を促進しています。


「普通の女子大生が売春!?女性の貧困はここまできた」
4月8日付けMSNニュース
http://www.msn.com/ja-jp/news/opinion/%e6%99%ae%e9%80%9a%e3%81%ae%e5%a5%b3%e5%ad%90%e5%a4%a7%e7%94%9f%e3%81%8c%e5%a3%b2%e6%98%a5%e5%a5%b3%e6%80%a7%e3%81%ae%e8%b2%a7%e5%9b%b0%e3%81%af%e3%81%93%e3%81%93%e3%81%be%e3%81%a7%e3%81%8d%e3%81%9f/ar-BBrvaFd

*#2709 偏差値と「100人(百校)中の順位」対応表 June 22, 2014
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-06-22

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tsuguo-kodera

 バドミントンの天才青年が道を誤った事件、ショックでした。今日の管理人さんの論旨に簡単な論旨を付加すると天才没落のストーリーにもなるように私は今日の記事で感じました。ですから根室だけでなく、凡才だけでなく、世界を股にかけている、世界企業の選手でも通じる論旨が今日の論旨。流石です。
 さてそこで、私は借金しないで大学へ進学する策を若者に勧めたいのです。根室の中高生が可能かどうかは分かりませんが、関東ならどんな層の高校生も可能な手段だと思えるのです。
 スポーツは気楽に週2、2時間程度、勉強は毎日1時間、読書30分、その日記感想で30分。高校生ならこれだけで十分だと私は思えて仕方がありません。
 例えば東洋大学のイブニングコース、今はあるか不明ですが、探せば似た大学学科はあるはず、そこへ進学しどこかで寺男で住み込むのです。衣食住はただで、寺のアルバイトで学費を稼ぐ。
 多分近代マグロも同じような支援サービスがあるのでは。成績など不問、要はコツコツと決められたことを早朝から夕方までできるかどうかが大事な条件です。栄養大学でも同じようなアルバイトサービスがあるし、ホテル業の資格をとる専門学校も探せばあるように思えて仕方がありません。
 すなわち知恵を使えば、借金せず、大学で本物のインターシップ勉強ができるのでは。この仮説の実証例は義理の兄の寺事例だけでした。今は上手く経営出来てしまったため、檀家の人が働いてくれるのでアルバイターは不要になりました。
 今となれば、私は可能な仕事場の実例はあげられませんが、根室市が地場の中小企業とタイアップすれば労働力の確保と、大学進学率アップの2面作戦が可能になるように感じています。地場の中小企業起こしがカギになるのでしょう。
 ここでふと、自分のこの論旨の反例が浮かんできてしまいました。新潟などの原子力発電所があった町や市の村おこしの失敗理由です。人の心が邪魔をするのです。私は町の有力者の話を聞いただけで逃げ出したのです。失敗する条件を満たしていたのです。根室も同じかも。
 やはり南無阿弥陀仏と祈るしか私にはできません。

by tsuguo-kodera (2016-04-08 19:10) 

ebisu

銀行はみな奨学資金の貸付をやっています、割のよい商売だからです。優良企業は生産を拡張しても販路がないから巨額の内部留保を抱えてじっとしているだけで銀行から借入をしません。

銀行のような「一流企業」すら、商道徳をかなぐり捨てた商売をしています。情けないですね。そんなことを擦るくらいなら、赤字を出して人件費に大鉈を振るい、土地建物を売却処分して縮小を図ればいいのです。それでもダメなら、存在理由がなくなったのですから、つぶれたらいい。どんな分野の企業群も存在理由がなくなれば退場していいのです。

バドの転載青年が自分が稼いだお金で賭博をやるぐらいたいした問題ではないはずですが、どうして銀行は見逃して、スポーツ選手には厳しいのでしょう。

お金がなくても進学の道はいろいろあるというのは仰るとおりです。勉学の意志が強い人はあきらめる必要はありません。
働きながら放送大学を利用しても勉強はできます。ビデオにとっておいてやれば意だけのことです。やる気があれば方法が見つかります。

「叩けよさらば開かれん」
「求めよさらば与えられん」

どこの町だって、町が衰退するのはその町を牛耳る有力者たちに大きな問題があるからです。だから貴兄の最後の段落の主張は同感です。原発の町や村の町興し同様、根室も例外ではありません、どうにもしようがありません。(笑)
by ebisu (2016-04-09 00:23) 

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