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#3200 根室・高校統廃合問題 : 統合後の授業はどうなる? Dec. 10, 2015 [71.データに基づく教育論議]

 根室高校と根室西高校の統廃合がすでに決定されているが、統合後の授業がどうなるのか具体的に考えてみたい。

【「特進コース」は私立高校の特進コースとはまったくの別物】
 最初の問題は高校問題検討委員会が道教委へ嘆願している「特進コース」は私立高校の「特進コース」とはまったく違う代物で大学進学には役に立たないものだということ。
 高校問題検討委員会作業部会の報告書によれば、普通科単位制で特進コース設置の例として江差高校を挙げているが、その進学実績は根室高校よりも悪い。単位のとり方をコースに分けただけで、とても「特進コース」と呼べるような代物ではないことは、#3190「特進コースの設置は可能なの?:根室の高校統廃合」でとりあげた。
 理系大学進学者向けの単位のとり方、文系大学進学者向け単位のとり方といった区分けになるだけで、学力差の大きい生徒たちが科目ごとに混在することになる。したがって、大学進学という点からは、現在の理系・文系・就職及び専門学校の3クラス編成よりもさらに後退することになると思われる。

【習熟度別編成でも同じ教科書をつかった授業は無理】
 さて、2番目は教科書の問題である。普通科単位制4クラスは同じ教科書を使うことになるが、具体的に学力差を考慮したとは思えない。どれほどの学力差があるのか見るべきだ。いくつか報告書を見たが、どこを覗いても中学生の学力差に関する具体的なデータがない。データに基づく議論がなされなかったとしか考えようがない。具体的なデータに基づかないで一体どういう現実的な議論ができるのだろう。わたしには理解できない仕事である。次に、高校問題検討委員会が見もしなかった実データを挙げて学力差をまな板にあげてみたい。

【中学生の学力差の実態】
 たとえば、統合後の生徒になるB中学校1年生の11月7日実施の「学力テスト結果とアドバイス」によれば、数学の得点分布は次のようになっている。

 点数幅  人数
 0-10    8人
 11-20  14
 21-30   8
 31-40  14
 41-50  11
 51-60   1
 61-70   1
 71-80   2
 81-90   0
 91-100  0人
 合計   59人

 現在根室高校普通科が使っている教科書で授業をやるとしたら、ついていけるのは50点以上の階層の生徒である、たった4人しかいない。30点以下が30人、50.8%いるが、現在採用している教科書での授業はとても無理である。
(同じ学校の3年生も11/7に学力テスト総合Cを実施しているが、60点満点で18点以下が44人/70人で62.8%を占めている。49点以上の高学力層はゼロ、43-48の階級が2人。五科目平均点は108.4点、これが10年前まで市街化地域で一番学力が高かったB中学校の実情である。過去10年間で五科目平均の最高値は160点台、8年前の1年生が「学級崩壊」を起こすまでは140点超であった。データを見ないで生徒たちの学力低下を論じられようはずがないが、根室市教委はふだんの学力テストデータすらモニターしていない。)

 根室西高校では、足し算、引き算、少数の乗除算、分数の四則計算から学び直しの授業をしている。そういう生徒たちが根室市内で1学年40人ほどいる。英語はアルファベットから学び直し授業をしている。教科書はずっと難易度の低いものを採用している。そうせざるをえない学力層だから、そうしている。
(根室西高校には、数学は得意だが英語が極端に苦手だった生徒や、英語は得意だが数学が極端に苦手の生徒が含まれている。そういう生徒は統合後に数学と英語が習熟度別クラス編成されれば救われる。)

 五科目平均点を見ると150点以下が15人、25.4%もいるが、10年前には生徒数は80-90人で150点以下の階層はゼロだった。市街化地域で一番学力が高かったのは、150点以下の低学力層がいなかったからだ。11/7の学力テストでは400点を越える生徒はたった1人しかいない。351点以上400点未満が1人である。10年前は400点超の層が15人はいた。学力テストよりも難易度の低い定期テストでは410点でも20番以内に入れなかった。9/17実施の中間テストでは400点超は2人である。難易度の低い定期テストでみても、400点超の高学力層が1/10に激減しているから、根室の高学力層は「絶滅危惧種」といってよいくらいだ。各中学校では学力テストデータの情報交換して、自校の生徒が他校と比較してどういうレベルなのかの判断に利用している。全道の平均点も偏差値も出ないような文協学力テストを毎年繰り返していること自体が頓珍漢である。高校では偏差値の出る全国模試を受験させている。偏差値データがなければ進路指導ができないからだ。
 小・中学校も偏差値の出る学力テストを実施すべきだ。そうすれば、中学生のときから全国レベルでの自分の学力を客観的に判断できる。

 この10年間でB中学校はすさまじい学力低下をきたしていることがわかる。400点以上の学力上位層がほとんど絶滅に瀕しており、以前はゼロだった学力最下位層(1科目得点30%未満)が25.5%に膨らんでしまった。根室市教委が全国学力テスト結果分析をしてどのような対策を公表しても、学力最底辺層への有効な手当てが何年たってもさっぱりなされていないことがデータから読み取れる。

 これだけ学力差があれば、どんなに授業が上手な先生が教えても、高校で同じ教科書を使うのは無理。
 高校は30点以下は赤点である。この学校だけでも30人(50.8%)が赤点ということになる。高校普通科数学の難易度は中学よりも高くなることを考慮したら、事態はもっと深刻である。
 中1の学力差は中3になっても拡大されながら持ち越されている。
 小学校の授業に問題がなければこんなことにななっていないから、小学校から手をつけないと学力差の問題は解決がつかない。同じ学区の小学校に大きな問題のあることが予想される。C中学校では相したことに気がついて、同じ学区の小学校と定期的なミーティングをしている。

 統合後の高校で、数学は現在と同じ習熟度別に暮らす編成をするとして、実際の授業がどうなるのか?

 ①使用する教科書のレベルを下げる
 ②同じ教科書を使い、基本問題だけをやる

 テストは教科書準拠問題集から、基本問題だけをピックアップして、数字も変えずに出題する。追試ではやはり数字を変えないで出題して救済する。落第⇒退学処分はやりたくないのが、高校の先生たちの心情である。自分の科目で赤点、そうして退学していったら寝覚めが悪いから、同じ問題で追試を繰り返して卒業させる。そういう実例を目の当たりにしたり、噂で聞くから、学力下位層の後輩たちはなめ切ってますます勉強しなくなる。授業中の私語が増えて騒がしくなり、平均的な学力はますます低下とあいなる。

 ①を採用したら、大学進学の生徒たちはふだんの授業のレベルが低下してたいへん困ることになる。「特進コース」どころではない。習熟度別に編成されない科目はすべてレベルダウンするだろう。大学進学希望者は全国模試レベルの問題を家庭学習でフォローしなければならないが、そもそも中学の学力テストで得点80%以下の層には学校の授業をはるかに超える難易度の問題を独力で消化できるわけがない。
 だが、そうした生徒たちをサポートする高校生対象の塾は市内にすでに2つしかないしキャパも限られている。10年後を考えたら、ゼロになる可能性すらある、よくいっても1つだけ。選択肢がなくなるということ。
 全国模試で出題される問題は、現在使われている教科書準拠問題集よりもはるかに難易度が高い。だから、高校1年生の最初の全国模試の平均点は20-30点の間である。統廃合後の単位制普通科の平均点は20点を切るだろう、もちろん100点満点のテストである。
 中学校で全国レベルという物差しで測って、生徒たちに学力の事実を知らせるべきではないのか。そうしたことをやるのは市町村教育行政の役割だ。高校に入学してから全国模試を受けて、偏差値を知ったのでは、大学進学という点からはほとんどの生徒がすでに手遅れ、ごく一部の成績上位層の生徒が這い上がれるだけである。

 考えておかなければいけない大きな問題は他にもある。学級崩壊が高校に持ち越されるというとだ。学力最下位層の生徒に同じ教科書で授業をしたら、我慢できるだろうか?理解できない3年間授業にじっと耐えていれるだろうか、できるはずがない。だれだって理解できない授業に興味がわくはずがない、それほど学力差は大きい。

【閉鎖的な委員会方式での検討が間違いのもと】
 高校統廃合については別の選択肢があった(弊ブログで何度かとりあげた)のだが、閉鎖的な委員会方式で検討したからこういうことになってしまった。根室の将来に関わることはオープンな場で議論しないといつも結論を間違えてしまうのである。検討を後戻りできる期間はすでにない。
 人材確保の点からは根室の町の未来が決まったも同然である。市立根室病院建て替え問題でも、赤字拡大(8億円から17億円へ)問題でも、教育問題でも、具体的なデータに基づき、発言をしていない地元経済界(商工会議所、青年会議所、中小企業家同友会、二つあるロータリークラブ)はいつまでこのような閉鎖的な市政を黙認しているのですか?
 根室の町はそこに住むわたしたちが何とかしなければなんともなりませんよ。子どもや孫のために、自分のために、古里の未来のために、声を上げる勇気のある人は各団体に一人もいないのですか?
 根室市議さんたち、データに基づいた議論をしましょう、データに基づく市政批判や提案をすることはあなたたちの仕事そのものです、根室に住む大人として義務を果たしましょう。
 根室の子どもたちはわたしたち大人の背中を見て育っています、真っ当な大人がいることを背中で見せましょうよ。

 ほんとうの問題は、根室の地元経済界にJA浜中農協の石橋さんのような30年先を読んで行動できる人材が一人もいなかったということ。団体のトップがダメならそれ以下はなおさらがんばらねばならぬはず。

【結論】
 統合後は全科目を「習熟度別クラス編成」にすれば、生徒の学力差にある程度は対応可能であるが、わずか4クラスの高校でそんなことができるだろうか?前例がないし、教員の配置は2倍程度必要になるのではないか。
 江差高校の普通科単位制「特進コース」は大学進学という点からは無力である。このままでは、統合後の高校の普通科単位制の生徒たちの学力は著しく下がる。根室高校普通科の入試偏差値は現在45であるが、統合後は40に低下する。道内に100校の高校があるとしたら、下から17番目の学力の高校という評価になる。根室の外へ就職する人たちも学校の評価が著しく低下するからたいへんだ。
 そして統合後は学力上位層と中間層が激減してしまうから、地元経済界にとっては人材確保という点から長期的に大きなダメージになる。
 JA浜中農協の石橋組合長は「これからの地方の農業こそ、大企業に劣らない優秀な人材が必要になる」と11月15日に釧路で開かれた「教育シンポジウム北海道」パネルディスカッション**で熱く語ったが、根室の水産業も同じだ。優良な人材を育成し確保することこそが地域経済の礎である。
 

【余談】12/13追記
 病院建て替え問題を検討した「市民整備委員会」委員長は町会連合会長の長谷川氏だが、「高校問題検討委員会」委員長でもあった。委員会は別でも同じ人が委員長である。明治公園再開発に関する委員会の委員長は大地みらい信金元理事長の北村氏、我田引水、異例の短期間での再開発承認。市債の引き受けては大地みらいになるだろう。
 他にも利害関係者が委員長をつとめる委員会がある。市長の諮問委員会方式による閉鎖的な委員会は一般市民と市の未来とって百害あり。
 オープンな場での議論をしないと根室の未来が危うい。



*#3190 特進コースの設置は可能なの?:根室の高校統廃合  Nov,29, 2015
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-29

**#3186 教育シンポジウム(11): パネルディスカッション Nov. 22, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-22


 ◎#1124 「高校2校体制を5年延長する現実的な提案」
 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2010-07-20

 #2184 高校統廃合問題:廃校or存続、選択肢はある Jan.23, 2013
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-01-23

 #2310 高校統廃合はオープンな場で議論しよう May 26, 2013 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2013-05-26

 #2698 根室高校と根室西高校の統合問題 June 3, 2014 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2014-06-03-2

 #3189 根室管内の中学生の学力は全道14支庁ワースト2 Nov. 27, 2015 
http://nimuorojyuku.blog.so-net.ne.jp/2015-11-27


 
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コメント 2

ZAPPER

高校の存続ありき。
 ↓
定員減を地域が認めない。
 ↓
定員割が常態化する。
 ↓
学力が急速に低下する。
 ↓
更なる減少へ。
 ↓
統廃合へ。

毎度お決まりのパターンです。
釧路管内では現在、阿寒高校が、すぐに白糠高校がそうなります。
もっとも、道教委の杜撰な仕事が背景にあるわけですけれども。
by ZAPPER (2015-12-10 11:31) 

ebisu

ZAPPERさん、コメントありがとう。

根室の場合は、この12年間で総人口が2割減少したのに対して、学齢期の子どもたちは4割減少しています。

2校ある高校は、統合ではなくて根室西高校廃校でよかったのでしょう。

市の方で道と協議して、高校維持の助成金を出して10年間40人規模の高校を維持するという選択肢もあったはずです。
その間にオープンな場で議論をして、地域経済と高校問題についてのコンセンサスを醸成するということができたはず。

町の未来に対するビジョンを持ち合わせない人が何人集まって「~委員会」をつくろうとも、まともな案が出てくるわけがないのです。

釧路には教育問題に熱心な市議が過半数を超えているし、地元経済界も危機感を持って教育問題に関心を寄せています。
浜中にはJA浜中農協組合長の石橋さんのような傑物がでんと控えています。

根室ではそろそろ若い人たちの中から声を上げる人がでてきてもよい時期です。
これから出てくる若い人たちがきついことを言わなくてすむように、わたしがきついことをたくさん言っておきます。(笑)
by ebisu (2015-12-10 12:08) 

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