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「仰決裁」にみえるアナクロニズム #743 Sep.29, 2009 [82.言葉のアンテナ]

 あるところで「仰決裁」という張り紙をした書類バックを見た。「ギョウケッサイ」と読むのだろうか?「役所あるいは上司に決裁を仰ぐ」の意だろう。ずいぶんと偉い役所や上司がいたものである。わが町の役所の部課長殿は「御簾の奥にでもおわせられるのだろうか」と想像してしまう。どおりでこの新型インフルエンザ騒ぎの中でも、市立病院に人工呼吸器の増設すら議論されないわけだ。恐れ多くて物申し上げるのは非礼になるのだろう。歴代市長はだれもこのような用語を廃止しなかったわけだ。「はじめに言葉ありき」(聖書「ヨハネ福音書」)というではないか。意識改革や業務改善は、このようなアナクロニズムともいえる役所用語を改めるというように身近なところからはじめるのがよい。日常使う用語の与える影響は案外多いなものがある。新人たちが3年もすればこのような用語に不自然さを感じなくなるほど染まってしまう。そして、課長となり、部長となり、助役となるようでは市の将来に希望が見えなくなるのは当然ではないか。
 「アオゲバトウトシ、ワガシノオン」という歌があったが、いまどき根室の小学校でも中学校でも卒業式に歌っているところはひとつもない。「仰ぐ」と言う言葉はいまや死語となりつつある。アナザーワールド化した役所の中でのみ生きているようだ。

 いまどきこのような用語を使って仕事をしている会社は民間会社では想像だにできない。なぜか?そういう意識で会社の経営・運営は不可能だからだ。社員がついていかない、参加意識が働かない、自ら考え行動する人材が育たない・・・など理由はいくらでも挙げられる。

 そこで思い出したのがある東証一部上場企業のことである。創業社長の彼はある理由があって、あえて社長の弟と専務を外して二度目の社長に就任した。自分が創業した会社の危機を救おうという心からでた決断だっただろう。
 しばらくして「さん付け運動」をはじめた。役職で呼ぶなと言うのである。関係会社に出向していた私は、用事があって電話すると「○○さんと呼んでください、そうしないと電話を切ります」という。呼べないものである。ラボの学術開発本部にいたときは私の背中の壁2メートル横が社長室の入り口だった。いるときはいつもドアを開けっぱなしにしていた。社員の誰もが呼ぶように、わたしも「○○社長」と呼んでいた。
 関係会社を管理していた部署に1年半ほどいたことがある。この部署は営業案件で持ち込まれる会社の経営改善や買収にも関与していた。金沢である企業の経営分析と経営改善の具体策を説明する会議に同行したことがある。実質的な吸収合併の交渉だった。その交渉が終わった後、その会社をでると好い天気で天高く鳥が鳴いていた。「ひばりですね」と問われ、「見えないからたぶんそうでしょう、私のふるさとの原っぱでもよく鳴いていました」、そう答えた。穏やかな人だが、時に演技で激しいところをみせることがあった。「さん付け運動」はそれから1年後のことだった。

 役職で呼んだとたんに同じ目線で物が言えなくなるのが人間の弱さ。それを克服できる社員は滅多にいない。そしてそういう「下から目線」を受けることで役職のついた者が知らず知らずの間に思い上がって、「会社という共同体」のためにならない恣意的なことを始めてしまう。それが思わぬところで会社を危機に陥れる。そうした弊害をなくそうと「さん付け運動」をはじめたのだろう。上司に対等の目線で物を言う風土を作り出したかったのだろう。
 綺麗いごとばかりでなく、役職をつけたことが間違いであるケースが目立った。係長だと有能なのに課長にしたとたんに、ダメ課長になる。課長としては有能なのに、部長にしたら絵に描いたようなダメ部長だったとか、人事の誤りが目立っていた。
 それまで降格人事はなかった。格下げをスムーズにするために役職で呼ぶことを廃止したという側面もあった。外されても呼称が変わるわけではないから、心理的な負担が少なくて済む。本人も周りもこうした呼称には気を使うものだ。昨日まで部長と読んだ人を課長と呼ぶのは周りも気が引ける。だから、民間企業の意識改革が「さん付け運動」だっただろう。わたしの周りでも部長だった人が課長の下で働く事例がでた。

 「仰決済」という文字をなんとも思わない組織はもちろん民間企業ではありえない。これでは仕事の改善などほとんどできないだろう。まず、下から改善案が上がって来ることほとんどない。「上」が偉すぎて物が言えなくなるからだ。下が黙ると、ダメ課長やダメ部長がはびこることになる。たまに上司に直言する者が出ても出世コースから外されてしまう。うるさい奴は要らない、尾っぽを振るものが可愛いのは人情の常。
 だから組織風土を変えるにはトップの強い意志が必要だ。そういういう強い意志をもった首長が期待されている。

 民主党は政治主導でやりたいようだが、実行部隊の官僚組織が中央官庁から地方行政機関までこのような意思決定の仕組みで動いている限り、民間会社の組織改善・経営改善ようなわけにはいかないだろう。
 民主党はどこまで具体的に既存の官僚機構の意思決定の仕組みを変えられるだろうか。気になるのは30代できちっとした組織の中でしっかりした仕事の経験をした者が国会議員の中に非常に少ないということだ。40過ぎて経験のない分野の仕事は難しい。やれる人は稀だ。それゆえ、民間からどれだけ仕事の出来る人間を集め、適材適所で配置できるかが、民主党の政策の成否を分けることになるだろう。


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