SSブログ

国際会計基準改訂草案と日本経済(1) [A4. 経済学ノート]

国際会計基準改訂草案と日本経済(1)

 会計基準の変更は現実の企業行動を大きく変え、その結果日本経済のありようをも根底から変えてしまう威力をもつ。
 取得原価主義から時価会計基準への変更で企業間で持ち合いされていた大量の保有株は、企業経営にとって「益出しのための打ち出の小槌」から、「リスク要因」へと変わった。慌てた日本の経営者たちは企業グループ内の株式持合いを解消し、大量の株を売りに出した。それを外資が買いあさり、(外資の)持分が3割を超えた。20年間の歩みを概観するとそういうことが言えるだろう。
 結果としてみれば、国内企業の持ち株を海外企業へ(会計基準改定で一気に市場へ売り圧力がかかった結果の)安値で売り渡したことになる。東京証券市場は特殊日本的会計制度やグループ内の持ち合いという日本的慣習に守られて外資が手を出せなかった経済分野である。日本企業の株式を安値で手に入れたかった米国金融界は、日本の会計制度を国際会計基準に合わせるという口実を利用して長年の願望を実現した。

 経済学者で会計基準改定の重要性を主張するものがほとんどいないのは株式会社制度を支える簿記知識をもっていないからだろう。しかし簿記知識なしには、企業の経営行動も経済の重要な構造変化も捉えることができない。

 グローバリズムの裏側には米国の国益というどす黒い思惑が渦巻いている。リストは19世紀中葉にスミスとセーの世界主義経済学にドイツの政治経済学=国民経済学を対置した。それに習えば、米国流のグローバリズムに国民国家としての日本経済を対置できるだろう。
 その上で、米国流グローバリズムに日本流の職人主義経済を対置してみることが私の問題意識の根っ子をなしている。
 
 3段ロケットの2段目が今回の「簡素化改定素案」である。2回に分けて、今後日本企業の行動や構造ががどのような制約を受けるのかを考えてみたい。その向こう側に職人主義経済が対置できるのだろうか?やってみなければわからない、ならばやってみよう。

 まずは共同通信から配信された記事と北海道新聞の記事からみてほしい。内容が会計学に関わることなので、周辺知識がないとよくわからない部分があるかもしれない。しかし、大筋を理解すれば十分である。 

邦銀の「国債離れ」に懸念 
 金融商品の会計基準変更で

 【ロンドン18日共同】国際会計基準審議会(IASB)は、時価評価を強化するなどの会計基準の改定草案を18日までに公表した。大量の国債を抱える邦銀にとって、時価評価額の変動リスクが高まるため「国債離れ」につながる恐れがある。融資先企業との「持ち合い株」などの売却益を利益に計上することも難しくなり、銀行や生命保険会社は大きな影響を受けそうだ。

 現行基準では、保有国債などの金融商品を(1)短期売買(2)満期保有(3)売却可能―の3種類に分類している。IASBの草案は(3)を廃止し、時価評価して損益計算書に載せるか、実質取得原価で満期まで保有するかの二者択一を迫る。

 邦銀は、一定の条件以外では評価損を計上しなくて済む(3)に「相当量」の国債を分類。大量の新規国債を引き受けて償還前に売却しているが、IASBは「活発に売買していれば、時価評価になる」と指摘。これに対し、与謝野馨財務相は「財政需要があって市場で国債を消化すべきときに、このような基準変更はいかがなものか」と懸念を表明した。

2009/07/18 18:03   【共同通信】

 
 「国際会計」簡素化草案
   日本の金融界反発
    利益変動リスク高まる
 国際会計基準審議会(IASB、ロンドン)が公表した会計基準を簡素化する改定草案に、日本の金融界が反発している。時価評価の範囲が広がるため、大量の持ち合い株を保有する日本の金融機関にとって、利益の変動リスクが高まるためだ。また、国債の円滑な消化にも影響を与えかねないとして、政府も警戒を強めている。

 政府も国債離れ懸念
 日本の会計基準では株や債券などの有価証券を時価評価が必要な「売買目的」、必要としない「満期保有」、価格が5割以上上下したときに評価を見直す「その他」の3種類に分類している。
 IASBは14日に草案を示した。「その他」を廃止し、時価評価して損益計算書に載せる「売買目的」か、取得原価で満期まで保有する「満期保有」の選択を求めるもの。会計上の複雑な処理を改め、簡素化する狙いだ。
 草案がこのまま通ると、これまで「その他」に区分されてきた持ち合い株は、時価評価するかどうかの選択を迫られる。時価評価すると決算が株価変動で大きく左右される。しない場合は、価格が5割以上下落した際に損失を計上する減損処理は不要になるが、業績が厳しいときに含み益のある株を売却する「益出し」もできなくなる。
 国債会計基準は15年にも国内企業に義務付けられる見通し。この玉金融界は危機感を抱き「(国ごとの)諸事情を加味できない基準はおかしい」(全国銀行協会の永易克典会長)と反発する。9月までにIASBに意見書を提出する予定だ。
 一方、会計基準の見直しは国債の消化にも影響を与える可能性が高い。多くの国債の保有区分は「その他」だが、「売買目的」にすると、長期金利が上昇(価格は下落)するたびに、損失を計上する必要が出る。一方で「満期保有」にすると機動的な売買ができなくなり、国債の魅力が薄れる。
 景気対策に伴い国債の大量発行が続くだけに、財務相も議論の行方に気をもむ。丹呉泰健事務次官は会見で「会計基準のあり方が金融機関の国債保有に影響を与える可能性がある」と述べ、金融機関の国債離れを懸念した。
                  ・・・[7月24日北海道新聞8面]


 2009年7月26日 ebisu-blog#670
  総閲覧数:134,635/609 days(7月26日12時50
分) 


nice!(0)  コメント(0)  トラックバック(0) 

nice! 0

コメント 0

コメントを書く

お名前:
URL:
コメント:
画像認証:
下の画像に表示されている文字を入力してください。

トラックバック 0